雅彦全回復から2か月ぐらい後の話です。
櫻朴操撃の術式の格、見誤ったかもなあ。
「突然だが、これからお前には、とある男と
外廊下の掃除をしていた
「ばっ、
「まあ、基本的には言葉のまんまだな。お前の呪術師としての仕事に、補佐役を付けるという話だ。」
「補佐役なんて…いりませんよ。」
「少し前、出血多量で重傷を負ったバカは、どこのどいつだ?」
「……ワタシデス。」
「それに、にわかには信じられんが、お前的には自分は弱いのだろう。」
「まあ…はい。」
(そればっかりは事実だ。通常の根や幹だって、本来の俺の技術力だともっと弱い。現状、俺はとある“技”を使用不可にするという“縛り”で、硬度を最大限高めている。それですら、個人的には心もとない。)
「呪霊と闘って、戦闘不能になったときお前を介抱する役割の人間がいた方が、お前も楽だろう。それに、これから
「それも、そう…ですね。」
「何か文句があるなら言ってみろ。」
「でしたら、遠慮なく。…私はどんな理由があっても…例え、あなた様の命であろうとも、非術師を呪霊との戦いの場に巻き込ませたくありません。それは『死に急げ。』と言っているようなものです。私の仕事は後宮内の呪霊を狩ること。そして後宮内に居る妃の方々や下女、宦官の命を守ることです。私は出来ることなら誰にも死んで欲しくない。救える限りの人間を皆救いたいと、本気で思ってます…そんな理想を叶える事が不可能な事ぐらい、もう手遅れな事ぐらい分かってます。でも…もう2度と、不要な犠牲を出したくないんです。」
「お前がそんなことを言う事ぐらい、分かってる。」
「でしたら、何故私にそんな話をしたのですか?」
「別に、俺だってそんな適当な人間をあてるつもりはない。」
「例え罪人であろうとも、私は拒否致します。」
「そう言うことを言ってるわけじゃない…その男は霊感があってな、呪霊やお前の術式も視えるそうだ。」
「………本当ですか⁉︎」
「ああ。お前が後宮に向かった時、1度だけその男を向かわせたが、その夜、とても驚いた顔で帰ってきたぞ。」
「そう…ですか」
「…まあ、これからのことは、その男と直接話すといい。入って来ていいぞ。」
「失礼します。」
最初から居たのかどうかは定かでないが、壬氏の呼び掛けに応えるとほぼ同時に扉が開かれる。そこから、雅彦と同じぐらいの体格をした、藍色を基調とした服を見に纏った青年が入ってきた。
「ということで、そいつはこれからお前の補佐役になってもらうことになった
「お前の補佐役になった、麟扁だ。」
(絶対ぶっきらぼうだろ、こいつ。)
「こちらこそ初めまして。
「ああ、言い忘れていたが、そいつはお前の秘密を知ってるぞ。」
「え?」
「まあ、そりゃそうだろ。俺はお前のよく分からない仕事を手伝うために充てられたんだからな。知らなかったらどうすんだ。」
「それも、そうか。」
「ちなみに、お前たちの齢は同じ21だ。」
「そうですか。」
「そうらしい。ま、だったら何だって話でもあるけどな。」
「麟扁、お前には今夜、雅彦と一緒に後宮へ向かってもらう。もう、持ち場に戻っていていいぞ。」
「…分かった。」
そんな返事をして、麟扁は執務室から出ていった。
「どうだった、麟扁は?」
「何というか…第一印象は、少しぶっきらぼうというか、そんな感じです。」
「まあ、あいつは…少し、仕方のないところもあるんだよ。」
「どういうことですか?」
「霊感があって、呪霊が視えるっていうのはな、俺たちからしてみれば、普通のことじゃない…不気味に思われることも、家族や友達に距離を置かれ、心を閉ざしてしまうこともあるだろう。あいつはそんな人間だ。」
「そう…ですか。」
「…さっきも言ったが、これからどうやって互いに関わっていくかは、お前たちで決めろ。」
「…はい!」
「それとだが、今夜は、後宮の北側へ行ってほしい。」
「きっ、北ですか……」
「何故そんな嫌そうになる。」
「単純に、他より暗いですし、強い呪霊の数が、他の場所と比べ、明らかに多いんですよね…あそこ。」
「だろうな。昨晩、梨花妃の侍女3名、下女2名が行方不明になった。」
「えっ、梨花妃の侍女が3人も!?それに下女が2人…大事ではないですか!」
「ああ、行ってくれるか?」
「ええ。何が何でも。最低でもご遺体や、形見ぐらいは見つけます。絶対に。」
「頼んだ。」
雅彦と麟扁は、後宮に足を踏み入れ、北側に歩いていく。
「お前、何をやってんだよ。」
「どういう意味でしょうか?」
「敬語外せ。めんどい。」
「そうかい。で、結局何って何だよ。」
「お前の仕事だ。いったい何と闘ってんだ、お前。」
「お前、視れるんだろ。お前的には、よく分かんない化け物が。」
「そうだけどよ。俺は知らねえんだよ、あいつらが何なのか。」
「あれは呪霊っていう、人間が何かを畏怖することによって生まれる怪物だ。」
「呪霊…初めて聞いた。」
「そりゃそうだろうな。この国には、そういった文化がない。」
「この国?そういえば、お前、異国の出身だったか。どうやって来たんだよ。」
「それは…何というか、うーん。」
