切裂ヤイバの献身   作:monmo

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第四十二話

 

 

 

 

 

 1戦目が終わって切島と鱗達がOZASHIKIスペースに戻ってくるなり、相澤先生達による講評が始まった。

 

「反省点を述べよ」

 

「相手に喧嘩する気がねえと、俺の個性は役立てづれえ…………鱗を捌くのに精一杯で、心操の援護に回れなかった。塩崎の本気にも敵わなかったし……守る盾になれてなかった……!」

 

「動物を使った索敵の速度が足りずに、初動の奇襲を読むのに遅れが発生しました。もう少し細やかな指示が出せる様にならないと…………あとは近接戦闘での力不足。あの空気の箱から脱出できるくらいに、体も鍛えないと……」

 

「俺は悪くなかったっしょっ?! ……って言いたいんッスけど……何気に電撃はほぼ対策されちまって、バッチリ効いた一撃がなかったッス。スケボーも早々に壊されちまったし……ポインター頼りの攻撃にならねえように、戦い方を考えてぇッス!」

 

「口田ちゃんを早々に失った事と、上鳴ちゃんのスケボーを壊された事……索敵ができなくなったから、即興の作戦で前に突撃しちゃったのが否めないわ。心操ちゃんの個性に頼りすぎた部分もあるかも。それに、誰も欠ける事なく勝ちたかったわ……バタバタしちゃった。ケロ……」

 

「洗脳は初見殺しでたまたま上手くいっただけ……捕縛布の扱いも実戦じゃ先生の足元にも及んでない…………時間切れで引き分けだったけど、あの勝負が続いていたら俺は確実に負けていた…………悔しいです……!」

 

 それぞれの改善点を答えるクラスメイトと心操に、相澤先生の評価も入る。

 

「いきなり出来たら苦労しない。ソレを使いこなすのに、俺で6年かかっている。その悔しさを忘れず、次も臨め」

 

 史実と違って混戦に続く混戦だし、最後は泥沼になった結果に5人の誰もが歯痒い表情をしているのが見てとれる。特に、インターンに参加していた切島と蛙吹の様子は、かなり神妙に考えている様子だった。

 それだけ、今のB組は強敵揃いなのだ。俺のせいで。

 

「いいか、切島は相手を正面戦闘を誘うのは当然だが、もう少し連携を意識しろ。口田は自覚通り、生き物を操る精度を今以上に上げろ。戦いは正面からではなく、搦手を考えていけ。上鳴、飛べるからと言って下手に目立つから的にされるんだ。B組がお前に対して対策を立てていたのはわかっただろう? もう少し自分の個性と向き合え。蛙吹、誰1人欠けたくなければ、ミスよりもミスをカバーできる迅速な対応を心掛けろ。心操、お前は周りに追いつこうとする気持ちは分かるが、誰にでも限界はある。頼る事も視野に入れろ。あと……誰も時間を気にしていなかった事も問題だ。何のために時間制限を設けているか、考え直せ」

 

 相澤先生の総評に、5人は同時に返事をして解散する。A組の動きも悪くなかったが、初手で奇襲してきた宍田と円場に続いて、鱗が間に合って攻めて来た場合、心操の洗脳が刺さらなかったら押し切られてた可能性ある。塩崎が一緒に来てたらなおの事だ。

 あの辺はB組としては、撤退も視野に入れた判断だったんだろう。心操の個性と身体能力を完全に読み誤った結果だった。まだ緊張しているのは伝わったが、本人も後半になって慣れただろう。じゃなきゃ、塩崎の茨を捕縛布代わりになんて、やろうとしない。

 今回のフィールドも隠蔽物が多い分、彼の個性は有利だ。宍田という、個性使うと理性が無くなるタイプが相手だったのも相性が良かった。

 こうなってくると、次に緑谷と戦う時がどうなるのか。恐ろしくも気になっている自分がいた。

 

「心操ちゃん……手、大丈夫なの?」

 

「蛙吹……ああ、少し刺さっただけだ。問題ない」

 

「梅雨ちゃんと呼んで。私、包帯ならあるわ」

 

 少し血の滲んでいた手で捕縛布の触り続ける心操に、蛙吹がポーチから白い包帯を取り出して彼の手に慣れた手つきで巻き始める。

 

「ああ……ありがとう。梅、雨ちゃ、ん……」

 

「ケロっ、自分のペースでいいのよ」

 

 そう言って処置を終わらせて笑う蛙吹を前に、心操は辿々しくも彼女の名前を呼んで礼を告げる。マスクと捕縛布越しだからよくわからなかったが、彼の特徴的な死んだ魚みたいな目に、少しだけ優しい光が入った様な気がした。

 

 その様子を、緑谷達のグループにいた峰田が今までに見た事ないぐらいのカァイイ表情をしていた。アレはご主人様に知らない雄が近寄って来た時のペットとでも表現してやろうか。写真に撮ってやりたかったのだが、訓練だから携帯電話を持って来ていなかった。

 

 訓練と蛙吹のお陰で少しA組にも慣れてきたのか、心操は5人とまだ話し足りない事を話し合いながら、包帯の巻かれた手で捕縛布を動かしながらディスカッションを続けている。

 その様子を見て、独り言の様にブツブツと話すのは、ミッドナイト先生だった。

 

「勝利を得たものの、自分の未熟さを痛感……とは言え落ち込むワケではなく、次の試合のために脳内でシミュレートしつつ、改善策を模索……イイわぁ〜〜〜っ!!!! 心操くんの青みっ、イイわァ〜〜〜ッッ!!!!!」

 

「君ねえ……」

 

 最終的に悶絶している彼女の後ろで呆れているオールマイト先生も見える中、B組側でもブラドキング先生が鱗達に相澤先生と全く同じ様な講評をしていた。

 

「宍田を軸にするか、塩崎を軸にするか! もしくは鱗1人に初手の牽制を任せ、撹乱した所で刺しに行けば勝てた内容だ。心操に引っ掻き回されてコミュニケーションに障害が発生したのもあるが……最初の奇襲で蛙吹に無警戒だった事、蹴り飛ばした切島を放置した事、心操を捉えようと独走した事、咄嗟の判断ミスも多い! 混戦になればなるほど、倒した相手を檻に放り込むのが困難になるのはわかっただろう。もう一度、あの時何をすべきだったか、自分の役割を考え直せ!」

 

 ブラドキング先生も総評を4人に伝えて、彼らも集まって話し合いを始めている。よっぽど悔しかったのか、心操達よりも白熱している気がした。

 で、こうして見るとB組は実戦経験がほとんど無いから、咄嗟の判断力が低い様に見えるのがよくわかった。代わりと言わんばかりに、誰の個性も安定して強いヤツらが揃っている。この辺、A組とは正反対だ。

 

「塩崎は人を欺けない。そこの考慮が裏目に出たよね、宍田氏?」

 

 4人が話しているその輪に口を挟んできた物間が、宍田に口調を合わせてアドバイスを入れた。彼もなんやかんやで、クラスメイトを見ている。副委員長なのも少し納得だった。

 

「物間氏……結果的に、相手に準備させてしまったのですな。すまなんだ、塩崎氏」

 

