切裂ヤイバの献身   作:monmo

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第四十六話

 

 

 

 

 

 この世界で『超常』が起きて大きな混乱の後、人々が平和を望み超常との共存を図り始めた頃。『個性』と呼ばれる前の『異能』を持つ者達の間で1つの思想が流行した。

 

 

 

 

 

『抑圧ではなく、解放を。異能の自由行使は人間として当然の権利である』

 

 

 

 

 

 それを提唱した男の名は『四ツ橋(よつばし) 主税(ちから)』 茶褐色の髪に目元が黒い斑点に染まっている特異な肌をした彼は、自らを『現在を壊す者(デストロ)』と称した。

 

 デストロは解放主義者をまとめ上げ、『異能解放軍』を結成。国と対立するも数年の拮抗の末、敗北。構成員の多くが捕らえられ、解放軍は解体された……ハズだった。

 

 デストロは獄中での執筆活動の後に自決したが、彼に子供がいた事は本人も知らない。

 構成員の残党によって守られながら、彼の意思を継いだ息子『四ツ橋(よつばし) 力也(りきや)』こと『リ・デストロ』は秘密裏に事を進めていたのだ。

 個性を持つ者の生活のサポートを目的として製品の開発に勤しむ企業『デトネラット社』を1代にして大企業へと成長させた彼は、構成員を各企業連に派遣させて解放思想とその勢力を拡大。裏では非正規でサポートアイテムをヴィランに横流しし、開発データの蓄積と解放活動の推進に努めてきた。それだけでなく、デストロが獄中で執筆した本を布教するための出版企業や、SNSで世論を操作するためのIT企業まで解放思想の傘下に入れるなど、11万人以上という構成員を抱える彼等は自らが望む国を創り上げるべく、その機会を窺っていた。

 そして今、平和の象徴たるオールマイトの引退と同時に、歴史の陰で暗躍し続けたオール・フォー・ワンの逮捕。国を大きく揺るがす事件が起こった彼等は、今こそ自分達の存在を再び知らしめる時が来たと確信していた。

 非正規サポートアイテムで強化されたヴィランの暴動で大衆に不安を齎し、SNSで現状をヒーローだけでは打破できないと煽る。更には経典で自衛のためとして個性を使う事を扇動し、国全体に混乱が巻き起こったところで解放思想の息のかかった者により、政界に進出。既存の枠を壊して再建し、国の実権を我が物にしようという策略だった。

 まさに国の乗っ取りを画策する彼等は、今まさに決起のために動き出そうとしていた所を、挫かれてしまっていた。

 

 その邪魔な障害になったのが何を隠そう、オール・フォー・ワンの意志を継いでしまった死柄木の率いる『敵連合』であった。

 国の乗っ取りを画策する解放軍に、チンピラ同然ながら名を挙げてしまった存在が、彼等には目的を達成するための邪魔でしかなかったのだ。

 

 リ・デストロは手始めに連合のブローカーだった『義燗』を人質に取り、彼の顧客名簿を辿って死柄木に直接連絡。衛星から電話の発信源を探知し、連合の逃げ場を封じた。

 彼等が義燗を助けに来ると確信していたリ・デストロは自らの手で連合を潰し、解放軍再臨の狼煙にするつもりだったのだ。

 

 一方で死柄木達は史実通りギガントマキアを屈服させるべく、日夜戦闘を継続していた真っ定中。状況を察した死柄木はマキアを解放軍にぶつけるべく、すぐさま動き始めていた。

 

 愛知県『泥花(でいか)市』 個性の自由を謳う『異能解放軍』の本拠地である地方街。雄英高校でクラス対抗戦が行われていた、その日。ヒーローを志す卵達が切磋琢磨し合う彼方、ヴィラン達の面子を賭けた潰し合いが行われていた。

 

 此処に今『再臨祭』が行われようとしていたのだ。

 

 義燗を助け出すべく、泥花市を訪れた連合の構成員は、ご挨拶と言わんばかりの解放戦士達との洗礼を浴びて散り散りとなり、市街は混戦の様相を表し始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぎゃァぁあ゛ぁぁアァぁァァァァァァァッッッっッ!!!!!!」

 

 女の甲高い悲鳴が住宅街の中から響き渡り、鮮血がブロック塀からアスファルトに叩きつけられる。それは排水路まで広がっていくと同時に、青い肌をした爪の長い指が転がった。

 

 

 

 『気月(きづき) 置歳(ちとせ)』 解放コード『キュリオス』

 

 

 

 異能解放軍の幹部であり、紅一点。解放軍広報担当。

 表向きの職業は大手出版社『集瑛社』専務。彼等が布教する経典『異能解放戦線』の出版元である。

 

 そんな彼女は敵連合の中でも、連続通り魔事件の犯人である『渡我 被身子』に狙いをつけていた。

 『ただの女子高生がなぜ狂気に至ったか?』という超人社会の闇を代表し得る彼女に『少女の凶行と、そのワケ』を探り尽くし、『生前に語られていた衝撃のインタビュー』として、個性によって人生を狂わされた悲劇の少女として彼女を殺し、異能解放軍のプロパガンダとして祭り上げようとしていたのだ。

 

 だが、彼女は見誤った。

 

 

 

 

 

 目の前にいるトガヒミコは、イレギュラーである『切裂 刃』との出会いによって、その思想も力量も、全てが様変わりしていたのだ。

 

 

 

 

 

 自分の性癖を受け入れ、その身を差し出してくれた彼と触れ合い、敵連合への執着や個性社会への怨嗟は、彼との愛に塗り潰されていった。

 

