切裂ヤイバの献身   作:monmo

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第八話

 

 

 

 

 

『さあッ! 昼休憩も終わって、いよいよ最終種目発表ォ!! ……と、その前に予選落ちのみんなに朗報だ!! あくまで体育祭ッ! ちゃんと全員参加のレクリエーション種目も用意してんのさッ!!!」

 

 スタジアム内にプレゼントマイク先生の放送が再開し、食事を終わらせた俺達1年A組とB組、そしてそれ以外の学科の生徒達も、スタジアムのグラウンドへと再集合していた。

 そこに、心操の姿はなかった。理由はわからないが、司会のミッドナイト先生は気にしていないみたいだし、問題があったとかではなさそうだ。

 

「本場アメリカからチアリーダーも呼んで、一層の盛り上げ…………あらっ?』

 

『ん? ……何やってんだ……』

 

 相澤先生の呆れた声の先では、チアガール姿にさせられた、A組の女子全員がいた。なんか本場のチアよりカメラが集まって、あらゆる方向からフラッシュに晒されるほど人気になってるけど……いかんせん、みんな目が死んでいる。見ているこっちが、哀れに思える光景だ。

 

『どうしたA組ッ!!?!? どんなサービスだそりゃーーーッッッ!!!?!?』

 

「峰田さん、上鳴さん騙しましたねッ!!!」

 

 八百万が怒る視線の先では、峰田と上鳴がガッツポーズしている。

 

 スマン……俺、心操と話していて……そっから1人で食堂の混雑に巻き込まれたから、タイミングが全く合わなかった。

 

「なぜ、こうも峰田さんの策略にハマってしまうの、私…………衣装まで創造して創って……!」

 

「アホだろっ、アイツらッ!」

 

 しゃがんで落ち込む八百万に麗日が肩へと手をつけ、耳朗は手に持っていたポンポンを地面に叩きつける。

 しかし、そんな中でも意外にノリ気な女子もいる。

 

「まあ、本戦まで時間空くし、張り詰めててもしんどいしさぁ! いいじゃんっ、やったろっ!!」

 

「ええっ!? あっ……え……っ!」

 

「透ちゃん、好きね」

 

 騎馬戦で敗退してこれ以上目立たないと踏んだのか、葉隠が俄然やる気を出し始める。そんな様子に自分もやるべきかと動揺している耳朗という混沌とした空気の中、女子達が着替える時間も許されず、なんとチアリーダー姿のまま最終種目の説明が始まった。

 

 最終種目は第2種目で勝ち残った4チーム16人からなる、トーナメント形式で1対1のガチバトルだ。

 ルールは単純。相手を場外に落とすか、行動不能に追い込む。または降参させれば勝利だ。

 もちろん個性フル活用で挑むため、今までの種目と違って相手に怪我を負わせるのは常套手段。医務室にリカバリーガールが待機してるから、道徳倫理は一旦捨て置いてていいらしい。

 ただし、もちろん命に直結するようなのはアウト。未来のヒーローらしい戦い方をお願いしますとの事だ。

 

 俺達のチームが勝ったのと、心操のチームがいなくなった事で、原作と面子が少し変わった。クジを引くまではわからないが、いったいどうなるのか見当もつかない。

 

「信じらんねぇ……最終種目まできちゃったよ…………オイラ夢見てんのかな?」

 

「ところがどっこい……現実だよ、峰田くん」

 

「最終種目はサシでのトーナメントか……毎年テレビで見てた舞台に立つんだ……!」

 

「去年、トーナメントだっけ?」

 

「形式は違ったりするけど、例年サシで競ってるよ。去年はスポーツチャンバラしてたはず」

 

『それじゃ組み合わせ決めのくじ引き、しちゃうわよ!!!』

 

 クラスメイト達の雑談を抑えるように意気揚々と、ミッドナイト先生がくじ引きの箱を用意してきた。

 

『組が決まったら、レクリエーションを挟んで開始になります。レクに関しては進出者16人は参加するもしないも、個人の判断に任せるわ。息抜きしたい人も温存したい人もいるしね!』

 

 トーナメント最大の見せ場である以上、無理にレクに参加させる必要はないという学校の配慮だろう。確かに騎馬戦でだいぶ消耗したから、もう少し休みたいとは思ってはいるが……レクも面白そうだ。

 

『じゃ1位のチームから順番に引いていくわよッ!!!』

 

 ミッドナイト先生の持ったくじ引きを引いて、トーナメント一覧が発表された。ちなみに、騎馬戦の成績は1位から順に爆豪、轟、緑谷、俺だった。綺麗に障害走と逆転してた。

 

 くじ引きの結果、トーナメントの並びは以下に決まった。

 

 

 

 

 

 第1回戦

 

 

 

 第1試合

 

 緑谷 VS 蛙吹

 

 

 

 第2試合

 

 瀬呂 VS 轟

 

 

 

 第3試合

 

 飯田 VS 発目

 

 

 

 第4試合

 

 芦戸 VS 峰田

 

 

 

 第5試合

 

 上鳴 VS 切裂

 

 

 

 第6試合

 

 切島 VS 障子

 

 

 

 第7試合

 

 常闇 VS 八百万

 

 

 

 第8試合

 

 爆豪 VS 麗日

 

 

 

 

 

 皆がそれぞれの対戦相手を目で確認する中、麗日と上鳴の悲鳴が上がった。

 

「チッ、結局A組が総ナメかよ……」

 

「いや、1人だけサポート科の子がいるぞ?」

 

「退屈ね……」

 

「ん……」

 

「クッソ〜〜〜ッッ!」

 

「途中までは良かったんだけどなぁ……」

 

 それよりも、電光掲示板に表示されたトーナメント一覧表を眺めて、つまらなそうにしているB組の声が目立つ。A組が独占しているこの光景は、見ていて面白くはないだろう。

 

「B組の作戦も、悪いワケじゃなかったけどね」

 

「まあなッ! 騎馬を撒くのに余裕ができたから気付けたけど、あのままだったらヤバかったぜ!?」

 

「ホントよ! あんなにB組に追っかけ回されるなんて思わなかったっ!」

 

「アッハハハハハッッ!! 慰めのつもりかいA組ィッ!?」

 

 発目を除く、俺の騎馬だった峰田と芦戸で雑談していると、すぐ近くにいたB組のリーダー格である、金髪の生徒『物間』が高笑いする。

 

「せっかくB組を上位に揃えるまでは上手くいったのに、あのバルーンのせいでB組の騎馬は僕以外除いて全滅ッ! 僕もハチマキ奪われたし……実戦を経験しただけでココまで変わるモノなのかい? 同情するぐらいなら、そのノウハウを教えて欲しいよ!」

 

 褒めてんのか貶してんのかよくわからん言い草に、A組の反応は様々だ。峰田は鼻鳴らしてるし、緑谷とか困惑してるし、爆豪はヘラヘラ笑ってる。

 

「特に君」

 

 不意に、彼は俺を指差す。

 

「俺?」

 

「障害走が始まるまで、警戒していたのは主席の彼と、推薦入学のNo.2の息子……君は完全にノーマークだったんだよ? 緑色の彼にも驚いたけど、君はそんな2人を差し置いてトップに踊り出るし、いつの間にかうちの鉄哲は懐柔されてるし、騎馬戦ではクラス動かすほどの意外な凶暴性も見せるし…………A組の本当のリーダーは、君じゃないのかな?」

 

 ドキリと飯田と八百万が震えて、俺の方を見る。そんな俺は2人の方に手だけヒラヒラ振って、物間から視線を逸らさない。

 

「そんな事ない……俺は現場監督が精一杯さ。そう言うお前は何、委員長なの?」

 

「コイツは『副』 委員長は私っ」

 

 俺の問い返しに、物間の後ろからオレンジ色の髪の毛で、八百万に負けず劣らずの美貌に快活さのある女子生徒が現れる。さっきの騎馬戦で、女だけの騎馬組んでた騎手の子だ。

 

「ゴメンな、いきなり突っかかって。物間もアンタ達A組に勝ちたいから、必死に考えてたんだ。USJ事件からずっと目立ってるA組を……体育祭で私達B組の勢いで巻き返してやろってねっ」

 

「け、拳藤ッ、なんで言うのかなァ……!? せっかく調子に乗ってたA組の人気を、僕達で覆すつもりだったのに……そんな事言ったらB組がA組に嫉妬してるみたいじゃないか……っ!」

 

「でも負けちゃったんだからさ、もうコソコソする必要ないでしょ? それに今までは勝負だったから対立してたけど……同じヒーロー科なんだから、普段は仲良くやりたいって思ってるしね」

 

 冷や汗を流しながら、さりげなく肩を掴んでくる彼の前で堂々とした立ち振る舞いを見せ、自分の思った事を話す彼女は、正しくヒーローに必要なリーダーの器だった。

 

「改めて、B組委員長の『拳藤 一佳』 コイツは副委員長の『物間 寧人』 よろしくね?」

 

 彼女は俺に手を差し出してきたが、この場は相手が違う。だから俺は手を伸ばさず、後ろにいた飯田に呼びかける。

 

「委員長」

 

「あ、あぁ! A組委員長の飯田 天哉。副委員長はあちらの八百万 百君だ、ヒーローを志す者同士……これから仲良くいこうっ!」

 

 チアリーダー姿の八百万が頭を下げる前で、委員長同士が清く握手をする。しかし、その拳藤の後ろで物間が高笑いを始める。

 

「ハッハッハッハハハッ! なんだか雨降って地固まりそうになってるけどッ、僕達のB組から情報を引き抜こうったってそうはいかないッ!! 今日の完全敗北を僕は忘れないし諦めないよッ! 次こそッ、憎きA組をギャフンと言わせ───ッ!」

 

 そこまでまだ何か叫ぼうとした物間だったが、振り向いた拳藤の手刀が物間の首筋にブッ刺さり、彼は気を失った。

 