「業火に焼かれて……」

 

「そこまでっ!?」

 

 困惑する宍田を尻目に、物間は心操に近寄っていく。

 

「まあ、でも? 良いものを見せてもらったよ。共闘が楽しみだ……! ヘイ心操くんっ!! A組に吠え面かかせるプラン練ろうよッ!! ぐうの音も出ない感じのヤ〜ツ〜ッ!!!」

 

 そうして今度は綺麗な変わり身を見せると、まだ蛙吹達と話をしている心操の方に寄って行って、彼をB組側へと誘おうとしている。少し嫌がっているようには見えた。

 

「1人で喋ってらぁ……」

 

「こっちも作戦、練らなきゃ!」

 

 第1回戦が引き分けとなったクラス対抗戦。本当にどうなるかわからなくなってきた結果を見て緊張が走る中、クラスメイト達はさっきの試合の講評や、自分達の試合に向けての作戦会議に没頭している。すぐ近くでキャーキャー悶えているミッドナイト先生がうるさい。オールマイト先生は彼女を無視して俺達を見ながら、感慨深い表情をしていた。

 

 一方で、ヒーロー科の編入を賭けた心操を見た、先生達の会話から聞こえる評価も悪い感じではない。あの乱戦となった試合で、しっかり生き残った事が大きと思う。彼がヒーローになるのは絶対だから、俺達が勝とうが負けようが彼が活躍しなくてはならない。実戦も今ので慣れたと思うから、その問題もなんとかなりそうだ。

 

 そんな中、次の試合である俺は第1回戦が開催されている内に葉隠と常闇とも輪になって作戦を練った。俺の新しい能力についても話し終えてから、いつも通りの口調で八百万に話しかける。

 

「ヤオモモちゃん、シーば───

 

「ふふっ……そう言うと思いまして、こちらを……!」

 

 嬉しそうな彼女に渡されたのは、頭に付けるヘッドセットと、口元当たりに伸びた小型マイク。いわゆるインカムと呼ばれるモノだった。ヘルメットを被っている俺でも、問題なく付けられるデザインだ。

 

「ありがとう……!」

 

「はい……必ず勝ちましょう……!」

 

「俺達でA組に勝利の栄光を……!」

 

「ヒキワケジャ、クヤシーダケダカラナッ ! 」

 

「いっちょ、やったろー!」

 

 周りの常闇と葉隠の頭にも、八百屋と俺が身につけたインカムと同じ物が装着されている。ダークシャドウも騒いでいる常闇の鳥頭にも、しっかり形を合わせた物がだ。拳を突き上げる葉隠は、インカムと手袋と靴だけが見えていた。

 

 俺のポーチに入っている道具も、ほとんどが彼女に創ってもらった物ばかりだ。インターン行って、サーみたいな潜入捜査にも憧れてしまい、小型集音マイクに、盗聴用のボイスレコーダーまで、災害用ラジオも創ってもらった。使う機会があるかどうかは、別としてだ。

 その中でも特段気に入っていたのが、ヤオモモ印の無線機。林間合宿でも仮免試験でも、お世話になりっぱなしだったからこそ、無線機には絶対的な信頼があった。

 

「ヤイバさん、チームの指揮はあなたがとりますか?」

 

「いや、今回はヤオモモちゃんでお願い。俺、常闇くんと前に出る」

 

「わかりました。葉隠さんは……」

 

「ヤオモモちゃんの援護っ!」

 

「疾きこと風の如し……!」

 

「フーリンカザン !! 」

 

 もう大きな話し合いをする必要は俺達にはない。B組は強敵かもしれないが、負けるつもりも引き分けになるつもりもなかった。

 

『第2試合、準備をッ!!!!!』

 

 ブラドキング先生の叫びも響いたが、俺達は酷く冷静に粛々と最終的な作戦を練り終えて、フィールドへと歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【第2試合】

 

A組 常闇・葉隠・八百万・切裂

 

B組 吹出・黒色・拳藤・小森

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 拳藤達と軽く対話した後、工場エリアの自陣地である可愛らしい檻の前に集合した俺、八百万、常闇、葉隠はソワソワしながら準備運動を始める。

 俺も新しい装備のデモンストレーションは個人的な特訓で実施済み。だからこそ、早く使いたくてウズウズしていた。

 

「……ッ!」

 

「……ッ!」

 

「キタゼェ…… ! 」

 

 待ち遠しすぎて、俺も常闇もダークシャドウも変なテンションになりそうになった頃。スピーカーにマイクの入った雑音が鳴った後、ブラドキング先生の大声が響いた。

 

 

 

 

 

『頑張れ拳藤チーム! 第2試合、スタートォーーーッ!!!』

 

『偏向実況やめろーーーッ!!!』

 

『『『『やめろーーーっ!!!』』』』

 

 

 

 

 

 芦戸の怒声に続いて、上鳴か瀬呂か何人かのブーイングも聞こえながら、試合開始のブザーが鳴り響いた。

 

 その瞬間、俺と常闇は動き出す。

 

「常闇くん、飛ぶよっ!!!」

 

「おうっ!!」

 

「イクゼェェェェッッ !!! 」

 

 彼とダークシャドウの掛け声と同時に、俺は四肢と腰と背中全ての穴から真っ赤な血の刃を伸ばし、地面に突き刺しながらバネの様にしならせる。

 そこから自身の足の刃の伸縮と、体から伸びた幾線もの血の刃が一気に限界まで硬化し、地面をブチ割るほどの勢いで俺の体を空中へと押し上げた。

 

「キャっ!?」

 

「わぁッ!!」

 

「ナンダァッッ !!? 」

 

「きっ、切裂!? は、速いっ!!」

 

 瞬間的な加速によるモノだが、ダークシャドウを纏って飛翔する間にスピードで追い抜かれた常闇も驚いていた。

 それでもすぐに追いついてくる常闇と空中で並び、俺は彼と獰猛に笑った。

 

 

 

 

 

 今まで俺の跳躍力は自身の伸縮する刃の勢いと、自分の筋力だけ。

 

 飛距離は精々、ビルからビルへと飛び越えたりするのが限界。

 

 跳躍力も歩道橋の上へ、そのまま飛び付くぐらいの高さしか飛び上がれなかった。

 

 

 

 

 

 それが、この血の刃で全てが変わった。

 

 

 

 

 

 今まで2本か、腕足しても4本でしかなかった刃が、数十本も合わさって伸びるのだ。それに自分の足を刃に変化させるのも、大きさの限界がある。足の裏から直接刃を何本も出しては、刃が小さすぎて力が足りない。

 

 だが、この血の刃なら足の裏のサイズよりも大きな刃を身体中から出せる。しかも、血の刃は伸縮力だけでなく、形や力加減を変えれば弾力性もある。タイミングさえ合わせれば、金属バネやスプリングの様に跳ね上がる。

 

 それを数本纏めて弾いた時の跳躍力は、体育館γの天井にすら余裕で手が届いた。加減していなければ、危うく天井ブチ抜くぐらいの勢いだった。

 

 血の刃そのものも機動力だけじゃない。斬撃はもちろん、放出した血液を体内に戻す事でロープやフックショットの様に代用する事もできた。コレで細かい移動から、殺傷力しかなかった俺に敵の拘束まで可能にした。

