切裂ヤイバの献身   作:monmo

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第七話

 

 

 

 

 

 障害走の順位は、その後B組が何人か続いて飯田。どっかで追い抜かれたのかその次が峰田。それから常闇、瀬呂、切島、その後はもうA組B組に他の科まで混ざって滅茶苦茶な感じだった。

 

 予選通過は42名、A組は全員この中に入っている。B組もしっかり全員いる。そこに普通科とサポート科が1名ずつ混じって、第2種目の発表と説明が始まった。

 

『さーて、第2種目よ。私はもう知ってるけど……何かしら? 何かしら〜? 言ってるそばから、コレよッ!!!』

 

 グラウンドのお立ち台の前に集合している皆が、息を飲みながら投影モニターを見つめる。ミッドナイト先生の艶かしい口振りで焦らされてから、モニターに映し出された種目名は『騎馬戦』だった。

 

「えっ!?」

 

「騎馬戦!?」

 

 勝ち抜かなきゃならないのに個人競技じゃなくなった事で、何人かの生徒が大きな反応を示した。

 

 ルールは、第1競技の順位に応じて各個人に下から5ポイントずつの差でポイントが振り分けられ、2〜4名で組んだ騎馬でポイント合計し、そのポイント分が書いてあるハチマキを奪い合い、保持ポイントを競い合う。

 取ったハチマキは首から上で管理し、ハチマキを取られても、騎馬が崩れても失格にはならず、また騎馬を組み直して試合を続行する。ただし、騎馬が崩れた状態での勝負は無効となる。

 もちろん障害走と同じく、個性は何でもアリの残虐ファイトだが、悪質な騎馬崩し目的の攻撃は即時退場。この辺の細かい判定は、主審であるミッドナイト先生の主観で裁定される。

 そして、制限時間15分に達したタイミングで、保持していたポイントの合計上位4チームが次の競技へと進む、といった感じだ。

 最初のチーム決めにあたって、15分間の交渉タイムが用意される。もちろん、仲間は早い者勝ちだから、その間にどれだけ早くメンバーを集め、あるいは説得させて騎馬のコンセプトを決めれるかが勝敗の鍵となる。

 

 ココで問題になるのが、障害走1位だった俺に与えられる、この競技のポイントが…………1000万ポイント。

 

 そう、1000万ポイントである。いざ聞いてみると、本当に聞き間違えかと自分を疑いたくなるポイントが、1位の自分に振り分けられているのだ。つまり、どんなに順位が下のヤツでも、俺のハチマキを奪えばいくらでも逆転できるシステムなのだ。

 ソレ聞いた瞬間、周りにいたクラスメイトが面白いぐらい一斉に俺を見てきやがった。緑谷までこっちを見ている状況に、なんだか笑いたくなってしまった。

 

 前提として、俺は間違いなく騎手よりも騎馬側の人間。切島や障子よろしく、前騎馬で前衛になるべきだ。俺が騎手になったら、腕は刃にできるが、正直言ってあんま汎用性ないし、足は仲間が支えているから刃にできない。つまり、この騎馬戦で1番優位性を出す機動力を発揮できないのだ。俺に1000万もある以上、ハチマキを死守するならほかのハチマキを狙う必要性はない。俺に必要なのは、上に乗せる人間。つまり……

 

『それじゃ、これより15分ッ! チーム決めの交渉スタートよっ!!!』

 

「峰田くーーーーーんッッッッッ!!!!!」

 

「え゛ぇぇぇぇぇオイラァァァァァァッッッッッ!!!?!!?!?」

 

 ミッドナイト先生の宣言した開始と同時に、俺は目で追っていた峰田にヘッドスライディングで飛びついた。彼は迷いなくまっすぐ自分の元に向かってきた俺に喜びながらも、頬擦りまでしてくる俺の頭を押さえつけて悲鳴を上げた。

 

「待て待て待て触んなっッッ!! 逃げねえから触んなッッッっ!!! なんでオイラなんだよ!!!?」

 

「俺の個性は騎手よりも、騎馬になっていた方が絶対に有利ッ!!! 上が軽くて、しかも狙いが小さくて、両手だけで相手を妨害できる個性の君が絶対に必要なんだッッッ!!!!」

 

「き、切裂…………お前……!」

 

 手では引き離そうとしながらも、唯一無二の自分を必要としてくれる俺に、峰田は目を輝かせる。

 

「それに峰田くんちっちゃいんだから、騎馬絶対にできないでしょ!!!!」

 

「テメェェェェぇぇぇ本音はそっちかァァァァァァァァッッッッっ!!!!!」

 

 これから協力するってのに、地面に転がってドッタンバッタンと喧嘩を始めている俺と峰田に、周りの人間はドン引いていた。

 ま、とにかく、これで1番必要な人材は手に入れた。最悪、俺が峰田を肩車していれば、騎馬として成立する。

 とはいえ、できればあと2人は欲しい。俺は攻撃と防御は知っての通りだが、機動力は他の個性に比べれば一段劣る。できれば攻撃役ではなく、回避のための機動力と、万が一に備えてハチマキを奪い返せる個性の持ち主が必要だ。

 周りのクラスメイトの何人かは俺の事をチラチラ見ているが、さすがに1000万となるとそう簡単には決断できないだろう。ほかの騎馬全員から狙われる事が確定しているのだ。気になっても声がかけられない、みたいな状態になっていた。

 そうこうしている間に轟がチームを組み終えたらしい。もう最初から決めていたのだろう。爆豪も切島を組み込んでいた。

 

「私と組みましょうっ!! 1位の人!!!」

 

「「誰!!?」」

 

 唐突に、後ろから肩を掴まれて声をかけてきたのは、ゴーグルを掛けて全身サポートアイテムだらけの女性。A組でもB組でもない、サポート科の『発目 明』だった。

 公平を示す体育祭でジャージ上下の俺と峰田と違って、サポート科の生徒は自分の開発したサポートアイテムのみ、企業やスポンサーに売り込むため特別に着用が許可されている。障害走を勝ち残った彼女はその筆頭だ。

 芦戸とはまた違うピンク色の髪の毛で、毛先が明太子みたいになっていて美味しそう。峰田は胸しか見とらんな。確かに、平均よりは上ありそうだけども。

 

「アナタの事は知りませんが、立場利用させてください!」

 

「なんかよくわかんねーけど、イイよなっ!? なぁっ、切裂!? イイよなぁッ!!?」

 

 ずいぶんとハッキリとした物言いだが、要は俺をダシにして、自分の発明したサポートアイテムを目立せようという魂胆だ。だが、彼女が目の前で勝手にプレゼンし始めた発明品は機動力に特化している物ばかりだ。ふたつ返事で俺も峰田も賛成した。

 まともな騎馬にするにはあと1人。緑谷は常闇と麗日をチームに入れていた。本来アソコに発目が入るハズなのだが、彼らが誰を選ぶのか見ているヒマはない。

 

「あと1人、誰にすんだ?」

 

「……もう決めてる。てか、決まった」

 

「?」

 

 まだ残っている生徒の中で、俺は最後の1人を選んだ。

 

 相手は、クラスメイト達に囲まれて人気だった爆豪ではなく……なんと俺の方へと歩み寄って来ていたのだから。

 

 

 

 

 

 挿入曲 林ゆうき - 騎馬戦

 

 

 

 

 

『それじゃ、いよいよ始めるわよ!!!』

 

『さあっ、起きろイレイザー!!』

 

『ん?』

 

 こうしてチーム決めの時間が終わり、各々の騎馬がフィールドの好きな配置につく。

 

『15分のチーム決め兼作戦タイムを経て、フィールドに12組の騎馬が並び立ったァ!!!』

 

『……中々、面白え組が揃ったな……!』

 

 峰田の頭に光り輝く1000万ポイントのハチマキ。モギモギは本人にはくっつかないから、残念ながら固定はできない。だが、峰田という小さな体からハチマキを奪うには、俺という前衛をなんとかしなければならない。奪う側には面倒な障害となるだろう。

 

『さァーーーッッ! 上げてけ時の声ッッッ!!! 血で血を洗う雄英の合戦が今、狼煙を上げるゥゥーーーーーッッ!!!!』

 

 プレゼントマイク先生のマイクに比例して、会場の盛り上がりが最高潮になっていく。

 ここからは有象無象はいない。本戦の始まりだ。

 

 

 

 

 

 第1チーム

 峰田・切裂・発目・芦戸

 175+10000000+5+115=10000295

 

「うぅぅぅっ……っ!」

 

「え? 峰田くん、泣いてる!?」

 

「ちょっと、まだ始まってないわよ!?」

 

「うぅ……っ、女の子に騎馬をやってもらえるなんて……オイラは幸せ者だあぁ〜〜っ!!」

 

「「あっ、そ」」

 

「フフフフフ……私のドッカワイイベイビー……!! 今から披露させてあげますからね……!」

 

((この人もマイペースだな……))

 

「なのに……なのに……足が短すぎてコレじゃあ切裂に肩車してもらってるだけじゃねーーーかーーーっっっ!!!!!」

 

「まだ言ってる……」

 

「ほんっとバカ……!」

 

「フフフフフ……!」

 

 

 

 第2チーム

 緑谷・常闇・麗日・蛙吹

 205+170+125+140=630

 

「切裂くんやっぱり騎手じゃなくて騎馬になってた。たぶん前騎馬で防御と攻撃を両方担うつもりなんだろうし足を刃にして移動速度を上げるためだ。だとすると芦戸さんを騎馬でスカウトしたのは遠距離攻撃と酸による移動の補助。騎手の峰田くんはモギモギの遠距離攻撃があるしなにより小さくてハチマキが狙いづらい。なんとか懐に入り込まないといけないけどあーでも切裂くんがソレを許さないよなー。あのチームはハチマキを奪う手段をほぼ持ってない完全に防御と妨害と機動寄りの組み合わせだ。コッチには中遠距離攻撃ができる常闇くんのダークシャドウと蛙吹さんの舌があるからスキを突ければ勝算はあると思う。あと最後もうひとりの人はよくわからないけどたぶん…………ブツブツブツブツ」

