行って参りましょー!
いよいよというように雪も本降りになったその日、数名の侍女を連れた上級妃が入内した。
「フッ!…フンッ!…ハアッ!」
その夜、
(焦ろ、焦るんだ……俺は“黒閃”を決めたことがない……どれだけ呪術師として生きていようが…あいつに置いて行かれているのは事実だ。この後宮に来て、もう1年以上が経過した。けど、何も新しいことができていない。あいつが呪術師として生きる覚悟を決めた、闘い続ければいずれあいつは他の一切を凌駕する術師になる。その隣に俺がいたいから……強くなれ、もっと…もっと!)
次の日 執務室にて
「…ひこ……さひこ!………雅彦!」
「あッ!…………申し訳ございません、高順様。」
「何かあったのですか?」
「いえ…昨夜、体術を鍛えすぎて……要するに寝不足です。」
「はあ、あまり無理をしないでくださいね。」
「分かっているんですが……えーっと、何の話でしたっけ?」
雅彦がそんな質問をした直後、ドアをノックする音が聞こえる。
「失礼します。」
掃除道具を持った
「「うーん……。」」
「ん?」
事情を知っている
「……雅彦には猫猫と一緒にもう1度説明しましょう。」
「…分かりました、お願いします。」
高順の提案を雅彦は承諾した。
壬氏は雅彦と猫猫を自身の机の前…ちょうど執務室の中心辺りに立たせ、説明を始めた。
「柘榴宮に新しい淑妃が入ったことは知っているか?」
「「はい。」存じておりますが。」
(後宮を去った
「そこで、後宮としては妃教育をしたいそうなんだが……。」
壬氏は手元にあったいくつかの書物を手に持って席を立ち上がり、そのうちの1つを見せる。
そこには『講師 猫猫』と書かれていた。
「お前に、講師をしろとのことだ。」
「…フッ、ご冗談を。」
(あれ?この話どこかで………。)
壬氏の言葉を猫猫は鼻で笑い、雅彦はそれに心当たりを感じると共に、自分の大きな過ちに気付き始めていた。
そして、壬氏は2つ目の書物を2人に見せる。そこには『翡翠宮 貴妃
「何が冗談だ、推薦人の名前も書いてあるだろう。それにもう1通。」
その流れで壬氏はさらにもう1つの書物を見せる。『翡翠宮 賢妃
「梨花様まで……あれか。」
(終わったー、というかやらかしたー。あの時…
猫猫は梨花妃が白粉によって体調を崩していた時、ついでで教えたとある“秘術”が今回の推薦の最もな元凶と悟り、何とも言えない気分になった。
「というわけで、頼んだぞ……どうした、雅彦?」
「いえ、何でも………。」
雅彦はこのミスを墓場まで持って行くことを決めた。
3日後、猫猫が取り寄せたという“教材”が外廷に運ばれてきた。
「これが教材か……多いな。」
「ギクッ!」
いち早くその場に来た雅彦は荷台に積まれた“教材”を見てそんな感想を述べる。猫猫は必要以上に驚いたそぶりを見せた。
「えっ、ええ、妃教育の講師を任されたのです。それ相応の品質と量を提供しなければいけませんから。」
「そりゃそうか………幾ら何だ?請求額は。」
猫猫は請求額が書かれた木簡を雅彦に手渡す。
「こちらです。」
「……高くない?」
「いえ、適正価格です。」
(嘘つけッ!いくら大量の書物でもこれは明らかに吹っ掛けてんだろ!)
