切裂ヤイバの献身   作:monmo

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体育祭編
第五話


 

 

 

 

 

 USJ事件から臨時休校を1日だけ挟んで、俺と峰田はいつも通り雄英へと登校した。

 

「ねえねえ! 昨日のニュース見た? クラスのみんなが一瞬映ったでしょ!? なんか私、全然目立ってなかったね……」

 

「確かにな」

 

「うっ……あの格好じゃ、目立ちようがないもんね……!」

 

 教室に入って、周りのクラスメイト達の話題はもちろん、一昨日の大事件で持ちきりだった。

 葉隠がテレビに映っていたA組の様子を、障子に話して毒を吐かれていた。彼の事だから無意識だと思うけど、隣の尾白が驚いてフォローを始める。

 

 ちなみに後で知った……と言うか忘れていたのだが、葉隠は俺と轟のエリアにワープで飛ばされていたらしい。俺と轟がヴィランを尋問してる所なんて、ヴィラン顔負けだったってさ。

 

「しっかし、どのチャンネルも結構デカく扱ってたよな!」

 

「あぁ! びっくりしたぜ!」

 

「無理ないよ、プロヒーローを輩出するヒーロー科が襲われたんだから」

 

 俺の席の周りで騒いでいる切島と上鳴に、耳朗がイヤホンになってる自分の耳たぶを指でくるくる捻りながら、話を付け足す。

 

「あの時、先生達が来なかったら、どうなってた事か……!」

 

「やめろよ瀬呂ッ! 考えただけでもチビッちま───

 

「うっせえぞッ!! 黙れカスッッ!!!」

 

 喚いている峰田に、まわりの煩さに耐えきれなくなった爆豪がキレる。だが、怯える峰田はさておき、周りのクラスメイト達の話はまだまだ止まる気はない。

 

「けど……切裂と轟は凄えな! あのクソ強いヴィランを倒したんだから!」

 

「ああ。驚愕に値する強さだ」

 

「………………」

 

 後ろの席の砂藤と常闇が、俺達の事を話題にしている。席の近くの轟は視線を落としたまま、2人の話には気にしていないようだ。

 

「てかっ切島も切裂も、ケガ大丈夫だったの!?」

 

「パトカーに運ばれてたけど、お前……腕ヤバい事になってたじゃんか!」

 

 芦戸と瀬呂が俺と切島を心配してくれたが、見ての通り俺も彼もピンピンしている。

 

「すぐリカバリーガールに治療してもらったから、大丈夫。ちょっと痕が残っちゃったけど、問題ないよ」

 

 そう言って、俺はUSJで脳無に破損させられた、手首辺りから肘へと伸びる裂傷の傷痕を見せる。ソレを間近で見た耳朗が、思わず身を引いた。

 

「うぇ……」

 

「でも、ソレで轟を守ったんだろっ!? 仲間を守って作った傷は、男の勲章だぜっ!!」

 

「そういう問題じゃないわ、切島ちゃん」

 

 勲章にしてはやや大きすぎる傷痕に、蛙吹も少し不安を示した。切島も俺も個性の性質上、今まであまり怪我らしい怪我をしてないし、してこなかっただろう。

 

「あの時……先生助けるには、ああするしかないと思ったからヴィランに挑んだけど……轟くんがいなかったら、間違いなく死んでた……奇跡に奇跡が重なったんだ…………」

 

 俺の説明に耳朗が大きくため息を吐いた。

 

「アンタら2人無茶しすぎだよ。先生がいなかったとは言え、ウチらまだ学生なんだからさ…………今度ヴィランに襲われたら、もっと冷静に……先生の指示に従おう?」

 

「まぁ……ヴィランに襲われるなんて、2度とない方がいいんだけどなぁ……」

 

 

 

「「「「「「う〜ん……」」」」」」

 

 

 

 上鳴の弱々しい独り言に、学生としての身分とヒーローとしての理想の間に挟まれ、机の周りの誰もが唸り声を出す中、飯田が教壇の前に立って叫んだ。

 

「みんな! 朝のホームルームが始まる! 私語を慎んで席に着け!!」

 

