切裂ヤイバの献身   作:monmo

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第四十八話

 

 

 

 

 

 エンジンの轟音が響き渡る機内の中、唐突に機首側の壁に取り付けられたモニターが、ギュウギュウ詰めで座っている俺達を照らして目が眩んだ。

 

『昔……超常的《異能》 即ち《個性》が人類に齎されたのは何故か。初めの異能者《光る赤子》が産まれたのは何故か。すべては悲劇である……個性は人類にとっての福音ではなく、終末への始まりだったのだ。この《個性終末論》に記されている……』

 

 それは金色を基調とした、えらく荘厳な壇上で青い肌の男が、分厚い本を持ちながら演説をしている映像だった。

 

『世代を経るにつれ《個性》は混ざり進化し……やがて誰にも、その力をコントロールできなくなる……人類の8割が個性という病に冒された時代……残された2割の純粋な人類も個性保持者と交わり、その数を減らしていく。絶滅は目の前に迫っているのだ……』

 

 男の周囲には、白と緋色のローブを羽織って顔全体を覆う鉄仮面を装着した、無数の人間がいた。もしかしなくても、あそこにいるのは皆全て、無個性の人間なのだろう。

 

『我々《ヒューマライズ》は、今こそ立ち上がらなければならない。たとえ大地を血に染めてでも……人類の救済を!!!』

 

 男の発言の後、ローブを纏った者達によって『人類の救済を』と繰り返される斉唱が映され、そこで映像は終わった。

 次にモニターに映ったのは、今回の作戦の概要を大まかに示した文書と、作戦区域となる地図と建物の見取り図が表示されると同時に、今俺達が乗っている輸送機を操縦するパイロットの声が聞こえた。

 

『高度3万フィート。まもなく、降下ポイントに近づきます』

 

 機尾側の1番前の席に座る俺の隣には峰田、その隣に瀬呂、上鳴、塩崎と椅子に座っている。真向かいに座る反対側には、機首側からシンリンカムイ、マウントレディ、エッジショットが座り、最後に俺の目の前である機尾側の1番前には、エジプトの古代壁画に描かれてる王様みたいなコスチュームを身に纏いながらキラキラ光っている上、紙そのものの様なペラペラの体をしたプロヒーローが椅子に座っていた。

 彼はエジプトのNo.1ヒーロー『サラーム』 個性はエッジショットと同じく体を紙に変化させる『パピルス』 彼の様に体を細くする事はできないらしいが、その個性でNo.1に登り詰めた実力は間違いないと思う。

 

『これが犯行声明ですか?』

 

『まあ……わかりやすいカルト教だな』

 

『今はもうテロ組織だろ?』

 

 輸送機の爆音と暴風で声は届かないので、耳に装着した無線機越しにマウントレディ達プロヒーローの話す声が聞こえる。それに対して俺達は今から始まる作戦に緊張、あるいは武者震いで話せる状態じゃなかった。

 

『降下20分前……機内減圧開始。装備チェック……自動開傘装置のアーミングピンを外せ(アームメインパラシュート)

 

 副操縦士の指示で、座ったままパラシュートを背負った人達がゴソゴソと輸送機に乗る前に指示された動作を行う。

 

 全ての始まりは、年明け早々起こった大事件。無個性思想団体『ヒューマライズ』による無差別テロが起こってからだ。一瞬にして数万人もの命を奪ったテロ組織を野放しにできないと、全世界のヒーロー達がチームアップしてテロ組織の根絶に臨む『ワールドヒーローズミッション』にラーカーズと共にエジプトへ派遣された俺達だったが、まさか空港に到着してエジプトのNo.1ヒーローに出迎えられて、そのまま作戦に参加するとは思ってもいなかった。

 機内で俺達が準備をしている最中にも、画面からはアメリカのニューヨークに設置された『選抜ヒーロー統括司令部』の長官の声が流れていた。ちなみに、この映像は作戦開始に備えている25カ国のヒーロー達へ同時に伝えられている。

 

『先日の無差別テロの犯行声明を出したのは《ヒューマライズ》 人類救済を標榜する指導者《フレクト・ターン》によって設立された思想団体である。テロに使用された装置は、個性因子誘発物質……《イディオ・トリガー》を強化した物だと推測される。以後、この装置を《トリガー・ボム》と呼称する』

 

 画面にはヒューマライズの組織を示す、六角形の手裏剣みたいなエンブレムが表示されているのと同時に、立方体でどこか生物的な気味の悪いデザインをした大きな黒い箱の映像が表示された。

 奴等のテロ行為を可能にさせたのが、この『イディオ・トリガー』 個性を強制的に暴走させる、異常な物質。八歳會の事件で個性破壊弾とは別で出回っていた物を、完全な暴走用に改造した代物だった。

 最初のテロの現場は、このガスが散布されて甚大な被害を被った。俺も峰田達も、作戦前にその惨状を見せてもらった。

 

 

 

 

 

 正直言って、人の死に方じゃなかった。

 

 

 

 

 

 市民は勿論、テロに駆け付けたヒーローもイディオ・トリガーの含まれたガスを浴びて、個性を暴走させて死んだ。たった数分で、その町は数多の人間が暴走させた個性によって、死体と瓦礫の山となったのだ。後に残ったのは、何が起こったのか理解もできない無個性の人々のみ。そいつらもヒューマライズの洗脳教育に囚われ、熱心な信者となってしまったそうだ。

 

 個性を見境なく暴走させるという、性能がピーキーすぎる傾向があるものの、こんな強力すぎる兵器をヴィラン達が利用しないワケがない。

 あんな無差別兵器、敵連合どころかこの世にあっていい物じゃない。だから、多数の被害者を出したこのテロを2度と繰り返させてはならないと世界中のヒーロー達が協力する、歴史上稀を見ない規模でテロ組織への掃討作戦が行われる事になったのだ。

 

 俺達の国、日本ではファットガム事務所とインターン生の天喰先輩、切島、鉄哲、更にギャングオルカ事務所と、そこにインターンを受けていた障子と耳郎。更には雄英からプレゼントマイク先生とセメントス先生が派遣された。

 

 フランスではリューキュウ事務所の波動先輩と、麗日と蛙吹のコンビが。

 

 アメリカはホークスと常闇、更にシシド事務所のインターン生である尾白、砂藤、宍田、庄田が派遣している。

 

 シンガポールにはマジェスティック事務所のインターン生の八百万と取蔭が派遣されていた。

 

 そして『オセオン国』という聞いた事のない国に、緑谷、爆豪、轟達。そしてエンデヴァーと選りすぐりのサイドキックが派遣されている。

 

 それ以外にも、無名のプロヒーロー達が世界に散って多数参加しているそうなのだが、飯田、芦戸、葉隠、口田はどうしても事務所の参加が認められなかったらしく、寮で待機しているそうだ。

 

 そして、俺達の派遣先がエジプト。まさか I・アイランドの時のパスポートをまた使う日が来るとは思わなかったし、せっかくの海外渡航なのにさっきから景色は真っ暗だ。

 

『高気圧、以前として目標地域に停滞中。雲底高度・視程無限(キャブOK)! 酸素ホースを機体のコネクターに接続……マスク装着せよ』

 

 副操縦士の指示に従い、俺は小型の酸素マスクを装着する。ほんの小さなボンベの付いたヘルメットと一体型の特注品だが、降下するだけなら充分だった。

 今回の任務に対応するために、俺の装備はほとんど全て新調している。コスチュームは普段の迷彩服ではなく、装具から何まで完全に黒一色の戦闘服だった。目立つのはバックルなど手で触れる必要のある場所に貼り付けた、蓄光テープのぼんやりとした薄緑色の光だけ。

 コスチュームが違うのは俺だけではない。瀬呂や上鳴も大きく変わった所はないが、目立つ色合いは避けた黒メインになってるし、塩崎もトーガの色が夜空に溶け込める黒色に変更。峰田も白や黄色をやめた黒一色で、元々の紫色と混ざってマックロクロスケみたいになっていた。

 一応、俺はマスクもパラシュートも用意しているが、中にはその装備が必要のない者達もいる。エッジショットはパラシュート付けてないし、シンリンカムイは呼吸器系が人とは違うのか、酸素マスクは付けてない。上鳴もスケボーがあるからパラシュートは付けてないし、サラームはどちらも付けていなかった。

 

『我々、選抜ヒーローチームの任務は、世界25箇所にあるヒューマライズの施設の一斉捜索。団員達を拘束したのち、一刻も早く保管されているトリガー・ボムを確実に回収する事である。施設では、団員の抵抗が予想される。また、トリガー・ボムを使用する危険も高く、各国の警察への協力要請は自粛せざるを得ない。可及的速やかにこの任務を実行してほしい……オールマイト』

 

 モニターの向こうから聞こえていた長官の声は、後ろに控えていたらしいオールマイトへ話す様に促した。すでに残り火を使い果たした彼は、司令部で指示を出す側だ。

 

『ヒーロー諸君、この作戦の成否は君たちの双肩にかかっている。テロの恐怖に怯える人々の、笑顔を取り戻そう……!』

 

 オールマイトは世界的にも偉大なヒーローとして認知されているだけあって、サラームを始めエジプト勢のプロヒーロー達の士気も間違いなく高まっていた。

 そんな中、再び無線機から副操縦士の声が響き渡る。

 

降下実施点(リリースポイント)に接近中。降下10分前』

 

 その瞬間、ガチャンと重たい音と同時に輸送機の天井の赤いランプが光り、機内が少しだけ明るくなった。隣の峰田が無言のままビクリと震えたのが、ちょっとカァイイ。

 

『機内減圧完了。降下6分前……後部ハッチ、開きます……!』

 

 続いてモニターの明かりが消え、機尾側のハッチが重苦しい音を立てながらゆっくりと開放され、暗かった機内へ眩い光が差し込むと同時に、一気に吹き込んでくる突風。

 

 誰もが咄嗟に座席にしがみついて耐える中、副操縦士が呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『日の出です……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゴーグルをかけて暴風を防いでいる俺の視界の先、ブラインドで光度の調節された朝日が雲と水平線の向こうに見えた。

 

『外気温度、摂氏マイナス40度。降下2分前……起立(スタンドアップ)

 

 副操縦士からの命令で、俺達はプロヒーローと一緒になってゾロゾロと立ち上がる。パラシュートを背負っているせいで動きづらいが、問題ない。コスチュームは降下用に防寒対策もされているし、それはここにいる全員が同じだ。

 

『降下1分前……後部に移動せよ。酸素装置(ベイルアウトボトル)作動』

 

 続け様に下される命令に従い、俺はサラームと並びながらハッチの方へと歩み出る。体が紙なのにどうして突風で吹き飛ばないのかと思ったら、絶妙に風を切る様に体を拗らせて突風をすり抜けていた。

 彼から視界を正面に戻せば、見渡す限り砂漠の見える地平線に対し、眼下は薄雲に紛れて光の密集する都市部が広がる。その中央にもうすぐ、ヒューマライズの施設が重なる。そんな景色を見る間に、装着した酸素マスクから薬品臭い空気が供給されていく。

 

「………………っ!」

 

 俺の背後で峰田がプルプル震えているのがわかった。写真撮ってやりたいところだが、ココで携帯電話出したら怒られるから、見る事しかできない。

 その更に後ろでは瀬呂が必死に笑いを堪えているし、上鳴は気づいていてもそれどころではないのか、彼も震えていた。塩崎だけは、いつも通り立ったまま瞑想していた。

 

『降下10秒前。スタンバイ…………全て正常。オールグリーン!』

 

 無線機から副操縦士の覇気のこもった声が聞こえ、機内の赤いランプが緑色に変わった。

 

『降下準備。カウント……5……4……3……

 

 そうして秒読みが下されていく中、再び司令部長官の声が無線機から響いた。

 

 

 

 

 

『各ヒーローチーム……スタートミッション!!』

 

 

 

 

 

 ……2……1……降下!』

 

 その声を合図に、世界中で作戦が開始されたのと同時。カウントダウンの読み終わった号令で、俺達は明け方の空を飛行する輸送機から飛び降りた。

 

 暴風の吹き荒れる上空に、鳥になって飛び出した俺は重力に従って落下を始め、そのまま隕石の如く加速していく。普通のスカイダイビングみたいに手足を広げて空気の抵抗を増やすのではなく、体を一直線に伸ばして抵抗を極限していた。

 俺に続いて後ろの者達も次々と輸送機から飛び出す中、すぐに体を紙糸に変化させて急降下を始めるエッジショットの声が無線機から聞こえた。

 

『Aチーム、我々の任務はトリガーボムを爆破される前に回収する事だ。各員尽力せよ』

 

『『『『『『『『『『了解!!!!!』』』』』』』』』』

 

 輸送機は俺達を運んだ1機だけではない。並走飛行していた4機からも次々と無名のプロヒーロー達が躊躇なく飛び出し、ヒューマライズの施設であるデカい宮殿に向かってフリーフォールで降下していく。

 一歩間違えればバランスを崩してしまう程の激しい風圧だが、生憎ココには高所の移動を得意とする者しかいない。それはプロヒーローだけでなく、インターン生である俺達も日頃の訓練と経験も活かして、皆それぞれバランスを取りながら降下を続ける。

 

『アレがヒューマライズのエジプト支部か……!』

 

『デッケェ……幾ら持ってんだっ?!』

 

 俺と同じく猛スピードで降下していく瀬呂に対し、スケボーで速度を調整しながら急降下を続ける上鳴が愚痴を零すも、そこにシンリンカムイの声が聞こえた。

 

『俺達Bチームの任務は施設の制圧とフレクトの捜索、あるいは確保だ。油断するなよ……!』

 

『『『『『了解!!!!!』』』』』

 

 雲に突っ込むと水滴が広がるゴーグルの内側に、現在の高度と地表までの距離、そして落下速度を表示する電子計器が映され、そこに今誰が話しているのかを示す名前と電波状況まで小型のワイプが映してくれた。

 今回の作戦はAとB、ふたつのチームに分かれて実行される。俺、瀬呂、峰田、上鳴、シンリンカムイ率いる拘束力に長けたBチームが建物に強襲して信者を制圧し、エッジショットや塩崎、サラームなど索敵や潜入に長けたAチームがトリガー・ボムの捜索に当たる。今回、建物の被害は考慮しなくていいと示されたマウントレディもAチーム。宮殿の屋根どころか、建物ごと全てひっくり返すつもりだ。