「ゴメンね、スイッチ入るといつもこうなの。悪気はないから、ホントに。じゃあ体育祭っ、盛り上げてよねっ!」

 

「あ、あぁ……」

 

 飯田も困惑しているA組の目の前で、彼女の個性である巨大化した手で、気絶した物間をズルズルと簡単に引き摺ってB組の集まりへと戻っていく拳藤。その慣れた動きに、クラスメイト達は思わず言葉を漏らした。

 

「なんか……B組も大変なんだな……」

 

「私達のクラスに爆豪がいるみたいに……バランスをとってんのかも……」

 

「オイ黒目、なんで今俺の名前を出した……ッ!」

 

 静かにキレる爆豪を無視して、俺は引き摺られる物間を見ながら思わず、ありのままに言った。

 

「…………尻に敷かれるタイプだな」

 

「……っ!?」

 

 その瞬間、B組の集まりに入ろうとした拳藤が物間の首根っこ掴んだまま、勢いよく俺達に振り返った。

 

「ちっ、違うから! コイツの暴走止められんのが私しかいないだけだからっ!! 勘違いしないでねっ!?」

 

「「………………っ!?」」

 

 俺と芦戸は「お〜や〜?」と顔を見合わせる。足元で峰田がB組委員長ペア2人を威嚇している中、彼女は新しい玩具でも見つけた子供みたいな顔をしていた。

 きっと、俺も同じ顔をしているんだと思った。

 

『ハ〜〜イあなた達ぃ♪ 青臭くてイイトコロ見せてくれるのは嬉しいけど…………私の話聞いていたかしらッ!!?』

 

「あっ、ごめんなさい!」

 

 すっかり置いてけぼりにしたミッドナイト先生の鞭が飛んで、俺達ヒーロー科は整列しなおした。

 

『よーし! それじゃトーナメントはひとまず置いといて……イッツ束の間ッ!!! 楽しく遊ぶぞレクリエーションッッッ!!!!!』

 

 電光掲示板にレクリエーションの種目が表示され、プレゼントマイク先生のアナウンスに合わせて、クラスのほとんどがワイワイとレクに参加し始めた。

 興味のない人間の行動も早い。常闇と轟と爆豪なんか、速攻スタジアム裏に出て行った。

 

 俺も時間ギリギリまで休んどいて、始まる前ぐらいに起きて体動かしといて……でも良かったのだが……

 

 

 

「ハイッ、みんなこっち向いてッ!!!」

 

 

 

 俺は堂々と、チアの格好したA組女子達に携帯電話のカメラを構えた。

 

「えっ!? 切裂ぃ!!?」

 

「「き、切裂くんっ!?」」

 

「切裂ちゃん!?」

 

「き、切裂さんッ!?」

 

「アンタもグルかッッっ!!?」

 

 たぶん予想外の行動を取り始めた事に驚く5人と吠える耳朗に構わず、俺は携帯のカメラ機能を連写する。

 

「後で携帯で送るから! それと、A組でメッセージグループ作ろっ!!」

 

「それ良いね! サンセーーーっ!!!!」

 

「は、葉隠っ!!?!」

 

 葉隠が飛び跳ねながら賛成した事に、女子達も半ばヤケクソ気味にチアリーディングし始める。

 そんな麗しい様子をある程度写真に収めて、あとレク1個やって帰ろうとしていると、上鳴と峰田に呼び止められた。

 

「切裂ぃ〜〜〜っ!!!!」

 

「お前はやってくれる男だって信じてたぜ〜〜〜っ!!!!!」

 

 上機嫌な上鳴に肩を組まれ、涙まで流してる峰田に飛びつかれながら、持て囃される。2人のために写真を撮ったワケではないのだが、そう言う事にしておこう。

 女子と男子の評価を反復横跳びしながら、俺はレクリエーションに参加した。ちなみに種目は、峰田と二人三脚。彼を足にしがみつかせて、俺が全速力で走ったら、簡単に1位だった。上鳴は耳朗を誘おうとしていたが、格好が恥ずかしすぎて本人に拒否られていた。

 

 ついでに、1年A組全員が入ったメッセージグループを作る事に、俺は成功した。ガラケーの麗日でも使えるアプリのヤツだ。1番面倒な相手の爆豪は、親との連絡で使っていたアカウントから連絡先を探し出し、切島と協力して無理矢理メンバーに加入させた。

 メッセージのホーム画面は、彼女達のチアコスチュームにした。もちろん数日もしない内に、耳朗が適当に用意したロックパンクな壁紙に変わっていた。

 

 少し気になっていた緑谷と尾白も、心操対策が必要なくなったせいで、みんなとレクに参加していた。尾白は借り物競争で『尻尾が生えてる人』と書かれた紙を取って苦笑いし、緑谷はチアコスの麗日と一緒に大玉転がしていて、見てるこっちが恥ずかしくなるぐらい照れていた。目の前の大玉より、隣で揺れてるふたつの玉に興味を示す辺り、緑谷も可愛い顔して雄である。

 

 俺は後でコッソリ、麗日のチアコス1枚撮りの1番良い写真を、緑谷に個別で送っといた。クソナードの反応が気になるところだ。

 

 こうして騒がしかったレクリエーションもあっという間に終わり、観客が待ちに待ち望んでいた、最終種目のトーナメントが始まった。

 

 広いグラウンドコートだけだったスタジアム内に、全身四角い灰色のゆるキャラみたいな教師、『セメントス先生』の個性『セメント』で創り上げられた武舞台が完成。更には四隅に炎を吹き上げる機械まで設置され、準備が完了された。

 

『ヘイッ、ガイズッッ!!! アーーユーーレディーーーッッ!!!?!?』

 

 プレゼントマイクのマイクパフォーマンスで最終種目の開始が宣言され、歓声が一気に激しくなる。

 

『色々やってきましたがッ、結局コレだぜガチンコ勝負、頼れるのは己のみッッ!!! ヒーローでなくっても、そんな場面ばっかりだッッ!! 分かるよなァッ!!!? 心、技、体に……知恵、知識、総動員して駆け上がれッッッ!!!!!』

 

 レクリエーションを終えた俺はクラスメイト達と一緒に、クラス専用の観客席に移動してスタジアム内の様子を見渡した。

 

「おぉっ、スッゲーーッ!!」

 

「めっちゃ良い席だなっ!!?」

 

「当たり前でしょ。お客さんとおんなじ席なワケないし……」

 

 はしゃぐ切島や上鳴が我先に座ろうとして、耳朗が呆れている。

 

「隣はB組っぽいな」

 

「緑谷と梅雨ちゃんは?」

 

「もう試合だから、控え室だって」

 

「緑谷君の席を空けておこう。彼ならきっと、最前列で見たがるだろう!」

 

「ゴメン、俺も前の席がいい。八百万ちゃん、ココ空いてる?」

 

「は、はい!」

 

『オーディエンスどもッ、待ちに待った最終種目がッ、遂に始まるぜェッッ!!!』

 

 俺とクラスメイト達が話をしながら仲良く客席についてしばらくすると、観客席から湧き上がる歓声に包まれたスタジアムの中、電光掲示板に最初の試合が表示された。

 

 

 

 

 

 第1試合

 

 緑谷 VS 蛙吹

 

 

 

 

 

『第1回戦ッ! ココまで安定した上位の勝ち抜けッッ!!! でもッ、なァァんだその顔ォッ!!? ヒーロー科ッ、緑谷 出久ゥッッ!!!!!』

 

 最初の試合だけあって、観客も元気が良い。武舞台の四隅の炎が大きく噴き上がり、左右の入場口から入ってくるクラスメイト2人が、小さく見えた。

 

『バァーサスッ!! こっちの顔は何考えてんのか全くわかんねーーーーッッッ!!?! ヒーロー科ッ、蛙吹 梅雨ゥッッ!!!!!』

 

 ガッチガチとまでは言わないが、緊張している緑谷に対して、いつも通りの無表情な蛙吹が武舞台の上へと歩いていく。

 

「ハハッ、緑谷緊張しまくってんな!!」

 

「それに比べて、梅雨ちゃんはマイペースだなぁ〜!」

 

 俺の座ってる後ろから、切島と上鳴の声が聞こえた。

 俺はクラスの観客席の最前列に座り、2人の様子を窺っている。ちなみに、右には麗日が座って、その奥に飯田。左は八百万が座って、その奥に芦戸が座っていた。なんか俺達の前列はともかく、クラスのみんな左側に集まってて、爆豪が1人で反対側に座ってる。そこにオマケみたいに切島が一緒に座っていた。

 瀬呂と轟は、今いない。アイツら次の試合だ。

 

「さて……どうなるかな……?」

 

 原作にはなかった夢の対決に、俺は固唾を飲んで武舞台に上がった2人を見守る。

 

「梅雨ちゃんの『蛙』に、デクくんの『超パワー』……!」

 

「蛙吹さんは自分の個性をよく理解して、的確に使いこなせる印象がありますが……」

 

「対して緑谷君は、まだ自分の『超パワー』で自損してしまうほど、個性の使い方が安定しない……彼女の方が、やや有利と言った所か……!」

 

 俺の周りに座っているクラスメイト達も、俺の思っていた事を次々と口にしてくれる。どちらが勝ってもおかしくないし、本来ならどちらにも頑張ってほしいのだが……

 

「緑谷くん、優しいからな…………梅雨ちゃんに超パワーは使わない……いや、使えないと思う……」

 

「うん……!」

 

「そう……ですわね……」

 

 両隣の女子も、入学してから数ヶ月で彼の性格をよくわかっていた。それでも、俺は緑谷が勝ってくれる気がした。

 

 

 

 てか、マジで勝ってくれ。でないと轟を誰にも止められなくなる。

 

 

 

『レディーーーーーッッッ!!!!! スタァーートッッッッ!!!!!!!!』

 