 個性とは可能性。彼がいつも口癖で言っていたその言葉を、彼女は信じ続けていた。個性を使い続ける事が強くなる鍵であると知っていた彼もまた、彼女の個性を優しく受け入れた。

 

 自身を受け入れてくれた彼女は、本人に命されたわけでもなく、自身に合う個性強化の訓練を実行していた。

 

 様々な血を試した。

 

 生き残るため、大好きな人と再会するため、ヒーローヴィラン民間人問わず人を襲い、血を頂いた。彼女が個性をコピーできるようになるまで、大して時間は掛からなかった。

 

 敵連合に参加してからは、構成員から血を分けてもらった。初めは拒否された死柄木 弔や黒霧の血ですら、少しだけだが貰えるだけの関係を築いた。

 

「フンッ!!!!!」

 

 両手の爪を刃にしたトガに全身丸ごと引っ掻かれたキュリオスは、殴り倒された様に地面をゴロゴロと転がった。高級ブランドのドレススーツが引き裂け、頭を打ちつけながらも立ちあがろうとしたが、彼女の片足は崩壊を起こしており、倒れた勢いでそのままボキリと折れた。

 

「い゛ィィいイ゛ぃィィィィィィッッっッ!!!!?!?!!」

 

「キュリオス様ァァァァァッッッ!!!!!」

 

 初手の一撃でキュリオスを守る人の壁を粉砕されていた解放戦士達は、嬲られていく彼女を必死に取り戻すべくトガへと四方八方から襲いかかる。

 

「死ねェェェェ化け物女めェェェェェッッッ!!!!」

 

「うおぉぉォォォォォォっッッッ!!!!!!」

 

「っ!」

 

 強化させたのは個性と身体だけではない。度々連合に顔を出していた義燗に頼んで、サポートアイテムの改良も自ら進んで行った。

 両手には伸縮する注射針が四指と手首に設置されたガントレットを装着し、その管は服の下を通して口元のガスマスクへと繋がっている。腰回りには戦闘の第一線で使用する血のカプセルが並んでおり、こちらも服の裏を通る管がマスクへと繋がっている。管を使いたいカプセルに差し込めば、その血がすぐ飲めるようになっていた。なけなしの資金で買ったダッフルコートの裏側には、今まで溜め込んだ血のカプセルや輸血パックがこれでもかと仕込まれていたのだ。

 

「ジャマを……しないでくださいッ!!!」

 

 すっかり勢いのなくなっていた解放戦士達の攻撃がトガへと迫るが、ソレを睨みつける彼女の身体が金属の如く硬化し、その腕はサーベルの如く反った刃へと変化していた。

 

 中学のおよそ1ヶ月。そして雄英高校生活の始動から切裂 刃の血を定期的に摂取し続けている彼女は、彼の次に『刃』の個性に精通している。

 彼の直線的な刃と違って、曲線的な刃から放たれる無差別的不規則的な斬撃波は、解放軍の戦士達が待ち構えていた泥花市の戦線を、死柄木と共に真正面から切り崩していった。

 

 トガが踊る様な動きで両腕の刃を振るい、放たれた三日月型の斬撃波が解放戦士達に襲いかかる。切断こそされないものの、決して浅くはない斬撃が彼らの体に刻み付けられる。

 

「ギャぁぁあァァァァッッッ!!!!!」

 

「ぐえぇぇェェェェェェェッッッ!!!!!」

 

「ガハぁァ…………ッッ!!!!」

 

 地面に倒れ伏した解放戦士を一瞥し、トガは再びキュリオスに向かって一歩一歩と距離を詰めていく。その刃と変化していた腕が、元の人間の手に戻っていった。

 

「ハァ、ハァ……ッッ! どっッ、どうしてッ!! どうしてェェェッっ!!!?!」

 

 指の切断された手を見ながら、一瞬で切り傷と血塗れになってしまったキュリオスが言葉を繰り返す。

 彼女にとって致命的だったのは、トガが『個性』までコピーできると知らなかった事。彼女の知る最後の情報が、死穢八斎會から離脱した事だけであった。

 

「うぉォォォォォォぉぉッッっ!!!!」

 

「止まれぇェェェェッッ!!!!!」

 

「死ねぇェェェェェェェェッッッっっ!!!!」

 

 キュリオスを救うべく、別の解放戦士が歩く彼女の背後から遠距離攻撃で襲いかかるが、その攻撃が届く数メートル前で彼女の周囲に黄色に輝くバリアが展開され、その攻撃を全て阻んだ。

 

 そしてバリアが消えるなり、今度はトガの傷口から血の刃が三又に分かれて伸び、解放戦士の体を貫いてそのまま地面に磔にする。

 

「あ゛がァァッッっ!!!!」

 

「いぃィ、痛イ゛ィィぃッッッ!!!!」

 

 後ろで悶え苦しむ声に目もくれず、彼女は怯えるキュリオスを見下しながら、何事もなかったかの様に歩み寄る。

 

「ひ…………ヒィィッッっ!!!」

 

 トガヒミコの個性の発動には一定量の血の摂取が必要だったが、今の彼女は血のひと舐めで個性が発動するほど効率化した。死穢八斎會に潜伏していた時点で、彼女はコップ1杯ではなく、お猪口1杯程度で、1日分の変身と個性のコピーを可能にしていた。女っ気の皆無な野郎共の集団に持ち前の美貌と愛嬌を振り撒き、彼女は潜伏初日で治崎以外の構成員の血を全て入手していた。