 

「緑谷ちゃん、やめて。怖い」

 

「アハハ……あっ、始まるよ!」

 

「下剋上させてもらうッ!」

 

「シャアッッ ! 」

 

 

 

 第3チーム

 轟・飯田・八百万・上鳴

 200+180+120+90=590

 

「アイツら……完全にハチマキを持ち逃げする陣営だな」

 

「だがスピードなら負けない……轟くん! タイミングは任せるよ!」

 

「峰田さんに芦戸さん……2人とも妨害向きの個性ですわ……!」

 

「うひゃー!? 切裂が騎馬かよ! こりゃ、楽な戦いじゃねぇな……!!」

 

 

 

 第4チーム

 爆豪・切島・瀬呂・障子

 195+160+165+135=655

 

「クソ髪ッ、しょうゆ顔ッ、タコスケッ!! 足引っ張りやがったら、その瞬間に俺がお前らを殺すからなッ!!!」

 

「わかったわかったって!」

 

「切裂、お前も前騎馬かよ……面白れぇ……ッ!!」

 

「1位狙い意外にも、伏兵がいるかもしれない。用心するぞ」

 

 

 

 第5チーム

 鉄哲・骨抜・泡瀬・塩崎

 155+185+145+190=675

 

「狙いは1000万ポイントのアイツだけだ。それ以外には目もくれてやるなッ!」

 

「カッカッカッ、速攻で奪ってやるぜぇッ!」

 

「オイオイっ、作戦は!?」

 

「あぁ主よ……我等B組に勝利のハチマキを、この手に与えたまえ……」

 

 

 

 第6チーム

 心操・庄田・尾白・砂藤

 75+40+150+130=395

 

「………………」

 

「………………」

 

「………………」

 

「………………フッ」

 

 

 

 第7チーム

 拳藤・柳・取蔭・小森

 70+80+15+35=200

 

「いい? 鉄哲はたぶん作戦無視すると思うけど、私達は物間に言われた通りでいくわよ?」

 

「わかってるわ」

 

「とりま……ダレからイク?」

 

「決勝進出できれば……私のオンステージ独壇場ノコっ!」

 

 

 

 第8チーム

 小大・凡戸・吹出

 50+85+10=145

 

「やってやるぜ、小大!」

 

「ん」

 

「物間の作戦どおりにねぇ」

 

 

 

 第9チーム

 鎌切・角取

 55+25=80

 

「ヒヒっ、どうする角取? 1000万……俺達で狙っちゃう?」

 

「オフコース! でもまずは、そのテンミリオンに夢中になってるキバのスキを突きマースっ!!」

 

 

 

 第10チーム

 鱗・宍田

 45+65=110

 

「あの強個性、おそらくタダでは渡してくれないだろうな」

 

「大勢の騎馬を凌いで、疲弊した所が狙い目ですぞ」

 

 

 

 第11チーム

 物間・円場・回原・黒色

 30+95+100+60=285

 

「鉄哲」

 

「あぁ!?」

 

「恨みっこはナシだよ?」

 

「ぁ……あぁッ!!」

 

(((俺達のセリフは無しかッ!)))

 

 

 

 第12チーム

 葉隠・耳朗・口田

 20+105+110=235

 

「もー、砂藤くん! 私と組むって約束してたのにッ、なんで他の人とチーム組んでんのよーーッ!!」

 

「ッッ──っ────!!?」

 

「おわぁあぁっ!? 葉隠さん暴れないでっ!」

 

 

 

 

 

『さあ、いくぜッ!! 残虐バトルロイヤルッッ、カウントダウンッッッ!!!!』

 

「峰田くん、コレに捕まって」

 

 俺は頭からニョキっと2本、切れ味の全くない角みたいな刃を生やし、手すりの代わりに峰田に掴ませる。

 

「おっ、おうッ!」

 

『スリーッ……ツーッ……ワンッ!!!!!』

 

「おそろい……」

 

 後ろの芦戸が何か言った気がしたが、会場の歓声が沸き上がると同時に、プレゼントマイク先生の秒読みが告げられていく。

 

『スタート!』

 

 

 

 

 

 挿入曲 林ゆうき - 爆殺王!!

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッッッ!!!!!」」」」」」」」」」

 

 

 

 最後のミッドナイト先生の号令と同時に、俺の元へ一斉に騎馬が突進してきた。

 

「行けェェェッッ!!!」

 

「狙いは、ただひとつッッッ!!!!」

 

「実質、1000万の争奪戦だァ!!」

 

「ハッハッハッ! 切裂くんっ、頂くよ〜っ!」

 

「うわぁぁぁぁぁぁっッッッ!!!?!! メチャクチャ来たぁぁぁあぁァァァッッッッ!!!!!!!」

 

「狼狽えんじゃねえ峰田ァッ!!!! 全員準備いいかァ!!!?」

 

「いいわよッ!!!」

 

「オーケーですっ!!」

 

 怯える峰田を叱咤し、俺は冷静に騎馬全体の息を揃える。彼女達の返事に合わせて、繋ぐ手の力が強くなった。

 

「いくよッッ、せーのッ!!!」

 

 俺は足を刃にする速力。芦戸は足から酸を出して速度を殺さずに加速。更に発目は足にホバーブーツを履いて、芦戸と同じように速度を殺さず後押しする。

 

「うおッ!?」

 

「なんだあのスピード!!?」

 

「クッソッ、思ってた以上に早いッ!!」

 

 足回りが全員機動力に役割を出せるこの騎馬は、普通に走っているだけじゃまず追いつけない。しかも峰田は俺に肩車してるだけなので、女子2人は手を繋いでいるだけで重量の負担が一切ない。そして峰田自身も軽いから、俺の肩も問題ない。

 

「うわスゴっ、早っ!?」

 

「どーですか、このホバーブーツっ!! おふたりのスピードにだって負けてませんよっ!!!」

 

「うぉォォォォォォォォッッッッッッ!!!!!」

 

 それに速度だけじゃない。高速で移動する俺の頭の上では常に峰田がモギモギを四方八方にバラ撒き、更に芦戸も酸で滑りながら、残り汁を後ろへと垂れ流して寄ってくる騎馬を妨害する。

 

「うわッ、あぶねっ!?」

 

「うえッ、目に染みるッッ!!」

 

「クッソッ、後ろから追えねぇッ!」

 

「気をつけてください! アレにくっついたらおしまいですわ!」

 

 さながら、地雷を無差別にブチ撒きながら走る装甲車。そんな俺達の騎馬を見て、さすがに無策で突っ込んでくる騎馬は減った。それどころか俺の騎馬を諦めて、別の騎馬に狙いを定めだす者もいた。

 

「昨日は夜更かししないで眠ったしッ、早起きして朝ごはんまで食べたからッ、すこぶる調子は良いゼぇェェェェェェッッッ!!!!」

 

「いいよ峰田くんッ、このまま誰も引き寄せないでッッ!!! 俺達ハチマキ取られたら、取り返す手段がほぼ無いんだからッ!!!」

 

「わかってるッッてのォォォォッッッッ!!!!」

 

「私もっ、1番鼻と目にキく酸だからッ、止まる時言ってねッ!!」

 

『さあ、まだ開始から2分と経ってねえが、早くも混戦混戦ッッ!!!! 各所でハチマキ奪い合いッッ!!! 1000万を狙わず、2位から4位狙いってのも悪くねぇッッ!!!!!!』

 

 機動力で他の騎馬を引き回しながら、峰田と芦戸で妨害していく戦法が、思った以上にブッ刺さった。このまま逃げ切る未来も、見えなくはなかった。

 芦戸が俺と繋ぐ手をギュッギュッと握りながら、敵のいない周りを見渡して喜ぶ。

 

「よっしゃっ、みんな離れていったよ!!」

 

「ま゛ァァァてゴラァ、ナマクラぁぁァァァァァァァァッッッッっッ!!!!!!!!」

 

 いや、ひとり来た。

 爆豪が騎馬から跳躍して、自分1人で飛びながら突っ込んできたのだ。

 

『うぉォォォォッッッ!!?!? 騎馬から離れたぞッ!! いいのか、アレ!!!』

 

「ウソっ!?」

 

「あんなのアリかよッ!?」

 

 芦戸が黒目をまん丸にして驚き、峰田がキレながらミッドナイト先生に叫ぶ。そんな俺達に向かって彼女は満面の笑みでピースサインを送った。

 

「アリよ♪ ただし、ハチマキを持って騎馬に戻るまで、地面につかないこと!」

 

 そんな説明を聞いてる間に、爆豪が俺達の前まで迫ってくる。

 

「調子乗ってんじゃねぇぞォッッ!!!!! クソがァァァッッッ!!!!!!」

 

「クッッ!!」

 

 真正面まで迫ってきた爆豪に、俺は足を蹴り上げながら刃を振り上げる。しかし、すぐさま反応されて横向きの爆発で芦戸側の側面に回り込まれた。

 

「甘ェッ!!!」

 

「ヤベぇッ!!」

 

 峰田がモギモギを投げようとしたが、それよりも早く爆豪が手の平を後ろに向け、勝負を仕掛けてくるその時だった。

 

「ぷっ、ぷっ、ぷッ!!!」

 

 芦戸が爆豪の方に顔を向け、口から酸の弾丸を飛ばした。

 

「うおッッ!!?」

 

 顔面に向かって飛んできた酸の塊に、不意を突かれた爆豪は咄嗟に後退し、空中でバランスを崩す。が、狙ったように瀬呂のテープが彼を捕え、騎馬の元へと回収されていく。

 

「芦戸ちゃん!?」

 

