切裂ヤイバの献身   作:monmo

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第四話

 

 

 

 

 

 雄英での学校生活が始まって数日が経った。

 

 その数日間の中で俺達は学級委員長決めを行ったり、雄英にマスゴミが侵入したりなんて事が起こったが、これから始まる事件に比べれば、掠れて無くなってしまうだろう。

 ちなみに学級委員長決めの時、俺に2票入って危うく副委員長になりかけた。1票は俺で、もう1票は誰だと思ったら緑谷だった。なぜわかったかと言うと、3票入って一気に委員長に就任したヤツがいなかったからだ。

 

 その日は皆が楽しみに待っていたヒーロー基礎学で、内容は災害、水難、何でもござれの救助訓練だった。

 オールマイトは訓練場で待ち合わせるらしく、代わりに相澤先生が教室で授業の説明をし、現地で訓練を行うためにヒーローコスチュームへ着替えた俺達は、訓練場への移動でバスに乗り込んだ。ちなみに、今日選んだ迷彩服は陸自迷彩ではなく、リーフパターン迷彩だった。

 最初は戦いじゃない地味な訓練だとグチる者もいたが、こっちがヒーローの本分だとテンションの上がっているクラスメイトもいる。数分もしない内に、バスの中で皆の会話が弾み始めた。

 ちなみにバスは観光バスじゃなくて、路線バス。前回の事件で委員長に就任した飯田が、乗る前に勘違いを起こして項垂れている。

 

「クソ……ッ、こういうタイプだったか……!」

 

「意味なかったなー」

 

 俺の左隣に座る芦戸が足を交互にブラブラ揺らしながら、飯田の肩を手でポンポンと叩いて慰める。その目の前では、蛙吹が隣に座っている緑谷に顔を向ける。

 

「私、思った事を何でも言っちゃうの、緑谷ちゃん」

 

「なぁ!? は、はい!? 蛙吹さん!」

 

「梅雨ちゃんと呼んで?」

 

「う……うん」

 

 至近距離の女子の顔に慣れないのか、緑谷の視線が泳いでいる。ちなみに彼は前回の戦闘訓練でコスチューム半壊したから、サポート科に修復依頼出していて、彼だけジャージ上下に手袋とブーツである。なんか、ソレはソレでコスチュームっぽくなってる。

 

「あなたの個性、オールマイトに似てる」

 

「えぇッ!? そっ、そ……そうかなァ? いや、でもッ、あの、僕は……えっと、その……!」

 

「待てよ梅雨ちゃん。オールマイトはケガしねえぞ? 似て非なるアレだぜ」

 

 いきなり核心をド突かれて、しどろもどろになっている緑谷を不思議そうに眺める蛙吹に、切島が答える。緑谷は大きくため息をついていた。

 

「しっかし増強型のシンプルな個性はいいな! 派手で、できる事が多い! 俺の『硬化』は地味だし、切裂とか完全に俺の上位互換だしな……」

 

 そう言って硬化させた腕を見せつける『切島 鋭児郎』 仁義とか任侠とかが好きそうな、漢に憧れる暑苦しい男だった。

 そんな切島とは、最初の戦闘訓練の反省会以降、峰田と同じぐらい何かと喋る事が多くなった男子だ。お互い、個性が似通っているのが1番の原因だろう。苗字も1文字同じだし。

 

「そんな事ないよ……俺の硬化は体を刃にした時の副産物みたいなものだし。前に、お互いに試してみたけど……純粋な硬度なら切島くんの方が上だよ」

 

「でもさッ! ソレ実質、個性が2つあるみたいでスゲえじゃん! 轟みたいでさっ!!」

 

「………………」

 

 切島の話で皆の視線がバスの後ろへと移る。2人用の席に座っているのは、髪の毛が右が赤で左が白に色分けされ、顔の左側に火傷の痕が残っている、容姿端麗な青年。『轟 焦凍』

 こちらの会話には興味がないようだ。目線も合わせてはくれない。

 

「僕は凄いカッコいいと思うよ。プロにも十分通用する個性だよ!」

 

「プロな〜……しかし、やっぱヒーローも人気商売みてえなトコあるぜ?」

 

 緑谷は切島の個性を持ち上げるが、本人はどうしても自分の個性に満足できていないように見えた。確かに、今まで見てきたプロヒーローも派手な見た目の個性が多かったが、それは個性の使い方次第だろう。彼にもきっと、出来ると思った。

 

「………………」

 

「切裂? さっきから大丈夫?」

 

 俺はどこを見るわけでもなく視線を下に落としていると、芦戸が俺の肩に手を当ててきた。彼女の心配に、奥の飯田も俺の方を向く。

 

「切裂君、まさか酔っているのかい? 俺と席を交換しよう!」

 

「……いや、大丈夫……ちょっと精神統一……」

 

 それだけ言って、俺は両手を顔の前に合わせる。

 

「救助訓練に精神統一なんているかぁ?」

 

 俺の言葉に、右隣の上鳴がおちゃらけていたが、すぐに飯田が注意を始める。

 

「失礼だな君! どんな訓練にも集中力を持って、全力で取り組むべきだろう!」

 

「まー、本人が集中したいってんなら、させとこうや!」

 

 緑谷の隣で座り込んでいる砂藤の言葉に、周りのクラスメイトも納得してそれ以上何か言ってくる事はなく、バスは目的地まで到着した。

 

 バスの到着したドーム型の施設の前に降りた俺達の前に、今日の救助訓練を担当する教師が待っていた。

 

「皆さん、待ってましたよ」

 

 

 

「「「「「おぉ……!」」」」」

 

 

 

 空気の排気音と共に、ヘルメット越しのくぐもった声を響かせるのは、宇宙服を思わせる……というより宇宙服そのまんまなヒーローコスチュームを着込んだ教師『13号』先生だった。

 

「スペースヒーロー『13号』だぁ! 災害救助で目覚ましい活躍をしている紳士的なヒーロー!」

 

「わあ〜! 私、好きなのっ、13号!」

 

 戦闘に向かない個性の持ち主がプロヒーローを目指すとき、多くの人々が例として名を出すヒーローが、この13号先生。個性こそ強力だが、その個性を戦闘ではなく人命救助のために利用する、心優しいヒーローだ。