2人の会話に壬氏が割り込む。
「この荷が講義で使う教材か?」
「……びっくりした。」
「…はい、こっちが請求書です。」
急に割り込んできた壬氏を見て2人は共に驚く。それと共に猫猫は壬氏に先ほど雅彦に手渡した木簡を差し出す。
「ん?………こんなものか。」
それを見た壬氏は大して驚くそぶりを見せなかった。
(えっ?いやいや滅茶苦茶ぼったくりじゃないですかそれ!壬氏様もどんだけ財力あるんですか………。)
そしてさらに、壬氏の後ろから
「フフフ……何だかここだけ墨の色が違うわね。」
「どきッ!」
(え……ほんとだ………こいつッ!?あっぶねえ、水蓮様いなかったらぼったくられるところだった。)
雅彦や猫猫が大変な思いをしているとは露知らず、壬氏は純粋な質問をする。
「中身は何だ?」
「ハッ……。」
猫猫は壬氏の前にすかさず現れ、猫のような威嚇をする。
「しゃーーーーっ!」
猫猫のその行動に壬氏は少し引き気味になりながらも了承した。
「わっ、分かった、見ない。」
(またそんな声と耳を生やして猫みたいに………耳ッ!?やっぱあいつ………気のせいか。)
猫猫は荷車の引く棒に手を掛ける。それを心配した高順は気遣いの言葉をかける。
「運ぶなら手伝いましょうか?」
が、それを猫猫はきっぱりと断る。
「結構です。」
猫猫は職人気質故か、明らかに気合が入っていた。
「やるからには徹底的にやる。」メラメラメラ
(おお、燃えている。)
4人は後宮へ移動した。
後宮
4人は妃教育が行われる宮まで歩いていた。
(いつも以上に妃の数が多い、それと相手が俺でなくても好機の目に晒されるのは気分が悪い。)
中級妃たちの目的は相も変わらず、壬氏を一目見ようという軽い理由であることを4人全員は理解していた。
「壬氏様よ!」「今日も麗しいわ。」
「フフフッ。」キラキラ☆
にしても多い中級妃のことを、猫猫は壬氏に質問する。
「随分集まってますね。」
「授業の噂を聞いて集まったんだろう。」
その見解に雅彦は納得する。
(なるほど、通りで。最近は
妃教育を行う宮の扉の前に4人が着くと、壬氏は振り向き妃たちに解散を促す。
「言っておくが、授業を受けるのは上級妃のみだ。用のない者は下がるように。」
その言葉へ急に歓声が上がったと思えば、次の瞬間には悲しむ声に変わっていた。異常な光景に、猫猫や雅彦は若干引いていた。
(これ…ある種の術式か何かだろ。)
壬氏は扉を開け、猫猫たちは中に入っていく。が、猫猫は壬氏が妃教育を観察するのを頑なに拒んだ。
「いけません!」
「…なぜだ?」
「授業を受けるのは上級妃のみと仰ったのは壬氏様です。」
そんなことを話しながら、猫猫は壬氏を宮の外へ追い出す。しかし壬氏も壬氏で鍛えているので、1分ほど苦戦した。
「ここから先は女の園における他言無用の“秘術”ですので。」
「おっと………。」
猫猫が壬氏を宮の外に出して扉を閉めるまでの間、雅彦は新しく入内した楼蘭妃の風貌を観察していた。
(南国風の派手な衣装に派手な化粧。無表情……いや、退屈な表情で頬杖を突く。何を考えているのかさっぱり分からん。顔立ちは北寄りに感じるが、如何せん化粧が濃くてはっきりとは断定できない。それと、後ろにいた侍女頭も服装の割には化粧が濃かった…何より楼蘭妃に似た顔立ち。年齢からして、まあ帝のお手付きにはなるだろう…後宮のバランスが崩れることはなさそうだが。)
講義が始まる。無論、雅彦たち3人には内容が分からず、壬氏はずっと扉に耳を押し付け聞き耳を立てていた。
3時間後
日も傾き始めたその時、扉が開かれかなり疲れた様子の猫猫が出てきた。
「フゥ……ん?」
ずっと聞き耳を立てていた壬氏は、それを猫猫に勘づかれぬよう平然を装う。
「ご苦労……長かったな。」
しかし猫猫は壬氏の頬が赤くなっているのを見て、そのことに気付く…が、気にしないことにした。
中の様子が気になった壬氏は扉を抜け、宮の中に入る。
「どうしました?」
「これは一体……どういう状況だ?」
壬氏の困惑している声を聞いて、雅彦も宮の中に入る。
(ん?何かあったのか………。)
その宮の中では何と!………よく分からない状況に陥っていた。
「マンネリ離脱♪」「ハァ……。」
「ここをこうして………。」
「無理!絶対無理!」ガンッ…ガンッ「
「………。」「………。」
3者3様…いや、4者4様とは正にこのことだろう。
何かすごく楽し気な玉葉妃と途轍もないぐらいに疲れている
(……里樹妃だけでも止めるか?いや、あの様子じゃあ俺が何言っても無駄だ。……何の授業だったんだ一体?)
いろいろあったが、妃教育自体は無事終了した。
その夜、謎の爆発音に雅彦と猫猫は気付いたが、2人揃って気にしないことにした。
何か………味気ないものになってしまった。
すいません。
次回もお楽しみに。