『気絶者多数につき、反省会は後に回す! それとフィールドも移すぞ! 各人、第4試合の準備をッ!』
OZASHIKIスペースからブラドキング先生の指示が飛ぶ中、医療搬送用ロボットに運ばれていく轟や鉄哲達を心配そうに見送るクラスメイト達の前で、物間が生き残りだった角取にご機嫌良く話しかけていた。
「見事な作戦だよ角取! 一瞬の判断でみんなを空中に持ち上げたのは素晴らしいよねェ!! 真正面から戦うだけじゃあないんだよB組はァッ!!!」
「フフッ! コレでイーブンになりマシタ! 物間クン、取蔭サン、アトはヨロシクオネガイしマース!」
これ以上ないぐらいの上機嫌で一方的に話す物間に角取も押され気味だったが、意地で勝利をもぎ取ったのは紛れもない事実。彼に褒めちぎられながら彼女も誇らしく胸を張っていたし、それをB組のクラスメイトも拍手と歓声で迎えていた。
「索敵の必要性無くして、俺の力が活かせない状態にされていた。完敗だ……」
「ドンマイ、障子くん」
一方で、A組側で意識の残っていた障子は相澤先生から個人的に講評を受けた後も、やはり悔しそうに唸っていた。
実は障子、角取に角で空中に持ち上げられてから、無謀にも地面から100メートル以上もの上空で暴れて角をほどき、自由落下してから複製腕を伸ばしまくった手で翼の形にして飛ぼうとした。
ただ、2秒ぐらいしか保たなくてまたすぐ彼女の角に捕まり、最後は檻に叩き込まれてしまったのだ。
「鉄哲と骨抜がヤバかったな! 敵ながら、天晴れだぜっ!!」
切島の言う通り、A組が決して弱いワケではないのだが、骨抜が角取の圧倒的有利な状況まで持っていったのが凄い。飯田が己の速度を自負して味方を助ける事に集中しすぎただろうか。回原を倒した時点で先に彼を檻に運べばとも考えたが、それでも尾白と轟が無防備になってしまうので結末が変わらない。
鉄哲が轟を相打ちにまで持ち込んだのが、大きすぎた。
「実際、紙一重の勝負多かったからどっちが秀でてるってのはあんま感じねぇけどなぁ? 2戦目のお前だって個性の噛み合いの結果って感じだし、あれ他のメンバーなら相当キツかったろ?」
「3戦目も同じ事が言えるよ。轟に対抗できる鉄哲ってカードが切れたからこそだし」
上鳴とそんな話をしながら、俺はモニターの景色を眺める。
骨抜の柔化でドロドロにされたまま固まった建造物や、鉄哲の破壊した氷、そして轟の膨冷熱波で更地になったエリア。モニターに映る変わり果てた工場エリアを見て、心操が言葉を漏らした。
「今までの試合と違って、被害がえげつないですね」
「ヒーロー科の訓練とは、こういうモンだ。コイツらは壊しすぎだがな」
『お前達! 分かっていると思うが、被害は最小限に抑えるんだぞ!』
「「「「「はーいっ!」」」」」
B組達に向けるブラドキング先生の言葉に、クラスメイトは素直な返事をしていた。
そんなB組の様子には目もくれず、次の試合に参加する爆豪が俺と緑谷の近くを通りかかった。
「見てろや、ナマクラ……クソデク……!」
「うん……!」
「頑張って!」
「応援すんじゃねえ殺すぞッ!」
いつも通りな爆豪と「えぇ……」と冷や汗を流す緑谷。それを見て不安そうにして歩いていく耳郎、砂藤、瀬呂を見送り、俺達は再び大型モニターへと視線を戻した。
『さぁ、続くは第4試合! 現在A組B組1勝1敗1分けェ!! 両者互角のように思えるがぁ……しかし、A組の1勝は俺がアドバイスした切裂のおかげッ!! カァーーーッ、コレが果たして互角と呼べるのかッ?!!!』
「「「「「ヒドい言い方だぜブラド先生ッ!!!」」」」」
あまりにもあんまりなブラドキング先生の実況解説に、芦戸のみならず上鳴や切島までブーイングを投げかけるA組。後ろで見てるミッドナイト先生とオールマイト先生も、流石に呆れている。
そこを相澤先生がクラスのブーイングを威圧で宥めて、調子に乗ろうとした物間を拳藤が叩いて止めた。
「B組も日々鍛錬して力をつけている。だがA組もこのままじゃないハズだ」
「オールマイト、A組好きですよねっ」
「私はみんな好きさ……」
ミッドナイト先生にも茶化されながら、オールマイト先生はモニターに映る爆豪の姿をジッと見ていた。その表情に何か特別な想いがあるのは、聞くまでもない。
史実の爆豪はチームで協力し、4対0の圧勝を収めた。彼は緑谷と喧嘩した時のオールマイト先生の言葉を、シッカリと汲み取っている。それは、今この瞬間の彼も、きっと変わらない。
彼なら、この試合は問題なく勝ってくれるだろう。
ただ、もの凄い大騒動にはなりそうだが。
『位置についたら始めるぞッ! 第4試合ッ、スタートだァーーーッ!!!』
お互いのチームが位置に着いたところで、段々とテンションが上がっている気がするブラドキング先生によるスタートの合図が入った。
【第4試合】
A組 砂藤・耳郎・瀬呂・爆豪
B組 泡瀬・鎌切・取陰・凡戸
『僕のヒーローアカデミア』の正史において『
彼こと、ヒーロー名『ジャックマンティス』は此処クラス対抗戦においても、爆豪の『
そんな彼の存在を欠片も気にせず自陣地に集合した爆豪は、すぐさま後ろの耳郎達に顔を向けた。
「おい耳郎。スタートと同時に索敵かけろッ、結果が分かり次第すぐに攻めるからなッ」
「えっ!? う……うんっ!」
普段の悪意とセンスの混ざった渾名ではなく、名前呼び。そのギャップにドキリとしながらも、彼が今までにないぐらい真面目である事を察した耳郎は素直な返事をした。
「砂藤ッ、テメェは耳郎を背負って追従だ。俺達の後方にいろ」
「背負うのか!? わ、わかった……!」
異性を背負うという行為に年相応の精神を持つ砂藤は動揺するが、機動力の無い索敵役を補う方法としては理にかなっている。仮免試験で八百万を背負った飯田を見た事のある彼は、少し迷いつつも彼女相談して『おんぶ』で背負う事を決めた。
「瀬呂ッ! テメェは俺が殺ッたヤツを拘束して運べッ!」
「おっしゃ、任せとけ!」
そして、自分の大得意分野を任された瀬呂は、鋭い剣幕の爆豪に対しても爽やかにサムズアップをしてみる。それを見て彼は舌打ちを叩きつつも、これ以上言う事はないと言わんばかりに3人へと背を向けた。
こうして始まった試合開始のブザーと同時に、地面と壁面に耳たぶのジャックを突き刺した耳郎が、響き渡ってくる音を聞き取るなり目を開いて爆豪に叫ぶ。
「……ッ!? ……あちこち音が鳴って聞き取りづらいけど……正面から3人ッ! まっすぐこっちに来るッ!!」
「おしッ!!」
それを聞いた爆豪は速やかに手の平の汗を煌めかせながら跳躍。爆破と同時に高速機動を取り始める彼の後ろから、瀬呂が工場の立体交差の中を飛び回りながら彼の隣に並んだ。
「ついて来いしょうゆ顔ッ!」
「そっちこそだっ!」
笑いながら飛び抜けていく2人の後ろを、シュガードープで強化した脚力で大きな跳躍を繰り返す砂藤が耳郎を背負い、彼等についていく。
「耳ぃッ! 位置はッ!!」
「待って……ッ、うるさ……ッ……でも、聞き取れる……っ!」
急停止した砂藤の背中で耳郎の伸ばしたジャックから伝わったのは、工場の足場を不規則に打ち鳴らす雑音に紛れた別物の足音。
彼女の示した方向と位置を聞いた瀬呂はテープで足場の上へと着地して、障害物の入り組む工場の狭い空を見上げる。
「取蔭の個性だ……バラバラになって飛んでやがんな……っ!」
「ああッ、だが速度は大した事ねえッ! 俺達を見下してんなら……上だッ!」
建造物の足場の上で一度停止して、おおよその相手の位置を予測した爆豪と瀬呂は次の移動で接敵を仕掛けるべく、大きく飛び上がった。
そこにジャックを元に戻した耳郎が砂藤に叫ぶと同時に、彼はもう2人を追って足場から足場へと跳躍する。
「砂藤っ!」
「心配すんなっ! スピードじゃアイツらには負けっかもだけど……置いてかれはしねえよっ!!」
切裂が関係を取り持つ事で、クラスメイト達のB組に対する個性の理解。史実よりも早期に『クラスター』の鱗片を覚えた爆豪と、ソレに追従できる物間達の成長。そして索敵の強化された耳郎の有効活用。その要因は彼のチームを爆発的に進化を遂げていた。
それだけだったら、彼の望んだ30秒以内の勝利も夢ではなかった。
たったひとつの、イレギュラーな要因がなければ……
爆豪と瀬呂が建造物を飛び抜ける数十メートル先、物陰から動く影が僅かに2人の視界を捉えた。
「見えたッ!」
「待てしょうゆ顔───ッ!!!
