呪術師と茘の者たち   作:有苑

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遅れて申し訳ございません!
気を取り直しまして、


第2クール!始まり始まりー


第2クール
第15話 新人薬師


雅彦(まさひこ)は、随分と気分のよさそうな壬氏(じんし)と、いつも通りの溜息を吐く高順(ガオシュン)を見送った後、水蓮(すいれん)と話していた。

 

「水蓮様。壬氏様と高順様が向かわれました。」

 

「あら。お見送りありがとう、雅彦。」

 

「いえ。」

 

少しの間、沈黙が流れる。

 

「……もしかしてですが…少し、不安に思われているのでしょうか?」

 

「…ええ。坊ちゃんが、自ら下女を雇うなんて、初めてのことだから………それに、今までにも雇ったことはあるけど、続かなかったし……。」

 

「そうですか……でも大丈夫です。猫猫(マオマオ)なら、きっと。」

 

「…あなたがそこまで言うなら、信じてみるわ。」

 

 

 

 

数十分後、壬氏一行は、とても豪華な装飾品と化粧を身に纏う猫猫を加え、帰ってきた。

 

(なぜ、不機嫌なんだ?このお方は……それもそうだけど、猫猫お前、本当に化粧で変わるな。)

 

そんなことを考えながら、雅彦は壬氏たちのところへ向かう。

 

「壬氏様、お帰りなさいませ。」

 

「ああ。」

 

そう返答すると、壬氏は雅彦を横切って、自宅へ向かう。少し乱暴な物言いは、明らかに拗ねていることを、如実に表していた。

 

「猫猫も、久しぶり。」

 

「はい、お久しぶりです。」

 

「…困惑してるか?俺が普通にここにいて。」

 

「いえ。それよりも、壬氏様の家で働くことになっていたことの方が驚きです。」

 

「まあ、一度解雇してしまったんだから、仕方ないだろ。」

 

「確かに…そうですけど……。」

 

雅彦のあっさりとした答えに、猫猫は怪訝さ交じりの返答をする。

 

「じゃ、先行ってるから。」

 

そう言って、雅彦は壬氏の私室へ小走りで向かう。

 

(壬氏様、明らかに不機嫌だったよなあ、聞いてみるか。)

 

そんなことを考えていると、雅彦は壬氏に追いつく。後ろへぴったりと張り付いたまま部屋に入ると、雅彦は壬氏を追い越し、椅子を下げる。

 

「壬氏様、こちらへ。」

 

「ああ………雅彦。」

 

「どうか致しましたか?」

 

「今日の薬屋を見て、どう思った。」

 

「どう思った?…うーん。」

 

そんな唸り声をあげながら、雅彦は数秒考えるそぶりを見せ、口を開く。

 

「緑青館は、妓女の見受けにあそこまで手の凝った事をするのだなと。」

 

「そうか………。」

 

その返答に、壬氏はボソッと呟く。

 

「……どうかされましたでしょうか?少し不機嫌のように感じますが。」

 

「……何でもない。」

 

「左様ですか……。」

 

(否定されるのは結構だけど、それはそれで、困るんだよなあ。主に高順様が。)

 

「薬屋を呼んできてくれるか。」

 

「承知しました。」

 

 

 

 

 

 

雅彦が猫猫を呼ぶと、高順は数冊の書物(かきもの)を抱え、やってきた。数分後、猫猫も部屋に入る。

数分の沈黙の後、壬氏は口を開く。

 

「俺はお前に下働きをさせる気はないのだが。」

 

「は?」

 

何のことを言っているのか分からないようで、猫猫はそんな言葉を漏らす。

高順は机の上に、抱えていた書物を置く。

 

「ん?……」

 

猫猫は言葉の真意を探るように書物を見た後、壬氏の方を見る。

 

「フフッ」キラキラ☆

 

「うッ~~~。」ブルブル

 

「官女試験を受けてもらうぞ。」

 

「かっ…官女試験!?」

 

その言葉に、猫猫は大きな声を出して驚く。

 

(…そんな驚くか?まあ、驚くか……。)

 

「そういうわけだが、今日はもう下がっていいぞ。」

 

「…分かりました。」

 

そう言って、猫猫は自分の部屋に戻って行った。

 

「壬氏様。」

 

「何だ?」

 

「猫猫に、自分の正体について、伝えに行ってもよろしいでしょうか。」

 

「ああ、好きにしろ。それと、話し終えたら、麟扁(りゅうへん)と一緒に後宮へ向かってくれないか。」

 

「なぜですか?」

 

「猫猫が帰ってきたこと、それから1週間後に新しい淑妃がやって来る。それに伴って妃教育を行うことを、上級妃3名に報告してくれ。後宮へは手をまわしてある。」

 

「承知しました。」

 

 

 

 

 

 

 

 

雅彦は猫猫の部屋に向かう。

 

「猫猫、話がある。」

 

「……何でしょうか?」

 

