(はあ、『明日から本格的な呪術師の仕事をしてもらう。』と壬氏様に言われてから早2週間。結局その『明日』には
「「「きゃー、壬氏様~~~今日も美しいですわー。」」」
「ははは、ありがとう。しかし、私なんかより、君たちの方がよっぽど美しいよ。」
「「「「「きゃーーーーーーーーーーー」」」」」
(壬氏様が物凄い数の妃に囲まれてるし、壬氏様も壬氏様で、すごい色目使ってるし。…なんか…もう…慣れてるなあ。)
「壬氏様。ところで…その…そちらの方は?」
「ああ、彼はつい最近まで、重病を患っていてね。奇跡的に回復して、今は高順の部下をしているんだ。」
「まあ、そっ、そうだったんですね。教えていただき、あっ、ありがとうございます。わっ、私はこれで。」
そう言うと、その下女はおそらく、仕事場に帰っていった。
(な~~にが、『教えていただき、ありがとうございます』じゃ、ただ壬氏様と話したかっただけだろ。俺の方とか一度たりとも見てねえくせに。)
雅彦がそんなことを思っているうちに、壬氏一行は翡翠宮に到着していた。3人は翡翠宮の侍女頭、
「お久しぶりで御座います。お元気そうで何よりです。」
「ええ。久しぶり。…そして、初めまして。」
「あっ、はっ、はじっ、おっ、お初にお目にかかります。じっ、ジャナクテ…がっ、高順様の部下をしている、雅彦と申します。よっ、よろしくお願いします。」
「うふふ、そんなに緊張しなくても良いのよ。」
「おっ、お心遣い…感謝します。」
「はあ……。」
(高順様のすっっっごいため息が聞こえた。仕方ないじゃないですか、いつもこうなんですから。)
「感謝をしたいのは私たちの方よ。あなたのおかげで、この子は、無事に生まれてこれたんだから。」
「わっ、私が…あなた様のために……役に立つ事が出来たのなら…それは、本望です。……でも、」
「でも?」
「ああ、いえ。……しかし、実際のところ…私は、救えませんでした。…確かに、私は助産師の方の遺体を見つけました。でも、結局のところ、私が見つけたのは……生きた屍です。…救えたかもしれないのに。……生きててほしかった。」
「優しいのね。
「いえ、こちらこそ。あなた様と会話することができて、本当にうれしく思います。玉葉様。」
「ふふっ、やればできるじゃない。ところで、あなた…いくつ?」
「年齢ですか?…私は…エットー…齢…アッ、23です。…何かありましたでしょうか?」
「そう。ただ、気になっただけなの。ごめんなさいね。」
「そっ、そうでございますか。」
「…では、そろそろ失礼いたします。」
「あら?もう行ってしまうの?残念。…では、またいつか。お会いしましょう。」
「ええ、それでは、失礼します。」
壬氏を先頭に3人、特に前の2人は、足早に翡翠宮を去っていった。
壬氏たちが退出してから数分後。
「ねえ、紅娘。彼…どう思う?」
「どうと言われましても。すごい緊張していた様子だったとしか。」
「そこじゃないわよ。彼…きっと、嘘ついてるわ。」
「え…どうして、そう思われるのですか?」
「あの子が自己紹介をしたとき、妙なところで、言葉に詰まってなかった?」
「…そういえば、聞き取れませんでしたけど。何か言ってたような?」
「あの子が高順の名前を出す前に、『じ』って詰まってたでしょ。あれ、壬氏様の名前を口走ったんじゃないかしら。」
「壬氏様の!?…それって彼が本当は壬氏様の部下だ。ということですか?」
「多分ね。それに、もっと変なところがなかった?」
「…もう、お手上げです。」
「あら、そう?じゃあ…彼が
「……確かに、そうですね。…では、筍玲は彼に殺された?そして、壬氏様と高順様はそのことを知らずに彼を雇い続けていると?」
「彼がそんなことを言っている時、あの2人は何も言わなかった。むしろ、少し悲しそうな顔をしていたところを見ると、その可能性は低いわ。むしろ、あの2人は事情を知っている側よ。それに、事件の真相を改竄したのも壬氏様と高順が関わっていると、私は思うわ。」
「あの2人が!」
「ええ。きっとね。そこを考えると、歳も偽造している可能性が高いわ。だって、40歳を超えているならともかく、20歳そこらの子が自分の歳を忘れるなんてあるかしら。」
玉葉妃の名推理に紅娘は呆れながら言葉を溢す。
「そうですね………。」
「けど、『救えなかった、生きててほしかった。』この言葉に嘘は無いわ、絶対。だから、筍玲の件は少なくとも彼に殺意があって起きた事件じゃないわ。彼がその事件に関わっているのは確定でしょうけど。だから、安心して大丈夫よ、紅娘。……うふふ。これからが楽しみね。」
その夜、壬氏の屋敷では。