 プレゼントマイク先生による、第1試合の火蓋が切られた。

 しかし、両者いきなり突っ込む事なく、ジリジリと距離を保ちながら、向こうの出方を窺っている。

 

『まずはお互いに様子見かァーーーーーーッ!!? どっちが先に勝負を仕掛けるゥーーーーーッ!!!?』

 

 緑谷も女の子に向かって、安定もしないワン・フォー・オールは絶対に使わないだろう。だが蛙吹の個性はこの戦いにおいてはかなり強力だ。彼の焦燥する表情が、俺の座る観客席のここからでも見えた。

 

「やはり、お互いそう簡単には攻めないか……!」

 

「なんか喋ってるっぽいね?」

 

 両手を前に垂らした、いつもの姿勢で蛙吹は「ひ」の字口を開けて何かを緑谷に話している。歓声に包まれた武舞台では、余程の声の大きさじゃなければ客席まで聞こえないだろう。

 

「きっと……『緑谷チャン、オトモダチダカラッテ手加減ハイラナイワ ! 』とか言ってるんだと思う……」

 

「ぶはっッwww!!!」

 

「ぶぶぅっwww!!!」

 

 俺の適当な会話の再現は、隣の麗日と後ろの耳朗のツボにブッ刺さった。

 

「そんな似てた?」

 

「き、切裂さんっ! 真面目に観てますのよっ!」

 

 そう言ってる八百万も口元を押さえている。彼女が吹いた瞬間を、俺は見逃していない。少しだけ、周りの緊張しすぎな空気が緩んだ。

 

「……まぁ、梅雨ちゃん君なら、有り得なくもないな……」

 

 飯田がそんな事を言ってる間に、試合が動いた。

 蛙吹が姿勢を低くする様に四つん這いになり、蛙跳びで緑谷へ一気に跳びかかった。

 

『ココで蛙吹が跳んだァーーーッ!! まさにカエルそのものだァァーーーーーッッ!!!!』

 

「梅雨ちゃんが動いたっ!」

 

 麗日が叫ぶ視線の先で、すかさずヘッドスライディングで蛙吹の着地点から飛び退く緑谷。素早く受け身を取りながら、蛙吹との視線を離さない。

 素の機動力では彼女に敵わないと判断したのだろう、緑谷が突進を仕掛けた。

 

「おおっ! 緑谷も攻めたッ!!」

 

 彼は蛙吹の両肩を掴んで、着地していた彼女をそのまま武舞台の外に押し出そうとする。だが、彼女はゴロンと後方に倒れ込んで、緑谷を巴投げにした。

 

「スゲぇッ!!?」

 

「投げたッ!!」

 

 しかし緑谷はとっさに蛙吹の腕を掴み、場外に投げられるのを防ぎ、そのまま地面へと転がる。慌てて立ちあがろうとするも、頭を揺らしたのかヨロヨロと動きが遅くなり、その隙に蛙吹は蛙跳びで大きく飛び退いた。

 

「力じゃ敵わないってなって、警戒したな」

 

「となると蛙吹さんの次の行動は……!」

 

 跳躍しながら開かれた口から、蛙吹の舌が伸びる。その先端は当然、緑谷を狙っていた。

 

「当然、舌だな!」

 

「危ないっ!」

 

 麗日の声が漏れたが、緑谷は横転して飛び込んできた舌を回避し、彼女を大きく迂回するように走って接近していく。

 

「いいぞ走れ緑谷ぁ!」

 

 避けられたと判断するなり、蛙吹は1度舌を引っ込めてから、今度は薙ぎ払うようにして舌を伸ばし、緑谷を絡め取ろうとする。

 しかし、彼は蛙吹の舌を目で追いながら、大きく跳躍すると同時に両手両足を広げて地面から限界まで距離を離し、薙いでくる舌を回避する。更に彼女がスイングして戻してきた舌を、今度はスライディングで一気に潜り抜け、彼女へと駆ける。

 

『緑谷ッ、あの大きく伸びる舌を避ける避けるッ!!! 大道芸かァーーーーッッッ!!?!!』

 

『蛙吹の個性の使い方も上手いが、緑谷の身体能力も人並み以上だ。あとは個性のコントロールさえ上手くなればなんだが……』

 

 2度も舌を避けられて、蛙吹は少し焦りながらも緑谷を誘ってから跳躍する。だが、緑谷もすぐに方向転換して彼女の着地点へと走る。

 

「いいぞッ!」

 

「梅雨ちゃんアブないっ!」

 

 尾白や葉隠など、2人を両方応援するクラスメイト達の先、着地するよりも早く伸びた蛙吹の舌が、着地点を見て反応の遅れた緑谷の腕を捕らえた。

 

「あっ!」

 

 麗日が思わず声に出した。緑谷も不意を突かれた顔をしていた。

 蛙吹はそのまま空中で全身を振るって、緑谷を場外に引っ張っろうとした。

 緑谷が負ける……と、この観客席にいるクラスメイト数人は思ったかもしれない。

 

 途端、いきなり緑谷が信じられないスピードで蛙吹にジャンプで飛び掛かり、肉薄した。

 

「うおっ!」

 

「えぇッ!?」

 

「なんだぁッ!!?」

 

 そのまま緑谷は蛙吹の両肩を掴み、自分ごと場外へと飛び出した。

 

「あぁッ!!」

 

「えッ!!?」

 

「ヤベぇッ!!!」

 

 そのまま2人は空中で揉み合いになりながら、武舞台の外である芝生の地面目掛けて落ちていく。

 蛙吹は舌を武舞台に伸ばしたけども、届く前に緑谷と地面をゴロゴロ転がった。

 

「落ちたッ!」

 

「えっ!? どっちが先ッ!?」

 

 俺達の見ている武舞台の奥へと転がった2人の様子は、こちらから決定的な瞬間はよく見えなかった。

 

『なあァァッッッ!!? どっどっどっどうなったァーーーーーーッッッ!!!!! ミッドナイト!!?』

 

『ハッ! ゴメンなさいっ、よく見えなかったわッ!! VTR〜っ!!!!』

 

 絶対に見惚れていて審判してなかっただろうミッドナイト先生の声に、観客も歓声と動揺でザワついている中、地面を転がった緑谷と蛙吹の2人が立ちあがろうとする。

 

「アッハハハッ! 緑谷チョー顔真っ赤!!!」

 

「梅雨ちゃんは冷静……いや、ちょっと照れてんな……!」

 

 側から見れば、蛙吹を地面に押し倒しているみたいな体勢になっていた緑谷が、蛙みたいに飛び退いた。その顔はここからでもわかるぐらい真っ赤になって頭から煙を噴き上げており、近場の観客席からも口笛と野次が飛ぶ。対してゆったり起き上がった蛙吹も、表情こそ変わっていないが、ほんのり頬を染めていた。

 

「………………」

 

「麗日ちゃん。麗かじゃなくなってるよ?」

 

「ハッ!? いや、ゴメンなんでもないのっ!!」

 

 俺の指摘に、慌てて顔をパンパン叩いて直そうとする麗日。芦戸がニヤニヤしながら彼女を見ていた。

 それにしても、緑谷が普通に立っているって事は、足は爆裂させてない。

 何をやったんだ?

 

『お待たせしたぜェエヴィバディッ!!! VTRスターーートだァッ!!!!』

 

 そんな事を考えている間に、スタジアムのモニターに2人が抱き合って落っこちる映像が、スローモーションになって再生された。麗日の顔面が、再び眉間に皺が寄る。

 

「どっちだ……?」

 

 空中で揉み合って、2人が武舞台の外へ落下していく。蛙吹が舌を伸ばしている間に、緑谷はしっかり彼女の後頭部を腕で守った。素晴らしい。

 

「あっ……!」

 

 そのまま、グルグル回転していた2人は、蛙吹の背中からグラウンドに落ちて、仲良く転がっていった。

 丁度そのタイミングで、ミッドナイト先生の審判が響き渡った。

 

『蛙吹さん場外ッ! 緑谷くんッ、2回戦進出ッ!!!』

 

『シヴィィーーーーーッッッ!!! まさに一瞬の早技ッ!!!! 緑谷が超スピードで捨て身の突撃ッッッ!! 蛙吹を押し出したーーーーーッッッ!!!!』

 

 歓声が一気に湧き上がり、拍手や口笛が飛び交わされる。緑谷と蛙吹は軽く挨拶をして、それぞれの入場口へと戻っていった。

 

「あ〜、梅雨ちゃん負けちゃったかー!」

 

「いやー、ハラハラしたよっ!」

 

「クラスメイト同士だと、どっち応援すればいいか迷っちゃうね!?」

 

「みんな本気でぶつかってんだっ、どっちも応援しようぜっ!」

 

 ひと試合終了した事で、クラスメイト達も思い思いの感想を口にする。そんな中、俺は緑谷の様子を窺っていた。

 

「デクくん、良かった……!」

 

 安堵の息を吐いた麗日にも見守られている緑谷は、顔真っ赤にしながら足を引きずっていた。

 

 

 

 歩けるって事は……足の指だけでOFAをやったのか…………

 

 

 

 

 

 第2試合

 

 瀬呂 VS 轟

 

 

 

 

 

 次の試合の対戦カードが大型モニターに表示されている中、蛙吹が観客席に戻ってきた。

 

「おかえり〜!」

 

「梅雨ちゃん惜しかったねー!」

 

「ケロ…………油断しちゃったわ。悔しい……っ!」

 

 表情はほとんど変わらないものの、その口調で彼女の悔しさは伝わった。

 しかし、彼女と試合をしていた緑谷の姿が見えず、麗日が尋ねる。

 

「デクくんは?」

 

「足の指を挫いた……って言って医務室に行ったわ。大丈夫、すぐ来ると思うわ」

 

 実際は挫くどころではないハズだが、きっと蛙吹に心配されたくなくて、誤魔化したのだろう。

 その発言通り、彼女が席について数分もしないうちに、今度は緑谷が観客席に戻ってきた。

 