雅彦が呼ぶと、猫猫は頭の装飾品で少し首が痛そうなそぶりを見せながら返事をする。

 

「すまん。先にそれ…取り外した方が楽か?」

 

「出来れば……そうしたいです。」

 

「………手伝うか?」

 

「いえ、大丈夫です。着替えもしたいので。」

 

「分かった。じゃあ、外で待ってっから、終わったら呼んでくれ。」

 

「はい。」

 

数分後、猫猫から良いですよと言われ、雅彦は扉を開ける。

 

「やっぱり、そっちの方が落ち着くな。」

 

「ええ。私も(ねえ)ちゃんたちにあそこまでされるとは思いませんでした。」

 

「この国きっての美人宦官が選び、ひと箱分の金子まで用意するほどに価値のある妓女の門出だ、仕方ないだろ。」

 

「壬氏様がそこまでする意味が分かりません。」

 

「……そうか。というか、ソバカスもつけてるんだな。」

 

「はい。壬氏様に付けるよう、言われましたので。」

 

「へえ。」

 

(なるほど。不機嫌だったのは、周りの官僚たちが注目するからか。………にしても、この2人とくれば……本当に、困った方たちだ。)

 

「それで、話とは?」

 

「ああ、そういえばそうだったな。」

 

「……忘れていたんですか?」

 

「すまん。…まあ、お前だったらその内気付くと思うが……。」

 

「ん?」

 

「俺の正体についてだ。他言無用で頼む。」

 

「……分かりました。」

 

「俺は、壬氏様直属の部下をしている。そして呪術師も兼任している。」

 

「じゅじゅつし?」

 

「手短に纏めると、幽霊退治を生業としている者のことだ。」

 

「……詐欺でもやっているのですか?」

 

「そんなんじゃない。まあ、インチキ霊媒師と思われても仕方のないことだとは分かっているが……それに、高順様や水蓮様はそんなんじゃ騙されないし。」

 

「そうですか……頭の片隅にでも入れておきます。」

 

「そうしておいてくれると助かる。じゃあ、俺はこれから後宮に向かうから、じゃあな。」

 

「はい、では。」

 

 

 

 

 

 

 

翡翠宮にて

雅彦は、紅娘(ホンニャン)に案内され、玉葉(ぎょくよう)妃がいる応接間へ案内される。麟扁は、気が引けるらしく、知り合いの下女と話すことにしたらしい。

 

「玉葉妃、お久しぶりで御座います。」

 

「ええ。お久しぶり、雅彦。」

 

「はい。」

 

「今日は何の用かしら。」

 

「壬氏様からの命を受け、2つ程、ご報告に参りました。」

 

「何かしら?」

 

「1つ目は、先日解雇された猫猫が再び戻ってきて、現在は壬氏様の下女として働くことになりました。」

 

「まあ、猫猫が帰ってきてくれたの。それは嬉しいわ。」

 

「はい、それともう1つ。一週間後、新しい淑妃が入内して参ります。」

 

「……それは知ってるわ。」

 

雅彦のその言葉に、少しトーンが低い声で玉葉妃は言う。

 

「重々承知しておりますが、本題はそこではありません。それに伴って妃教育を執り行うのことで御座います。」

 

「そうなのね、分かったわ。1つ、質問してもいいかしら。」

 

「何なりと。」

 

「妃教育の講師を、私が推薦することはできるかしら。」

 

「……可能だと思われます。何方(どなた)を推薦されるのでしょうか?」

 

「そうね……猫猫にお願いしちゃおうかしら。」

 

「玉葉様!」

 

玉葉妃の言葉に紅娘は少し怒っているような、呆れているような声をかける。

 

「フフッ、良いじゃない。せっかく帰ってきてくれたんだから。」

 

雅彦はその言葉から、玉葉妃の安堵感と多幸感を感じた。

 

「承知しました。壬氏様にお伝えしておきますので、また後日、直筆の推薦状をご送付ください。」

 

「分かったわ。今日はありがとう。」

 

「いえ。こちらこそ、お話ができて光栄の至りで御座います。では、私はこれで。」

 

「ええ。あの子にも、よろしくと言っておいてね。」

 

「はい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、雅彦は水晶宮にも出向き、梨花(リファ)妃にも玉葉妃と同じような旨の報告をした後、足早に金剛宮へ向かった。

 

「……との事で御座いますので、ご承知おきください。」

 

「わっ、分かったわ。」

 

「はい……ところで、侍女頭は何処に?」

 

「侍女頭は今、休んでいるけど……。」

 

「…そうですか。つかぬ事をお聞きしますが、妃教育は何方とご同行されますでしょうか?」

 

「それは河南(カナン)…あっ、毒見役と………。」

 

「分かりました。では、私はこれで。」

 

雅彦は部屋を去る途中、扉の隅で待機している河南に話しかける。

 

「まだ毒見役をやられているのですね。」

 

「はい……すっ、すいません。」

 

「いえ。ですが、侍女頭に立候補しても良いのではないでしょうか。」

 