「着いてるだろー」

 

「着いてねえの、おめえだけだ!」

 

 切島と上鳴の総ツッコミを受け、すごすごと席に戻る飯田。後ろの麗日に、ポンッと背中を叩かれていた。

 

「くっ……しまった!」

 

「ドンマイ♪」

 

 その数秒後、教室のドアが開いて相澤先生が入ってきた。

 

「おはよう」

 

 両腕だけ包帯だらけな相澤先生の、いつも通りの雰囲気にクラスの皆が安堵の息を吐く。USJではボロボロの姿で救急車に搬送されていったから、みんなが心配していたのだ。

 

「先生、腕大丈夫ですか?」

 

「俺の安否はどうでもいい。何より、まだ戦いは終わってねえ」

 

 俺の心配を跳ね退いて、相澤先生は話を始めた。

 

「戦い?」

 

「まさか……!」

 

「まだヴィランが……!」

 

 不敵に笑う爆豪、疑問する緑谷、怯える峰田、相澤先生は俺達を見据えながら、落ち着いで告げる。

 

「雄英体育祭が迫ってる……!」

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「クソ学校っぽいの来たァー!!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 空気一転。いきなり高校らしい話題が始まって、クラスメイト達は声を揃えて一斉に盛り上がる。俺も彼らに混じって面白半分に叫んだ。

 

「っ……て、体育祭!?」

 

「クソ学校っぽいの来───

 

「待て待てぇっ!」

 

 何人かはノリで叫んだ後に、慌てて相澤先生へと聞き直す。勢いのままに盛り上がろうとする切島を、上鳴が止めた。

 

「ヴィランに侵入されたばっかなのに、体育祭なんかやって大丈夫なんですか?」

 

「また襲撃されたりしたら……」

 

 耳朗と尾白がごもっともな発言で相澤先生に質問するが、ソレに対して先生淡々と説明を続けていく。

 

「逆に開催する事で、雄英の危機管理体制が盤石だと示す……って考えらしい。警備もプロヒーローを雇って例年の5倍に強化するそうだ」

 

「つまり……今年は例年の5倍『チャンス』があるって事か……!」

 

「「チャンス?」」

 

 俺のさりげない発言に、芦戸と耳朗が顔を向ける。

 

「そうだ。切裂の言う通り、ウチの体育祭は最大のチャンス。ヴィランごときで中止していい催しじゃねえ」

 

「いや……ソコは中止しよう? 体育の祭りだよぉ?」

 

 普通だったらの考えに峰田がツッコむ。前の席の緑谷と体育祭の話をし始めたが、相澤先生が雄英体育祭についてわかりやすく説明を始めてくれた。

 もちろん、俺も雄英体育祭は見た事ある。一昨年の1年の部……つまり今の3年で、1人の生徒が個性でジャージが脱げ、公共放送にスッポンポンを晒していたのも記憶に新しい。テレビで『しばらくお待ちください』のテロップが流れるのも久しぶりに見た。

 

「ウチの体育祭は日本のビッグイベントのひとつ、かつてはオリンピックがスポーツの祭典と呼ばれ、全国が熱狂した。今は知っての通り、規模も人口も縮小し、形骸化した……そして日本において今……かつてのオリンピックに代わるのが『雄英体育祭』だ……!」

 

 オリンピックが形骸化したのは少し悲しいが、個性社会の現代で素の能力によるスポーツは、もう飽きられてしまったのだろう。

 

「当然、全国のトップヒーローも見ますのよ。スカウト目的でね」

 

「知ってるってば……」

 

 そして俺達の活躍を見て、プロヒーローが未来のヒーローの卵を評価し、自分の事務所に入れたいかどうかを選別する。個性だけが評価対象ではないと思うが、こんなデカい体育祭なんて雄英でしかやらないし、良くも悪くも注目の的になるのは必然だった。

 八百万の説明に、上鳴が反応して俺達に振り返った。

 

「卒業後はプロ事務所に相棒(サイドキック)入りがセオリーだもんな!」

 

「そっから独立しそびれて、万年サイドキックってのも多いんだよねえ……上鳴、あんたそうなりそう。アホだし」

 