 

 トドメとして、彼女には『オーバーホール』の血がまだ現存し、余裕もある。疲弊負傷したら味方や自分自身を『再構築』できた。個性を使っても見た目が変わらなくなったのは、オマケでしかなかったのだ。

 

 キュリオスに勝率など、最初から存在しなかった。

 

「あ゛ぁぁぁぁぐぁぐぅぐぐぅゥゥゥゥゥ〜〜〜〜ぅッッッっっ!!!!!!!」

 

 片足を失ったキュリオスは必死に這い回る。高級なコートが地面を擦れて破けてしまい、潤沢な金で費やした美貌が崩れていく。綺麗に整えられた長い薄紫色の髪の毛も、きめ細かな艶のある青い肌も、せっかくの相手と会うための化粧も剥がれ落ちてしまい、酷い有様だった。

 

「だっッ、誰かッッっ!!! 誰かぁァァッッっ!!!!」

 

 助けを求める彼女の周りは、血の刃によって住宅街の塀や地面に縫い付けられている構成員達で埋め尽くされており、呻き声を漏らす彼らから流れる血が道路に溢れ、排水溝へと流れ込む。

 そんな道路のど真ん中をスタスタ歩きながら、トガヒミコは血みどろになってしまったコートの土埃を払い、這いずるキュリオスに近づいていく。

 

「『場所や物を爆発させる個性』ですか…………おかげで、せっかくの血が飲めなくてイライラしましたけど…………面白い個性ですね!! 是非とも頂きたいのですっ!!!」

 

 恐怖するキュリオスに対して、彼女は牙を見せつけた余裕の笑みを浮かべる。

 戦闘が開始してから1度だけ、トガは解放戦士を吸血しようとしたのだが、血が爆発してしまって諦めざるをえなかった。しかし、その爆発も大した威力ではなく、彼女に致命傷を与えるには至らない。むしろ出血した事で、彼女の操血刃の射出口を作ってしまった。

 

「フゥぅぅ〜〜ッッ!!!! フぅうゥゥゥゥッッッ!!!?!!」

 

 まだ這い回ろうとするキュリオスの、アスファルトにタイツごと擦り剥いている片脚を、トガが踏んづけた。

 

「嫌゛ァァあ゛ァァぁあアァァぁぁァァァァァァッッッっッッ!!!!!!!!!」

 

 半狂乱になって叫びながら彼女は伸ばした右腕を光に包ませ、鉄甲の様なサポートアイテムを展開させると、トガの腹部を狙って殴りかかった。あの反則的なバリアの内側に入った、この距離なら当たるつもりだった。

 

「っ!」

 

 しかし、彼女の鉄の拳はトガの体からメキメキと生え広がった結晶の塊に、いとも簡単に防がれた。

 

「あ゛……ァッ!?」

 

 そして、痛みで判断が鈍っていたキュリオス本人による誤爆。鉄甲が右手を巻き込んで吹き飛び、彼女は逆に爆風と熱線を浴びる事となった。

 

「ア゛ぁあ゛ぁァァ゛あぁア゛ぁァァァァァァッッッっっッ!!!?!!!?!!」

 

 爆発の勢いのまま、キュリオスはアスファルトに後頭部を打ち付ける。全身からブスブスと燻された煙を上げ、だらんと力なく傾いた彼女の視線の先には、目を背けたくなる程ボロボロになった右腕が映っていた。

 

「な……ぜェ……!? どぉし……てェェ……っッッ!!」

 

 こんなはずではなかったと、頭の中で自分の問答が何度も繰り返される。

 敵連合を分断させるハズが、向こうの力技で正面から突破された。

 地雷で誘導までは成功したものの、すぐにコチラの個性を見抜いてきた彼女は、血の刃で拘束した戦闘員を地雷処理車の如く引き摺り回し、盾にしながらこちらに攻めかかってきた。

 ならばと、戦闘員を地雷にして自爆特攻させようとしても、体を刃にして放つ斬撃波で処理された。

 だったら、彼女以外の者を狙おうとすると、時折発生するバリアが遠隔で仲間を守り、更には構成員が軒並み酩酊状態にされて妨害した。

 1度体制を立て直そうとするも、持ち前の身のこなしで接近を許し、逃げるための片足を崩された。

 巨大なパワー系の異形型の戦闘員は、彼女から伸びた髪の毛に突かれた瞬間、木偶の坊の様に緩慢な動きしかできない状態にされ、血の刃で簡単に拘束された。

 手に物を作る異能の戦闘員は、いつの間にか彼女の手元に盗まれて、反撃に利用された。

 

 なにより、彼女の傷口から伸びる血の刃が、機動、攻撃、拘束までこなす凶悪な万能兵器だった。

 

 頼みの『キュリオスパンク』も、個性による結晶で防がれた。

 

 まさに八方塞がりだった。

 

「イっッ、い゛ぃィィや゛ぁァァあぁァァァァァァァァァァァッッッっッ!!!!!! だっッッッ、たずげてェェえぇぇぇッッっッ!!!!!! 誰かァぁッッっ、だれかあ゛ぁァアァぁァァァッッっッ!!!!!!?!」

 

「うわ……っ、ヒドい顔ですね……」

 

 子供のように喚き立てる四十路のキュリオスを見て、トガは水晶の個性を解除して呆れたようにため息を吐く。

 既に無事な四肢が無い状態で、地面に血の跡を広げながら芋虫の様に体をにじらせて逃げようとするキュリオスだったが、最早彼女を振り切る事など叶わない。

 体からまだ黒煙を漏らす彼女の顔が、屈辱的に自分を見下してくるトガの瞳と目を合わせた。

 

