呪術師と茘の者たち   作:有苑

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猫猫の里帰りは丸々カットになると思います。はい。


第11話 飲みすぎか術師か

壬氏(じんし)高順(ガオシュン)雅彦(まさひこ)麟扁(リュウヘン)の4人は、猫猫(マオマオ)が吐き戻しているのを眺めていた。

 

(何を見せられているんだ…俺らは。)

 

一通り吐き終えると、壬氏は猫猫に質問する。

 

「…大丈夫か?」

 

「はい。もう何も出ません。」

 

「はあ…では、話を聞こうか。誰が、玉葉妃(ぎょくようひ)に毒を持ったのか。」

 

「そのことで、連れてきてもらいたい方がいます。」

 

「誰だ?」

 

「徳妃・里樹(リーシュ)様を呼んでいただけませんか?」

 

「分かった。では、場所を変えよう。」

 

「手配はもう、済んでおります。」

 

 

 

 

 

数十分後

 

 

 

 

壬氏たちがいる部屋に、里樹妃と毒見役の侍女が入って来た。

 

「壬氏様♡、私に何の御用でしょう?♡」

 

「このような不粋な場所に申し訳ありません。お呼び立てしたのはこちらの侍女でして。」キラキラ☆

 

「えっ!」「プッ」

 

壬氏ではなく猫猫に呼ばれたことを知り、里樹妃は悔しがる。横にいる毒見役はその光景を鼻で笑っていた。

 

「フッ、侍女が…何の用よ」

 

そんなことを言いながら、里樹妃は自分の左腕を掻くそぶりを見せる…その光景を猫猫は見逃さなかった。

 

「失礼します。」「あっ!」

 

猫猫は里樹妃の腕を掴み、袖を捲り上げる。その腕には、赤色の発疹がいくつも出来ていた。

 

「あっ………」

 

「やっぱり…食べられないのは、魚介ですか?」

 

「どういうことなんだ?」

 

その光景を見た壬氏は、猫猫に質問する。

 

「人によっては、食べられないものがあるんです。かくいう私も、蕎麦が食べられません。」

 

「毒は平気で食らうのにか………?」

 

「ほっといてください…食べられるように努力しました。しかし、気管支が狭まり、呼吸困難になりました。少量でも発疹が出るので、量の調節が難しく、治りが遅い。食べられないとは、そういうことです。」

 

「俺も同じだわ。」

 

「そうなのか?」

 

「俺、昔っから牛の乳が飲めないんだよ。飲むと、こう…息苦しくなるっていうか…」

 

「なるほどな…」

 

(猫猫の話からすると、それで収まってんのは、幼少期から呪力を無意識下で扱っているからか…やっぱ異常だな、こいつ。)

 

「里樹様、おなかの調子な大丈夫ですか?良ければ下剤を。」

 

その提案に、里樹妃は顔を赤らめながら首を横に振る。その光景を見た麟扁は、里樹妃に配慮するよう猫猫に断りを入れる。

 

「おい。猫猫、齢14の少女にそれを言うのは、ちょっと………。」

 

「麟扁、それは俺も思う。」

 

「はあ、分かりました。」

 

里樹妃は少し困惑しながらも質問をする。

 

「……なんで分かったの?」

 

「園遊会の食事は、明らかに後宮側が用意したものでした。ですが、いつもとなますの具材が違ったので、何かの手違いで、玉葉様と里樹様のお食事が入れ替わったのでしょう。」

 

「そう……」

 

(よく見てんなー、相変わらず。)

 

「食べられないのは、サバですか?」

 

「………うん。」

 

「っ!」

 

その発言に、横にいた毒見役が、少し驚いたようなそぶりを見せる。それを雅彦と麟扁は見逃さなかった。

 

「あいつが……」

 

「…そうなるな。」

 

「……ふっ、ふざけんじゃねえ!」

 

侍女としてあるまじき行為に怒りが抑えられない麟扁を雅彦は静止する。

 

「やめろ、麟扁。」

 

「何でだよ!」

 

「その行為は、里樹妃の面子を潰す羽目になる。それに、それは俺たちの仕事じゃない。…お前だって分かってるだろ。あの方が、どれだけいたたまれない境遇か。」

 

