切裂ヤイバの献身   作:monmo

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第五十三話

 

 

 

 

 

 雄英高校ヒーロー科1年生達の作戦は完璧だった。峰田という拘束力において最重要な人員が欠けたにも関わらず、八百万は作戦を組み立てたのだから。

 更には、年明けからインターンにおいてイレギュラーを見守り続けてきたラーカーズが、まだ諦めてはいなかった。

 エッジショットは山荘で旧異能解放軍最高指導者である『リ・デストロ』と交戦の真っ最中であり、暴走するギガントマキアを止めるために此処にいたのは、マウントレディとシンリンカムイの2人。

 一度は振り払われたものの、2人が死に物狂いでマキアに追いつき時間を稼いだからこそ、インターン生である八百万達は迎撃の準備を整えた。

 

「方向よしッ!!!!!」

 

「位置ドンピシャッ!!!!!」

 

 頭を分離して浮かぶ事でギガントマキアの進行方向を確認した取蔭、そして最後の瞬間まで迫り来るマキアの足音を聞いていた耳郎により、インターン生の目の前を通過しようとしたギガントマキアは骨抜の柔化で一面を底なし沼に変化させていた地面へと踏み込んだ。

 25メートルを超える巨体が足元を踏み抜いて大きく揺らぎ、背中に乗っていた連合の構成員が浮かび上がる。咄嗟に伸ばした腕すら地面に沈み込み、ギガントマキアの体が地震を起こしながら完全に倒れ込む。

 そこに、八百万の創造で用意したフック付きのワイヤーロープがギガントマキアの顎に向かって何本も投げつけられ、パワー系の個性の持ち主達がマキアの口を開かせるべく一斉に引っ張り始める。

 

「引けッ!!! 引けェーーーーーッッ!!!!!」

 

「ううぅーーーーーッッ!!!!」

 

「立ち上がられたら望み薄ですぞォーーーーーッ!!!!」

 

 シュガードープを発動させた砂藤、手を巨大化させた拳藤、ビーストモードの宍田を中心にして、3方向からギガントマキアの顎を引っ張るが、巨人相手に純粋な力比べでは敵わない。両手足を沈めながらもマキアが立ち上がろうと動き出し、彼らの足元が引きずられていく。

 

「多勢に無勢をお許しください……ッ!!!」

 

「こっちの方が、どう考えても不利っしょッ!!!」

 

 更に拘束力を上げるべく、塩崎の茨と瀬呂のテープが同時にギガントマキアの首へと巻きつき、もがくマキアを地面に押し付けようとするが、それでもまだ巨人を押さえつけるどころか、口を開かせる事すら至らない。

 

 

 

「グォォォォオ゛ォォォォォォォォッッッ!!!!!」

 

 

 

「寝てろォォーーーーーッ!!!!」

 

「ヤバいッ!」

 

「起き上がっ───

 

 砂藤達の叫び声も敵わず、数人の生徒が作戦の失敗を予感しようとした時、上体を上げようとしたギガントマキアの影から何本もの樹木が伸び広がり、マキアの顎を掴んで底なし沼の地面へと再び引き倒した。

 

「ハァ……! ハァ……ッ! 不甲斐ない……しかし、感謝する!!!!」

 

「「「「「シンリンカムイッ!?!!!」」」」」

 

 ギガントマキアが急に転倒した事で足から離れてしまったマウントレディの頭から飛び出し、マキアを拘束しようとするインターン生達の危機を目で捉えたシンリンカムイが助けに現れたのであった。

 彼はギガントマキアの口を開こうとしていたインターン生達の様子を見て、自身のすべき行動を予測して樹木をマキアの首に巻きつけながら左右を見渡し、話す相手も定めずに叫んだ。

 

「グレープはどうしたッ!!?」

 

「ミッドナイト先生の救護にッ!!!」

 

「なるほどッ!!!!!!」

 

「口を開かせてくださいっ! 麻酔薬を投げ込みますっ!!」

 

 ほんの数分前までギガントマキアを止めるべく行動を共にしていたが、背中に乗っていた敵連合の構成員による猛攻で離脱してしまったミッドナイトを救いに向かった事を聞いて、安堵しながらもシンリンカムイはすぐさま思考を切り替える。この巨人を眠らせようという、ミッドナイトと同じ戦法を考えていたインターン生に、彼は何らかの遣り取りがあったのだろうと結論付けつつ、目の前の巨人の口を開くべく個性を全力で発動させる。

 

「雄英……こんなに来てんのか……!」

 

「クッソッ! マグネもトガも、トゥワイスもいねえってのにッ……!」

 

 対してギガントマキアの背中にしがみついていた敵連合の構成員、スピナーが歯軋りをしながら恨みを溢し、コンプレスは仮面越しにイレギュラーの仲間であるインターン生達を見て僅かに動揺した。

 だが、そこに自身が託した彼の姿はない。それだけを確認してからコンプレスは静かに戦闘の態勢をとって意識を集中する。

 

「フン……煩わしいッ!!!!!」

 

 その彼のすぐ近くで、インターン生達の妨害を認識した荼毘がギガントマキアの焼け焦げる事のない背中から、両手で蒼炎を広範囲に広げて自分達に狙いをつけてきた学生達を襲う。

 耳郎の伸ばしていたジャックの耳たぶが炎に飲まれ、彼女が悲鳴を上げた。

 

「ッ!!!」

 

 それに気付いて、炎の発生源である荼毘に狙いを定めた上鳴がエレクトライダーでギガントマキアよりも高く飛び上がり、最大出力の雷霆を放とうと接近した。

 

「最大出力……ッ! 300万───ッ!?!!?!」

 

 だが、彼が放電するよりも早く接近に気付いていたコンプレスから放ったビー玉。ミッドナイトに命中させた物と同じく、中身は破壊された山荘の瓦礫を全て投げつけられ、上鳴は鈍い音を立てながら空中で意識を失った。

 

「惜しかったな……一瞬ヒヤリとしたけど、俺を捕まえるには迂闊すぎるぜ……」

 

 ヒーローに想いは託した身なれど、そのまま彼等に捕まる道理は持たないコンプレスは、瓦礫に混ざってスケボーと一緒に落下していく上鳴を見届けながら1人呟いた。

 

「上鳴ッ!!!!!!!」

 

「上鳴くんっ!!!!」

 

「上鳴がやられたっ!!!!」

 

「このっッッ!!! 口……開けェェーーーーー!!!!!」

 

 

 

「ぐッ…………グぉォ…………ッ!!?」

 

 

 

 耳郎を筆頭に数人のクラスメイトが落下する彼を受け止めるべく動き出した最中、砂藤やシンリンカムイによって拘束していたギガントマキアの口から、ほんの僅かに開く。

 

「皆さん、今ですわッ!!!!!!!」

 

「寝ろ寝ろッ!」

 

「寝てろーッ!!!」

 

「コイツを街に下ろしたら、絶対ダメだッ!」

 

 八百万の号令によって、残るクラスメイト達が一斉に持っていた麻酔薬をギガントマキアの口元目掛けて投げつける。

 狙いはまちまちだったが、これだけの量を投げつければ誰かしら命中すると踏んだ八百万の視線の先で、あともう少しでギガントマキアの口の中へと入ろうとした薬は……

 

 

 

「ハ………………クシュンッッッ!!!!!!!!!」

 

 

 

 マキアのくしゃみによって全て弾き返されてしまった。

 

「うわッ!!?」

 

「何ッ!?!」

 

「みんなーッ!!!」

 

「臭えぇッッ!!!!?!」

 

「くしゃみでこの威力……ッ!」

 

 体が吹き飛ぶ程の風圧に、クラスメイト達は木々に捕まりながら台風の中心にいる様な暴風に耐える。そこに目をつけた荼毘の炎が放たれた事により、くしゃみで一気に広範囲に広がった蒼炎が森林の中を、インターン生達の前を遮るように阻んだ。

 

「く……っ!」

 

「ギガントマキア……高揚を体躯の変動エネルギーに変える個性、痛覚を遮断する個性、他にも色々……全て戦場に長く居続けるための個性なんだとさ。ドクターが言ってたよ……コイツこそ、まさしく守護者だって……」

 

 燻される音と共に腕の火傷の部分から黒煙を揺らめかせながら、誰かに聞かせるでもなく自慢の様に話す荼毘の見下ろす視界で、炎の海が広がった森林内の向こうから八百万が苦悶の声を漏らす。

 

「熱ッ!」

 

「くッ……炎で近づけない!」

 

「無事か!?」

 

「シンリンカムイはッ!?」

 

「わからないっ!!」

 

「セロファンとヴァインはっ!?」

 

「吹き飛ばされた時に見失っちまった……!」

 

「火の回りが早すぎるッ!」

 

「なんつう火力ぶっ放しやがるッ!!」

 

「まだ何人か向こうに……ッ!」

 

「影が……!」

 

「胞子も燃えちゃうノコ……!」

 

「ダメだッ! ヴィランが立ちあがるッ!!!」

 

 人の肌をたちまち焦がしてしまう蒼炎が広がり、クラスメイト達の身動きが取れない視界の先でギガントマキアの上半身が動き出し、底なし沼から立ち上がり始める。その首と顎にはまだワイヤーやテープ、茨と樹木が引っかかっていたが、マキアを阻む事は叶わなかった。

 

「まだッ!!!!!」

 

 だがしかし、八百万の策は尽きてはいなかった。彼女が沼底に仕掛けた爆弾を一斉に起爆し、地盤を更に緩ませて深める事で三度ギガントマキアのバランスを崩して転倒させる。

 地響きが走るほどの爆薬が何度も地中で破裂を起こし、ギガントマキアの巨体が揺れ動きながら更に地面へと沈み込む。本来なら『土竜』の個性により地中すら突き進む事のできるマキアだが、今彼の背には主の仲間である連合の構成員が乗っており、彼等を無事に死柄木の下へ連れて行くのが役目である以上、地中に潜る手段は使えなかった。

 自分達の存在がギガントマキアの枷になっている状況にコンプレスが焦りを覚えた直後、そこへようやくマキアに追いついたプロヒーロー達が背中に飛び乗り、彼等との戦闘が始まる。

 

 

 

「うぅうう゛ぅうウ゛ぅぅゥゥっッッ!!!!!!!」

 

「グオォォォッッ!!?」

 

 

 

 そこには当然、地面に叩きつけられて意識を朦朧としながらも動き出す、彼女の姿もあった。

 山の様な巨体のギガントマキアの背後から顔を出す、巨体を晒した彼女の姿を見て何人ものインターン生がその名前を発する。

 

「「「「「マウントレディッ!!!!!!」」」」」

 

 驚く彼等の視界の先で、ギガントマキアの上半身に乗り上がったマウントレディが、不快感も構わずマキアの口内に手を掛け、無理矢理口を開こうと掴んだのだ。

 

 

 

「(さっき全員で口に何か放り込もうとしてたッ!!!!)あーんしなさいッ!!!! ホラッッ!!! あーーーんッッッ!!!!!!!」

 

 

 