迂回して先行しようとした瀬呂を爆豪が止めようとした瞬間、動く影の消えていった障害物を巻き込む斬撃波が放たれ、燃料タンクの壁を削りながら瀬呂の肘から伸びていたテープを、いとも簡単に切断した。
「うおぉッ!!?」
「ッ!!?」
切断されたダクトやパイプ、連絡橋も巻き込んで自由落下する瀬呂はすぐに別の場所へとテープを伸ばし、瓦礫を避けながら鉄骨の上へと着地する。
「クソッタレェッ!!!!」
彼の援護は必要ないと判断していた爆豪は、すぐさまA・P・ショットを斬撃波の飛んできた方向へと連射したが、その爆風と煙の中から追撃で放たれた斬撃波が、空間を駆け抜けて爆豪の頬を掠った。
「うおッ!?」
思わず顔を顰めた爆豪が、すぐに爆破で空中に軌道を描き、瀬呂とは別の鉄骨に着地するも直後に彼の乗っていた足場が音も立てずに切断され、落ちた。
「掠っただけか……」
「……ッ!」
障害物の入り混じる空中を飛び出したのは、黒の目出しアイマスクにボロ布の様なデザインの真っ黒なマント。衣服も上下黒であり、
続けざまに爆豪が攻撃するより早く、彼は両腕から伸ばした分厚い『刃鋭』で交差させた斬撃波を放った。
「しょうゆ顔下がれッ!!!(速ぇ……ッ!)」
「くっそッ!」
その斬撃波の速度は切裂よりも速く、普段の彼との特訓で慣れていた爆豪の認識を狂わせる。そして、目の前で自身の体から伸びた刃を振るう相手を見た彼は、ひと筋縄でいかない相手に当たったと思考を切り替えた。
「どうしたんだぜェッ!!!」
「く……ッ!!!」
彼の斬撃波と、刃の伸縮による移動。そのどちらも洗練された動きで、鎌切は爆豪を追い詰めようとしていた。
なにせ彼は切島や鉄哲を差し置いて、イレギュラーこと切裂 刃の影響を最も強く受けてしまった生徒だったのだから。
元々、不殺が前提なヒーローからは遠く離れた個性。それでも彼がヒーローを志したのはオールマイトの存在と、切裂と同じく親の教育による賜物だろう。
ただそれでも、衝動に駆られてひたすらぶった斬る性格だけだった彼に、切裂は繊細さを与えたのだ。
彼はB組の生徒の中で、鉄哲の次に切裂へと目を留めた生徒だった。
それが起こったのは遡るに遡った雄英体育祭、当日の当日。
彼が0ポイント仮想敵を縦に叩き割った時の事である。
自分とよく似た個性で、あれだけのインパクトを見せた彼の姿に、たちまち彼は憧憬を抱いたのだ。
そこから彼はひたすらに、切裂を追いかけていた。プレゼントマイクとイレイザーヘッドの実況が彼を追い続けていたから、どんな風に個性を活用して障害を突破しているのか知るのは、簡単だった。
体育祭の障害走が正史よりも上の順位だった事に、果たして彼は気づいていたのだろうか。
自分の上位互換とも言える個性を持っていても鼻にかけず、林間合宿の個性強化訓練、本格的な訓練が始まった2日目は料理による個性の調整能力を指導され、3日目からはずっと彼と一緒に訓練していた。
なにより、彼は自分にとっての上位互換となるハズなのに、自分の個性に鼻をかけたり、一切の遠慮をしなかった。「個性とは可能性」と言って斬撃波の演練を付託なく教えてくれた彼に、鎌切はA組の中で1番心を許している相手となっていた。
実際、刃の切れ味と刃の伸縮速度は、鎌切の方が上だったのだから。
なにより、彼は異形型を差別しないだけでなく、異形型すら個性のひとつとして話をした。人間からは離れてしまったこの姿形も、人間の可能性であると。
そんな話を仮免試験会場で他校の生徒と議論していたと、特訓仲間の切島から聞いていた。
彼にとってイレギュラーたる切裂 刃は、そのヒーロー名の如く特別にキラめいていたのだ。
「チックショッ! 刃物にゃ弱いんだよッ!」
斬撃波を乱れ撃ちながら瀬呂のテープを易々と切断する鎌切は、建造物を跳ね回りながら爆豪に肉薄する。
「ナマクラのパクりヤローがッ!!」
「これが俺の戦い方なんだぜェッッ!!!!」
爆豪にとっては随分と見慣れた、脚の刃の伸縮による高速機動。だが、オリジナルとはまた少し癖の違う変則的な動きに、彼は出遅れた。
そんな爆豪を翻弄する鎌切を、上空から上半身だけになって浮かんでいる取蔭が息を顰めていた。
「さぁ、頼むわよ鎌切……爆豪を抑えられるのかは、アンタにかかってんだから……!」
『
爆豪に張り合う切裂とほぼ同じ個性を持つ彼に託した彼女は、正史と違う作戦を講じていた。
自身の個性『トガゲの尻尾切り』で分割させた体で工場の一帯を打ち鳴らし、耳郎の音による索敵を妨害。第2試合の結果を見て、嫌でも速攻を仕掛けると踏んだ彼等その曖昧な情報の中で攻めてきた、爆豪を鎌切によって一騎打ち。その間に援護しようとする3名を自分達で捕えようという作戦だ。
「爆豪と……張り合ってる……ッ!?」
「ウソだろっ?!」
下から見上げる耳郎と砂藤が驚きを隠せない中、取蔭の作戦の下で拘束力に長けた個性の2人が動き始めた。
「瞬間着工……『ウェルドロード』ッ!!!」
その1人、斬撃波を飛ばされながらも爆豪を援護しようとする瀬呂を妨害する者が現れる。
「オラオラオラオラオラオラーーーッ!!!!!」
「なっ、なんだぁッ!?」
瀬呂の驚く視線の先、建物の陰から飛び出した泡瀬が、走りながら地面の床に資材を敷き詰めて『溶接』し、なんと空を走っていたのだ。
『
決して戦闘向きの前衛個性ではないが、林間合宿で切裂と共に死線を潜った彼は少なからず個性の成長を加速させていた。
しかし、取蔭と同じく高所を取ろうとする泡瀬だが、その高低差も瀬呂ならテープを足場に引っ付けて一瞬にして詰められる。それに、溶接しているとは言え所詮は急増品仕立ての足場。自重でグラつき始めるその寿命は短い、と思われた。
だが、彼の役割は瀬呂やその他の注目を集める役割。そこに、彼の溶接した足場を更に頑丈に塗り固める者がいる。
「フヒヒヒっ、やっぱりだよねぇ……爆豪を止められるのは、鎌切しかいないよねぇ……!」
『
黄色と赤のツートンカラー、市販品のボンドの容器を意識したコスチュームを身に付ける彼は、泡瀬の作り上げながら走る足場の後ろから追従しながら、顔の穴から放出される『セメダイン』で足場を固めていた。
こうして斜めに伸びた不安定に見えるも、確固とした足場からA組の全員を捉えた凡戸は体を反らして、大きく息を吸い込んだ。
「『グルースニーズ』……っ! ブワぁぁぁァックシュんんんっっッ!!!!!!」
手で押さえようとしない全力のくしゃみと同時に、散弾の如く彼のセメダインが槍状になって放たれた。
「うおォォおぉォォォォッっ!!?!?」
「避けてッ、ばっちいッ!!」
「あぶねッ!?!」
拡散されたセメダインは硬化の速度を本人が調整できる。床や壁に張り付いた瞬間、瞬時に固まり始めるセメダインを見て冷や汗を垂らす一同に、更に凡戸がくしゃみを続ける。
