気を取り直して
明らかに不穏な第16話、行って参りましょー!
太陽は完全に沈み、今夜は月も昇らず、辺りを暗闇が支配する。
「なあ、麟扁。」
「どうした?」
「いやその……もう少し呪力を抑えてくれねえか?」
「割とマジで抑えてるつもりなんだけどな……。」
「そうか……お前明らかに呪力総量多くなったよな。」
そう言われると、麟扁は顎に手を当てうーんと唸りながら考え込む。
「園遊会の後ぐらいからだと思うんだけどなあ………ほら、ちょうどお前が仕事で戦っていなかった時だ。」
「なるほどなあ………なんでだろうか。」
「俺が実戦で伸びるタイプとか?」
「………かもな。」
そうこうしているうちに2人は後宮の北側、荒れた果樹園の入口までやってきた。
「さあ、行くか。」
「おう。」
2人は呪霊が潜む森の中へと歩いて行った。
30分後
「なかなか見つかんねえな。」
「仕方ねえだろ、広いんだから。」
(まあ、呪霊の気配も無いのは気味が悪いが………。)
そんなことを言いながら話していると、ふと少し盛り上がった岩場のようなところに目が留まる。
そこには3人の人影が倒れていた。
「雅彦!」
そう叫びながら、麟扁は走り出す。雅彦もそれに続く。
「おい!大丈夫か、おい!」
1人の身体を揺らして起こそうとする麟扁を尻目に、雅彦は左手首に手を当て、全員の脈をそれぞれ測る。
「………大丈夫だ、脈はある。気を失っているだけだ。それに、目立った外傷もなく五体満足。」
「じゃあ……無事なのか?」
「ああ!早く連れて帰ろ「雅彦!伏せろ!」……え?」
ッドオオォオン!
雅彦が下女を抱え上げようとする。しかし突如として麟扁は雅彦を強引に押す。次の瞬間、雅彦の頭がついさっきあった場所に途轍もない衝撃波が発生する。
「くっ……“
雅彦は攻撃が放たれた方向に“樹霊突貫”を放つ、呪霊はその攻撃を食らうも貫通することはなかった。
(チッ……硬い、そうとくれば………って、何だ!?)
雅彦が呪霊に近づくため、立ち上がろうとする。しかしその手を1人の下女に掴まれ、取っ組み合いになる。
「おい!雅彦、何だよこれ!」
麟扁も同じように、下女の1人に邪魔をされていた。
「落ち着け、呪霊の術式だ。絶対に反撃するな!」
「じゃあどうすんだよ!当てはあんのか?」
「………ある!」
数秒のいらない沈黙の後、雅彦は自信満々に答えた。
「あんのかよ!?だったらどうにかしろ!」
「任せろ!」
(恐らくあの呪霊の術式効果は“催眠”それを解く技が1つある。)
すると雅彦は自分と麟扁に掴まっている下女たちの腕を掴む。
「“
そう唱えた途端、2人の下女は脱力し倒れた。
〈≪幻牢脱・葉真≫は術式による“催眠”や“分身”などの視覚的、精神的撹乱系統の技を強制的に解除させることができる。発動条件は術式が付与されている本体に接触すること。その為、本体以外の分身体や術者が他者に術式を付与している場合、その術式を扱う術者に接触しても効果を発揮しない。〉
「これで大丈夫だ。」
「相変わらず、よくそんな好都合な技持ってるよな。」
「それが俺の術式の強みだ。………3人を頼む、あいつは俺1人で祓う。」
「分かった、任せろ。」
その後、雅彦は立ち上がり呪霊と向き合う。
(あの呪霊の厄介な所は単純な呪力が上乗せされた事による硬さ、“樹霊突貫”を真正面から食らっても意に介していなかった。………呪力消費は馬鹿にならんが、あの技なら祓える。)
雅彦は思考を整理し終えると足に呪力を込め、呪霊との距離を一気に詰める。そして呪霊の腹に自身の両手を押し付ける。
「“
そう雅彦が唱えた瞬間、呪霊は少しの間もがいたのち破裂した。呪霊の体液を全身に浴びた雅彦の掌からは数本の木の幹が伸びていた。
〈≪夜桜・枝≫系統の技は本来、大地を介さなければ術式を発動できないという条件を無視し、術者自身の肉体から直接生成できるという特性を持つ。しかし呪力効率の悪さと雅彦自身の技量が無いため≪
「ご苦労さん、雅彦。」
「ああ、さっさと帰るぞ。」
グシャアッ
雅彦が再び麟扁たちに近づいた瞬間、2人と違いずっと倒れていた下女が何者かの呪力で捻り潰された。
「えっ………。」
「なっ………おい雅彦!囲まれてるぞ!」
一難去ってまた一難。とはよく言ったものであるが、今回はさらに深刻だった。雅彦たちの周りを50体以上の呪霊が囲んでいたのである。
(嘘だろ……何で気付けなかった!いや、そんなことはどうでもいい。)
「麟扁!撤退するぞ。」
「分かった、でもどうやって!?」
「方法が1つある。けどその場合、その下女は…死体は連れていけない。」
その言葉に、麟扁は少しの間葛藤する。だが、その葛藤に何の意味も持たないことを状況が示していた。
「…分かった。……頼む。」
「“
すると雅彦たちの姿が消える。
