呪術師と茘の者たち   作:有苑

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原作軌道少しやり辛いんで、視点を変えます。


第9話 堀騒動

壬氏(じんし)の家にある、開けた庭。そこで、雅彦(まさひこ)麟扁(リュウヘン)は、拳を交えていた。

 

(昨日、外壁にいた人。何だったんだろうな…)

 

「おーい、雅彦ー!」

 

「…どうした?」

 

「いや、お前がぼさっとしてどうすんだよ。」

 

「それもそうか、すまん。…一先ず、全力で来い。」

 

「ふっ、後で泣き言言うなよ。オラッ!」

 

ドン!

 

麟扁が放った正拳突きを、雅彦は片手で受け止める。

 

「こんなもんか?」

 

「舐めんな…よッ!」

 

1発、2発と、連続で拳がとんでくるが、雅彦は意に介さず、全てを弾く。

 

「クッ……オラッ!」

 

「フッ…フン!」

 

ガン!

 

麟扁が9発目を放った時、同じように片手で受け止めると、麟扁は分かっていたように左手に力を籠め、撃つ。しかし、それすらも止められ、お返しと言わんばかりに顔面に軽い蹴りを食らう。

 

「うッ…いってえ。」

 

「ほら、立て。こんなんじゃ終われねえぞ。」

 

「…何で、分かったんだよ。」

 

「左手に呪力が集中してたからな。」

 

「そんなことも分かんのか。」

 

「ああ、というか、お前にもみっちり教え込むからな。」

 

「はいはい。」

 

「まず、前提知識として、呪力はへその辺りから全身へ巡る。その感覚が分かるか?」

 

「はっきり言うと、全く分からん。呪力ってのも、最近知ったしな。」

 

「じゃあ、力を籠めると、掌に変な靄がかかるのが分かるか?」

 

「それは分かる。…なんか、手が軽く感じるんだよな。」

 

「まずはそれを、右腕全体に巡らせられるようになれ。」

 

「えっと…全体…こっ、こうか?」

 

「ああ、その状態で戦ってみろ。」

 

「…きっ、キツイんだけど。」

 

「だろうな、お前は今まで呪力というものを知らなかった。故に、本来、少し意識を向けるだけで成立する呪力操作が、逐一説明書読みながらじゃねえと成り立たなくなる。そのうえ、呪力消費も抑えられねえから、その状態は、重りをずっと持ち上げているようなもんだ。」

 

「だから、模擬戦でそれをずっとやって、呪力操作を体に馴染ませると。」

 

「そう、それが終わったら、体全体や、一部の部位に集中させられるようにする。」

 

「やることだらけか…」

 

「そうでもしねえと、例の呪霊は、祓えない。」

 

「…分かった。どこまでも極めてやる。…行くぞ!」

 

「腕全体に巡らすのを、忘れんじゃねえぞ。」

 

 

 

 

 

 

2時間後

 

「あ”-疲れた。」

 

「ご苦労さん。水持って来るから、ゆっくりしてろ。」

 

「分かった。そうするわ。」

 

「……………ほら、持ってきたぞー。」

 

「お、ありがとー……そういえば、壬氏様たち何処に行ってんの?」

 

「あー、壬氏様たちは、猫猫(マオマオ)が媚薬なるものを調合してるらしくて、それの視察に向かわれたよ。」

 

「媚薬?なんだそれ。」

 

「俺も知らん?まあ、興奮作用がある薬?だと思ってるけど。」

 

「…それって呪霊にも効くんじゃねえか。」

 

「アホか、大多数の呪霊は、そういうの喰えねえよ。」

 

「喰える呪霊もいるのか?」

 

「多分。…見たことないけど。」

 

「何だよ…」

 

「仕方ねえだろ。理性をちゃんと持った呪霊なんてそうそういないんだから。」

 

「理性をしっかり持っているというか、普通に人間と意思疎通ができると、どれぐらい強いんだ?」

 

「何ら問題なく意思疎通が可能であれば、殆どの個体は“特級”だ。」

 