「クッ……!!」
「ヒャッハァァーーーーーッッ!!!!!」
変則的な動きで建造物を飛び交いながら、鎌切は爆豪の上を位置取ると、両手の指を交差させて手の平を爆豪に向けながら、更に腕から出せるだけ伸ばせるだけの刃を伸ばして、一気に振り抜いた。
「避けんじゃねえぜッ!!!!!」
「ッ!!!(爆撃で消せねえッ!)」
放たれた斬撃波の網が幾重にも重なり、周辺の建物を巻き込みながら爆豪と瀬呂、更に下の耳郎や砂藤に襲いかかった。
「ウオォォおぉォォォッっ!?!!!!!」
「マジかよッ!!!」
「砂藤逃げてッ!!!」
「ヤベっ!」
地鳴りの様な轟音と共に、周辺の建物を切断して切り崩す程の攻撃範囲を見せつけた鎌切だが、彼の斬撃波は味方である泡瀬と凡戸の足場も巻き込む。
「おらよっと!」
「ウェヒヒヒっ!」
しかし、その2人は足場を切断されても2人は余裕の表情で落下しながら、崩落する足場を泡瀬が溶接するなり蹴り付け、そこに凡戸も後を追って別の足場へと着地する。そして、すぐさま回収した瓦礫で足場を作りながら次の攻撃の準備を仕掛けるB組に、ブラドキングの実況が響き渡った。
『あ……圧倒的ィーーーッ!!! B組、鎌切 尖の実力に、あの爆豪が手も足も出せないィィーーーッ!!!!!!』
『偏向実況やめろーーーっ!!!』
『『『『『やめろーーーっ!!!』』』』』
『鎌切くんいいよーーーっ!!! お前がナンバーワンだよーーーっ!!!』
『切裂お前はどっちの味方だーーーーーッ!!!!』
混沌としたOZASHIKIスペースからの実況の声に、爆豪は瓦礫に巻き込まれる惨状だけは回避して形を保っている建造物の足場へと着地する。
(スピードはナマクラと同じ……いや、それ以上だ……ッ!)
切り傷の痕がついた体で顔を顰める爆豪に対し、必殺技を放った鎌切は足の裏から刃を突き伸ばして倒壊を逃れた建造物の壁に接着する。
「30秒は……経ったんだぜぇ?」
決して相手が見える状況ではなかったが、A組がこの程度で倒れないのを彼は切裂という生徒越しに感じ取っている。
砂埃の巻き上がって状況の窺えない工場エリアの下層部を眺めながら、鎌切は収納した刃から2本だけ残してシャキシャキと研ぎ合わせながら、口元の両側から伸びる牙を動かして煽る様に笑ってみせた。
「おいおい、やりすぎだぜ鎌切っ! さすがにヤバいってっ!!」
「これじゃあ、見えないねぇ〜」
泡瀬の心配する声と、凡戸の呑気な声が交差する中でも、鎌切は余裕の表情を見せていた。
(ナマクラの野郎……ッ!!!)
そう心の中で独白しながら、爆豪が煙の中から飛び出して鎌切に接敵する。
「ヒャッッハァーーーーーッッ!!!!!!」
対して鎌切は壁から高速で飛び上がりながら、足からも斬撃波を飛ばして爆豪を牽制する。その隙に泡瀬の足場で移動した凡戸が、セメダインを無差別にブチ撒ける得意技の『グルースコール』を発揮し、瓦礫の陰に隠れていた瀬呂、砂藤、耳郎達を捕えようとする。
「ヒヒッ……どおしたァ……? このままじゃ、切裂の記録だった1分も過ぎちまうぜぇ……?」
空中を舞いながら斬撃波を放つ鎌切が、余裕の表情で爆豪を煽る。このまま圧倒すれば彼を倒す事ができると、確信にも近い自信を持って彼を追い詰めていた。
それを見上げていた取蔭も、自分の作戦が成功した事を確信する。爆豪が倒れるか、凡戸達が瀬呂達を捕まえるか、どちらが先の勝負になるかと思っていた。
「ヤバいっ!」
それは凡戸のセメダインに塗れた瓦礫が、耳郎を背負う砂藤に向けて落下した時の声。もしも爆豪が彼等を見捨てれば、彼の実力ならまだ1分以内の勝利を掴めたハズだった。
だが、彼は既に速攻での勝利を手放していた。
「……知ったこっちゃねえ……!!!」
「あァ?」
彼の台詞に鎌切は一瞬だけ、攻撃を緩めた。
瞬間、彼の手の平から煌めいた汗が先程よりも激しく、輝かしく発光する爆破を起こし、耳郎の頭上に迫っていたセメダイン状の瓦礫を吹き飛ばすと同時に鎌切の目が眩んだ直後、爆豪の爆撃が彼の体を突き抜けた。
「グうゥゥっッ!?!!!?」
「決めてんだよ俺……勝負は必ず完全勝利……ッ! 4-0無傷。これが……本当に強えヤツの勝利だろ……ッ!!」
その言葉を聞いて目を輝かせたのは、ずっと彼という男を見続けてきた緑谷とオールマイトだった、
『ぐああぁァァァァァァァッ!!?! キャラを変えたというのかあァァァァァァァァッッ!!!!?!!?』
心底想定外だったのか、物間の悲鳴の様な叫び声がスピーカーの奥から響き渡る中、爆豪は鎌切を爆撃と軌道によって翻弄しながら呟く。
「それに……今ので動きは掴めた……ッ!」
「ッ!? ハッタリかましてんじゃ───
「オラァッッッ!!!!!!」
彼が答えるよりも早く、爆豪の手の平の汗から今まで以上に汗が煌めいて、爆ぜた。
「ッ!?!!?」
爆破の威力が強すぎて、目眩しも同時に起こす超速機動に鎌切は、彼を捉えられなかった。
期末試験での『斬撃波』 インターンでの『操血刃斬人』 そして緑谷の『浮遊』の一件。切裂に常に肝を抜かれ続けていた彼もまた、サプライズに爽快感を覚える人間となっていたのだ。
「『A・P・クラスター』ァッッ!!!!!!!」
瞬間、コマ撮りの様な超速機動で鎌切との距離を詰めた爆豪が、目を見開く彼に向かって両手の平を向けた。
「ッ!!?」
「バーストォッッ!!!!!!!!」
モニター越しでクラスメイト達が目を瞑る程の明光。次の瞬間にはもう、連続爆破の直撃を喰らった鎌切が空中に吹き飛ばされていた。
「クッっッ!?!!」
それでも鎌切は空中で体を捻らせるが、そこに爆豪の正確な爆撃が彼の死角から襲いかかる。
「クソッ!!?!」
「甘えッ!!!!」
完全に制御を備えた機動で鎌切を翻弄しながら、縦横無尽に爆撃を浴びせる彼の姿に、焦燥を覚えた取蔭が動いた。
「鎌切っ!!!」
両手を分離させて、せめて爆豪の軌道だけでも妨害しようとする彼女だったが、彼女の機動力は爆豪の世界よりも数歩以上も劣る。
止まって見えた彼女の腕を吹き飛ばし、爆豪は鎌切の体を捕らえて首元を掴むと、もう片方の手の爆破の勢いで乱回転しながら振り放った。
「『
爆破の威力によって底上げされた遠心力で、鎌切の体がブン投げられた。
工場の建造物を何棟もブチ抜く勢いで投げられ、爆風と同時に砂埃が高々と舞い上がった。
「ヤッベェッ!! 鎌切の援護に……ッ!」
「『グルー……うへぇッ!?!」
慌てた2人が鎌切を助けようと動き出そうとした時には、彼等の周囲に撒き散らされた凝固する汗が、一斉に爆発を起こす。
その威力はまばらだったが、重要なのは威力ではなく目眩し。その隙を見逃さなかった瀬呂はもう動き始めていた。
「いっッッけぇェェェッッ!!!!!」
瀬呂が砂藤をテープで掴み、人間砲弾の如く凡戸に向けて投げ飛ばしたのだ。