 複雑な様で作戦は単純。俺はいち早く地面に着地してヒューマライズに突撃を仕掛けるべく、更に加速しながら地表に向かって急降下を続けていると、そんな俺すらを追い抜く影が1人……いや、1機。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人間大サイズの『紙飛行機』が俺の真横を通過した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ハーーーーーッッハッハッハッハハハハハハハハッ!!! 素晴らしい機動性だっ!! 感謝するぞ、ブレイズよ!!!』

 

 この暴風の中で、無線機を介さなくても聞こえる程の高笑いをしながら降下しているのは、今さっき俺の横を通過していった、体を紙飛行機に折り畳んだサラームだった。

 原作でも知る事のなかった、面白すぎる個性を持ったプロヒーローの対面に「平面だ……平面の人がいる……!」と峰田達と騒ぎ合ってから、俺は『折り紙』を知らなかったサラームに紙飛行機の折り方を教えたのだ。

 個性の関係が常にペラペラの体を持つ彼は、たった1枚の紙からなる立体物に、すぐさま興味を示した。俺よりもエッジショットが物凄く折り紙に詳しかった事もあって、作戦開始前までずっと折り紙を折りながら3人で試行錯誤していたぐらいだ。紙にできる体ならエッジショットの様に隙間を通るだけでなく、体を折り畳む事だって不可能じゃない。

 

『信者の方は君達に任せるぞ! 我々はトリガー・ボムの捜索を始める!!』

 

『はいっ!!!』

 

 サラームの言葉に、すぐ近くを降下していた俺が答える。ちなみに、この場には母国語で話している人がほとんどいない。全員が共通言語の英語で話しているけど、普通に話が通じている。この辺はプレゼントマイク先生の授業が、結構レベル高かったお陰だろう。

 彼自身を折って作った紙飛行機の機動性は、下手な飛行機なんかより何倍も素早い。まさか、折った物の特徴を再現できるのかと、サラームの個性の可能性に想像が止まらなかったが、その喜びは一瞬の出来事。

 高笑いしながら高速で滑空する彼を追って更に加速しようと体を伸ばした俺の視界の先、ヒューマライズの施設から一斉に曳光弾の光が放たれた。

 遅れて、明け方の空に響き渡る野太い銃声が幾重にも連なり、俺達は視界の先の宮殿に集中する。

 

『うおッ!!!?』

 

『お、降りられるのかよーーーーーッ!?!!!』

 

 俺の動揺の直後に、小さくて黒くてどこに飛んでいるのか全くわからない峰田の叫び声が響き渡った。こちらが強襲を仕掛けてくるのを察知していたのか、迎撃にしては対応が早すぎる。信者を拘束する前に、対空砲を潰す任務が俺の頭に追加された。

 

『急げッ!!!』

 

『回避ッ! 回避ぃッ!!!』

 

『Bチームッ! ひとまずあの対空砲を無力化しろッ!!!』

 

『オイオイ……なんでこっちの動きがバレたんだッ!?』

 

 突如として始まったヒューマライズからの迎撃に、プロヒーロー達は空中で散り散りになっていく。降下しながら喚き始める彼等に、サラームが紙飛行機のまま一括した。

 

『怯むなヒーロー諸君!!! こんなご大層な準備をしていたという事は……トリガー・ボムがある可能性は大いに高い!!! 我に続けェーーーーーッ!!!!!!!!!』

 

 上下こそ的が大きいように見える紙飛行機だが、真正面からじゃ薄っぺらい『T』字型にしか見えない。遠い空の上からでは銃で撃ち落とすどころか、視認すら不可能だ。そのままサラームは弾丸の飛び交う施設に向かって誰よりも早く降下していった。

 

『サラームが行ったぞっ!?』

 

『彼に続けッ!』

 

『地表まであともう少しっ!!』

 

 彼の声で体勢を立て直したプロヒーロー達に続いて、俺がサラームの次に建物へと急降下する。ゴーグルの画面にデカデカと、地面との距離が近い事を警告する表示が音と共に浮かび上がる。

 俺はパラシュートを背負っているが、自動開傘装置を活性化させていない。自分のタイミングで開くつもりだったからだ。

 

『ブレイズッ!!?』

 

『何やってんだッ!?!』

 

『おいィィィッ!!? ぶつかるぞッ!!!!!』

 

 無線機越しに何人ものプロヒーローや、峰田とマウントレディの声も聞こえたが、俺はゴーグルの警告も無視して胸元のフックを自分で抜いた。

 背中からパラシュートが勢い良く開き、急激な減速と浮遊感を受けながらも、視界にはヒューマライズのデカい施設と一緒に中庭にあたるだだっ広い地面が迫っていた。すぐ近くから銃声が響き渡り、俺の落下傘を一斉に狙い始めたのが見なくてもわかった。

 俺のパラシュートが開いた高度じゃ、普通の人間では減速しきれずに地面に叩きつけられて死ぬが、俺は減速さえすれば問題ない。

 

「ふんッ!!!」

 

 そのまま迫る地面に操血刃を伸ばして滑り込みながら体を跳ね上げ、役目を終えたパラシュートを文字通り切り離して地面に着地と同時に受け身を繰り返す。そして、俺は施設の真正面の扉へと脇目も振らずに突撃する。

 

「1人降りたッ!!!」

 

「撃てぇッ! 撃ち殺せッ!!!」

 

 先陣を切る俺を視認するなり、アサルトライフルを構えた団員達からの銃声と同時に曳光弾の光が俺に集中してくるが、ソレは俺の刃と化した両腕と硬化された体によって火花を散らして弾かれる。

 

「何ィッ!?」

 

「銃が効かないッ!!?」

 

「怯むなッ! 対空砲を向けろッ!!」

 

「うっそ?!」

 

 中庭に停車していた大型トラックの上に設置された、砲身が何本も伸びた対空砲がキコキコとハンドルを動かす団員によって、ゆっくりとした動きで俺のいる地面に向けられる。

 だが、あまりにも遅すぎる。

 

「斬撃波ッッ!!!!」

 

 刃の腕によって放たれた斬撃波がトラックごと対空砲を切断し、銃座に座っていた団員がひっくり返って地面に転がる。操血刃を伸ばしてローブの部分だけを地面ごと突き刺し、身動きの取れない磔にしながら俺は中庭を駆け抜ける。

 対空砲はもう1両あったが、ソレは操血刃で車両ごと突き刺して横転させた。

 

「あっという間に……ッ!」

 

「クソッ! もっと強力な火器を持ってこいッ!!」

 

 団員達は諦めずに俺へ銃撃を集中させるが、そこへ俺とサラームに続いてようやく着地を始めたヒーロー達が現れる。

 

「うおォォォォォォぉっッッ!!!!!!」

 

 俺の降り立った中庭から、いきなり紫色の峰田バルーンが大きく膨らむと同時に、突き刺さるようにしてバルーンに沈み込んだ峰田が大きく跳ね上がり、ジャグリングを繰り広げながら空中を跳ね回って突撃を仕掛ける。

 

「峰田くんっ!!!!」

 

「クッッッソォぉぉぉぉっッ!!! 寿命が縮んだぜチクショーーーーーッ!!!!!」

 

 半泣きでモギモギを投げつけながら、施設の屋根や吹き抜けに並ぶ団員を地面にくっつけて無力化し、彼は俺を追いかけてきた。

 空を見上げれば、落下傘が次々と開いてプロヒーロー達が降下していく中、空中でパラシュートを脱ぎ捨てて建物に向かってテープを伸ばした瀬呂が、屋根を走りながら対空砲を動かしていた団員を拘束し、反対側では対空砲に落雷が起こった。

 

『いっちょあがりぃっ!!!』

 

『切裂と峰田だけにカッコつけさせねえぜっ!!!』

 

 その額に汗を散らしながらも、余裕の表情をを見せる瀬呂と上鳴が屋根から飛び出し、2人は中庭に入り込むなり団員達を片端から無力化させていく。

 

『全対空砲の無力化を確認!』

 

『おいッ!? インターン生に遅れをとるなッ!!』

 

『畳みかけろッ!!!』

 

 シンリンカムイは慣れた身のこなしでパラシュートを脱ぎ捨てながら着地し、団員達が銃を向けた時にはもう『ウルシ鎖牢』で拘束を始めている。エッジショットは紙糸から姿を戻して屋根に難なく着地するなり、再び紙糸に変身して銃撃を躱しながら建物内に侵入。マウントレディはパラシュートを脱ぎ捨てた瞬間、巨大化して地表との距離を縮めて踏み締め、地鳴りを起こした。そうして団員達が大きくよろめく間に、宮殿の屋根を掴んでひっぺがし始めた。

 他のプロヒーロー達もパラシュートから地面に降り立つ者や、俺達の知らない個性で難なく着地している。対空砲もなくなった今、元の強襲作戦に戻った。

 

「止まれ!!」

 

「許可のない立ち入りは───

 

「発泡斬撃波ッ!!!!!」

 

 宮殿から滅茶苦茶に放たれる弾丸で地面に砂埃が立ち上がるも、機関銃を連射する団員に当たらないように、俺は走りながら無数の斬撃波を飛ばして施設正面の扉を切断した。

 

「グワーーーーッ!!?」

 

「キャアァァァァッッ!!?」

 

 団員には女もいるのか甲高い悲鳴が聞こえたが、残念ながら今は男女平等に拘束させてもらう。

 爆風でひっくり返った団員達に峰田のモギモギが命中し、動けなくなった奴等の間に切り開かれた大きな正面扉の入り口へ紙飛行機が突っ込んだ。

 

「サラームっ!!」

 

「素晴らしい!!! やはり日本のヒーローは伊達ではないな……だが、ここからは我々の出番だ!!!!」

 

 遅れて俺も宮殿の中に飛び込んだが、通路を高速で飛ぶサラームは折り畳んでいた体を元のペラペラの状態に戻すと、今度は壁に張り付いてシャカシャカと高速で動き始めた。本当に壁画が動いているみたいに、そのまま彼は隙間という隙間に滑り込み、爆弾の捜索を始める。

 

「この神聖なる場所で個性を……!」

 

「粛清してやるッ!!」

 

 通路の奥から壁を移動するサラームに向かって団員達の構える銃から弾丸が放たれるも、素早すぎる彼は天井まで這い回って銃撃を難なく回避する。そこへ遅れて飛び込んだ俺の飛び蹴りが、銃撃を続ける団員の仮面にめり込んだ。

 

「ラァぁぁッ!!!」

 

「ごはァァッ!!?!」

 

「跳峰田ロケットォォォッッ!!!!!」

 

「どあぁァァァッ!?!!!!」

 

 そこに、モギモギをバラ撒いて変則機動をとった峰田が、反発の勢いを利用した頭突きを団員に叩き込み、何人も巻き込んで吹き飛ばすなりモギモギで拘束していく。

 遅れて飛び込んできた瀬呂がテープで通路を飛び上がりながら団員達をグルグル巻きにして捕らえ、スケボーで悠々と飛行する上鳴がポインターを放ちながら放電を起こし、銃撃を続ける団員達を雷で貫いたが、そこに瀬呂が銃弾を躱しながら彼に警告する。

 

「上鳴ッ、団員は全員無個性だッ! 手荒すぎる真似は……!」

 

「わかってらぁ! 10万ボルト……いっけぇェェェッ!!!!」

 

 周囲に続々と集まって来た団員に対して、上鳴はスケボーで通路を滑空しながら電力を加減して放電している。きっと彼には屁でもないのか、余裕の表情で電撃を連発していた。

 無慈悲かつ高速で迫る雷撃を無個性の人間がどうにかできるワケもなく、俺達は爆雷と団員達の悲鳴を背に、建物の中を突き進んだ。

 

「ブレイズ、グレープ! 足を止めるなッ、先に進め!!」

 

「「了解!!!」」

 

 少し遅れて到着したシンリンカムイが樹木で拘束した団員を別の団員に投げつけながら、俺達に前進するよう促してきた。

 立ち塞がる団員を操血刃で薙ぎ払いながら、俺は

峰田達の前に先駆けとなって銃弾を弾き続け、そこにモギモギとテープの援護を受けながら施設内を制圧していく。

 

「しっかし、数が減らねえなッ!」

 

「何人いやがんだぁ!?」

 

「たが向こうの勢いは弱まっているぞ。ヤツらが自棄を起こす前に……1人残らず確実に拘束する!」

 

 飛び交う銃弾を高速で回避しながら瀬呂と上鳴が困惑の声を漏らすも、樹木で拘束と機動を繰り返すシンリンカムイの声に押されて、その動きを止めない。そんな彼の後ろからも、無名のプロヒーロー達が溢れて次々と団員を無力化していく。

 

「クソッ! 重病人共め……!」

 

「引けッ、引けーーッ!!」

 

 プロヒーローに紛れて爆進を続ける俺達に団員の勢いが徐々に引け腰になり、遂には逃げ出す者まで現れ始めた。

 それにしても、あれだけ盛大に犯行予告をしたにも関わらず、虎の子であるトリガー・ボムを使おうとしてくる気配がまるでない事に、俺は僅かに疑問を覚える。

 

「爆弾はどこだ!?」

 

「エッジショットとマウントレディ達に任せようっ!」

 

「俺達は団員の確保に集中ッ!」

 

 俺達が施設内で大立ち回りを演じている間、プロヒーロー達に混ざって最後に降下した塩崎が宮殿のど真ん中で1番背の高い場所に、パラシュートを脱ぎ捨てながら茨を伸ばして着地した。

 

「ヴィアドロローサ……!!!」

 

 その瞬間、彼女の頭の茨が一斉に伸び広がり、広大な敷地を誇るヒューマライズの宮殿を丸々包み込み始める。窓ガラスというガラスを叩き割り、扉を押し開いて室内に侵入する茨が天井裏から地下道まで侵食し、爆弾を探し始めた。

 

「うおぉぉおぉっ!!?」

 

「塩崎ちゃんの茨だ!」

 

「いつ見てもヤベーわっ!!」

 

「こりゃ、すぐ終わっちまうんじゃねーのか!?」

 

 床まで縦横無尽に伸び広がる茨を踏んづけないように跳ね回りながら、俺達は混乱の広がっている団員達を拘束し、更に建物の奥へと目指す。

 索敵随一の個性とはいえ、目で確認できない彼女は茨の感触でしか認識できないのだから、信者と俺達の区別をつけられない。あくまで、彼女が探しているのは爆弾だ。

 そこへ、いきなり無線機に司令部からの通信が入った。

 