「あっ、デク君! お・つ・か・れ!」

 

「ト・ナ・リ! 空けてあるぞ!」

 

「あっ、ありがとう!」

 

 麗日と飯田に誘われて、緑谷が段差を降りて常闇と飯田の間に移動する。俺との視線は合わず、彼の視線は後ろの方に座っていた蛙吹へと動いており、そんな彼女とも軽く笑顔を交わしてから、彼は席についた。

 

『お待たせしました! 続きましてはァーーーッ!! コイツらだァ!!!』

 

 そうして会話をする暇もなく、次の試合が始まる。選手である瀬呂と轟は、もう武舞台の上に立っていた。

 

『優秀ッ!! 優秀なのに拭いきれない、その地味さは何だァーーッ!!? ヒーロー科、瀬呂 範太ァッ!!!』

 

「アッハッハッハッっ!!」

 

「ひっでえ説明www!」

 

「ハハッ……俺達なんて紹介されんだろうね……」

 

「「う……ッ!」」

 

 あんまりな紹介に、切島と上鳴が我慢できずに爆笑していたが、俺のひと言に他人事ではない事に気づき始める。その不安は、ほかのクラスメイトにまで伝播する。

 

「でも、瀬呂くんは強いよ!?」

 

「おうっ! スピードなら轟より速えぞ!」

 

「ただ……相手が悪いと言いますか……」

 

「この障害物のない広い舞台だと、瀬呂の機動力はほぼ発揮できない……氷で舞台を荒らされる前に短期決着を仕掛けないと、不利になる一方だ」

 

 砂藤や八百万もフォローをしているが、彼の不利は否めない。複製腕で目を増やしながら観戦している障子が、彼の事を冷静に分析していた。

 武舞台に立っている瀬呂も、準備運動しながら苦笑いしている。不利は本人も承知だ。

 

『バァーサスッッ!! 障害走3位ィ!! 騎馬戦は2位ィッ!! そろそろ1位に輝きてぇよなァッッ!!?!? ヒーロー科ッ、轟 焦凍ォッッ!!!!!』

 

 轟を煽った紹介に、俺は唾を飲み込んだ。今の彼には火にガソリンを注ぐ行為である事に、少し不安を覚える。

 

「轟くん、大人しいね……」

 

「いつもクールなヤツだけど、なんか変じゃねえか?」

 

「そう? あんま変わんないと思うけど……」

 

 歓声を浴びている轟は、俯いたまま動く雰囲気が感じられない。いつも大人しい彼の様子がおかしい事に、数人のクラスメイトは気づいた。

 

 そう言えば、この会場には彼の父親であるNo.2ヒーロー『エンデヴァー』が、どっかにいるのだろう。

 会いに行きたいかと言われれば半々ぐらいだが、会いたくないのかと言われればその通りだ。

 

 たぶん、畜生すぎて好きになれないんだと思う。

 

「ん?」

 

 そんな事を考えている中、麗日側の席から、お経みたいな声が聞こえた。

 

「轟くんの半冷半燃は広すぎる攻撃範囲とノーモーションで放てる便利性が最大の強み。右で攻撃しながら左で体温を保ち続ければ無尽蔵にあの強力な攻撃が出せるけども今の轟くんにはどうしてもできない。強力だけれどもソコをなんとかすれば瀬呂くんにも勝機は絶対にある。瀬呂くんのテープの射出スピードは轟くんの氷を使っての移動速度を超えてるから拘束自体は問題ないと思うけど轟くんがソコから氷を伝播させるかもしれないし侮れない。やっばり上鳴くんと言い単純な属性攻撃持ち個性はやっぱ強いよなー。それでも瀬呂くんの身体能力は個性を最大限に活用するために本人が仕込んだモノだし試合開始と同時に轟くんテープを巻きつけて範囲攻撃される前に攻め入れればいやでも…………ブツブツブツブツ」

 

「み、緑谷君……」

 

「デ、デクくん……」

 

 緑谷がノートを開いてシャーペンを滑らせながら、抑揚の無い呪文みたいな早口で物凄い独り言を始めていた。

 飯田も、彼の隣にいた麗日も少し引いていたが、それでもそんな彼に声をかける。

 

「終わってすぐなのに、先見越して対策考えたんだ?」

 

 彼女の声に緑谷はシャーペン動かす手を止めて、素早く彼女の方を見る。

 

「ハッ、ああ……いやっ!? 一応っていうか、コレはほぼ趣味というか……せっかくクラス以外の凄い個性が見れる機会だし…………あぁ、そうそう! A組のみんなのも、ちょこちょこ纏めてるんだ! 麗日さんの『無重力』も!」

 

 ややまだ早口ぐらいの速度で緑谷は、麗日の事を纏めたノートのページを見せつける。

 さすがに自分の事まで調べているのは驚いたか、彼女も思わず声を詰まらせる。

 

「ううっ、あ……デク君、会った時から凄いけど……体育祭で改めて、やっぱ……やるなあって感じだ!」

 

「え……?」

 

 2人のやりとりを芦戸がニヤニヤしながら覗き、周りは緑谷の暴走に少し引いている中、プレゼントマイク先生の試合開始の宣言が下される。

 

『それでは最終種目、第2試合ッ! レディーーーッッッ、スターーーートッッッッ!!!!!!!』

 

 試合開始と同時に、瀬呂は不意を突くべく一気に動いた。

 両肘のテープを同時に射出して、反対側に立っていた轟に反応させる隙も与えず、両腕を拘束する。

 

「いけぇーーーーー瀬呂ぉーーーーーッッ!!!!」

 

「やれーーーーッ!!! やっちまえ瀬呂ぉーーーーッッ!!!!」

 

 峰田と砂藤の叫ぶ声援に応えるかの様に、瀬呂は全身を捻らせて、拘束した轟を場外へと引きずり飛ばした。

 

『場外狙いの不意打ち〜〜〜ッッッ!!!?!? この選択は、これ最善じゃないのかァーーーーッッッ!!!!!! 正直やっっッちまえ瀬呂ォォーーーーーーーッッッッッ!!!!!!!!』

 

 プレゼントマイク先生の実況も超えた声援が重なり、スタジアムの誰もが彼の勝利を確信しただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の瞬間、地鳴りが起こるほどの衝撃と共に、武舞台の半分以上が轟の氷で覆われていた。

 

「「「「「あああっ……!」」」」」

 

 思わず俺達が身を守ろうとしてしまうぐらいの、観客席のすぐ目の前にまで氷塊が迫って、ソコで止まった。上を見上げれは、スタジアムの外にまではみ出るほどの巨大な氷塊だった。

 

「や、やりすぎだろアイツ……!」

 

 場外ギリギリで轟は自分の足元ごと氷漬けにし、瀬呂を氷塊に巻き込んだ。ただ、それでも観客席を巻き込んだり、スタジアムを破壊していない辺り、まだ彼は冷静だ。

 

『瀬呂くん……動ける?』

 

 審判台のミッドナイト先生まで半分巻き込まれているのも構わず、轟は自分を拘束していたテープを氷漬けにして破壊し、瀬呂へと近寄る。

 当然、氷結の直撃を浴びた彼は、動けるハズもなかった。

 

『瀬呂くん、行動不能! 轟くんッ、2回戦進出ッ!!!』

 

 口元まで半分凍らされて、少し舌足らずなミッドナイト先生の審判により、決着が宣言された。

 

 その余りにも圧倒的な力の敗北に、自然と観客席から彼へドンマイコールが沸き起こり、スタジアム内に響き渡る。

 そんな中で、轟は自分の個性で氷漬けになった瀬呂を、左側の力で淡々と解凍していた。

 

「やっぱ、イカれてんよぉアイツ……!」

 

「やはり圧倒的か……!」

 

 峰田が障子の複製腕にしがみついて身を守ろうとしたまま、震える声を漏らした。

 

「デクくん……!」

 

「うん、わかってる……!」

 

 コレで、緑谷が轟と戦う事になった。

 

 

 

 

 

 第3試合

 

 飯田 VS 発目

 

 

 

 

 

 轟の氷もすっかり解凍され、見通しが良くなった観客席から次の試合の対戦カードが電光掲示板に表示され、俺達の観客席に戻ってきた瀬呂にクラスメイトから、さっきまで受けてたドンマイコールが沸き上がる。

 

「さんはいっ、ドーンマーイ! ドーンマーイ!」

 

「ドーンマーイっ! ドーンマーイっ!」

 

「ドーンマーイっ、ドーンマーイっ!」

 

「よせやい……」

 

 芦戸によって始められたドンマイコールに、あんまり気持ちの良い気分にはなれなかった瀬呂が、苦笑いで後ろの方の席に座る。

 

「瀬呂くん、大丈夫だった?」

 

「ああ。轟にしっかり温めてもらったよ」

 

「観客席のココまで氷来たかんなっ!!!」

 

 ドンマイコールはほどほどに、クラスメイトたちはすぐ彼の心配を始める。本人は気にしていなさそうだが、その表情は悔しそうだった。

 てか、肝心の轟が帰ってこない。アイツ原作でも観客席で見なかった気がしたけど、どうやら他の試合に興味がないみたいだ。

 

『エブリバディ! 大変長らくお待たせしたぜッ!!! 第2試合で氷漬けになったステージも、ようやく乾いて次の対決ッ!!!』

 

 しばらく大人しかった観客席の盛り上がりが、プレゼントマイク先生の放送で叩き起こされ、再び熱が入り始める。

 次の選手である飯田も、轟の試合が終わってすぐ移動して、今は武舞台の上に立っていた。

 

『第3試合ッ、ザ・中堅って感じィィィッッ!!? ヒーロー科ッ、飯田 天哉ァッ!!!』

 

 直立不動の『気をつけ』の状態で、飯田は対戦相手を彼女の方を見遣る。

 