「うっ……!」

 

 確かに、偏差値の高い雄英だというのに、上鳴がプロヒーローで独立しているイメージが俺には湧かない。耳朗辺りが彼を拾ってやってそうだ。

 

「当然、名のあるヒーロー事務所に入った方が、経験値も話題性も高くなる……時間は有限。プロに見込まれれば、その場で将来が開けるワケだ。年に1回……計3回だけのチャンス……ヒーロー志すなら、絶対に外せないイベントだ。その気があるなら準備は怠るな!」

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 こうしてクラスメイト達の元気の良い返事で朝のSHRを終わった。

 

 この日はヒーロー基礎学も無い、普通の授業である4時間目が終わった昼休み。教室に切島の元気の良い声が響き渡る。

 

「あんな事はあったけど……テンション上がるなァ、おいっ!!」

 

「活躍して目立ちゃ、プロへのドデケえ一歩が踏み出せる!」

 

 そう話している瀬呂だけでなく、クラスの話題はUSJから体育祭へと早変わりし、みんなが期待に胸を膨らませている。

 

「雄英に入った甲斐があるってもんだぜ!」

 

「数少ない機会、モノにしない手はない」

 

 教室の後ろの席である砂藤も、わざわざこちらに移動して会話に混ざりながら、気合いを入れる様に拳を合わせた。常闇も教壇の上に座りながら、淡々と告げる。

 

「尾白くん、私なんだか緊張してきちゃった! 体育祭、目立たなくちゃ!!」

 

「う、うん……でも、葉隠さんは相当頑張らないと、プロに存在気づいてもらえないかもね……」

 

 向こうの席では困惑する尾白の前で、彼の机の前で「えいえい、おーっ」を繰り返す葉隠。同調してやりなさいよ。

 

「いいよな〜っ、障子は! そのガタイだけで目立つもんなぁ〜」

 

「自分の有用性を知って貰わねば、意味がない」

 

 上鳴が羨む彼のガタイに対して、障子の個性は偵察向きだ。もちろん本人のパワーも凄いが、やっぱり自分で推したい部分があるだろう。

 

「あんたも目立つと思うよ? ぷぷっw」

 

 耳朗は上鳴を見て話しながら、吹き出して笑う。USJの時に知ったらしいが、上鳴は放電し過ぎて自分の許容のワット数を超えると、本人の脳がショートを起こして、著しくアホになってしまうのだ。その様子が彼女のツボらしい。

 

「みんな……すっごいノリノリだ……」

 

「君は違うのか? ヒーローになるため在籍しているのだから、燃えるのは当然だろう!」

 

「飯田ちゃん、独特な燃え方ね。変」

 

 困惑している緑谷の前で腰をクネクネ動かす、蛙吹に変と言われても仕方なのない動きで燃え上がる飯田。普段真面目な彼なだけあって、一層その違和感が湧き起こる。

 

「緑谷君も、そうじゃないのかい?」

 

「僕も、そりゃあそうだよ。でも、何か……」

 

「デクくん゛! 飯田くん゛……!」

 

「「おっ?」」

 

 2人で話をしている後ろから、ダミ声みたいな力強すぎる声で彼らを呼ぶ声がした。

 

「頑゛張゛ろ゛う゛ね゛、体゛育゛祭゛ッ!!!」

 

 そこには普段の優しい顔とはかけ離れた、物凄い形相で2人を見ている麗日がいた。

 

「か……顔がアレだよ、麗日さん!」

 

「どうした? 全然うららかじゃないよ麗日?」

 

 芦戸の心配にも答えず、彼女は俺達の前で拳を突き上げた。峰田が何か言おうとして、蛙吹に舌でシバかれていた。

 

「み゛ん゛な゛ァー、わ゛た゛し頑゛張゛る゛ーーッ!!!!!」

 

「「「「おおーっ!!!」」」」

 

 突然の宣言に、彼女の勢いに押されて返事をする周りのクラスメイト達。俺も、とりあえず返事をした。

 それだけではおさまらず、麗日はその場で振り返って別のクラスメイトにも拳を突き上げる。

 