 インターン生が目の前の怪物を止める方法を考えていたならばと、彼女はシンリンカムイに続いて彼等を援護するべく、自らの役割を果たそうと動いていた。

 そして、その彼女の思いに呼応する様にして荼毘の放った蒼炎の海から飛び出す者がいた。

 

「粘性MAX……ッ!!!!!」

 

 触れる物全てを焼き尽くす炎の中から『ヒュドラ』を纏った芦戸が飛び出したのだ。

 彼女は最大粘度の酸で体を包み込み、荼毘の炎から脱出した彼女は酸の蛇を切裂の操血刃の様に地面から跳ね上がらせ、大きく跳躍しながらギガントマキアの口元を狙ってその腕を伸ばした。

 

「眠れぇェェーーーーーッッッ!!!!!!」

 

 恐怖ですくむ心を押さえつけ、ミッドナイトを助けに向かった峰田の覚悟や、シンリンカムイとマウントレディ達の援護を無駄にさせないため、そして彼といつもの学園生活を取り戻すため……様々な思いを胸に芦戸の手から酸を纏って伸びた蛇が、口に麻酔薬のカプセルを咥えてギガントマキアの口へと一気に伸びていく。

 

 そして、そのまま彼女の意識に従う様に動くヒュドラがバスケットのダンクシュートの如く、彼女の薬のカプセルがギガントマキアの口内へと叩き込まれた。

 

「入ったァァッッッッ!!!!!!!!!!」

 

 芦戸は残りの酸の蛇でギガントマキアの目の前の地面にバウンドして着地しながら、あらかじめ八百万に用意されていたインカムに叫んだ。

 それを聞いていた彼女は、すでに別の位置に移動を果たしており、全員に伝えるべくインカムを押さえて叫びながら大型の大砲を創造し、マキアに狙いをつけて砲撃を始める。

 

「暴れるほど、麻酔の回りが早まるハズですっ! マジェスティックっ!!!!」

 

『委細承知した! 流石はモモちゃん……俺が見込んだ女だよっ!!!』

 

 そして彼女の無線は現場のプロヒーロー達にも伝わっており、八百万の無線機から軽快な男の声が返ってきた。

 それは砲撃を受けてよろめいたギガントマキアの動きを更に止めるべく、山荘からヴィランの猛攻を張り切って追撃を仕掛けたヒーロー。

 

「さあ、皆さん! インターン生に頼りっぱなしは、ココまでにしようッ!!!」

 

 魔法使いの様な鍔の広い大きな帽子を目元まで深く被り、メキシカンなコスチュームを着たプロヒーロー『マジェスティック』が他のプロヒーローを引き連れて高らかに声を上げる。彼の個性は名を表す通りの『マホウ』 リング状のエネルギーを宙へ自在に操る個性であり、彼の指揮で引き連れるプロヒーロー達もそのリングの上に立って空中を移動していた。

 芦戸の活躍は障子によって一部始終確認されており、炎に阻まれて残されたクラスメイト達からも歓声が上がる。更には骨抜が柔化させる範囲を広げて燃えた木々を沈める事で消火を試みており、それが終わりさえすれば八百万の指示の通り、ギガントマキアを動かして麻酔を回らせるべく戦闘態勢に移ろうとしていた。

 

 だが峰田の不在、イレギュラーによるプロヒーロー達の行動の変化、そして史実よりも卓越した雄英生達の動きによって、致命的な分岐が起こった。

 それは、この巨人の実力をまだ誰も理解していなかったのも、原因だった。

 

 

 

「小蝿はキリがない……だが、払うが最短」

 

 

 

 

 

 ギガントマキアがインターン生達を『敵』と判断してしまったのだ。

 

 

 

 

 

「なんとッ!?」

 

 途端、マジェスティックの前でギガントマキアの下顎が変形して仮面の様に顔面を覆い、その顎に隠れていた鋭い牙が露わとなる。

 

「なッ!!? ま、まだ……ッ!!!?」

 

 それに続いて最大だと思っていた巨体が、彼らインターン生の見上げる目の前で更に巨大化していく。同時に、押さえつけようとしていたマウントレディの体が、巨大化するマキアに押されて完全に地面から足が離れた。

 

「そ、そんな……!?」

 

「マ、マジかよ……!」

 

「おいおいおい……何なんだよ、コイツはッ!!」

 

 頭を分離して宙に浮いていた取蔭、芦戸と合流すべく荼毘の炎を突破しようとしていた切島と鉄哲の前で、最初は膝まで沈んでいたギガントマキアの足が巨大化によって浮上し、底なし沼から平然と足を上げて脱出を果たす。更には『土竜』の個性を発動させた事で本物のモグラの様に五指の爪が伸び広がるだけでなく、指そのものが鋭い爪へと変化した。

 

 

 

「主への最短距離……蝿に時間を割くなど寄り道甚だしい……判断を誤った……!」

 

「ぐうゥゥっ! うぅゥウぅぅぅっッッッ!!!!」

 

 

 

 マウントレディが必死にしがみつく中、それまで虚ろだったギガントマキアの瞳孔が開いた。

 

 

 

「2度と集らぬ様、払うが最短。全ては主の為に……!!!!!」

 

 

 

 そして、その瞳は彼に最も近い距離にいた、マウントレディを捉えた。

 

「あッ!!?!」

 

 直後、しがみついていた彼女の体がギガントマキアの背中から一気に伸びた棘に、深々と突き刺さる。

 

「い゛ィぃい゛ィィッッ!!?!!!!」

 

 鮮血を滲ませながら痛みで怯んだ彼女の体を、今までとは段違いの腕力によってギガントマキアに掴まれ、そのまま頭から地面に叩きつけられる。

 跳ね上がるほどの地鳴りと共に青葉の木々が、葉を散らしながら幹を軋ませて動く。掴まれたマキアの爪は彼女の腕に浅くない傷を残し、彼女の巨体が反動で跳ね上がる衝撃的な光景が広がり、その場にいた誰もが息を止めた。

 

「マウントレディっ!?!!」

 

「立っちゃダメッ!!!」

 

「離れてっ!!!!」

 

 

 

「ぐぅうゥゥぅっッ!!!! う゛ぅゥウ゛うぅぅゥッっッ!!!!!!!」

 

 

 

 しかし、仰向けだった彼女の腕はまだギガントマキアに掴まれており、反射的に立ち上がろうとしてしまったマウントレディの目の前にマキアのもう片方の腕が迫る。

 インターン生が必死になって叫ぶが、ギガントマキアの振りかぶったその爪先は、振り返ろうとした彼女の体と顔面を狙って容易く薙ぎ払った。

 

「あッ───!

 

 地面を掘り進む為に何ヶ所も返しの付いた鉤爪は、彼女の肌に密着するヒーロースーツを肉ごと、意図も簡単に切り裂いた。

 

「───────ッ!?!!!?!!!!!!!」

 

 言葉になっていなかった悲鳴。

 

 まるで車に撥ねられたかの様に、マウントレディの巨体が空中へ打ち上げられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 巨大化に比例した夥しい鮮血と同時に彼女の髪が……金色の毛髪が角の付いた目出しマスクと一緒に、空へ舞い上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「「マウントレディッ!!!!!!!」」」」」」」」」」

 

 幾多の生徒達による悲鳴は、山を揺らす程のギガントマキアの咆哮に遮られる。

 

 地鳴りを起こして地面に叩きつけられたマウントレディは木々を薙ぎ倒して炎の広がる森に倒れたまま、起き上がらなかった。舞い上がった鮮血が森の一部を赤く染めて、地面を弾いた。

 

 

 

「まず1匹……!」

 

 

 

 自分にとって目先の脅威だったマウントレディを沈めるも、まだ完全に命を絶っていないと判断したギガントマキアが赤く染まった爪を立てながら、倒れたまま動かない彼女に向かって歩き始める。

 しかし、それ以上の凶行を命を懸けてでも止めようと誰よりも早く動いた者がいた。

 

「岳山ァァァァァァッ!!!!!!!!!!!」

 

「シンリンカムイっ!!!?」

 

 ギガントマキアの顎を開こうとしていた最中に荼毘の炎の直撃を受けて、体の一部が炭化しているのも構わずに飛び回る、シンリンカムイの激情に震えた声が聞こえ、思わず数人の生徒が振り返る。

 マキアのくしゃみと同時に吹き飛ばされていた彼は焦げ落ちる体も無視して、両腕から限界まで伸ばした樹木をギガントマキアの足に巻きつけ、その動きを封じようと力を込めた。

 

 

 

「グぅ…………オォぉ…………!?」

 

 

 

「くゥゥ……う゛ぅゥッ!!」

 

 ギガントマキアの足はもつれたが、ただでさえ炭化していた彼の腕から伸びた樹木は、ミシミシと繊維の壊れる音を伝わせながら次々と表面から破けていく。

 そんな痛々しい姿をした彼に続いて、自らの個性で空中機動をとって飛び出す者がいた。

 

「俺達が時間稼ぐからッ! とにかく離れろッ!!!」

 

「瀬呂ッ!!?」

 

「主よ……ッ! 我等に、あの異形なる怪物を止める力を……ッ!! 与えたまえッ!!!」

 

「塩崎ッ!!!」

 

 イレギュラーとインターンを共にしていた、瀬呂と塩崎がシンリンカムイの後を追う様にして、ギガントマキアの背中に生える棘をテープと茨で掴みながら、圧倒的な大きさを誇る巨人を翻弄させる。

 2人のコスチュームも荼毘の炎に巻き込まれて焼け焦げており、瀬呂はバイザーで顔こそ無事だったものの、コスチュームが張り付く程の火傷を全身に負っていた。塩崎に至ってはトーガのほとんどが焼け落ちており、火傷の残る手足を晒しながら黒ずんだ茨で機動をとっていた。

 この状況下において、ギガントマキアを翻弄させるのは切裂や峰田と同じ様な機動力に長けた者のみ。それを感じ取っていたからこそ、2人はシンリンカムイの後に続いたのだ。

 

「芦戸ッ! お前も下がれッ!!!」

 

「麻酔薬は飲ませたのに……ッ!」

 

 空中を飛び回る瀬呂が、苦虫を噛み潰した様な表情でギガントマキアを見上げる芦戸に向かって退却を示すも、彼女はヒュドラを発動させて助太刀しようと動き出した。

 

 

 

「あの時の女……!」

 

 

 

「え……?」

 

 だが、不意に視界に入ったギガントマキアの言葉を聞いた芦戸は、ようやく目の前の存在を思い出したのであった。

 

 それは彼女が中学生だった頃、2人のクラスメイトに向かって今にも襲いかかりそうな雰囲気を晒しながら道を尋ねていた巨人に向かって、思わず前に飛び出して嘘をついてやり過ごした、あの時の巨人。

 ギガントマキアから明らかに敵意を込められた瞳で見据えられ、思わず彼女の身がすくんだ。

 

 自分の姿を覚えられていた事に芦戸は驚愕するも、自分自身の目立つ目と肌の色を考えてみれば当然だと、あっさり納得してしまった。

 そんな彼女の心境など知らず、怒りの眼差しに変わったギガントマキアが、不用意に飛び出していた彼女に向かってマウントレディの血に染まった爪の伸びるその手を振りかぶる。

 

 

 

 

 

 その寸前に見た彼女の走馬灯に映ったのは、『彼』ではなく切島の姿だった。

 

 

 

 

 

 無慈悲に迫る死。

 

 瀬呂と塩崎が察知してギガントマキアを止めようとするが、2人のテープと茨はマキアの爪と馬鹿力によって引きちぎられた。

 それに備えるために時間が間延びされていく様な感覚に襲われるも、地面に立ち尽くしていた彼女の体は動かず、ギガントマキアの爪が芦戸の体を引き裂こうとしたその時……

 

「芦戸ォォォォォォォォォォォォォッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

「切し───ッッッ!?!!!?!!!!!