「なぜ……ッ、なぜぇっッッっ!!?! どうしてアナタはッ、そんな眼をしていられるのっッッッ!!?!!」

 

 彼女の瞳はヴィランとしての眼でなく、明るく真っ直ぐな眼をしていた。それが何よりもキュリオスの勘に障っていた。

 

「周りから『普通』じゃないと責め続けられッッ、親からも見放されたアナタがッ、どうしてそこまで笑っていられるのよぉォォォォッッっッ!!!!!!!!!」

 

 未成年故に本来なら憚るべき情報も、非合法的非人道的な手段で調べ尽くしていた彼女は、どうしても解決に至らなかった疑問を彼女に向けた。

 

 トガは眼をパチクリと開閉した。本来なら彼女のトラウマとも言える問いかけに対して、そこに生まれた感情は酷く明るいものであった。

 

 彼女は頬を赤らめて、自身の胸に両手を当てた。

 

「カンタンですよっ、好きな人がいるからです♡」

 

「ッっっッッ!!!?!?!!!」

 

 その答えに、キュリオスの真っ黒な目が見開いた。土壇場を歩かされている彼女のジャーナリスト魂に、火が着いてしまったのだ。

 

「すッ、好きなヒトッっッ!!?! 誰ッ!?! 誰なのッっ!!!? いつ出会ったのッッ!?!!? 何処でッっ!!?!? 歳はっッ!!?! 髪の色はッ!? 目の色はっッ!!? 肌の色はァっッ!!!?」

 

 個性によって狂わされた彼女を、ココまで変えた人物は誰なのか。

 

 キュリオスは振り返り、膝立ちからの四つん這いになってトガを見上げる。無意識にポケットからボイスレコーダーを出した彼女は、スイッチをONにした。

 

「教えてぇッ!! お願いィィっッ!!! ワタシに教えてちょぉぉダぁァァア゛ぁァぁぁいイィィい゛ぃぃぃぃッッッッ!!!!!」

 

 涙と鼻血に塗れながら、キュリオスは彼女からの答えを求めた。

 

 

 

 

 

 トガヒミコは、頬を染めて笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女は憧れの恋バナをするにように、その最愛の人の名前を口にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは敵連合と対極を成す組織である、雄英高校の生徒の名前。

 

 

 

 

 

 体育祭では常に上位を保ち、3位という輝かしい成績を納めた生徒の名前。

 

 

 

 

 

 敵連合の存在を知らしめた『保須事件』でも 『ヒーロー殺し』の逮捕に立ち会い、脳無の鎮圧に活躍し、まだヒーロー免許未保持でありながら一躍一般市民にまで有名となった名前。

 

 

 

 

 

 林間合宿において、意識不明の重態となりながらも復活を果たし、1学年にして仮免許を取得した名前。

 

 

 

 

 

 インターン生として、指定敵団体『死穢八斎會』の逮捕に尽力したと言われる、自身を『イレギュラー』と自負するヒーロー名と共に名を馳せた名前。

 

 

 

 

 

 文化祭では単独パフォーマンスで、雄英の内外に強いユーモアを見せつけ、SNSの世界にまで印象を広げた名前。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トガヒミコが転々と転校を繰り返した中学校の名簿にあった、1人の名前。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その名前を知っていたキュリオスは、人一倍気にしていた美貌も小皺も頭からすっぽ抜け、貪欲な笑みを浮かべていた。

 

「は、ハハ……!」

 

 四十路にして、超人社会を確実に混沌へ追い込める、人生最高のスキャンダルを掴んだ気持ちだった。

 

「ハ……ハハ……っ、ぁハハ……ハハっ!」

 

 トガが腕を引いて構えると、彼女の腕から筋肉の繊維が束となって伸び広がり、たちまちその腕を包み込む巨腕へと変化した。

 

「アハハハハハハハハハハハハハハッッッっッ!!!!!!!」

 

 壊れた様に笑い続けるキュリオスの目の前で、トガによって形成された筋肉の鉄拳が、彼女に叩き込まれた。

 

「イや゛ぁあ゛ぁァ゛ぁァア゛ァァあ゛ァァァ゛ッッッっッッ!!!!!!!!!!!!!」

 

 アスファルトの地面がクレーターになるほどの威力で放たれた、筋肉の塊による拳。キュリオスが潰されると同時に砂埃が空高く舞い上がり、捲れ返った岩盤と道路に亀裂が走った。

 

 

 

 

 

 他人の人生に顔を突っ込み過ぎた彼女は、その好奇心による代償を血で払う事となったのだ。

 

 

 

 

 

「フーぅ……!」

 

 振り下ろした腕の個性を解除し、筋肉の収まった腕で額の汗を拭うトガ。彼女の見下すそこには、ドクドクと鼻血の流れる鼻が真横にひん曲がり、何本もの歯がへし折れてしまったキュリオスが、白目ならぬ黒目を剥いて倒れている。スイッチが入っていたボイスレコーダーも、粉々に砕け散っていた。

 トガは爆発で軽く怪我をした顔もコートの裾で拭うと、倒れている彼女に容赦なく吸血用の注射針を突き立てた。

 

「が……っ、…………ごぉ……! ……ぇ……ッ、…………っ!!」

 