『オセオンチームより急電!!! ヒューマライズ本部に指導者フレクトは不在!! 各国の支部への警戒及び捜索を厳にせよ!!!』

 

『なんだってッ!?』

 

『いないだとッ!?』

 

『Bチーム気をつけろ! フレクトがいる可能性がある!!』

 

「いねえって……どーゆー事だよっ!?」

 

「わからない……とにかく、行くしかないッ!」

 

 エジプトチームの無線内にも同様が広がる中、俺と峰田は団員を蹴散らして施設の1番奥。大きな広間となった部屋に扉をブチ破って突入する。

 そこには背の高い本棚が並び、中央に高価そうな木の机が鎮座する。誰もいない部屋だった。

 

「クッソ! こちらエジプトチーム。施設の最奥まで到達したが、指導者は不在。周囲の捜索にあたる! 来い、お前達!」

 

「「「「はいっ!」」」」

 

 プロヒーロー達も遅れて次々と広間に飛び込んで警戒を行う中、苦悶の声を漏らしたシンリンカムイが無線機で司令部へと報告し、俺達を施設の外へと誘導した。

 

 そこから施設の外観を飛び回ってから、日も完全に顔を出した頃。荘厳だった雰囲気が一瞬にして、薬莢が転がり黒煙の立ちこめる戦場の跡となってしまったヒューマライズの宮殿で、俺達は爆弾の捜索にあたっていたマウントレディとエッジショットの2人とも集合して、事件の整理を始めた。

 捕まえた信者達を無名のプロヒーロー達とも協力して全員中庭に集合させ、1人1人知っている事を全て聞き出そうとしている。持っていた武器も全て押収して、ビニールシートを敷いた1箇所に集積させていた。

 

「団員達を何人か問いただしたけど……爆弾に関しては誰も知らないみたいだわ……」

 

「しかし、あれだけ大量の兵器を隠し持っていたとは……我々の襲撃を見据えて、余程の準備をしていたと思われる」

 

「地下にもかなりの兵器を蓄えていた。他の国のチームが少し心配だな……」

 

 プロヒーロー3人が輪になって話す間に挟まって、塩崎の沈んだ声が聞こえる。

 

「不甲斐ありません……」

 

「塩崎が探して見つからねえなら、マジでないって!」

 

「だとしたら……彼等、どこに爆弾をやったのかしら?」

 

「オイラ達が来ると思って、遠くに隠しちまったのかな?」

 

「最初のテロと犯行声明から、まだ3日も経っていない。あれ程大層な爆弾、すぐには動かせないハズだ」

 

「案外、もう使いきっちまったのかも……」

 

「そうだといいな。だが、楽観視はできんぞ」

 

 クラスメイト達の会話を合わさり、最後は無線で司令部からの待機命令が下った俺達ラーカーズは、拠点となる市街地のホテルへと戻る事が決まった。

 

「おっしゃ、とにかく帰ろうぜ切裂…………切裂……?」

 

「ヒソヒソヒソヒソ…………『M16』『FN FAL』『FA-MAS』『Galil』えウソ7.62mmは『M14』『G-3』『AK-47』えスゲえ冷戦シリーズよりどりみどりじゃんか……!?! マシンガンは『Vz61』『MAC-11』『UZI』……『M1A1』に『PP-19』!? あぁ……ぁ……『ステアーAUG』『M4A1』『G36』もあるし夢にまで見た『AK-74』も……! ハンドガンは……あぁあぁぁ『M1911』!?!?! ……ヤバい間違いない『A1』モデルだよコレ!? ハァハァ……どうするこいつらヤッちまうか? 銃身と撃鉄は流石にしょっぴかれるからせめてウッドストックとグリップだけでもバラしてマガジンは……」

 

「ブレイズ!? なにしてるの! 団員の連行と施設の後処理は警察に任せて、私達はホテルに戻るわよ!」

 

「はーい……」

 

 マウントレディに呼ばれて渋々、集積された装備の山から俺はラーカーズに合流した。

 

 結果として、世界中にあるヒューマライズの施設のどこからも、トリガー・ボムを発見する事も、リーダーであるフレクトの姿を捕える事も叶わなかった。

 団員達もトリガー・ボムの保管場所は知らされていない。それどころか、そんな爆弾の存在すら知らない始末だった。

 爆弾の存在を把握していない団員。つまり、今ここいる人間はあくまで末端も末端。もしかしなくても捨て駒だろう。フレクトは自分の信頼を置ける人間にしか、トリガー・ボムの概要を明かしていない可能性が高い。

 そうなると、トリガー・ボムの所在としてあり得るのは、俺達の知らないヒューマライズの隠し施設か……あるいは、この建物の外の街中。間違いなく、この国の何処かには存在するだろう。各国の公安に察知されずに大掛かりな隠し施設を作れるなんて思えないし、トリガー・ボムなんて劇物を外から容易に持ち込めるとは思えない。生成するのには大掛かりな設備も必要なハズだ。

 

 最初の爆発を指揮したのは、団員の中でも忠誠心の高い者達だけの犯行。こちらの動きを察して、トリガー・ボムを移し替えた。あるいは、もう仕掛けてしまってから最初のテロを起こした可能性がある。瀬呂が爆弾を使い切ったかも唱えたが……奴ら対空砲なんて兵器引っ張り出してきたんだ。油断したら見境なく暴れ回るだろうし、使える物なら何だって使ってくるだろう。

 

 爆弾は絶対にエジプトにある。気をつけなければ。

 

 

 

 

 

 ・・・♡・・・♡・・・

 

 

 

 

 

 全世界からヒーロー達によるヒューマライズの調査結果を纏めた司令部は、一旦は現地での待機を決定した。今後はプロヒーローを増員しつつ、ヒューマライズの隠し施設を探り出すそうだ。

 日本のプロヒーロー代表の俺達ラーカーズは、エジプトの首都であるカイロ近傍のホテルに泊まっていた。観光名所で有名な3つのピラミッドにスフィンクスまで見えるし、すぐ近くには世界一長いナイル川まで流れてるVIP御用達の高級ホテルだ。ただ、そこに旅行者みたいな客は1人もおらず、ホテルとは名ばかりのエジプトに派遣されたプロヒーロー達の臨時拠点となっていたが。

 

 で、初日のヒューマライズ支部の襲撃から手がかりが取れず、今は特に大きな動きも発生していない俺らは、エジプトチームの1番下っ端という事で、マウントレディ達に頼まれた買い出しに出掛けていた。

 

「はーっ、最初エジプトって聞いたときゃあ、マジかよ……とか思ったけどよ……!」

 

「意外と街なんだな! 砂漠とピラミッドしかねえと思ってたよ俺!」

 

 峰田のボヤきに、サラームが聞いたら怒りそうな台詞を吐きながら、両手に買い出しの品物でパンパンになった紙袋を抱えた上鳴がエアログライダーに乗っている。普通のスケボーと同じ様に、地面スレスレの超低空飛行でだ。

 俺達の歩いている周りは、何車線もある道路に車と人とラクダとロバの行き交う大通り。砂嵐が起こるからか背の高い建物はほとんど見かけず、遠くに見えたデカいタワーのみ。それ以外の建物は色合いのない砂っぽさを感じるが、実際砂なのだろう。

 

「市街を逸れてダウンタウンに入ると、すぐ治安悪くなるらしいから気をつけよう」

 

 来た道を引き返していた俺も両手に荷物を抱えながら歩いていると、隣にいた瀬呂が買い出しで買ったスナック菓子をつまみながら路地の方を指差す。

 

「後でお土産も買って行こうぜ。さっきパンフレットで、スゲー楽しそうなトコ見たんだよ!」

 

「マジかよっ、金いらねえって言ってたけど……現金持って来て正解だったな!」

 

 男4人で集まっているせいで、こんな不真面目な会話に間を挟んでくる者は誰もいない。ちなみに塩崎は買い物には不参加。先の戦いで茨をだいぶ使ったから、水分補給と日光浴に時間を費やしている。

 

「それにしても……お昼になるけど、進展なしだね……」

 

「なんだか、のんびりしてんな俺達……」

 

 俺は携帯を開いてラーカーズとの連絡を確認するが、特にメッセージは届いていない。エジプトもほとんど砂漠とはいえ相当広い国だから、捜索する範囲が絞れていないのかもしれない。

 

「最初のテロやカチ込みからして、ガチなヤツらってのは間違いねえ……」

 

「まっ、プロのチームに加わったからには、頑張らねえとな!」

 

 そう言って、両手で買い物の紙袋を掲げたまま峰田が意気込む。背が小さいのだから買い物に来ても大変だろうと思ったが、誰も口には出さなかった。

 世界選抜チームに加われたのも、マウントレディの推薦の声が大きかっただろう。ふざける時と働く時のメリハリは、自分達なりにつけているつもりだ。

 

「思想団体ヒューマライズ……個性終末論……って、確か……仮免試験の時、士傑の先輩もなんか言ってたよな……」

 

「うん……正直、この先……個性がどう進化していくのかも、まだ研究は進んでないんだって……」

 

 上鳴の言葉に、俺は肉倉先輩の姿と会話を思い返す。仮免合格以来、先輩との直接のやりとりは存在しないが、彼が合格しているのならいつかはどこかで出会う日も、案外あるのかもしれない。

 

「でも、今のチビッ子達は、しっかりしてるぜ!」

 

 自分達が個性で滅ぶ事なんて有り得ないと、峰田が元気良く飛び跳ねて主張する。年明けからマウントレディ達と一緒に行ったファンサで、彼はすっかり子供のヒーローが板についてきたし、俺も瀬呂、上鳴、塩崎まで、そんな峰田の成長を微笑ましく見守っていた。

 

「プレゼントマイク先生のラジオでも言ってたもんなぁ!」

 

「もちろん…………個性とは可能性だもの……!」

 

「へへっ、久しぶりに聞いたぜ……!」

 

「なおさら、ヒューマライズには勝たねえとな!」

 

 周りとの会話通り、文化祭を終えてから少し経った後、俺はプレゼントマイク先生に誘われてラジオの収録に招待されたのだ。『ぷちゃへんざレディオ』は普段は深夜放送なんだけど、俺が未成年だからその日だけ夜の早い時間から、22時ギリギリまでの放送に変わった。

 最初は普通にお便りを受けてラップでディスりながら、ベラベラと駄弁っているだけのラジオだった。途中ウチのクラスメイトのお便りじゃないかってヤツも何個かあったが、適当に流しておいた。

 そっから、せっかく雄英生……しかもこのヴィラン隆盛の激動の中、体育祭やインターンやらで有名になってしまった俺に、プレゼントマイク先生から雄英に入学してからのぶっちゃけた対談が始まった。面談にも近かったが、他クラスの生徒を指導すると相澤先生がうるさいらしく、好きに喋っていいと言われてしまった。

 そこからは本当に、好き勝手に喋らせてもらった。もちろんトガちゃんの事は一切合切伏せたが、雄英の入試から、様々な事件とイベントを得て、今の自分がいる事。こんな危険な個性を持っても、ヒーローとして輝いてみせたい事。

 

 そして、どんな個性でも前向きに生きていけるような、明るくて優しい世界を作る事。本当に、色々な事を話した。

 

 最後は来年も2年生になってからも、学校生活が楽しみだし、これからもよろしくお願いしますと区切りを良くして、ラジオは何事もなく終わった。

 

「つか、峰田お前あんな場所で、マジで笑わせんなよw!!」

 

「オ、オイラぁ!?」

 

 ヒューマライズの言葉が出てから、ラジオとは一転して瀬呂が笑いながら峰田を指差した。それに連れられて上鳴も彼を見ながら叫ぶ。

 

「輸送機のケツに立った瞬間、吹き飛ばされそうになるしっ! 立ってる間もプルプルプルプルってwww!」

 

「だから切裂に抱えてもらえって言ったじゃんかっ!!」

 

 最初の強襲任務の作戦会議の出来事だ。輸送機で飛び降りると聞いたので、5歳児ボディの峰田じゃ風に煽られまくるだろうから、俺の胸元にハーネスで固定しようかと案が出たのだが、本人が全力で嫌がったのだ。

 

「ウルセーッ! お前だってビビッてただろー!? つかッ、お前ら2人は怖くなかったのかよ!!?」

 

「俺は切島くんや鉄哲くんと、しょっちゅうビルの上から投身自殺してるし」

 

「俺は訓練場でアクロバット、キメ込んでるからな!」

 

 確かに普段の訓練場で飛び降りるビルなんかより比べ物にならない程には高かったが、恐怖心は湧かなかった。パラシュートなしで落ちても今の自分の硬度なら、たぶん死なないという変な自信もあったが、楽しい気持ちの方が勝っていたのだろう。

 

「しっかし、高級ホテルに泊まれるとは言え……ここの生活は結構キツいぞ……」

 

「だよなぁ……メシも何か味気ねえし……」

 

 瀬呂の言う通り、仕事として海外には来れたものの、きて初日早々から自分の国との生活の差に困惑しているのは、俺達だけでなくラーカーズも全員だった。目の保養も、今はマウントレディしかいない。

 

「オイラ、ちゃんとした米が食いてえ……」

 

「塩崎ちゃんも、ここの水道水は絶対に飲むなって言ってたしね」

 

 なにより、すぐ目の前に学校の教科書にも載っていた写真の光景が広がっているのだ。全員が観光にも行ってみたかったと愚痴を漏らす。俺も個人的にはピラミッドや墓の出土品がある、物凄く有名な老古学博物館に行ってみたかった。

 

 そんな事を考えていると、途端に響く爆発と地鳴り。

 

「「「「ッ!?」」」」

 

「キャーッ! 強盗よーーーッ!!!」

 

 俺達4人が振り返った先、大通りの向こうで黒煙と共に人の喧騒が響き渡った。

 

「ったくッ! こんな時に、よくも悪さしてくれるよなぁ!」

 

「雄英高校1年A組、仮免インターン生、出動ッ!!!」

 

「荷物は任せて、行ってっ!!!」

 

「しゃあっ、頼む!」

 