さっきの岩場から150mほど離れた地点に雅彦たちは姿を現した。
「クッソ……ここまでが限界か。」
「…………」
「気持ちは痛いほど分かる……でも今はそれよりも、残りの2人を生きて帰すことが1番だろ。」
「分かってる……分かってるけど……何で気付かなかったんだよって………。」
「…………………ん?」
遠くの方から騒音が聞こえ、雅彦は辺りを見回す。それは、さっきまで岩場にいた呪霊たちのものだった。
「…ッ!何で来やがった!?」
(どういうことだ?“葉樹隠界”は呪力探知に相当長けていなければ気付けない。ましてや呪霊が気付けるはずがない。この2人……いや、マーキングをしていたとしてもそれを追えるのはさっき祓った呪霊のはずだ。麟扁!?有り得なくはない。呪力に関してはここまで成熟しているにも関わらず未覚醒の術式……もしかしてこれが……いや、明らかに卓越した呪術センス、呪霊を祓えば祓うほど増えていく呪力総量、惹かれる様に寄って来る呪霊、これまでの不可解な点全てが麟扁の術式に関係しているとしたら………。)
雅彦の詠みは当たっていた。
〈麟扁の術式≪
「雅彦……何か分かったのか?」
「いや……憶測だ、確証はない、それに……最悪の結論だぞ。」
「…お前の仮説を俺は事実だと思ってる。」
「そうか……もしかしたら、お前のその強さも…今呪霊が大量に襲ってきてるのも、お前の術式かもしれない……。」
「え?」
その言葉を聞いた瞬間、麟扁の顔が青白く染まっていく。
「いつから…いつからだ?………俺が術式を使ってたのは……。」
その質問に、雅彦は苦虫を噛み潰したような顔をしながら返答する。
「多分…生まれた時から今日に至るまで……ずっとだ。」
「えっ………ああ……あああッ………」
麟扁は形容しがたい声を出しながら崩れ落ちる。
「じっ、じゃっ、じゃあッ…
その質問に、雅彦は肯定の選択肢しか与えられてなかった。
「多分……そうだ。」
「……やっぱりそうか…………。」
麟扁のその物言いに雅彦は疑問符を浮かべた。
「え?何で………。」
「…なんとなく、そんな気がしてたんだ。あいつ…元から体が少し弱くてよ、喘息っていうやつらしい。俺も子供の頃、あいつの世話をよく押し付けられてよ。……でも、成長するにつれてそれも弱まっていって、普通に生活できるぐらいにはなっていったんだ。……あいつに好きになってもらえた事が、俺にとって1番の幸福だったかもしれない。」
「……そうか。」
「でも、人間だれしもずっと健康ではいられねえ、風邪を引いてよ。見舞いに行ったんだ、そしたら急に体調が悪くなって…寝たきりになっちまって……訳も分からずに死んだ。家の奴らはみんな、病気でも運んだんじゃないかとか言って俺を責め立てた。それでも、俺は全くの健康体で有り得ないっていう話になったんだ…………お前に呪力や呪霊の事を教えてもらって、あいつの死因も呪霊が関係してんじゃないかと思った。それは覚悟してたでも………その呪霊が寄ってきたのが、俺の所為だったなんて………つまりはあれだろ?…………俺の妹も幼馴染も!俺の所為で死んだんだろ!」
麟扁がそんなことを独白しているうちにも、呪霊の大群は押し寄せてきていた。時間はない。
「………そうかもしれない。」
「…………」
麟扁が立ち上がることはなく、ただ呆けている。
(今のこいつに『闘え』と言うのは確実に酷だ。せめて、気持ちの整理が追い付くまで守護らねえと………呪力が底をつく前にできるだけ祓ってやる。)
雅彦は地面に手を当て唱える。
「“
木の幹が生成され次々と呪霊の身体を貫いていく……がしかし、16体目を貫いたところで使用時間が限界に達し解除される。
「はあ、はあ、ぐッ………。」
(やばい……キッツイ………でも……やる………しか………。)
雅彦は再び地面に右手を当てると、今度は自分の右腕を沈めていく。
「“
そう唱え、
(長時間使用できるほどの余裕はない………残り50体弱、決められるのは一撃のみ………やるしかない。)
雅彦は“布都御魂剣”を振りかぶる。
「“
放った斬撃は何十何百の斬撃に分裂し、呪霊の身体を切り裂いていく……しかし結果として祓えたのは半数ほどであった。
(これ以上は…もう……限…………。)
雅彦は呪力が完全に底をつき、膝から崩れ落ちる。その身体を麟扁が支える。
「麟……扁?」
「………あとは任せろ。」
雅彦は少しの間息を整え、返答する。
「ふっ……ああ、任せた。」
麟扁は呪霊の方に向かって歩を進める。
(恐らく全ての呪霊が術式を持っていない2~3級、だが気を付けろ麟扁。数は時に質よりも厄介だぞ……特に、お前みたいな戦術の奴は。)
「俺は……自分の罪を数えた。さあ、行くぞッ!」
麟扁は拳に呪力を集中させ、踏み込む。
「ゥオラアァァアアッ!」
ドオォンッ!