「シュガーラッシュッ!!!!! オラオラオラオラオラオラオラァァァァァァァァァッッッ!!!!!!!!」
「ぐへェェェェェェっッッ!!?!?!!!」
個性によって強化された右ストレートからの連撃に、足場から吹き飛ばされると同時に殴打の嵐を受けた凡戸が意識を飛ばされ、最後は砂藤に組み伏せられながら壁に激突する。
「凡戸ッ!!?」
弾丸の様な速度で凡戸を吹き飛ばしていった砂藤に、泡瀬は彼の体を掴む事などできなかった。それでも、姿だけは捉えていた彼はすぐ異変に気づいた。
(耳郎がいねえッ!?)
その思考が頭を通り過ぎた時、凡戸を砂藤が吹き飛ばしたのと同時に背中から飛び出し、溶接とセメダインの足場に着地した耳郎が耳たぶのジャックに装着した小型スピーカー2基を泡瀬へと向けていた。
「『ハートビートサラウンド』ッ!!!」
「ぐあぁァァあぁァあァァァァっッッ!?!!!!」
至近距離で放たれた超爆音を前に、咄嗟に展開したヒーローコスチュームの装甲板は意味を成さず、防ごうとした泡瀬は音によって意識を奪われた。
「しまっッ!?」
爆豪に気を取られた事で高度を下げてしまっていた取蔭が2人の連携を崩された事に気付いた時、砂藤に続いて動き出していた瀬呂が空中からテープを伸ばして彼女に飛びかかった。
「捕まえたァッ!!!」
「キャッ!? あ……ッ!!!」
咄嗟に体の残りを分離して逃れようとするも、瀬呂は全速力でテープを取蔭の体に巻きつけ。足掻こうとする彼女の逃げ道を完全に封じてテープのグルグル巻きにした。
一瞬で倒壊したB組の戦線にモニター越しの誰もが息を呑んでいた中、数秒後の大爆発と共に工場エリアの地面にめり込んだ鎌切が声を絞らせる。
「ぜゼェ……ッ……勝てると思ったんだぜぇ……!」
「ナメんな……ッ! ナマクラのパクりじゃ、俺は超せねえよ……!」
両腕の刃を叩き折られ、口元の牙を爆豪に押さえつけられていた鎌切は、それでも笑っていた。
「シャハハ……だよなぁ……!」
そんな彼を見て、最早勝負はついたと言わんばかりに彼から手を離して自陣地へと歩き始める爆豪に、鎌切は瓦礫を押し除け震える体で頭を上げながら、彼に告げる。
「お前も……アイツと出会って、変わったんだぜェ……!」
「変わんねえよ。今も昔も……俺が目指すのはオールマイトをも超える、ナンバーワンヒーローだからな……!」
そう彼が答えたのを聞いて、鎌切は意識を途切らせた。
気絶した彼の搬送を瀬呂に任せた爆豪は、振り返ることはなかった。
数秒後、試合終了を告げるブザーと共にブラドキング先生の動揺する声が響いた。
『し、試合終了ッ!!! 4-0の完全勝利だぁ……ッ!!!?!』
試合時間2分37秒。しかし、爆豪はその記録を一瞥だけして、喜ぶ仲間のもとへと歩くのであった。
・・・♡・・・♡・・・
試合を終えて戻ってきた爆豪達に、相澤先生は無言でサムズアップした。
「必要以上の損害も出さず、捕捉からの確保も迅速。機動力戦闘力に優れた爆豪を軸に、3人ともよく合わせた」
相澤先生の珍し過ぎる高評価に、耳郎と砂藤、瀬呂の3人は嬉しそうにしていた。それでも最初は本気で秒殺を狙っていた爆豪は、1人だけ悔しそうな声を漏らしていたが。
その向かい側ではブラドキング先生が、B組のクラスメイト達と同じぐらいテンションの低い様子で鎌切達に好評を行っていた。
「過去のデータと戦闘力の差を考えた堅実な手法だった……が、固めすぎて骨抜の様な柔軟さに欠けたぁ……!」
「みんなまでダサい事になっちゃって、ゴメン……」
「こっちこそスマねえぜぇ……勝てると思っちまった、考えが甘すぎたんだぜぇ……!」
「惜しいとは思ったんだけどねぇ〜」
「でもまあっ、今の全力は出せたっしょ! また頑張って行こうぜ!」
B組側も取蔭を慰める様に3人が盛り上げていたから、大きな心配は必要ないだろう。それにしても鎌切は惜しかった。爆豪が『クラスター』を完全に使える様にしていたなんて、俺も知らなかったし。アイツもコッソリ特訓していたな。
その辺の話は落ち着いてから聞いてみる事にして、先生達の講評も簡潔に終わって解放された爆豪に上鳴が駆け寄った。
「かっちゃん! オメえ、やりゃできるのなっ!!」
「誰目線だ、殺すぞッ!!!」
怒声で上鳴を追い払いながら爆豪はオールマイト先生の前まで移動して、ずっと目で追われていた彼からも称賛を受けていた。
「震えたよ……!」
「風邪でもひいてんじゃねえの……ッ!」
返事は素直じゃない素っ気ないものだったが、そのまま瀬呂達からも離れて歩き出す爆豪の表情は、普段の幾分かは柔らかかった。
そして彼は近寄ってきた緑谷を「どけカスッ!」と威嚇しながら、言葉を続けた。
「ハァ……クソデク、俺ァ先に進んでんぞ……! テメェには追いつけねえ速度でだッ」
「超えるよ……!」
「だったらテメェも証明するんだなッ、ナマクラや俺と同じ様に……ッ!」
「やってやるさ……見ててよ!」
それは遠回しに『4-0で勝て』と命令する爆豪だったが、緑谷の返事は明るかった。今の彼の実力なら、その期待にも応えられる。麗日や峰田、芦戸も一緒なら確実だ。
隣でオールマイト先生が駆け寄って賞賛してくるクラスメイト達を威嚇する爆豪を見て冷や汗を流していたが、その目は嬉しそうにしていた。
対して、B組側の取蔭達はブラドキング先生の講評が終わってから、トボトボと元気なく物間へと歩み寄っていた。
「物間、ごめんな……1勝2敗1分けで、もうB組勝てなくなっちゃった……」
「何を謝るんだい取蔭! 君は誰よりも頑張ったさ! あの爆発ヒステリックだった男が省みて、成長している。いい事さァ! 確かにB組の勝利は消えたが、まだ負けてない! 僕はね、わかってほしいだけさ! なんのトラブルも起こさない真面目な者と、悪目立ちして不相応な注目を浴びる者。どちらが正しいのか?」
まだ文化祭の演劇の癖が抜けきっていないのか、物間は舞台で演じる役者の様に手を広げてクルクルと回転しながら、取蔭達を慰めていた。
「誰もが他人の人生の脇役であり……自分の人生の主役なんだ!!!」
その台詞に、この場に立っている自分の心に、チクリと何かが突き刺さった。
そのまま彼は自分の胸に手を当てて、執事の様な仕草で彼女に告げる。至極真面目な、轟にも劣らない程のイケメンフェイスで。
「それに……トリには僕がいる。緑谷くんに峰田くん……強敵揃いのチームだが、彼等を打ち破る事で劇的な勝利をお見せしようじゃないか。A組みんなが負けたと感じるほどにねェッ!!!」
「で……どうする?」
「『で』って言うなよ!」
最後の最後で彼のすぐ隣にいた柳にコシを折られて、物間は一緒にいた庄田や小大、心操と作戦会議を始めていた。
その少し離れた所では、先生達が集まって心操の様子を眺めながら話をしていた。
「最終、第5試合……」