「……分かったよ。」

 

「………。」

 

猫猫は雅彦たちを一瞥したのち、再び里樹妃らの方へ向かいなおす。

 

「これは好き嫌い以前の問題です。今回は蕁麻疹で済みましたが、時に呼吸困難を引き起こします。」

 

その発言に、毒見役の顔色はどんどん青くなっていく。

 

「知っていて与えたのなら…毒を盛るのと同じことです。」

 

「ハッ………。」

 

「あなた、毒見役の方でしたね。」

 

「はっ…はい。」

 

猫猫に声をかけられ、怯えたように返事をする。

 

「万が一の場合、注意事項をまとめておきました。もちろん、取らないのが1番ですが……ご確認ください。」

 

そう言いながら、猫猫は毒見役の侍女に、木簡でできた巻物を渡す。

 

「難しいことはありません……しかし、1つ間違えれば、医官であろうとも対処できないこと……命にかかわる問題であること……ゆめゆめ、忘れないようにしてください。」

 

「はっ、はいぃぃ。」

 

猫猫の圧を帯びた忠告に、毒見役は情けなく頷くことしかできなかった。

 

「では、お帰り下さい。」

 

里樹妃と毒見役は、自分の宮へ帰っていった。

 

(取り敢えず、終わったか。)

 

壬氏は猫猫の肩に手を置き、質問をする。

 

「どういうことだ?」

 

「むっ…」

 

少しイラついた表情で、猫猫は壬氏の手を払いのける。

 

「下賤の者ゆえ、お手を触れないでいただけますか。」

 

「そんなことを言うのはお前くらいだ。」

 

「では皆、気を遣っているのですね。」

 

皮肉混じりにそんな事を言う猫猫に壬氏は溜息を吐く。

 

「はあ。」

 

「では、玉葉様に報告がありますので。」

 

そう言って翡翠宮に戻ろうとする猫猫を壬氏は引き止める。

 

「待て。なぜ毒見役の侍女を、わざわざ同席させた?」

 

「何のことでしょう。」

 

「とぼけるな。呼べと言っただろ。」

 

「注意事項を伝えるためです。」

 

「では、配膳の者が間違えたというのか?」

 

「一介の侍女には分かりません。」

 

何を聞いても交わされるこの状況に壬氏はまたまた溜息を吐く。

 

「はあ、これくらいは答えてくれ。狙われたのは、【徳妃・里樹妃】ということだな。」

 

「ほかの皿に毒が入っていなければ。」

 

「そうか。」

 

猫猫は礼をして、退出しようとする。しかし、それを今度は雅彦が引き止める。

 

「お待ちください。私が送りましょう。もう夕暮れで、暗くなってまいりましたし……よろしいですよね、壬氏様。」

 

「…そうだな。玉葉妃から侍女を1人借りておいて、身一つで返すわけにもいかない。同行してくれ。」

 

「承知しました。」

 

「…はあ、分かりました。」

 

猫猫は溜息交じりに了承をする。

 

 

 

 

 

「……何が目的ですか?」

 

猫猫のその一言は腹の探り合いの開戦を意味していた。

 

「…麟扁が怒号を上げてたの、気が付きましたか?」

 

「ええ、気づきましたよ。」

 

「そうですか……あなたは私たちを1度見た。それはあなたの考える憶測と、私たちの結論が同じだったと見て良いですか?」

 

「壬氏様にも先程申し上げましたが、一介の侍女には分かりません。」

 

「左様ですか…これは失敬。では、質問を変えます。」

 

「…何でしょうか。」

 

「あの毒見役は変われますでしょうか?」

 

「……変わる変わらないではなく、変わらなければなりません。」

 

「それは、里樹妃の周りを取り巻く環境のことを思ってですか?」

 

「…そうかもしれませんね………。」

 

認めたも同然の返答に雅彦は微笑を溢した。

 

「……にしても、今日の里樹妃は可愛らしかったですね。濃い桃色の衣装を着て……あと10年もしたら鈴麗(リンリー)公主(ひめ)もあんな衣に袖を通すのかもしれませんね。」

 

「………あっ!」

 