 

 

 

 

 

 緑谷の『アレ』も……同じ感じなのだろうか。

 

 

 

 

 

 彼が使いこなせる様になったら、真っ先に俺が戦ってみたかった。

 

 上空に飛び上がった俺は滞空する事はできないので、浮遊間から落下感を受けながらもゴーグルの熱源暗視装置を起動し、B組の4人を探る。目標はすぐ見つかった俺は、インカムのマイクのスイッチを入れる。

 

「3人が纏まっていて、1人が高速でヤオモモちゃんと葉隠ちゃんに近づいてる!」

 

『黒色かッ!』

 

 インカムから隣で風の吹き荒れる上空の中を飛んでいる常闇だけでなく、建造物だらけで姿の見えない八百万の声も鮮明に聞こえた。

 

『ヤイバさん聞こえましたわ! そのまま行ってください!! こちらは私と葉隠さんでなんとかしますわッ!』

 

 彼女の頼もしい言葉を聞いて、俺は落下しながら両腕の小手から血の刃を伸ばし、大きな煙突に突き刺して自分の体を引き寄せる様に収納して並行に加速する。

 そこからコンビナートの大型タンクの上目掛けて、硬化した体と次に弾く血の刃を全身から伸ばして着地する。歪な音を立てて、タンクの蓋がベコリと凹んだ。

 その上空を、高度の下げた常闇が飛来する。

 

「次でド真ん中に着地するからッ、援護お願いッ!!」

 

『了解ッ!』

 

 再度、操血刃を調整して全力で上空へと弾き飛んだ俺は、ゴーグルで見た上空の真上から拳藤達を捉えた。

 彼女達は檻のある陣地ではなく、配管と鉄柱に合わさった狭い路地の中央に陣取っている。指を差しているのは、黒色が先行した方向だろう。たぶん、原作通りにダークシャドウがいつまで経っても襲ってこないから、警戒して影の中を素早く移動できる彼に偵察を任せたんだ。

 

 常闇が飛べるのを知ってるのはA組だけ。彼は仮免試験と授業の訓練だけでしか飛んでいない。彼も俺と同じ、サプライズの大好きな野朗だった。

 不意に拳藤が頭を上げて、上空にいる俺と常闇を捉えた。

 

「はッ!!?」

 

「ノコっ!?」

 

「!!?」

 

 彼女の声で、吹出と小森も俺達に気づいただろう。それでも、もう止められない。

 

 急降下しながら俺は腕から操血刃を3本射出。そして俺の体から途切れる直前に、刃は刺股の様に四方八方に伸び広がって、大人1人を包む大きさの鉤爪へと変化し、拳藤達を正確に直撃した。

 

「キャあッッ!!!」

 

「おわァァッ!!!」

 

「ノコーーッ!!!」

 

 刃がついているのは先端部辺りであり、内側は切れない。そのまま彼女達は地面に叩きつけられるかの様に鉤爪で拘束された。もちろん、頭部や四肢は鉤爪からは外れている。

 

 そこから地面に着地するなり、俺は意識の混濁している彼女達を拘束する鉤爪に、伸ばした血の刃で触れて結合。今度は完全な拘束具として彼女達をミイラみたいにグルグル巻きする。

 

「きャ……ッ!?」

 

「なァ……!」

 

「………………」

 

 拳藤の手は体の後ろに回して固定し、吹出は口元を完全に押さえ込む。小森は完全に気を失っていた。

 そして、その結合した自分から伸びる操血刃に遠心力をかけてアーム代わりにし、俺は小森と拳藤をダークシャドウと常闇にブン投げた。

 

「しゃあッ! 常闇ッ、このまま檻に叩き込めッ!!!」

 

『任せろッ!! 行くぞ、ダークシャドウッ!!!』

 

『ソッコォーデオワラセテヤラァァァァァ !!!! 』

 

 2人を抱えたダークシャドウと常闇が再度飛翔しながら自陣地へと運んでいくのを見送り、俺は吹出を背中に背負って再び血の刃で跳躍しながらゴーグルを起動させ、今度は黒色を捕まえるべく八百万達の位置へと戻る。

 

「ッ!」

 

 その途中で大きな閃光が見えた。葉隠が光ったか、八百万が閃光弾でも作ったか。

 建造物の中が真っ昼間みたいに明るくなった建物が照らされ、影を失った黒色が焦った様に飛び出したのをゴーグルが捉えた。

 

 もう終わる。

 

 俺は跳躍からの落下と同時に、伸ばした血の刃を建造物に巻き付けフックショットの要領で飛び込みながら黒色の近くまで急接近すると、腕の刃と背中からの血の刃を一気に振り払い、光の収まる前に彼の周りの障害物を切り開いた。

 

「うわッ!! なッ、なんで……っ!?」

 

 建造物が斬撃に飲まれて吹き飛ばされ、隠れようとしていた影が一切無くなる。慌てる黒色が俺を見上げた瞬間、残していた操血刃を彼に絡めて拘束。影に溶け込める彼は、持ち運びを楽にするためグシャグシャに丸め込んだ。

 

「なぁッ!? そ……そんな…………ッ!! こ、小森……ッ!」

 

 そのまま跳躍して自陣地へと飛び込もうとする俺に、さっきまで黒色と戦っていた八百万と葉隠が俺を見上げて明るい声を発していた。

 

「ヤイバさんっ! 完璧ですわっ!!」

 

「常闇もいっけぇ〜っ!! やっちゃえ〜〜〜っ!!!」

 

 キャーキャー騒ぐ彼女達の声援を受けた俺の上空には、常闇とダークシャドウも檻目掛けて急降下してくる。

 

「「せーのッ!!!」」

 

「イッチョアガリィッ !!! 」

 

 そのまま自陣の檻まで跳ねながら運んだ所で、2人を抱えていた常闇と合流し、俺達はB組4人を纏めて檻へと放り込んで試合は終わった。

 

 ドサドサドサー! とグルグル巻きになった4人が乱暴に檻の中へと転がり、試合終了のブザーが鳴り響いた。

 

 

 

 

 

『ま、まだ……1分経ってないのに……!』

 

『やっっったあ〜〜〜っ!!!』

 

『おっっっしゃぁあぁぁぁッ!!!』

 

『やったぜぇッ!!!』

 

 

 

 

 

 ブラドキング先生の愕然とした声が聞こえたが、奥からA組のみんながテンション高く喜んでいる様子も伝わる。

 俺も常闇も、追って来た八百万と葉隠も、A組を初勝利に導いて勢いをつける事に成功した事で、舞い上がっていた。

 

 

 

 

 

 ・・・♡・・・♡・・・

 

 

 

 

 

 A組の初勝利に俺達4人はウッキウキでOZASHIKIスペースへと戻って来たワケだが、帰ってきたら会場がお通夜みたいな雰囲気になっていた。

 厳密には、B組の全員が俺を見たまま絶句していて、A組の面々が騒ぎたくても騒げない状態だった。

 

「え…………え〜と……っ」

 