 ビクンビクンと、もはや生きているのかも怪しい動きを見せるキュリオスを無視して、トガは輸血パックに移った彼女の血をコートに仕舞い込み、管に残った血を舐めた。

 

「キュ……キュリオス様が……ッ!!?」

 

「そんな……ッっ!!」

 

 あまりにも一方的な蹂躙に割り込む事もできなかった解放戦士達が慄くも、忠誠心に厚い彼等はすぐさま動き始める。

 

「囲めェェっッッ!!!」

 

「キュリオス様の仇ィィィィィィッッっッ!!!!!」

 

「まだ死んでませんよ?」

 

 そう呟いたトガは地面に軽く手を触れ、今度は血の刃を展開して真上に大きく跳躍する。

 

「上だァァァァァァッッっ!!!!」

 

「逃げたぞぉォォォォっッ!!!」

 

「殺すッッ、ブッ殺してやるぅゥゥゥゥッッッ!!!!」

 

「着地を狙えェェッッっ!!!」

 

「追えっッ、追……ッッ!!?

 

 解放戦士達の視線を上に向けさせたトガは、攻撃を回避するなり刃の個性を解いた。

 数人の解放戦士達は気がついただろう。だが、少し遅過ぎた。キュリオスの元に密集してしまった彼等の地面が、眩く光を放った事に。

 

 直後、トガに形成されたクレーターの中が大爆発を起こし、周辺の民家も巻き込み解放戦士達へ無差別に襲いかかった。

 大量の悲鳴が晴天の空に響き渡り、黒煙と爆風に煽られながらトガは爆心地を眺める。周辺に動ける人間は1人もいなくなっていた。

 ただの『地雷』がなぜこんな威力に変化したのかは単純。トガは『地雷』を重ね掛けしたのである。死柄木とスピナーの暇潰しであるゲームに付き合っていたからこそ、彼女が即興で思いついた発想だった。なんで『設置』の仕方を知っているのかと言えば、間抜けなキュリオスが彼女の目の前で解放戦士を爆弾にしてしまったからである。

 そのまま彼女は落下の直前で自分を無重力にして、地面にストンと着地した。

 

「う〜ん……バクダンは自分の意思じゃないと爆発しないみたいですね…………コレで血が飲み放題です♪!」

 

 キュリオスが気絶した今、もう爆発は起こらない。

 周りにはもう敵もいないと確認したトガは、道路上のアスファルトの地面に夥しく広がる誰のかもわからない血溜まりに座り込むと、頭を倒して口をつけた。

 

「ずっッッじゅるるっッ!! ぢゅっっじゅぶぶぅ〜〜〜ッッっ!!!! じゅるるるるるるるる〜〜〜〜〜っッッ!!!!! ん〜〜〜〜〜っ♪」

 

 彼女が倒した解放戦士数百人分の混ざり合った血が、圧倒的な量の個性が彼女の身体へ一気に流れ込んだ。

 

「ん゛ぐっッッッっっ!!?!!!?!!!!」

 

 愛しい彼の血には負けるが、まぁ悪くはないと調子に乗ってグビグビと血のチャンポンを啜り続ける彼女の心臓が、急にドクリと跳ね上がった。

 

「ぐ……ぁ………………はぁ゛あァァ〜〜〜ッッッっ!!!!!」

 

 血の海から頭を離し、顔の半分がべったりと血に塗れた彼女が瞳孔を見開き、痙攣を始める。

 

 それと同時に、彼女の膝や手に触れている血溜まりが、ひとりでに動いていた。

 

「ぁ……ゲホッ、ゲホんッ! んな……な、何が……ッ!!!?!」

 

 痙攣が治り、むせ返るトガが周りを見ると、そこには血の海が自分を中心に、潮の満ち引きの如く動いている不気味な光景が広がっていた。そして彼女がまともな声を上げる隙もなく、自分の体を登ってきている血に驚いている最中、口元の血が彼女の口へと吸い込まれていった。

 

「がぁァァッっッ!!!?!!? はあ゛ぁァ…………あ゛ァっ!!!!!」

 

 まるで脳がスパークを起こしている感覚に、彼女の視界がフラッシュバックを繰り返す。彼女の吸ったその血が、容姿が、個性が、情報として頭に直接流れ込んだのだ。

 

「が…………ッッっ!! ごぇ……っ!!!!?! ッッッ〜〜───〜〜っ──────っッッッッっッ!!!!!!!!!!!!」

 

 声にならない悲鳴を上げて、トガは血の海の中でのたうち回る。一気に大量の人数の血を吸ってしまった彼女は、脳がパンクしてしまいそうな情報量に押し潰されそうになっていた。

 

 自分の記憶が、自分自身が、彼の顔が、彼との思い出が、彼の血の味が、彼の香りが、母親の顔も、父親の顔も、声も、中学のクラスメイトの顔も、今まで襲った人も、何もかも、血で、全て血で、頭の中が真っ赤に、塗り潰されていく。

 

「ヤ……ヤイバくん……♡」

 

 しかし、頭の中で滅茶苦茶にザッピングを繰り返す彼女の、最後に脳裏に映ったのは……愛しい彼が自分に向けてくれる、自分の全てを受け入れてくれた、笑顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 親に散々やめろと言われ、クラスメイト達からも気味悪がられた、その笑顔を……迷いなく『可愛い』と言ってくれた……彼の笑顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくん ヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくん ヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくんヤイバくん♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡)

 

 ソレだけは絶対に忘れてなるものかと、彼女は捻じ込まれる情報量の中で抗い、絶頂の様にガクンガクンと全身を悶えさせながら、不意に意識は覚醒した。

 