 生で見る新たなプロヒーローの登場に、ヒーローオタクの緑谷はもちろん、あまり戦闘向きとは言えない個性の麗日が、ぴょんぴょん飛び跳ねながら憧れのヒーローに喜んでいる。

 

「早速、中に入りましょう」

 

 そんな13号先生に誘導され、俺達クラスメイトが施設の中に入ってすぐの場所で見渡す光景は、遊園地よろしく数多くのエリアが存在していた。

 大量の水がうねる水難エリア、街をひっくりかえしたような土砂災害エリア、どういう仕組みなのか鎮火する気配のない火災エリア。暴風と物が吹き荒れる台風エリア。

 

「すっげー! USJかよ!?」

 

 切島が叫んだか、そこがプロヒーローを目指す為の教育施設だと知らなければ、ひとつのテーマパークにさえ見えてくる。広大な敷地と数々のエリアに、クラスメイトが思わず声を上げた。

 

「水難事故、土砂災害、火災、暴風、エトセトラ……あらゆる事故や災害を想定し、僕が造った演習場です」

 

 13号先生は両手を広げて、施設の説明を簡単に済ましていく。流石に1人で作ったワケではないだろうが、ほかのプロヒーローに比べても人一倍人命救助に努力した先生の設計思想が、この施設には組み込まれているのだろう。そう思うと凄い。

 

「その名も……『U』ウソの、『S』災害や、『J』事故ルーム!! 略して……『USJ』!!!」

 

 

 

 

 

(((((((((((((((((((ホントにUSJだった……!)))))))))))))))))))

 

 

 

 

 

 そう言えば、コレって著作権的に宜しいのだろうか、なんて明後日の方向に飛来した俺の心配を他所に、麗日と緑谷のテンションは上がっていた。

 そんな騒ついているクラスメイト達の傍から、相澤先生が13号先生の横に移動して問い尋ねる。

 

「13号、オールマイトは? ここで待ち合わせるハズだが……」

 

「先輩、それが……」

 

「ん?」

 

 そのまま2人の先生は俺達に背を向けて、なんかヒソヒソと話をしている。そう言えば13号先生も雄英のOBで相澤先生の後輩だったなと、どうでもいい事を思い出した。

 オールマイトはいない。出勤途中にマッスルフォームを使いすぎて、休憩中のハズだろう。

 周りの生徒も疑問の表情を見せる中、すぐに2人の密談は終わった。

 

「仕方ない、始めるか……」

 

「えー、始める前にお小言を1つ、2つ……3つ4つ5つ6つ……」

 

 段々と増えていく小言の数に、みんな「増える……」と言いたそうにしている。そんな困惑が広がる中、13号先生は指折りで注意事項の要点を数え終えると、ゆっくりと諭すように話し始めた。

 

「皆さん、ご存知とは思いますが、僕の個性は『ブラックホール』 どんなものでも吸い込んで、塵にしてしまいます」

 

「その個性で、どんな災害からも人を救い上げるんですよね!」

 

 緑谷のテンション上がりきった説明に、麗日がコクコクと物凄いスピードで頷き続けている。2人の仲の良さに、なんだか笑いたくなってしまった。

 

「ええ……しかし、簡単に人を殺せる力です。みんなの中にも、そういう個性がいるでしょ?」

 

 ヘルメット越しだけど、13号先生が俺を見た気がした。あと爆豪が見られて、威嚇してた。野良犬か。

 

「超人社会は個性の使用を資格制にし、厳しく規制する事で一見成り立っているようには見えます。しかし、一歩間違えば容易に人を殺せる行き過ぎた個性を、個々が持っている事を忘れないでください」

 

 思い出したのは自分の個性が発症してから、両親から受けた教育の数々。俺の両親も、きっとその辺を理解していたんだと思う。

 

「相澤さんの体力テストで、自身の力が秘めている可能性を知り……オールマイトの対人戦闘訓練で、それを人に向ける危うさを体験したかと思います。この授業では心機一転、人命のために個性をどう活用するかを学んでいきましょう!」

 

 そして、トガちゃんを狂わせたこんなクソみたいな世界を変えるためにどうすればいいのかと、俺は13号先生の言葉を聞きながら別の事ばかり考えてしまった。

 

「君達の力は人を傷つけるためにあるのではない。助けるためにあるのだと、心得て帰ってくださいな!」

 

 自分の個性が単なる便利な力では無く、他人を傷つけうる武器であることを自覚しつつ、どのように扱うべきか考える事を止めてはならない。当たり前の事で、忘れてしまいがちな大切な事。それを改めて強く思い出させてくれる素晴らしい演説に、爆豪を除く誰もが聞き入っていた。

 

「以上、ご静聴ありがとうございました!」

 

 腕を上げてどこか演技がかった、マスコットじみた動作で頭を下げた13号先生に、クラスメイト達は大きく拍手をしながら尊敬の眼差しを向けた。飯田の「ブラボー!」の声がドーム内によく響いだ。

 

「よし、そんじゃまずは……」

 

 演説も終わったことだし、と相澤が授業の段取りについて話を始めようとした時だった。

 急にドームの照明に電流が走り、灯りが消えた。

 

「ッ! ひとかたまりになって動くな! 13号、生徒を守れ!」

 

 USJの中心に位置する、大きな噴水前の広場からボンヤリと現れた黒いモヤ。ソレは瞬く間に黒い渦となって大きく広がる。

 そしてその中から、霧を掻き分けるようにして人の手が、異形型の姿が、悪意の篭った視線を持つ、人間達が現れた。

 

「は? 何だありゃ……また入試ん時みたいな『もう始まってんぞ』パターン?」

 

 前に出ようとした切島を相澤先生が声で押し止め、首元にかけていたゴーグルを装着した。

 

「動くな……! あれは敵(ヴィラン)だ!!!」

 

 奇しくもそれは、命を救える訓練の時間に俺達の前に現れた、命を脅かす存在。

 

 

 

 この先、主人公『緑谷 出久』を……いや雄英高校のヒーロー達を幾度となく脅かす、敵(ヴィラン)との邂逅が始まった。

 