 遅れて戻って来たB組の4人も、血の刃の拘束から解除した時は負けた事にショックを受けていたが、それでも騒がしくしていた。それが、時間が経つに連れて負けた事実がのしかかったのか、落ち込みすぎてその表情は暗い。1人、元から真っ暗なヤツもいるけど。

 吹出は顔の吹き出しがずっと黒線のグシャグシャになってるし、小森は鼻を啜って泣いてるし、それを黒色がオロオロしながら慰めてるし、拳藤も目に涙を浮かべながら俯いている。

 

「拳藤さん……」

 

「いい…………相性が悪かったってのもあるし……そっちの作戦に対処できなかった私達が、未熟だったのもあるから……」

 

 意を決した八百万の呼びかけにも、彼女は腕で目元を拭いながら顔を合わせようとはしなかった。

 試合の始まる前までは、職場体験でのCM出演から同列に扱われるのが嫌で、ここいらでハッキリさせようと意気揚々としていた2人の対話を覚えている。

 それが、俺のせいでこれっぽっちも対面する事なく終わってしまったのだ。史実では、第2試合はB組が勝つ。俺も自分の試合で負けるのは嫌だったのもあるが、今の彼女には後悔しかないだろう。

 

「コレ……仕切り直しますか……?」

 

「切裂」

 

 謝るのも変な気がした俺がブラドキング先生に提案しようとすると、その前に相澤先生が目の前に来て立った。

 

「やり過ぎだ、なんて俺は言わん」

 

「え?」

 

 予想外だった先生の言葉に俺が視線を合わせると、顔こそいつも通りな相澤先生は更に話を続ける。

 

「インターンを忘れたワケじゃないだろ。戦いに犠牲なんか、無い方が良いに決まっているんだ。もっと胸を張れ」

 

「は……はいっ!」

 

 俺の上擦った声に、僅かに頷いた先生の言う通りだった。

 本当のヴィランとの戦いを想定するなら、圧勝が良いに決まっている。サーとのインターンだって、最初はこれぐらいの勝利を収めるつもりだったのだから。

 クラス対抗試合という言葉に、少し浮かれすぎたのだ。それは俺以外のインターン経験者も察しただろう。みんな難しい顔をして考え込んでいた。

 

「強いて言うなら、もう少し建造物の被害を抑えろ。他の3人も、切裂を軸にした悪くない動きだ。だが、今回は相手が自分達の個性を知らなかったからこそ、成立した奇襲だという事を忘れるな。次からは自分が軸となった場合の動きも考えるんだ。以上」

 

 そう言って総評を終えた相澤先生が離れていくと、葉隠が両腕で背伸びをしながら話し始める。

 

「まあ、ちょっと……切裂くんに頼りすぎちゃったトコロもあるよね……!」

 

「今回の作戦は八百万による入念な認識の統一の下、成立したのだ。俺も黒色との決戦に応えたかったが、我慢した上で切裂に勝利を託した」

 

「ええ……拳藤さん、申し訳ありません。A組に勝利の勢いをつけるためにも……私達は負けられませんでした」

 

「いいって…………次は勝つから……!」

 

 そう言って最後に少しだけ顔を上げてくれた拳藤は、次に近くにいた物間へと顔を向けた。

 

「物間、ゴメン……」

 

「気にする事はないさ拳藤! 今回の試合じゃ君と八百万の優劣はハッキリしないし、それに……B組はまだ負けたワケでもないからねえ……!」

 

 落ち込む拳藤を前にしても物間はゲス顔でペラペラと口上を垂れていたが、彼は不意に顔面を元に戻して彼女の手を握った。

 

「君が率いてきたB組が最強である事を証明するためにも、仇は取ってくるよ」

 

「物間……っ」

 

 轟には負けるが、上鳴よりは上に並ぶイケメン面を至近距離で見た拳藤が動揺していたが、慣れているのかようやく彼女は笑ってみせると、まだ落ち込んでいる3人を連れてブラドキング先生の講評を受けに向かった。

 

「相手が悪かったと言いたいところだが……決して彼だけが強かったワケじゃない。作戦と準備、そして試合が始まる前からの心理戦で、上手に取られていた原因もあるだろう。次のお前らの活躍を、期待しているぞ!」

 

「はいっ!」

 

「よーし黒色っ! リベンジマッチに備えるノコっ!」

 

「え……っ! ぉ、俺……っ!? ……おぅ……!」

 

「とゆーか、ブラキン先生ッ! 切裂に何教えたんですかッ!?」

 

 ブラドキング先生の前でようやく元気を取り戻してきたB組だったが、そんな様子に一切の興味を示さず、俺の結果を見てハートに火を点けたのは紛れもない爆豪だった。

 彼は俺に向かって舌打ちをし、自分達のチームを指差しながら大きな声で宣言を始める。

 

「ケッ、テメーら……覚悟はできてんなッ! ナマクラが1分なら……俺達は30秒でケリを付けてやる……ッ!!」

 

「オイオイ、ムチャ言うなってっ!」

 

「作戦もロクに立ててねーだろっ!?」

 

「ムリだからっ!」

 

 騒ぎ出した爆豪のチームを皮切りに、それまで観戦していたクラスメイト達も話に盛り上がり始める。そんな彼らの輪に戻ってきた俺達4人に、まず最初に緑谷が俺の前にやってきた。

 

「凄いよ切裂くん! あの動きといい拘束する技術といい血の刃を完全にモノにしたんだね! やっぱり僕の思った通り瀬呂くんのテープと違って伸ばした後にも自由自在に軌道を変える事もできるみたいだからどちらかと言えば梅雨ちゃんの舌に近いのかも! スピードは瀬呂くんよりは遅いみたいだけどB組の塩崎さんの茨よりも頑丈でやっぱりあのバネの動きを硬化で作り出せるのが1番強いと思う! 治崎と戦った時みたいに『切る』と言うよりも『刺す』動きに近くなるからヴィランとの戦闘で傷つけずに倒すみたいなのは大変かもしれないと思ったんだけど刃を千切って飛ばす発想は僕には思いつかなかったからホントに…………ブツブツブツブツ」

 

 雨霰の様な言葉を投げかけられて麗日を含む周りがドン引いている中、大きくひと息ついた緑谷は自分のガントレットを見ながら呟く。

 

「僕も入学してから色々な事ができる様になったけど……また大きく差をつけられちゃったね……!」

 

「そんな事ないよ緑谷くん。常にPlus Ultra、でしょ?」

 

「ぁ……うんっ!」

 

 俺の言葉を聞いて、緑谷は大きく頷いた。彼にもこのあと、大きな試練の後に新しい力を得る。そう言えば、ワン・フォー・オールで最近何か変わった事はないかと彼に聞くのを、すっかり忘れていた。

 どっかのタイミングで聞かなければと思っていると、今度は次に試合をする轟が俺に近寄って告げる。

 

「切裂、お前の勢いを繋げてみせる……!」

 

「うん。鉄哲くんも回原くんも、相当強いから気をつけて……!」

 

「わかった……!」

 

「頑張ってね!」

 

 次の試合も第1試合同様、かなりの激戦区になるだろう。俺と緑谷に見送られた轟は、チームを仕切っている飯田と一緒にフィールドへと向かって歩いて行った。

 