「わ゛た゛し頑゛張゛る゛ーーッ!!!!!」

 

「「「「おぉ……!」」」」

 

「けど、どうした……? キャラがふわふわしてんぞ……」

 

 切島もなんだか心配していたが、緑谷と飯田が彼女を宥めさせて、3人は仲良く一緒に食堂へ行ってしまった。

 

「なー切裂っ! オイラ達も早くメシいこーぜっ!」

 

「そうだね。上鳴くんと切島くんも来る?」

 

「おうっ!」

 

「いいぜっ!」

 

 子供みたいな言い方で飯を誘う峰田に、俺は切島と上鳴と峰田の4人で食堂へと向かった。芦戸や耳朗はほかの女子達と、食堂に行ってしまった。

 食堂でランチラッシュの作ってくれた日替わりの料理が乗ったトレーを持って、俺達はグループ用の席に着いた。上鳴のトレーに乗った親子丼の横の携帯バッテリーが異彩を放つ。君、バッテリー常飲してんの?

 

「そう言やあさっ、切裂はなんでプロヒーロー目指してんだ?」

 

 カツカレーにがっつきながら俺に質問してきた切島に、向かいの席でスパゲティにがっついていた峰田が、ビクリと体を震わせる。

 

「俺は…………こんな危険な個性でも、ヒーローになれるって事を示したい……! どんな個性の人でも、明るく前向きに生きていける世界にするために……俺はヒーローを目指してる……!」

 

「ホッ……!」

 

「クぅ〜〜〜ッ!! カッケェじゃねえかッ!! 応援してるぜ俺ぇッ!!!」

 

「スケールがデケぇっ! 爆豪に、お前の爪の垢煎じて飲ませてやりてぇよっ!!!」

 

 焼きサバ定食を突っつきながら、空いた手を刃にして俺は堂々と3人に宣言すると、2人は俺を茶化すどころか、大変好意的に受け取ってくれた。峰田に言った時よりも少し、トガちゃんに向けてのビジョンは見えた気がしていた。

 そんな事で盛り上がっている俺達の席の前を、ひと組のクラスメイトが通った。

 

「あれ、飯田くん、麗日ちゃん。アレ、緑谷くんは?」

 

 俺の声を掛けた相手……2人で座る席を探していたのは、先に食堂に行っていたハズの飯田と麗日だった。しかしそこに、一緒に行ったハズの緑谷の姿はなかった。

 

「緑谷君はオールマイト先生と食事に誘われてな」

 

「2人で別の所に行っちゃったの。ココ座っても良い?」

 

「もちろん」

 

 俺の返事に応えて、ビーフシチューのトレーを持った飯田と、俺と同じ焼きサバ定食のトレーを持った麗日が、それぞれ切島と上鳴の隣に座った。ムサ苦しい食堂のテーブルに女の子が混じった事に、上鳴と峰田が露骨に機嫌を良くする。

 そこへ更に、ざる蕎麦のトレーを持って席を探していた轟と目が合う。

 

「轟くん、こっち席空いてるよ」

 

 彼は俺達A組の集まりを見て一瞬躊躇うものの、ピーク時の食堂の席に余裕がないのは知っている。すぐこちらへと近寄ってきた。

 

「悪い」

 

 そうひと言だけ告げて、俺の隣へと座る轟。

 USJ事件以降、俺と轟の関係は声をかけたら返事はしてくれるぐらいの、まともに会話できる相手にはなった。それでも自分から話をしていく相手じゃないが、少しだけクラスの仲は良くなったと思いたい。

 そんな轟の様子を見て、クラスメイトも少しだけ彼の印象を和らげてくれた。

 

「そういやあ……緑谷はなんで先生に呼ばれたんだ?」

 

「バスの中で蛙吹君が言っていただろ? 個性がオールマイト先生に似てるって……!」

 

「おおっ! そいえばそんな事言ってたっ!!」

 

 似ているどころか同じなのだが、俺は特に何も話す事なく食事を続けた。切島が元気良く頷く一方で、隣にいる轟の反応が少し気になったが。

 

「2人の超絶パワーは似ているし、オールマイト先生に気に入られているのかもな。さすがだ!」

 