「何でお前が悩んでんだよ。…ここか?」
2人が、話しているうちに、気づけば、林の目の前まで来ていた。
「ああ。そうみたいだな。」
(後宮の北は、今はもう碌な整備もされていない、雑木林だ。人があまり寄り付かないという都合上、呪霊が多くいるのは確実で、その上、並み以上の奴らがいる可能性が高い。俺が行きたがらないのは、命の保証がないからだ。こいつを連れてきてしまったことを後悔するかどうかは、これから、俺がどこまで守れるか…か。)
「…ふう、一応聞くが、本当に来るのか?」
「ああ。それが仕事だからな。それに、」
「それに?」
「俺、その呪霊とかいう、変なのが視えるせいで、みんなから気味悪がられてよ。俺の“
「分かった。…じゃあ、行くぞ。」
2人が再び歩き始めてから、10分ほど経過したとき、2人の目の前に、少し大きな岩らしきものが見えた。
「なんだ、アレ?」
「岩じゃねえのか?」
「俺も、そうだと思うんだが。」
「そんなに気になるなら、見てみるか。」
そう言って、麟扁は小走りで岩のようなものに近づく。
(いや…この感じ…っは!)
「やめろ…触れるな!」
「えっ?何…ッ!なんだこれ!?」
そこにいたのは、水色の濡れた着物を身に纏う、仰向けになった女の死体だった。
(この着物とかんざし、梨花妃の侍女か…それに、濡れた体と着物。剥がれ落ち、変色した皮膚。何よりこの腐臭。間違いない。)
「なんで…なんでこの人…濡れてんだよ!」
「この女性の死因が、溺死だったからだ。」
「死因。死んでんのか?…それに、それに!溺死って、川なんて近くにないぞ!」
「ああ。でも、大量の水を被り、溺死した。これは事実だ。」
(不味いな。俺としてもこんな事実受け入れたくない。どうする?…少なくとも、こいつを死なせるわけにはいかない。)
「“麟扁”。」
「どっ、どうした?」
「もう一度決めろ。自分の過去なんて考えるな。今すぐこの雑木林を抜けて、壬氏様に死体が出たことを報告するか、俺と来るか。」
「どういうことだ。」
「いいから決めろ!壬氏様に報告に向かうなら、お前の命は保証される。俺と来るなら…命を懸けてもらう。」
「何にだよ。…何に命を懸けるんだよ!」
「呪霊との戦いだ。」
「そんな…それに、こんな簡単に…人って死ぬのかよ……いや、そりゃそうか…………。」
麟扁は力が抜けた声を発しながら、膝から崩れ落ちる。
「ああ。現に、この侍女は、呪霊と遭遇し、この様だ。」
「…………」
「さあ、どうする。行くんだとしたら、俺は、お前の命の安全を保障できない。もし死んだら、お前が見返したいと言っていた連中にも会えなくなるぞ。」
「…なあ、“雅彦”。」
「どうした。」
「誰がやったんだよ…これ。」
「……呪霊だ。それ以外は分からん。」
「…そいつは、まだここにいるのか?」
「ああ。それに、行方不明者はまだ4人いる。それの捜索もある。」
「その人たちは、まだ生きてんのか?」
「…分からない。…でも、俺は、呪霊の騒動に巻き込まれた人間は、死んだものとして扱っている。」
「そう…か。」
「…早く決めろ。…こんな所で…道草食ってるわけにはいかないんだよ!」
「分かった、雅彦…………俺も行かせてくれ。」
「…ッ!正気か!?命の危険すらあるんだぞ!…それでも行くのか?」
「この人の死因は、公ではなんて言われる?」
「…川や湖に誤って転落したことによる溺死。だろうな。」
「本当の死の元凶を知ることはないんだよな…この人の家族は…何の脈絡もなく、この人が死んだことを伝えられるんだよな。それって、信じられないほど辛くて、悔しいことだよな。」
「…そうだろうな。」
「それをお前は、1人で背負って、呪霊を倒してるんじゃないのか?」
「そう…かもな。」
「この後宮で、その呪霊を視れるのは俺とお前だけなんだろ。」
「恐らくはな。」
「だったら…俺も、その呪霊を殴りてえ、お前の背負ってるもんを、俺は…少しでも背負ってやりたいんだよ!…だから行かせてくれ。おとりでも何でもやる、だから…俺も一緒に行かせてくれ…頼む。」
麟扁は、膝を地面につけたまま、雅彦に深々と頭を下げる、悲痛な声を上げて。
「分かった。行くぞ…敵を討ちに。」
そう言うと、雅彦は、麟扁の目の前に手を突き出す。
「ああ。行こう。」
麟扁はその手を取り、立ち上がる。そして、2人は肩を並べ、雑木林の中へ、歩き出した。
2人が雑木林を再び歩き始めてから、さらに8分後。
(呪いによって溺死するなんてほぼ有り得ない。だとすれば、元凶は術式持ちということになる。…できるだけ被害は減らしたいが、どうなるだろうか。)
「麟扁。」
「どうした?」
「呪霊の呪力を感知したら、お前に伝える。そうしたら、俺の後ろに下がっててくれ。お前がその呪霊を殴るかどうかは、俺が判断する。」
「…分かった。」
「………………」
「………………」
「…いた。」
「……ッ!どこだ!」
「奇襲する。麟扁、音を立てるな。」
「分かった。」
「“
その詠唱とともに地面から木の幹が出現した。その幹は、あちこちに生えた木の群れをかわしながら、呪霊がいるであろう場所へと突撃させる。
ドガァン!!