「心操君、どうですかね?」
「ヒーロー科編入の可否を見極める下準備。第1試合では十分な活躍を見せたが、また同じ手が通用するかどうか……」
「そうだな……」
「A組も強力なチーム、頑張ってほしいですね」
教師達が心操について話をしているのは、なんとなくわかった。第1試合はだいぶ混沌としていたが、彼はしっかり最後まで生き残っている。この調子でいけば、問題なくヒーロー科への編入が決まるだろう。
だが、心残りなのは次の試合の緑谷。数日前に寮の窓ガラスを割ったのは目撃していたが、本人にも個性に何が起こったのかわかっていない。
もしも、彼が史実と同じ事になったら、心操ではなく麗日が頑張らなくてはならないのだから。
そこまで不安事項を抱えながら、万が一には自分がフィールドに飛び込んで彼を止めようかと考えていると、今までずっと誰とも話す事なく静かに観戦していた心操が、話を続けている相澤先生達に近づいて声をかけた。
「すみません、相澤先生……ワガママを言ってもいいですか?」
「ん……どうした?」
突然の相談。しかも『ワガママ』と自ら言ってくる彼の要望に、先生は少し驚きながらも返事をした。
「……俺がヒーローを目指して、ココまで来れたのは……切裂のお陰なんです」
「……ぅお?」
突然の発言に俺や相澤先生のみならず、話を聞き取ったクラスの誰もが目を見開いて俺と心操を見た。
「元々、ヴィランっぽいと言われ続けてきた個性だけども……それでもヒーローを憧れて、俺はココまで来ました」
心操は周りの視線にも構わず、話を続けた。
「でも、憧れだけでヒーローを目指していたばかりで、それからどうするのか……どんなヒーローになりたいのか、ずっと止まっていました……」
彼の視線が相澤先生や教師達を真っ直ぐに捉える。
「今の俺には『その先』があります……! 自分と同じ様に個性に苦しむ人に、平和の象徴とはまた違う象徴となりたいんです……!」
相澤先生を見ていた彼の視線が、俺にズレた。
「それを見せてくれたのは、アイツです……」
捕縛布を掴む手を握りしめた。
「だから、俺は今ココでアイツと……同じ『その先』を持った切裂 刃と対等に戦いたい……!」
そう話す心操の瞳は今までにないぐらい、決意の炎に燃えている気がした。
「………………」
彼の目の前にいる相澤先生は面食らってる。たぶん、今まで弱音とか一切吐かなかったんだと思う。完全に言葉に迷っていた先生が心操に返事をするよりも早く、動き始める者がいた。
「ちょっッとーーーっッ!!! イイじゃないイレイザーっ!!!! この青々しさ、今この瞬間だけじゃないのーーーーーっッ!!!!!」
とうとう我慢の限界を超えたミッドナイト先生が、彼との話の間に割り込んできたのだ。クネクネクネクネと気持ちの悪い動きで相澤先生ににじり寄ってくる。
「まぁ、1回戦で心操くんも慣れたみたいだし、特別に大目に見ましょう。イレイザー!」
心操の熱意に押されたのか機嫌の良くなったブラドキング先生まで味方につけられ、相澤先生はため息を吐いた。もしかしたら俺が操血刃で戦うのを、もっと見たいのかもしれない。
「………………」
ただ、オールマイト先生だけは何も言わずに、他の先生達が話し合う様子を眺めているだけだった。性格的に嬉しそうに混ざってきそうな雰囲気があったのだが、俺の方を一瞥してからはずっと黙ったままだ。
味方がいない事に、相澤先生は頭を押さえながら俺の方へと振り向いた。
「ハァ……これ以上口論しても非合理的だ。切裂、もう1回行け。できるな?」
「は、はい!」
俺の動揺した返事に、捕縛布で隠れた口元越しに心操が笑った気がした。
そんなワケで第5試合。
【第5試合】
A組:芦戸・麗日・峰田・緑谷+俺
B組:小大・庄田・物間・柳+心操
5対5になった。物間は「コレで対等になった」とヘラヘラ笑ってるが、一緒にいる小大、庄田、柳の3人はかなり緊張しているのが見て取れる。そりゃあ、あんな一方的だった試合見せつけられたら、警戒するに決まっていた。
しかも、5人中4人がインターン経験者かつ、俺、緑谷、峰田は体育祭やその他の事件でこれでもかと実力を披露している者達だ。A組側に多少のハンデがあっても、おかしくない戦力比だった。
「コレで対等になったねェッ! A組の集大成とも言える君達を叩き潰せば、僕達B組の───
「物間っ! いいからこっちに来て……!」
「んっ!」
「トンだ貧乏くじ……ウラめしい……」
喋っていた最中に庄田から力強く首元を引っ張られた物間は、そのまま彼に引きずられてフィールドへと移動しながらチームで作戦の立て直しを始めていた。
対して俺達A組は、5人で横一列に並んで自陣地の檻を目指して歩きながら、だいぶ和気藹々としていた。
「ゴメン緑谷くんっ! 特別参戦しちゃった!」
「ううんっ、いいよ切裂くんっ! むしろ、君が入ってくれてちょっと助かったんだ!!」
「切裂がいないとオイラ達のチーム、緑谷しか火力出せるヤツいなかったからな! マジで助かったぜ!!」
緑谷と峰田は普段通りの元気の良い様子で俺を迎え入れながら、作戦の内容に華を咲かせていた。
そんな中、2人と話し合う俺が視線を逸らすと、その輪っかの中で俺を見ていた芦戸と、ハッキリ目が合った。
「ヤイバ……!」
「芦戸ちゃん……!」
文化祭で色々あってから、少し彼女との距離は遠のいた。
気まずい時は多々あるけども、俺と彼女はこれからもクラスメイトとしての道を一緒に歩んでいけるだろう。
彼女は両手を握りしめて、俺に屈託のない笑顔を向けてくれた。
「……頑張ろうっ!」
「あぁ!」
お互い少しぎこちない言葉だったかもしれないけど、充分だった。
俺と彼女の関係は、コレでいいのだ。
緑谷と峰田が不思議そうな顔を向けていたが、いつか俺と彼女との関係を知る事になるのか。
いつかそんな話ができるようになればいいと、思っていた。
ただ、芦戸よりも心配なぐらい、少し普段と雰囲気が違う者がいた。
それは俺達と一緒にフィールドの自陣地へと歩く、もう1人の女子のクラスメイト。
「………………」
俺が緑谷達に合流してからずっと、麗日が視線を落としたまま暗い表情をしていた。
「……麗日ちゃん?」
「あッ、ううんッ! なっ、何でもないよ!?」
俺が呼びかけると、彼女は取り繕った様な動きで話を合わせようとしてくる。
緑谷と一緒の時は普段以上の明るい表情をしているから、何か個人的な問題でもあったのかと思った。
「? まだ何も言ってねえだろ?」
「麗日さん、考え事?」
「あっ! 違うのッ、ゴメンねっ!」
峰田と緑谷が疑問の表情を向けるが、麗日は話をはぐらかしてしまった。
彼女の意思も不明なまま、少し早めに自陣地へと到着した俺達は、そのまま第5試合の準備に入る。各人、軽く準備運動をして個性の調子を確かめながら、作戦の話題を振り返った。