 他所の国で荷物を置いたら、そのまま置き引きされかねない。操血刃で全ての荷物を巻きつけて固定しながら跳ね上がった俺を、すぐさま峰田と瀬呂、そして上鳴が飛昇して騒ぎの中へと飛び込んでいった。

 

 

 

 

 

 ヴィランも捕まえて俺達はホテルへと戻ってきた。一応、事件を調べてはみたものの、ヒューマライズとは無関係の犯罪者だった。

 荷物も無事にマウントレディ達に預けて、自分達の買った物を回収した俺は、サラームに新しい折り紙の作品を教えようかと考えていた。

 

 だが、戻ってくるなり俺達には、想像を超えるニュースが届いた。

 

 

 

『……繰り返しお伝えします。オセオン警察の発表によると、死者12名を出した殺人事件の犯人は、ニッポンから来たヒーロー《デク》 本名《イズク ミドリヤ》と断定。全国に指名手配しました。なお、容疑者には共犯者と思われる───

 

 

 

 なんと緑谷が派遣先の国で指名手配されていたのだ。

 

「日本だと……!?」

 

「バカな……!」

 

「デク……って、あの子……!」

 

「待って待って! 緑谷がそんな事するワケねえよっ!!」

 

「当然! 何かの間違いッス!」

 

「誤報だ誤報っ!!!」

 

 3人が他のプロヒーロー達に弁明している中、俺は画面から情報を探れないかとニュースの内容を睨み続ける。

 

「緑谷くん……また何かやったね……!」

 

「あぁ…………主よ……これもまた、試練なのでしょうか……?」

 

 I・アイランドに続いて、こんな壮大な任務に就いたって事は、もしかしなくても緑谷達の所で何かが起こるとは踏んでいたが、まさか国際指名手配されるとは。

 

「あっ、メッセ───あでッ!?」

 

「「「「「?」」」」」

 

 余計な事を言おうとした上鳴の両足を、俺と峰田が黙って同時に踏み潰す。今ここで緑谷と連絡を取れる手段をプロヒーロー達に知らせるのは、同じ日本代表である俺達とラーカーズの立場が危うくなる。

 

 それに、あっちにはエンデヴァーはともかく、爆豪も轟もいる。最強の3人がいれば、なんとでもなるだろう。共犯者と呼ばれる男がいったい何者なのか少し気になったが、遠く離れたエジプトからでは塩崎と同じ様に祈るしかない。

 やるんなら水面下で、だ。他の国に派遣されたクラスメイト達も、同じ事を考えているハズだ。

 

 

 

 

 

 それから1日経つものの、緑谷の事も進展は起こらなかった。だが、その日に送った俺のメッセージへ真っ先に反応してくれた轟曰く、緑谷がオセオンの隣国に位置する『クレイド』って所に逃げようとしているらしく、彼も爆豪を連れて合流するそうだ。

 やっぱり俺達の予想通り、何かの事件にハメられたらしく、ヒューマライズと関係があるのかどうかはハッキリしないが、ヴィランに付け狙われていると聞いては何が裏があるのは間違いない。指名手配してきたって事は警察にもヴィランの息のかかった者、それもある程度権限を持っているヤツがいるに違いないから気をつけて、と連絡を送る事しかできなかった。

 もちろん、この会話はA組B組のグループメッセージのみのやり取り。どこが誰と繋がっているのか複雑すぎる以上、プロヒーロー達には教えられなかった。何でこんな目に遭っているのかは緑谷本人もわかっていないらしいが、クラスメイト達は少なからず安堵しているだろう。

 

 ただ、それでもヒューマライズやトリガー・ボムに関する進展はエジプトでも、他の国でも起こらず、時間だけが過ぎようとしていた翌日の夕方。

 再び俺達はプロヒーロー達と一緒にホテルの作戦室に招集された。

 

 それまで動きを見せる事のなかったヒューマライズが、ハッキングで世界同時放送を始めたのだ。

 

『我々ヒューマライズは決起する。個性という病に侵された者達から、無個性と呼ばれる純粋な人類を守る為に、我々が開発した人類救済装置は世界25カ国に配置され、既に動き始めた。人類救済までのタイムリミットは今から2時間……」

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「「2時間!?!?!?!?!」」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 今すぐとか言わないだけマシだと思ったが、それでも短すぎる制限時間に俺や峰田だけでなく、周りのプロヒーロー達まで声を合わせた。

 

『だが、我々も無慈悲ではない。この計画を阻止したいと願うのなら、人類救済装置を設置した地域をお教えしよう。我々と異なる考え方をしていようとも、チャンスは平等にあるべきだ……!』

 

 フレクトの台詞を最後に、次に映ったのは電子的な世界地図と赤いポインター。同時に司令部の慌ただしい声が、自分達の無線機から聞こえてきた。

 

『トリガー・ボムの設置区域、全25箇所! 全てヒューマライズの支部がある区域と一致しています!』

 

『ヒーローチーム、全員出動だ!!!!!』

 

 その命令と同時に、プロヒーロー達は一斉に動き出す。俺達はラーカーズの隣にいたが、このまま単独チームで動くか強襲時の様に別のヒーロー達とチームを組み直すかで周囲の意見が割れようとした所に、サラームの声が響き渡る。

 

「各員、単独で動く事なく、己の個性をカバーし合えるチームアップを実行せよ! 我はラーカーズを率いる!」

 

「サ、サラーム! 今、ニッポンのヒーローを信用するというのですか!?」

 

 すぐさまサラームとは別の、エジプトのプロヒーローが彼に疑問を投げかけるが、彼はペラペラの手を伸ばしてピシャリと断言する。

 

「彼等は信頼できる。私が証明しよう。来い!」

 

「「「「「「「「は、はいっ!!!」」」」」」」」

 

 即興でチームアップが形成され、サラームに連れられた俺達はラーカーズ達と一緒に、一斉にホテルから飛び出す。コスチュームは強襲の時と違って全員、元の色合いの格好に戻していた。ちなみにこの日、俺が着ていた迷彩服は砂漠用のデザート迷彩だ。日本に砂漠なんてないし、まさか使う機会が来るとは思わなかった。

 おまけにクソ暑かった事もあって普段のヘルメットは外し、ゴーグルはゴムバンドのタイプに戻している。代わりに頭にはアフガンストール……別名シュマグで顔を覆っていた。

 

「サ、サラーム! ありがとうござ───

 

「礼などいらぬ! 名誉を取り戻せるかは、君達次第だ!!」

 

 俺の言葉を遮って、サラームはペラペラの体で器用に走って先導していく。どこに向かっているのかを、まだ聞いていなかったが。

 

「No.1に御膳立てを頂いた以上……最善を尽くさねば……!」

 

「ええっ! 私達で、なんとしてでも爆弾を探さないと!!」

 

 エッジショットとマウントレディも、孤立しそうだった俺達ラーカーズを推してくれたサラームに応えるべく、駆ける足を早めて彼を追う。しかし、それでも爆弾に関しての不安はまだ拭いきれない。

 

「でも、どうするよっ!? こんな広い街で……!」

 

「ヒューマライズの罠かもしれねえぞッ!?」

 

「いいや! 考えたくねえが、たぶん本当だッ!」

 

「俺達を巻き込むつもりなら、嘘はつかない!」

 

 瀬呂は気づいたのだろう。シンリンカムイの言う通り、ヒューマライズの言った事は罠かもしれないが、むしろソレが狙いだ。

 

 どれだけのリスクがあろうとも、ヒーローは逃げない。

 俺達を誘い込んでトリガー・ボムを爆発させれば、地球から自分達の脅威となるヒーローを粗方片付ける事ができてしまう。施設に用意されていた大量の銃火器は、その後の消化試合のつもりだろう。

 

「謀り事には裁きを……! ですが、これほど広大ですと、私の茨でも……」

 

「いや、爆弾どころじゃない……!」

 

 トリガー・ボムが無個性に効かないのなら、爆弾は監視していて当然。でも、爆弾の細部の位置がわかっていないため、こうして走り回っていても周囲にはヒューマライズの団員の影は見えやしない。

 それに、あんな犯行声明を流したからには起こるべき事態が起こっていた事で、急に目の前を走っていたサラームが急停止する。

 

「ぬうッ!?」

 

「サラーム!? うわっッ!!」

 

 停止した彼の目の前に、暴走したトラックが通り過ぎて街路樹に激突したのだ。それだけでなく、響き渡る鳴り止まないクラクションと、連続する自動車の衝突音。

 俺達の買い出しに出かけた街がヒューマライズの犯行声明でトリガー・ボムの設置区域となっている事が判明し、大パニックが起こっていたのだ。

 

「これは……!」

 

「おのれヒューマライズめ……我々の街を……!」

 

「大方、爆弾捜索の時間稼ぎのつもりだ……!」

 

「だが、俺達のやるべき事は……!」

 

 カイロから逃げ出そうとする民間人のせいで、交通機関は完全に麻痺。大通りも人と車でごった返して、身動きが取れなくなっていた。

 爆弾の捜索は第一優先かもしれないが、困っている人々を素通りする訳にはいかない。それはサラームもわかっているし、何より彼の判断が早かった。

 

「チームを分担する! 救助の得意な個性の持ち主は、人々の避難誘導を! 機動力に特化した者は我と共にトリガー・ボムの捜索に移る!!」

 

「事故車の移動は私がっ!」

 

「私も支援します……!」

 

 サラームの命令によって、指示される事なくマウントレディと塩崎が動き出す。巨大化した体で事故車を他の車両の妨げにならない場所へと運び、塩崎は混乱に取り残された市民を茨で運び始める。

 そして、それ以外の俺達は避難誘導をしつつ爆弾の捜索へと移るのだが、いかんせん範囲が広すぎて捜索がままならない。モギモギ、テープ、エアグライダー、そして操血刃で市街の中を飛び交うが、人助けが進んでも肝心の爆弾が影も形も見つからなかった。

 

「もう1時間切っちまったぜ!!?」

 

「クソ……ッ!」

 

 腕時計を見ながら、スケボーで空を飛び回る上鳴の大声が響き渡る。まるでフレクトに弄ばれている様な気がして誰もが焦燥に駆られる中、急に無線機から司令部の声が聞こえた。

 

『作戦司令部から、オセオンチームより急電です! トリガー・ボムの解除キーを手に入れたとの事!』

 

「えっ!?」

 

「どういう事っ!?」

 

「ん!?」

 

 プロヒーロー達も動揺するその報告と同時に、俺の持っていた携帯電話から轟……というか、緑谷達からメッセージで連絡が届いた。

 

 元々トリガー・ボムはヒューマライズが作り出したのではなく、ヒューマライズに拉致されたり家族を人質に取られた科学者達によって無理矢理作り出された兵器であり、その1人が文字通り命懸けで作り出したトリガー・ボムの解除キーを別の科学者に託し、ヴィランに狙われながら命のリレーを経て鍵を手に入れたそうだ。緑谷の指名手配の共犯者とは、おそらく科学者の関係者なのだろう。

 緑谷達の逃げた『クレイド』って国にヒューマライズの隠し施設があるらしく、トリガー・ボムの制御装置もソコにあるそうなので、今から爆豪も合わせた3人でカチコミを仕掛けるとの事。

 

 ボスであるフレクト・ターンも間違いなくいるだろうが、躊躇う理由にはならない。緑谷なら俺がいなくたって、やってくれる……!

 

「緑谷……!」

 

「頼むぜぇ……!」

 

「大丈夫、あの3人なら……!」

 

「祈りましょう……私達は成すべき事を遂行します……!」

 

 緑谷達のおかげで少しだけ心に余裕が生まれた俺達は、民間人の非難と救助を優先していく。それでも、万が一トリガー・ボムが爆発しても被害を極限させるべく、爆弾の捜索は続行していた。

 だが、救助活動も進んで人混みも車も履けてきたが、それでも爆弾は見つからない。

 

「俺達を巻き込むつもりなら、爆弾はこの辺りにしかないハズだ!」

 

「でもよぉ! 地図にはカイロにあるっつったって……!」

 

「こんなバカ広い場所で、爆弾なんて見つかんのかよぉーーーッ!!!」

 

 瀬呂の言葉に上空では上鳴が、地面の市街地では峰田が飛び回りながら叫んでいると、そこに紙飛行機から人の姿に戻ったサラームが俺の隣に並走してくる。

 

「君達! 君達! 君達!! 君達!!!」

 

「「「「サラーム!!?」」」」

 

「見つかるのではなく、見つけるのだよ!!! 我に続けェーーーーーッ!!!!!」

 

 そのまま彼はペラペラの体を進行方向に対して並行に向け、縦一線状態のまま車のはけた大通りを尋常じゃないスピードで走り始めた。

 

「「「速えぇェェェェェェッッっ!?!?!!」」」

 

「ペラペラなのは伊達じゃねえっ!!!」

 

 みんなが驚いている視線の向こうで我先にと走っていくサラームだが、闇雲に走っても見つかるワケじゃない。

 

 思い出せ。このまま緑谷達だけが頑張って終わる相手じゃない。

 

 爆弾を探すヒントは、どこかにあったハズだ。

 

 不意に、サラームを追って市街地を移動していた俺は、隣をモギモギで跳ね飛んでいる峰田に声をかけた。

 

「……峰田くん、最初のテロが起こった時の動画、見たよね……?」

 

「あ? あぁっ! 色々なモン、我慢しながらなッ!!」

 

 あの凄惨な映像を思い出したのか、峰田は焦燥と怒りの混ざった言葉を返した。もしも今ココで爆弾が爆発したら、自分達も同じ運命を辿る事になるのだから。

 

「イディオ・トリガーは元々、八斎會の持ってた個性をブーストする液体の薬から派生させて……ソレをガスに変えたって事だよね……!?」

 

「あぁ!? あぁ……で、それがどうしたんだよっ!?」

 

「あのガス……爆発した時は凄かったけど、最終的に全部液状化しちゃって、防護衣着けた人達が除染作業してた……!」

 

「そいえば、地下鉄も何もかも全滅……って、そうか! 比重が重いのか……!!!」

 

 ガスは蒸発しなかった。つまり空気よりも比重は重く、常温で液状化してしまうガス。大掛かりになるとはいえ、仕掛ける場所は限られてくる。

 

「比重の重いガスで、なるべく多くの人を巻き込むなら……」

 

「上から下に向かって吹き流すのがイチバン!」

 