「ヒぃ〜〜っ! 舌がシビれた〜〜ぁ!!」

 

 驚く俺の後ろで、ベロを大きく出して空気に触れさせる芦戸。あまり連発はキツそうだし、爆豪にはもう警戒されたからこれっきりだろう。

 

「常闇くんっ! ダークシャドウをっ!」

 

「おうッ!」

 

「アイヨッ ‼︎ 」

 

 あ、もうひとり来た。

 自由に空中を浮遊できる故、俺達のバラ撒く地雷原を無視して襲い掛かれるバケモン『ダークシャドウ』を操る個性の持ち主である常闇と、彼を騎馬に組み込んだ緑谷の騎馬だった。

 

「うわぁァァァァァ来るな来るな来るな来るなァァァァァァァっっッッッ!!!!!!」

 

「ハーーーッハッハッハハハハハ !!! 」

 

 峰田が喚きながらモギモギをやみくもに投げるが、相手は実体化もできる影だ。モギモギは通用しない。

 そのまま目の前までダークシャドウの接近を許してしまった俺は、3人に指示を出す。

 

「発目ちゃん、ジェットパックをっ!! 掴まれッ!!!」

 

「「「っ!!!」」」

 

 峰田が俺の角にしがみつき、背中にジェットパックを背負った発目と芦戸が俺の背中に抱きつく。俺と発目の手の間に握られた、スイッチが彼女によって押された。

 ジェットパックの推進力が解放されるのと同時に、俺は両脚を伸縮して一気に空へと飛び出す。

 

「アラァッ !!? 」

 

「飛んだっ!?」

 

「逃げられたっ!」

 

 騎馬が飛び上がるという、常識の超えた光景に緑谷の騎馬が驚く。しかし、俺はソレどころではなくなっていた。

 腰のくびれが良い芦戸は、もちろん胸の張りも良い。そして発目も峰田が見とれるほどの、胸のボリュームを備えている。

 

「ハ……っ」

 

 

 

 そんな四つの巨乳を背中に一身で受け止めた俺は、気持ちも身体も飛び上がった。

 

 

 

『おォォーーーーーッッッ!!!?! 騎馬が飛んだァァァーーーーーーッッッ!!!?!?』

 

『サポート科の生徒が開発した、サポートアイテムだな。障害走を勝ち残っているだけあって、彼女も相応の実力者だよ』

 

 プレゼントマイク先生と相澤先生の実況も飛ぶ中、女子2人のハグを受け止めていた俺は、峰田に首を絞められた。

 

「ぐゥ?」

 

「オイテェんめェーーーッッ!!! オイラの目の前でパイオツ受け止めてコーフンしてんじゃねェぞォーーーーーッッッ!!!! 感想を言えゴラぁァーーーーーーッッッ!!!!!」

 

 飛んでる視界を遮るように、逆さまになった峰田のブチ切れ顔をドアップで収めながら、彼は手で俺の首を絞めてくる。

 

「今それどころじゃないでしょッッっッ!!!! わかったわかったわかったッッ、別の部分まで刃になるトコロだったよッッッ!!!!!」

 

「えッ??!? なんか言ったっ!!?」

 

「「なんでもないッッっ!!!!!」」

 

 怖くて目を瞑っていた芦戸が声をかけてきたが、俺と峰田は声を揃えて返事をした。そして何事もなかったかの様に俺は地面に刃を突き刺してブレーキをかけ、女子2人はジェットパックの噴射で着地の衝撃を和らげる。

 

「どうですかっ、ベイビー達はっ!? カワイイでしょう? カワイイは作れるんですよっ!!」

 

「あぁッ! 最高にカァイイ、ベイビーだよッ!! 走ってっ!!」

 

 俺が歯を見せつけて笑うと、再びホバーブーツを起動して走り始める発目。今回取り付けたサポートアイテムは、この2種類だけに絞った。これ以上装備しても重量が問題になると判断したからだ。

 

「チャンス! 耳朗ちゃんっ!!」

 

「わかってるっ!!」

 

 着地を先読みして待ち構えていたのは、耳朗のイアホンジャックを伸ばしてハチマキを狙う葉隠の騎馬。

 突き刺さんばかりの勢いでジャックを伸ばした耳朗だが、俺がすぐ走れと指示したおかげで、峰田の頭を掠るだけで終わった。

 

「惜ッしいっ!!!」

 

「クッソっ、口田! 鳥とか呼んでハチマキ奪えないのっ!?」

 

「っっ──ッ────ッッ!!(ダメっ! スタジアムがうるさすぎて、鳥が近寄らないしっ、声が届かないっ!)」

 

 緑谷と爆豪の騎馬を警戒しながら、俺達はフィールドを縦横無尽に走り回る。

 

「うぅ……オイラにもっと背があったら……!」

 

 そんな中でブツブツ呟きながら、峰田はモギモギをちぎっては投げを繰り返す。余程胸が恋しかったか、血涙まで流している。

 

 あ、いや、血涙じゃない。

 

「峰田くんッ、血ッ!!!」

 

「あっ、やべェッ!!?」

 

 自分の頭を押さえて確認する峰田の手の平は、真っ赤に鮮血で塗り潰されていた。モギり過ぎて限界が来てしまったのだ。

 

「スタートから飛ばしすぎたね。少しクールダウンしよう!」

 

「でもっ!」

 

 まだ頑張ると言いそうな峰田を、俺は優しく宥める。まだ彼には頑張っていてほしいから。

 

「俺達にも言わせてやろうぜッ、『あんなのアリ!?』ってねッッ!!!」

 

「なっ、何するのっ!?」

 

 芦戸も地面を滑りながら、俺に呼びかける。不安ではあるが、俺に期待しているような声だった。

 

「峰田くん、頭から離れて」

 

 そう呟いて、俺はジャージの中から突き破らせ、3人を巻き込まないようにして腕、肩、足、背中、腹まで、身体中から出せるだけの刃を伸ばした。

 

「「うわッ!?」」

 

「ワオっ!」

 

 驚く3人を少し反った刃が守る様に覆い、騎馬そのものがひと回り大きくなった様に見せる。

 

 更に、俺は自分の頭を縦に引き伸ばし、馬鹿デカいナイフ状に変身させた。

 

「グッッ……っ、ォォオォォォォォォォォォォォッッッっっ!!!!!」

 

『おぉぅ、ォォおぉォォォォォッッ!!?』

 

『入学資料には《体を刃に出来る》と書いてはあったが…………まさか、ココまでとはな……!』

 

 驚くプレゼントマイク先生と、用紙をパラパラと捲り返しながら話す相澤先生の声。そして観客席から動揺する声が聞こえた。

 俺は足の指ではなく、足そのものから分厚い刃を伸ばして大きな爪の代わりにし、彼女達と繋ぐ手以外はKAIJU地味た姿に変貌する。ココまでやるともう人間の面影すら残っておらず、異形型顔負けである。

 

 

 

「GYAAA……GYAAAAOOOOOOOOOOOONNNN !!!!! 」

 

 

 

 そこにケレン味もひと足しすべく、俺は演技のかかった咆哮を上げた。声が体の金属を通して響き渡り、おおよそ人間の声には聞こえない音が、スタジアム内に響き渡った。

 

『スーーゲーーーなアイツぅッ!!? ナニも刃にできちまうんじゃないかッ!?』

 

『公共放送に下ネタを流すな!』

 

 プレゼントマイク先生と相澤先生のやりとりも小耳に、俺は峰田を頭に乗せて、芦戸と発目の手を引きながら、ズシンズシンと刃になった足を踏み出す。

 

「オラオラオラオラーーーーーーッッッ!!! コレでもハチマキ取りたきゃッ、取ってみやがれーーーーーッッッ!!!!」

 

 巨大な爪になった足で上底された身長。鉤爪の伸びた肩、ありとあらゆる全身の刃を振り回しながら、おどろおどろしい叫び声を上げて俺は、今まで逃げてきた騎馬の群れに突進する。

 

「うわぁァァっ!!?!」

 

「引けッ! 引けーーッッ!!!」

 

「あんなのアリかよ!?」

 

「クッソッ! アレじゃ飯田でも突っ込めねえ……ッ!!」

 

「はーーーはっはっはっはっははははははーーーっ!!! いっけぇーーー切裂ぃーーーーっっっ!!!!!!」

 

 最初は驚いていた峰田も、俺が正気だとわかるなり調子に乗り始め、高笑いしながら敵の騎馬に指を差し始めた。

 

『A組切裂ッ! 刃を振り回しながら走るその姿はッ、まァさに戦車ッ!!!! 堪らずほかの騎馬が蜘蛛の子散らして逃げていくゥーーーーーッ!!!! 誰もあの大怪獣が止められねェェーーーーーーーッッッ!!!!!』

 

「ちょっと!? これスピード遅くない!?」

 

「体がグワングワンしますっ!」

 

 ただ、この姿だと機動力を発揮できないので、ある程度経ったら止めるつもりだ。所詮はコケ脅しに近いので、俺は適当に騎馬を追い回してからタイミングを見計らおうとする。

 先程と一転、自分達から逃げ回る騎馬を見渡して、ご満悦な峰田がガッツポーズを決めた。

 

「いよっしッ、周りのヤツらも少しは引いて……っ!!?」

 

「切裂いぃぃーーーーーーッッッッッ!!!!!!!!」

 

「げぇっ、切島ッっ!!?」

 

 ソコに俺達の騎馬へ恐れる事なく、全身を硬化させた切島が前騎馬になっている、爆豪の騎馬が突進してくる。後ろで物凄い怯えている瀬呂が、騎馬を止めたくても止める事ができなくて喚き散らしていた。

 

「オイッっ、マジで行くのッ!!? 待てって切島ぁッッ!!! マジでぇェェェェッッ!!?!?」

 

「少々手荒だが……やむを得ん!」

 

「チキんじゃねぇェぞッ、クソ髪ィィィッッ!!!!」

 