『現在A組が1勝! ココで勝たねばB組は勝ち越しができないッ!! 頼む我が教え子達よォォッ!!! 第3試合、準備をッ!!!』

 

 少し涙声で願望を正直に叫ぶブラドキング先生を、相変わらず相澤先生がジト目で眺めていた。

 

 で、それを見る俺を心操が複雑な表情で見ている事に、最後まで気が付かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【第3試合】

 

A組 尾白・轟・障子・飯田

 

B組 鉄哲・骨抜・角取・回原

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 4人で檻の前の自陣地に集まった飯田が兄の体調の事を話している途中、ブラドキング先生による試合開始の宣言と、ブザーが響いたのと同時にB組側から破壊音が巻き起こった。

 

「何だ?」

 

「金属音が断続的に響いている。おそらく、鉄哲の仕業だろう」

 

 尾白の問いかける時にはもう障子は複製腕から耳を数本伸ばし、その音と位置を聞き分けていた。

 

 

 

鉄哲(てつてつ) 徹鐵(てつてつ)』 ヒーロー名『リアルスティール』

 

 

 

 体を金属に変化させる彼は、索敵も搦手も使えないチームであるのを理解するなり、真っ向勝負に出でいた。ヘッドギアに半裸の様なコスチュームを身につけた彼は、試合開始と同時にフィールドの建造物を破壊し始めたのだ。

 A組が轟・飯田・尾白・障子と遠距離広範囲、平地高速戦闘、立体機動力、索敵役と突出した役割も有しており、全員が倒した相手を檻に運ぶ体力も機動力も有している。つまり、このチームは普通に戦えば、勝ちは零さないメンバーで固まっていた。

 対してB組は鉄哲、回原、角取、骨抜と索敵をかけられる個性がいない上、骨抜以外パワー型だ。リーダーである骨抜もソレは理解しており、作戦は限られた。

 

「小細工無用ッ! 来いや死ようぜ、真っ向勝負ッ!! アッハハハハハハッ! 来いや来いやァッ!!!」

 

 カメラの向こうでブラドキング先生が呆れているのも知らず、鉄哲は相変わらず鋼色に染まった体で周囲を建造物を破壊して大きな音を流し続ける。

 相手に障子がいるのに、ここまで音を出せばどこにいるかも本人には一目瞭然。逆に言えばA組が攻めてくるのを誘っているとも言える。

 

「金属破壊音、続いてる。音の響きからして、周囲を破壊しているようだ」

 

「向こうの意図は、おそらく正面戦闘」

 

 索敵を続ける障子の経過を聞いて、轟はB組の動きを予測する。

 

「ガチンコ勝負って事か……なら、対応も取りやすいな」

 

「よし……やるぞA組『チームスリー』っ!!!」

 

 飯田の号令で彼、尾白、轟と障子に分散した4人は、手始めに障子からの索敵で位置情報を大まかに聞いた轟による、最大出力の氷結をB組がいる破壊音の方向に向けて放った。それも闇雲な大氷塊ではなく、なるべく地面や建物を這う様に広げて両サイドから襲撃する飯田と尾白の視界を確保していた。

 

「ウォオォォォォッ!!?」

 

 一瞬にして半身が氷付けにされ、身動きが取れなくなる鉄哲が叫んでいる中、飯田と尾白は得意の機動力を発揮して速やかにB組の両サイドから氷結の効果を確認。隙があれば、どちらかの飛び出したタイミングで両翼から挟み撃ちにしようとしたが、一面が氷塊となった場所を見渡して、2人は異常に気付いた。

 

「鉄哲しかいない……!?」

 

「コレは……まさかッ!?」

 

 地面を柔化させていようと氷で上書きし、動きが鈍った所を一網打尽にする作戦だったが、氷漬けにされているのは鉄哲のみ。完全に動きが読まれた事を飯田と尾白は察した。

 そして、その異常はすぐに障子も複製腕で読み取った。

 

「地面だ轟ッ! 潜られ───

 

「ッ!!?」

 

 障子の言葉は最後まで轟の耳には入らず、地面の下からアスファルトを爆発させる程の威力でブチ破り、回原が2人の間に飛び出した。

 

「ッしゃあ!! ビンゴだぜッ!!!」

 

 

 

回原(かいばら) (せん)』 ヒーロー名『スパイラル』

 

 

 

 体のありとあらゆる部分を削岩機の如く回す個性『旋回』で地面を掘り進む事で轟の氷結を回避した彼は、そのまま障子を狙って高速回転する腕を振り下ろした。

 

「オラぁッ!!!」

 

「グぅッっ!!?!」

 

 咄嗟に複製腕で増やした腕でガードするも、旋回する腕は彼の幾本もの腕を易々と弾き飛ばし、その体勢を一撃で崩す。

 

「しまッ……クソ……ッ!」

 

 轟も回原の姿は捉えたが、いかんせん障子との距離が近すぎた。彼の火力自体は強力な武器なのだが、至近距離に放つとなると出力の調整は難しい。職場体験や林間合宿後の特訓で、エンデヴァーを間近で見ていた彼だからこそ理解している。このままでは氷も炎も咄嗟には使えない状況だった彼は、押し切られるのを察知していた。

 しかし、障子の防御を大きく崩した回原は追撃をかけず、弾いた勢いで彼から飛び上がって距離を離した。

 

「角取ぃっ!!!」

 

「『サンダーホーン』ッ!!!」

 

 その動きを轟も障子も理解できなかった直後、回原の掘り進んで開けた穴から、4本の白い捻れた角が飛び出すと同時に氷結から逃れたもう1人が姿を現した。

 

「サクテキヤクの障子クンはアンゼンケンにいるとのケンカイデース! ソー、タトえば轟クンのバックとかねっ!」

 

 

 

角取(つのとり) ポニー』 ヒーロー名『ロケッティ』

 

 

 

 競馬の騎手に馬具を合わせた様なコスチュームの彼女は、分離した角を自由自在に動かす個性『角砲(ホーンホウ)』で障子を引っ掛けて軽々と持ち上げると、更に自分が乗っている2本の角で浮かび上がりながら自陣地の檻へと突っ込む機動をとり始めた。

 

「コレは……存外、力強いッ!?」

 

 腕力で角を振りほどこうとした障子だったが、体育祭の騎馬戦で自分の身長よりも大きな男子を1人で背負って走り回っていた彼女の筋力は伊達ではない。

 もがこうにも空中では踏ん張れず、身動きの取れないまま空中に上がっていく障子を見て、轟は足元を氷結させて彼女を追おうとした。

 

 一方で轟達の様子がおかしい事に気付いた飯田と尾白は、すぐさま鉄骨の足場の上で合流するなり役割を分けた。

 

「俺が鉄哲君を止める! 君は轟の援護をっ!!」

 

「わかった!」

 

 後方へと飛び退いていく尾白を見送るなり、彼は大腿部のエキゾーストが唸り声を上げて炎を吹く。

 そして勢いのままに足場から飛び出した彼は、凍結する鉄哲の意識を奪うべく氷の上へと着地した。

 

「レシプロバースト……なぁっ!!?」

 

 しかし、彼が着地しようとした氷の床はグニャリと崩れ落ち、そのまま底なし沼になった轟の氷の中へと足から突っ込んだ。

 