 

 

「やはり先日のはクソ共の仕業だったか……!」

 

 相澤先生の首元に巻き付いていたマフラーの様な武器、捕縛布が意思を持ったかの様に広がっていく。

 

「は? ヴィラン!? バカだろ……ヒーローの学校に入り込んでくるなんて、アホ過ぎるぞ!」

 

 切島の言う通り。最強のオールマイト先生がいる雄英高校に数だけ揃えて殴り込みなんて、正気じゃなくてもやらないだろう。ただでさえプロヒーローの教師達までいるのに。

 八百万がクラスメイト達の前に出て、13号先生に問いかける。

 

「先生、侵入者用センサーは?」

 

「もちろんありますが……」

 

「現れたのは、ここだけか、学校全体か……何にせよセンサーが反応しねえなら、向こうにそういう事ができるヤツがいるって事だ。校舎と離れた隔離空間、そこにクラスが入る時間割り……バカだがアホじゃねえ。コレは何らかの目的があって、用意周到に画策された奇襲だ」

 

 冷静に分析を始める轟を前に、クラスメイト達の緊張が一層高まっていく。そんな中で相澤先生は的確に指示を飛ばしていく。

 

「13号、避難開始。学校に電話、試せ。センサーの対策も頭にあるヴィランだ……電波系のヤツが妨害している可能性がある。上鳴、お前も個性で連絡試せ」

 

「うっす!」

 

 上鳴は耳に装着しているヘッドホンかインカムみたいな道具で学校へ連絡を試みるが、あまり良い反応は期待できなさそうだった。やはり対策されてしまっているらしい。

 

「先生は? 1人で戦うんですか!? あの数じゃ、いくら個性を消すと言っても……イレイザーヘッドの戦闘スタイルは、敵の個性を消してからの捕縛だ……正面戦闘は……!」

 

 緑谷は広場にいるヴィランの集団を指差して、相澤先生を心配する。でも流石に、それは先生をナメ過ぎだ。

 

「一芸だけじゃ、ヒーローは務まらん。任せた、13号」

 

 13号先生がヘルメットのまま彼に頷いてみせると、相澤先生は階段から飛び出してヴィランの群れに突っ込んだ。

 

 イレイザーヘッドの個性『抹消』は1度対象を見れば、瞬きするまで視線を逸らしても効果は持続する。だから対1の戦闘なら負けることなどまずないだろう。

 

 一瞬で数人の個性を抹消させて、相澤先生は持ち前の体術と捕縛布で次々とヴィランを戦闘不能に追い込んでいく。自分の身の丈より大きな異形型に対しても、怯む事なく冷静に相手の力を利用して受け流し、捕縛布で拘束しながらほかのヴィランに叩きつけた。

 

 それにしても、個性以外の身体能力は据え置きなのだから、どれだけあの先生が強いのかが窺える。俺もこの世界でトレーニングを始めてから、この世界の住人が前の世界の人々よりも遥かに化け物じみた戦闘力を持っていた事を身をもって実感していたが、先生達プロヒーローは更にその先へと到達していた。

 

「凄い……多対一こそ、先生の得意分野だったんだ……!」

 

「緑谷くん分析はいいから逃げるよ!」

 

「あっ、ゴメン!」

 

 みんなで逃げようとしているこんな時にまで、相澤先生を見ながら分析を始める緑谷を呼んで、俺達は入り口へと走る。

 

「させませんよ」

 

「っ!?」

 

 しかし、その出入り口の前まで到達しようとした時、床から真っ黒な影が広がり、ガス状の体で切れ目みたいな目が黄色に光っているヴィランが、俺達に立ち塞がる。

 

「初めまして。我々は『敵連合』 僭越ながら、この度ヒーローの巣窟『雄英高校』に入らせていただいたのは……平和の象徴『オールマイト』に息絶えていただきたいと思ってのことでして」

 

「は?」

 

 緑谷の声だった。あのオールマイト先生を殺すなんて、到底不可能みたいな目標を掲げている事に、理解ができなかっただろう。

 

「本来ならば、ココにオールマイトがいらっしゃるはず……ですが、何か変更があったのでしょうか? まぁ、それとは関係なく、私の役目はこれ───

 

 悠長に話を続けるガスヴィランに、13号先生がブラックホールを発動するよりも早く、爆豪と切島が飛び出してしまった。

 

「でやァッ!!」

 

「オラァッ!!」

 

 硬化した切島の手刀と、躊躇いのない爆豪の爆破が叩き込まれ、砂煙が巻き起こる。

 

「その前に、俺達にやられる事は考えなかったか!?」

 

 煙の中で切島が挑発をかけるが、ガスみたいな体をしているヴィランには効果がいまひとつか、余裕のある返事が平然と返ってきた。

 

「危ない危ない……そう、生徒と言えど優秀な金の卵……」

 

「ダメだ……どきなさい2人とも!!」

 

 13号先生はブラックホールを発動したかったが、前に2人いるせいで出来なかった。その隙を突いて、ガスヴィランが体のガスを広げて俺達を囲む。

 

「私の役目は……貴方達を散らして、嬲り殺すッ!!!」

 

「ッ!! あぁッ!!!」

 

 クラスメイト達の後ろ側にいた俺は、咄嗟に飛び退いて避けようとはしたが、ガスは俺達を囲んで上まで広範囲に広がり、結局俺は頭からガスの中に飲み込まれた。

 最後に見えたのは、飯田が麗日と砂藤を掴んでガスから飛び出す瞬間だった。

 

 

 

 

 

 ・・・♡・・・♡・・・

 

 

 

 

 

 妙な浮遊感からの落下、そして着地。天井を見るに、USJの中にいるのは間違いないだろう。

 

「うおっ!」

 

 地面に足を滑らせた俺は、反射的に足を刃にして踏み止まる。ズルズルと固まっていない地面に、斜めった地形。土砂が凄くて足元が安定しない。

 近くでは、轟が膝立ちになっていた。俺と同じく、足元のバランスを崩したのだろう。彼のヒーローコスチューム……白いスーツに左半身だけ自信の個性で氷を纏わせた膝が、土で汚れる。