 

 アンブレイカブルで全身を硬化させた切島が、荼毘の炎にその身を焦がされるのも構わず森を突き抜け、芦戸を庇う様にしてギガントマキアの前に立ち塞がった。

 だが、切島が彼女の肩を掴んだ時。すでに寸前まで迫っていたマキアの爪は芦戸を範囲から逃がす猶予を残していなかった。

 故に、彼は文字通り盾となり、芦戸を爪の直撃から防いでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 直後、2人の姿がギガントマキアの爪に地面ごと薙ぎ払われて、一瞬で消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「切島ァァァァァァァッッッッ!!!!!!!!!」

 

「三奈ちゃんッ!!!!!!!!!!!!!!」

 

 尾白と葉隠の悲鳴が響き渡ったが、後に残ったのは数100メートルと続くへし折られた木々と、岩山に激突して舞い上がる砂埃。そして、地面を一直線に削った土の跡線のみだった。

 A組のクラスメイト達は2人の安否を確認しようと動き出そうとしたが、あのギガントマキアの近くに向かおうとするあまりにも危険な行為を止めるべく、B組が動いた。

 

「「柳ッッッ!!!!!!!!」」

 

「わかってるッ!!!!!!!!」

 

 骨抜と取蔭。推薦組2人による指示に応えるようにして、ポルターガイストで対象を浮き上がらせる事のできる柳がギガントマキアが暴れた事によって生じた木片を動かす。

 

「小大ッ!!」

 

「んッ!!!! んッ!!!!!!」

 

 それに続いて対象のサイズを変える小大が柳の浮かした木片に触れる事で巨大化させて、そこに2人と一緒に負傷した上鳴、砂藤を止めた障子、葉隠を止めた尾白など、乗れるだけの生徒を乗せた。

 

「庄田ッ!!!」

 

「インパクトッ!!!!!」

 

 最後に飛び乗った庄田がすでに殴りつけていた個性を発動し、多段ブースターの如く衝撃を放った木片が森林から一気に飛び出した。

 

 

 

「逃さぬ……!」

 

 

 

 しかし、ギガントマキアの敵として目をつけられたインターン生達が、そう簡単に離脱できるハズもなかった。

 逃げ出そうとする彼らに向かって、身のすくむ雄叫びを上げながらギガントマキアが腕を振り回し、森林内から空中に飛び上がったインターン生達に迫る。

 

「来たぁッッッ!!!!!!!」

 

「ヤバいッ!!!!!!」

 

 防ぎようのない破壊の権化となったギガントマキアが、森林を薙ぎ倒して地盤ごと自分達を振り上げようとするその爪を……

 

「ウォォォォオ゛ォォォォォォォォォォォォォッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

「鉄哲ッ!!?!!?!?!!」

 

 木片から飛び出して限界まで鋼鉄化した鉄哲が、たった1人で受け止めた。

 

「テメぇごときに砕けるかぁァァァァァァァァァァァァァァッッッッ!!!!!!!!!!!」

 

 そう叫び続ける彼の鋼鉄の肉体は、全身から火花を散らしながらもギガントマキアの爪を受け止め切っており、闇雲に振り回されていた巨人の腕が弱まった。

 だが、硬化で優位性を取り、勢いを止める事に成功しても、その圧倒的な質量差だけは覆せない。

 威力こそ皆無だが、ギガントマキアの爪に押されて鉄哲の体が空に舞い上がる。

 

「ガァ………………ッ!」

 

「「「「「鉄哲ーーーーーーーーーーッッ!!!!!」」」」」

 

 クラスメイト達が叫びながら彼を受け止めようとギガントマキアの事も忘れて動き出そうとしたが、それよりも早く鉄哲の姿が宙に浮かんで止まった。

 力無く手足を伸ばした彼の背中に、光の輪が現れて彼を後方へと猛スピードで運んでいく。

 

「マジェスティック!?」

 

 ギガントマキアの戦場に到着したマジェスティックが、追撃を仕掛けてきたヴィランを蹴散らしながらもインターン生の脱出を援護すべく動いていた。

 

「君達の決断と行動は間違いなく正しかったッ!!! これから何が起きようとも、それだけは確かさッ!!!!!」

 

 そのままマジェスティックは木片で離脱しようとしていたインターン生達もマホウで後方へと下がらせ、彼らの無事を祈りながら戦闘を再開させる。

 その最中、林内に残されていたインターン生達も、ギガントマキアの暴走から離脱を図る。

 

「おいッ! 息吸い込めッ!!!!!」

 

 拳藤と小森の腕を掴んだ骨抜が、2人を連れて地面に潜り込む。嗅覚の優れたギガントマキアでも、地中深くに沈み込んでしまった相手を正確に追う事はできなかった。

 その更に離れた所に、黒色を背中に乗せた宍田がビーストモードの四足歩行で森の中を走っている。すぐ近くにはバラバラのままの取蔭が飛んでおり、彼らもマキアからの撤退に成功していた。

 

 だが、インターン生達がいなくなった事で、再び彼女に危機が迫った。

 

 ギガントマキアへ猛攻を仕掛けるプロヒーロー達を振り払いながら、ギガントマキアは地面に叩きつけて仰向けとなったマウントレディに向かって迫り始めたのであった。

 

 

 

「ぁ…………ッ………………ぅ、…………っ」

 

 

 

 彼女はまだ浅く呼吸を繰り返していたが、とても動ける状態ではなかった。それでも体を元のサイズへと戻してギガントマキアの兇刃から逃れようとするが、巨人は最大の障害である彼女へ完全に狙いを定めていた。

 

「させねえよッ!!!」

 

「クルセフィクション……ッ!!!」

 

 その凶行を止めようとしていたのは、残る2人のインターン生だった瀬呂と塩崎。どれだけその身がボロボロになっても、マウントレディを狙おうとするギガントマキアを止めようと2人は背を向けず、テープと茨でマキアの動きを止めようとしていたのだ。

 

「さっきっからウゼえな……俺にはやる事があんだよ……ッ!」

 

 しかし、そこに伸び広がったのは、蒼炎。

 エンデヴァーのいる蛇腔へと向かうべく、これ以上の時間潰しをされてはたまらないと、ギガントマキアに従って背中に隠れていた荼毘が、自身が焦げ付くのも構わず2人に向かって最大出力の炎を放ったのだ。

 

「ヤベッ!!?!」

 

「く……ッ!!!!」

 

 咄嗟に塩崎が機動に使う筈だった茨を自身と瀬呂の防護に回して蒼炎の直撃を防いだが、その茨すら貫いてきた炎が2人に襲いかかる。

 すでに火傷だらけだった肌に、意識が途切れそうになるほどの熱が肌を蝕もうとした時、炭化する茨の中から2人の体を樹木が巻き付いた。

 

「セロファンッ! ヴァインッ!!!!」

 

 ただでさえ炭化を起こしていたのにも関わらず、更に荼毘の炎を浴びたシンリンカムイが瀬呂と塩崎を樹木で捕らえ、ギガントマキアから離す様にして放り投げたのだ。

 

「「シンリンカムイッ!!!!!!!!!!!!!」」

 

「振り返るなッ!!! 行けェッ!!!!!!」

 

 叫ぶ2人に対し、炭化も超えて灰の様に体を白く濁らせたシンリンカムイは、そう叫びながらマウントレディを助けるべくギガントマキアへと再接近する。

 後方へと投げ飛ばされてしまった2人が諦めずに追いつこうとするも、テープも茨もボロボロに焼け焦げ、木に引っ掛ける事すら叶わなかった。

 

 それでも諦めてたまるかと、瀬呂が塩崎を空中で背負いながら、インカムで八百万に叫ぶ。

 

「八百万ッ!!!! シンリンカムイの援護ォッ!!!!!」

 

「はいッ!!!!」

 

 彼の声にすぐさま反応した八百万は、すでに何発もの大砲でギガントマキアに砲撃を続けていた。

 その衝撃波を防ぐ様にマキアの背中に隠れた荼毘が、まだこの巨人に立ち向かおうとするシンリンカムイを見下した。

 

「クッソ……ッ! しつけえんだよ……ッ!!!」

 

「止まれェェェェェェェェェェェェッッッッ!!!!!!!」

 

 すでに最大出力を連発していた彼の体は、これ以上の無茶はできなかった。荼毘の視界の先で白と黒の斑らになったシンリンカムイが最大出力の個性で樹木を伸び広げ、マウントレディを狙おうとしたギガントマキアの振り上げる腕の爪に幾本も絡んで掴んだ。

 

「岳山ァァァァァァァッッッッ!!!!!!!!」

 

 

 

「……せ…………セんパ…………ィ………………!」

 

「グオォォォォオ゛ぉォォォォォォォォッッ!!!!?!」

 

 

 

 微かに意識取り戻したマウントレディがシンリンカムイを呼ぼうとしたが、ギガントマキアが寸前にまで迫っていた彼は直前まで振り上げた腕の勢いを利用し、マキアを後ろに引き倒そうとする。

 だが、ここでギガントマキアの脅威が彼に切り替わってしまった。

 

 

 

「邪魔だ……!」

 

 

 

「危ない!!!!!!」

 

「ッッ!?!!!!!」

 

 八百万は最後まで諦めずに、ギガントマキアへ砲撃を繰り返した。

 

 彼女の隣にいた耳郎はジャックを地面から離し、その目を背けてしまった。

 

 荼毘の炎で炭化し、脆くなっていたシンリンカムイの体にギガントマキアの土竜化した爪が……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 振り下ろされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・♡・・・♡・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 緑谷と爆豪が、たった2人で死柄木を押さえ込んでいた間、どうして病院から脱出を果たしたエンデヴァー達がマンダレイの『テレパス』を聞いていたにも関わらず助けに来れなかったのか。

 

 その答えは単純明白。魔王の器となった死柄木の手駒によって、反撃も許されぬほど迅速な奇襲を受けていたのだ。

 

「エ、えンデ、エンデゔァー……! ハ、ハハ……アハハ……ッ!」

 

「き……貴様は……ッ!」

 

 紅蓮の炎を全身から噴射するエンデヴァーの視界の先では、上空を肩のバーニアを噴かして飛び回るフード脳無が進行を妨害するかの様に、彼へまとわりつきながら攻撃を繰り返していた。

 三度自分の前に立ち塞がった脳無を前に、あの崩壊の嵐の中を生き延びていた事にエンデヴァーの動揺と苛立ちが募った。

 