 俺と峰田の会話に割り込んできたのは、瀬呂だった。テープで引き伸ばしと巻き取りを繰り返しながら、俺達と一緒に並走する。

 そのまま大通りに着地した俺は、飛んでいた上鳴を呼び戻して3人に質問する。

 

「エジプトで人が集まって、尚且つ高い所って言えば!?」

 

「え!? ピラミッド!!?」

 

「あんな場所、観光客しかいねえだろっ!」

 

「でもオイラ達、エジプトの高い所って言われても、ソレぐらいしか……」

 

 上鳴の答えに瀬呂が指摘し、峰田は腕を組んだまま唸っていると、さっきまで道路を爆走していたサラームがそのままのスピードで俺達の前に急停止した。

 

「惜しいぞ! ギザのピラミッドのある此処『カイロ』の人口は約1000万人!! 人口密度の高いダウンタウンから商業施設の集合するナイル川まで一望できるのは……

 

 そう説明口調で話しながら、サラームは遠くに聳えた観光名所のひとつである、細い塔を指差した。

 

 

 

 

 

 ……高さ187メートルを誇る『カイロ・タワー』のみ!!!」

 

 

 

 

 

「そこしかねえッ!!!!!」

 

 場所が決まったとなれば、向かうはタワーの屋上。俺は操血刃を伸ばして、道路を爆走するサラームよりも速く市街地の建物を飛び越えて、一直線にタワーのある場所へと向かう。

 

「へへっ、機動力で負けてたまるかよっ!」

 

「オイラ達も行くぜェェェッ!!!!」

 

「あぁッ、待ってぇっ!!」

 

『各ヒーロー諸君!!! 爆弾はカイロ・タワーにある可能性が高い! 手空きの者は急行せよ!!!!』

 

 サラームがエジプトのプロヒーロー達に向けて一斉通信を行っている間に、瀬呂と峰田と上鳴がすぐ俺へ追いついてくる中、今度は無線機から司令部の声が響き渡った。

 

『オセオンチーム! トリガー・ボムの発見に成功しましたが……ヒューマライズの団員に妨害されて、手出しができません!!』

 

「はぁ?」

 

 無個性の集団なんか、銃を持っていたとしてもエンデヴァーの敵じゃないだろう。なんで苦戦しているのかと問い掛けたくなった直後、タワーに向かって距離を縮めていく俺の飛び上がった建物の向こう。アンテナや給水塔のある屋上からローブ姿の、ヒューマライズの団員が見えた。

 

「え……?」

 

 その手には、アサルトライフルなんかよりひと回り以上も大きな砲身を肩に担ぎ、先端の膨らんだ弾頭部分を重たそうに俺達へ向けてきた。

 

 

 

 

 

 まさか……まさか、まさかまさかまさか、こんな台詞本気で叫ぶ日が来るなんて思わなかったし、思いたくもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「RPGィーーーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空気の抜ける音と同時、ロケットの噴射音。そのまま白煙を描きながら高速で飛来した馬鹿デカい弾丸が、腹の底から叫んだ俺の頭の真上を通って市街の建物に命中した。

 

「うわぁあぁァァァァッッ!?!!?!!!」

 

「なんだぁァァァァァッッ!?!!!!」

 

 両隣の瀬呂と峰田が恐怖で叫びながら思わず散開する軌道を取って、直後に背後では火薬の爆発と建物の崩落する音が聞こえた。それでも俺はロケットランチャーの発射と同時に後方へ噴出したバックブラストの白煙が見えている位置から目を離さず、そこで次の弾頭を慌てて込めようとしている団員を睨む。

 

「らあァッ!!!!!」

 

「ぐおォォッ!?!!」

 

 すぐさま操血刃をフックショットの要領で伸び縮めて団員に肉薄し、ドロップキックを叩き込みつつロケットランチャーを取り上げる。団員は操血刃を伸ばしてグルグル巻きに拘束し、ランチャーは爆発物なのでセーフティをかけてから丁寧に床に置こうとすると、そこに無線機からマウントレディの俺を呼ぶ声が聞こえた。

 

『ハァ、ハァ……ブレイズ! 今の爆発は何!?』

 

 民間人の避難誘導を終わらせたのだろう。振り返れば、ロケットランチャーの着弾した場所にマウントレディが巨大化しながら首を動かし、俺を探そうとしていた。

 そこに顔を向けながら俺は無線機越しに、直接聞こえるぐらいのつもりで彼女に叫ぶ。

 

「マウントレディッ!!!!! 巨大化戻せぇッッ!!!!!!!」

 

「えっ!? キャッ!!?」

 

 怒声にも近かった俺の声に、動揺した彼女が縮み始めた瞬間、そこに向かって数発のロケット弾が別々の場所から飛来し、縮小する彼女の肌を掠った。

 途端、市街地の中で重なり合う爆音。建物の影に消えたマウントレディの声は、爆風に煽られて聞こえなかった。

 

「「「「マウントレディッッッ!!!!!!!」」」」

 

 俺達4人全員の声が彼女に向かって叫ばれた瞬間、無線機からは塩崎の声が返ってきた。

 

『彼女は無事です……が、これは少々……手を焼くかもしれません……!』

 

『イタタ……! 私は大丈夫ッ!! あなた達はシンリンカムイとエッジショットと行ってッ!!!!』

 

 続く様にしてマウントレディの声が聞こえて安堵するが、直後に銃声の音が無線機と市街地から響き渡る。

 

「クソッタレェェェェッッ!!!!!」

 

「無視するワケにはいかねえッ! 見えたヤツは全員取っ捕まえねえとッ!!」

 

 瀬呂と峰田がロケランを持っていた団員達を拘束し、再び俺の所へと戻ってくる間に俺は上空からポインターを放って電撃を送り込む上鳴を呼んで、3人と合流してからタワーに向かって移動する。

 巨大化できるマウントレディはロケラン持った信者には大きな的でしかない。塩崎の茨は重ねれば銃弾も防げるから、彼女がいれば守りながら団員の拘束まで容易だ。

 だが、ロケット弾の直撃なんて試しなどないだろう。建物の屋上やらテラスやらから姿を現し始めた団員が、俺達に向けて銃火器をぶっ放し始める。

 

「どこからともなくワラワラと……!」

 

「ゴキブリかコイツらはぁ!」

 

「けどッ! タワーの方に爆弾があるのは間違いねえみてえだなッ!!」

 

 俺達4人は不規則に飛び回りながら、銃撃やロケランを放とうとする団員達を拘束し、タワーを目指して市街地を飛び抜ける。爆走するサラームの姿は見えなくなってしまったが、不意に2つの影が団員達と会敵する俺達の間を通過する。

 

「ウルシ鎖牢!!!!!」

 

「シンリンカムイ!!」

 

「忍法……千枚通し……!!!!!」

 

「エッジショット!!」

 

 それまでサラームを援護する様に、彼のスピードに並走していたエッジショットとシンリンカムイが、団員を無力化しながら俺達の近くへと跳ね飛んで来た。

 

「広場は避けろ! 偏差も見越せ!」

 

「不意急襲だろうと、必ず兆候は見える筈だ……!」

 

 難度の高さに思わず息を呑むが、2人は今までのインターンで俺達が出来る事を信じている。そもそも、できなければあのロケット弾を受ける事になるのだ。やるしかない。

 俺と峰田、瀬呂が更に激しく飛び回りながら団員を捕らえる最中、上鳴だけはスケボーに乗って上空へと大きく飛び上がった。

 

「へへッ! こんだけ高く飛びゃ、狙えねえだろっ!!!」

 

 だが、次に見えてきた団員の持つロケットランチャーが上鳴を狙っていたのを見た瞬間、俺は遠くに見えた彼に向かって無線機で叫ぶ。

 

「上鳴ッ、高度落とせッ!!!! 『SAM』がお前を狙ってるッ!!!!!!」

 

『サ、さム!? 《サム》って何だぁ!!?』

 

「地対空ミサイルッ!!!!!!!!!」

 

 俺の叫び声を掻き消して、俺達を狙うロケットランチャーを構えた信者の担ぐ砲身から、煙と同時に砲弾が発射された。

 空気の抜ける音と同時に砲弾に折り畳まれた羽が空気中で展開され、ロケット噴射しながら上鳴を目掛けて突進していく。

 

「ウェエェェェェェェッッ!!?!?!!!」

 

 素っ頓狂な悲鳴を上げながらスケボーを加速して振り切ろうとする上鳴だが、ミサイルは彼との距離をみるみる縮めていく。

 

「チャージズマッ!!!!」

 

「上鳴ぃっ!!!」

 

「ソレは電子制御だッ! 意味わかんだろッ!!!」

 

「っ!?」

 

 鋭角に軌道を逸らしても追尾を続けるミサイルに彼は電撃を放ち、黒煙を吹いて落下させた。その弾頭部に向かって俺が斬撃波を放ち、真っ二つに割れたミサイルが空中で爆散する。

 

「よしッ!!」

 

 SAMを放った団員は峰田が片付け、更に上鳴を狙おうとした別の団員は瀬呂のテープで拘束し、俺は降下してきた上鳴と合流する。

 

「ハァ、ハァ……! し、死ぬかと思ったぁ……ッ!!」

 

「アイツら、いったいどんだけ兵器持ってやがんだ!?」

 

「戦争でも始める気かよッ!」

 

「携帯用SAMを改造して、人間にロックオンできるようにするとは……!」

 

「大方……飛行能力を備えたヒーロー対策だろう……!」

 

 シンリンカムイやエッジショットの言葉を聞いて、俺は姿の見えなくなってしまったサラームを探す。あのSAMなら紙飛行機も狙えてしまうだろう。

 

「サラームっ!!! どこにいますかっ!? 気をつけてッ!!!」

 

 だが俺の叫び声と裏腹に、サラームは元気の良すぎる声で建造物の縁から風に乗ってペラペラの姿を飛び出した。

 

「心配はいらぬッ! トォーーーーーッッッ!!!!!!」

 

 次の瞬間、サラームの体は紙飛行機とは別の形に折れ曲がり、折り紙の『蛙』の姿で建物の屋上に着地すると、街路樹や電柱を飛び回って俺達の前を爆進する。

 

「誰だよカエルなんて教えたの?!」

 

「俺……」

 

 そのコミカルな姿に動揺している団員が放つロケット弾や銃撃を、ピョンピョンと器用に回避しながら、サラームは目立ちすぎる高笑いでタワーを目指した。

 

「ハーーーーーッッハッハッハッハッハハハハハハハッッッ!!!! そんな卑劣な武器で倒せるものかッ!!! 我に続けェーーーーーッッ!!!!!」

 

「クッソッ! なんだアレはッ!?」

 

「あの声はエジプトのNo.1ヒーロー、サラームだッ!!」

 

「仕留めろッ! 当てれば褒賞モノ───

 

「させっかァッッ!!!!!」

 

 まるで蛙吹の背中を追っているみたいに、俺達は跳躍を繰り返すサラームを必死に追いかける。彼がデカい声で高笑いし続けるせいで団員の注目が彼へと引き寄せられ、そこに俺達が奴等を蹴散らしながら通過していく。

 そんな彼の後を辿ってカイロの市内を跳ね飛んでいると、目的のカイロ・タワーがハッキリと見えてきた。

 

「タワーが近くなったっ!」

 

「敵も増えてきたけどなッ!」

 

「関係ねえ、突き進めえっ!!」

 

 すでに爆発予告時刻まで30分を切っていた。俺達は疲れも頭の隅に追いやり、目的地のカイロ・タワーを大きく見上げる。砂漠の砂嵐にも影響されにくい、デカい格子状の壁を円筒型にして、先端は細い鉄塔のシンプルなデザインだ。

 タワーのある場所は『ザマーレク』と言う、ナイル川が二又に分かれてまた合流する離れ小島(それでも相当デカいが……)になっている。橋も何本も繋がっているが、俺達は視線の集中する橋を避けて目の前を流れる幅100メートルぐらいの細い河をそれぞれの個性で飛び越える。

 

 いや、飛び越えようとした。

 

 川縁から幅跳びみたいに大きく跳躍をしてみせた俺達に、対岸からコンテナを積んだトラックが投げつけられた。

 

「「うわッ!!?」」

 

「クッ!?」

 

 咄嗟に峰田はジャグリング中のモギモギで跳ね上がり、瀬呂はトラックにテープを貼り付けて飛び越える。上鳴は高度を上げたようだ。

 俺は目の前のトラックを真っ二つにして、そのまま対岸の道路に着地するが、その瞬間レーザーやらエネルギー弾やらが集中し、道路をひっくり返す程の大爆発が起こった。

 

「うおッ!!?」

 

「ブレイズ!!!」

 

 操血刃を伸ばしながら刃で弾き、爆心地からは飛び退いた。が、爆炎に飲み込まれた俺の姿を見てしまったのか、いつの間にか蛙から紙飛行機に変身して滑空するサラームが俺に向かって叫ぶのが聞こえた直後、タワーの市街からオレンジ色の火炎が伸び広がって彼を襲う。

 

「なんと!?」

 

 すぐに風の煽りを調節して炎を回避したサラームが、元のペラペラの姿に戻る。しかし、そこに向かって数丁もの銃撃が集中した。

 

「サラームッ!!」

 

「くッ!」

 

 咄嗟に体を捻らせて射線を避けるサラームに、硬化した体で庇った俺が操血刃と刃を振り乱して銃弾を弾くと、彼を狙っていた銃撃が急に全て止まった。

 

「……ッ?」

 

「ブレイズ!」

 

 刀身から煙を上げながら、少し迷彩服の破けた俺の肩を掴んで声をかけるサラームに続いて、トラックを回避して島に着地した峰田達が集合してくる。エッジショットとシンリンカムイも後に続いて来たが、その視線は俺ではなく周囲へと向かれていた。

 

「切裂っ!」

 

「大丈夫か!?」

 

「あぁ……! 心配ないけど……!」

 

 爆煙が風に煽られて、周囲一帯の様子が露わになった目の前。そこには、常人よりもひと回り以上も体格の大きなヒューマライズ団員が立ちはだかっていたかと思いきや、煙が晴れて見えたその両腕が8本に生え揃い、それぞれの手に銃火器を構えていた。

 

「ハァッ!!?」

 

「ヴィラン!?」

 

「個性ッ!!?」

 

「なんでヒューマライズがッ!?」

 

 動揺しながらも戦闘態勢に移行した俺達の前で、顔の見えない仮面を付けたままの団員は心酔する様な声で告げる。

 