 

「大丈夫?」

 

「あぁ」

 

 駆け寄って俺が手を伸ばしても、轟は自分で立ち上がった。目線も合わせず返事をした彼は、俺よりも後ろを睨みつけている。

 理由はわかっていた。土砂で民家から車、何から何まで滅茶苦茶になっている周りには、ウジャウジャと多種多様様々なヴィランがたむろっていた。

 

「オイオイ2人かよ」

 

「しかも、どっちも男だぜ」

 

「つまんねーの」

 

 こんな足場の悪いフィールドに、ざっと100人ぐらいはいるだろう。サクッと相手を見渡して、俺は轟に問いかける。

 

「ひとり50人ぐらいかな?」

 

「勝手にしろ。あと、危ねぇから俺のそばに近寄るな」

 

 まるでゲーム感覚で話す俺達2人の言い草は、ヴィラン達の癪に触った。

 

「何ッ!?」

 

「なッ、舐めやがってッ!!」

 

「ブッ殺せッ!」

 

 怒りのままに俺と轟へと一斉に襲いかかるヴィランだが、足元の対策はしてこなかったのか、スピードはそこまで早いワケじゃない。轟は冷静に、パキパキと右半身から氷を広げると同時に、俺も彼の背中を守るようにしてヴィランに駆け出した。もちろん、足は刃にして。

 

「なッ!?」

 

「速いッ!!」

 

 それでも爆豪や飯田に比べれば、まだマシな速さだ。とりあえず1番近くて呆気に取られてたヴィランを、俺は腕を刃にして平手打ちの如く、フルスイングする。

 

「ゴヘぇッっ!!?」

 

「クソッ!」

 

「1人やられた!」

 

 ぶっ倒れていくヴィランに目もくれず、跳躍しながら両足の刃をナマクラにして振り回し、更に数体巻き込む。

 

「ぐえェェッ!!!」

 

「イデぇェェっッ!!」

 

「ガハぁぁッッ!!!」

 

 金属の重たい音が、ヴィランの肉と骨を軋ませて、吹き飛ばす。ナマクラといっても、鉄の塊に等しいのだから、殴られたらひとたまりもないだろう。

 

「クッソッ!!」

 

「コイツら、ただのガキじゃねえッ!!」

 

 そりゃ雄英に通ってる生徒が、ただのガキなワケねえだろうと、ヴィラン2体を掬い投げるように腕で吹っ飛ばし、目の前のヴィランには跳躍して硬化させた体で膝蹴りを叩き込む。

 

「ごぶゥぅっッ!!」

 

 そんな黙々とヴィランを戦闘不能にさせていく俺の背後で、轟が半身から広げる氷が、ヴィランを次々と飲み込んで、氷漬けにしていく。

 

「あぁ……!」

 

「が……ぁ……!!」

 

「さ、寒いィ……!」

 

「子供2人に情けねえな……しっかりしろよ、大人だろ?」

 

 煽り文句まで垂れながら、轟はほぼ仁王立ちで個性を発動し、ヴィランを更に追い込んでいく。まるで魚の追い込み漁の状態だ。

 そんな様子を見ながら俺が残りのヴィランをボコボコにしていると、側頭部に衝撃を受けた。

 

「んッ?!」

 

 痛くはなかったが、目の覚めるような衝撃に頭を押さえて、俺は横を見る。

 

「あァッ!? マジの鉛玉だぞっ!! なんで倒れねぇんだよッ!!?」

 

 両手をガタガタ震わせて、1体のヴィランが持っていたのは拳銃だった。

 

「クッソォォぉっッ!!!」

 

 ヴィランは銃を乱射して、俺はそのまま体に数発くらったが、硬化している体は鉛玉を平然と弾いた。

 カチンカチンと、弾切れの音が鳴ったのと同時に俺はヴィランへ飛び出して、刃の腕でラリアットを叩き込む。

 

「ごはァ……ッ!!!」

 

 数十メートル以上も吹き飛んでいく仲間を見て、明らかにヴィランの勢いが収まってきた。

 

「く、クソぉ……!」

 

「化け物め……っ!」

 

「ソレ、お前らが言う?」

 

 

 

 

 

 俺と轟がヴィランを殲滅するのに、数分も掛からなかった。

 

 

 

 

 

「水いる?」

 

「いや、いい」

 

 ポーチから出した水筒の水をひと口飲んで、彼に差し出したが断られた。

 

「散らして、殺す……か…………ハァ、言っちゃ悪いが……あんたら、どう見ても個性を持て余した輩以上には見受けられねえよ」

 

 タンコブと氷像だらけになった土砂災害エリアで、俺と轟はひと息ついて、まだ意識のあるヴィランへと近寄る。もちろん轟の氷で身動きは取れない。

 

「コイツら……本当にガキかよ……ッ!?」

 

「いぃ痛ぇぇ……!」

 

 俺はヴィランの首を掴んだ。

 

「お前ら、俺達が今日ココで授業する事を知ってやがったな……」

 

「うがァァッ!」

 

 力を込めて掴んでいた手を、徐々に鋭利な刃へと変えていく。刃先が肌に沈み込み、少しでも摩擦が起これば切れてしまう程に。

 

「雄英のセキュリティが破られたのは、一昨日のマスゴミが乗り込んできた時だけだ。いったい何処の誰から学校の情報を抜き取った?!」

 

「しっ、知らねぇ!」

 

 ヴィランは凍らされて動かす事すらできない身体で、ジットリと冷や汗を滲ませて怯えながら喚き散らす。ソコまで難しい情報は、コイツらからは奪えなさそうだ。

 

「オールマイトを殺す……初見じゃ精鋭を揃え、数で圧倒するのかと思ったが、フタを開けてみりゃ、俺達用の駒……チンピラの寄せ集めじゃねぇか」

 

 今度は轟が別のヴィランに近寄る。

 

「なあ、このままじゃあんたら、ジワジワと体が壊死していくワケなんだが……俺もヒーロー志望、そんなヒデえ事はなるべく避けたい」

 

 彼は怯えるヴィランの顔に冷気をまとった手を近づけていく。

 