「やっぱ危険度で言ったら物間と心操かなー? 特に物間っ!」
「心操くんの『洗脳』をコピーしてくる可能性もあるし……裏を突いてコケ脅してくる可能性もあるけど、まあ持っていると思った方がいいかも」
背伸びをして柔軟運動を繰り返す芦戸に、俺は籠手と脛当てから操血刃を軽く伸ばしながら答える。
さて……いざ戦うと思って考えると、相手は曲者揃い。洗脳されたら終了の心操、洗脳の個性をコピーしている可能性が大いにある上、それ以外にあと2つ個性を持っている物間。
物のサイズを変える小大と、物を浮かす事ができる柳、そして衝撃を加えた箇所に追加で衝撃波を叩き込む事ができる庄田は、噛み合わせが完璧と言えるだろう。物間と心操を捌きながら、3人のコンビネーションをどれだけ早く崩せるかが勝負だ。
「向こうは遠距離攻撃が揃ってるから……なんとかして近づかないと……」
「そしたら物間と心操が妨害してくるに決まってるよねー!」
「でも、心操くんは俺を見つけたら挑んでくると思う」
「確かに、あんな啖呵まで切ったら切裂にタイマン仕掛けないワケにはいかねえもんなっ!」
ヒーローコスチュームのバイザーを持って物思いに耽っていた麗日に、モギモギ6個でジャグリングを続ける峰田も考えている事を答えた。
「心操対策どーしよっか? 語尾になんかつける? もしくはあえて会話しないとか……」
「話す時は、お互いの口元を見るのと……返事は出来る限りうなずくか横に振るか……だね。テキトーな返事はしない方がいいよ」
さっきと違って八百万のインカムは置いてきたから、心操の声は分別できない。第1試合のB組の様にコミュニケーションが分断される可能性が大いに高い。
「向こうをオイラ達の見える所に引き摺り出すためにも……」
「囮役が必要だねっ!」
峰田の言葉に、それまで自陣地の檻が設置された周囲の建造物を飛び跳ねていた緑谷が答えた。立体機動でフルカウルの調子を確かめていた彼は、見ている限りは不調がない事を確認してから三点着地で俺達の前に降りてきた。
「物間の対策はどーする?」
「個性を使い始めてから5分間のタイムリミットがあるけど、その間は使いたい放題だもんな……どーするよ緑谷?」
ジャグリングを止めて腕を組んでいる峰田に言われた緑谷は、顎に手を当てて作戦について考え始めた。
「そうだね……お互いの個性や実力はある程度判断できていると言っていいから一番注意するべきは物間くん。僕が相対すれば他の個性がよっぽどじゃなければ相手の攻撃は避け切る自信はあるし峰田くんでも回避は問題ないと思う……ただ僕と峰田くんが一緒に動きすぎると麗日さんと芦戸さんが狙われるかもしれない。そこに切裂くんを配置するという手段もありだけどあの血の刃の動きを守りに回すのはもったいない。逃げるだけなら麗日さんの無重力で芦戸さん含めて空に逃げる手段もあるし2人はペアで動いてもらった方がいいかも。で僕が先行して牽制兼囮役。峰田くんがその間を繋いで相手を見つけたらモギモギで支援で切裂くんは奇襲役としてこの3人でアタッカーとしよう。麗日さんと芦戸さんは一歩引いた位置から逆に相手側が僕達に奇襲を仕掛けてないかを探ってもらいながら見つけたら合図を出して迎撃してもらう役目をしてもらうと助かるな。あとできれば切裂くんは心操くんを見つけたらそっちで対処してほしい。心操くんと切裂くんのタイマンなら絶対に君が勝つから、その際は絶対に喋らないようにすれば洗脳を防げて、実力差で押し切る事ができるハズ……その時は心操くんの援護に他のB組のメンバーが行けないように僕達が切裂くんの周りを援護する形で…………ブツブツブツブツ」
俺は喋り続ける緑谷の肩を叩いて止めた。
「全部喋ってたぞ」
「オッケー! 私と麗日は援護だねっ!」
「向こうの隙があったら、ワイヤーやエアブースターで近づいて、無重力化狙ってくね!」
「オイラも庄田辺りを狙って、飛び回ってみるぜ!」
「俺が心操くんを優先的に捜索、奇襲しつつ他にも隙があれば狙う。緑谷くんが先行して囮、峰田くんが間を繋ぐ支援役……で、いいよね?」
「あ、うん! ひとまずそれで!!」
ダダ漏れだった緑谷の作戦は、俺達にはバッチリ伝わった。彼が囮で峰田が後ろで遠距離支援、兼奇襲。芦戸と麗日は俺達を後ろで確認して、奇襲がないかチェック。俺も先行して全体の状況を見ながら心操の足止め。可能なら、そのままとっ捕まえる。あとは状況判断に任せた。
俺は心操の声を無視できる。不意な声で返事をしないように心がければいい。それより第1回戦で彼の捕縛布の動きを見て、フィジカルを警戒した方がいいだろう。
俺達の作戦立案が完了。同時に近くのスピーカーから、ブラドキング先生のアナウンスが響く。
『それでは対抗戦、第5試合ッ!!! 本日最後の試合だ! 準備はいいかッ!!? 最後まで気を抜かずに頑張れよッ!!!! いざ、スタートだぁァァァァッッ!!!!!』
ブラドキング先生のテンションの上がり過ぎた声が聞こえたと同時に、俺達は示された作戦の下動き始める。
期待と不安の入り混じった、最後の試合が始まった。
・・・♡・・・♡・・・
スタートの合図と同時に俺と緑谷、峰田はそれぞれの方向へと飛び出し、バラバラになる。
後方からは芦戸と麗日が少し距離を離して追従し、周囲を警戒している。
俺は操血刃を伸ばして工場の建造物を飛び抜けていきながら、心操を探す。わざと大きく、音が鳴る様に跳ねる事で注目を集めるのと、俺の事を警戒している庄田達を牽制する役目もあった。
数秒もしない内に物間達の陣地まで殴り込める距離まで近づいた途端、向こうからの攻撃が仕掛けられる。
「っ!」
大きさのバラバラなナットやボルト、それにドラム缶などが好き勝手に浮遊しながら、俺を狙って突進をかましてきたのだ。
『柳 レイ子』の個性『ポルターガイスト』の能力で物を浮かせて、『小大 唯』の個性『サイズ』で物の大きさを小さくして、攻撃する時のみ巨大化させて隠密性と攻撃範囲の増加を同時に行い、足りない火力は『庄田 二連撃』の個性『ツインインパクト』で破壊力を押し上げていた。
「ふんッ!!!!」
操血刃を伸ばしてのナットやボルトの軌道を逸らし、斬撃派でドラム缶や鉄骨を叩き落としながら、俺は周囲を見回す。姿は見えないが、サイズの変わったタイミングが良かったから近くにいるだろうと確信してゴーグルの熱源暗視装置を起動させると、3人で固まっている熱源を見つけた。
すぐさまそっちに操血刃を伸ばして、飛び回ってくる瓦礫を避けながら建造物を跳ね上がって大きく跳躍すると、その見下ろした先に3人が隠れていた。
「来たッ!」
「柳っ!!」
「んっ!」
向こうもすぐ気がついたか、柳が浮かせた3枚の鉄板にそれぞれが飛び乗って逃走を始める。彼女の浮かせる重量物は人1人程度が限界だったハズだが、浮かせた物の上に乗るのはカウントされないみたいだ。