「氷結ブッパは安い手じゃん。もっと非情に火攻めで来られたら、打つ手なかったのに」

 

 逆に身動きの取れなくなってしまった飯田の前に、氷結を予測して『柔化』させた地面に潜る事で回避した骨抜が、柔らかくなった氷の中からヌルリと現れた。

 

 

 

骨抜(ほねぬき) 柔造(じゅうぞう)』 ヒーロー名『マッドマン』

 

 

 

 元々は体育祭でも彼は個性を披露していたため、そのような能力を持っているのをA組側は知っていたが、性能が夏の頃と比べて段違い。轟の氷全体を柔らかくする程の範囲とは、飯田達も思ってはいなかった。

 

 

 

 

 

『轟の広範囲攻撃を跳ね除けたB組っ! さあ反撃だぁッ!!!』

 

 

 

 

 

 すでに1敗されている以上、ココで勝利をもぎ取らないとクラスとしての勝ちがなくなってしまうB組に、ブラドキングの声援も熱が入る。

 

「踏み締める土台あっての脚力……氷の下の地面も柔らかいぜ」

 

 そのまま骨抜は飯田を首元まで氷の中へ埋めると、個性を解除して周囲一帯を元の氷に戻す事で、彼を完全な晒し首の状態にさせた。

 

「あんたはとても面倒だ。沈めて固めて放っておく」

 

「俺達の連携を断つ気か……おのれヴィラン! 狡猾なりっ!!」

 

 こんな状況でも設定に入り込む余裕はあるのか飯田は悔しそうに叫ぶが、見ての通り彼の機動力は封じられた。

 しかし、回原が轟と障子の方へと向かっていた事で、尾白は妨害を受ける事なく2人の元へと駆けつける事に成功した。

 

「障子ッ!」

 

「What !!? 」

 

 しかも丁度、そのタイミングは障子が角に持ち上げて連行される瞬間。彼は上空を飛ぶ角取と鉢合わせしてしまったのだ。

 尻尾の勢いで大きく飛び上がった尾白は、そのまま縦に回転して角取を叩き落とそうとする。

 

「させねえッ!!!」

 

「何ッ!!?」

 

 しかし、その尻尾の一撃は回旋する足で地面と壁を弾いて飛び上がった回原によって防がれる。

 

「グゥッ!」

 

「くうッ!」

 

 空中で弾かれた両者を捉えたのは、直前まで氷結で角取を追跡しようとした轟。彼は弾かれて角取や障子から大きく離された回原に狙いを定め、空中を乱回転する尾白に叫ぶ。

 

「尾白っ、障子を頼む!! 俺は回原を───ッ!?」

 

 そして、地面に着地できずに建造物へと突っ込んだ回原を捕らえようと氷結を発動しようとした轟に対して、今度は鉄砲玉が放たれた。

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 文字通り鋼の体を持つ鉄哲が、凄まじい勢いで轟の氷をブチ砕いて彼までの突貫を果たしたのだ。

 

「ッ!?」

 

「テメェよおォッ! 冷てえんだよなオイ、氷がよおォ!! テツテツがキンキンだよ轟ぃッ!!!」

 

 元々、彼は骨抜の柔化の範囲から外れていた。と言うか、飯田が氷の沼に落ちた時にはもう彼は氷を砕いて掘り進んでいたのだ。

 

「ステゴロで、テメェ俺に勝てるかァッ!!?」

 

「ぐうッ!!?」

 

 氷を散らしながら、そのまま鉄哲は轟に突進して彼を地面へと殴り倒した。それを見た尾白が、なんとか尻尾を振るって空中でバランスを取り直し、建物のパイプの上に着地するなり彼に向かって飛び出そうとする。

 

「轟っ!! 今行く……うおッ!!?」

 

「お前の相手は俺だってのッ!!!」

 

 しかし再び彼の動きを遮る様に、全身を回旋させる回原が尾白に突撃した。

 両者、近接戦闘で輝く個性。尾白の尻尾による立体機動からの攻撃に対し、指と足に装着されたダイヤモンド製の指サックと脚絆により、ガード不可の攻撃を生み出す回原の実力はほぼ互角で、拮抗状態に持ち込まれていた。

 

「Thank you 回原クン! ココはマカせマース!!」

 

「ク……ッ!」

 

 尾白と轟の脅威から逃れた角取は、すぐに角の速度と高度を上げて障子と自分自身を自陣地へと運ぶ。距離が離れると角の精度が緩む以上、彼女は操作する角に追従する必要があった。

 

「ゲホ……ッ! まッ、待ちやが……ッ!!」

 

「行かせねえッ!!」

 

 角取を追いかけようと地面から立ち上がる轟を、すかさず鉄哲が彼を掴んで拳を振り下ろした。

 

「オラァッ!」

 

「ぐあッ!!!」

 

 基本的、遠距離攻撃が主体となる轟に近接先頭では完全に鉄哲へ軍配が上がる。普段、切裂や切島との特訓で格闘戦を徹底的に磨いてきた彼を、轟が個性を使わずに打ち破るのは不可能だ。

 初動は、この状況に持ち込むための鉄哲なりの布石だったのが、ソレを察知した骨抜が更に洗練させた。同じ近接戦で妨害してくる尾白を回原に当て、1番厄介な飯田を沼に落として拘束させる。全てはこの状況を作り出すための演技だったと思わせる程、彼は本気だった。

 

「おのれぇ……ッ!!」

 

「悪いね。レシプロって時限だろ? 開幕使用はよくなくね? じゃあ俺、鉄哲の加勢行くから」

 

 骨抜は飯田に背を向けてA組の自陣地側、先程から戦闘を繰り広げる音の聞こえる方へと歩み出した。

 

「時限……? いつの話だマッドマン……!」

 

 しかし、演技を止めて煽る様に話す飯田の口振り、思わず骨抜は振り返る。

 そこには、先程までにはなかった氷のヒビが飯田を中心に伸び広がり、その隙間からレシプロバーストのエキゾーストよりも甲高い音が響き渡り始めた。

 

「インゲニウムはいつでも、どこへでも駆けつける……その為の脚……ッ!!!」

 

「ッ!」

 

 骨抜が動揺した瞬間、凄まじいエンジンを噴かす音と共に飯田は硬化していた氷の塊を中から蹴り割った。

 

「俺はもう、ずっとフルスロットルだっ!!!!!」

 

「マジか……ッ!」

 

 驚愕の声を漏らす骨抜だが、それすらも二の次となる衝撃が……飯田の神髄が放たれた。

 

(レシプロの馬力を底上げし、尚且つ掛かる燃費は最小限に……!)

 

 彼はそのまま氷を飛び出すと、骨抜目掛けて一直線に加速する。

 マフラーが白熱化し、オレンジから青色の炎を吹き散らしたその速力は、レシプロバーストの数倍。

 

 音よりも速く飯田が駆けた。

 

「10分だ……10分、誰も俺を止められないっ!!!!!!!!!!」

 

 エンジン音にしては、余りにも甲高く透き通るような音に変わった飯田のレシプロが、必殺技名の叫びと共に放たれる。

 

「ニュースタイル……『レシプロターボ』ッ!!!!!!」

 

「───なッ!!?