「あのオールマイトを殺れるっつー根拠…………策ってなんだ?」

 

 さすがに知ってなきゃ、オールマイトを殺すなんて無茶苦茶な作戦に参加したりなどしないだろう。轟の冷気をまとう手が顔の鼻先を掠った所で、ヴィランが悲鳴混じりの声を漏らした。

 

「の……脳無だよ……!」

 

「ノウム?」

 

 その初めて聞く事となった単語に、轟は首をかしげる。

 

「お前も見ただろう? あの黒くてデッけえ脳味噌丸出しのバケモンだよ!」

 

 USJの噴水広場にいた、全身を手のマネキンみたいな物をくっつけたヴィランと、その隣にいたひと際大きなヴィラン。そのデカいヴィランと、ソイツの言っている特徴が一致する。

 

「化け物? それがいったい何だってんだ?」

 

「アレは……オールマイトと同等のパワーとスピードを持ってやがる!」

 

「オールマイトと同等だと……? そういう個性か!?」

 

「ヒッヒヒ……っ、それ以上は知らねえ……お前らはオシマイだ……ヒヒッ」

 

 コレ以上は聞くだけ無駄だろう。尋問を終わらせた轟は、俺と初めて目を合わせた。

 

「相澤先生が危ない」

 

「あぁ、急ぐぞ」

 

 俺は足を刃にして駆け出し、轟も精製した氷を滑らしながら、先生の戦っているUSJの中心部へと急いだ。

 俺がいた事によって、轟 焦凍はオールマイトが到着するよりも早く、俺と一緒に先生の元へと到着する事となった。

 

 土砂災害エリアを飛び出し、中央の噴水エリアで俺と轟が目にしたのは、相澤先生が脳無と呼ばれていたバケモンに、組み伏せられている光景だった。

 真っ黒な肌にカーキのジーパン一丁の上裸、それでいて身長3メートルぐらいはある筋骨隆々の体。極め付けはワニみたい広がった顎とソコから滅茶苦茶に生え揃った牙、瞼の無い目、そしてヴィランの言っていた通り頭の脳味噌が剥き出しになった、おおよそ生命体には見えない、生命の冒涜みたいな形をしたバケモンだった。

 その脳無はバキリと、人間からはおおよそ鳴らない音が鳴って、相澤先生の腕を簡単にへし折った。

 先生の呻き声が聞こえる。そばの水辺には緑谷と蛙吹と峰田が隠れているのが見えたが、怯えて動けない状態だった。

 

「轟ィッ!!!」

 

「わかってるッ!!!」

 

 彼の氷塊は正確に、相澤先生を拘束している脳無の下半身だけを氷漬けにした。

 そこから通り魔の如く、俺が脳無と先生の間に滑り込んだ。

 

「あぁ?」

 

 すぐそばにいた、身体中に手を付けたヤツの間の抜けな声を無視し、俺はナマクラにしていた刃を本気の真剣に変化させ、脳無の腕の筋肉を狙ってそのまま切り込んだ。

 

「うッ!?」

 

 自分の手に、未だかつてない感覚が流れる。食材の肉とは全く別物の手応え。血管や骨が削れていく感覚が、刃を通して俺に伝わっていく。

 ソレが気持ち悪くて、俺の刃は中途半端に脳無の腕の筋繊維を切って終わった。

 

「先生ッ!!!」

 

「ッ!!!」

 

 俺の声で、自分の拘束が緩んだのを確信した相澤先生はすぐさま立ち上がり、俺は掠め取るようにして先生の肩を担いで脳無から離れた。

 

「アイツ……ッ!」

 

 全身手を付けたヴィラン『死柄木』が声を漏らした。顔にまで手を付けた指の隙間から、真っ赤な目が覗いた。

 先生は個性を発動していた。死柄木が襲ってこなかったのは、先生に見られていたからだった。

 

「先生ッ!」

 

 轟も合流し、先生のもう片方の肩を担ぐ合間に、俺は先生の容態を確認する。

 両腕はひん曲がってるし、右腕は皮膚どころか筋肉まで崩れている。それ以外の場所も殴られまくってボロボロだ。自慢の捕縛布も脳無に引きちぎられて、そこら辺に散乱していた。

 

「お、お前達……っ、どうして来た……!?」

 

「先生、今はそんな事言ってる場合じゃない……!」

 

「あの化け物……オールマイトと同等のパワーとスピードだと、他のヴィランから聞き出しました」

 

「クッ……やはりか……ッ!」

 

 脳無は動きを止めたが、あの死柄木の素の能力までは知らない。このまま先生を担いでいては戦えないし、先生の個性が保つのかどうかもわからん。

 この状況をなんとかするには人手が必要だった俺は、水害エリアに向かって叫んだ。

 

「緑谷ッ!!! どっかにいんだろッ!? 先生連れて入り口に逃げろッ!!!」

 

「っ!」

 

「緑谷ぁ!」

 

「緑谷ちゃん!」

 

 蛙吹と峰田の静止も聞かずに、緑谷が水場から飛び出し、俺と轟の担ぐ相澤先生の元へと駆け寄ってくる。

 

「頼む」

 

「わ、わかった……! 切裂くんと轟くんは……?」

 

「……先生を逃す時間と…………オールマイトが来るまでの時間を稼ぐ」

 

 俺と轟から先生を肩代わりして担いだ緑谷は、俺の言葉に反対しようとする。

 

「そんな……ッ!? 無茶だよッ! 先生ですら───」

 

「早く行って」

 

「ッ!!?!」

 

 絶対に有無を言わさない視線と言葉を送り、相澤先生を担がせた緑谷を下がらせた。

 

「待てッ……お前ら……ッ!」

 

 先生は何か言おうとしたが、体はもう自分で立つ事もできないほどダメージを受けているらしく、後退する緑谷に逆らえなかった。

 

「轟くん。オールマイトが来るまで時間稼ぐよ……!」

 

「ああ……!」

 

 俺は両手を刃にして構えて、轟は半身から冷気を放って、動けなくなった脳無と俺達を警戒したまま動かない死柄木を睨みつける。

 