『ソコに突っ込む爆豪の騎馬ァーーーーッッッッ!!! 怪獣になった切裂に恐れず挑みかかるッッ!! 怖い物知らずかッ、はたまたイカれてんのかァァーーーーーッッッッ!!!!!』

 

 障子も身を寄せながら走り、爆豪は両手を小さく爆発させながら、俺達に真っ直ぐ迫る。

 

「うわぁァァヤベヤベヤベヤベっ!!!」

 

「発目ちゃん、ジェットパックは!?」

 

「再チャージにあと1分かかります! 今発動しても、勢いをつけるだけで飛ぶ事は無理ですね!」

 

「そんな元気良く言われてもーー!」

 

 こんな状況なのにニッコニコの発目と、喚く芦戸を落ち着かせ、俺は冷静に告げる。

 

「なら……ぶつかったのと同時に発動して!」

 

「えぇっ!? マジ!?」

 

 角にしがみついていた峰田が、トンでもない形相で側面から俺を覗く。

 少しデカくなったとはいえ、野郎4人の騎馬に対し、こっちはチビの峰田に女子2人だ。力比べでは敵わない。

 

「向こうは障子くんまでいるから、激突したら確実に質量差で負ける! ジェットも使って張り合うしかないっ! 勢いが止まったらスピード出してすぐ逃げるからッ!!!」

 

「わかった! 私は信じるからねっ!! 行ってっ!!」

 

「ウソだろーーーーーーーーっ!!!?」

 

 芦戸の決意と、峰田の悲鳴が響き渡りながら、俺は切島に正面から突撃する。

 

「「うぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッッッッ!!!!!!!」」

 

『両者1対1のチキンレースが始まったァァーーーーーーーッッッ!!!!!』

 

「ヒぃぃぃぃぃぃ神様仏様ッッ!!!!」

 

 ハチマキを押さえながら俺の上で身体を丸める峰田を俺は更に小さく反った刃で包み込む。発目は最後まで目を開いて、最適のタイミングでジェットパックのスイッチを押した。

 

 お互いどちらも避ける気のなかった騎馬同士のチキンレースは、俺と切島の頭が激突して騎馬がブレを起こし、文字通りひしゃげた。

 

「「グゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッッッっッッッっっッ!!!!?!!?!!!」」

 

「「キャァっ!!!!」」

 

「「ぅわぁッ!!?!?」」

 

「ぐっッ!!!」

 

『まさかの正面衝突ゥーーーーーーーーッッッッッ!!!?!!?』

 

 まるで乗用車が衝突事故みたいな音がグラウンド内に響き渡り、騎馬の悲鳴と同時に俺の刃の一部が切島の体で叩き折れ、破片が飛散する。

 そして硬化していた俺の頭の刃は、切島の頭によってヒビを入れられた上、衝撃で頭を逸らされて、変化していた刃が強制的に解除された。

 

「ガぁ……は…………ッ!」

 

「切裂ぃっ! うわっ!!」

 

 パチキを決めて、俺の額にはそのままヒビが入り、鮮血が流れる。頭がブレて、脳味噌がグワンと大きく揺れた。

 そこに限界まで接近した爆豪が、峰田のハチマキに向かって手を伸ばす。

 

「死ねえェ! クソザコ……うぉッ!!?」

 

 悪どい形相をして、怯える峰田のハチマキまであと数センチだった爆豪が、下に落ちた。俺と同じく頭から流血している切島が膝をついて、爆豪がバランスを崩したのだ。

 

「ハァ……ッ! ハァ……ハァッ! ハァ…………ッ!!」

 

「おいクソ髪ッ!? 立てェッ、まだへバんじゃねえェッッ!!!」

 

 爆豪が彼を叱咤する間に、俺は朦朧とした意識を覚醒させて、体の刃を全て収納させてその場から逃げた。

 

「し、死ぬかと思ったぁ……ッ!」

 

「ハチマキあるわよね!?」

 

「あぁッ、問題ねぇッ! しっかり無事だっ!!」

 

 峰田はパンパンと頭とハチマキを叩く。その顔は涙目になっていた。

 

『やはり狙われまくる1位とッ、猛追を仕掛けるA組の面々ッ!!! 共に実力者揃いッ!!!!』

 

 騎馬戦開始から半分が過ぎたと思うが、会場の盛り上がりは一向に止まない。スタジアム内で動き回る騎馬は、どこを見ても面白いのだろう。

 

『さぁッ!!! 各チームのポイントはどうなっているのかァ!!? 7分経過した現在のランクをスクリーンに表示するぜッ!!!! ……あら? ちょっと待てよコレッ……!』

 

「あれっ!!?」

 

「んぁッ! どした!?」

 

 プレゼントマイク先生の声と同時に、峰田が1番近くにある電光掲示板を指差して叫んだ。

 

「オイッ! 得点票見ろッ!! オイラ達以外、B組ばっか上位に上がってんじゃねえかッッッ!!!!」

 

「ハァっ!?」

 

「ホントだっ、みんな奪われちゃってる!!」

 

 A組のハチマキがほぼ全員奪われて0ポイントになっている。おまけに1000万の下は6位辺りまで全員B組の騎馬だ。A組の2番手は……爆豪の騎馬か?

 

「物間!! そろそろいくかァ!?」

 

「あぁッ、全員で囲めッ!!」

 

 そんな掲示板を見てる隙に、鉄哲の声に答えたB組のリーダー格である金髪イケメンの生徒が、自分のクラス全員の騎馬に指示をし始めた。

 

「角取ィ、突っ込むぜェッ!!」

 

「オーケーベイビーッ!!」

 

 俺達の騎馬に平然と並走を仕掛けてきたのは、若干馬っぽいけど可愛らしさを優先させた顔立ちで、頭に1対の角を生やした異形型の女子生徒。そんな彼女が1人だけで背中に背負っていたのは、緑色のモヒカンヘアに上顎の両側から分厚い牙が突き出ている、蟷螂と言うよりは蜥蜴に近い顔つきをした、異形型の男子生徒だった。

 

「オラァァァァッッッ!!」

 

「うわぁぁぁぁッッ!!?」

 

 男1人しかも身長高めの人を背負い、俺達の騎馬と爆速するこの女子の脚力も凄い。そんな事を分析してると、男子生徒の腕から俺みたいに刃が伸びて、峰田のハチマキ狙って引っ掻いてきた。

 彼は咄嗟に頭を下げて刃を回避し、俺は追撃される前に騎馬でタックルし、2人を遠ざける。

 

「うわッ、クッソッ! 角取ィ!!」

 

「アウチっ!! 角砲(ホーンホウ)ッ!!!」

 

「なっ、なんだアイツ!? 切裂とおんなじ個性かっ!?」

 

 動揺している峰田に今度は、押し飛ばされた女子生徒の角が分離して、峰田に向かって飛びかかる。

 

「今度は角ぉーーーっ!!?」

 

「くっ!!」

 

 ソレを俺は咄嗟に両脚を同時に振り上げて、刃で角を容赦なく切断してまた走り出す。

 

「Noooooooooo !!! ファッキルユー! サノバビッチッッ!!!」

 

「落ち着くんだぜェ!」

 

 頭にはすでに新しい角が生えていたが、涙目でプンスカ怒りながら暴言を吐き散らす女子生徒を、背負われている男子生徒が落ち着かせる。

 

 だかそんな騎馬に目もくれず、俺は3人に指示をする。

 

「みんな掴まれッ!!」

 

「えぇっ!? ジェットパックはまだッ!!」

 

「いいからッ!!!」

 

 有無を言わさず彼女2人を抱き付かせた俺は、足の伸縮で無理矢理飛んだ。ジェットパックなしの超低空飛行だが、その間に仕掛けられていた地面の底なし沼みたいな部分は回避する。

 

「なんだアレっ!?」

 

「よくわかったわね!?」

 

「さっきアレでモギモギと酸を埋め立ててたのを見たんだ!」

 

 話しながら更に逃げ続ける俺達の後ろを、鉄哲の騎馬が追ってくる。

 

「避けられたッ!」

 

「柔造っ、範囲を広げろッ!!」

 

「味方が集まり過ぎた! コレ以上は危ねえ!!」

 

 鉄哲の前騎馬である歯が剥き出しの骸骨みたいな生徒が、歯軋りしながら俺達を狙ってくる。

 

「んッ!?」

 

「………………」

 

 ふと気がつくと、俺の顔のすぐ横に、目の付いた顔の一部が飛んでいて、こちらを見ていた。

 

「……ッ!!? 峰田ハチマキ押さえろッ!!!!」

 

「ええっ!!?」

 

 俺の命令で峰田が反射的にハチマキを両手で押さえたと同時に、彼の後頭部側からハチマキを咥えようとしていた口だけの顔の部分が離れて、フワフワと飛んでいく。

 

「アラ残念♪」

 

「うわぁッ!? 何コレぇ!?」

 

「気持ち悪っ!」

 

「失礼ねー!」

 

 睨みつけてくる目と、ひとりでに喋る口だけが宙を浮かぶと、それはB組の女子だけで構成された騎馬の、頭が欠けた1人の女子へとパズルみたいに戻っていく。

 

「ん〜、顔は中の中ぐらいね。なんかパッとしないし……イケメンじゃないわ」

 

「取蔭っ、そんな事聞いてないわよっ! ハチマキは!?」

 

「勘も鋭いわ。どうして目だけ見て、わかったのかしら?」

 

 他の騎馬に比べて気合いは抜けているも、さりげなくハチマキを狙ってきた事に、俺達の警戒は更に上がっていく。

 

「凡戸っ、ブチ撒けろっ!」

 

「んっ!」

 

「ぶんっ!」

 

 結構美人で無口な女子生徒の騎馬から、木工用ボンドのキャップみたいな頭をした前騎馬の生徒が、黄色い頭の側面に空いた数個の穴から、半透明で粘り気のある液体が噴出して俺達の足元へと伸び広がる。