「……そこには、まだ気が付いておりませんでしたか。」

 

「…そこまで気が付いているのに、なぜ壬氏様には言わないのですか。」

 

「…あなたの意志を尊重した…ただそれだけです。」

 

「…はあ、あなたとの化かし合いがどれだけ不毛なのか、よく分かりました。」

 

「誉め言葉として…受け取っておきますよ。」

 

「では、着きましたので、またいつか、お会いしましょう。」

 

「ええ、また今度。」

 

 

 

 

 

 

 

雅彦は、執務室に帰ってきていた。

 

「どうだった?」

 

「私ごときが、あの侍女の推測を聞き出そうなんて、馬鹿げた話でした。」

 

「そうか…雅彦。」

 

「どうか致しましたでしょうか?」

 

「恐らく、今回の犯行は内部犯だ。」

 

「ええ。帝の寵愛を多く受けているのは、玉葉妃や梨花妃。外部の勢力ならば寵愛を一切受けていない里樹妃など、眼中にありませんでしょうから。」

 

「ああ。それに伴って今日明日、寝る暇もないと思うから覚悟しておけ。」

 

「……スゥー、では、私は水蓮(すいれん)様のお手伝いに向かいますので…「ダメだ。」…分かりました。」

 

 

 

 

 

 

 

翌日の昼頃

 

「はあ、はあ、ああいう脅し文句で、本当に寝れないなんてこと…あるんですね……。」

 

「…お前は、書類を整理したり…運んでいるだけだろ。」

 

「あなた様が眠りかけた時に、起こす役割もありますよ。」

 

「その役割、段々と雑になってないか?」

 

「高順様からある程度の力でしたら、シバいて良いと言われましたので。」

 

「だからか……。」

 

雅彦は疲れを一時的に取る為に伸びをする。そして、扉付近の窓から夜空を眺める。

 

「麟扁は……大丈夫でしょうか。」

 

「お前が大丈夫といったんだろ。」

 

「……あいつの実力は、もう相当なものなのは事実です。ですが、あの性格を考えると……。」

 

(ぶっきらぼうというか、不器用な性格でありながら人一倍人情に篤い。それは1つ1つならダメなことではない。だが、それが合わさった時。自分の状態や呪霊の強さなんて関係なく、誰かを助けるために突っ走る…お人好し馬鹿が誕生してしまう。俺は、あいつが死にかけた時に起死回生を図る資質があるのかどうか、見極め切れていない。それも、不安な要因の1つだ。)

 

「そんなに心配なら、夜だけ同行するか?」

 

「……いえ。俺はあいつを… 相棒を信じたいです。」

 

「…そうか。だったら、麟扁に構わず、集中しろ。」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

その夜、高順は、猫猫からの事情聴取の結果を報告しにきた。

 

「………以上です。」

 

「なるほどね……いつ聞いても、お前のもの言いは上手いな。」

 

「そうでしょうか。」

 

「雅彦とも話したが、どう考えても内部犯だよな。」

 

そんなことを言いながら、壬氏は顔を机に突っ伏せる。

 

「雅彦は何と?」

 

そう聞かれ雅彦は答える。

 

「私の見解では、寵愛を受けていない里樹妃が外部の者から狙われる筋合いはないかと。」

 

「なるほど…確かにそうなりますね。」

 

「はあ、簡単に言ってくれる。この騒ぎで昨日から寝る暇もない。着替えも出来てない。思考を放棄したい。」

 

(素というか、普段の性格が露見してる…よっぽど疲れてんだろうな……。)

 

雅彦は共感を示したが、高順は壬氏のそんな姿を咎めた。

 

「素が出てきていますよ。」

 

「誰もいないからよくないか?」

 

「私がいます。それに雅彦も。」

 

「そこらへんはおまけで。」

 

「ダメです。」

 

(いくら直属の雇い主だとしても…些か俺に対して無防備すぎる気がする…)

 

「何を言ってもダメか。」

 

「長い付き合いですので。」

 

「それに、何の縁も所縁もない私もいます。」

 

「生まれた時から面倒を見られるのも、会ったばかりの人間を側近に付けるのも、どちらも厄介なものだな……」

 