『バーサスッッ! サポートアイテムでフル装備ッ!!! サポート科、発目 明ッッ!!!』

 

 この最終種目唯一のサポート科。本人はそんな事、一切気にせずマイペースな様子で、飯田の方を見ていた。

 

「相手はサポート科か……」

 

「どんな戦いになるのかしら?」

 

「……つうか、何だ? ありゃ…………飯田もサポートアイテム、フル装備じゃねえかッ!!?」

 

 蛙吹や耳朗が発目の方を見ながら警戒している中、砂藤が飯田のサポートアイテムだらけの姿にツッコんだ。

 ミッドナイト先生がすぐ注意しようとしたが、飯田曰くサポート科でもヒーロー科と対等に戦うべく、自分にもサポートアイテムを装着してほしいと要望され、彼女の気持ちを無碍に扱ってはならないと…………つまりは彼女のスポーツマンシップに心打たれ、賛同したそうだ。

 ミッドナイト先生もすっかり心打たれ、そのまま第3試合が始まった。

 

 

 

 こうして始まった第3試合は…………言ってしまえば発目のサポートアイテムのお披露目会状態だった。

 

 

 

「なぁ……コレって……」

 

「サポート科は自分のサポートアイテム披露できれば、もう充分だからな……」

 

「飯田が納得するかは、また別だが……」

 

 要は自分のサポートアイテムを、体育祭を観戦している企業に宣伝すべく、飯田をダシに使ったのだ。

 サポートアイテムで制御しているとはいえ、身体能力の高い飯田の攻撃を避けているのは、元々の彼女のポテンシャルが高いのだろう。本人は戦闘とかは好きではなさそうだが。

 

「にしても、トンでもねぇヤツだなっ! 飯田を説得してでもサポートアイテムを披露させるなんて!」

 

「でも、サポートアイテムは本人の制作した物以外は許可されないから……アレ全部彼女が作った物でしょ? 普通に凄いよ彼女」

 

「た、確かに……!」

 

「ハァ……オイラ次の試合だから、ちょっと準備してくる……」

 

「いってらっしゃい峰田くん! 応援してるよ!」

 

「ちょっと! 次は私なんだから、切裂は私を応援しなさいよっ!!」

 

「芦戸ちゃんも応援してるよ、いってらっしゃい!」

 

 こうして数人のクラスメイトも飽きてしまった第3試合は、発目の政治家の如く自分と自分のサポートアイテムを披露させた10分後、彼女は満足して武舞台から飛び降りた。随分と、やり切った顔してやがる。

 

『は……発目さん場外…………飯田くん、2回戦進出!!!』

 

「だァァァましたなァーーーーーッッッ!!!!?! 嫌いだキミィーーーーーーーッッッッ!!!!!!!」

 

 困惑しているミッドナイト先生の宣言と同時に、観客席のココまで聞こえるぐらいの、飯田の怒号が武舞台の上から響き渡った。

 

「きっと飯田くん真面目すぎたから、耳障りの良い事言って乗せたんだ……! あの人アケスケなだけじゃない、目的のためなら手段を選ばない人だ……スゴい…………!」

 

「………………」

 

 緑谷が呑気に分析を続けている中、隣の麗日が立ち上がり、席を離れていった。

 

 

 

 

 

 第4試合

 

 芦戸 VS 峰田

 

 

 

 

 

 次の対戦カードが電光掲示板に表示された中、飯田がワナワナしながら観客席に戻って来た。

 

「い、飯田くん……おめでと……」

 

「あんなのは勝負じゃない……!」

 

「試合に勝って勝負に負けたわね、飯田ちゃん」

 

「あはは…………ドーンマーイ……」

 

 まだ怒り心頭の飯田と、なんとかして慰めようとするクラスメイト達の先で、次の試合が始まる。

 

『さあ、第4試合だッ! どんどん行くぞーーッッ!! 頂点目指して突っ走れェーーーーッッ!!!! ちっさい体に、デッカい夢担いでるぜッ!! ヒーロー科、峰田 実ッ!!!』

 

 やや緊張気味な表情で、峰田は入場口から武舞台に向かって歩く。プレゼントマイク先生の紹介に速度が間に合っておらず、短い足で武舞台までの道をヨチヨチと歩いてる姿が可愛らしい。

 

『バァーサス!! あの角から何か出んの? ねえ、出んのッ!? ヒーロー科、芦戸 三奈ッ!!!』

 

 対して芦戸はもう武舞台上に立っており、観客の前で軽く準備運動しながら、峰田を方を見て不敵に笑っている。ちょっと油断しすぎな気もしたが、彼女は本気だ。

 

「三奈ちゃん、頑張って!」

 

「峰田頑張れっ!」

 

「間に合ってねーぞ! 早く上がれっwww!」

 

「2人の個性から考えて芦戸さんも峰田くんも機動力に関しては同じタイプの個性だ。でも峰田くんのモギモギを酸で消せる分攻撃寄りの芦戸さんの方が有利かもしれない。芦戸さんは酸で機動力を上げて峰田くんを外に出すのが1番の勝ち筋。峰田くんが勝つには芦戸さんをどうやって場外に押し出すか。それかモギモギで芦戸さんを身動き取れなくするだけど芦戸さんは全身から酸を出せるから後者は現実的じゃない。モギモギで場外に弾き出せないと峰田くんはたぶん勝てない。本人が1番わかっているとは思うけどあーでも今の芦戸さん酸を操れるんだよなー。騎馬戦の時の峰田くんの大きなバルーンは強力だけどアレには時間がかかるし芦戸さんがそのスキを許してくれるハズもないし…………ブツブツブツブツ」

 

 クラスメイト達の声援に混じって、緑谷の呪文が聞こえ続ける中、俺は観客席から立ち上がる。

 

「じゃ、俺そろそろ行ってくるから」

 

「そうか、次は君の試合か!」

 

「上鳴は?」

 

「もうとっくに行ったよ。緊張してんだろうぜ!」

 

「切裂ぃ! 絶対勝てよッ!! 俺も勝つからなッ!!!」

 

「切島くんこそっ!」

 

 最後に切島の声援を受けて、俺は観客席を後した。

 スタジアムの関係者エリアであるバックスペースの、蛍光灯が並んだ少し薄暗い通路を歩いて、俺は自分の入場ゲートへと向かう。

 歩いている最中に、そこら中に設置してあるスピーカーから、スタジアムの試合の様子が流れた。

 

『峰田くん場外ッ! 芦戸さん2回戦進出ッ!!!』

 

 観客席の歓声も響き渡ってくる中、俺はスピーカーを眺めた。

 原作よりも強化された者同士の戦いは気になってはいたが、やっぱり峰田が負けてしまったか。

 

 でもココまで俺と頑張ってくれて……ありがとう。

 

 ちなみに、体育祭の後で俺が再放送を確認してみると、酸のスケートで翻弄してきた芦戸にそのまま抱きかかえられた峰田が、ジタバタと悶えながら武舞台の外に放り出されていた。直後に峰田ビーズで復帰しようとしたものの、芦戸の酸にモギモギを溶かされて場外に落ち、悔しそうに駄々を捏ねる峰田の姿があった。

 

 

 

 

 

 5戦目

 

 上鳴 VS 切裂

 

 

 

 

 

 薄暗い通路から入場ゲートを抜け、一気に明るくなる世界と同時に、下から見上げる観客席から止めなく歓声が溢れてくる。

 緊張はしていたが、それよりも興奮の方が勝って、俺は堂々と武舞台の上へ立った。相手の上鳴はもう、反対側に立っていた。

 

『立て続けにいくぜ! 第5試合ッ!! スパーキングキリングボーイッ!! ヒーロー科! 上鳴 電気ィッッ!!!!』

 

 上鳴が紹介されると、歓声に混じって女子からの黄色い声が凄い。顔立ちは轟に少し劣るぐらい整っているから、彼への歓声は頷けた。

 

『バァーーサスッ! 第1種目じゃとんてもねーーーインパクト残してくれたよなッ!!? 一刀両断ニンジャボーイッッ!!!! ヒーロー科、切裂 刃ァァーーーーッッッ!!!!!』

 

 しかし、俺に紹介が移った瞬間、一気に会場全体の歓声が俺に集中し、沸き上がった。

 

「やっぱ、お前の方が歓声デカいよなぁ……」

 

「勝てば、この歓声独り占めだよ」

 

 俺は軽く準備運動しながら、上鳴の方に警戒を始める。

 さすがの俺も130万ボルトなんか受けたら、戦闘不能まっしぐらだ。油断はできないが、落ち着いていれば勝てない相手ではない。

 

『さぁ、いってみよォォかァーーッ!! 第5試合ッ、スターーートォッッ!!!!!』

 

 試合開始の宣言と同時に、俺は上鳴に向かって駆け出した。

 

「ッ! やっぱソッコーだよなッ!!」

 

 少しは予想していたのか、彼の身体が黄色い閃光を放ち、帯電を始める。

 

「電力最大ッ!!! 無差別130万───ッッ!」

 

 

 

 あー、惜しい。思わず口に出てしまいそうだった。

 

 

 

 俺は突進から急ブレーキをかけて、両手を地面に付けると同時に四肢を全て刃にして伸縮。武舞台の地面をブチ割って上空へと跳び上がった。

 

『ウォォォッッとぉォーーーーッ!!? 切裂が跳ねたァーーーーーーッッ!!!!!』

 

 普段の両脚に追加して、更に2本の刃による跳躍。普段以上の力で飛び上がった真下で、上鳴の溜め込んでいた電気が炸裂した。

 

 しかし、せっかく彼が放電した電気は俺へと伸びる事なく、地面を這って武舞台からグラウンドへと流れた。

 

「ウェ?」

 

 放電の威力が収まり始めた丁度、俺は地面に大の字で四肢を地面に突き刺して着地した。

 

「あちっ!」

 

 少し余波でビリッとしたが、直撃は避けた。もう上鳴は何も出来ない。

 