「特級?どれぐらい強いんだ?」

 

「呪術師や呪霊には、主に1から4の階級がある。呪霊が俺と同じように、術式を持っているのであれば、準1級以上に分類される。因みに、前祓った水の呪霊は、1級の中でも弱い方の部類だ。」

 

「それで、特級は?」

 

「…俺たちが探してる、例の呪霊が、それにあてはまるだろう。」

 

「そうじゃなくて、どれぐらい強いんだ、って聞いてんだ。」

 

「…上澄みの連中なら、国を滅ぼせる。」

 

「………えっ?…マジで?」

 

「ああ、だから言ってるだろ。例の呪霊を祓うには、俺もお前も、もっと強くなる必要がある。」

 

「そうか……分かった。」

 

「雅彦、いるか。」

 

「あれ?壬氏様に高順(ガオシュン)様、視察は、もう済ませられたのですか。」

 

「ああ、麟扁もいるならちょうどいい。」

 

「俺もですか?」

 

「ああ、………幽霊騒ぎを知っているか?」

 

「「幽霊騒ぎ?」」

 

「あっ、もしかして、夜中、外壁にいる方のことですか。」

 

「何それ?」

 

「雅彦は知っていたのか。」

 

「ええ、つい先日、見かけましたので。…一応報告させていただきますが、その方は、呪霊ではありません。」

 

「何故分かる?」

 

「気配が、呪霊ではなく、人間特有のものでしたので。」

 

「…おっしゃる通り、あそこで舞を踊っているのは、芙蓉妃(ふようひ)と呼ばれる中級妃です。」

 

「呪霊でなければ、一体なんだ?」

 

「私に聞かないでください。」

 

「何故だ?」

 

「私の専門は呪霊をはじめとする呪いです。病などに関する知識など、大して所持していません。」

 

「そうか…」

 

「しかし、」

 

「何だ?」

 

「…例の呪霊は、確実に後宮内にいます。それを考えると、夜に外出されるのは、些か…」

 

「そうか、では、いち早く解決しなくてはだな。」

 

「…貴方様は、最初から猫猫を頼る気でしょう。」

 

「…ふっ、ああ、その通りだ。…夢遊病ではないかと推測されている。」

 

「私に質問をしたのは、最善手を打てるようにするためですか。」

 

「お前も勘が良いな。…呪霊が関わっていれば、必要以上の危険が及ぶ。」

 

「ええ、その通りでございます。」

 

「…お前たちには、念のため、明日の夜から芙蓉比を監視しておいてほしい。」

 

「承知致しました。」

 

「何故、明日なんですか?今夜ではなく。」

 

「今夜は、薬屋に観察に行ってもらう。明日からの方が、話をまわしやすい。」

 

「なるほどな。」

 

「壬氏様。」

 

「どうした?」

 

「遠征部隊の件は、どうなりましたか?」

 

「無事解決したぞ、村長の処刑を止めた、疏學(そがく)という武官が、武勲を立てられたらしい。」

 

「左様ですか。教えていただきありがとうございます。」

 

「気にするな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

明後日の夜

 

雅彦と麟扁は、東の外壁に向かって歩いていた。

 

「なあ、雅彦。」

 

「どうした?」

 

「なんか、空気が重たい気がするんだけど。」

 

「それが、呪霊が出している呪力だ。」

 

「なるほど……これずっと感じてたら、おかしくなるだろ。」

 

「そのうち慣れる。……そうだ、試しに、今この瞬間で1番呪力が大きいのが、どこか調べてみろ。」

 

「えっと……東の……上空?」

 

「……?どういうことだ?」

 

「いや、壁の上だな、壁?」

 

「「————!……芙蓉妃が危ない!」」

 

2人は打って変わり、全力で走り始める。

 

 

東外壁

 

「ん?物音?」

 

その瞬間、芙蓉妃の顔を何者かが掴む。

 

(誰?何?———!なに、こいつ!)