 しかし、この場にいたのはエンデヴァー1人だけではない。多大な犠牲を伴いながらも彼と脱出を果たしたリューキュウやグラントリノ、彼等に助けられたヒーローのみならず、崩壊から逃げ延びたプロヒーロー達も次々と死柄木の戦場へと向かうべく、動き出していた。

 それを可能にしたのは、イレギュラーによって守られたマンダレイのテレパスによるものだが、なぜ彼女の通信から『インターン生』が死柄木を1人で押さえ込もうとしているのか、状況を聞けば聞くほどヒーロー達の中で混乱が広がった。実際、彼女のテレパスは聞こえていた者達に『死柄木に襲われてパニックを起こしている』と判断されていたのだ。

 

 そのテレパスよりも早く動き出していたのは、ワン・フォー・オールの歴代継承者達と意思の通じる緑谷のみ。彼だけは初代の危機迫る声に従い、浮遊と黒鞭の合わせ技で崩壊した廃墟を飛び抜けた。脳無の妨害が始まるよりも早く動いた事。そして脳無が2人のインターン生よりも、崩壊した病院を脱出したプロヒーロー達を脅威を判断していた事により、死柄木の戦場に到達したのだ。たまたま一緒にいた爆豪は、彼の行動から全てを察して後を追った結果であった。

 

 脳無に追撃を受けた時点で、プロヒーロー達は出遅れていたのだ。

 

「エンデヴァーの援護をッ!!!」

 

 それでも、彼等プロヒーロー達は動いている。

 1人の女性の声に続いて、幾多のプロヒーロー達の声が合わさり、エンデヴァーの戦う場所へと大軍となって向かっていた。

 

「急げッ!!」

 

「走れッ!!」

 

 死柄木の崩壊から逃れ、現状を確認しようと動いていたエンデヴァー事務所のサイドキック、通称『炎のサイドキッカーズ』の中でもひと際有名サイドキックだった女性。白いタイトスーツの様なコスチュームに、真緑に燃え上がる髪の毛で飛行するプロヒーロー『バーニン』が上空で炎を散らしながら戦闘を続けるエンデヴァーを発見し、誰よりも早く彼の下へ駆けつけようとする。

 

 しかし、そんな我先にとエンデヴァーの援護に向かおうとした最中、煙の中からバーニン達の前に行手を阻む者が現れたと同時に、空間が歪んだ。

 

「───ッ!?!!!?」

 

「バーニンッ!!!!!!」

 

「あッ───ッッ!!!!!!!

 

 瞬足の参上で薙ぎ払われた斬撃は、バーニンの横から飛び出したプロヒーロー、彼女と同じく『炎のサイドキッカーズ』に所属する、全身を包帯で覆ったコスチュームを纏うヒーロー『キドウ』の個性によって『軌道』を逸らされ、彼女の首……ではなく個性である緑色の炎の羽の片翼を奪って雲を割り、瓦礫と化した建物を一文字に薙ぎ払った。

 

「ぐあぁァァァァッッ!?!!!!!」

 

 しかし、逸らされた斬撃は軌道を変えたキドウを巻き込み、包帯に巻かれた彼の両腕が血飛沫と同時に舞い上がった。

 

「キドウッッッ!?!!!?」

 

 切断された腕から鮮血を流し、力無く倒れていく同僚を前にしてバーニンは炎の片翼をもがれて減速しながら、キドウを受け止めて地面に着地する。

 その余波は背後のプロヒーロー達も巻き込み、手足を奪われたヒーロー達の叫び声が聞こえた。

 

「キドウッ! おいッ、しっかりしろッ!!!」

 

「ぐ……ぁ……ッ!」

 

 腕の断面からとどなく出血を続けるキドウを抱え下がろうとしたバーニンのすぐ目の前に、一瞬にしてヒーロー達に致命傷を与えた死柄木の手駒が現れる。

 

「ッッ!!?」

 

 彼女達の勢いを折るために立ち塞がったのは、ドクターから『リーパーちゃん』と呼ばれたハイエンドだった。

 バーニンがその脳無を認識した時にはもう、奴はミルコの四肢すら奪った刃の一撃で、キドウ諸共バーニンを切り伏せようと腕の刃を振り下ろそうとしたが、その一撃は空中から飛び蹴りを仕掛けてきたグラントリノによって弾かれる。

 

「1体ぐらいで怯むなッ!!!」

 

「グらんト、リノ……!」

 

 バーニンの返事よりも早くリーパー脳無が反応し、彼に狙いを変えた奴が両腕の指を刃にして斬撃波を飛ばすも、鋭角に飛び回るグラントリノの機動力は斬撃波を易々と回避。そして再度リーパー脳無へと肉弾戦を仕掛けながら、バーニンのみならず後ろにいたヒーロー達にまで叫んだ。

 

「研究施設は崩壊したッ、死柄木は目の前……ッ! これを討てねば、何のためのヒーロー飽和時代かッ!!!」

 

「す、すまない……ッ!」

 

 大人と子供以上の体格差にも関わらず、リーパー脳無の刃を回避しながら何度も打撃を繰り返すグラントリノの声に押され、バーニン含むプロヒーロー達の意識が戻り始める。怪我をしたヒーローを後方に対比させ、すぐさま反撃の狼煙を上げるべく誰もがグラントリノに続く。

 

「死柄木の所に行ってッ、エンデヴァーッ!!!」

 

「むッ!? リューキュウッ!!!」

 

 すでに上空にはドラゴンの姿のリューキュウがエンデヴァーに向かって飛び上がっており、彼を死柄木の元へと向かわせるべく、フード脳無へと攻撃を仕掛け始めていた。

 

「ナ……と、飛べな……!?」

 

「ハァアァァァァァァァッッッ!!!!!!」

 

 そんなフード脳無が突然、飛行を止めて地面に落下を始めたと同時に、空中で前転したリューキュウの尻尾の一撃を受けて地表へと叩き落とされる。

 同時に浮いていたフード脳無が地面に着地したかと思えば、先程まで自由自在に放っていた斬撃波を飛ばさず、ただの腕でグラントリノの攻撃を弾こうとするも、すぐに彼のジェット噴射の合わさった蹴りを受けて吹き飛ばされる。

 

「遅くなって申し訳ない!」

 

「イレイザーッ!」

 

 声の聞こえたバーニン達の後方。そこには抹消を発動させたイレイザーヘッドが、プロヒーロー達の最後尾から2体の脳無を目で捉えていた。

 彼によって脳無2体に抹消が発動したのを確信したエンデヴァーが、イレイザーに向かって叫んだ。

 

「ミルコはどうした!?」

 

「マイクが後方に下がらせた!」

 

 すでに戦闘続行不可能であったミルコを、ドクターの死亡を知ったプレゼントマイクが買って出て、彼女の搬送を行なっていた。

 そんなイレイザーヘッドの隣には、少量の水を浮かべて瞬きできない彼の目を潤す最強の援護がいた。

 

「助かります、マニュアルさん……」

 

「いえいえ……分量過剰になると、かえって染みてしまいますんで……息、合わせましょう……!」

 

「イレイザー、お主はまだ動けるやもしれんが……ここから先は彼等に任せ、援護に集中するぞッ!!!」

 

「クラスト……感謝します……!」

 

 職場体験とインターンに続いて、飯田が所属した事務所のプロヒーロー『ノーマルヒーロー・マニュアル』がイレイザーヘッドの目を潤し、本来ならロックロックが行なっていた2人の護衛を崩壊した病院から脱出に成功したクラストが担い、後方からの援護に徹し始めた。

 抹消で個性を封じられた脳無2体なら、どれだけ超再生と超パワーを備えていようと、この場のヒーロー達の物量差で抑え込める。このまま死柄木の下に到達しても、この最強の布陣なら打ち倒せると誰しもが考え始めていた。

 しかし、イレイザーヘッドから抹消を受けてグラントリノから蹴り飛ばされても、リーパー脳無は吹き飛ばされながらもプロヒーロー達の集団から距離を取る様にして後転を繰り返し、軽やかに着地する。そして平然とした様子で、負傷したキドウをもう1人のサイドキックだったオニマーに任せたバーニンを見下しながら、フェイスマスクの様に鼻先まで覆う口元でニヤリと笑ってみせた。

 

「ッ!!?」

 

 彼女が悪寒を察知した時、リーパー脳無は首元まで大口を開くと同時に抹消の影響を受けない全身の口を開き、中から粘液に包まれた大小様々な脳味噌の頭を吐き出したのだ。

 

「何ィッ!!?!」

 

「まさか……ッ!?」

 

「しまったッ!!!!」

 

 その様子を見たグラントリノやエンデヴァー、リューキュウなど病院の研究施設内で戦闘を繰り広げていた者達が、驚愕の表情でリーパー脳無の様子に視線を奪われた。その隙に追撃を受けるハズだったフード脳無も瓦礫の中から姿を現し、個性が使えない事だけを確認してから大きな跳躍力でリーパー脳無と合流する。

 プロヒーロー達の目の前で頭だけだった脳味噌が瞬く間に超再生を始め、そこには病院内で死柄木が崩壊を起こすまで戦闘を行っていたハイエンドが勢揃いしていたのだ。

 

「ヒ、ヒーロー……!」

 

「こンナニ……タ、沢山……ッ!」

 

「コロせ……コロセ……!」

 

「スキなだけ……コ、殺しマショ……」

 

 奴は直前まで戦闘を繰り広げていた脳無の頭を全て刎ね上げ、自分の中へと収納していた。そして浮いている事で崩壊から逃れた彼は研究施設内で戦闘を繰り広げていたハイエンド達を失う事なく、連れ出してしまった。

 

 それだけではなかった。

 

 不意に地鳴りが起こったかと思えば、リーパー脳無の背後で瓦礫の積もった廃墟が爆発を起こした。

 

「ッ!?」

 

 爆発は連続して広がり、バーニン達のいない別の地域……死柄木を探していたプロヒーロー達の前でも同様の地鳴りが起こっていた。

 爆風によって巻き上げられた煙が風になびいてその正体が露わになった時、彼等は恐怖とプレッシャーに打ち震えた。

 

「ウソでしょ……ッ!!?」

 

 それを見たリューキュウは、鋭く生え揃った牙をカタカタと震わせた。

 

「バ……バカな……ッ!!」

 

 エンデヴァーは、崩壊に巻き込まれていった者達に申し訳が立たず、その拳を握りしめる。

 

「研究所は全て崩壊したハズ……ッ!」

 

 グラントリノすら、自分の目で見ている信じ難い光景を拒絶しようとするほど、焦燥の色を浮かばせた。

 

「あ、あぁ……!」

 

 再び先陣を切ろうとしたバーニンの前。煙の中から現れたのは、復活した死柄木がラグドールを探し回っている間に、リーパー脳無が自身の個性で叩き起こした……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 正史の数を優に超える、100体近くのハイエンド及びニア・ハイエンドだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヒーロー飽和社会と呼ばれた現状すら覆されかねない、その圧倒的なハイエンド達の威圧感を前に、その実力を身で知っている者達すら脂汗を流した。

 

「なんという数だ……おのれェ……ッ!」

 

「クッ……!(コイツらが全員、USJのヤツ以上の実力だと言うのなら……ッ!)」

 