 

 

 

 

 

『ハーーーハッハッハッハハハハッ!!! 速えぇェェェェェッっっwwwwww!?!!!!!』

 

『きっ、切裂くん!?』

 

『ヤイバさんっ!?』

 

 

 

 

 

 ソレを見た切裂が、思わず笑ってしまうほどの超加速が始まった。

 

 定点カメラで追えなくなってしまった超加速が発動した彼の蹴りが、地面に潜って逃げようとした骨抜の顔面を正確に捕らえ、彼のヒーローコスチュームのバイザーを叩き割った。

 瞬きひとつで見失う軌道を描きながら、飯田は蹴りの一撃で意識を持ってかれた骨抜の前で急停止し、今度は彼を担いで再び駆け出す。

 その走りは以前よりも真っ直ぐ、とにかく真っ直ぐ。走って壁にぶつかるか思い切り角度を変えて走るか。あまりの速さに、走ってる途中は直進しか彼はできなかった。

 

「Oh……crazy…… !! 」

 

 その様子を、障子を檻へと叩き込んでから鉄哲の援護に戻ろうとした角取は、今の飯田の動きを見て絶対に敵わない事を察知するなり、角の高度を更に上げて空に逃げる。彼女の角も中々の速度で飛び回るが、飯田には完全に負けている以上、適切な回避判断だった。

 

「尾白君達が心配だが、まずは骨抜君を檻に入れねば!!」

 

 気持ち加速しているせいか、思っている事までペラペラと早口で話す飯田を、観戦するクラスメイトの何人かが不可解に見ていた。

 角取がいる以上、倒した相手を隠される可能性を考慮した飯田は骨抜を抱えたまま檻へと走った。向こうには轟もいる以上、互角以上に戦えるとの信頼を抱いて。

 だが、一方の轟は鉄哲相手に手も足も出せない状態だった。

 

「必殺……『俺拳(おれこぶし)』ィッッ!!!!!」

 

「グオっッ!!!?!!」

 

 限界まで鋼鉄を超えた金属の拳が轟の鳩尾へ深々と突き刺さり、そのまま吹き飛ばされた。

 先程から氷結を伸ばして彼を止めようとする轟だが、鋼鉄で剥がれる事のない皮膚を持つ鉄哲は体などお構いなしに氷塊を殴りつけて破壊し、轟に肉薄する。画面の向こうで切島も悔しさを滲ませているのも知らず、彼は轟を圧倒していた。

 少し離れた所では尾白と回原が相変わらず近接戦闘を繰り広げており、援護には向かえなかった。

 

「そんなものが効かない事ぐらい、切裂から学んでんだろぉッ!!!!」

 

「チッ!! (ああ、わかってるよ……!)」

 

 だが、彼もココでただやられるのを待つ人間ではない。

 

「『赫灼熱拳』……ッ!!!」

 

 轟の口上を聞いて、モニター観戦する何人かの生徒が動揺した。父親と同じ技を使おうとする轟の手元に、左の熱が集中していった。

 緑谷や爆豪を筆頭にモニター越しの何人かが驚愕の視線を向ける中、彼の手の中で焔火が眩しいぐらいに光瞬き、その狙いを氷を砕いてきた鉄哲に定める。

 

「『噴流熾炎』ッ!!!!!」

 

 一点に集中した真っ赤な煉獄が、鉄哲に襲いかかる。

 一瞬にして炎の中へと飲み込まれていった鉄哲に、轟は大きく息を吐くと同時にヒーローコスチュームの背中から、白い煙と共に溜まった熱が吐き出された。

 

「オラァァァァァァァァッッッ!!!!!!!!」

 

「くッ、ぐぅッ!!?!」

 

 だが、その業火の中すら鉄哲は飛び抜けてきた。

 

「なんで俺がテメェの相手してっか、わかってねえな……ッ!」

 

 轟を殴打する鉄哲の体は白熱化していた。その拳で殴られる轟は熱に耐性があるため火傷こそ起こさないものの、慣れない肉弾戦によって徐々に体力を奪われ始めている。

 

 

 

 

 

『鉄哲!!! 轟を捕らえて逃がさないっ!! 圧倒的な近接に、範囲攻撃を出す暇なしィッ!!!!』

 

 

 

 

 

 ブラドキング先生の実況にも納得せざるを得ない、鉄哲の一方的な優勢にA組のクラスメイト達は動揺していた。

 彼等は今まで訓練や戦闘で見てきた轟の実力に頼りがいを感じており、おおよその相手に有利を取れるのも間違いないという認識でいたのだが、しかし鉄哲が余りにも轟に特効だった。

 

「効かねえからだよ……今度は鉄哲がチンチンだよォッ!!!」

 

 接敵された時に轟が出来る事は氷か炎。切裂以外には必殺となるその攻撃も、鉄哲だけはどちらも強引に押し破って動けるのだ。

 その事を身をもって理解した轟は、このままでは彼に勝てないと殴られながらも思考を巡らす。

 

 彼を確実に倒し、仲間に繋げる方法を。

 

(氷結も炎熱も意に介さねえ……それでも、終われるかよ……ッ!!!)

 

「コレが限界を超えて手に入れた俺の……最高峰ッッッ!!!!!!」

 

 彼の本気の拳を受け続けても、轟は溜め込んだ赫灼熱拳の熱を上げ続けた。

 鉄哲相手に火力を躊躇わず、据え置きのカメラが熱で映像が歪み、紫電を起こして破壊されていく。モニターに映す定点カメラが次々とノイズ画面となって広がる中、轟はその火力をエンデヴァーに負けぬ程の業火へと広げて鉄哲を包み込む。

 

「グウゥぅっッ!?!!? だが……まだだあァァッ!!!!!」

 

 それでも、鉄哲は拳を握りしめて轟の意識を完全に奪うべく、全身全霊の一撃を放とうとした。

 

「ッ!!!!!」

 

 次の瞬間、彼は白熱化していた鉄哲の拳を右手で受け止め、そこから一気に冷気を放って周囲を氷漬けにしながら彼の体温を急速に下げた。

 

 

 

 

 

 途端、轟を殴り続けていた鉄哲からバキリと、金属の割れる音が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

「グぁぁあぁァぁぁぁァぁっッッ!!?!!!!」

 

 悲鳴を上げる彼の腕に、切裂が刃の限界を超えた時と同じ様な亀裂が鮮血と共に走る。限界以上の焼き入れ温度を流し込み、中途半端に加減を加えた冷却。

 

 彼の金属の体が焼き割れを起こしたのだ。

 

「ぐぅウゥゥぅっッ!! 俺もまだまだかぁァッ!!!」

 

「まだ、倒れねえのかよ……ッ!」

 

 しかし、それでも鉄哲は止まらない。ヒビ割れた手で轟を掴むと、今度こそ彼の意識を奪うべく拳を握りしめる。

 

 その瞬間、頭に流れ込むのは試合前に切裂へと告げた台詞。

 

 

 

 

 

 ───切裂、お前の勢いを繋げてみせる……!