「クッソ……ザコ共がワラワラと……! オールマイトは来ねえし……お前らだけでも殺して帰るか…………脳無ッ!!」

 

 死柄木の声で動いているのだろう。下半身氷漬けになっている脳無が唸り声を上げて、自身を拘束する氷の塊を両腕で叩き割った。

 

「クッ!」

 

「チッ!」

 

 焦燥する轟と、もっと切り込むべきだったと後悔する俺の視線の先で、脳無が拳を握って構える。

 死柄木が、スッと俺達に指を差した。

 

「殺れ」

 

「ッ!!」

 

「とどッ───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 見えたのは一瞬だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 拘束ができる轟を先に狙うかも、と希望的観測をしていたから反応できた。彼の頭を砕こうとする脳無の拳は俺の叩き下ろした刃で軌道を逸らされ、彼の火傷のある顔を掠って地面を抉った。

 

「「うぉぉぉぉぉおッッッ!!!!!!」」

 

 拳の風圧で瓦礫と一緒に宙を舞う事になったが、轟はその中で2度とない好機を逃さない。再び発動した凍結によって瓦礫ごと脳無を腕から一気に氷漬けにし、俺は舞い上がった瓦礫を蹴り付けて、脳無のアキレス腱を目掛けて腕を振った。

 

「ぐっゥゥゥゥゥっッッ!!!!」

 

 言葉すら上げなかった脳無だが、そのままその巨体はガクリ膝を付き、立ちあがろうと足をバタつかせる。その隙に俺は地面に滑り込む様にして着地すると、背後から脳無の凍っていた腕を今度は丸ごと刃で氷諸共肩から切断した。

 

「おいッ、なにやって……!」

 

「凍らせろッ、早く!!!」

 

 刃を振り上げた勢いで飛び上がりながら、俺は轟に向かって叫ぶ。その言葉の意味にすぐ気がついた彼は、今度は脳無の足元ごと断面に冷気を飛ばす。黒い肌と違い、人間に限りなく近い真っ赤な筋肉が霜に包まれると、脳無自体が動きを止める。

 轟は地面に転がり、俺は受け身も取れずに地面にダイビングした。それでも俺と轟は素早く立ち上がり、脳無の様子を確認する。

 

「ゼェ、ゼェ……ッ! ワリぃ、助かった……!!」

 

「ハァ、ハァ……っ! いい気にすんな……ッ……それより、止まったか……?!」

 

 一瞬にして体の全神経を疲弊させた俺達は、膝と肩で息をしながら、残る死柄木に警戒を向ける。

 その向こうでは、死柄木が身体中をボリボリと嫌な音を立てて掻き回しながら、苛立ちの声を搾り出していた。

 

「アァァ……何やってんだよォ! せっかく『先生』の作ってくれた、対平和の象徴をこんなにしやがってよォ!!!」

 

「『先生』……だと?」

 

 轟が気になる単語を聞き出すも、俺は後ろから聞こえた声に、耳を傾けていた。

 

「先生っ、先生ッ!!」

 

「………………」

 

 振り返ると、俺達と距離を離した場所で、緑谷と合流した蛙吹の2人で両肩を担がれた相澤先生が意識を失っているのが見えた。近くには峰田もいた。表情こそ見えなかったが、俺の事をずっと見ているような気がした。

 

「先生……!」

 

「気をつけて……向こうは個性使えるようになったから……!」

 

 轟も相澤先生の意識が失われた事に気づいた。これで向こうは『個性』が使えるようになった事を意味して、俺は一層集中力を上げる。

 そこに、死柄木の周りから黒いガスが広がって、ガスヴィランが姿を現した。

 

「死柄木 弔……」

 

「黒霧……13号は殺ったのか?」

 

「行動不能にはできたものの、散らし損ねた生徒がおりまして……1名逃げられました」

 

「は……?」

 

 黒霧と呼ばれたガスヴィランの申し訳なさそうな言い方と、それに対する死柄木の気の抜けた声に、集中しているこちらが馬鹿に見えてしまいそうだった。

 

「もういい、帰ろう」

 

「帰る……だと?」

 

 死柄木の台詞に轟が思わず反応する。俺としては、そのまま帰ってくれるのが1番助かった。

 

「脳無も壊され……あぁ?」

 

 ピシリとガラスが何かにヒビの入る音が鳴る。

 

「「ッ!?」」

 

 俺と轟の見ている目の前で、氷漬けにしていた脳無がまた動きだした。

 

「マジか……!」

 

「冗談だろ……!?」

 

 脳無は頭を振り払う様に動かし、筋肉を膨らませて上半身の氷を破壊すると、俺の切断した断面から肉塊をボコボコと膨らませて、徐々に腕を再生していく。

 

「オイ嘘だろ……! あのチンピラヴィランの言っていた事と違うぞ……!?」

 

「言わなかったんじゃないか? それか……オールマイトみたいな超パワーな個性としか、思っていなかったか……!」

 

 轟が動揺を隠せない中、脳無は再生した上半身の腕で下半身の氷を叩き割り、再び復活する。

 

「アハ、アハハ……ッ! よぉし……イイぞ! コンティニューだ……!! あの2人だけは絶対に殺して帰ろう……っ!」

 

 死柄木は子供みたい手を叩いて笑う。この状況に救いがあったのは、彼がまだゲーム感覚で俺達を襲っていた事だった。

 氷はキリがない。俺は脳無を睨みながら……轟に少しだけ身を寄せる。

 

 

 

「轟くん。君、炎も出せるよね……!」

 

「ッ!? 今度はなにを……!?」

 

 

 

 俺の発言に、轟は思わず視線を俺へとズラした。

 

「凍らせてダメなら、焼き潰すってのは、どうかな……?」

 

「っ!」

 

 轟は迷っていた。彼がどんな家庭で育って、自分の炎の個性を封印してる理由も知っている。

 だが、そんな私情を挟んでいる状況ではない事を、彼はなんとなく頭で理解しているだろう。さっきの一撃を見て、短期決戦を挑まなければ確実に殺される事に。

 

 そんな彼の視線は俺ではなく、俺の足元のすぐ近く。ポタポタと腕の下に広がる、血の水溜りに向けられていた。

 