 見える範囲の相手はイレイザーヘッドによって捉えていたが、それでも脳無の真髄は圧倒的な身体能力て超再生能力にある。エンデヴァー達の援護を阻むどころか、逆に自分達の命が脅かされる。

 プレッシャーに飲み込まれたプロヒーロー達の前で、リーパー脳無がイレイザーヘッドに向かって指を差す。

 

「アイツを……ネラえ……!」

 

 そう、ひと言告げた脳無による命令に、姿を現した脳無達が奇声を上げながら一斉に彼に狙いをつけて動き始めた。

 

「イレイザーヘッドを下がらせろッ!!!!!」

 

「彼に指一本触れさせるなぁッ!!!!」

 

「抹消が解けたら、終わりだ……ッ!!!」

 

 個性こそ封じられていたものの、プロヒーロー達が次々に脳無の馬鹿力と抹消に影響されない異形型の特徴を利用されて叩き潰され、引きちぎられ、食われていく。奴らがイレイザーヘッドを狙って暴れ始める中、個性が使えるという唯一の優位性を持って、残りのプロヒーロー達が各々の個性で肉壁になろうと脳無の進行を食い止める。

 

「マニュアルっ! 絶対にイレイザーの抹消を絶やすなッ!!!」

 

「はっ、はいッ!!!」

 

 一瞬だけ後方に下がってきたグラントリノの迫真した声に返事をした時にはもう、彼は脳無の大軍に向かって飛び込んで行ってしまった。

 

「クッ…………コレも、お前の見ていた『未来』だってのか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……ナイトアイ……ッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グラントリノの呟きはイレイザーヘッド達にも、誰のヒーローの耳にも入る事はなかった。

 

「クッ……このまま少しずつ後退しますッ! 援護をッ!!!」

 

「承知したッ!!! この身を賭してでも、イレイザーヘッドに手出しはさせんッ!!!!」

 

 このままでは瞬く間に距離を詰められると判断したイレイザーヘッドの命令によって、両腕に盾を展開したクラストが立ちはだかりながら、マニュアルの操る水がブレぬよう徐々に交代を始める。目の前でヒーローが倒れていく様子を見ている事しかできない状況下に、3人はそれでも自らの役割を理解して動いていた。

 

「ちっっっくっしょぉおぉォォォォォォォォッッッッ!!!!!!!!!!!!

 

 プロヒーロー達の悲鳴と叫び声が交錯する中、バーニンは炎の翼を復活させて戦場に舞い戻る。その身は、数秒前に感じてしまった死の寸前に、身震いを起こすほどの恐怖を感じていた。

 それでも彼女が突進した先に立つのは、周りの脳無が動き回っている中でただ1人、待ち構えているかのように微動だにしないリーパー脳無であった。

 

 バーニンは当然、周りのヒーロー達も蹂躙されるつもりなどなかった。

 

 グラントリノの発言通り、死柄木を倒すべく今日のために全国全てのプロヒーローを集結させたのだ。もしも奴を倒せなかった場合など、誰も考えてはいない。

 

 ここが超常社会の分水嶺。

 

 飛び掛かってくる脳無の大軍に負けないぐらいの雄叫びを上げ、ヒーロー達は脳無へと立ち向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それが、あまりにも無謀な戦いである事を理解していたとしても……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・♡・・・♡・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ワープゲートから出た瞬間、只事じゃない地震が響き渡った。

 

 降り立ったのはビルの屋上だったが、晴天の視界に奴の姿が見えて……すぐに思考を冴え渡らせる。

 

「ヤ、ヤイバく……ん……!」

 

「トガちゃん……っ!」

 

 すでに限界を越えて倒れようとしていた彼女を、ゲートから出てくるなり肩を掴んでしゃがませ、目線を合わせる。

 せっかく再会できたのに、こんなにも疲弊させてしまった彼女に申し訳なくて、それでも俺は伝える。

 この戦いの先に、彼女が笑っている世界を信じて。

 

「ありがとう……! 休んでて……ッ!」

 

「ヤ、ヤイバく───

 

 息も絶え絶えな彼女が小さな口で答えるよりも早く、俺は背中から操血刃を伸ばしてビルの屋上から跳ね上がり、迫り来る奴に向かって空中を駆け抜ける。

 あの怪物、ギガントマキアを止めるために。

 

 今回のヴィラン掃討作戦で、プロヒーローはほぼ全て出払っている。残っているのはせいぜい、超常解放前線のシンパであるヒーローぐらいだろう。俺の姿を捉えられる者はいないと思ったと同時に、今度は助けも援護も望めない。

 あの携帯のニュースでギガントマキアの進行ルートがわかりきっているからこそ、俺は奴に真正面から奇襲を仕掛けられる座標を予測できた。

 

「ラ゛ァァッッッッッ!!!!!!!!!!!!」

 

 視界の先に、ビルの立ち並ぶ市街地を駆け抜けていくギガントマキアを捉えながら、俺は操血刃で舞い上がる瓦礫を突き抜けて、正面から両腕の刃を奴の巨大な顔面に叩き付けた。

 

 

 

「グォォォ…………ッッ!!?!!!!!」

 

「ぐッッっッ!?!!!?!!」

 

 

 

 刃が触れた瞬間、火花と共に俺の刃は前進してくるヤツの肌に弾き返され、空中で宙返りをしながら後方に飛び退く。別に伸ばした操血刃で舞い上がった瓦礫に引っ掛け、軌道を変えて体を捻る。

 そうして振り返った視線の先にいるギガントマキアの姿を一瞥してから、操血刃の刺突して奴の肌を刺す様にして弾き、建物を何件も巻き込む爪の薙ぎ払いを、爪と爪の間ですり抜けた。

 

 

 

「グォォオォォォオォォォォッッッ!!!!!!!」

 

 

 

 顔の上半分を覆う装甲板に、牙の並んだ顎。凶器の様に伸び広がった爪。大きさも、こんなサイズではなかったような気がした。俺の記憶には一切ない、今までに見た事のなかった姿をしたギガントマキアに少しだけ焦ったが、そういう個性なのだと無理矢理納得した。

 コイツがオール・フォー・ワンの側近だったという事は、脳無や死柄木と同じく複数の個性を持っていると思うのが普通だったが、今の自分にそこまで考えている暇と隙もなかった。

 

 

 

「たった1匹の小蝿が……主への道を拒むか……ッ!!!」

 

 

 

 ギガントマキアも最初の一撃で少なからず意識を奪われたのか、視界も装甲板で覆われているのに俺の方へと顔を向け、その牙を広げた咆哮を上げながら叩き落とそうと爪を振り回す。

 しかし、それまで建物も道路も線路も、人すら無視して走り抜けていた奴の足は確かに減速を起こし、一歩……また一歩と空中を飛び回る俺を追うようにして地面を踏み抜いていた。

 振り抜かれる爪を避けながらギガントマキアの腕に操血刃を叩きつけて弾き返り、空中に舞い上がる俺から見てもヤツの速度が落ちた時。その岩盤みたいな背中の陰から、異常に気付いて顔を出す者がいた。

 

「アレは……誰だぁッ!!?」

 

「間違いねえ……『脳無キラー』だ……ッ!」

 

「ブ、ブレイズッ!? な、なぜっ……ッ!!?」

 

 見えたのは敵連合の荼毘と、この目で見るのは初めてとなるトカゲの異形型をした男の『スピナー』 そして俺を死柄木に送り出してくれた、コンプレスの3人が見えた。

 彼等が息を合わせてギガントマキアの背中に飛び乗ったとは思えない。おそらく彼等を連れて来る事も、死柄木の指示の中にあったのかもしれない。

 だとしたらトガちゃんはともかく、そこにマグネの姿が見えなかったのが、一瞬だけ俺の気がかりだった。

 そして、トゥワイスの姿も。

 

「クッっ!?!!!」

 

 眺める暇なんてない。次の瞬間には再びギガントマキアが振り抜いた爪と同時に、何件もの残骸となった建物や車が空中を吹き飛び、操血刃と斬撃波で瓦礫を排除しながら再び接近してきた巨人に何発も斬撃波を浴びせながら、高速流動する刃を振り下ろす。

 あのクソ硬い表面に、個性破壊弾は貫通しないだろう。そもそも、もう弾が無い。

 この化け物を止めるには、ひたすらダメージを蓄積させて動けなくするか、あるいは死柄木の命令も忘れるぐらいまで俺に意識を向けさせるしか、手段はなかった。

 

 そうでもしなければ、俺には止める手段がない。

 

 無謀だってのは、わかっていた。

 

 恐怖だって感じていた。

 

 けども、それ以上の責任を背負っていた。

 

 瓦礫の飛び交う中を操血刃ですり抜け、俺はマキアの丸出しになった顎に硬化した足で回し蹴りを放った。

 

 

 

「フンッッッ!!!!!!!」

 

「グゥゥゥゥッッ!?!!!!!」

 

 

 

 いくら化け物地味たとはいえ、元を辿れば人間。顎を揺らしたら、脳が揺れただろう。

 それでもギガントマキアの動きは一瞬だけ緩んだだけでしかなく、その歩みは止まらない。まるで、奴の前を煩わしく飛び回る蠅の様に、俺はマキアへと斬撃波を飛ばしながら、刃を叩きつける。

 

「クソ……ッ!!!」

 

 ヤツの勢いを少しだけでも鈍らせて、その進行を遅らせるのが二の次。意識を回さなければならないのは、それだけではない。

 

「クソッ、クソッッ……クソッ!!!! クソぉォッ!!!!!!!!」

 

 ギガントマキアの動いている此処は、ヤツが闇雲に建物を薙ぎ倒してきた市街の、ど真ん中なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数多の人の悲鳴が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうだ、ずっと聞こえているのは、人の声だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 助けを求める声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 車のクラクションも聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それら全てが、今目の前にいる怪物の進行によって遮られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 建物だった瓦礫が埃の様に舞い、中にいた家具や人が無慈悲に打ち上げられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 街路樹は根ごと土埃と共にひっくり返され、電柱は電線を引きちぎりながら紫電を走らせてへし折れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大小様々な車なんかも、玩具の様に全て吹き飛んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 巨大な足が1歩を踏みしめるたびに道路が割れて、人が裂け目に落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヤツの足の陰に隠れて、そのまま見えなくなった人もいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 歩道橋は踏み壊され、川を渡す橋が踏み抜けても、ヤツは気にも留めなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 電車が何両も連結したまま、ギガントマキアの振り上げた爪によって線路ごと上空へ撥ね上げられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あそこにはまだ、人が乗っているハズなのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 岩盤の様な肌を刃で弾きながら俺は高層ビルの窓ガラスに飛び込んで、地鳴りで本棚やパーテーションの倒れてくるオフィスルームを駆け抜け、反対側から窓を突き破って飛び出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 振り返った時にはもう、ビルを突き破ったギガントマキアが瓦礫やガラスを散らせながら俺を潰そうと爪を振るう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガラスというガラスがビルから一斉に砕け、倒壊するビルに混ざって人の影が落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瓦礫という名の瓦礫に次々と操血刃を引っ掛け、変則的な軌道をとる事でギガントマキアの振り回す腕を回避し、ヤツの前に滞空し続けた。