「フレクト・ターン様は望まず個性をもたらされた我々にも、平等にチャンスを与えてくださる御方…………彼の創る新たな世界を我々は生きるのだよ……!」

 

 奴の台詞と共に、個性を発動させているローブ姿の団員が次々と周囲に並び、俺達に構えをとった。

 

「自分だけ助かろうって口かよ……!」

 

「大方、傭兵か何かだろう……!」

 

 峰田の零した台詞に、シンリンカムイが団員を睨みつけながら答える。こんな奴らを残したら、そのまま勢いで世界征服までやりかねん。いや、それか俺達ごとトリガー・ボムで始末するつもりだ。

 

「くっそぉ……!」

 

「もう時間がねえッてのに……ッ!!」

 

 離れ小島にはサラームの無線を聞いて無名のプロヒーロー達も突入に成功したのか、市街の中や川を挟んで爆発音が聞こえる。だが、肝心のタワーにはまだ誰も辿り着いていないみたいだった。

 

「正面突破だ。一刻も早くタワーへと向かうぞ!」

 

「「「「「おうッ!」」」」」

 

「道を開けよ、ヴィラン共ッ!!!」

 

「やってみやが───

 

「んっ!?」

 

 エッジショットとサラームの勢いに押され、そのまま団員達へ衝突すると思いきや、いきなり俺達の頭上を通り過ぎて、トラックやらバスやらが団員に投げつけられた。

 

「「「「「うおぉォォォッ!!!!?」」」」」

 

「どきな……さいッッッ!!!!」

 

 振り返れば、俺達に追いついてきたマウントレディが巨大化と同時に車両を掴んで団員へと放り投げる。それだけではなく、後ろには塩崎が茨で絡めた乗用車を団員に向かって無造作にブン投げていた。

 

「ひとりひとり相手にしていられないわっ! 行ってッ!!」

 

 そう叫ぶマウントレディの姿はロケランを喰らったのか、コスチュームの胸元が煤に染まって破けており、頭の角の片方が焦げ落ちていた。

 彼女の様子を見届けたエッジショットが、俺達に叫びながら体を紙糸へと変化させ、タワーの方向へと跳び上がる。

 

「ここまで来て置いてはいかぬ……全員、互いを援護しながらタワーを目指せ!!」

 

「「「「了解!!!」」」」

 

「逃すかァッ!!!」

 

「ブッ殺せェッ!!!」

 

「ヒャッッハーーーーーッ!!!!」

 

 車をぶつけられても見た目通りタフだったか、トラックを蹴り動かして出てきた団員が8本の腕で持ったアサルトライフルを乱射する。それに続いて車両を避けた団員も個性で総攻撃を仕掛けるが、それは地面を這って伸び広がった茨に防がれる。

 

「クルセフィクションッ!!!」

 

「なッ、なんだコレは───ッ!!!!

 

「イバラがッ、ぐおォォォォッッ!!!」

 

「こんなモノ……ッ!!」

 

 その内の数本は団員達を捕らえたが、ほとんどが個性によって茨を逃れて塩崎に攻撃を仕掛ける。8本腕の団員も銃撃で茨を散らして逃げ延びていた。

 

「く……ッ!」

 

「させっかッ!」

 

「グレープラッシュッ!!!」

 

 そこへ瀬呂のテープと峰田のモギモギが団員を捕え、団員を電柱や信号機に貼り付けながら、俺と上鳴の範囲攻撃でタワーまでの大通りを一掃する。

 離れ小島に入ってから街並みが変わり、綺麗に舗装された広めの道路や背の高いビルなど、近代化された建造物が増えてきた。だがそれでも、ヒューマライズの団員達は所構わず現れ、個性かあるいは銃火器をブッ放してくる。

 

「どれだけタイムリミットが迫ろうが……緑谷達が諦めるかよッ!」

 

 ビルの間を飛び抜ける上鳴が、脅威の高い団員を狙ってポインターを放ち、同時に電撃を浴びせる。ヴィラン相手に出力を上げたか、若干顔がアホとイケメンの境目になっている。

 

「「「俺達だってッ!!!」」」

 

 そこに俺、峰田、瀬呂が花火の中へと飛び込み、団員を片っ端から拘束しながらタワーの方角へと駆ける。

 シンリンカムイやエッジショットもビルの壁を走ったり、飛び上がって移動しながら団員達を無効化する最中、一向に数の減らない襲撃にマウントレディが動きだす。

 

「ここなら本気で大きくなれるわッ!!!!」

 

「まっ、待て岳山ッ!!」

 

 またロケットランチャーで狙われるリスクを読んでいたシンリンカムイが止めようとしたが、マウントレディが限界のサイズまで巨大化して団員を蹴散らそうとした。

 たちまち榴弾と曳光弾が彼女に集中するも、皮膚のサイズも肥大化して貫徹力が足りないのか、ヒーロースーツの上からBB弾の様に弾いていた。

 

 そのままやってしまえと、俺が操血刃で絡めた団員を別の団員に投げつけ、拘束しながら彼女の姿を見上げていたが、そこへ狙っていたかの様にマウントレディの目の前へ彼女と同等の体格に巨大化した、怪獣の様な異形型の信者が現れた。

 

「ウォォオォォォォォォォォッッッ!!!!!!」

 

「はあ゛あぁぁァァァァァァァッッッ!!!!!!」

 

 だが、巨大化した戦闘なら彼女の方が慣れているだろう。そのままマウントレディは団員の腕を掴んで足払いを仕掛け、その巨体を投げ飛ばしてビルの壁に叩きつけた。

 爆音と同時にビル全体がひしゃげ、窓ガラスが一斉に叩き割れて大通りに飛び散る。壊れた箇所からは壁やら鉄骨やらが溢れ、道路に亀裂を走らせながら崩れ落ちた。

 

「うわぁぁあぁぁぁっッ!?!!」

 

「無茶苦茶しすぎだぜッ!!?」

 

「でも、アレはマウントレディにしか止められねえっ!!!!」

 

 ガラガラと瓦礫の崩れる危険地帯を飛び抜け、俺は操血刃を纏いながら首を振って辺りを見渡した。

 

「あれっ!!? サラームはっ!!!?」

 

「彼はもう通り抜けたッ!」

 

「どうしたヴィラン……ッ! ヒーローは……ココにいるぞォーーーーーーーーッッッ!!!!!!!」

 

 エッジショットの指差す先。叫びながら団員の注目を引き寄せたのは、折り紙の『鶴』の姿で飛翔するサラームだった。ちなみに、教えたのは俺とエッジショットだ。

 スピードは紙飛行機よりも遥かに劣るが、上昇する力は何よりもある翼で彼の姿がビルの上へと舞い上がる。

 

「クソッ! タワーに行かせるなッ!!」

 

「叩き落とせッ!!!」

 

 団員達が武器を構えて上空を飛翔するサラームに狙いを定めるが、そこに操血刃で跳ね上がりながら追いついた俺が、両手の指を交差した刃を一気に解き放つ。

 

「発泡斬撃波ッッ!!!!!!」

 

「「「「「「「「「「どあぁァァあぁァァァァァァッッッ!!!!!!!!!」」」」」」」」」」

 

 斬撃波が乱れ飛び、街路樹や電柱も巻き込んで防衛網を切り崩された団員達が爆発と共に吹き飛ばされ、開けた大通りからタワーまでの道がハッキリと見えた。もう、すぐそこだ。

 

「峰田くん、登るよッ!!!」

 

「おうっ! ……えッ、登んのかッ!?」

 

「どうせ入り口の中で待ち伏せてるだろッ!」

 

 瀬呂の言う通り、玄関から入ったら蜂の巣にされてしまう。そのまま高速機動を描きながら外壁に飛びつこうとしていると、ズシンズシンと振動を響かせながらマウントレディが後ろから巨大化したまま走ってきた。

 

「ブレイズ、乗ってっ!!!」

 

「「「マウントレディッ!?」」」

 

 あの怪獣との戦いをもう終わらせたのか、彼女は道路を走りながら手の平を差し出し、有無を合わせない口調で命令する。そこに峰田を腰に抱えながら瀬呂と一緒になって俺が飛び込むと、マウントレディは俺達を指で優しく固定しながら、その巨体で大きく振りかぶった。

 

「マ、マジでっ!!?」

 

「ちょッ、ちょっとタンマ!!!」

 

「フンッッッッ!!!!!!」

 

 瀬呂と峰田の言葉を聞かず、俺達は遠心力を全身で受けながら、マウントレディの手の平から勢い良く投げ出された。

 彼女の巨大化した身長は2062センチメートル。20メートル近くの巨体から、187メートルのタワーに向かって投げつけられた俺達の体は飛んでいたサラームを一気に追い抜き、目的地であるタワーの屋上近くまで急上昇した。

 

「うわぁあぁぁあぁぁぁ〜〜〜〜〜っッッッ!?!?!!!?!!」

 

「よいしょっ!」

 

「おっと!」

 

 叫ぶ峰田を無視して綺麗な放物線を描いた俺は、操血刃を伸ばしてタワーにしがみつく。隣の瀬呂も動揺はしていたが、慣れた動きで壁に張り付いた。

 タワーの外壁が格子状だから、操血刃を引っ掛ける箇所には困らない。瀬呂もテープで外壁に張り付きながら飛び上がっていくのを見上げ、俺は続けて数本伸ばした操血刃で、蜘蛛の脚の様に動かしながらタワーを登っていく。

 そこへ無線機からマウントレディの声が聞こえた。

 

『ゴメンねブレイズ、グレープ、セロファン……ソコじゃ私の個性は使えないでしょ?』

 

「はい……!」

 

「オイラ、このエジプト来てから何回寿命縮んだんだろ……」

 

「次からは、ひと声かけてください……」

 

 瀬呂の苦笑いしながら答える返事に、彼女は可愛らしく笑った。

 

『ふふっ、トリガー・ボムは頼んだわよ……! シンリンカムイ、エッジショット! 乗ってッ!!』

 

『マウントレディ……! 異形の怪獣が……起き上がりました……!!』

 

『わかってるわ、ヴァイン! 急いでッ!!』

 

『お前達、十中八九爆弾はソコにあるだろう。絶対に油断するな!』

 

『チャージズマ、自力で登れるか?』

 

『当然……まだまだいけるッス!!』

 

 下も下でえらい事になっているが、マウントレディと塩崎が残るつもりの様だ。ヒューマライズの団員も、タワーに到達されたと知れば何がなんでも俺達を止めようと集結してくるだろう。もしかしなくても、市街地にいるヤツら全員がだ。

 

「2人とも、ゆっくりね……」

 

「ああ……!」

 

「わかってるって……!」

 

 もはや確信にも近かったが、それでも細心の注意を払って俺は操血刃を伸ばし、それぞれの個性で壁を縁まで登ってみせると、恐る恐る顔を出しながら室内を覗き込んで……その息を飲んだ。

 

「う……ッ!?」

 

 

 

 

 

 あった。

 

 

 

 

 

 黒い生物的な装飾を施され、まるで胎動の様に毒々しい光を隙間から漏らす5メートル四方の巨大な箱。

 俺は耳元の無線機を動かし、エジプトから作戦司令部まで通じる周波数で告げた。

 

「エジプトチーム……トリガー・ボム、発見! 場所はカイロ・タワーの屋上ッ! 数は4ッ!!!」

 

 

 

『『『『『『『『『『4ッッッ!?!!?!!!』』』』』』』』』』

 

 

 

 俺の声に、カイロ全域に散っていたヒーロー達の叫び声が反射した。

 俺と峰田と瀬呂の視線の先に、トリガー・ボムが4つ。おそらくエジプトにある全ての爆弾が、展望フロアの四方に設置されている。正面玄関には鎖が張ってあったから、改装中か何かの看板で誤魔化していたのだろう。

 

「4個も……!!!」

 

「こんなの同時に爆発されたら……!」

 

 瀬呂と峰田の想像する通り、このタワーのある離れ小島は瞬く間に死の島となる。それどころか、ナイル川も越えてカイロの市街全域にまでガスは広がるだろう。

 だが、この場でガスを防ぐ方法なら幾らでも手段がある。だからマウントレディも俺達を優先して、タワーに投げ飛ばしたのだ。

 

「峰田、瀬呂ッ!!!」

 

「わかってらぁっ!!!」

 

「アレを包み込んじまえば……!!!」

 

 峰田のモギモギと瀬呂のテープで箱を覆ってしまえば、爆発してもガスの流出は避けられる。室内に団員の影はなかった俺達は、すぐに動き出す。

 展望フロアの窓ガラスを俺が叩き切った瞬間、2人はすぐさま屋内へと飛び込んで爆弾の無力化のために個性を発動させようとした。

 

 だが、爆弾を1箇所に集積させたという事は、この場所に爆弾を守る戦力を集中させたという事になる。

 不意に、爆弾の陰に隠れていたヒューマライズの団員が、両手から放った衝撃波で窓ガラス諸共、峰田をフロアの外へ押し返そうとした。

 

「うおッ!?」

 

「テメッ……!!!」

 

 浮き上がった峰田の襟元を手で掴み、俺は空いた手で斬撃波を飛ばして団員に命中させる。ナマクラ刃で放つ斬撃波はローブを破く威力の衝撃を叩きつけ、団員は転がって動かなくなった。

 が、それに続いてタイミングを合わせたかの様に爆弾や物陰から次々と隠れていた団員達が飛び出し、たちまち個性の飛び交う混戦となった。

 

「乱戦なら得意だぜッ!!!」

 

 そう叫びながら峰田はジャグリングしていたモギモギを四方八方に散らせ、跳峰田で撹乱しながら団員達を片っ端からモギモギを投げつけて動きを封じる。そこに俺が操血刃、瀬呂がテープを伸ばして拘束し、フロアの天井や床に磔にした。

 一瞬にして白熱し、鎮静化したフロアで大きく息をついていると、そこに作戦司令部からの無線が響いた。

 

『トリガー・ボム爆発予告時刻まで、あと10分を切りましたッ!!』

 

「ヤベッ、急がねえとッ!」

 

 慌てて瀬呂がひとつのトリガー・ボムをテープでグルグル巻きにし始めるが、自分の身長よりも大きな箱をテープで覆うのは大変そうだった。ひとつ無力化させるにも、大幅な時間がかかってしまう。