 

人は、死にかけた時、非術師であろうとも、呪霊が視えるようになる。芙蓉妃の目の前には、正体不明の化け物が映っていた。

 

「ヤメロオォォ!」

 

呪霊が芙蓉妃の頭を砕こうとした次の瞬間、麟扁が割って入り、殴り飛ばす。

 

「グゲエ”エ”エ”……ゲゴゲゴ」

 

「チッ、あんま効いてねえな。」

 

「麟扁!」

 

雅彦は壁の、さらに上空から降り立つ。

 

「雅彦!こいつ強えぞ。」

 

「分かってる、麟扁は芙蓉妃の保護を頼む。」

 

「分かった!」

 

「“夜桜(よざくら)(みき)”」

 

櫻の幹が生成され、呪霊に向かって伸びる。

 

ドオンッ!ドオンッ!ボカアァンッ!

 

全て、当たることはなく、呪霊の周りを囲む。

 

「オラァ!」

 

雅彦は呪霊に殴りかかるが、身軽な動きで回避されると、逆に堀に突き飛ばされる。

 

(やべえな………クッソ!)

 

「“夜桜(よざくら)()”!」

 

外壁から根が生え、足場を形成することによって、雅彦は堀に落ちずに済んだ。目にも止まらぬ速さで飛び上がり、呪霊の頭に蹴りをぶち込む。

 

「グゲガア………グガガ!」

 

蹴りは呪霊に命中したが、呪霊は堀に落ちる直前で、雅彦の足を掴み、道連れにする。

 

「放しやがれ!」

 

ドポオォン!

 

共に堀に落ちる。

 

(“夜桜(よざくら)()” 樹霊突貫(じゅりょうとっか))

 

雅彦は樹霊突貫を放つが、水中にいる為、速度が著しく落ち、避けられる。

 

(呪霊の動きが早くなった。こいつ、蛙か何かか!)

 

呪霊は、縦横無尽に泳ぎ、雅彦を撹乱する。

 

(せめて、逃げ場を無くせれば…息もキツくなってきた。でも、上がるのは隙ができる。どうする?)

 

その瞬間、呪霊は雅彦の体を掴み、沈める。

 

(グッ……水も冷てえし、ヤバイ。いや、もう、場を利用するしか。)

 

そうこうする内に、雅彦の体が海底にぶつかる。雅彦は、海底に右手を沈めた。

 

(“夜桜(よざくら)(みき)” 呪具顕現(じゅぐけんげん)布都御魂(ふつのみたま)!】)

 

 

 

 

 

一方その頃

 

「大丈夫ですか?」

 

「ええ、大丈夫よ。…少し、足を捻ってしまったぐらいで。」

 

「左様ですか、取り敢えず降りましょう。掴まれますか?」

 

「ええ、大丈夫よ。」

 

「しっかり掴まっててくださいね。」

 

(両脚に呪力を巡らせてから、飛び降りるッ!)

 

ドサッ

 

「ありがとう、歩けるから大丈夫よ。」

 

「分かりました。…何故あんな事を?」

 

「…私がとある武官に下賜されること、ご存知?」

 

「いえ、何も。」

 

「そう、貴方はその事をどう思うの?」

 

「俺には、貴方がどう思うなんて、分からないです。」

 

「その武官はね、私の幼馴染なのよ。…名は、蔬學。」

 

「先日の遠征騒動で、武勲を建てられた人ですか?」

 

「ええ、心配だったのよ。あの人が、だからこうして、毎晩踊っていたんだけど…結局、得意な舞を踊れなくなってしまった。罰が当たったのかしら。」

 

「罰?」

 

「ええ、私は、大嘘つきだもの。帝の寵愛を避けるために、舞を失敗して、夢遊病のフリをした。」

 

「そうだったんですか。」

 

「………あなたは、この事を報告するの?」

 

「…いえ、俺も、俺の相棒も、報告するつもりはありません。」

 

「どうしてかしら?」

 

「自分が愛する人がいて、自分を愛してくれる人がいる。それは、とても素晴らしい事ですから。それに、下賜されるのは、もう決まった事でしょう。」

 

「それもそうね。」

 

「ですが、またあんな化け物に襲われたら大変です。これからは、自分の宮で、想い人の無事を祈っていてください。」

 

 

 

堀の底

 

(“覆水不変(ふくすいふへん)!”)