 

 

 

 

 

 彼にあれ程まで情熱的な約束をした手前、もう後には戻れなかった。

 

(あとは頼む……尾白、飯田……ッ)

 

 脳裏にまだ戦っている筈の2人に運命を任せた轟は、急激に冷やされた鉄哲と自分の前に、赫灼熱拳の熱の塊を放った。

 

「『膨冷熱波───

 

 ───ッ!!?!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 至近距離で放たれた熱膨張の爆発は、辺り一帯を巻き込んだ。

 

 水蒸気の白煙が吹き荒れて露になると、更地となった工業地帯に残ったのは、気を失って倒れた轟と鉄哲だった。

 

 その威力は2人の周囲で戦っていた尾白と回原も巻き込み、静かになった更地の隅から瓦礫と化した工場の壁を尻尾で押し除けて、尾白が外へと這い出た。

 

「イテテ……いったい、何が……ッ!?」

 

 頭を押さえて、ボロボロになった道着を着直した尾白は、更地の向こうに倒れる鉄哲と轟を見た。

 

「轟っ! 大丈夫か───ッ!?

 

 彼を助けようと、揺らぐ足取りで轟の所へと向かおうとした尾白だが、その1歩目を踏みしめた瞬間、音で位置を判断して地面を割って飛び出した回原が、彼に避けようのないアッパーカットをかましたのだ。

 カメラの向こうで葉隠の悲鳴が上がる中、回原は体の旋回を止めて地面に着地する。

 

「ハァ、ハァ……さっきのは轟か?!」

 

 彼は爆発の直前、尾白との戦闘を放棄して地面に潜る事で轟の膨冷熱波の直撃を回避していた。

 しかし、衝撃波までは逃れられなかったのか、彼のヒーローコスチュームである白いコートは破け、脚絆も一部が砕けて肌が露出していた。

 周りには倒れた尾白、遠くに鉄哲と轟。その状況を確認した回原は、目の前の尾白に向かって手を伸ばした。

 

「だが、コレで俺達の……!」

 

「させるかァッ!!!!!」

 

 意識を奪った尾白を檻へと運ぼうとした彼に、駆動音と衝撃。

 レシプロターボの超高速により目にも留まらぬ速度で迫った飯田の蹴りが、回原を吹き飛ばした。

 

「───ッ!!?!?」

 

 声を出す事もできず壁に激突して意識を失った回原を確認してから、彼は動こうとしない尾白を抱き起こした。

 

「尾白君……っダメだッ! 完全に気絶しているっ!!」

 

 彼を揺り動かして起こそうとするが、回原との戦闘や轟のとばっちりでダメージが溜まっていたか、完全に意識を失っていた。

 飯田はすぐに思考を切り替えて、辺りの状況を確認しようと周囲を見渡す。

 

「轟君も鉄哲君も倒れた……障子君の姿も見えない! と言う事は……残ったのは……!」

 

「ワタシとアナタだけデース……!」

 

 その声が聞こえた時にはもう、飛翔する角が気絶する轟と鉄哲、回原を掻っ攫う様に持ち上げて浮かび上がっていた。

 

「ッ!」

 

 咄嗟に彼は尾白を離して轟を掴むべく飛びかかったが、彼の手はもう届かなかった。

 

 

 

 

 

『……勝ったな』

 

『あぁッ?!』

 

 

 

 

 

 立ったままドヤ顔を決めて確信の台詞を吐く物間と、その様子をイラついた目で睨む爆豪が声を漏らした。

 

 現状、A組は轟と尾白が気絶。障子は投獄。飯田は戦闘可能。対してB組は鉄哲と回原が気絶。骨抜は投獄。

 その様子を上空から全て見ていた角取が、咄嗟の行動に出ていた。

 

「ヒキョーかもしれないですけど……コレもショーブデース……! B組をこのままジ・エンドには、させまセーン……!!」

 

 現状、彼女が動かせる角は6本。その内2本を使って轟を檻に送り込む機動を取りながら……1本ずつの角で鉄哲と回原の体を引っ掛けて空中に浮かし、残りの2本で空中に仁王立ちして飯田を見下ろしていた。

 

「や、やられた……ヴィランの罠に、最後までハメられてしまった……!!」

 

 悔しそうに唸る飯田のレシプロターボのエンジンは、あと数分後には止まる。そうなったら彼女は角の移動スピードで彼を振り切り、轟を檻に放り込める。

 気絶してる人数がお互い同じで、檻に収監されている人数も同じ。飯田が尾白を気にかける事なく、回原を攫って檻に叩き込めば逆転する機会はまだ残っていたかもしれないが、兄ことインゲニウムの矜持を貫いた彼には、近接戦闘しか戦う手段がない。

 

 空を飛ぶ角取に有効打が打てない状況に持ち込まれてしまったのだ。

 

 そうこうしている内に飯田のエキゾーストから黒煙が噴き出し、それを見届けた角取が妨害される前に浮かせた轟を檻に放り込み、B組の2人を空中に浮かせたまま、タイムアップまでの時間を稼いだ。

 地上に残る飯田には何もできない。背の高い建造物を轟に薙ぎ倒された今、飛ぶ能力も遠距離攻撃もない彼に空を浮く角取を落とす技はない。

 

 牢屋に叩き込まれる前に飯田が轟を奪取できればよかったが、それを許さぬためにも角取は一度高く全員を持ち上げてから運搬したのだ。

 檻に先回りする作戦も飯田は考えたが、目を離した隙に鉄哲と回原を隠されたら元も子もない。それに、レシプロのない彼では彼女の6本の角を捌くのは、不可能だった。

 こうしてお互い睨み合いの時間が流れた最後には、フィールド内から時間切れのブザーが鳴って決着がついた。

 

 

 

 

 

『見事な戦術だったぞB組ィッ!! 2対1でB組の勝利ィィィィッ!!!』

 

 

 

 

 

 ブラドキング先生が泣きながらめっちゃ嬉しそうに、勝利を高らかに宣言した。

 意地で奪い取った勝利にB組の歓声が沸き起こり、切裂の流れを覆された事実にA組は息を飲む。その後ろでは、面白い展開になってきたと言わんばかりの爆豪が獰猛に笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『操血刃斬人(ブラッディ・スパーダー)

・体内の血液を硬化し、刃にして放出できる。

・血液である以上、通常は体内から血管を突き破る必要がある。

・血の刃は大きさも形も自由自在。当然、切れ味も自由自在。射出してから二又に裂けたり、急激な機動変換も可能。

・元が液体であるため、硬度も調節できる。エネルギー体である緑谷の『アレ』と違って質量があるため、しなやかなバネの様に扱う事もできる(逆に、ゴムの様な伸縮性はない)

・放出して撃ち放った血の刃は、硬化が解除されずにそのままの形で残る。本人や血の刃が触れれば、再び自由自在に動かす事ができる。

・放出した血を体内に戻す事もできる。応用して血の刃で突き刺した物を引き寄せたり、逆に自分を引き寄せる事が可能。

・血を放出し過ぎると貧血の症状が起こるが、彼には無問題。

・現在、血の刃を『鎖鋸刃斬人』の様に高速流動させる事はできない。また、血の刃から斬撃波は飛ばせない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次回『イレギュラーとイレギュラー』

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