「……そうでしょうか。」

 

「ええ。この様子だと、侍女頭も碌でなしでしょう。貴方の方がよっぽど里樹(リーシュ)妃に信頼されています。」

 

「………分かりました、打診してみます。」

 

「はい。……里樹妃にとっても、私たちにとっても貴方だけが頼りです。よろしくお願いします。」

 

雅彦は、麟扁のもとへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい。お前それ本当か!」

 

雅彦が麟扁の姿を見た時、麟扁は小柄な下女の肩を掴み、大きく揺らしていた。

 

「何があった!?」

 

雅彦は駆け足で2人に近づく。

 

「あっ……悪い、小蘭(シャオラン)。」

 

小蘭と呼ばれた下女は、その言葉に首を振る。

 

「うっ、ううん。私は大丈夫だから。」

 

「本当に何があった?」

 

「それが………こいつの知り合いが、夜中に寝床を抜け出して以来、帰ってきてないって。」

 

「は?夜中外出するなって言われてただろ。」

 

その問いに小蘭が答える。

 

「うん。でも、その子たち最近来たばっかだから……肝試しみたいな感じだったんだと思う。」

 

「そうか……分かった。」

 

(この時期に肝試しねえ。)

 

「…今日行くのか?」

 

「ああ、恐らく北だ。」

 

「行くって、どこに?」

 

2人の会話へ、小蘭が割って入る。

 

「ああ……えっと、今夜その知り合いを探しに行くんだよ。どこにいるかは分からねえけど。」

 

「そっか……私も行って「ダメだ。」ええーっ、なんでよお。」

 

小蘭の言葉を、麟扁は叩き割る。

 

「夜中に外出するなって言われてんだろ。それに危険だ、分かったら待ってろ。」

 

「………はい。じゃあ、絶対見つけてきてよね。」

 

「……分かったよ。」

 

「約束だよ!」

 

「…はあ、行くぞ。雅彦。」

 

「あっ、ああ。分かった。」

 

 

 

 

 

帰り道

 

「仲良いんだな、あの下女と。」

 

「ん?ああ、小蘭か。まあな、後宮のことは、あいつに聞くに限る。」

 

「へえ、俺も聞いてみようかな。」

 

「聞きたいんなら、何か食い物持って行くと良いぞ。」

 

「分かった……それと、」

 

「何だ?」

 

「守れねえような約束はするもんじゃねえぞ。」

 

「……分かってる、けど断れねえんだよ。」

 

「そうかい……。」

 

その後、雅彦は麟扁と別れ、執務室へ向かった。

 

 

 

 

 

 

執務室

 

「只今戻りました。」

 

「ああ、雅彦か…どうだった?」

 

「無事終わりました。……ですが、1つ報告が。」

 

「……何だ。」

 

雅彦の喋り方から何かを察した壬氏は、声のトーンを少し落として質問する。

 

「実は…とある下女たちが、決まりを無視して夜間に外出したきり、帰ってこないとの事です。」

 

「なるほどな……行くのか?」

 

「はい。それに、相棒が約束してしまいましたから。」

 

「あいつがか……珍しいな。」

 

「麟扁って、妹でもいるんですか?」

 

「…“いた”が正しいな。」

 

「……流行病ですか。」

 

「いや、それは違う。毒殺だ。」

 

「どうして………。」

 

「麟扁を殺そうとしたらしいが、手違いで妹の食事に盛られたらしい。」

 

「そうですか……にしても、何であいつは何にも喋んないんでしょうねえ。」

 

「言いたくないこともあるんだろ。気になるんだったら、あいつに直接聞け。」

 

「そうですよね……少し自分の部屋に戻ります。」

 

「分かった。」

 

 

 

 

 

 

 

雅彦は自室に入ると、寝床に転がり込む。

 

(何と言うか……あいつのことを知ろうとしたことを、若干後悔してる自分がいる。にしても、特殊な境遇だ。(リュウ)の一族としても、呪術師としても。特にあいつは、呪力に関して秀でている面が大きい。総量も効率も俺より上、呪いというものを知って数ヶ月でここまで上り詰めるのは、明らかに天才の部類だ。厄介な術式持ちでもない限りは、俺よりもあいつが戦った方が強いだろう。場合によっては“領域”も……それは夢の見すぎか………分からない。あいつがどこまで行けるのか、どこまで強くなれるのか、どこまで期待していいのか。俺と同じぐらいか、俺より上か……あいつを呪術師という枠に収めたくない俺もいる。俺は、どうするべきなのだろうか………。)

 

そんなことを考えている間にも、日は傾き沈んでいく。

答えは近すぎると気づけない、それこそ足元にあるものは。

周りが見えづらい夜にこそ、足元を視たくなるものだ。




終わったーーーーー

今回は場面転換が多くて大変でした!
【新人薬師】とか言っておきながら猫猫要素がほとんどない!
誰か助けてくれ~~~
にしても麟扁不幸すぎる。


次回もお楽しみに
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