「ハァ゛゛ァァァァァァァァァァァァァァァァ〜〜〜〜〜っっっッッッっ!!!?!!?!!!?!!!!!! あ

゛ぁ………………はァ゛ァッッっ!!!!」

 

 上体をぐわんと起こして、大きく肺いっぱいに深呼吸を繰り返し、トガは自分の頭を押さえつけながら、笑った。

 

 今まで、こんな一度に大量の種類の血を吸った事など、なかったのだ。彼女の個性の成長が最悪のタイミングで重なったのだ。

 危うく自分の個性で死ぬ所だった。そう思いながらも、頭の中では自分の個性を認めてくれた彼の事で溢れ返っていた。

 

 

 

 

 

 彼女の脳内の大半は、大好きな血と……最愛の彼に染まってしまっていた。

 

 

 

 

 

「はぁ……ハァ……ッ!! …………………………アハハっ♡ フヒぃっ、へへぇ〜♡♡♡」

 

 俯いたまま、絶対に他人には見せられない笑顔を作りながら、トガは周囲の状況を確認する。周りにはいつの間にか、こちらの様子がおかしくて伺っていた解放戦士達が集まっていた。

 ユラリと立ち上がった彼女は両手を刃に変化させ、幾人もの解放戦士達に構える。更に背中を突き破ってまで増やした傷口から血の刃を伸ばし、そこら中の血溜まりに鋭く尖った切先を地面ごと突き立てた。

 

 

 

 

 

「ヤイバくん……愛してます……♡」

 

 

 

 

 

 彼との再会を幻視しながら、彼女は迷いのない告白をする。

 

 血の海は依然としてトガを中心に集束し、伸びる血の刃はドクンドクンと血管の如く脈動する。血溜まりは彼女がコピーした個性である血の刃を伝って、トガ自身に情報として流れ込んでいく。

 

 オール・フォー・ワンの側近である氏子から、死柄木が次の『彼』になるみたいな話は耳に挟んでいたが、こんな所で奴の野望のために死ぬつもりは、彼女には微塵もないのだ。

 

 それに、彼から託された事もある。ドクターが研究しているという『ハイエンド』を超えた存在、『マスターピース』について探ってきてほしいと。

 

 死柄木がどうなろうと、氏子や脳無がどうなろうと、彼女にとってはどうでもいい事なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全ては愛しい彼の為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼との再会し、そして彼の作り上げる明るく優しい世界を2人で生きるために、彼女は戦っているのだから。

 

「さぁ……かかってきやがれです……! 今の私は、チョ〜カァイイくて……スッゴく強い女の子です……っ!!♡」

 

 不気味にすら感じる、これ以上ないぐらい明るい笑顔で、彼女は残る解放戦士達に向けて対峙した。

 

 

 

 

 

 ・・・♡・・・♡・・・

 

 

 

 

 

 トガヒミコが彼への愛を爆発させている中『分倍河原 仁』ことトゥワイスは……

 

「うわぁァァァァっッッ!!!?!?! 来るなっ、来るな来るな来るな来るな来るなっッ!! 来るなァーーーーーーーーーッッッッ!!!!!!!」

 

 

 

 大量の自分自身に襲われていた。

 

 

 

 異能解放軍、情報工作・解析担当。表向きの職業は、大手IT企業『Feel Good Inc.』の取締役。『近属(ちかぞく) 友保(ともやす)』 解放コード『スケプティック』の個性『人形(ヒトガタ)』は、人間サイズの操り人形を生成し、パソコンを介して巧みに操る能力。

 彼は個性で生み出したその人形の顔をトゥワイスに整形させ、本人を追いかけ回していたのだ。

 

「あぁッ!?!」

 

 疲労を知らない人形はスタミナ切れによって足のもつれた彼を捕らえ、数の暴力によって組み伏せた。

 

「うわァァッ!?! 冷てえッ、なんて冷てえ手だチクショウッ!! クソッ!」

 

 最大のトラウマとも言える、自分自身に囲まれる恐怖のまま、人形に骨を折られようとした次の瞬間だった。

 

「仁さんっ!!!」

 

 彼女の声と同時に、背後から蔓の様にしなやかに伸びた真っ赤な刃が、トゥワイスに襲いかかる自分自身達を串刺しにした。

 拘束から解放されて立ち上がろうとする彼が見上げると、そこには腕と背中から刃を生やしたトガが、民家の屋根から飛び超えてきた。

 

「トガッ、トトとト、トガちゃんッっッ!!!!!」

 

 人形にひん剥かれた覆面を何とか被り直し、トゥワイスは涙目になりながらも自分を助けてくれた彼女の明るい笑顔を目で捉え、グシャグシャの顔で笑顔を返す。

 

「仁さんをこんな追い詰め方するなんて……許せませんッ!!」

 

 その次にはもう、トガは決意のこもった表情で残る人形を睨みつけながら、操血刃を振り翳して迫り来る解放戦士達を人形と纏めて薙ぎ払った。

 

「トガちゃん……!」

 

 住宅地ごと吹き飛ばされていく解放戦士達や人形を無視し、義燗の囚われているタワーを目指して走るトゥワイスはトガを追いかけながら、普段は『彼』の事をいつも好き好きとはしゃいでいる彼女の姿を思い返していた。

 

(死柄木も荼毘もニブいし、スピナーもバカだから「あぁ、ソイツを滅多刺しにしてやりたいんだな〜」ぐらいの気持ちでしか聞いてなかったけども、俺とコンプレス、そしてマグネにはわかっていたよ、トガちゃん……)