「お前、完全にやらかしたな。」
「どうしましょうか?」
「えっ、何か私、しでかしてしまいましたか?」
「ああ、喋りすぎだな。お前が誰に仕えているのかは、少なくともバレているだろう。…下手したら、筍玲の死にも違和感を抱いているかもしれん。」
「ですね。」
「そう…でしたか。」
「バレたのが玉葉妃であることは不幸中の幸いだった。少なくとも彼女であれば、お前のことを誰かに噂するようなことはしない。…きっとな。」
「きっと…ですか。」
「お前、本当はいくつだっけ?」
「本当は、齢21です。」
「改めて、言っておくぞ。お前は罪人、≪
「はい。…肝に銘じておきます。」
「まあ、いい。これから、後宮に向かうんだろ。」
「はい。…では、行って参ります。」
雅彦は門を出て、後宮に向かった。
「…行ったか。そうだ、高順、例の件、どうなっている?」
「順調に進んでいます。もう、配属させても問題ないかと。」
「そうか。…今から向かわせてやってくれないか?」
「承知しました。連絡致します。」
「ああ。頼む。」
「壬氏様の屋敷の者です。」
「分かった。入れ。」
「ありがとうございます。」
(夜は昼間とは違い、『壬氏様方の連れ』という立場を使わなくても、壬氏様の屋敷の人間であることを示せば、入ることができる。ザルな警備だと思うかもしれないが、こんなやり方で簡単に入れると思う人間など、少なくとも、後宮の仕組みを知っている限りは現れないだろう。さっきの役人の方だって、壬氏様のコネで入れるようにしてくれたらしい。よくよく考えなくても、俺の呪霊退治が綱渡りなのは、百も承知だ。)
雅彦は後宮に入った後、迷うことなく目的地に向かって、歩を進める。
(俺が呪霊を祓うのは夜の仕事だが、なぜわざわざ昼間に出向いたのか。理由は単純に、『呪霊はここら辺にいるな』という目星を付けるためだ。)
「とは言っても、その殆どが
(…つっても、術式使うまでもないのは、なんか…味気ないけど。)
そんなことを考えながら、雅彦は呪霊を狩っていく。…すると、急に背後から呪力の気配を感じた……。
ドカンッ
刹那、背後から聞こえた轟音は辺り一帯を轟かせた。それは、その音の元凶が、少なくとも非術師でないことを明確にしていた。
「びっくりした。…誰だ、お前。」
分かりきっていたように、雅彦は言葉を発しながら、距離をとる。それもそのはず、呪力の気配を感じたのは直前でも、ソイツがいることぐらいはずっと、何なら後宮に入ったときから気づいていたのだから。
「オマエガ、オマエガ、オマエガ、オマエガオマエガオマエガオマエガオマエガオマエガオマエガオマエガオマエガオマエガオマエガア"ア"ア"ア"ア”」
「『お前』って誰だよ。」
(呪霊は言葉を発する個体もいるが、そのほとんどが発するだけ。もとになった人間の言葉をそのまま反復しているからだ。ここが後宮だからか、呪霊も人の形に似通っている奴が多い。多いだけともいうが。)
「まあいい。さっさと終わらせるか。“
雅彦はその言葉を発すると同時に、腰を落とし、手を地面にたたきつける。すると、3本の木の幹が、地面を突き破り、かなりの速さで呪霊へと向かう。
ガァンッ
雅彦の呪力に気づいていたのか、目視で避けたのか、呪霊に掠りはしたが、後退し、そのほとんどを避けられてしまった。
(ここまでは、想定内!)
その直後、雅彦は地面に伏せていた手を上げると、奥に突き出す。
グシャアッ
すると、木の幹の進む方向が変わり、呪霊の懐に入り、貫く。…呪霊は粉々に砕け散った。
〈雅彦の持つ術式の技の1つ。≪蓋然礫・樹貫≫は、使用者の意志に応じて進行方向を変えることができる。そして、発動から対象を貫くまでの時間が長ければ長いほど、貫通力は強化される。だが、その反面、使用時間に応じて、呪力消費が指数関数的に増えていくという弱点を持つ。〉
「ふう、これでひとまずは終わり…たかったなあ。」
「グルガジャガア”ア”ア”」
「ソウジ、シナキャ。アア、ソウジソウジ」
さっきからいたのか、雅彦の呪力を感じて、寄ってきたのか。定かではないが、さっきの奴と同等クラスの呪霊が2体。雅彦の前に立ちふさがる。
(1体1体相手してると、被害がなあ。…よしっ、まとめて倒すか。)
雅彦はそう決めると、右手を今度は地面にそっと伏せる。…すると石板で整備されている地面に、右腕が沈んでいく。
「“
何かを掴むような動作をした後、一気に引き抜く。その手には《特級呪具・
なんかよく分かんない新武器登場!皆さんは神話の武器の名前を冠する武器が著作物に出てくるのは好きですか?俺は好きです!
玉葉妃の勘が鋭すぎる。どうなる雅彦!
次回もお楽しみに。