 だが、どれだけ本気で振るっても岩の様な硬さの肌に俺の刃は火花と共に弾かれてしまう。斬撃波も操血刃からも合わせてありったけ浴びせているが、マキアが止まる素振りは見せなかった。

 

「クッ……!!?!」

 

 ギガントマキアの振るった爪が、暴風と共に空を切って俺の迷彩服を掠る。爪と爪の間をすり抜ける瞬間は轟音が響いて、心臓が冷えた。

 一撃でも受けた瞬間、硬化しても耐えられない。例え耐えたとしても、吹き飛ばされてしまえば加速を始めたマキアの足にはもう追いつけない。

 

 一撃の直撃も受けれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 常に極限。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 常に死闘。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 常に限界。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 常に絶対絶命。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 常に地獄。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この一瞬だけでも、何人もの命が目の前の歩く災害によって確実に消えていく。ギガントマキアの暴力の前に、守る力も逃げる力の無い人達が文字通り蹂躙されていった。

 どれだけ抑止しようとも、止められる力の範囲を遥かに超えている。

 

「グうぅぅゥゥゥッッ!!!!!」

 

 それでも、抗おうとする俺は目の前のギガントマキアの隙を狙って、操血刃を別方向へと伸ばす。

 

 その先にいたのは、瓦礫に巻き込まれて吹き飛ばされた、人や車。

 

 闇雲に操血刃を巻きつけて、ビルの屋上や窓へと磔にする様にして放り投げた。乱暴なのは百も承知だったが、そうするしかなかった。

 

 生きているのかどうかも確認できず、意識をギガントマキアに戻して操血刃を叩きつけ、再び宙を舞いながら届く命に手を伸ばす。

 

 そうして、なんとか救える命を紡ごうとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だけども、雀の涙だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 掻っ攫うだけ掻っ攫っても、どう足掻いても届かない命が生まれる。いや、届いていない命の方が圧倒的に多すぎる。

 

 今、この瞬間にも、救えなかった命が見えた。

 

 助けようとするだけでは、何も変えられない。この巨人を止めなければ、被害は広がり続ける一方だった。

 この被害を止めるには、ギガントマキアを倒すしかないのだ。

 

 だが、どうやって? 今だってコイツの攻撃を回避しながら斬撃を浴びせるだけでギリギリだ。しかも、ほとんど効いていない。

 

 斬撃で押し負けるのは、空中を舞っていて地面に踏み込む事ができないからじゃない。ただ単に、この超高速機動に身体能力が届いていないのだ。

 インターンで死ぬほど鍛えたつもりだったのに、ここに来てまだ上を見上げる事になるとは思わなかった。

 

 この極限の状況下で成長している暇もない。多少の無理をしてでも、体を機動に適合させてしまえばいい。

 

 

 

 

 

 操血刃を体に……

 

 

 

 

 

 そうだ。体内で操血刃を作って無理矢理血流を加速させればいい。

 瞬間、ドクリと心臓が跳ね上がる。

 

「ぐッッっッ!?!!!?!」

 

 体が内側から破裂しそうになって、意識が飛びそうになる。慌てて血流を戻して操血刃を伸ばし、ギガントマキアの爪から退避した。

 そして今度は徐々に血流を加速させ、体の脈動が全身に伝わるほど自分の体が加速していくのを感じながら、俺は飛び交う瓦礫の隙間を飛び抜けてギガントマキアに刃を振るう。

 

「チッ!!!!!」

 

 だが、ギガントマキアの装甲は破れない。どれだけ鎖鋸刃斬人を叩きつけても、弾き返される。螺旋刃斬人なら岩盤も貫けるかもしれないが、掘削している間は無防備だからその隙にマキアに叩き潰されて、終わりだ。操血刃は硬度が足りなすぎる。

 瞬間的に斬撃を何十発と浴びせるのではなく、確実に切れる一撃を叩き込まなくては、この巨人には勝てない。

 

 

 

 

 

 刃を流すんじゃない。

 

 

 

 

 

 刃を揺らすんだ。

 

 

 

 

 

 斬撃波なんて焼け石に水だ。

 

 

 

 

 

 原点に帰れ。

 

 

 

 

 

 揺らせ……

 

 

 

 

 

 あの硬すぎる装甲を切り裂くために。

 

 

 

 

 

 揺らせ……!

 

 

 

 

 

 これ以上、守れない命を増やさないために。

 

 

 

 

 

 揺らせ……ッ!!

 

 

 

 

 

 高速で刃を一定方向に走らせるのではなく、刃としての形を保ちながらあらゆる方向へ小刻みに動かす事で、振動を再現する。

 

 

 

 

 

 揺らせッ!!!!!!

 

 

 

 

 

 その瞬間、俺の刃から角が取れて、えらく滑らかに変化した。

 刃に変化した腕から、鎖鋸刃斬人とは違う悍ましい音が、ギガントマキアに破壊されていく都市の轟音に混じって響き渡る。

 

 斬撃波を封印した代わりに、切るだけに特化した刃を伸ばし、俺は空中で舞い上がりながら構える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

振動刃斬人(ヴァイブロゥ・スパーダー)……ッ!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 体へ直接伝わる不愉快な金属の振動を感じながら、両腕が禍々しい音を立てて震える刃に変化した俺は瓦礫を蹴り付けた勢いに任せて、ギガントマキア目掛けて腕を振り上げた。

 それまで弾かれ続けた岩盤の様な肌に、俺の刃先が閃光を散らしながら容易く沈み込む。

 

「ラァぁあ゛ァァッ!!!!!!!」

 

 岩の様な破片と共に、ギガントマキアの顔面装甲が、真っ二つに割れた。

 

 

 

「グオォォォォ……ッ!!?」

 

 

 

 デカいプレートみたいな装甲が縦に割れて、見えなかったギガントマキアの顔半分が現れ、俺の知っているヤツの姿に近づいた。

 瞳孔の無かったハズの瞳が、俺を恨むかの様に目で追っていた。

 

「何ィィッ!!!?」

 

 スピナーの驚く声も無視して、続け様に誰かの血で赤黒く染まっていたギガントマキアの爪を容赦なく切り落とす。『超再生』の類いは持っていないのか、断面から新たに爪の生える気配はなかった。

 だが、血液が通っていないのか傷が浅いのか、断面から出血の様子が見られない。あの部分は本当に人間の爪の部分でしかないようだ。

 

 

 

「グオォォッ!! オ゛ォォォォッッ!!!!!」

 

 

 

 それでも操血刃で空中を飛び回りながら、次々とギガントマキアの肌に切り傷を作り上げ、俺はヤツの体を切り崩そうと更に刃を深く切り込んでいく。

 

「オイッ、ヤバくねえかッ!!? 荼毘はもうボロボロだしッ……ミスターッ!!」

 

「悪いけど、弾切れだよ……」

 

 まさか、このギガントマキアを止めにかかる者が現れるとは思っていなかったのか、パニックに陥ったスピナーが喚いている。彼の個性じゃ、今の俺を止める事なんてできやしない。

 そして、そんなスピナーに呼ばれたコンプレスもマキアの背中から俺の様子を見ているのは捉えたが、妨害する気など更々無い様な態度を露わにするばかりだった。

 

「ハァ……ハァ……ッ! 父さんのトコロに行くんだよ……ッ!」

 

 だが、そこには俺の知る由もないほど、怨念と執念でこの世に命を繋ぎ止めている荼毘が、目的を果たそうとスピナーの制止を押し切って動き出した。

 

「邪魔をすんじゃねえッ、ヒーローぉォォッッッッ!!!!!!!!!!!!!」

 

 荼毘の叫び声が俺に届いた次の瞬間、ギガントマキアの背中から伸びた青白い炎によって、目の前が全て遮られてしまった。

 

「うッ!!?」

 

 個性強化訓練で蒼炎にもある程度の耐性は備わっている。硬化もしていたから熱はそれほどでもなかったが、荼毘の炎で視界が潰された。

 その炎の中から、切断されたハズだったギガントマキアの爪が更に伸びやがった。

 

「あッ!!?」

 

 不意を突かれた。

 

 避けられない。

 

 俺の眼前に迫る爪先が顔を捉える。硬化すら貫いてきそうな勢いに、恐怖を覚える。

 

 咄嗟に操血刃を伸ばして跳ね返ろうとしたが、マキアの爪は容易く俺の血の刃を砕いた。

 ガラスの様に血の破片が宙を舞い、俺と一緒に落下していく。

 

 

 

 

 走馬灯だったのか、トガちゃんの幻聴が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヤイバくんッ!!!」

 

 

 

 

 

 幻聴じゃなかった。

 

 不意に、落下していた体が持ち上げられて空中に止まり、操血刃も何も伸ばしていないのに俺は大通りを挟むビルとビルの間で滞空していた。

 鼻をくすぐる、知っている香りがして顔を動かしてみれば、そこにはトガちゃんが真っ白な剛翼を生やして俺の背中にしがみついていたのだ。

 

「あ……ぇ……!?」

 

 それだけでなく、あれほど轟音と人の絶叫に包まれていた空間が突如として無音に染まっている事に気付いて、俺は吹き飛ばされるハズだった目の前へ視線を戻す。

 

 

 

「………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギガントマキアが止まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どれだけのダメージを与えても止まる事のなかった巨人が、俺とトガちゃんを前にして振り下ろそうとした爪を中途半端に突きつけながら静止していたのだ。

 

「ト、トガちゃん……!」

 

「………………っ!」

 

 嬉しかったけども、すぐさま首筋に冷や汗が走る。彼女がこの場に出てきてしまった事が意味するのは、明白なのだから。

 左右をビルに挟まれた大通りのど真ん中。ギガントマキアがトガちゃんを見つめながらゆっくりと口を開く。

 

 

 

「しゅ、主の仲間……」

 

 

 

 異能解放軍との戦いで認識はされていたのか、そんな事を呟いたギガントマキアが侵攻を止めている。

 もしも、この場にいる相手がコイツだけだったなら、トガちゃんで死柄木の命令を誤魔化す事もできたのかもしれないが、それは許されなかった。

 

 彼女の姿は、連合にも見られてしまった。

 

「おいっ!? トガ、お前どこ行ってたんだッ!!?」

 

「なにしてやがるトガ……!」

 

 突然現れた仲間を前に困惑するスピナーに対し、目を見開いたまま苛立ちの声を絞らせる荼毘。2人は俺に抱きついたままの、トガちゃんを見下している。

 逃げる事も許されない俺を腕から離さないまま、彼女は返答するべく2人を見上げた。

 

 その表情には、確かに迷いはあったのかもしれないけれども……

 

「荼毘くん……伊口くん……

 

 トガちゃんは、吹っ切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……ヤイバくんが迎えに来てくれましたっ、ゴメンね♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「は?」」

 

 舌をペロリと出してウインクするトガちゃんの言葉に、荼毘とスピナーは同時に間の抜けた声を漏らした。

 そんな2人からすぐ顔を逸らして俺と視線を合わせた彼女は嬉しそうに、両手の細い指先で俺の顔を覆っているフェイスマスクを首下から口元まで一気に捲り上げた。

 