「壬氏様、簪挿したままですよ。」

 

「ああ、いけねえ。すっかり忘れてた。」

 

それに気が付くと、壬氏は自分の髪から簪を引き抜く。

 

「髪に隠れていたので、本当のご身分に気づく者はいないかと。」

 

(一応、私もいますからね。まあ、詮索する気皆無だけど…)

 

「頼むわ、保管。」

 

そう言うと、壬氏は自分の簪を乱雑に机に落とす。

 

「またそんな雑に扱って、特別な方しか身につけられないものですから。大切にしてください。」

 

「分かってるよ。…というか、わざわざ雅彦に隠すこともないだろ。」

 

「分かってません。それに、あまり巻き込みたくないというのが、貴方様の考え方でしょう。」

 

「……高順様、私は壬氏様が、壬氏様である限り、一生お仕えいたしますので、そんなに気を遣われなくても大丈夫でございますよ。」

 

そんな雅彦の態度を見て、壬氏は自慢げに答える。

 

「…だそうだ。」

 

「はあ。今回ばかりは間違いなく貴方様の勘が勝りましたね…それでは、失礼します。」

 

「…やるか。」

 

「さっさと終わらせて、猫猫に追及でもしに行きましょう。」

 

「…そうだな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、壬氏が途轍もないスピードで仕事を片付け終わるころには、日は真上まで登っていた。

 

「さあ、着替えも終わったし、高順、雅彦、麟扁、翡翠宮へ行くぞ。」

 

「…御意。」

 

「承知しました。」

 

「?……分かった…」

 

一行は、ルンルンの壬氏を先頭にして翡翠宮に向かって歩を進めていく。

 

 

 

 

翡翠宮にて。

 

「玉葉妃、お久しぶりで御座います。」

 

「ええ、久しぶり。」

 

「それで……薬屋は?」

 

その言葉を聞き、玉葉妃は俯く。プロ顔負けの演技である。

 

「…猫猫なら、あるお方と一緒に行ってしまったわ。」

 

「……………あ…ああ……。」

 

「はあ……。」

 

「えっ?……ん?」

 

「?????」

 

上から、あまりの衝撃で言葉を失っている壬氏。面倒なことになったと頭を悩ませる高順。何が何なのかよく分かっていない雅彦。何故呼び出されたのかすらも知らない麟扁の4名でお送りしています。

 

そんな三者三様ならぬ四者四様の様を見た玉葉妃は愉悦混じりに笑った。

 

「フッ、アハハハハッ。三日間の里帰りへ♪」

 

「あ、ああ。簪を使われたのですね、なるほど。…壬氏様、いつまでそうしているおつもりですか?」

 

「雅彦、なんで俺はここに?」

 

「…壬氏様が調子乗って呼びつけた。」

 

「そんな理由!?」

 

「うん。」

 

「玉葉妃、主は、疲れてしまっているようなので、一度帰らせていただきます。」

 

「ええ、分かったわ。またいらっしゃい。」

 

「では。」

 

高順に続いて雅彦も退出しようとする。

 

「私たちもこれで。」

 

「えっ、ああ、もう帰っていいのか?」

 

「行くぞ。麟扁。」

 

堂々と翡翠宮へ入室してきた4人は10分もしないうちに退出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

執務室に戻っても尚、壬氏は先程のことを引き摺っていた。

 

「はあ……。」

 

それを見た麟扁は困惑しながらも雅彦に問いただす。

 

「大丈夫か、あれ?」

 

「ずっとあんな感じだよ。今日も飯食うの遅くなるなあ。」

 

「いつまでいじけているのですか?」

 

「いじけてない。」

 

(いや、滅茶苦茶いじけてるじゃありませんか。最近、壬氏という人物が思いの外幼げであることに確信を持てるようになってきた。)

 

「新しい仕事です。」

 

「うっ……分かった。」

 

高順と雅彦は壬氏が見いていた書類に視線を落とす。

 

「もう少し、頭をひねればいいものを。」

 

「なんでこんなにも、思惑が分かりやすいことを書くんですかねえ。」

 