 

「芦戸ッ、相殺ッ!!!」

 

「わっ、わかったっ!!」

 

 すぐさま判断して、彼女の蹴りつける足の裏から噴出された酸と粘液がぶつかり合い、白煙を上げながら液体同士が蒸発していく。

 その巻き上がった煙に紛れ込みながら、俺は騎馬を振り切る。

 

「コレヤバくねぇか!?」

 

「B組の勢いが増してますね!」

 

 焦る峰田と冷静な発目の台詞を聞き流しながら、煙を抜けて再び最高速で走る俺達だったが、今度ば峰田の頭に小さな緑色のカケラみたいなモノがビシビシと命中する。

 

「うわっ、痛っ! 痛いっ、痛いッ!!」

 

「コラーっ! 俺の峰田くん、イジめるなッ!!」

 

「イヤッ! お前のになった覚えはねえッ! あだッ!」

 

 飛んできた方向からは、『美女と野獣』の野獣みたいな体格で、獣みたいに四足歩行で疾走する男子生徒と、その上に跨っている短い辮髪の男子生徒が、緑色の鱗に包まれた腕から峰田に向けて鱗の一部を飛ばしていた。

 俺は咄嗟に顔と肩の一部から刃を伸ばし、峰田に飛んでくるカケラを弾いた。

 

「クソッ、そういう使い方もあるか!」

 

「防御に回った今が攻め時ですぞっ!」

 

 獣みたいな男子生徒が接近し、辮髪が鱗に包まれた手で峰田のハチマキに手を伸ばす。俺の刃に接触しても、鱗がガリガリと弾いて逆に刃が削れた。

 

「あぁッ!」

 

「危ないッ!!」

 

 俺は咄嗟にジェットパックのスイッチを押した。チャージは丁度完了していた。

 跳躍と同時に女子2人も咄嗟に抱きつき、俺達は着地先も見ないで上へと逃げる。

 

「ぬうぅッ!!」

 

「アイヤーーッ!?」

 

 ジェット噴射を間近で受けた獣男子の騎馬が大きく怯んで、上の騎手がバランスを崩した右手で峰田のハチマキと頬を掠った。

 

「マ、マジで危なかった……!」

 

「B組の子の個性なんてわからないよ〜!」

 

 峰田と芦戸が嘆いてる通り、このままではキリがない。そう判断した俺は地面に着地した先で、俺を狙おうとするA組の騎馬に向かって振り返った。

 

 

 

「オ゛ォォォォォォォォォォイッッッッッ!!! テメぇぇら自分のハチマキどうしたァァァッッっッッ!!!!! B組ばっか勝ち残ってんてんじゃねぇぇかァァァァッッっ!!!!! 取り返すまで俺に寄ってくるんじゃねぇェェェェェェッッッッっ!!!!!!」

 

 

 

「「「「「ッ!」」」」」

 

 俺の本気の怒声に、その場にいたA組の全員が慄き、そして意を決した様に狙いをB組に定めた。

 

『なんだなんだァーーッ!!?! 今度はA組とB組が一斉に争い始めたぞォォォーーーーーッッッ!!!!!!!』

 

 A組とB組がぶつかり合う状態にして、自分達を襲ってくる騎馬を極力減らす。悪くない状況になった。

 

「ヤベッ、バレた!」

 

「物間どうするッ!?」

 

「落ち着け! 時間は充分稼げた。あとは逃げ切るだけッ!!」

 

 俺に盤面を崩されて焦ったB組の生徒達が一斉にリーダー格の金髪に指示を仰ぐ。それでも、向こうは冷静に指示を飛ばして、自分に対峙してくる騎馬を睨んだ。

 

「それにしても……結構厄介だね、君の個性……! 死角なしってワケ?」

 

「………………」

 

 彼の前にいたのは爆豪の騎馬だった。彼の騎馬は障子が複製腕で全周を警戒していた。だからB組に取られる前に対処が効いたのだ。

 

「こんなみみっちい戦法で俺を潰せるとは……ナメられたモンだぜッ!!!」

 

「あ〜〜れぇ〜〜? そう言う君、このままだと本戦には行けないよ?? 人参ぶら下げた馬みたいに、目先の1000万ばかり必死に追う騎手と…………団体戦なのに、個人のプライドで突っ込む猪突猛進な騎馬…………お似合いだとは思うけど、ナメられてても仕方がないんじゃない?」

 

「うっ…………ぐぅッ!!」

 

「テッッッメ゛ぇ…………ッ!!」

 

「爆豪、切島ッ、奴の挑発に乗るな。冷静になれ!」

 

 障子はなんとか落ち着かせようとしたが、この瞬間2人の息は恐ろしいぐらいピッタリだった。

 

「切島ァ……予定変更だァ……! まずはあの舐め腐ったダサ刈りを殺すッッ!!!!! ナマクラはその後だッ!!!」

 

「そぉぉこな゛くっちゃあ゛ッッ!!!」

 

「おいおいマジでぇっ!!?」

 

「くっ…………だが、ヤツのハチマキを全て奪えば、4位以内には入る!」

 

 焦る瀬呂だが障子は冷静に状況を分析し、爆豪の総意に乗った。

 

『さァ、残り時間、半分を切ったぞォーーーッッ!!!! いよいよ騎馬戦は後半戦に突入ゥッ!!! 予想だにしない、B組優勢の中……果たしてェッ!!! 1000万ポイントは誰にこうべを垂れるのかァッッッ!!!!!?』

 

「うわァッ!!? また角ぉッ!!」

 

「あぁんッ! もうっ、しつこいっ!!」

 

 俺の怒声でA組の大半の騎馬を、B組に差し向ける事には成功した。しかし、ハチマキの無いA組の戦いに、B組はわざわざ付き合う理由がない。俺達に対する彼らの追撃はすぐにぶり返し始めた。

 コイツらも安全牌で次の種目に上がるのではなく、俺という1000万の栄光を奪おうとしてくる。轟や常闇みたいに範囲攻撃の効くヤツがいれば、蹴散らすのは簡単だったのだが、自分達の騎馬には───

 

「切裂ぃ……スピード落とせぇ……!!」

 

「えッ! 峰田くん!?」

 

 突然、それまでモギモギを出すのを控えていた峰田が俺の首元から足を変えてまで後ろを向くと、頭で押さえつけていたモギモギ同士をスライムみたいにプチプチと合体させて、モギモギが段々と大きくなっていった。

 

「本当は最後の種目までとっておきたかったんだけど……!!」

 

 更に峰田は自分の頭にあるモギモギを、まるで潰すつもりかの様に力を込めて圧縮し始める。

 元々髪の毛にあったモギモギだけでなく、新しく頭から生えてくるモギモギも押さえつけて合体させ、峰田の両手にはバスケットボールサイズのモギモギが出来上がっていた。

 

「うぉォォォォッッ!!!!!」

 

 気合いの入った唸り声と共に峰田は俺達の後ろへと力強く、そのデカくなったモギモギをブン投げた。

 綺麗な放物線を描きながら、モギモギは俺達の5メートルぐらい後ろに落ちた。

 

 ズシンッ!

 

「ちょっとっ!? 全然飛んでないじゃないっ!」

 

「いいから離れろってッ!」

 

 芦戸の指摘にも意にせず、峰田はすぐさま俺に指示を出し、俺は全速を出してモギモギから離れる。

 

「ハンッっ、ちょっと大きいだけじゃねえか!!」

 

「構わねェ! 柔造、沈めちまえっ!!」

 

「(飛距離がねえし、あの重たい音は何だ?)……飯田、離れろッ!!!」

 

「ッ、わかった!」

 

 B組の騎馬を追って、たまたま近くにいた轟の騎馬も慌てて距離を取り始めた。鉄哲の騎馬の生徒の個性が地面を柔らかくして、峰田のモギモギを芦戸の酸ごと沈めようとする。

 

 その時だった。沈みかけていたモギモギが地鳴りのような音と共に、凄まじいスピードで膨らみ始めた。

 

「うわッっ!?」

 

「デカくッッ、ぐぉォォォォッッっ!!?!?」

 

「おわぁぁぁァァァァァァァッッッ!!!!!!」

 

「キャアぁぁぁぁぁぁぁっっ!!?!」

 

「っ!!」

 

 一瞬にして、モギモギが一気に空気の吹き込まれた気球の様に膨らみ、それは騎馬の大きさを悠々と超える、フィールドの一部を制圧するサイズの紫色のバルーンとなった。

 

『なんだァーーーーッッ!? A組峰田のボールがフーセンガムみたいに膨らんだぞぉーーーーっッッ!!!!!』

 

「あぁ……動けねぇ……っ!」

 

「うぇぇ……ベタベタする……ッ!!」

 

 急激な膨張をしたモギモギに、油断していた騎馬は巻き込まれ、バルーンの側壁にモギモギと同じようにくっついていた。

 

「峰田くんッ、何アレッ!?」

 

「スゴいじゃない峰田っ!!」

 

「モギモギをさっ、ビーズ以外に合体できねえか試してたらよぉっ、押し潰したらひとつに合体して……しかも玉の中で反発が起こって、風船みたいに膨らんだんだよッ!」

 

 あれだけ大きなバルーンになるモギモギはかなり負担になるのか、止血したハズの峰田の頭からまた鮮血が垂れていた。しかし、B組の騎馬を何体も巻き込めた上、身動きの取れなくなった騎馬の頭に、ハチマキが輝いている。

 

「ねえアレッ、今なら取れるんじゃないっ!?」

 

「取りたいけど誰も手が届か……」

 

「任せとけっ! 『峰田ビーズ』ッ!」

 

 モギモギを連結させた紐が峰田の手で器用に伸びて、ハチマキにくっついてそのまま俺達の手元に戻ってきた。

 