 

 そう、ひとり独白しながらトゥワイスは『彼』の個性である操血刃で飛び回る彼女を見上げて、口元を緩める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それが『愛』である事に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女の意中の『彼』は個性も性格も、彼女の全てを受け入れてくれた、唯一の人である事を確信していた。

 

 思えば、ここまで決して短くはない時期をトゥワイスはトガと過ごしてきた。

 彼女と共に敵連合へと参加してから林間合宿の襲撃を終え、プロヒーロー達の襲撃を逃げ延びた後の事。

 バーの清潔さとはかけ離れたボロボロのアジトの中、ソファーの上で胎児の様に丸まって眠る彼女を見て、日頃から彼女の身の回りの世話をしていたマグネの言葉を、彼は思い出していた。

 

 

 

 

 

(ホント可哀想なコ……! 個性のせいで……普通じゃないせいで……! この子はヴィランになる必要なんて、なかったハズなのに……!)

 

(全くだぜ……誰が悪い?! 世の中だ! 純粋な寝顔だ……はぐれ者だろ?)

 

(だまらっしゃい! ワタシにはわかるの……この子、恋をしてるわ!)

 

(恋!?!?! 鯉!? 故意!!!)

 

(ええ……! きっとその子のおかげで……彼女、今を戦っているのよ……こんなクソみたいな世界に、挫けないために……!)

 

(だったら尚更、なんでこの子を放置したのか、気になるところだけどな。そのヤイバくんってヤツは……!)

 

(それはわからないけども……まだ、道を踏み外れる前に、このコはやりなおせるわ……! それまで、ワタシ達で守りましょ!)

 

(マジ!? 本気!? 面白えぜマグネ! そんな事してなんになるよっ?!)

 

(彼の作る世界はきっと……ワタシ達の望む世界に近いわ……! ただ、ワタシ達とやり方が違うだけ……いつかこの目で会って、確かめてあげるわ……!!)

 

 

 

 

 

 彼女の愛しの相手である彼がヴィランではなく、ヒーローを目指している事を知ったトゥワイスは、混乱するばかりであった。

 しかし、彼の真意を知るのはすぐ後。死穢八斎會への警察とプロヒーローによるガサ入れが報道されてから、統領である治崎の逮捕に貢献したインターン生である彼の、体育祭でのドキュメンタリーが放送され、それをトガと一緒にアジトで見ている時だった。

 

 どんな個性を持った人でも明るく、前向きに生きていけるような優しい世界を、ヒーローになって作る。

 

 表彰式で彼の掲げる夢を知ったからこそ、トゥワイスは理解した。

 

 

 

 

 

 彼女のヒーローは……ヴィランと戦うヒーローではなく、彼女のためのヒーローとなって、世界を丸ごとひっくり返そうとしている事に。

 

 

 

 

 

 2人だけにしか理解できない関係を築き上げる彼の目的を知って、次に湧いたのは尊敬であった。

 たった1人の女の子のために、ヒーローもヴィランも敵に回す覚悟で暗躍をし続ける彼の姿に、トゥワイスは死柄木とよく似た雰囲気を、彼から感じ取っていた。だからこそ、彼はトガと彼の関係を黙認したのだ。

 

 そして、彼の意志は彼女だけでなく、自分達の様な『普通』からアブれた者まで救おうとしている事に、彼は気付かされた。

 

 死柄木の目指す世界も気にはなる。

 

 義燗に拾われた恩義もある。

 

 だがそれでも、死柄木とは違う手段で世界を壊そうとする彼に、興味が湧いた。

 

 自分達は何をすべきか。

 

 自分自身達と悪行を重ねた自分は、もう手遅れかもしれない。

 

 だが……マグネの言う通り、彼女はまだ踏み越えていない。

 

 まだやりなおせる……!

 

 

 

 

 

 ホントにできんのか?

 

 ムリだろうよ!

 

 だが、嫌いじゃねえ!

 

 俺も賭けてみてぇ!

 

 漢として尊敬したかった。

 

 会ってみたかったぜぇ……!

 

 

 

 

 

 『みんな』まで、そう言っていた。

 

 

 

 

 

 トガが日頃から呟いていた『個性とは可能性』

 

 その言葉は、彼女の好きな彼がメディアで口癖となっていた言葉と一致した。

 

 そこまで夢と希望に満ち溢れながらも、修羅の道を歩み続ける彼を知って、トゥワイスは彼と彼女の背を無意識に押していた。

 そしてその意思は自分以外の自分達にまで、影響を起こしていたのだ。

 

 不思議だった。

 

 自分の幸せすら満足に持たないのに……

 

 相手の幸せを考えていた事に。

 

 トガがカァイく笑う世界を想像し、彼は心の中で呟いた。

 

 

 

 

 

(俺……ヴィラン向いてないんだな……)

 

 

 

 

 

 転がり落ちる所まで落ちてしまったトゥワイスにとって、それでもまだ抗おうと希望に満ち溢れるトガの姿は、華やかでどこか幻想的であった。

 

 解放戦士達を蹴散らしながら、散り散りとなった連合のメンバーと合流すべく、トゥワイスを導くようにして市街地を跳ね回った彼女は、初手で解放戦士達の防衛網に大穴を開けた死柄木と再会した。

 迫り来る解放戦士達を片端から崩して回っていた死柄木が、なんの心配もしていなかった口振りで通りに着地してきたトガの方へと顔を向ける。

 