「ひえ〜っ、No.1に目ぇ付けてもらえるなんて……プレッシャー感じすぎて死んじまうよっ!!」

 

 上鳴が想像するだけでものプレッシャーに震えている隣で、麗日が飯田の言っている事にウンウンと肯定している。

 

「………………」

 

 そんな会話を間近で聞いていた轟は、何か思い詰めた表情で蕎麦をすすっていた。

 

 

 

 

 

 ・・・♡・・・♡・・・

 

 

 

 

 

 時間は飛んで、午後の授業も問題なく消化し、帰りのSHRを終わらせて、教室を出ようとした時だ。

 

「な、なな…………何事だぁぁぁ!!?」

 

 廊下の道を塞いでしまうほどの、クラスの前に集まった他クラス他学科の生徒達を前にして、麗日の声が廊下から教室中まで響き渡る。

 

「君達、A組に何か用か?」

 

「んだよ、出れねえじゃん! 何しに来たんだよ!!」

 

 飯田が野次馬に対して冷静に尋ねようとして、峰田が騒ぐ。その彼を足で押し除けて爆豪が教室のドアをくぐろうとした。

 

「敵場視察だろ、ザコッ! ヴィランの襲撃を耐え抜いた連中だもんな……体育祭の前に見ときてぇんだろッ」

 

 歯をギリギリさせながら爆豪を指差す峰田に、緑谷が「かっちゃんはアレで平常運転だから……」と宥める。

 そんな後ろの様子は目も向けず、爆豪は集まっていた野次馬に近寄り、片端からガンつける。

 

「そんな事したって意味ねえから…………どけ、モブどもッ!」

 

「知らない人の事とりあえず『モブ』って言うのやめなさい!!」

 

 触る物皆傷付けていく爆豪の話し方に、飯田のごもっとな指摘が飛ぶが、そんな中で人混みを掻き分けて1人の生徒が現れる。

 

「ウワサのA組、どんなもんかと見に来たが、ずいぶんと偉そうだな。ヒーロー科に在籍するヤツは、みんなこんななのかい? こういうの見ちゃうと、幻滅するな」

 

 峰田とは違う明るい紫色の髪の毛を無造作なオールバックにして、目元には隈が染まっているが顔はかなり整った、ややダウナーな感じがする生徒だった。

 彼は俺を見ても、特に何か反応を見せるそぶりもなく、話を続ける。たぶん、俺と轟が脳無と戦っていた事も、ただのヴィランと戦ったという事で報道されたのだろう。この頃はまだ、脳無という生物兵器もヒーロー達にはよくわかっていないハズだ。

 

「普通科とか他の科って、ヒーロー科を落ちたから入ったってやつ、結構いるんだ。知ってた?」

 

 その気持ちは俺にもわかった。俺もワンチャン、そうなっていた可能性のある人間だ。トガちゃんがいたからこそ乗り切ったが、普通の俺では雄英の合格なんて、峰田がいたとしても無理だっただろう。

 

「そんな俺達にも学校側はチャンスを残してくれてる。体育祭のリザルトによっちゃ、ヒーロー科編入も検討してくれるんだって。その逆も、また然りらしいよ」

 

 彼は俺達を値踏みでもする様に、クラスの中を見渡した。ヒーロー科から普通科落とされるぐらいだったら、除籍された方がマシだな。

 

「敵情視察? 少なくとも俺は、いくらヒーロー科とはいえ調子乗ってっと、足元ごっそりすくっちゃうぞっつう宣戦布告しき来たつもり」

 

 雄英の顔であるヒーロー科に対してその言い草に、大胆不敵なヤツだとこの場にいる誰もが思っただろう。

 余程の実力がないと、そんな事言えないハズだけども、俺は知っている。彼は絶対に実力がある。しかも、この先絶対に必要な人間になると思えるぐらいの、強力な個性の持ち主だから。

 

 俺は敢えて言った。

 

「君、ヒーロー科に入れる気がする」

 

「あぁ……ッ!?」

 

 肯定してくるのは予想外だったか、彼は眉を顰めて俺を睨みつけたが、それ以上の返事を俺はしなかった。

 