「取ったッ!」

 

「やったあっ!」

 

 この競技が始まって初めて取るハチマキ。記念すべきその点数は───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『80』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっっっっち……ッ!!?」

 

「ケーーーーッ、スカしてんなッ!! ぺッ!」

 

「B組は障害走の時、ほとんど順位が下でしたからね!」

 

 目ん玉を飛び出すぐらい驚く芦戸と、チンピラみたいに唾を飛ばして悪態をつく峰田に、発目の冷静な声が2人を宥める。

 

「裏返しにしてハチマキの点数が見えなくなる様にしてッ!!」

 

「あいよッ!」

 

 俺の指示で、峰田は首と頭にひっくり返したハチマキを取り付ける。峰田ビーズのモギモギはハチマキから無理矢理引き剥がしたから、表面の繊維のハゲた跡が残っているので俺達には1000万の判別がつく。

 ハナから1000万を逃げ切るつもりだったから、ハチマキを取れた事で気持ちに余裕ができた。取ったポイントがポイントなので、期待はできないが。

 

 そこにハチマキを頭に巻き直した緑谷の騎馬が、バルーンの影から現れる。

 

「マズいマズいマズいマズいマズいマズいっ!!! ハチマキは取り返したけどッ! ポイントが足りてないッ!!」

 

「落ち着いて緑谷ちゃん。私達、まだ負けてないわ!」

 

「デクくんっ! 行こうッ!! 1000万っっ!!!!!!」

 

「麗日さん……うんッ!!! 常闇くんッ!!!!」

 

「決着をつけるぞッ!!!」

 

「マチヤガレー !!! 」

 

 常闇の腹から再び現れたダークシャドウが、俺達を狙って飛んでくる。

 

「うえェェッ、また常闇のアレッ!!!」

 

「んッ!?」

 

 だが、ダークシャドウは真っ直ぐ俺達を狙わず、回り込むような軌道を取り始めた事に、俺はすぐ違和感に気づいた。

 

「梅雨ちゃんッ!!!」

 

「ケロぉっっっ!!!!」

 

 俺達にダークシャドウへ視線を集中させた隙を狙った緑谷の指示で、蛙吹の口から伸びた舌が峰田のハチマキを掬い上げるようにして掴んだ。

 

「あッッ!!!」

 

「しま……ッ!?」

 

 しかも運が悪い事に、彼女が掴んだのは1000万のハチマキだった。

 

「させないッ!!」

 

 その瞬間、ジャージを溶かして芦戸の腕から出た酸の塊がひとりでに動いたかと思えば、ソレは細長い蛇の様に空中で伸び上がりながら、先端の口の様に開いた部分でハチマキ掴み、蛙吹の舌から奪い返した。

 

「スゲぇ!!」

 

「動かせるようになったの!?」

 

「そうよっ! 切裂が言ってくれたおかげでねっ!!♪」

 

 振り返ると、ハチマキを取り返した芦戸が、俺に向かってウインクをキメる。

 

「イチャイチャすん……って、あっち、あっち!」

 

「あっ、ゴメンッ!!」

 

 だが酸の調節をミスったのか、芦戸の酸の蛇から受け取ったハチマキを峰田が頭に巻こうとしたら、いきなり手でワタワタとハチマキを跳ね上がらせる。峰田の手元で暴れるハチマキが、煙を噴いていた。

 

「クッ、もう1回ッ!!!」

 

「待って緑谷ちゃん!! 一度離れてッ!」

 

「えっッ!?」

 

 ダークシャドウを引っ込めた緑谷の騎馬が、なぜか距離を離していく。

 

「あれっ、下がった!?」

 

「A組が巻き返し始めましたね!」

 

 芦戸も不思議に思う中、遠く離れた電光掲示板を眺めながら、発目がそう言った。

 

「え? 見えんの!?」

 

「ハイ! 5キロ先まで余裕です!!」

 

 彼女は自分の目をパチクリさせながら、そう言った。よく見れば、彼女の瞳孔にはスコープのレティクルみたいな模様が見えた。

 そういえば、彼女そんな個性だった。サポートアイテムのイメージばかりで、すっかり忘れていた。

 

 それでもまだ騎馬は襲いかかってくる。ハチマキを取り返したA組の騎馬が、俺達に迫る。後方を走るのは、敢えてスピードを落としてる轟の騎馬だった。

 

「八百万、ガードと伝導を準備! 上鳴は……!」

 

「いいよ、分かってるッ!! 無差別放電130万ボルトッ!!!!」

 

「ヤベッ!! 峰田くんゴメンッ!!!」

 

「えぇッ!?」

 

 咄嗟に俺は腕から刃を地面に伸ばして突き刺し、アースの代わりになろうとした。

 轟の騎馬の八百万が腕から杭を地面に突き刺し、更には分厚いマットで上鳴以外の味方を覆い隠した。

 

 途端、グラウンド内に爆雷が広がり、俺達騎馬に雷光が襲いかかった。

 

「うわぁぁあァあァァぁぁアぁッっッ!!!?!?!!」

 

「うぇェェえぇェぇえぇェェッッッっ!!?!!?!」

 

「上鳴ィィィィィ………………ッッッ!?!!!?!」

 

 生き残っていた騎馬から一斉に悲鳴が上がる。轟に近かった騎馬は対処できずに上鳴の放電の直撃を受けた。

 

「グぅゥゥうゥぅッッッ!?!!?」

 

「あばばばばばばッッッ!!?!?」

 

「痛ッ……2人ともっ!?」

 

 騎馬の直撃は避けたが、俺と峰田はモロにくらった。更に後ろ女子2人の背負っていたジェットパックが、電光を発した直後に煙噴いて壊れた。

 

「あァァ〜〜〜ッッッ!!! ベイビーがァァァァッッッっ!!!!! 改善の余地アリッ!!!」

 

「ポジティブ〜〜ッ!!!」

 

 切り替えの早い発目の声と、芦戸の悲鳴が上がる中、俺は速やかに轟の騎馬から距離を離す。これで上に飛べなくなった以上、ダークシャドウからも轟の氷からも逃げるのが困難になった。

 そこから狙ったかのように轟の氷が広がり、ほかの騎馬の足元を凍らせていく。

 

『何だ、何をしたァ!? 群がる騎馬を轟、一蹴!!!!!』

 

『上鳴の放電で確実に動きを止めてから凍らせた……流石と言うか、障害物競争で結構な数に避けられたのを省みてるな』

 

 更に俺の進行方向を遮るようにして轟の氷が壁になって伸び広がり、周りを取り囲む1対1の状態となった。

 

「うわッ!!」

 

「ウソッ!!?」

 

「勝負だ…………切裂!!!」

 

『ここで轟が勝負に出たァーーーーーーッッッ!!!!! 切裂の騎馬の逃げ道を塞ぎ、1対1のタイマンに持ち込んだぞォーーーーーッッッ!!!!!』

 

 左半身から冷気を揺らめかせ、俺を睨む轟と目が合った。

 

「発目ちゃんは俺の動きに集中ッ!! 芦戸ちゃんは轟くんが氷伸ばしたらすぐに相殺ッ! 峰田くんッ、モギモギは最低限に! 落ち着いてッ!!」

 

「おうッ!!」

 

「はいっ!」

 

「わかったっ!」

 

 機動力も出せなくなった以上、俺は全身から再び刃を出して轟の騎馬を牽制する。向こうには飯田がいる上、八百万と上鳴の足は八百万が創造したローラーシューズを履いている。スピードでは絶対に勝てない。向こうにもスピードを出させない距離間隔を保ちながら、轟を中心に反時計回りに動いてる。そうすれば、轟が氷を伸ばそうとすると、飯田が引っかかる状態になるからだ。

 峰田も此処に来てやみくもにモギモギを投げず、騎馬を確実に狙っているのだが、八百万が創造した盾で防がれていた。

 

「投げるだけなら……1個でもいい……かなッ!」

 

「っ!?」

 

 峰田がモギモギを軽く握り潰してから投げると、モギモギのサイズがさっきのバルーンと似た様な感じで、バスケットボールサイズに大きくなって膨らんだ。八百万は驚きながらも冷静に盾で塞いでいるが、モギモギの面積が大きくて邪魔になった盾を捨て、彼女に新しい盾を創造せざるをえなくしている。峰田と八百万の消耗戦になっていた。

 

『轟ッ、フィールドをサシ仕様にし、あっちゅう間に1000万奪取……とか思ってたよっ!!! 切裂なんと、この狭い空間を逃げ切っている!!! どうする轟ッ、もう時間がないぞおォーーーーッッ!!!!?』

 

『残り1分!!!!!』

 

 ミッドナイト先生の声が会場に響き渡り、更に歓声が大きくなる。

 途端、轟の氷の壁を意図も容易く破壊して、爆豪の騎馬が殴り込んできた。

 

「何ッ!!?」

 

「おっしゃァァァッッ!!! ダサ刈り野郎はブッ殺してきたァッ!!!! 次はテメェらだナマクラァッッッ!!!!!!!」

 

『ココでまさかの乱入者ァーーーーーッッ!!?! 氷の壁を破壊して、爆豪が殴り込みだァーーーーーッッッ!!!!!』

 

 更に反対側の氷の壁が爆発したかと思うと、デコピンで小指を突き出した緑谷の騎馬が突入してきた。

 

「えっ、何!?」

 

『更に氷をブチ壊して、緑谷も来たァァーーーーーーーッッッ!!!!!!!!』

 

「くっッッ………………ッ!!! 行けェェェェェェッッっッ!!!!!!!!」

 

 指の痛みに耐えながら吠える緑谷に、俺と峰田は一瞬の隙を爆豪に許した。

 

「切裂さんっ!!!!」

 

 発明だけ気付いてくれたが、低空飛行で飛来した爆豪が俺の刃も気にせず、ジャージを裂かれて擦り剥きながらも俺の頭を踏んづけ、峰田の頭に着けたハチマキを奪うと同時に飛び上がり、瀬呂のテープに回収される。