『なんと切裂ッ!!! 上空に跳び上がって上鳴の放電を避けたァーーーーーーーッッ!!!!!!』

 

 着地した俺は、すぐさまボケーとしている上鳴に接近して、彼を武舞台上に押し倒して胸ぐらを掴み、片腕を刃にして首元に突きつけた。

 

「ウェ〜〜イっ!?! ウェ〜イっ!!!」

 

 アホになって、まともに喋る事のできなくなっている上鳴は、首を横にブンブン必死に振って降参の合図を出していた。

 

「上鳴くん、降参!! 切裂くん2回戦進出ッ!!!」

 

 ミッドナイト先生の宣言で、会場は一気に湧き立った。

 

 

 

 

 

 第6試合

 

 切島 VS 障子

 

 

 

 

 

『さあ、息継ぐ暇もなく、第6試合といこうじゃねえかッ!! 男気一筋ッ!! ド根性硬化ァッッ!!! ヒーロー科ッ、切島 鋭児郎ォッ!!!!!』

 

 自分の試合を終わらせて観客席へと向かう俺の視線の先、電光掲示板に次の対戦カードが表示される。

 

『バァーサスッ!! ガタイも見た目も高校生には見えねェーーーーーッッッ!!! ヒーロー科ッ、障子 目蔵ォッッ!!!!!』

 

 歓声が響き渡る観客席で、俺はクラスメイト達の見える位置まで近寄ると、最初に聞こえたのは芦戸の声だった。

 

「切裂おめでとーっ!」

 

「ラクショーだったなっ!」

 

「あれ?」

 

 峰田からの声援も受けながら、俺はクラスメイトの客席をよく確認する。

 八百万は次の試合だから、控え室に移ったのだろうが、その空いた席に芦戸が座っていた。つまり、彼女が俺の隣になった。

 緑谷側に座っていた常闇もいない。当然か。

 

「これで2回戦進出だね! おめでとっ!」

 

「芦戸ちゃんこそっ、次も頑張ろう……!」

 

「う、うん……!」

 

 俺が席につくと、彼女は更に距離を詰めてきた。次は飯田との対決が決まっている彼女は少しだけ口どもったが、それでも良い返事をしてくれた。

 そんな中で、充電の完了した上鳴が遅れて観客席に戻ってきた。

 

「ドーンマーイ、ドーンマーイッ!」

 

「うぇ〜〜いwww!」

 

「まっ、ウチもアンタが勝つと思ってなかったしね」

 

「やめろぉ!? 俺泣くぞっ!!?」

 

 負けた上に散々な評価をされ、思わず涙目になる上鳴。彼が開幕ブッパするのは、クラスメイトの何人かも予想していたので、当然と言えば当然だった。

 

「上鳴くん、放電に指向性を持たせられないでしょ? 地面に接着した状態で放電しても、電気は地面を流れるんだよ……?」

 

「まぁ、ちょっとタイミングが早すぎたかな……?」

 

「お前も自分の個性ぐらい理解しとけよ〜……もったいない……」

 

「だってっ、お前ら切裂と戦ってみろぉ! コイツの突進マジで怖えェからっ!!」

 

 上鳴は俺を指差しながら言い訳めいた説明を始めたが、クラスメイトの注目は次の試合へと移っていた。

 

「しっかし、こうやって見ると体格差が凄いな……!」

 

「うん……悪気ないんだと思うけどウチ、障子に目の前に立たれると、ビビっちゃうし……!」

 

 ただでさえコワモテの部類に入るのに、長身でガタイも良い障子に、普通の高校生ぐらいの体型でしかない切島。ああやって見比べると、大人と子供の戦いだ。

 だが切島はそんな障子を見ても、恐れる様子は一切ない。

 

「今度はどうなるかな? 切島くんの強さは単純明確あの硬化一本だけかもしれないど似た様な個性を持ってる切裂くんと特訓しているから生半可な攻撃は一切通用しないと思った方がいい。それに切島くんの身体能力は据え置きだから格闘のセンスも抜群だし体格のある障子くんにも互角以上に戦えるかも。障子くんは複製腕による索敵が最大の強みだけどこの何の障害物もないスタジアムの舞台じゃほとんど意味なさないからあの筋肉と腕力で勝負してくるに間違いない。お互いにパワー同士のぶつかり合いか……個性把握テストで見せた馬鹿力があるとはいえ物理的な攻撃じゃ切島くんの防御力には敵わないかもしれないけれどあの6本の触手を腕にして搦手を使われたら…………ブツブツブツブツ」

 

「ねえ、もしかして……俺と上鳴くんの時も、こうなってた?」

 

「うん……」

 

「バッチシ……!」

 

 相変わらず呪文を唱え続けている緑谷を見ながら、後ろの尾白と隣の芦戸から返事を貰い、俺は切島の試合に集中する。

 彼が勝てば、次は俺との対戦になる。こんな最高のシチュエーションで彼が負けるとは思えなかった。

 

『ムサ苦しい第6試合スターーートッッ!!!!!』

 

 プレゼントマイク先生の試合開始の宣言と同時に、複製腕の6本の触手を腕に変化させ、8本の拳を構えた障子が対峙する。

 

『うぉぉぉぉッ!!? あんなのアリかぁーーーーッッ!!!? 8本の腕が切島を襲うゥゥーーーーーーッ!!!!』

 

 そのまま障子は大きく踏み込み、回避をしようとしない切島に接近した。

 

「うわッ!」

 

「避けねえのかよっ!」

 

 人間を超えた腕力と腕の数による暴力が切島を襲うが、彼は全身を硬化させてその攻撃を難なく受け止める。

 

『と思ったらッ、向こうはビクともしてねェーーーーッ!!! トンでもねェーー硬さだァァーーーーーーッッッ!!!!!』

 

『切島の個性は至って単純。だからこそアイツはその個性を伸ばすべく一点集中で努力してきたんだろう。自分1人だけじゃ難しいから、誰かの協力があったと思うが……大したもんだよ』

 

 どれだけ殴打を続けてもビクともしない切島に、距離を取った障子が手を痛そうに振っていた。

 

「アレ、障子の方がダメージくらってんじゃね?」

 

「普段、切裂に殴られまくってるからな……」

 

「オイラも見た事あるから言うけど……切島と切裂との訓練風景、マジでヤバいんだぞ……!」

 

 峰田が声を震わせながら説明をする中で、武舞台上の切島はニヤリと笑みを浮かべる。しかし、それだけで倒せるほど障子は単純な男ではない。

 彼は全ての腕を広げながら、ジリジリと切島と距離を詰め始める。

 

「障子君、攻め方を変えたな……!」

 

「うん!」

 

「落ち着けよ切島ぁ……!」

 

 しかし、焦って殴りかかってきた切島の鉄拳を、障子は冷静に受け止めると、それぞれ2本の腕で彼の四肢掴み、そのまま持ち上げた。

 

「あっ!?」

 

「掴まれたッ!!」

 

「オイッ、マズくねっ!?」

 

 切島もようやくマズい状況である事を理解したのだろう。必死に全身をもがいて離そうとするが、障子の馬鹿みたいな握力からは抜け出せなかった。

 

『あァァーーーーーーッとッッッ!!?! 障子が腕で切島を掴んだァァーーーーッ!!!! コレは逃れられないかァァーーーーーーーッッッ!!?!!!』

 

 アナウンスと同時に歓声が上がる中、そのまま障子は切島を頭の上で拘束したまま、場外の方へと歩き始める。

 

「投げ飛ばさないで確実に場外に着ける気だ!」

 

「うわぁ……ああされちゃもう無理だ……!」

 

「あー、ありゃ障子の勝ちだな……」

 

 周りは障子の勝利を幻視したかもしれない。誰がどう見ても『硬化』しかできない切島に勝機ないと思っただろう。

 

 『硬化』しかできなければ。

 

 俺は観客席から立ち上がり、縁に足を着けて叫んだ。

 

 

 

「くぉォォォらァァァァ勝てェェェェェェ切島ァァァァァァァッッッッ!!!!!!!」

「なにやってやがんだ切島ァァァァァァァァァァァァッッッッ!!!!!!!」

 

 

 

 偶然か、壁を挟んだ隣のB組の観客席から、鉄哲の声援も響いた。

 

「切裂っ!?」

 

「切裂くんっ!?」

 

 周りは俺の行動に驚いていた。障子には悪かったが、正直楽しみにしていたんだ。似た様な個性だったから、今日までぶつかり合ってきたアイツとの戦いを。

 

 俺達2人の声は、彼に届いたのだろうか。

 

「ウォぉぉおォぉォォォォォォォッッッッ!!!!!!」

 

 切島が叫ぶと同時に、場外ギリギリに迫っていた障子が、いきなり全ての手を放した。

 

「え!?」

 

「どした!?」

 

『おーーッとォーーーッ!!? 障子が手を離したぞッ!!!? 何があったんだァァーーーーッ!!?!!?』

 

『今のは……?』

 

 観客席のクラスメイト達も、相澤先生にも彼に何が起こったのか、わかっていなかった。

 急に体の自由が解放された切島は武舞台の上を転がったが、すぐに起き上がる。そして自分の手の平を硬化して確認する。

 

 切島を手放した障子も自分の手の平を見ていたが、その手からは真っ赤な血が流れ出て、武舞台の床に垂れた。

 

「障子くん、手から血が……!」

 

「ケロっ……切島ちゃんも、よくわかってないみたいね!」

 

 蛙吹の言う通り、切島も自分の体を確認している。本人も何が起こったのか、わかっていない様子だった。

 

 でも、俺には何が起こったのかわかった。

 

 限界まで硬化を超える彼の、少しその先の姿である事に。

 

 

 

 故に、俺は彼の背中を押した。

 

 

 

「行けェェェェェェッッッッ!!! 切島ァァァァァァッッッ!!!!!!」

 