(壬氏様の仕事は、主に法案の選定だ。多くの官僚たちは自分たちの利益につながる数多くの法案を打診し、通そうとする。そのため、仕事量が減ることはほとんどない。出された法案を見てみれば、ド直球なものばかり。そんなものを簡単に通すほど、俺たちの主人や国の頭が弱くないということを、この国の中枢を担う者たちが理解できていない。そんな者たちから出されるくだらない法案をいちいち審議する壬氏様のことを、俺たちは哀れに思う。)

 

その直後、慌てた様子で1人の下官が入って来た。

 

「壬氏様!」

 

壬氏の名を叫びながら入って来た下官を雅彦は引き止める。

 

「もう時間外です。明日にでもお願いできますでしょうか?」

 

「いえ、仕事のことではなく…その、」

 

「……何があったのですか?」

 

「今夜の仲間内での宴にご出席された、浩然(こうねん)様が突如として倒れました。」

 

その言葉を聞き壬氏は驚いた様子で立ち上がる。

 

「浩然殿が!」

 

「浩然殿?どなたですか?」

 

雅彦の疑問に麟扁が答える。

 

「浩然様っていえば、齢50を過ぎた、酒好きの豪快な武人さんだよ。人柄もいい性格で、俺も子供んとき、世話になったなあ…って、倒れたのか!?」

 

「説明してもらってあれだけど。麟扁、話は聞け。」

 

そんな2人を他所に壬氏は事情を聞こうとする。

 

「何があった!?」

 

「それが…不明瞭でして…宴の宴席で、大量の酒を呷ったということは確かなのですが……」

 

それを聞き高順は迷いなく壬氏に呼び掛ける。

 

「壬氏様。」

 

「行くぞ。」

 

「御意」

 

「承知しました。」

 

「分かった。」

 

 

 

 

一行は宴席の会場に駆け足で向かった。

 

「こちらです。」

 

「…ここか。」

 

「あの席が、浩然様が酒をお飲みになられていた場所です。」

 

その席の近くには、かめの破片と酒の残りであろう液体が地面に散らばっていた。

 

「齢50を過ぎている方ならば、酒の飲みすぎですかねえ。」

 

雅彦の推測を麟扁は否定する。

 

「けど、浩然様は酒に強いお方だ。酒の飲みすぎで死ぬとは思えねえよ。」

 

「今回に限っては、私も麟扁の考えに賛成だ。」

 

「それ以外となると…毒を盛られたという話になりますが…」

 

「あの人は、わざわざ毒殺されるほど誰かに恨まれたりはしねえよ。」

 

全ての推測を潰された雅彦は思考を乱暴な口調で放り投げた。

 

「…じゃあ、何も思い浮かばねえよ。」

 

(参ったなあ。猫猫がいねえから、それ以外の推測が立てられねえ。どうしたものか………。)

 

「雅彦、流石に呪霊にやられたとかじゃねえよな?」

 

「呪霊は有り得ねえだろ…いや、確かに呪霊なら有り得ないかもしれんが術師なら…それだと何でもありか……。」

 

「術師?術式ってことか。」

 

「ああ。でも、さすがにそんなことする奴…それに、わざわざこの場で殺す意味もない。」

 

「……酒で死んだように思わせるためじゃないか?」

 

「かもな…でも、何の術式かすらも分からなかったら、どうしようもないだろ。」

 

「大量の酒を呷った直後に倒れた…けど、普通だったら、酒って飲みすぎると、倒れるよりも前に、体調に異変が起きたりとかしないのか?」

 

「あると思う。そう考えると……奇妙だなあ。」

 

推測を交わし合う2人に壬氏は答えを要求する。

 

「何か分かったか?」

 

「…酒の飲みすぎで倒れたというのは、些か不自然かもしれませんね。」

 

「そうか…。」

 

「後日、猫猫に聞きに行きましょう。」

 

「…そうだな。」

 

 

 

 

一行は、再び執務室へ戻っていく。

 

(酒か何かに、毒物が入っていた。で、それが大量の酒を呷った直後に効果が出て、倒れた…そんな都合のいいことあるか?そもそも、毒を盛ったかすら怪しい。そうすると、飲みすぎか術師か…。術師はやっぱり極論かなあ…ダメダメだ、何も思いつかん。保留だな、こりゃあ。)