 

「グゥッッッ!!!?!!」

 

「あぁァァッ!!!!!」

 

「取られたッッッ!!!!」

 

「ッッッッしゃあッッ!!! 1位は俺だザコど───

 

「ん、待て爆豪ッ!!? ハチマキを確認しろ!!!」

 

「あ゛ァッッ!!?」

 

 障子の声に、爆豪はその手に握り締めたハチマキを見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『80』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソッッッタレェェェェェェッッッッ!!!!!!!!!」

 

 爆豪は、せっかく取ったハチマキを容赦なく地面に叩きつけた。

 

「梅雨ちゃんの後に、頭と首の入れ替えといて良かった〜〜〜っっ!!!!!」

 

「ナイス峰田っ!!! 逃げるよッ!!!!」

 

「でも後ろはフィールド外ですよ!?」

 

「轟に近付くッ!!! 混戦に持ち込ませるッ!!!!」

 

 俺達は轟の騎馬に向かって肉薄しようとする。近寄れば彼は更に氷を出しづらくなるし、飯田のスピードも活かせなくなる。

 

「轟君ッ、レシプロは……ッ」

 

「待てッ!! 周りに騎馬が多すぎるッ!!! 今取ったら追いつかれちまうッッ!!!!!」

 

「上鳴さんッ、もう一度放電を───ッ!」

 

「させるかァァッ!!!」

 

 一度電撃を喰らっている峰田が叫びながら伸ばした峰田ビーズは、八百万の広げようとしていた絶縁体シートに引っ付いた。

 

「捨てろ八百万ッ!!!」

 

「くっ!!」

 

 すぐさま轟の指示でシートを手放した八百万。目の前の騎馬は距離を取ろうとした。

 ソコに緑谷の騎馬も接近するが、急に彼等の騎馬が止まった。

 

「あれッ、足が……ッ!!!!」

 

 なんと、麗日の靴が峰田のモギモギを踏んでいたのだ。

 

「ヨッシャあぁぁぁぁぁッッッ!!!!!! ようやく引っかかったァ!!!!!」

 

 ガッツポーズする峰田だが、今彼らのハチマキを狙う者は、この氷の内側には誰もいなかった。

 

「常闇くんッ!!!」

 

「もう1回だッ!!」

 

「カンネンシヤガレーッ ‼︎! 」

 

 騎馬の動きこそ止まったものの、関係のないダークシャドウが三度俺達に襲いかかってくる。

 

「やられるッ!」

 

「ヤッベッ!!」

 

 光が出せない俺達に、本当にコイツは対処のしようがない。そのまま目の前来たダークシャドウが峰田を丸ごと包むように手を伸ばした時だった。

 

「ジャマすんじゃねえ鳥頭ァッッッ!!!!!!」

 

「ギャーーーーーーッッッ !!!!?!!?! 」

 

「ダークシャドウッッ!!?」

 

 ハズレを掴まされてブチギレ寸前の爆豪がダークシャドウを攻撃して、押し飛ばす様に退散させた。

 更に彼は爆発で軌道と向きを俺達に変換させると、目の前で容赦のない爆発を撃ち込んできた。

 

「死ねェェーーーーーーッッッ!!!!!!!!」

 

「「だァァあァぁぁァッッッ!!!!!!!!」」

 

「「キャァぁあァァぁッッッ!!!!!!!!」」

 

 俺達4人の悲鳴が重なり、体から伸ばしていた刃が爆風でへし折れ、爆豪の手が焦げた峰田のハチマキを掴んだ。

 

「取ったぜックソザコ……っ、ん゛んッッ!!?!?」

 

 しかし、至近距離で爆破を浴びた峰田は気絶する事なく、両腕でハチマキを掴み返していた。

 

「離すな峰田ァッッッッ!!!!!」

 

「言われなくてもォォォォォォォォッッッッっ!!

!!!」

 

 俺の叫びに、峰田は喉の奥から全力で出した声で応えた。だが、峰田の小さな腕では、爆豪の腕力にすぐ押し負ける。しかし、その一瞬の抵抗は、油断した爆豪のバランスを空中で崩した。

 

「ヤベッ、爆豪ッッ!!!!」

 

 再び瀬呂が爆豪をテープで捕まえ、引っ張り上げようとする。その隙をついて俺はハチマキに向かって飛び上がる。

 

 

 

『残り10秒!!!!!』

 

 

 

 ミッドナイト先生の宣言に合わせ、電光掲示板に残り時間の秒読みが表示された。

 

「グゥゥゥゥゥゥッッッッ!!!!!!」

 

 峰田の手が離れるよりも早く、俺は歯を返しのついた刃に変化させて、爆豪の掴んでいたハチマキに喰らい付いた。

 

「ナ゛マ゛ク゛ラ゛ぁァァァァァァァァァッッッッッ!!!!!!!!!」

 

 爆豪が叫びながら、片手だけフリーの爆発を滅茶苦茶に連発させて俺を引き剥がそうとするが、俺の顎はピクリともしない。しかし、爆発の勢いで騎馬自体がズルズルと引きずられ、ハチマキの方が若干伸び広がり、中の繊維が裂ける嫌な音がした。

 

「うおォォォォォォォォォォォッッッッっ!!!!!!!!!」

 

 その伸びたハチマキを引き合う俺と爆豪の間に、飛べる個性でもないのに騎馬から飛び出し、弱っていたダークシャドウを足場にして、緑谷が単身で飛び込んできた。

 彼は明らかに重力を無視した動きで、空間を真っ直ぐに突っ込んでくると、俺と爆豪を繋ぐハチマキを片手で掴んだ。

 

 

 

『残り5秒!!!!!』

 

 

 

「デクくんッ!」

 

「蛙吹ッ!!!!」

 

「ケロぉッ!!!!!」

 

 麗日の声援、常闇の指示と同時に、蛙吹の舌が伸びて緑谷を掴み、めいいっぱいに引き戻そうとする。

 それでも、俺も爆豪も一歩も譲らない、瞬間的な三つ巴の引っ張り合いになった。

 

「絶対に……ッ、離すものかァァァァァァッッっ!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 ハチマキを握り締めながら、出せるだけの大声で叫んだ彼の拳が赤く、凶暴に光輝く。

 

「ッッッッ!!?!?!」

 

 一瞬、焦りと恐怖が俺の体を通過する。だが、俺も恐れるワケにはいかない。ハチマキを歯で食い縛りながら、地面と足の裏に刃を突き刺して踏ん張る。

 

「飯田ァッッ!! 今しかないッ、やれッッ!!!」

 

「トルクオーバー…………ッ!!! レシプロッっ、バァーーーーストォォォッッ!!!!」

 

 瞬間、それまで引き下がっていた轟の騎馬が信じられない加速力で、俺達の間に肉薄する。

 

 

 

『!!!!!!!! 3 !!!!!!!!』

 

 

 

 八百万と上鳴が驚き、足にモギモギがくっ付いても、地面ごと引き剥がしながら接近する前騎馬の飯田。その騎手である轟が俺達3人の引っ張り合っているハチマキを掠め取ろうとした。

 

「ぐぅッッ!!!!」

 

「ガアぁァァッッ!!!!!」

 

「あ゛ぁァァァァァッッっッ!!!!!!」

 

「止まっ───ッッッッッ!!?!!?!」

 

 しかし、俺達3人の馬鹿力で掴まれていたハチマキは、飯田の必殺速度にも踏み止まってみせた。轟の体が大きく仰け反るも、咄嗟に自分の手とハチマキを氷で接合する。

 

「マズいッ!!!」

 

「ダメッ!!!」

 

「クソッ!」

 

「させるかァ!!!」

 

「まだですッ!」

 

 掴まれたハチマキを耐えようとする俺に、奪い取ろうとする3人。そこへ仲間の騎馬の個性が協力して、更にハチマキを引っ張った。

 

 

 

『!!!!!!!!!!! 2 !!!!!!!!!!!』

 

 

 

 しかし、芦戸の酸や轟の冷気まで浴びて繊維がボロボロになった上、4人で引っ張り合って伸長を続けたハチマキは、もう限界を迎えていた。

 

「「「「うぁ゛あぁ゛ア゛ァあ゛ァァ゛ぁァァ゛ぁあ゛ぁァァぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!」」」」

 

 

 

『!!!!!!!!!!!!!!!!!! 1 !!!!!!!!!!!!!!!!!!』

 

 

 

 

 

 ブチィィッッッッ!!!