 

雅彦は斬撃を放つが、水中の為、速度が落ち、躱される。

 

(クッソ!駄目か。せめて、逃げ場を減らせれば。)

 

呪霊は、雅彦の動きが鈍っているのをいいことに、ちょっかいを掛けるように、接触する。大したダメージではなくとも、水中という都合上、雅彦の体力や息も、そう長くは持たない。

 

(逃げ場を減らす方法…1つある。でも、「お前に対して俺は給料を払わない。」「えっ、何故ですか?」「その代わり、何か欲しいものがあったら俺に言え。」「小遣い式なんですね。」「ああ、それに、お前が出した損害も、俺が払う。建物の修繕費とかだな。」…壬氏様、しっかり払ってくださいよ。)

 

雅彦は覚悟を決め、少し浮上する。

 

(ふぅー、“無機無骨(むきむこつ)”)

 

そう唱え、斬撃を水面の方へ飛ばす。斬撃は止まる事なく、水の中を脱出すると、目の前にある橋にぶつかった。橋は真っ二つに別れ、崩れ落ちる。

 

〈≪特級呪具•布都御魂剣(ふつのみたまのつるぎ)≫そのもう1つの効果。≪無機無骨≫を発動した瞬間、使用者は一時的に無機物の魂の観測が可能になり、≪覆水不変≫の時とは異なる。物理的衝撃を与える呪力を発生させる。それにより、強度、厚さに関係なく、あらゆる無機物を例外なく斬る事ができる。そのうえ、≪呪具顕現≫の恩恵により、斬撃を飛ばすことも可能である。〉

 

橋が崩れ落ちたことで、呪霊は囲まれ、逃げ場を失う。

 

(さっきは避けられたからなあ、油断は無しだ。“覆水不変” 剋冥葬(こくめいそう))

 

ジャギイィン……ズジャジャジャガアン!

 

たった、1発の斬撃は、数十、数百の斬撃に分裂し、爆ぜる。呪霊は、なす術もなく、切り刻まれるのだった。

 

〈≪剋冥葬≫雅彦の技の1つ≪呪具顕現≫の恩恵により、通常の斬撃から、圧倒的な殺傷力を引き出す技。呪力消費が激しいうえに、周りへの被害も大きい為、使い勝手は悪い。〉

 

(終わったー。ッ!ヤベッ、早く上がらねえと。)

 

雅彦は堀を上がる。

 

「おい、」

 

「どうした、麟扁?」

 

「これ、やったのお前か?」

 

麟扁は、崩れ落ちた橋を指差す。

 

「まあ、多分。壬氏様が、弁償してくれるよ、多分。」

 

「知らねえからな。」

 

「芙蓉妃は?」

 

「無事だ、宮に帰らせた。これ以上は、外出されされねえ。」

 

「だな、適当に、夢遊病の防止策とでもでっち上げるか。」

 

「そうだな。」

 

 

 

 

下賜当日

 

「どうだった?」

 

「嬉しそうだったよ。」

 

「そうか、悪いな。見に行ってもらって。」

 

「仕方ねえだろ、お前が見に行けねえんだから‥はあ。」

 

「あはは、ごめんねー、ブェクシュン!」

 

「あーあ、たっく、お前は……なんで風邪引いてんだよ!

 

「悪い、水中で闘ったのが祟ったわ。」

 

「呪術師が祟られてどうすんだよ………イマイチ、締まんねえんだよなあ。」

 

 

 

 

風邪で休んでいた雅彦は、梨花妃(リファヒ)の件で、猫猫がブチギレていたことなんて、知る由もなかった。




終わったあ
こんな感じでどうでしょうか?

次回もお楽しみに
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