ドオォオンッ!
蹴りを交えた徒手空拳で周りにいる呪霊たちを一体一体祓っていく。だが、数が多いためやがて劣勢になっていく。
「フンッ……ゥオラアッ!……グッ!………ゴハッ!」
呪霊の拳が麟扁の顔面を掠める。一瞬身じろぎした麟扁は隙を突かれ、腹に重たい一撃を食らう。
(不味い……麟扁!)
「はあ…これは、俺の罪だ……お前らを呼び寄せたのは………あの下女を死なせたのは、俺の罪だ!……俺がケジメをつけないで…………誰が片付けんだよおおおぉぉぉおおッ!」
麟扁は右手に呪力を溜め、拳を目の前の呪霊に向かって思いっ切り叩き込む。
ドオオオオオォォォォオオオンッ……バリバリバリ
その時呪力は黒く光り輝き、雷の如く辺り一帯へ拡散する。
(まさか…あれは“
〈≪黒閃≫…呪力と打撃がほぼ一切の
雅彦はその姿を呆然と眺める
(……今ので確信した、麟扁のあれは術式がどうのこうのの話じゃない。悲劇の輪廻、例えその元凶があいつだったとしても……その力はあいつの才だ。あいつはその悲劇を打ち破れる呪術師になれる。)
しかし麟扁が黒閃を決めたことに気付くことはなく、そのまま呪霊を次々に殴り続ける。
ドオォンッ!
ガアンッ!
ボコオォォンッ!
ドガアァァンッ!
ドガアアアァァァアアアアアンッ……バリバリバリ
1度黒閃を決めた影響か5回の1回ほどのペースで黒閃を決める。だが、その黒閃を決めるペースも4回に1回、3回に1回と短くなっていく。……やがて連続で黒閃を決められるようになる頃には、呪霊は全滅していた。
「はあ…はあ……終わ………った?」
雅彦はふらふらと足取りがおぼつかない麟扁の肩を持つ。
「ああ、終わったよ。……ご苦労様。」
麟扁は『そうか。』と安堵の表情と声を上げながら自分の右手に視線を落とす。
「なあ、雅彦……今の……。」
「……気付いてたのか。あれは“黒閃”っていう極稀に起きる現象みたいなもんだ。」
「“黒閃”……か。」
「どうする?…呪術師、続けるか?」
「何でそんなことを聞く?」
「いや……なんとなく。」
雅彦には未だに『麟扁を呪術師に育てて良いのか?』という葛藤が生まれていた。だが麟扁は数秒俯いたのち、顔を上げ答える。
「……俺が呪霊を引き寄せてしまうんだったら、俺はその呪霊を全て祓う。続けるよ……なってやろうぜ俺とお前で、後宮のすべての呪霊を祓える呪術師に。」
「フッ……そうだな。なろう、2人で。」
2人はアイコンタクトを取ったのち、呪霊がもうとうに崩れ去った方向を見る。
「「さあ、お前たちの罪を………数えろ。」
2人の呪術師はそれぞれ下女を抱え南側へ歩いて行く。
空を見上げると、当たり前のように日が昇り始めていた。
終わったーーーー。
個人的に麟扁と麟扁の術式は作者のお気に入りです♪
タイトルの【元凶】は麟扁の事だったという在り来たりなオチでしたが、楽しめたでしょうか?
次回もお楽しみに。