しかし、スピードは中々だったが俺の操血刃の速度には追いつけない。立体交差を移動しながら徐々に距離が詰められていく最中、不意に伸ばしていた操血刃が捕縛布に絡め取られた。
「うおッ!!?」
「かかったッ!」
続け様に俺の足へと捕縛布を絡ませた心操が、空中でバランスを崩した俺に頭上から飛び掛かる。最初から庄田達がバレるのを前提にして、誘き寄せられる形を取られていたみたいだ。
しかし、バレただけじゃ俺は止められない。すぐさま別の箇所から数本もの操血刃が心操に向かって伸び広がり、彼は空中で体を捻らせて回避する。
「クッっ!!」
その瞬間緩んだ捕縛布を足からほどき、飛び上がった時には俺の操血刃を蹴り付けて駆ける心操が、捕縛布を操血刃に絡めた立体機動で俺に死角からドロップキックをかましてきた。
「うおッ!!?」
硬化した体で防いだが、衝撃でよろめいた俺に向かってすぐに心操は捕縛布を巻き付けようとする。
操血刃と腕の刃で切り払おうとしたが、全身を刃にして滑らせても、防刃性能のある捕縛布は切れようともしない。コレを普通に切るには相澤先生が持っている、特別製のナイフが必要だ。俺の砥石で研いだだけの自前じゃ、対処できない。
「クッ!!」
「ずっと……お前と戦えるのを待ち望んでた……ッ!」
洗脳を仕掛けようとしているのか、捕縛布を伸ばして建造物を飛び回り、攻撃を続けながら俺に語りかけてくる心操。勿論返事をする事はない。
操血刃を引っ込めて捕縛布を逃れ、再び展開しながら心操を捕えようとするも、彼は建造物の隙間に滑り込んで突き刺さる刃を避ける。
「這い上がって……新しくなった俺の実力をッ、ここで見せるッ!!」
再び死角から捕縛布を伸ばして接近してくる心操に、俺は彼を捌きながらも冷静に思考を回す。彼の不意を突くチャンスは1回しかないし、まだ物間をどこにも見ていない。
「ッ!?」
遠くで戦闘の音が聞こえる。体制を立て直した庄田達が緑谷達に攻撃を仕掛けたんだ。
「よそ見かよッ!!!」
一瞬の隙も逃すつもりのない彼は、すぐさま捕縛布を放って俺の体を絡め取ろうとした。
その放った捕縛布を操血刃で弾きながら、心操に向かって伸ばすもその切先が彼を捕える事はできない。
元々、捕縛布が心操の戦い方に合っているのだろう。ここまでサマになる使い方をされれば、教えた相澤先生も嬉しいだろう。その脅威は今、俺達に降り注いでいるワケだが。
「斬撃波ッ!!!!!」
「くっッソッ!!!!」
でも、それだけじゃ俺は止められない。両腕と両足から放たれた斬撃波が建造物を巻き込みながら心操に飛来し、彼は切り刻まれる瓦礫を避けながらも俺から距離を離していく。
さっきゴーグルで周囲を見渡したが、心操の他にもう1人の脅威である物間はいなかった。もしかしなくても緑谷を捉えたのだろう。
峰田が援護できる位置にいるから、1対1になるとは思えない。同時に奇襲を仕掛けてくるのが柳、庄田、小大だとしても、峰田さえいれば対処が効く。
今はとにかく心操の動きを止めて先に檻にブチこむこと。それでA組の勝機はぐんと増える。
「待てぇェッ!!!」
「そうだッ、それでいいッ!!!!」
元々、俺を乗り越えるつもりで臨んできたのなら『刃』の対策を考えていないハズがない。操血刃は想定外かもしれないが、彼はそれで滅入る様な性格じゃない。
操血刃を伸ばして心操を捕まえようとしても、俺よりもずっと前から捕縛布で立体機動を鍛えていた彼には、僅かに届かない。
かと言って、心操には遠距離攻撃は存在しない。時折り俺が放つ斬撃波を切断されない捕縛布で防ぎながらも、彼の額に焦燥の汗が流れる。
このままじゃ拮抗状態だ。何か致命打になる一撃が必要。そう考えた時だった。
「逃げてっッッッッ!!!!!!!!!!!」
緑谷の声で大きく、恐怖と怒りに任せた様な叫び声が、遠くから聞こえた。
「ッ!!?」
そして同時に心操も俺の背後を見た瞬間に捕縛布の動きを止めて、地面に着地しながら何か驚いた様な顔で遠く方へと目を凝らしていた。
彼との戦いを放棄した俺は操血刃で建造物から飛び上がり自陣地側の方向を見た時、そこに見えた。
工場地帯から空中へと浮かび上がった緑谷が、腕から無差別に黒い操血刃の様なエネルギー体をブチ撒けながら、暴れ狂っている様子を。
『浮遊』を使える様になっていたのだから、次の能力を使いこなせると思っていた事が、甘すぎる希望的観測だったと思い知らされた。
「おい……緑谷とかいうヤツ……なんだよアレ……!」
緑谷の事を初めて意識した心操は、彼の様子を見て異常だと思うなり俺に問いかけてくる。そこに個性を使っている様な雰囲気は感じられなかった。
「心操くん、下がっててッ!!!」
「あっ!? オイ待てッ!!!」
そうひと言だけ返して、着地するなり操血刃で飛び上がって暴走する緑谷へと接近する俺に、心操が後を追ってきた。
説明している時間はない。緑谷を大人しくさせるのが最優先だが、カギとなる心操が使えない事は考えなくてもわかっていた。
だとしたら俺が実力で止めるしかないか、そう考えながら緑谷の紐状のエネルギーを避けて彼に近づいた時、舞い上がる爆風の中から峰田が飛び出す。
「切裂っ!! なんだよ緑谷のアレぇッ!!!!」
「暴走だッ! 芦戸ちゃんと麗日ちゃんを下げてッ!!!」
そのまま俺は峰田の返事も待たず、操血刃を勢い良く伸ばして跳ね上がり、黒い紐を刃で弾きながら彼のすぐ近くまで突貫したその時、俺よりも早く彼の下に到達している者が現れた。
「麗日ちゃんっ!!!!!!」
黒と緑のエネルギーを放出しながら暴れ回る緑谷に、麗日が腕のワイヤーとエアブースターを使って決断的に飛び込み、その体を抱き締めて捕まえたのが見えた。
「デクくんっ!!!! 落ちつけェッ!!!!!!!!」
喉を掠れさせる程の力強い声で叫ぶ麗日だが、彼の暴走は止まらない。ガントレットの付いた腕から無尽蔵に放たれる黒い紐は、彼女のバイザー付きのヘルメットを削って、そのまま顔から弾き飛ばした。
「止めッ……られ、ないッッ!!!!!!!!」
苦しそうに声を掠らせる緑谷に、それでも彼女は緑谷を抱きしめ続けていたが、暴走は治るどころか激しくなっていく。
建造物を薙ぎ倒し、慌てながら逃げる庄田達も見えた中、放出するエネルギーの威力に彼と一緒になって振り回されている彼女を追っていた俺と、不意に目が合った。
「切裂くんッ!!!!! デクくんを止めてェッッ!!!!!!!」
彼女の叫びに、操血刃で飛び上がっていた俺は思わず言葉を詰まらせる。
振り返ると心操は俺を追いかけて捕縛布で移動しながらも、暴走する緑谷を呆然としながら見ている。
緑谷とほぼ接点の無い心操には、彼を止められない。
残る人間で彼に1番大きな接点があるのは……彼女しかいない!