「ト、トガちゃ───

 

 驚きながら喋りかけた半開きの俺の口と、カァイイく微笑む彼女の柔らかい唇が、そっと……しかし情熱的に触れ合った。

 

 奴等の見ている目の前で堂々と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「はあ゛ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!?!!?!!!!!!!!!?!!!!?!?!!!!!?!!!?!!!!!!!?!!?!!!!!!!!!?!!!!?!?!!!!!?!!!?!!!!!!!?!!!?!!!!!!!!!?!!!!?!?!!!!!?!!!?!!!!!!!?!!!!?!!!!!!!!!?!!!!?!?!!!!!?!!!?!!!!!!!?!!?!!!!!!!!!!?!!!!?!?!!!!!?!!!?!!!!!!!?!!?!!!!!!!!!?!!!!?!?!!!!!?!!!?!!!!!!!?!!?!!!!!!!!!?!!!!?!!?!!!!!?!!!?!!!!!!!?!!?!!!!!!!!!?!!!!?!?!!!!!?!!!?!!!!!!!?!!?!!!!!!!!!?!!!!?!?!!!!!?!!!?!!!!!!!!?!!?!!!!!!!!!?!!!!?!?!!!!!?!!!?!!!!!!!?!!?!!!!!!!!!?!!!!?!?!!!!!?!!!?!!!!!!!?!!??!!!!!!!!!?!!!!?!?!!!!!?!!!?!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あまりの理解を超える出来事に、荼毘とスピナーの混乱する声だけが聞こえていた。

 そんな事より、夢にまで見た彼女の唇が今触れている事に、俺も混乱していた。

 

「ん〜〜〜♪」

 

「ンーーーッ!?!! んーーーーーっッ!!!!!」

 

 彼女の柔らかい唇の感触と、血の香りがする吐息が合わさり、こっちも頭がおかしくなりそうだった。

 

 

 

「………………」

 

 

 

 道のど真ん中で接吻を続けたままの俺とトガちゃんに、荼毘もスピナーも動く事ができず、ギガントマキアまでどういう事なのかワケもわからず完全に停止しているし、思った以上に時間を稼げてる。

 しかし、それも都合良く流れてくれたのは、荼毘が正気に戻るまでだった。

 

「………………ろせ……!」

 

「ッ!」

 

 そう呟いた彼の声が、トガちゃんと唇を合わせていた俺の耳に聞こえた瞬間、俺は名残惜しくも彼女から口元を離す。

 

「ぷはっ! ヤイバくん……っ!!?」

 

 驚く彼女に答える余裕もなく、俺が顔を向けた視線の先。充血した目を見開いた荼毘のツギハギの顔から血と同時に黒煙が漏れていた。

 

 

 

 

 

「殺せェマキアッッっ!!!!! アレはもう……ッ、俺達の仲間じゃねえェェェェッッッッ!!!!!!!!!!!」

 

「グオォォォオ゛ォォォォォォォォッッッ!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 激情のままに叫ぶ荼毘の下でギガントマキアが雄叫びを上げる。

 そのまま振り上げた両腕の爪をマキアが力任せに振り下ろす前に、俺はトガちゃんを背中におぶったまま全身から操血刃を伸ばした。

 

「捕まってッ!!!」

 

「はいッ!!!」

 

 同時にトガちゃんの剛翼が大きく開き、急速に後退しながらギガントマキアの爪を回避すると、爆音と地響きと共に舞い上がった瓦礫を操血刃で弾きながら、マキアに肉薄して腕の刃を振るう。

 それに続いてトガちゃんが剛翼の羽を分離させながら俺の機動を更に鋭く押し上げる。

 

「トガちゃんっ!!?」

 

「人はこの羽で救いますっ!! ヤイバくんは……きゃっ!?」

 

 きっと、彼女は俺の戦いをずっと見ていたのだろう。飛んできた街路樹を真っ二つに叩き切って俺は驚いていたトガちゃんに叫びながら操血刃を振るって瓦礫の舞い上がる空中を駆ける。

 彼女の剛翼の羽が、瓦礫に混ざって跳ね上げられた人を掠め取り、安全な場所へと運んでいくのが見えた。

 

 だが、トガちゃんの剛翼もホークスの見様見真似だけの即興で動かしていたから、羽だけでも救えない命があった。

 破壊されていくビルの瓦礫に混ざって、風を切る音が近くまで聞こえた。

 

「えッ!?」

 

 視線のすぐ近くに映ったのは、低空飛行する報道用のヘリコプターだった。

 

 さっきからずっと見えてはいたが、瓦礫の飛んでこない遥か上空をずっと飛び回っていたから、気に留めていなかった。

 それが、ギガントマキアが急に止まった事で、ビルの影に隠れていた俺の様子を見ようと高度を落としてしまったのだ。

 

 そこに再起動したマキアが暴れ始めた事で瓦礫が舞い上がり、高度を上げて逃げるよりも早くその一部がヘリコプターのテイルローターに命中してしまった。

 

「あッ!?」

 

 咄嗟に伸びた操血刃は、ヘリの後部座席を貫いてカメラを持った人とリポーターらしき人に絡みついてビルの窓に投げ込んだが、ヘリはそのまま黒煙を吐きながら不安定に低空で旋回を続け、建物の影に消えた。

 ギガントマキアが破壊する音に混じって、爆音が聞こえても俺には目を向けている余裕はなかった。

 

 後悔をすぐに思考の隅に押しやり、目の前の瓦礫を弾いて再びギガントマキアに切り掛かった。

 

「トガ……テメェまで俺の邪魔をするってのか……!」

 

「よせ荼毘ッ! これ以上はお前の体がもたねえっ!!!」

 

 全身から黒煙を噴き出しながら、ツギハギの部分を更に超えて、焼け焦げている面積を増やしている荼毘にスピナーが慌てて彼を引き止めようとしている。本当にそのまま憤死してしまいそうな形相だが、アイツがいるんじゃ自滅は狙えなかった。

 だがそれでも、トガちゃんの剛翼の羽で人の救助は遥かにやりやすくなったと思った途端、不意に連合の面子とは明らかに違う別人の声、異能解放軍の幹部の声が聞こえた。

 

「オイッ、準備完了したぞッ! どうするッ!!?」

 

「えッ!?」

 

 連合を嫌っているハズの元解放軍『スケプティック』の声だった。

 たまたま、ギガントマキアに巻き込まれて助かったのだろうか、でも死柄木が嫌っていた解放軍をわざわざ助ける指示を発したとは思えない。今、背中に乗っているヤツらが助けたとも思えない。

 

 あんな薄情に見える男が、なぜ。

 

「クソッ……! (親父の前で流してやりたかったが……もう待っていられねぇッッ!!!!) もうイイッ!!!! 流せッッッ!!!!!」

 

 それに対して自棄を起こしたかの様に叫ぶ荼毘の様子に、いったい何を企んでいるのか推測するよりも早く、それは答えとなって現れた。

 ギガントマキアの猛攻を必死に凌いでした最中。それまで、ずっとジャミングを受けていたハズの無線機から聞こえたのは、マキアの背中に乗る荼毘の声だった。

 

『突然すみません……』

 

「ッ!!?」

 

 聞こえてくる荼毘の声は酷く落ち着いていて、雑音がほとんど流れ込まない。どうやらあらかじめ撮影していた声のようだった。

 

 そこまで思考していた俺の頭を、荼毘の声が容赦なく蹴り付けてくれた。

 

『僕は《(とどろき) 燈矢(とうや)》 No.1ヒーロー《エンデヴァー》の息子です』

 

「ッッ!!!」

 

 それが聞こえた瞬間、ギガントマキアの背にいるスピナーからも驚く声が聞こえた。ひょっとして、連合の誰も知らなかったのではないだろうか。

 一瞬、轟の事が不安となって頭を通り抜けたが、俺はどうしようもないクソッタレな事実を目の前で瓦礫の飛び交うこんな所で受け止めざるを得なくなっていた。

 

『僕、轟 燈矢はエンデヴァーの……轟家の長男として産まれました…………今まで30人以上の罪なき人々を殺しました。僕がなぜ、このような醜穢な所業に至ったか……みんなに知ってもらいたい……』

 

 なんとなく、わかってはいた気がした。炎系の個性が特段珍しくもないこの世界だとしても、ヤツと轟がただの他人なワケないって。

 それでも、頭の中で拒否しようとしていた推理が、一致してしまった。

 

 そのまま荼毘は昔語りの様に、落ち着いた口調で淡々と話を続ける。

 

『エンデヴァーは、かつて力に焦がれていました。そして、オールマイトを越えられない絶望から……より強い個性を持った子を作るため、無理やり妻を娶りました』

 

 敵連合の仲間にパソコン系に詳しい知識を持っていそうな者は、1人もいなかった。あの見るからに専門知識を持っていそうな、スケプティックによる仕業としか思えない。もしかしなくても、荼毘に脅されているのではないのだろうか。

 こうしてヒーロー側の無線機をハッキングして聞かせているという事は、俺達ヒーロー全員にも……いや、それ以外の民間人にまで聞こえているのではないだろうか。

 携帯を確認したかったが、飛び回っているこの状況下でそんな余裕はなかった。

 

『僕は父の利己的な夢のために作られた……しかし、どうやら僕は失敗作だったようで……程なくして見限られ、捨てられ、忘れられました』

 

 彼の台詞に続いて、数枚の紙が擦れる様な音が無線機越しに聞こえる。映像として流しているのは、間違いなかった。

 

『DNA鑑定の結果です。九州の戦いで残されたエンデヴァーの血と……99.99%一致しています。それでも捏造を疑われるでしょう……僕は信じてもらえるよう話すしかありません』

 

 俺の知る荼毘とは全く違う柔らかい口調に、間違いなくこの放送はネットに垂れ流しになっていると確信した。

 

 

 

 

 

 終わった。

 

 

 

 

 

『エンデヴァーはその後も母に子を産ませ、4人目にして……皆さんご存知の方もいるでしょう…………成功作の焦凍が産まれました』

 

 家族や緑谷ぐらいしか知る事のなかった地獄の轟家が、公開されてしまったのだ。

 世間の反応がどうなるかなんて、火を見るよりも明らかだった。

 

 エンデヴァーはもう、ヒーローとして表には立てない。

 

 どれだけ悔い改めたとしても、あんな畜生をNo.1ヒーローだなんて、オールマイトのいたこの国が許さない。

 

 

 

 

 

 それが、荼毘の狙いだ。

 

 

 

 

 

『そして待望の傑作にさえ手を上げています。僕は何度も見てきました……エンデヴァーは他者を思いやる心なんて……持ち合わせてない。自己顕示に溺れた、矮小で独りよがりの精神…………そんな人間が、ヒーローを名乗っていいと思いますか?』

 

 ヒーロー社会の崩壊を招くスキャンダルに続いて、荼毘の話はエンデヴァーだけにとどまらなかった。

 

『エンデヴァーに連なる者も同様です。No.2ヒーローのホークス。彼はヒーロー達にとって脅威だったヴィランを、躊躇なくその刃で貫いた。僕が守ろうとした目の前で』

 