 俺の声援の最中、思考から覚醒した切島は動揺している障子の懐に肉薄し、彼の鳩尾を正確に突いた。

 

「入ったぁッ!!!!?!」

 

「今のは痛いッ!!!!!」

 

 深々と入った切島の拳が障子を浮き上がらせ、彼の巨体はそのまま武舞台の外へと放り飛ばされた。

 

『障子くん場外ッ! 切島くん2回戦進出ッ!!!』

 

「スゲーーーッ! 逆転だっ!!!」

 

「ッたく……ハラハラさせやがって……ッ!」

 

 鉄哲の声を聞きながら、思わず座席に腰を落とした俺とは裏腹に、響き渡る大歓声の中で、切島が俺達の観客席の方を見ながら、いい笑顔でガッツポーズをしていた。

 

 それを見届けた俺の隣で、緑谷が麗日のいない事にようやく気づいて、飯田と共に席を立った。

 

 

 

 

 

 第7試合

 

 常闇 VS 八百万

 

 

 

 

 

「切裂ィィーーーーッッ!!!! 俺勝ったぜぇェェ〜〜〜〜ッッッ!!!!」

 

「見てたよっ、凄かった!」

 

「おめでとーーっ!」

 

「大逆転だったなっ!!!」

 

 まだ1回戦なのに、優勝したのかと言いたいぐらいに泣きそうになって喜んでいる切島を、俺達は優しく迎え入れる。

 ソコへ、壁から上半身を乗り出して、B組の鉄哲が顔を出した。

 

「切島ァ!!! 油断なんかしやがって……ッ、でも最高に熱かったぜッッ!!!!」

 

「おうっッ、サンキュー鉄哲ッ!!!!!」

 

「鉄哲、危ないから降りて!」

 

 2人が暑苦しい絆で盛り上がっている途中、奥から拳藤のお叱りが聞こえて、彼がB組に引っ込んだ。

 切島は自分の席である爆豪の隣に着く。

 

「なあっ、何があったんだ!?」

 

「いきなり障子が手離したじゃんか!」

 

 早速周りのクラスメイト達から質問攻めにされているが、切島は自分の硬化させた手を見ながら、声を小さくして話す。

 

「……俺にもよくわからねえ……ただ、障子を振り解こうとして、硬化を限界まで上げたら……いきなり離されたんだ」

 

「障子くん、手ケガしてたよ?」

 

「ああ……確かに硬化すると表面に角がつくから、擦れて切れたのかもしれねえけど……あんな深い傷にはならねえハズだ……」

 

「………………」

 

 隣でジッと観戦していた爆豪も切島を見ていたが、彼はひと言も話さなかった。

 結局、切島の中ではよくわからないままだったが、彼が間違いなく成長して次の段階へと進もうとしている事に関して、俺は何も言わなかった。

 

「……? なんか嬉しそうだねっ」

 

「そうかな?」

 

 芦戸に指摘されて誤魔化していると、今度は客席の通路から障子が戻ってきた。切島に切られた手も、リカバリーガールの治癒ですっかり元通りだ。

 

「ドーンマーイっ!」

 

「障子も惜しかったな〜!」

 

「確実に勝つつもりだったが……あんな手を残していたとはな」

 

「切島もよくわかってないんだけどね〜」

 

「そうなのか?」

 

 クラスメイト達が話し合いを続けていると、次の試合の対戦カードが電光掲示板に表示され、観客のボルテージが盛り上がる。

 しかし、せっかくスポブラ丸出しの八百万の試合が始まるというのに、俺の後ろの方の席に座っていた峰田が、コクンコクンと眠たそうに首を傾けていた。

 

「おい、峰田」

 

 隣に座っている障子が彼を揺り起こそうとしていたが、それよりも早く俺は振り返って彼の行動を止める。

 

「ゴメン障子くん、峰田くんコッチにちょうだい」

 

「あ? あぁ……わかった」

 

 複製腕で座席越しに軽々と運ばれる峰田を受け取って、俺は彼を膝の上に乗せて身体を預けさせた。

 

「ZZZ……」

 

「もうっ、完全に眠ってるじゃない……!」

 

「試合始まるってのに、コイツよく寝てられんな……!」

 

 芦戸と耳朗が悪態をつく中、俺は膝の上に乗せた夢見心地の峰田の頭を撫でながら、ハッキリと告げた。

 

「峰田くんはね……身体の成長が小学校低学年で止まってるんだ。だから、すぐ眠たくなるんだよ……!」

 

「え……?」

 

「そ、そうなんだ……ゴメン」

 

 峰田の見た目はほとんど人間と大差ないが、一応は異形型に分類される。

 身長が低いせいで日常生活の不便はもちろん、スポーツするにしてもハンデを背負ってる。遊園地行ってもアトラクション系に乗れないし、ギターとかの楽器も、腕や足が短くて満足に操作できない。内臓も子供のままらしいから、成人しても酒と煙草は無理だろう。車とバイクも無理か。

 結果、彼に残ったのは学力とヒーローとエロスの3本立てである。ソコでエロスにまで走ってしまうのが峰田という男なのだが、俺はそんな彼を止めようとはしなかった。

 彼のアイデンティティは、それしか残っていないのだから。

 

「いいさ。峰田くん、そーゆー扱いされるの、凄く嫌がるから…………」

 

「でもスゲーよっ、そんな体で頑張ってんだからな!」

 

「体力、筋力、個性もやれば伸びるんだけど……ベースがどうしても子供のままだからね……特性は引き継がれちゃうんだ」

 

「そうなんだ……」

 

 クラスメイト達に見守られながら、眠っている峰田の体を、赤ん坊を寝かしつけるかの様に、ポン……ポン……と等間隔で優しく叩く。子供扱いだってのは重々承知だが、俺は彼に言葉で気遣った事は1度もない。精々、悪フザけの時ぐらいだ。こうして、彼の特性を理解した上で、コッソリ手助けしてあげるのが1番良い関係だと思っているから。

 

 そうして峰田を寝かしつけている間に、次の試合が始まった。

 

『そんじゃ、次いってみようッッ!! 攻防一体ッ、ダークシャドウを従える暗きサムライ!!! ヒーロー科ッ、常闇 踏陰ッ!!!!』

 

 武舞台の上で、腕を組んだ仁王立ちで八百万に対峙する常闇。肝心のダークシャドウは、まだ出てきていない。

 

『バァーーサスッ! 万能創造ッ、推薦入学とあって、その才能は折り紙付きィッ!!! ヒーロー科ッ、八百万 百ォッ!!!!』

 

 対して八百万は片手で反対の腕を掴んだまま、緊張しているのが見て取れた。

 

「ヤオモモ……緊張してるね……!」

 

「まぁ、実質ダークシャドウが相手だからなぁ……」

 

「アレを捌けないと勝ち目がないぞ?」

 

「何か弱点でもありゃ、いいんだが……」

 

 推薦の八百万とはいえ、クラスの中でも攻撃寄りの個性である常闇の勝利に、クラスメイト達は傾いていた。

 

『第7試合スタァーートッ!!!!』

 

 八百万が想像するよりも早く、常闇の腹からダークシャドウが真っ直ぐ飛び出す。

 

「やっぱり速攻かっ!」

 

「早えッ!!」

 

 八百万は盾を創造してダークシャドウの直撃を防いだが、すぐさま旋回して彼女に連撃を浴びせる。

 

「ダメだっ、創造が追いついてない!」

 

 盾を吹っ飛ばされて、次の盾を創造するも、ダークシャドウの攻撃は止まらない。

 あのバケモンの強さは騎馬戦で散々思い知った。光を出せない俺では、対処できるか不安になる相手なのだ。

 

 八百万に創造させる隙を作らなかった常闇は、そのままダークシャドウで彼女を場外に押し出して勝利した。

 

『八百万さん場外ッ! 2回戦進出、常闇くんっ!!』

 

 ダークシャドウを収納した常闇は、最後に八百万へお辞儀をしてから背を向けて武舞台から降りていく。対して八百万は呆然としてから、俯いて少しおぼつかない足取りで武舞台から降りた。

 

『圧勝ッ!! まさに圧勝ッ!!! 常闇のダークシャドウッ! コレって最強の個性なんじゃねえのーーッッ!!!?!』

 

「つ、強い……!」

 

「盾だけに攻撃を集中し、隙を突いて押し出したな」

 

「それでいて、八百万は一切キズつけてないし……」

 

「それだけ余裕があるって事か……!」

 

「八百万……悔しいだろうな」

 

「オイラ達よくアレ防いだよな……」

 

「アレ、峰田くんお目覚め?」

 

「うわぁッ!? オイ放せッ!」

 

 急に会話に参加してきた寝起きの峰田だったが、俺の膝の上に座らされている事に気づいて、暴れ始める。

 

「あァァ〜〜〜〜〜ッッッ!!?!? コレ八百万の試合だよなァッ!!? うたた寝してヤオヨロッパイ見逃したァァーーーーーッッッ!!!!」

 

「もう一度眠らせようか……!」

 

「そうね……!」

 

 芦戸の同意によって、耳朗のイヤホンジャックが光った。暴れる峰田を俺は膝の上に押さえつけ、次の試合が始まった。

 

 

 

 

 

 第8試合

 

 爆豪 VS 麗日

 

 

 

 

 

 峰田を解放して元の席に戻した俺は、次の試合の電光掲示板を確認する。

 

「次……ある意味、最も不穏な組ね……」

 

「ウチ……なんか見たくないな……」

 

 始まる前から耳朗が不安を漏らすのも仕方がない。電光掲示板に映し出された、この組み合わせを見て不安にならないヤツの方がおかしい。

 

 そこに常闇と八百万が一緒になって戻ってきた。

 

「常闇君おめでとう!」

 

「やっぱつえーよダークシャドウ」

 

「サンキュー ! 」

 

 砂藤の称賛に、常闇の腹から出てきたちっちゃいダークシャドウが機嫌の良い反応を見せた。

 