「違う麗日ァッッ!!!!!!!!」
「ッ!!!?」
俺は彼女の言葉を否定して、操血刃で2人を追いかけながら叫び続けた。
「緑谷を絶対に離すんじゃねェェェェェェェェッッッッ!!!!! お前にしか止められないッッ!!!!!!!!!!!」
「わッっ……私……ッッ!?!!!!!」
俺は戸惑う彼女に、躊躇いなくその背中を押した。
ヒーローが辛い時、彼女がその隣に並べるヒーローである事を願って。
「緑谷を止められるヒーローは…………ッ、お前だけだァァァァァァァァッッッッ!!!!!!!!」
その直後に黒い鞭が俺の方へと靡いて、咄嗟に操血刃で弾き返したが、あまりの衝撃で俺も弾き飛ばされる。
「危ねぇッ!!!」
そこに心操が伸ばした捕縛布が体に絡まり、俺はそのまま別の足場へと導かれる様に解放される。
ギリギリまで近づけたのに、距離は離された。
それでも彼女ならやってくれると、俺は後を追って操血刃を伸ばして飛び出す。
「デクくんッっ!!!!」
「ぐぅゥぅぅゥッ!!!!!!」
麗日が彼を呼んだ気がしたが、それでも彼は止まらない。黒いエネルギーは更に激しさを増して、俺にも心操にも追いかけられなくなっていく。
「デクくんッっッ!!!!!!」
それでも諦めずに叫んでいた、遠くに見える彼女の口元が……
不意に小さく動いた。
「……………………──────っ!」
「……え?」
轟音と暴風に飲まれて、彼女の声は聞こえなかった。
けれども……
「と、止まった……!!?」
隣の心操が呟く通り、緑谷から放たれていた黒いエネルギー体は彼の中へと吸い込まれて、最初からいなかった様に消えた。
「デクくん……!」
目を開いた麗日が彼と顔を合わせる。緑谷の顔からは、先程からの辛さも苦しさも解放されていたが、いつの間にか気を失っていたのか彼の惚けていた顔から急速に意識が宿る。
え……じゃあ……
なん……なんて言った?
「う、麗日さん……あっ、離れてッ、危ないよ!!」
「大丈夫。デクくん、なんともない?」
浮かび続けながら、彼女の目の前で慌てふためく緑谷に対して、麗日は優しい声で彼を落ち着かせようとする。
「ハッ、麗日さん……! 傷が……っ!」
彼女と顔を合わせた緑谷は、その頬に自分の黒いエネルギーでつけられた傷がある事に気付く。バイザーがあったから直撃は防いだだろうが、全ては受けきれなかったみたいだ。
「あぁ……なんてことを……!」
「私は大丈夫……ちょっと掠っただけだから……!」
悲壮感でワナワナと震わせる緑谷の両手を、彼女は自然に握った。
「デクくん……無事で良かった……!」
「う、麗日さん……!」
制御できていなかったエネルギーの放たれる手を、優しく掴まれた緑谷の声が上擦る。彼の仄かに染まった頬と、彼を優しく見つめる彼女の頬と、色が同じに見えた。
だが、そんな空気に亀裂を入れる不届き者が現れた。
「まだ終わってな───ブヘェッッッ!!?!?」
せっかく良い感じの雰囲気になっていた2人の仲を裂こうと、緑谷の背後から不意打ちで襲い掛かろうとしていた物間を、俺は操血刃で跳ね上がって頭から踏んづけて止めた。
「「………………」」
一瞬だけ緊張が走るも、すぐに沈静化した珍事にキョトンとした表情で俺を見てくる2人。それに対して俺は地面に顔面をめり込ませる彼が気絶したのを確認すると、ヒラヒラと手の平を振りながらクールに去ろうとする。
「あぁ…………お気になさらず……続けて?」
チラリと端っこを見れば「俺達は何を見せられているんだ」と言いたそうにジト目で2人を見る峰田に、後ろで芦戸が金色の瞳をキラキラさせながら何かを期待する様に足をバタバタしながら観察している。心操と庄田も「自分はココに存在しません」と言わんばかりに体ごと目を逸らしてるし、柳と小大も物陰に隠れながら口元に手を当てて、2人の様子を見守っている。
いったいあの瞬間に何があったのかはわからんが、お膳立ては整えられている。俺は2人の想いのままに、全てを任せようとした。
「……///」
「……///」
あ、ダメだコレ。クソナード2名じゃキリがないや。
互いに顔を真っ赤にしたまま動かなくなってしまった2人を諦め、俺は天を見上げて叫んだ。
「先生スンマセーーーーーーンッッッ!!!!! 仕切り直しでお願いしまーーーーーーーすッッッッ!!!!!!」
次回『対抗戦終了』
ウチの爆豪のアダ名集 PART 2
泡瀬 『溶接野郎』
回原 『クソドリル』
鎌切 『クソカマキリ』
黒色 『影』
拳藤 『コブシ女』(最初は『男女』だったが、本人にブン殴られて改名した)
小大 『サイズ女』
小森 『キノコ女』
塩崎 『ツタ髪』
宍田 『犬』
庄田 『樽』
角取 『馬』
円場 『空気野郎』
鉄哲 『鉄クズ』
取蔭 『トカゲ女』
吹出 『ワイプ野郎』
骨抜 『歯茎』
凡戸 『蓋』
物間 『ダサ刈り』
柳 『貞子』
鱗 『エセ野朗』
心操 『隈』