 

「ハァ、ハァ……オイラも……!」

 

「峰田くん……血……!」

 

 瀬呂を手伝おうと、フラつきながら爆弾に向かう峰田だったが、ここまでずっと戦いっぱなしの反動が来たのだろう。彼の頭皮から流血が起こり、フロアの床をポタポタと赤く染めた。

 

「いいって……もう少しだけ、オイラにも無茶させろよ……」

 

「まだ油断できない……ちょっと休んでて……!」

 

 俺は峰田を止めながら、操血刃を緩やかに伸ばしてトリガー・ボムを覆う。刃にする前に力を調節して、なんとか血で包み込もうとした。

 

 途端、タワーの下で外壁からの爆発音。更にはエレベーターや非常階段のドアが破壊された。

 

「えっッ!?」

 

「峰田ッ!!!」

 

 吹き飛んだ鉄製のドアから峰田をテープで引いて庇った瀬呂が、代わりに顔面のバイザーでドアを受けてフロアを吹き飛び、窓の縁にまで転がった。

 

「あ……ッ!!?」

 

「やっべ……ッ!!!!」

 

 彼のコスチュームである黒いバイザーが割れて、目を閉じた彼の体がフロアの縁から外へと転がり落ちた。

 

「瀬呂ッッ!!!!!!」

 

 操血刃も峰田ビーズも間に合わず、フロアから転落した瀬呂に向かって飛び出した俺が下に向かって手を伸ばそうとした。

 が、それよりも早く瀬呂の体が空中で浮き上がった。

 

「えッ!!?」

 

 落ちた彼を頭で受け止めたのは、鶴になって飛んでいるサラームだった。

 

「彼は無事だ! 爆弾の発見、感謝するぞ!!!」

 

「「サラームっ!!!!!」」

 

 感極まった俺と峰田が叫んでも、サラームは頭に覆い被さっていた瀬呂を優しく俺に託し、そのまま空を飛び続ける。

 

「聞くがよいブレイズ。我は見ての通り、戦闘に関しては一段劣る! 下から登ってくる者の露払いは我に任せ……君達はトリガー・ボムを無力化せよ!!!!!」

 

「「はいっ!!!!」

 

 大きく返事をした俺と峰田だが、その間を割って妨害する者がすぐに現れる。爆破で破られたドアの煙の向こうから、銃を持った団員が突入して来たのだ。

 

「死ねえサラームッ!!!!」

 

「ヒーロー共も殺せッ!!!」

 

「あ……ッ!」

 

「ヤベ……ッ!!!」

 

 団員は迷いなく俺と峰田に向かって銃口と砲口を向け、俺は瀬呂を抱き留めながら操血刃を這わせてフロアの床を滑った。が、その引き金が引かれる事はなかった。

 

「ブレイズ!!!!」

 

「大丈夫か!!?」

 

 マウントレディに投げ飛ばされてきたのだろう、シンリンカムイとエッジショットが窓ガラスを破ってフロアに飛び込むなり、自身の必殺技で団員を薙ぎ払って無力化していく。更にはフロアの外周を飛行しながら、上鳴がタワーの下から登ってくる団員に雷撃を放っていたのだ。

 

「切裂っ!!! 爆弾は任せんぞっ!!!!」

 

「ヴィラン共よ……爆弾を取り返したくば、まず我を倒してゆけェーーーーーッ!!!!!」

 

 鶴の姿を解除するなり今度は『ハリセン』に体を折り畳んで変身したサラームが、タワーの外壁から登ろうとする団員をシバき周り、奴らの注目を一身に背負い込む。

 

「ブレイズ、協力して爆弾を覆え! 俺の樹木じゃ無理だ!!」

 

「団員は俺達に任せろ。セロファンを起こせ!」

 

 紙糸で何人もの団員を貫いたエッジショットと、窓ガラスを割って吹っ飛ばされた団員を樹木で捕まえて宙吊りにさせるシンリンカムイの指示に従って、俺は操血刃で瀬呂を引き寄せてから彼の体を揺り動かして叫んだ。

 

「瀬呂ッ!!!」

 

「い……いッ、てぇ……ッ!!」

 

 彼の声を確認するなり、俺は彼を抱き起こした。別の団員が俺を狙い始めたが、それは峰田によってモギモギに接着される。

 

「大丈夫かッ!!?」

 

「あ……あぁ……ッ! まだ終わってねえだろっ!?」

 

 そう言い放って俺から起き上がろうとした瀬呂だったが、そこに向かって銃撃が放たれた。俺は咄嗟に彼を押し飛ばしてフロアの床へと転がした。

 

「うわっッ!!?」

 

「グッっ!?!!」

 

 俺に当たった銃撃は硬化して防いだが、俺と瀬呂の間を逸れていった銃弾が、金属音を立ててトリガー・ボムに命中する。

 

「「あッっ!?!!!」」

 

 俺と峰田の背筋が凍った。が……弾痕の残った爆弾は淡く光を帯びたまま、爆発する気配はない。

 

「あ、あぶねぇぇえぇぇっッ!」

 

 峰田が戻るなり団員に向かってモギモギを投げつける。えらく頑丈に作っているみたいだが、決して無敵ではないだろう。これ以上、流れ弾を当ててたまるか。

 

「オラ゛ァァァァッッ!!!!!!」

 

 俺は団員の1人を操血刃を伸ばして拘束し、そのまま非常階段の出入り口に向かって叩きつけた。

 

「瀬呂ッ、爆弾ッ!!!」

 

「あぁ、わかってるてぇッ!!!」

 

 頭を振って立ち上がった彼は、テープで爆弾の梱包へと作業に戻る。俺も別の爆弾に操血刃を伸ばして、そのまま硬化した血で包み込もうと操作する。

 

「コレで……どうだッ!」

 

 峰田がバルーンで非常口を塞ぐも、相手はすぐに炎やら爆発の個性で突破してきた。飛び出した団員をエッジショットとシンリンカムイの2人が食い止めようとするが、団員は俺達と同じ様にタワーの外壁から個性を利用して登ってくる者も現れ、対処の手が回らなくなっていた。

 

「クッソッ!!!」

 

 それでも奴等を爆弾には干渉させまいと、俺は爆弾の梱包を中断した操血刃を振り乱して団員を薙ぎ払う。吹き飛んだヤツをタワーの外壁に縫い付けていたが、その団員の1人が俺の伸ばした操血刃を、素手で平然と掴んで止めた。

 

「はっ!?」

 

 俺が目を疑っていると、団員に掴まれた血の刃が茶色く疎らに染め上げられたそばから、ボロボロと音もなく崩れ落ち始めた。

 

「なッ!?!」

 

 驚く俺に向かって団員は朽ち果てた操血刃を放り捨て、俺を掴もうと手を伸ばしながら飛び掛かる。

 そこにグレープ・バスケットを投げつけて団員を吹き飛ばした峰田が、ジャグリングを続けながら叫ぶ。

 

「大丈夫かッ!!?」

 

「う、うんっ!」

 

 俺に触れようとした団員は、体と壁にくっついたグレープ・バスケットに躊躇いなく手を触れると、焦げる様な音と共にモギモギから煙が上がって、枯れ葉の様に朽ちる。それだけでなく、触った壁までみるみる内に茶色く斑点状に濁り始め、最後はボロボロと崩れ落ちていった。

 

「ヤベえッ!!」

 

 錆……と言うより『腐食』と言った方がいいのだろうか。アレに触れたら、タダじゃ済まなそうだ。

 そんな団員に注目していた直後、瀬呂の方からも悲鳴が上がった。

 

「うおっ!? クッソッ!!」

 

 見れば、俺の個性と良く似た体を刃にして瀬呂のテープを切り裂きながら、彼に向かって腕を振りかざす団員がいた。

 

 乱戦になって上鳴は闇雲に雷撃を放てず、エッジショットとシンリンカムイも次々と現れる団員に、外周のタワーの壁まで飛び回りながら戦闘と拘束を続けている。サラームも紙飛行機になって、団員の攻撃から必死に逃げ回っていた。

 タワーの下ではマウントレディが巨大化した団員と大怪獣決戦。塩崎が全力で茨を伸ばして団員をちぎっては投げちぎっては投げの大立ち回り。そしてサラームの声に呼び寄せられた無名のプロヒーロー達も次々と彼女達の戦いに加勢しているが、同じくタワーに集結してきた団員の抵抗が激しすぎて、誰も上まで登れずにいた。

 

「オイラ達でッ!!!」

 

 峰田が刃を振り回す団員に飛びかかりながらモギモギを投げつけたが、そのモギモギが横から伸びた馬鹿デカいガスバーナーみたいな炎に包まれて消える。

 

「あぁッ!?」

 

「峰田ッ!!!」

 

 両手を合わせてバーナーを噴射した団員から、すぐに峰田を操血刃で引き下がらせ、俺がその団員に突撃する。炎は難燃性の迷彩服も焦がしてきたが、俺は刃で切り開いて団員に飛び蹴りを叩き込む。

 地面を転がった団員をグレープ・バスケットで接着し、モギモギで跳ね上がった峰田がジャグリング中のモギモギを、一斉にバラ撒く。

 

「ジャンブル……ッ! スプラッシュッ!!!」

 

 その1個が刃を振り回す団員に命中し、彼はモギモギの反発の勢いのまま頭突きて団員を真横に弾き飛ばした。

 

「へへっ、そらよッ!」

 

 窓ガラスまで割って外に飛び出した団員を、瀬呂がテープを伸ばして捕まえてタワーの縁に吊るす。そして、俺が伸ばしていた操血刃を腐食させていく団員の顔に、テープを巻きつけた。

 

「フンッ!!!」

 

 いきなり視界を潰されて、テープを掴んで腐食しようとする団員に、俺はナマクラ刃で無防備になった腹へボディブローを決め、吹き飛ばした。最後は瀬呂が団員の両手を合わせてグルグル巻きにし、峰田が天井にくっつけて終わった。

 それ以外の団員もエッジショットやシンリンカムイの2人が蹴散らしてくれている中、俺と瀬呂は爆弾の梱包に戻る。妨害はされるものの、なんとかして2個のトリガー・ボムは完全に包み込んだ。

 

『残り時間、5分ッ!!!』

 

 司令部の無線が爆発までの時間を告げられ焦りが加速する中、今度は非常階段のドアではなく、壁をブチ破ってヒューマライズの団員が雪崩れ込んできた。

 

「クソッ、このヒーロー共めがァァァァッッ!!!!!」

 

 そこには、ここまでわざわざ追いかけてきたのか、最初に出会った腕が8本の異形型の団員もいた。

 

「アイツ……ッ!」

 

「今度こそ息の根を止めるッッッ!!!!!!」

 

 峰田と瀬呂が他の団員を相手取る中、8本の腕に構えたアサルトライフルを俺に向けて放った団員だが、俺はその銃弾の包囲網を正面から刃で弾いて受け止める。

 

「うぉォォォッ!!!」

 

 数発当たった上、シュマグが破けてゴーグルをかけただけの俺の顔が晒されるが、構わず俺は射撃の止まった団員に操血刃を伸ばした。

 

「甘いわァッ!!!」

 

 しかし団員は冷静に、弾切れになったアサルトライフルを俺や峰田、瀬呂に投げつけながら俺との距離を一気に詰めて拳を構える。

 峰田も瀬呂も拘束した団員を盾にして銃を防いだが、俺が刃で弾き飛ばした銃の死角になってしまっま拳から、操血刃を掠らせながら団員がアッパーカットを打ち込んできた。

 

「グうゥゥゥッッ!!!!!」

 

「「切裂ッッッ!!!!」」

 

 峰田と瀬呂の声が聞こえるも、宙に浮く程の威力で殴り飛ばされた俺の足を別の腕で掴んだ団員が弧を描く様にして180°振りかぶり、地面に俺を叩きつける。

 

「ブッッっッ!!!!!!!」

 

「ヤッベェッ!!!」

 

「チクショッ!!!」

 

 峰田と瀬呂がテープとモギモギを飛ばしたが、団員はモギモギは腕を引っ込めて避けながら、テープの巻き付かれた腕で逆に馬鹿力で瀬呂を急激に引き寄せた。

 

「うっッ───ガぁあァッ!!!!!」

 

 体を浮かせて引っ張り上げられた瀬呂がテープの巻かれたトリガー・ボムに打ち付けられ、衝突音と共に彼が転がった。

 

「瀬呂ぉっ!! うわッ!!!」

 

「死ねえぇいィッッ!!!!!」

 

 そこに動揺した峰田の前に団員が腕を伸ばして掴み掛かる。俺はゴーグルのレンズが割れたのだけ確認すると、脳が揺れたのも構わずに操血刃を伸ばそうとした。

 

「させっかよぉォォォッッ!!!!!」

 

 その瞬間、外周からフロアの中へと飛び込んできた上鳴が、スケボーを蹴り付けて団員に飛び付くなり放電を始めた。

 

「うおォォォォォッッ!!!!!!」

 

「ガぁァアァァァァァァァッッッ!!!!!!!!」

 

 明滅する光と稲妻を全身に浴びながら、団員は叫び声を上げながらも増やした腕で上鳴を掴んで外へと放り投げた。

 

「上鳴ッ!」

 

 スケボーも無しに放り出された上鳴の足を、ヘッドギアの壊れた瀬呂がテープで捕まえて引き戻す。

 その隙に操血刃で団員の腕を刺し貫き、俺は奴の動きを止める。

 

「グぅうゥゥッ!!? ごッ、コ゛のッッ!!!!」

 

 そのまま血の刃を引き戻しながら俺は腕のナマク刃で切り掛かったが、団員は腕に刺さった刃をへし折りながら更に腕を増やし、その腕をひとつに束ねた。

 

「これはどうだッ!!!!!」

 

「ッ!」

 

 その肥大化した拳で団員は俺を殴りつけようとしたが、咄嗟に俺は操血刃で天井に跳ね上がる。

 

「ラぁァアァァァァッッ!!!!!」

 

 地鳴りと同時に床が捲れ返って凹む程の威力で殴りつけた団員の顔へ、天井を蹴り付けて飛んだ俺の膝蹴りが仮面越しに直撃した。

 

「グブゥゥウゥゥゥゥゥッッッッ!!!?!!!!」

 

 ひしゃげた仮面が巨体と一緒に地面を転がり、それでも受け身をしながら立ち上がる団員の素顔が露わになる。

 