「遅かったな、トガ」

 

「どこ行ってやがったんだ!?」

 

 ほんの数分前まで解放軍幹部、参謀・指揮担当。国会議員『心求党』党首、『トランペット』こと『花畑(はなばた) 孔腔(こうくう)』との戦闘を繰り広げていたスピナーが叫ぶ。

 

「仁さんと迫さんを助けていました!」

 

 いつの間にかトガの操血刃によって体を巻きつかれて運ばれていたコンプレスが、彼女の顔を覗いて問いかける。

 

「アレ……トガちゃん、なんか雰囲気変わった?」

 

「フヒヒ……っ♡ ヒミツですっ♡!」

 

 含み笑いのような愛らしさのある笑顔すら、今のトゥワイスには眩し過ぎるほど、輝いていた。

 解放軍の洗礼から再集結を果たしたメンバーだが、此処には本来なら存在しない仲間もいる。

 

「荼毘はドコに行ったのかしら!?」

 

 そのスピナーの更に隣にいた、辺りを見回しながら心配を零すマグネの周りには、解放戦士の男女が彼女の個性によって破茶滅茶に引っ付いて、知恵の輪の塊となってあちこちに転がっていた。

 老若男女の出揃う異能解放軍で、人に磁力を与えるマグネの個性は本人達の想像以上に突き刺さったのだ。

 

「アソコだろ? アイツなら大丈夫だ」

 

 彼女の声に反応した死柄木の指差す住宅街で、青い炎と氷塊がぶつかり合っている。彼は史実通り、解放軍幹部『外典』との激闘を繰り広げていた。

 

「見ろ……タワーが近いぜ。人も多くなってきた……」

 

 続けて死柄木の指差す先、泥花市のほぼ中央に建造されているタワーを取り囲む様に大量の解放戦士達が待ち構えている。だが彼には不安も躊躇いなど微塵もなく、操血刃を伸ばしたままのトガを見て言葉を吐く。

 

「便利な個性だな、トガ。ついでにタワーまでの道、開けるか?」

 

「フフ……っ、やってみます……!」

 

 彼の要望にすぐさま実行の動きを見せたトガは、両手の指を互い違いに交差して手の平を解放戦士達へと向ける。

 連合が最初に市内を訪れた際、花畑が言っていた台詞を死柄木は思い返す。統領であるリ・デストロと義燗は、タワーの最上階にいるに違いない。自分達を騙している可能性もあったが、実際近づくに連れてタワーを守る様に解放戦線達の数が増えていた。

 

「マキア用の駒はさておき……ボスはちゃんと殺さねえとな……!」

 

 自分達をコケにした相手は自らの手で仕留めなければ、気が済まない。

 だが、彼女が放とうとした必殺技にトゥワイスは待ったをかける。

 

「仁さん……?」

 

 あどけない表情で驚く彼女に、彼はマスク越しに笑ってみせた。

 

 まだ君は、終わった人間なんかじゃない。

 

 愛しい彼がいれば君は変われる。そんな思いを胸に、トゥワイスは動き出す。

 彼女のためにも、まずはこの戦いを制さなければならない。そのためには、死柄木をなるべく消耗させずに、タワーへと送り届けるべきである事。消耗したギガントマキアを倒すには、彼と彼女の力が必要不可欠だとトゥワイスは判断した。

 

 彼は自分の役割を果たすために動き出す。

 

 

 

 

 

 彼女を助けるんだ!

 

 いっちょ派手になぁっ!

 

 オッサン2人に、ココまでしてくれたんだ……

 

 このままじゃカッコつかねえだろ!

 

 俺達バラバラでも……

 

 想いはひとつ!

 

 俺はいつでも、君の味方さ……

 

 愛のために……君を助けるよ、トガちゃん!

 

 

 

 

 

 『自分』と話すのが、こんなにも胸が躍るのはいつの日以来だっただろうか。

 

 

 

 

 

 彼なら、本当に自分達の望む世界を作り出せるのかもしれない。

 

 そして、こんな自分にすら優しくしてくれた彼女を、ずっと笑顔にさせる世界を作り出せるのかもしれない。

 

「死柄木……しばらく俺に揺らされてな……!」

 

「トゥワイス?」

 

 疑問の声を向けた死柄木の前で、彼は自らの個性を解放した。

 

 

 

 

 

「『無限増殖 哀れな行進(サッドマンズパレード)』!!!!!」

 

 

 

 

 

 その瞬間、トゥワイスの体から泥と共に溢れ出して形取っていく彼の姿に、コンプレスやトガ、マグネやスピナーは驚き、死柄木はニヤリと凶悪な笑みを浮かべた。

 

 そのまま、人形よりも遥かに量を超えた夥しい彼自身が広がり、解放軍を瞬く間に飲み込んでいきながら、黒い大群は地鳴りを起こしながらタワーに向けて爆進を始めたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トガちゃんの現在のスペック

・血を吸って相手の『外見』と『個性』を変身する。

・『外見』と『個性』は選択できる。

・外見は衣類を脱がなくても、そのまま変身できる。

・1日中、効果を維持するのに必要な血液量は、お猪口1杯程度。

・ひと舐めでも、時短時間だが個性は発動する。

・体に血が触れていると、その血を口元まで吸い上げる事ができる←NEW !

・血を吸った時点で、個性と容姿の詳細を知る事ができる。←NEW !!

・切裂 刃の個性のみ、自分自身の個性と同時発動できる(他のコピーの同時発動はできない)←NEW !!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次回『ラーカーズ』

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