「お前……その腕……!」

 

「………………」

 

 右腕は戦闘服が破け、刃と手が中途半端に変化したまま、亀裂が入ってボロボロになっていた。裂けた傷口からは鮮血がそのまま流れ出ており、元の手に戻したら更に悲惨な事になるだろう。

 最初の脳無の攻撃を逸らしただけでこのザマだ。たぶん、直撃したら体を硬化しても、俺ではひとたまりもない。

 

「なぁに、少し経てば元の手に戻るさ……今は……」

 

 俺は右腕に力を込め、肌色と鉛色に血の赤まで混ざった、少し形状の歪な刃を形成させる。

 

「コレでいい……!」

 

「震えが止まってねえじゃねえか」

 

 彼の言う通り、俺の刃はカタカタと震えが治められずにいた。こんな状況だってのに、まだ心配してくれているのが嬉しかった。

 

「実はさ……ガチの刃で人斬ったの今初めてなんだわ」

 

「っ!?」

 

「俺、こんな個性だからさ、子供の頃から親に結構厳しく教育されてきたんだよ…………個性も家の中でしかまともに使わせてもらえなかったし、1回中学校の初めに個性使って喧嘩騒ぎ起こした時なんて……母親には泣かれたし、親父には立てなくなるまで殴られたしな……」

 

「お前……」

 

「別に親の事なんか恨んでもいないし、むしろそんなふうに育ててくれた事に感謝してる。だから、だからこそ、俺はこの個性を正しい事に使いたい。こんな危険な個性でも……自分の個性でヒーローになれる世界を示さなきゃいけないんだ!」

 

「っ!」

 

「こんなクソみたいな所で、くたばってらんないんだ……!」

 

 俺は無理矢理震えを止めて、再度刃を脳無に構え直した。

 

「あのガスヴィランまで来たけど、アイツらまだ俺達を舐めてる…………調子に乗っている間に、脳無だけでも止める…………行くよッ!!!」

 

「ま、待てッ!! クッっ!!!」

 

 俺が駆け出して、少し遅れて轟が冷気を脳無に浴びせる。今度は地面が凍るだけではなく、巨大な氷山となるぐらいの勢いで。

 

「なッ!?」

 

「なんとッ!!?」

 

 轟の本気に向こうも驚いたか、死柄木達は距離を離すも、脳無は自身をそのまま飲み込もうとする氷塊に、拳を放って破壊する。

 

「クッ……っ!!?」

 

「引くなッ、攻めろッッ!!!!」

 

 俺は轟の生成した氷の壁を足を刃にして走り、割れた氷塊を飛び渡って、脳無の突き出されていた右腕を切り飛ばす。更にそのまま脳無の肩に着地と同時に、左腕の刃を脳無の頭である脳味噌に突き立てた。

 途端、脳無が今までに聞いた事のない甲高い悲鳴を上げ、俺をハエでも叩き落とすかの様に左腕で地面に叩きつけた。

 

「がッッっッッッ!!!?!?!!」

 

 頭が大きく揺れて、その衝撃で吐血した。立ち上がろうとした視界の先で、右腕を再生させた脳無が、俺に拳を振り上げる。

 

「ッッ!!!!」

 

 咄嗟に右腕の刃で、俺は脳無の片足を切断し、奴のバランスを崩させた。そして身体を跳ね起こそうと丸めた直後、俺のすぐ真横に奴の力の籠った拳が叩き落とされた。

 

「グうゥゥゥゥゥゥッッっッッ!!!!?!!?」

 

 拳の風圧だけで体が跳ね起き、宙を舞う。轟の氷塊だけでなく、地面にもヒビが走ってクレーターになるほどの地鳴りと破壊が巻き起こされた。

 風圧に巻き上げられても、俺は脳無からは目は離さなかった。ただ、奴は断面になった足で体をバランスを整えて、俺に向かって拳を構えていた。

 

 轟が俺の名前を叫んでいる様な気がした。

 

「切裂くんッッッ!!!!」

 

「うおっッ!!!?」

 

 轟よりも早く、戻ってきてしまったのだろう緑谷が、脳無の真横に向かって飛び出していく。OFAを足に使ってしまったのか、信じられない速度で飛び出してきた。

 

「邪魔はさせませんッッ!!!」

 

 しかし、そこに現れたのが黒霧だった。空間からガスを広げてワープし、俺を殴ろうとする脳無を守る様にして、緑谷を飲み込───

 

「どけジャマだデクゥぅぅぅぅぅっッッッ!!!!!」

 

「かっちゃんっっ!?」

 

 ───もうとした黒霧を、どこからともなく飛んできた爆豪が、爆破でガスごと黒霧を吹き飛ばし、そのまま黒霧を地面に叩きつけた。

 

 そして、俺の目の前では……

 

「グっッッッウぅぅぅぅぅっッッ!!!」

 

「切島っ!!?」

 

 脳無の拳を、俺の間に飛び込んできた切島が、身体で受け止めていた。

 

「ガはぁ……ッ!!!」

 

「あ゛ァァァァぁアぁ゛ァァァァァァッッっッ!!!!!」

 

 吐血する切島を空中で押し除け、俺は全身の力を右腕にブチ込み、脳無に向かって袈裟に切り裂いた。

 肩がゴキンと変な音が鳴ったが、構わず俺は身体を使って一気に脳無の片腕と両脚を切断した。

 

 そのまま俺は地面に滑り込む様に着地しながら、駆け寄って来ていた轟に振り返った。

 

「潰せェェェェェェッッッ!!!!!!!」

 

「ぅう゛ぉォォォォォォォォッッ!!!!!!!」

 

 轟の左半身を覆う氷をブチ割り、ヒーローコスチュームである白いスーツを焼き払いながら放たれた炎が、脳無の再生しようとする傷口を捉え、中身まで黒く焼き焦がしていく。

 頭の上を通過していく業火に、周りの温度が一気に熱くなり、汗が蒸発していく。吸い込む空気すら火傷してしまいそうな炎を全身で受けた脳無は、そのまま炎の勢いに押され、吹き飛ばされた。