 

「そういえば、何で麟扁は浩然様の世話になってたんだ?」

 

「…あの人、随分前に、妻と子供を亡くしててな。だから、こんな俺でも、構ってくれたんだよ。」

 

「なるほどな…」

 

 

 

 

 

 

2日後、猫猫は里帰りから帰ってきた。

翡翠宮にて

 

「む~~~っ……」

 

(壬氏様……そんな睨まなくても。)

 

「…では、着替えてまいりますので。」

 

「あとで」「いろいろ」「聞かせてね。」

 

(あなた方3人は息ぴったりなことで。)

 

自分の部屋に戻ろうとする猫猫の肩を、壬氏は掴む。

 

「応接室で待っているぞ」キラキラ☆

 

「ううううっ」ブルブル

 

(いつも通りに戻った気がする。)

 

 

 

 

高順、雅彦、玉葉妃、紅娘(ホンニャン)は、2人の後をつけ、応接室近くの廊下で待機する。

 

「高順様、大丈夫でしょうか?」

 

「私からは、何も言えません。」

 

4人は壬氏と猫猫の会話を聞くため、耳をすませる。

 

「里帰り、行ってきたようだな。」

 

「はい。」

 

「どうだった?」

 

「みんな、元気そうで何よりでした。」

 

「そうか…」

 

「はい」

 

(壬氏様…すっごいカタコトになってる……)

 

李白(りはく)っていうのは、どういう男なんだ?」

 

(おっ、本題。)

 

「ん?身元引受人です。」

 

「意味が分かっていっているのか?その意味が。」

 

(壬氏様…多分彼女分かってない。)

 

「ええ。身元のしっかりした高官でなければ、引受人にはなれないと。」

 

(やっぱり…)

 

「ああ……」

 

(イラつてるというか…呆れてますやん)

 

「かんざしを貰ったのか?」

 

「何本も配っていましたので、義理でいただきました。」

 

「…つまり、義理でもらったものに俺は負けたんだな?」

 

(負けたというか…頼るのが面倒だったのが一番だと思いますよ……。」

 

「うん?」

 

「俺もあげた筈なんだが、全く話は来なかったな。」

 

(素が出てるし、子供っぽくなっちゃってるよ…それに貴方、多分話来ても断るしかなかったでしょ。暇じゃないんですから。)

 

「申し訳ございません。壬氏様に満足いただける対価など、思いつかなかったもので…」

 

(その言い方はまずいんじゃないの?)

 

「対価って何だ?お前、それを李白ってやつに払ったのか?」

 

(ほら、気になっちゃったよ…)

 

「ええ、一夜の夢に喜んでおりました。」

 

(…えっ、………バカ野郎ぉぉおおおおおおッ!もっと言い方とかあっただろうがあッ!)

 

「……一夜…………」

 

「フンッ、大変ご満足いただけたようで、こちらとしても、頑張った甲斐がありました。」

 

(止まれ!止まれ!止まってくれ頼むから!誤解を解いてくれえ!)

 

「フフフッ……アハハハハハハッ」

 

(玉葉妃も…割と笑ってる場合じゃないです………。)

 

パリィン!

 

その直後、陶器が割れた音が、宮中に響き渡った。

 

(ショックのあまり落としたな…これ。)

 

「何してるんですか?」

 

(…あなたのせいです。)

 

「シミになる前にこれで……失礼しますよ。」

 

「すぐに洗濯に出したほうが良いかと…茶碗もすぐ片づけますから、触らないでくださいよ。……失礼します。すーっ…」

 

(どうしてくれようか…。)

 

猫猫が応接室から出ると、そこには、大爆笑でご満悦の玉葉妃。両手で顔を覆って、何かすごい深刻そうな雅彦。俯く高順。出てきた直後、猫猫の頭に1発お見舞いする紅娘がいた。

 

(はあ…先日のことを聞くのはまた今度だな………どうしたもんか…」




やっぱり、ここのシーン面白いですよね。
この作品、猫猫と壬氏がいないと一気に突っ込み役不足になる気がする。

次回もお楽しみに。
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