「お前───

 

「おうおうッ、隣のB組のモンだけどよォ! ヴィランと戦ったっつうから話聞こうと思ったんだがよォ! えらく調子づいちゃってんなァおいッ!!」

 

 彼はまだ何かを話そうとしていたが、その声を遮るようにデカい声が人混みを掻き分ける。

 灰色の髪に、眉毛がない代わりに上下のまつ毛が金属片みたいに伸び広がった、暑苦しそうな生徒が現れた。

 声と台詞を聞くだけでも、その濃そうなキャラクター性に、また面倒なのが来たと誰もが思っただろう。

 

「あんまり吠えすぎってっと、本番で恥ずかしいことになっぞッ!! ……無視か、てめッッ!!!」

 

 連続する訪問者に面倒が過ぎたのだろう、爆豪はスタスタと廊下を歩いて行ってしまう。

 

「待てコラ爆豪! どうしてくれんだっ、おめえのせいでヘイト集まりまくってんじゃねえか!」

 

 切島が爆豪を止めようとするが、彼は振り返るなり俺達全員に向けて平然と言い放つ。

 

「関係ねえよ……上に上がりゃ関係ねえ……!」

 

「っ!? チッ、あの野郎……ッ!」

 

「くっ……シンプルで男らしいじゃねえか!」

 

 彼の言い草に舌打ちをするB組の生徒と、なんか涙を流している切島。その空気についていけなくなるクラスメイトが数名。

 

「え?」

 

「言うね」

 

「上か……一理ある」

 

 彼の言葉に感化されたクラスメイト達が、次々と賛同していく。八百万や耳朗は、呆れて物も言えなくなっていたが。

 そんな空気をすり抜けて、轟が人混みに紛れて帰っていった。

 

「イヤイヤ、騙されんな! ムダに敵を増やしただけだぞ!」

 

「そうだそうだ! 体育祭、オイラ達が不利になるだけじゃんか!」

 

 上鳴と峰田が周りを冷静に戻そうと、必死に弁解する。そりゃ、ヒーロー科のための体育祭になるのだから、最初から不利になるのは決まっている。

 喚いていたって仕方のない峰田の頭をポンと叩いて、俺は彼を納得させた。

 

「違うよ峰田くん。コレは不利じゃなくて………………ハンデだ♪」

 

「き、切裂っ!?」

 

「切裂君っ!? なんで君まで煽るんだっ!」

 

 飯田のツッコみも気にせず、俺は野次馬の前で硬化させた両手の拳を、勢い良く叩き合わせた。

 金属の激突する音が廊下に響き渡り、火花が顔の前まで飛散して、思わず周りの野次馬が悲鳴を漏らしてたじろぐ。

 

「ぬぅ!?」

 

 俺の個性を見て、暑苦しい男子生徒はすぐ反応した。有象無象の野次馬を腕で掻き分け、俺の前へと出てきた。

 

「オイお前……名前はなんだ?」

 

「A組の切裂 刃。よろしくね」

 

 俺は簡単に自己紹介すると、彼に差し出した手の平を全て刃に変化させて見せた。

 

「っ! ……B組の『鉄哲 徹鐵』だ。お前とは良い勝負ができそうだな!」

 

 ソレを恐れず、不適な笑みで自己紹介をした彼の手が銀色の金属へと変化し、俺の刃になった手を平然と握りしめた。

 

「「───ッ!!」」

 

 

 

 その瞬間、お互いの中で鳴り響くゴング音。

 

 

 

 合図もなく俺達は互いに握った手の平を全力で握り締めた。

 

「んん゛〜〜〜〜〜〜ッッッ!!!!!?!」

 

「おぉ゛〜〜〜〜〜〜ッッッ!!!!!?!」

 

 猪木ボンバイエを脳内BGMに、金属同士がガリガリと削れる不快な音が廊下中に響き渡り、周りのギャラリーがゾロゾロと引いていた。

 

「オイオイオイっ! 切裂やめろって!? みんな引いてるよっ!」

 