 

「ハァ、ハァ……ッ、ハァ……ッっ!!!」

 

「ゼェ、ゼェ……ッ!!」

 

 左手を突き出したまま息を荒げる轟と、立つ事もままならずに彼の足元にゴロゴロと転がった俺は、黒煙と白煙の先にいる脳無の様子を確認する。

 脳無の再生は、止まった。そこには、脳味噌が半壊した上、片腕だけとなった状態から、全身を炎で焼け爛らせてもなお、バタンバタンと跳ね回るイビツな脳無に、俺は脱臼した右腕を押さえながら片足立ちで警戒する。

 

「ハァ、ハァーッ!! もういいって……ッ!!!」

 

「ゼぇ……ゼェ……ッ!? クソ……ッ! ま……まだ息がありやがる……!!」

 

 久しぶりに左側を使ったからか、上半身の左側だけ半裸になった体から黒煙を出して火傷を起こしている轟が、動いている脳無を信じられない様な顔で睨みつけていた。

 

 しかし、信じられないのは、向こうも同じだった。

 

「嘘だろ……? 2度も……なんで……!!」

 

 手をワナワナさせながら、死柄木は怒りに体を震わせる。

 そこにUSJのドームの入り口をブチ割って、ザコヴィランを蹴散らしながら俺達の元へと着地する人影が現れた。

 

「もう大丈夫……私が来た……!!!」

 

 黄色いスーツに白いシャツ姿で、ネクタイをちぎり捨てたオールマイトだった。

 

 更にUSJの入り口が騒がしくなる。

 

「1年クラス委員長、飯田 天哉ッ!!! ただいま戻りましたッ!!!!」

 

 入り口前に残されていた飯田が、雄英の教師達───プロヒーロー達を連れて戻って来たのだ。

 

「黒霧ッ!!!」

 

「っ!」

 

 脳無が使えなくなった今、死柄木が下した判断は早かった。

 

 爆豪の押さえつけていた黒霧が、地面に沈んだ。

 

「ッ!? クソッッ!!!」

 

「ば、爆豪少年!?」

 

 すぐさま死柄木へと飛び込もうとする爆豪に、オールマイトが気を取られてしまった。彼の突撃よりも早くワープゲートを繋げた黒霧が、死柄木をガスで包む。

 

「逃すなッ!!!」

 

 長距離から拳銃でガス越しにバカスカ撃たれる死柄木を黒霧が飲み込み、消えた。後にはもう動かなくなった脳無の残骸しか残ってはいなかった。

 爆豪の爆破が空を切り、着地した彼は地面を殴りつける。

 

「クソォッ!!!」

 

「………………ッ!!」

 

 緑谷も両足爆裂させて、これ以上動く事ができないまま、悔しそうに拳を握りしめる。

 あまりにも一瞬の出来事に、俺と轟はようやく緊張の糸を切って、膝をついた。

 

「ゼェー……ゼェ……! ハァ、……ハァ…………と、轟くん……!」

 

「ハァ、ハァ……! ハァ、……ハァ………………なんだ……?」

 

 

 

 

 

「君の炎……悪くなかった……!」

 

「………………そうかよ………………!」

 

 

 

 

 

 そうひと言交わして、そして俺は我に帰る。切島が脳無に殴られて倒れていたのを思い出した。

 

「切島ッ! オイ゛ッ、生きてるかぁッ!!?」

 

 すぐ離れた所で、大の字で倒れていた切島に、痛みも疲労も忘れて俺は彼に駆け寄る。

 俺が抱き起こした瞬間、彼が咳き込んだ。

 

「ガハッ、ゴホッゴホッっ! き、効いたぁ……ッ!」

 

「ッ……やっぱり、防御は君の方が上だよ……!」

 

 血溜まりを吐き出して起き上がろうとする彼を見て、ようやく全てが安心した俺は、今度こそ動けなくなってそのまま地面にへたれこんだ。

 

 

 

 

 

 ・・・♡・・・♡・・・

 

 

 

 

 

 その後、パトカーがありったけ来て、みんなで戦闘不能にさせたヴィランを回収していった。

 この戦闘で俺と轟と切島、あと緑谷が怪我していた。命に別状はなかったので、4人で仲良くパトカーに押し込まれて保健室へと運ばれた。

 

 緑谷は指と両足を爆裂、轟は打撲と火傷と凍傷と顔に掠り傷、切島が肋骨を数本骨折と軽い内臓破裂起こしていたが、すぐリカバリーガールに治癒してもらって、復活していた。

 俺の右腕裂傷と脱臼、全身打撲もリカバリーガールにすぐ治療してもらった。右腕に少し怪我の痕が残ったが、緑谷に比べれば大した事ない。

 相澤先生も両腕潰されただけで、個性の命になる目には特に損傷もなかった。コレだけでも、救いか。

 オールマイトの体力も、残り少ないのは知っているが、俺と轟で脳無を止めたから健在。

 13号先生は背中を少し塵にされてしまったが、命に別状はない。仕方ないとはいえ、可哀想な事をしてしまった。

 脳無はそのまま警察に確保。死柄木も黒霧もとっ捕まえられなかったが、悪くない結果だったと……

 

 

 

 

 

 ……その時の俺は思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 切裂ヤイバの剣心 入学式〜USJ編 完

 

 ED曲 Chad Kroeger ft. Josey Scott - Hero

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次回『体育祭準備』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 プロフィール

 

切裂(きりさき) (やいば)

 ヒーロー名 ?

 身長    170cm

 体重    73kg

 誕生日   4月○日

 好きなもの ミリタリー&アウトドア用品

 趣味    キャンプ

 髪型    黒のショート(轟よりもうちょっと長くてボサついた感じ)

 瞳の色   黒

 顔     ?

 性格    献身的

 個性    『(ブレード)

 体を刃物に変化させる事ができる。また、体から刃を突き出す事もできる。

 太刀筋に表裏が存在せず、振った方向にそのまま刃が向く。

 刃の鋭さは調節できる。

 体を変化させた刃に損傷を受けると、生身にも伝導する。

 個性発動中は体が金属化しており、熱や物理攻撃に耐性を得る。

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