「八百万の個性は強力故、短期決着を仕掛ける以外勝算はなかった。申し訳ない」

 

「いえ……それも立派な戦略です。私もまだまだ成長がたりませんでしたわ」

 

「ドーンマーイ八百万っ!」

 

「これからも頑張ってこー!」

 

 クラスメイト達が八百万を慰めていたが、彼女は自分の席が芦戸に取られている事にすぐ気がついた。

 

「あれ、芦戸さんソコは私の……」

 

「えっ、ダメ!? いいよね!? いいでしょ! ホラっ、隣は空いてるから!!」

 

「え、えぇ……!」

 

 彼女の勢いに押されて、八百万は芦戸の座っていた席へと腰を下ろした。

 クラスメイト達の仲が少し明るくなったが、それも次の試合が始まった瞬間、緊張が走った。

 

『第1回戦ッ、最後の第8試合ッ!! 中学からちょっとした有名人ッ! 堅気の顔じゃねえッッ!!! ヒーロー科ッ、爆豪 勝己ィッ!!!!!』

 

 プレゼントマイク先生の紹介は、ニュースにもなった『ヘドロ事件』の事だろう。ジャージのポケットに手を突っ込み、チンピラみたいな地面を擦る歩き方で、爆豪が武舞台に上がる。

 

『バァーーーサスッッ!!! ……俺こっち応援したいぃ…………ヒーロー科ァッ! 麗日 お茶子ォッ!!!!!』

 

 本音を出したプレゼントマイク先生に全力で同意したくなるぐらい、この試合は緊迫している。

 武舞台の上に立った麗日は、大きく深呼吸をしてから爆豪と対峙した。

 それをひと1倍強い視線で見守るのは、先ほど控え室から観客席に戻ってきた飯田と緑谷だった。

 

「緑谷くん……先程、麗日君に言おうとした、爆豪君対策とは何だったんだい?」

 

「本当、大した事じゃないけど…………かっちゃんは強い! 本気の近接戦闘はほとんど隙なしで、動けば動くほど汗をかいて、爆破の個性が強力になっていく! 爆破も利用して空中移動もできるけど、麗日さんがかっちゃんに触れ、個性で浮かせちゃえば主導権を握れる。だから……最初に麗日さんが選択するとしたら…………速攻ッ!!!」

 

『第8試合ッ、スターーートッッ!!!!!』

 

 プレゼントマイク先生の宣言した試合開始と同時に、彼女は低姿勢で突進した。

 

「よしっ、それでいいっ! 事故でも何でも、触れさえすれば浮かせられる!」

 

「爆豪君的には、麗日君に間合いを詰められたくないはず!」

 

「だから、かっちゃん的には回避じゃなくて迎撃!」

 

 緑谷と飯田の解説が続く中、爆豪の目の前まで接近した麗日だったが、その姿が爆豪の爆破に包み込まれた。

 

「ヒイッ……!」

 

「モロかよぉ!」

 

「女の子相手に容赦ないわね、爆豪ちゃん」

 

 おそらく、爆豪の反射速度に麗日が追いつけていないのだろう。

 爆煙の中から上着を囮にして爆豪の隙を狙ったが、完全にカウンターで爆破を貰った。

 

 そこから麗日は何度も爆豪へ果敢に挑み続けるが、彼の強力すぎる爆破と人並み以上の反射速度で返り討ちに遭い続けていた。

 

「お茶子ちゃん……!」

 

「ヤダッ、ウチ見てらんないっ!」

 

「爆豪……女の子痛めつけるのは、さすがのオイラも守備範囲外だぞ……」

 

 クラスメイト達の青ざめた声は、ココだけではなく、放送席のプレゼントマイク先生からも漏れ出す。それでも麗日は立ち上がって突進を仕掛ける。

 

『麗日……ッ、休む事なく突撃を続けるが……ッ!! コレは…………』

 

『………………』

 

 何度も武舞台で繰り返される爆豪の一方的な攻勢に、とうとうスタジアムの観客席からブーイングが起こり始めた。

 

「オイオイ……マズくねえかコレ?!」

 

「なんだよっ、麗日も爆豪も真面目にやってんだろーが!」

 

「ウルセーーーぞーーーーッ!!!!」

 

「麗日さん……!」

 

 クラスメイトの一部がブーイングに反発しているが、1人の声じゃこのスタジアム内には響かない。

 しかし、そのブーイングが本格的になる前に、放送席の相澤先生が動いた。

 

『今、遊んでるっつったのプロか? 何年目だ!? シラフで言ってんなら、もう見る意味ねえから帰れ。帰って転職サイトでも見てろ!』

 

「相澤先生……!」

 

「せ、先生……っ!」

 

「カッケぇ……!」

 

 先生の一喝で、スタジアムが静まり返った。確か、俺の中で先生の評価爆上がりしたのは、ココだった。きっとクラスメイト達も、そうだったのではないだろうか。

 そんな先生の説教を聞きながらも、俺は武舞台とも放送席とも別の方向を見ていた。

 

「麗日ちゃん、凄いね……! コレ、家一軒……いや、数軒分はあるんじゃない……?」

 

「へ? …………なッ!? なぁぁ!! ───ムグッ!!?」

 

 俺の視線の先に気づいた芦戸が叫ぼうとして、思わず彼女の口を塞いだ。

 

 スタジアムの上空には、爆豪が爆破で破壊した武舞台の瓦礫が、空を埋め尽くすぐらいの勢いで浮いていた。

 

 全部、戦闘のどさくさに紛れて、麗日が浮かせた物だ。成長すれば彼女、高層ビル一棟ぐらい浮かせてしまえるのではないだろうか?

 

「低姿勢での突進で爆豪の打点を下に集中させ続け、武器を蓄えてた。そして絶え間ない突進と爆煙で相手の視野を狭め、悟らせなかった……! お分かりかな?」

 

 いきなりB組側から鉄哲ではなく、物間が身を乗り出して、驚いている芦戸に丁寧に説明してから、ドヤ顔晒してまた戻っていく。

 ツッコみたいのは山々だったが、今のクラスメイト達は誰もが麗日の勝負に集中していた。

 

 彼女が両手を合わせて、個性を解除する。

 

 上空の瓦礫が、一斉に爆豪に向かって落下していく。

 

 それと同時に再び麗日が駆け出し、爆豪に接近する。

 

「行けェッ!!」

 

「頑張れっ!!!」

 

 2方面から攻めれば、隙が生まれる。麗日はそう思っただろう。

 

 だが、爆豪は片腕がイカれるぐらいの爆破を上空に放ち、瓦礫諸共麗日を吹き飛ばした。

 

 その威力はスタジアムの外まで、瓦礫の一部が吹っ飛んだ。

 

『ば、爆豪ッ! 会心の爆撃ィッ!! 麗日の秘策を堂々正面突破ァーーーーーッッ!!!』

 

 策は潰された。

 

 それでも麗日は立ち上がって、爆豪へと駆けようとする。

 

「麗日君……!」

 

「キャパ、とっくに超えて……」

 

 だが、浮かせる許容は限界を超えていただろう。

 

 彼女の足取りはままならず、走る事すら叶わなかった。

 

「お茶子ちゃんっ!!」

 

「やめて麗日っ!!!」

 

 対して爆豪もまだ倒れようとしない彼女に向かって駆け出した。

 

「かっちゃんっ!!!」

 

「オイ、止めろッ!!!」

 

「爆豪ッ!!!!」

 

 だが、その爆豪が近寄るよりも早く、麗日は倒れた。

 

 まだ動こうとしているけども、もう立てないのは爆豪も、誰が見てもわかった。

 

 ミッドナイト先生が武舞台まで上がり、彼女の様子を確認してから、大きく宣言する。

 

『麗日さん行動不能ッ! 2回戦進出、爆豪くんッ!!!』

 

『1回戦、第8試合…………ハァ……麗日……うん、爆豪、1回戦突破……』

 

『ちゃんとやれよ、やるなら……』

 

 会場の歓声とは裏腹に、あまりにもテンションが下がりすぎているプレゼントマイク先生。そういえば、雄英の入試で、麗日が自分のポイントを緑谷に渡したいって頼んだ教師の相手、あの人だわ。

 ずっと印象に残っていたのだろう。見た目はあんなんだが、あの人の根は優しい教師だ。こうなるのも仕方がなかった。

 

 麗日が担架ロボに運ばれて、セメントス先生が武舞台の修理を始めている。彼がヘコんでいても着々と次の試合は始まっていくのだ。

 

『さぁ……気を取り直してェェェ……ッ!!!! 1回戦が、ひと通り終わった〜〜〜ッッッ!!!!! 小休憩挟んだらッ、早速次いくぞォォッ!!!』

 

『私情凄えな……』

 

 無理矢理元気出してるプレゼントマイク先生の宣言により、ひとまず小休憩と言う事で時間の予定が電光掲示板に示され、会場の人がまばらになっていった。

 

 次の対戦は緑谷対轟。まだ掲示板には表示されていないが、別のモニターに映るトーナメント表が、その事実を告げる。

 

「………………」

 

 不意に、緑谷が席を立ったが、俺はすかさず彼を呼び止めた。

 

「緑谷くん」

 

「え?」

 

 深い事は言わず、俺は彼の目をしっかりと見て、サムズアップを立てた。

 

「いってらっしゃい」

 

「っ……うん!!」

 

 彼も大きく頷いて、背を向けて歩いていく。

 

「麗日のトコロかな……!」

 

「うん絶対……!」

 

 芦戸と少しだけ彼の事を茶化しながら、俺は誰もいなくなった武舞台を眺める。

 

 正直、このまま彼を戦わせるのは心苦しかった。

 

 でも……今の轟を救えるのは、緑谷しかいない。

 

 そう思いながら、俺は次の試合を待ち続けるのであった。

 

 

 

 

 

 次回『第2回戦』

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