「……ッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───ゴメンねっ! ホークスがどーしても離してくれなくってさっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ヤイバくん……?!」

 

「…………ッ」

 

 トガちゃんの呼び声を、俺は聞こえていないフリをして逃げた。

 無線機は俺しか付けていないから、背中の彼女に荼毘の声は聞こえてはいない。それでも、彼女に伝えなくてはならない事ができてしまった。

 

 認めたく、なかった。トゥワイスの事も、ホークスの事も。

 

 握ろうとする拳は、刃となってギガントマキアに傷をつけるも、衝撃はまだ続いた。

 

『ホークスは僕らに取り入るために、あろうことかヒーローを殺しています。休養中だったNo.3《ベストジーニスト》を』

 

「はァッ!!? うぐゥゥッッ!!!!」

 

「キャっ!? ヤイバくんっ!!!」

 

 驚愕で油断し、飛んできた瓦礫が体に命中する。背中のトガちゃんごと体が大きくブレて空中で回転するも、とにかく瓦礫に操血刃を巻きつけて飛び上がりギガントマキアの追撃を回避する。

 救えるハズだった人達の命も、瞬時に投げ捨てて。

 

『暴力が生活の一部になってしまっているから、平然と実行できてしまう……それもそのはず、彼の父親は連続強盗殺人犯……ヴィランだった。彼が経歴も本名も隠していたのは、そのためでした』

 

 ホークスの家系などどうでもいいとして、孤児だった彼を拾ったのは、公安が個性に目をつけたのだろう。一般の家庭から引き抜くよりも、遥かに都合が良かったに違いない。

 だが、これでヒーロー公安委員会も非難の対象となってしまった。元々は潜入任務として超常解放戦線に潜伏していたホークスだが、荼毘はそこまで調べ上げていたのだろう。手段は知らないけども。

 

『彼の父はエンデヴァーに捕まっています。何の因果か……そういう性を持った人間ばかりが寄って集まる…………ッ」

 

 もう全て、荼毘の思い通りなのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『僕は許せなかったッ!!!!!!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雑音すら混ざるほどの、彼の叫び声が無線機を貫いた。

 

『後ろ暗い人間性に正義という名の蓋をして、あまつさえヒーローを名乗りッ、人々を欺き続けている!!!!!!! よく考えてほしい! 彼らが守っているのは自分自身だッ!!!! 皆さんは醜い人間達の保身と自己肯定の道具にされているだけだッ!!!!!!!!!!!!!!』

 

 そこで荼毘の声は止まり、放送は途切れた。後に聞こえたのは再び妨害電波の流れ始めた雑音だけ。

 続くようにしてギガントマキアの腕が視界に迫り、俺は思考を捨てて伸ばした操血刃で跳ね上がった。

 

 

 

 

 

 終わった。

 

 

 

 

 

 終わっちまった。

 

 

 

 

 

 言ったモン勝ちと言うか……

 

 

 

 

 

 もう認めざるを得ない。

 

 

 

 

 

 エンデヴァーの負けだ。

 

 

 

 

 

 つか、全部アイツのせいだ。

 

 

 

 

 

 完全に終わった。

 

 

 

 

 

 おしまいだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 超常社会を支えていたヒーロー概念を、荼毘に完全に破壊されてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この戦いが終わった後には、ヒーローなんて残っていないかもしれない。

 

 今の放送、冬美さんや冷さんも聞いてしまっただろうか。

 

 間違いなく、この国の内情は混沌に突入すると確信してしまった。

 

 それでも、助けを求める人の手を離してはならない。

 

 まだ、戦いは終わっていない。

 

 俺の操血刃とトガちゃんの剛翼が、人々をギガントマキアの範囲外へと弾き出す。

 

 振動刃斬人のおかげでマキアへの傷は確実に増えているが、この山の様に大きな巨人を倒すには、まだ手数が足りない。

 

 勝てんのか?

 

 

 

 

 

 その自問を、振り捨てる。

 

 

 

 

 

 勝つんだ。

 

 どれだけヒーロー社会がボロボロになっても、人が生き残っていればまた建て直せる。

 

 正しいヒーローの意思は、きっと引き継がれていく。

 

 せめてコイツだけでも、止めてみせろ。

 

 そこまで思考していた途端、急に俺を動かしていた剛翼の機動力が落ち始めた。

 

「トガちゃん!?」

 

「ハァ…………ハァ…………!」

 

 見れば、大きく息を荒げているトガちゃんの背中に生えていたハズの剛翼が、羽をほぼ全て使い果たしてしまっている。あれだけの大きさだった翼でも、人を助けるには数分しか保たなかったみたいだ。

 

「ヤ、ヤイバくん……!」

 

 それでも、彼女は笑っていた。

 

 圧倒的な絶望を前にしても、俺の勝利を確信しているかのように。

 

 ずっと俺が見てきた、カァイイ笑顔で。

 

 

 

 

 

「大好きです……ヤイバくん……!」

 

 

 

 

 

 聞き間違う事なんてない。

 

 紛れもない告白だった。

 

 心が満ち足りた。

 

 あの唇の感触が思い起こされる。

 

 背中の剛翼が完全に消えたと同時に、彼女の声を聞いた瞬間、それまで何も無かった場所から生まれた様に全身から力がみなぎった。

 よく見れば、彼女の全身から溢れ出る光……血の様に赤い光が俺の背中から徐々に浸透し、体を纏ってきたのだ。

 

 解放軍の幹部に、そんな個性を持っていたヤツがいた。

 

 発動者への想いが強ければ強いほど、自分の力を押し上げてくれる個性が。

 

 こんなにも馴染むなんて思わないじゃないか。

 

 剛翼の補助が消えたにも関わらず、さっきよりも素早く、そして鋭く跳ね回る俺の姿に再び荼毘が吼えた。

 

「クッソったれェッ!!! まだ……足掻きやがるッ!!!!!」

 

「やめろって荼毘ッ!!! お前……体が……ッ!!!!」

 

 我慢の限界を迎えたか、その身が黒煙と共に焦げ落ちるのも構わず蒼炎を放とうとした荼毘をスピナーが止めるが、もう彼の制止も振り切ってその手の中に蒼炎を溜め込んでいく。

 熱は俺が大丈夫でも、背中のトガちゃんが危ない。そう判断して刃の振動を解除するなり俺は荼毘に向かって直接斬撃波を飛ばそうとした、その時だった。

 

「ッ!?」

 

 ギガントマキアが急激に速度を落とし始め、その振り抜いて放った斬撃波が空を切った。

 

 

 

「か……体が…………! 力がっ、急に…………ッ!?」

 

 

 

 そのまま操血刃でビルの壁を突き刺し、市街地のど真ん中で体勢を固定する俺の見上げた前で、ギガントマキアの巨大が足をもつらせて大きくふらつく。その背中の上で、蒼炎を止めた荼毘が声を荒げる。

 

「どうしたマキアッ!!!!?!」

 

 なぜ? どれだけ傷をつけても出血すらしなかったマキアに、俺は致命傷を与えられていない。向こうもヤツが止まった原因をわかっていない様子。

 

 もしかしたら、峰田や八百万が何か残してくれたのかと一瞬だけ頭をよぎったが、そう考えようとした途端、ヨロヨロと体を揺らめかせるギガントマキアがビルを膝で巻き込みながら、俺の前へと倒れてきた。

 

「おっ、オイッ!!?!」

 

 スピナーの困惑する声も聞こえたが、俺は倒れ込むギガントマキアを避ける事ができなかった。

 

「ヤイバくんっ! 逃げま───

 

「ダメだッ!!! 下がるなッ!!!!!!!」

 

 ここはもう、蛇腔市へと入ってしまった、京都の市街地。

 

 

 

 

 

 後ろには、まだ逃げ遅れた人達がいた。

 

 

 

 

 

 山の様な巨体をしたギガントマキアが倒れ込めば、それだけで都市区画が崩壊するほどの被害が広がる。まるで最後の悪足掻きのようだ。

 

「フンッッッッ!!!!!!!!!」

 

 咄嗟に操血刃を何本もビルと道路に伸ばし、そしてギガントマキアにも突き刺し、俺自身をつっかえ棒の代わりにする。

 

「うぐぅゥゥうぅゥゥゥゥッッッッっ!!?!!!?!」

 

 しかし、いかんせん巨大化したギガントマキアが大きすぎた。本来ならもっと小さいサイズだったハズなのに、この巨体から更に巨大化しているせいで重量は何倍にも、何乗にも膨れ上がった。

 たちまち操血刃にピシピシと亀裂が走り、何本も砕けていく。

 

 

 

「オ…………ォ……オォ………………ッ!!!」

 

 

 

 

 そこへ更に、倒れようとしたギガントマキアが前に踏み出したせいで、更に圧力がかかった。

 

「あ゛ぁッ!?!!?!!」

 

 あまりの力に思わず声を漏らしてしまった俺に、彼女が反応してしまった。

 

「ヤイバくんっ!! アイツの足を崩しますっ!!!」

 

「待っッ、トガちゃ……ッ!」

 

 前に倒れようとするギガントマキアを真下に落とす事で被害を極限すべく、彼女は俺の伸ばした操血刃を蹴り付けると、重力を無視した動きで空間を真っ直ぐ飛び抜け、マキアの膝に着地した。

 

「や゛ぁあ゛あぁあぁぁァァァァァァッッッッ!!!!!!」

 

 そのまま、彼女の手の触れたマキアの脚に亀裂が走り、膝の表面からボロボロと壊れ始める。

 

 

 

 

 

 もしも、これが治崎の『オーバーホール』だったら、何も起こらなかったハズだろう。

 

 

 

 

 

 彼女が選んでしまったのは、死柄木の『崩壊』だった。

 

 

 

 

 

 薄れゆくマキアの意識が、覚醒した。

 

 

 

 

 

「コレは……主の……ッ!?」

 

 

 

 その瞳に光を取り戻したギガントマキアがトガちゃんを睨み、崩壊していく残骸となった足で彼女を蹴り上げる。

 粉々になっていく足では威力こそ皆無だったものの、その体を空中へ無防備に押し上げた。

 

「キャ………………ッ!!?」

 

 咄嗟に地面に落ちるのを恐れた彼女は、再び空中で無重力を発動して滞空し、間違いなく手応えを掴んでいた結果を見ようと体勢を持ち直そうとした。

 

 が、片膝を壊されて膝をつく様にして倒れる勢いのままギガントマキアの腕が、無防備に宙を舞っていたトガちゃんに迫った。

 

 

 

「主の紛い物がァァァァァァァァッッッッッ!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 その叫び声が聞こえるなり俺は支えにしていた操血刃の一部を収納し、残りの刃で弾き飛んだ。

 

 瞬間、他の血の刃が一気に砕け、市街に舞った。

 

 ヤツの最後の悪足掻きによる兇刃がトガちゃんに振り下ろされる寸前、彼女に向かって操血刃と自身の体で彼女を覆った。

 

「ヤイバく───────

 

「トガちゃ───────

 

 

 

 

 

 そして───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次回『ひとつの結末』




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