「峰田くん! 俺達はさッ、たったの40席しかないッッ、雄英のヒーロー科を勝ち取ったんだよッ!!?」

 

「っ!?」

 

 峰田の止めようとしてくる声も介さず、俺は鉄哲と拳を握り締め合いながら、声を搾り出す。

 

「俺達最強の親友同士だろっ!? こんな有象無象のヤツらに負けるワケないっ! もっと自信持とうよっ!!」

 

「き、切裂……!」

 

「へッ……言うじゃねえかッ!!」

 

 俺の考えに賛同した鉄哲が、更に力を込めてくる。素の力は彼の方が上かもしれない。

 

「おい切裂ぃ!!!」

 

「んんッ、切島くん!?」

 

「俺も混ぜろぉ!!!」

 

 そこへ更に暑苦しいオーラを纏って、ブレザーまで脱ぎ捨ててシャツの袖を捲った切島が、ズンズンと近寄って来る。

 

「あぁッ!? なんだテメェはっ!!?」

 

「俺は『切島 鋭児郎』ッ!! このクラスで1番熱い男だッ!!!」

 

 そう名乗り口上をして、彼は硬化させてた手の平を鉄哲に向かって差し出した。彼もまさか、自分とソックリな個性を持った人間が雄英のヒーロー科に2人もいるとは思わなかっただろう。しかも、自分の暑苦しいノリに乗ってくれるのだから。

 物凄く嬉しそうな鉄哲の手を振り解いて、俺は切島に立ち位置を譲る。

 そして、2人の手を掴んで握手させると、俺は両手で2人の手を包みこんだ。

 

「レディーーーッ……ファイトッ!!!!」

 

「「ウォォぉぉぉぉぉぉぉぉっッッ!!!!!!」」

 

 今度は火花と金属音を散らして、鉄哲と切島が叫びながら手の平を潰し合う。こんなに廊下で騒がしくしてると教師が何か言ってきそうだが、奇跡的にソレを止める者はいなかった。

 

「………………」

 

 俺達の暑苦しいノリに耐えられなくなったか、普通科の彼は名前を言う事もなく、人混みから外れて行ってしまった。

 

「さあ、峰田くん。今日からまた自主トレ始めるよ!」

 

「えぇっ!? オイラ今日はお気に入りの動画が……っ!」

 

「ダーメっ、体育祭までガマンガマン! 体育館も借りたから、ガッツリトレーニングだ!」

 

 鉄哲の対応は切島に任せ、俺は峰田を腰に抱きかかえて、彼のカバンと自分のカバンを首に掛けてから廊下を歩いていく。その後ろで切島が鉄哲と握手しながら、声を振り絞って叫んだ。

 

「き、切裂ッ! それ俺も行って良いか!?」

 

「もちろん、まってるねー!」

 

 そうして峰田を連れながら、俺は体育館へと向かった。

 

 ちなみにB組では、A組に宣戦布告しに行ったハズの鉄哲が、クラスに戻って来た時にはえらく機嫌が良くなっていた事に、周りは違和感を覚えたんだとか。

 

 ここから体育祭が始まる残り2週間で、俺は授業と同時に峰田達と自主練に励む事となる。雄英の施設である『体育館γ』は、普通の体育館をした外観の中に岩山みたいな山脈が聳える、屋内訓練場と言っても差し支えのない広さを誇る。

 そんな施設の中で、峰田にはモギモギでできる事を考えさせながら、ひたすらモギらせ。切島とは派手にぶつかり合う。本人も俺も、コレが1番強くなると心で理解していた。

 

 残り1週間で、峰田と切島は自由にさせた。ここからは個別訓練。向こうだって、とっておきの技とか作りたいだろうし、峰田とか尚更だろう。俺だって同じだ。

 

 この体育祭も『ヒロアカ』のキャラクター達が、個々の魅力を発揮していく物語の重要な注目点である。

 彼等の活躍の場を奪うのに、少し抵抗はある。だが、俺はトガちゃんとの約束のためにも、彼等を押し除けて勝ち進む理由があった。

 

 

 

 目標は優勝。あっという間に俺の2週間は過ぎた。

 

 

 

 

 

 次回『体育祭開始』

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