 

 

 

 

 

 鈍い音と同時に、それまで力の限り込められた緊張が解放され、騎馬戦の終了を告げるブザーが鳴り響いた。

 

『タイムアップッッ!!!!! 第2種目、騎馬戦しゅーーーーりょーーーーーーーッッッ!!!!!!!!!!』

 

「ゔぅぅっ!!?!」

 

 プレゼントマイク先生の実況も聞かず、自分が咥えていたハチマキを確認すると、俺の歯には峰田ビーズと芦戸の酸の蛇がくっついた、ハチマキの一部が握られていた。

 

「あ゛ァッ!!?」

 

「あぁぁっ!!」

 

「な……っ!!!」

 

 騎馬に戻った爆豪のハチマキには瀬呂のテープが何遍も張り付き、緑谷のハチマキにはダークシャドウの小さな手が掴んでいた。轟の氷漬けになっている手には八百万が創造したのか、ワイヤーを束ねたロープが幾重にも結び込まれていた。

 

「ハ……ハチマキが……!」

 

「えッ!? えェッ!!? どうなんのこの場合ッ!?」

 

 困惑している峰田と芦戸を尻目に、主審のミッドナイトの目が開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『最後までハチマキを掴んでいた騎馬に、ポイントを4等分します!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「て事はッ!?」」

 

 峰田と芦戸が同時に見上げた電光掲示板の特典表に映る4チームに、分割された約2500000点が入った。

 

 

 

「や゛ぁァァっッッた゛ァァァァァっッッッ!!! オ゛イ゛ラ゛がぢの゛ごっだァ゛アァぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっッッッ!!!!!!!!!」

 

「いやったぁぁぁぁぁぁっっ!!! 切裂のおかげよっ!!!! フフンっ♪♪!」

 

「フフッフフフ……ッッ!! これでまだまだアピールできるチャンス……っ!!! ありがとうございますっ!!!!」

 

 

 

 峰田に泣きながら頭に抱きつかれ、芦戸にも嬉しそうに背中から抱きつかれた。発目も抱きつくかと思ったら、俺達無視してジェットパックの修理始めた。

 

 少し離れた所では、緑谷が噴水みたいな勢いで泣いていて、麗日と蛙吹が慰めようとしている。常闇はちっちゃくなったダークシャドウをヨシヨシと撫でていた。

 轟は地面に降りてからヘナヘナと腰を落としてしまい、荒れた息を整えようとしている。周りの八百万も上鳴も飯田も、彼を心配していた。確かに残り数秒間の指示と動きで、ギリギリだったのだろう。

 爆豪は破れたハチマキを握りしめたまま、喜んでいる瀬呂と切島と障子に囲まれていた。完全勝利には程遠いかもしれないが、少しは達成感があったのか口元だけに笑みを浮かべ、何かを叫ぶ事はしなかった。

 

『───以上の4組が最終種目へッ、進出だァァァァァッッッ!!!!!! それじゃあ、1時間ほど昼休憩挟んでから、午後の部だぜ、じゃあなッッ!!! ……おい、イレイザーヘッド、メシ行こうぜ』

 

『寝る……』

 

 最後にプレゼントマイクの口笛で、午前中の部が終わった。観客席の人だかりが散り散りになり始め、俺達1年A組はひとまず仲の良い者同士で集合し始めた。

 

「三奈ちゃん、おめでと!」

 

「梅雨ちゃんこそ! 切裂がねーっ、頑張ってくれたの!! 私の個性も役に立ったしっ……もうサイコーっ!!!」

 

 女子2人で騒ぐ芦戸と蛙吹の前では、峰田が珍しく会話の中心にいた。

 

「峰田お前技増やしすぎだろッ!?」

 

「へへっ、切裂と特訓したら……なんかいっぱい出来たぜ! オイラ……ちょっと自分の個性…………好きになってきたかもっ!」

 

「爆豪の爆発浴びてもハチマキ守るなんてっ、お前も根性あんなァ!!!」

 

「ああ、俺も驚いた。精神面も切裂に鍛えられたのか?」

 

 その会話に出てきた爆豪はもういない。さっさとスタジアムから出て行ったのを見た。

 

「てかっ峰田、あのクソデカバルーンどうすんだ!?」

 

「時間が経てば縮んで最初のサイズに戻るけど……今日のオイラ調子いいからな…………轟に焼いてもらおうぜ!」

 

 ちなみに、バルーンに引っ付いた生徒は、無事に救出されました。髪の毛少々と、ジャージや靴は犠牲になったそうだ。

 

「飯田くんっ、あんな超必持ってたのズルいよ!」

 

「ズルとはなんだっ! アレは、ただの誤った使用法だ!」

 

 飯田の前では麗日が、エアーで走る真似をしながらプンスカ怒っている。

 

「どうにも、緑谷くんとは張り合いたくてなっ」

 

「男のアレだな〜っ! ……っていうか、デクくんはどこだ……?」

 

「轟君もいないな……」

 

「上鳴ぃ〜〜〜っ!! ちょっとコッチ来い……ッ!!」

 

「いでッ、おい耳朗!? なんだよっ! あ゛ぁ〜〜〜ッッ!!!」

 

 2人を探す飯田と麗日の前を、アホになりかけていた上鳴がキレ気味の耳朗にイヤホンジャックで首を絡められて引っ張られていった。

 さっきまでは全力で争い合っていたクラスメイト達も、和気藹々とし始める。一部を除いてだが……

 

「ハァー、尾白くん。私あんまり目立たないまま、負けちゃった……」

 

「葉隠さん…………いや……俺、騎馬戦の記憶が全然なくてさ……」

 

「尾白もかっ!? イヤ、俺もなんだけどよぉっ!!」

 

「………………チッ!」

 

 もちろん、舌打ちして1人スタジアムの通路へと戻ろうとする彼を、俺は見逃さなかった。

 

「なー、切裂メシ行こうぜっ!」

 

「ゴメン、先行ってて!」

 

「えぇっ、どしたのっ!?」

 

 呼び止めようとする芦戸も気にせず、すぐに俺は彼を走って追った。

 

「ハァ、ハァ……っ! 心操くんっ!!」

 

「───ッ!!」

 

 通路へ入った俺の呼びかけに、背中を向けて歩いていた心操が、振り返る。その目には明らかに俺を恨んでいる、悪意の篭った視線だった。

 

「お前……俺を笑いに来たのか……?!」

 

「そんなことな───ッ!?」

 

 彼の問いかけに答えようとした瞬間、意識がブレた。

 

「ほらな……ッ! どんなに強力な個性を持ってても、俺の個性にかかればこうさッ! でも俺はこんな個性だからッ、スタートから遅れちまったよッ! 恵まれた人間にはわかんないだろッ!?」

 

「………………いいや、違うね!」

 

 俺が返事をした事に、彼は隈の付いた目を見開いて驚いた。

 

「なっ!? 俺の『洗脳』を……どうなってんだ!?」

 

「こうゆう事……ッ!!」

 

 そう言って俺は、腕に突き刺さった自分の指を引き抜いて見せつけた。自分の血液に染まった指が、冷たい床に滴る。

 

「ッ……! いったいどこで俺の……ッ!! いや……同じA組のヤツからか……!」

 

 実際は違うのだが、彼は勝手に頭の中で完結していく。そして俺を睨みつけながら、唾が飛ぶぐらいの勢いで、俺を煽り立てた。

 

「なんだよ……ッ! お誂え向きの個性持って生まれた奴ってのは、仲間にも恵まれてんだなッ!! 苦労もしないで、望む場所へ行ける奴等ってのは羨ましいよッ!!」

 

「本気でそう思ってんのか?」

 

「あぁッ?!」

 

 それ以上は聞き捨てならなかった俺は、全身のありとあらゆる場所から刃を伸ばし、さっきのKAIJUの姿となった。今度は両手まで大きな刃に変化させて。

 

「ッッ!!!」

 

「見ろよ。コレがヒーローの姿か……?」

 

 さっきまで見ていたかもしれないが、騎馬から降りて1人で対峙すると、中々のプレッシャーだろう。パワー系の個性ではない心操は、思わず後退りする。

 俺は顔だけ元に戻して、自分の刃となった手の平を見る。

 

「こんなナリなもんだからさ……俺もたまーに言われたよ。ヴィランみたいだってね」

 

「なっ……」

 

 洗脳なんて個性、手に入れたら俺だって最初に考えるのは悪い事に決まってる。そんな事を、産まれてからずっと嫌になるほど言われ続けてきたに違いない。それでも、彼はヴィランに染まらず雄英を目指して来たんだ。

 

「子供の頃から、親には個性制限されててさ…………人を傷つけるんじゃないかって、ロクに使わせてもらえなかった。お前の親も、個性の事で結構厳しかったんじゃない?」

 

「ぁ…………あぁ……」

 

 そりゃそうだ。洗脳なんて個性持った子供、まともな親なら制限するに決まってる。人との人間不信どころか、周りの人間関係まで破壊しかねない、強力な個性なのだから。

 

「最初はな……自由に個性を使えるからヒーローになりたいと思った。でも、それだと別にヴィランでもいいじゃんって思ったんだよね…………」

 

「お、お前何言って……!」

 

「でも、俺はヒーローに憧れたんだ。ヒーローじゃなきゃ、駄目な目的ができた」

 

「ッ!」

 

 俺は動揺している心操の前で、人間の手に戻した手の平を広げる。

 

 

 

「誰もがヒーローになれる可能性を持ち……

 

 ……誰もがヴィランになる可能性を持つ」

 

 

 

「……っ!」

 

 それは、ヒーローに憧れるきっかけがあるように、ヴィランになるきっかけだって突然訪れる事。この超人社会では表裏一体となって、終わる事のない運命。

 でも、彼は個性に流されず、ここまで来た。

 

「俺は……こんな世界の中で『個性』にされるがまま流される人生はゴメンなんだ……!」

 

「自分の個性に縛られないために……ヒーローを目指したのか。お前は……!」

 

 俺は首を横に振った。そして刃にした手を天井に向かって振り上げた。

 

「俺達みたいな個性でも、ヒーローになれるって事を……この世界に示してやんだよ。俺達より更に先の世代に……示してやるんだよっ! ヴィランになるかもしれない可能性を持っていた子達、全員に…………ッ!!!」

 

「そ、そんな事……!」

 

 平和の象徴であるオールマイトとは、また違う平和の在り方。夢物語かもしれない途方もない人生をかけた目標を掲げる俺の前に、彼の心は揺らいだ。

 

「お前もヒーローに憧れたんだろ?」

 

「……っ!」

 

「それだけ強力な個性を持って……超人社会に流されなかった君は、絶対にヒーローになれる! チャンスはもうすぐ目の前まで来てるハズさッ、頼む……這い上がってきてくれ……!」

 

 そうして、個性を解除した俺は言いたい事だけ言い切ると、彼は背を向けて歩き出した。

 

「言われなくてもやってやるさ……!」

 

 それだけ言い放ち、心操が振り返る事はなかったけれども、控え室の通路に響く彼の声は、今までにないほど力強く感じられた。

 

 

 

 

 

 次回『第1回戦』

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