 

 

 障子や口田と同じく、鼻が無かった。

 

 

 

 下顎が鋸の様に波打っており、牙は剥き出し。怪獣の様な異形型だ。

 

『あと1分ッ!!!!!』

 

 焦燥を隠しきれない司令部の無線と同時に、俺と相手は動き出す。

 操血刃を伸ばした俺に対して、腕で受け止めながら捨て身で突っ込んでくる団員に、間へ峰田が割り込んだ。

 

「こんにゃろぉォォーーーーーッッッ!!!!!」

 

 跳峰田からのグレープ・バスケット。ひと回り大きくなったモギモギを団員は腕を払って退けるが、その腕にモギモギが接着する。

 

「小賢しいッ!!!!」

 

 だが団員はモギモギも無視して無数の腕を1つに束ね、巨腕となった拳を振るう。

 

 その拳を、俺は硬化した全身で正面から受け止めた。

 

「グウ゛ゥゥウ゛ゥゥゥゥゥゥッッッッ!!!!!!!!!!!」

 

 衝撃を受け止めながら、後退りを避けるべく足の裏と背中から刃を伸ばし、更には操血刃で床を引っ掻きながら俺は団員の拳を押さえ込む。

 

「死に損ないめがぁァァァァッッ!!!!!!」

 

 全身全霊の一撃だったその腕を捕まれながらも団員はもう片方の腕を増やして合体させながら俺を今度こそ地に伏せようとしてきたが、奴の真上にモギモギを合体させた峰田が飛びかかる。

 

「峰田バルーンッッッ!!!!!!!」

 

「ぐぁァあぁァァァぁァァァァッッッっ!?!!!?!!!!!!」

 

 そこそこ広めのフロアの天井と床にまで届くサイズのバルーンが膨らみ、団員は顔を出したまま彼のバルーンの下敷きになって動けなくなった。

 グレープ・バスケットで戻らなくなってしまった腕を離した俺の隣に、頭から流血する峰田が並ぶ。俺も頭から血が出たし、どこもかしこもボロボロだ。

 

「ぐ……くソ……ッ!」

 

「ハァ、ハァ……コレで、終わりか……?」

 

「ッ! 瀬呂ッ、上鳴はッ!!?」

 

「無事だぜ……こっちも終わったよ……!」

 

「ウェ……ウェヘヘ……!」

 

 俺の緊迫した呼び声に、壊れたヘッドギアから流れる血も気にせず腰を下ろして息を吐く瀬呂と、大量のテープに巻かれたトリガー・ボム、そしてテープに巻かれたままアホ面の上鳴が転がっており、俺は安堵の息を漏らす。

 

『あと30秒ですッ!!!!!』

 

 いよいよ焦りを隠しきれなくなった司令部の声が聞こえるも、俺もぐったりと立ち尽くしたまま、磔にした団員を見下ろした。

 

「ク、クク……もう終わりだ……お前達は……!」

 

「終わらないよ」

 

「それに、今終わったら……お前も終わりだぞ?」

 

 俺と峰田の言葉に団員は、ただ笑うだけだった。

 

「ククク…………次に産まれるなら……ただの人型が、良いな……」

 

「………………そっちが本心かよ」

 

「それぐらいの能力がありゃあ……ヒーローにもなれたと思うんだけどな、オイラ……」

 

「ククク……おめでたい奴め……!」

 

 そう言って団員の笑う声が響いた数秒後。禍々しくも淡い光を纏っていたトリガー・ボムから、完全に光が消えた。

 

「と、止まった……?!」

 

「タイムリミットは過ぎたのに……!」

 

「やってくれたんだ……!」

 

「さすがは緑谷達だぜぇェェッ!!!!!」

 

「イヤッホーーーーーッ!!!」

 

『トリガー・ボムの停止を確認!!!』

 

 峰田や瀬呂が飛び上がって、無線からも司令部やエジプトのヒーロー達の歓声が聞こえる。フロアに立ったシンリンカムイとエッジショットも大きく息を吐いた。上鳴もアホ面のままスケボーを抱いて喜び始めた瞬間だった。

 

「切裂ぃ……って?」

 

 飛びつこうとしてきた峰田を見ていた、俺の視界が斜めに傾いた。

 

「峰田く……っえ?」

 

 違う。

 

 

 

 

 

 タワーの展望フロアそのものが、斜めに傾いたのだ。

 

 

 

 

 

「は?」

 

「ウェ?」

 

「オイ……ヤベ───ッ!?!!

 

 瀬呂と上鳴の気の抜けた声、金属の軋む嫌な音がフロア内に鳴り響いて峰田が叫んだ直後、更に大きく傾いたフロア内に鎮座していたトリガー・ボムが地鳴りを上げて滑り動いた。

 

「爆弾がッ!!!?!」

 

「クソッたれぇッ!!!!!!」

 

 峰田が投げたグレープ・バスケットにトリガー・ボムと床が接着するも、爆弾はカーペットを引き剥がして更に滑り落ちる速度を上げる。

 タワー本体が傾いたのではなく、俺達が暴れ回った事でボロボロになったフロアの支柱が壊れて床が傾いたんだ。転がりながら割れた窓ガラスから外に放り出される団員数人の悲鳴が響いた。

 

「落ちた!!!!!」

 

「任せろッ!」

 

 エッジショットがすぐさま飛び出し、彼を見る隙もなく俺は操血刃でトリガー・ボムを掴み、つっかえ棒の様に爆弾から刃を伸ばす。が、床がガリガリと削れて最後は割れてしまった。

 

「クッ……!!!!!」

 

 その内の1つはエレベータのある柱に激突して止まった。が、衝撃で更に傾いたフロアの床を残りの爆弾が加速する。

 

「ヤッベェッッッ!!!!!」

 

「マズいッッッ!!!!!!」

 

 シンリンカムイと瀬呂も個性でトリガー・ボムを掴んだが、銃撃を受けても壊れなかった爆弾の重量はかなりのモノか、2人の体が引きずられている。

 それでも諦めまいと更にテープと樹木を増やす中、次の衝撃で峰田がフロアを転がった。

 

「うわっ!? ちょっッ!!?」

 

 そのまま、個性の巻き付く3個のトリガー・ボムと一緒に、峰田が放り出された。

 

「峰田ぁッ!!!!!!」

 

「切さ───っ!!!?」

 

 俺はガラスを突き破ってタワーから飛び出し、落下しながらマントを靡かせる峰田に目掛けて操血刃を伸ばした。

 

「ブレイズ!!!!!」

 

「ッ!!?」

 

 サラームの声が聞こえて、俺は一瞬だけ見えた彼の紙飛行機に峰田を放り投げた。

 

「バっ、バカお前ッッ!?!?!!」

 

 何か言おうとしていた彼に構わず、俺は落ちる最後のトリガー・ボムに操血刃を伸ばしながら上を見上げる。

 

 そこには、なんとか瀬呂が爆弾を滅茶苦茶に伸ばしたテープで吊るし、もうひとつをフロアの縁に片手を掴み、もう片方の手の樹木で爆弾を掴んだシンリンカムイが見えた。

 

 転落した団員をエッジショットが紙糸でタワーに縫い付けている最中、俺は最後の爆弾に操血刃を伸ばす。

 

 乱回転する視界にスケボーに乗った上鳴が俺に向かって手を伸ばしながら降下する姿が見えたが、今は彼の手を掴んでいる場合ではなかった。

 

 ほんの数日前までフリーフォールしていたからこそ、わかる。

 

 地表まで数秒もない事が。

 

「フンッ!!!!」

 

 操血刃で包んだトリガー・ボムをタワーの壁に引っ掛けようとするが、重すぎるのと落下の威力が強すぎるのとで壁を削るだけで止まらない。

 

 こうなったら操血刃を下に伸ばして、爆弾を金属バネの力で受け止めようと俺はトリガー・ボムを引き寄せようとするが、柔らかくしすぎて血液に戻った操血刃が、落下で霧散してしまった。

 

「あっ……!!!!」

 

 地面の衝突も構わず、もう一度操血刃を闇雲に爆弾へ伸ばそうとして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は柔らかい何かに埋もれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「むぶぅっっっ!?!?!!!!」

 

 視界が真っ暗に染まり、全身が迷彩服越しに何か布団の様な物に包まれて身動きがとれない中、マウントレディの声が聞こえた。

 

「ほんっっっっっとに、無茶するんだから……っ!」

 

 頭から地面に落ちたハズなので、とりあえず中で重力を感じながら上を目指すと、いきなり視界が晴れた目の前にマウントレディの顔のドアップが映った。

 

「あ……!」

 

「お疲れ様ね、ブレイズ……!」

 

 そこには、巨大化していたマウントレディが、落ちてきたトリガー・ボムを手で掴んでおり、すぐ近くには満身創痍で地面に倒れ伏した怪獣型の団員があった。

 少し煤に塗れながらも、戦闘後で火照らせた彼女の笑顔に俺は何も言えなくなる。

 

 俺は彼女の破けたヒーローコスチュームである、胸元に突っ込んでいたのだ。

 

 そこに俺を追って必死に急降下した上鳴が、彼女の胸に埋もれた俺を見て気が狂った様な叫び声を上げる。

 

「切裂ぃっっっっ!!?!?! ……って、オイ゛ィィィィィィィィィィィィィィッッッッ!?!!!!!!!! 何、日本全国の男の夢叶えてんだコラァッッッッ!!!!!!!!! 許さねえッッ!!! ぜってぇーーーラグドールさんに報告してやろぉッッッッッ!!!!!!!」

 

 目の前で叫び続ける上鳴を前にして、俺はマウントレディの胸から脱出する気力も薄れて、その身を彼女に預けた。

 

 

 

 

 

 子猫みたいに首元を摘まれて、降ろされた。

 

 

 

 

 

 ・・・♡・・・♡・・・

 

 

 

 

 

 後に『ヒューマライズ事件』と呼ばれる、全世界を狙った一大テロ事件は収束した。

 

 あのあと、爆弾の解体から民間人の救助まで、全ての後処理が終わった俺達ラーカーズは、すぐに帰国が決まった。事務所に戻ってやる事も沢山あるだろうし、ずっと離れ離れだった会計士さんも会いたかった。

 もちろん、別の国で頑張っていたクラスメイト達にも。

 

「「「「ありがとうございました!」」」」

 

 日本へ帰る飛行機の来る空港の外で、わざわざ見送りに来てくれたNo.1ヒーローのサラームが、頭を下げた俺達の前に普段のペラペラの手を振る。

 

「今度は我が君達の国に行こう。君達の様な素晴らしいヒーローを輩出した日本に観光へ行きたいし、久しぶりにオールマイトにも会いたいからな…………その時はまた、我に折り紙を教えたまえ……!」

 

 すっかり気に入ってしまったのか、そんな約束をしてくるサラームに俺達ラーカーズは嬉しくもありながら、少し恐縮だった。

 それでもサラームは最後まで笑いながら、俺達に別れの挨拶をしてくれた。

 

「それではさらばだ!! ハーーーーーッッハッハッハッハッハハハハハハハッ!!!!!!!!」

 

 そして最後に彼は高笑いをしながら、紙飛行機へと変身して空港の空を飛び立っていったのだ。

 

「なんか……オールマイトそっくりな気がしてきた……!」

 

「なっ! なんかぁ……いると安心するよなっ!」

 

「やっぱNo.1ヒーローって、どこの国もスゲー人ばっかなんだぜっ!!」

 

「そうですね……!」

 

「また会えっかなぁ……!」

 

 彼の紙飛行機も見えなくなってから、空を見上げていた峰田や上鳴の言葉に、塩崎すら同意していた。

 瀬呂が頭に手を当ててサラームの消えていった空を眺めながら呟いた言葉に、その後ろにいたマウントレディやシンリンカムイ、エッジショットの3人も空を見ていた。

 

「なんだかんだで、助けられちゃったもんね……!」

 

「彼のお陰で、俺達は日本代表としてのヒーローの誇りを守る事ができた」

 

「そこまで考えてくれたのだろう……No.1は伊達ではない。能力だけではなく、行動で表すヒーローだ……!」

 

 エンデヴァーとは違うNo.1としての姿に、プロヒーロー達も何か思う事があったらしい。そこに瀬呂が持っていた荷物をゴソゴソと動かし、俺達に見せびらかす。

 

「お土産も買えたもんな!」

 

「アンタ達、いつ買ったのよ!」

 

 瀬呂が見せつけたのは、サラームの刺繍がされたタペストリーだ。初日の強盗捕まえた後に買ったのだ。彼の寮の部屋にも、デザイン的に似合うだろう。

 サラームを見送り、俺達はターミナルの中を歩く。来た時と同じ、綺麗に整ったターミナルだ。

 

「緑谷くん達、大丈夫かな?」

 

「そうだ! アソコが1番、ヤバそうだったもんな!」

 

「轟からメッセージ来たんだろ?」

 

「うん。でも、轟くんも爆豪くんも、入院中だって」

 

「やっぱ、フレクトってヤツがいたんだろ? さすがは緑谷達だぜっ!」

 

「さーて、しばらく飛行機でグッスリだわ!」

 

「眠ったらすぐだよ」

 

「エジプトも良かったけど……早く日本に帰りてえっ」

 

「綺麗な水を吸いたいですね……」

 

「同感だ。水道水でもいい……」

 

「みんなにも会いたいしな!」

 

「俺は久しぶりに和食が食いてえ!」

 

「あっ、オイラもっ!!」

 

「フム、ならば帰国して落ち着いたら、皆で寿司と洒落込もうか」

 

「「「「いやったぁーーーっ!!!」」」」

 

 先頭を歩いていたエッジショットの言葉に、俺達4人が同時に喜び始める。塩崎も騒いではいないが、無言のまま微笑んでいた。

 

「ゴチになりまーす!」

 

「マウントレディ、お前は払う側だ」

 

 シンリンカムイの冷淡なひと言に、キーキー彼女が騒ぐのをみんなで笑いながら眺める。

 史実でも知らない大事件と、それに連なる激闘は終わった。俺達は普段の日常へと戻り始めるだろう。

 

 

 

 

 

 ただ、その世界を救ったのは緑谷達だけではなく……

 

 

 

 

 

 愛する弟妹のために命を張った、1人の男である事を俺はまだ知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次回『ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ・ダブルテイルズ』

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