何かに衝突したような轟音が聞こえた。
「…防御されたッ!麟扁、こっちに!」
雅彦が麟扁の腕を掴み、引き寄せ、少し移動する。
ブァシャァアン!!
その瞬間、元居た場所に途轍もない衝撃波が繰り出され、その場を直線状に抉った。
「とんでもねえな。」
「何だよ…今の。…ん?水?」
衝撃波が掠った枝からは、水が滴り落ちていた。
「今のは、恐らく、圧縮した水の塊をこっちに飛ばしただけだ。」
「あれが…水の塊?どんだけでかいんだよ…」
(あいつからしてみれば、恐らく今のは小手調べ。≪水≫。これを操れる術式ということは、下手したら、川の氾濫や、海での暴風雨に関係するものの可能性もある。…だとしたら、“特級”…やっぱ不味いな。)
「出で来いよ。呪霊。」
その言葉に反応したかのように、木の陰から人型の呪霊が現れる。
「あれが…呪霊?あんな攻撃的な奴、初めて見たぞ。」
「お前がもし“特級”なら、手加減する理由はない。」
雅彦は地面に右掌を添え、右腕を沈めていく
「“
そう唱え、《特級呪具・
「麟扁、あいつの標的にならないぐらいの距離に隠れてろ。」
「おう。」
「さあ、さっさとその首寄こしやがれ!“
ズギャアァン!
雅彦は呪霊の首目掛けて斬撃を飛ばす。直撃と同時に煙が立ち上り、呪霊の姿を視認できなくなった。
「………」
パァン!
「…ッな!」
刹那、煙の中から鉛玉のような硬さの球体が、途轍もない速度で突っ込んできた。
「…ぐッ……ゥオラッ!」
雅彦は呪具で受け、弾き返す。球体は地面に着弾し、爆風が吹き荒れる。それによって、煙は晴れた。
「嘘だろ……」
呪霊は無傷であった。
(避けた?いや、直撃から反撃まで、ほんの少し間があった。だが無傷…呪力で受けたのかよ。)
〈布都御魂の再生阻害の
(どうなってるんだこいつ?…いや、≪蓋然礫・樹貫≫を使った時も妙だった。呪力で受けられたのは確かだが、『腕や術式で受けられた』というよりは、『壁にぶつかった』に近い感覚だった。)
「どういう小細工だ?」
雅彦が施行を巡らせている最中、呪霊は動いた。
ドガァン!
次の瞬間、呪霊は雅彦の前に移動し、拳を突き出す。雅彦は咄嗟に呪具で防御するが、呪力で強化されているであろうそれとの押し合いの末、呪具は弾かれ、無機質な音を立てて地面に落ちた。
(まずッ⁉︎)ドオォン!
すかさず呪霊は雅彦の胴目掛けて拳を放つ。雅彦は胴体に呪力を集中させることしかできなかった。
「ぐっ…………グォハッ!」
雅彦は10m以上吹っ飛び、茂みに突っ込む。
「雅彦!大丈夫か!おい…おい!」
(この声…どこかで?あー、あの時の。)
「大丈夫だ。…クッソ。あーどうしたもんか。」
「なあ、俺の目が変なのかな?あいつ…何というか、歪んでるように見えるんだけど。」
「えっ、どういうことだ?」
雅彦は呪霊に目をやり、注意深く観察する。すると、確かにぼやけて見えることに気づく。
「…やっぱり見間違えか?」
「いや、その見え方は正常だ。俺もそう見える………そういうことかよ!」
「えっ?なんか分かったのか。」
「ああ、麟扁。手伝ってくれるか。」
「……任せろ!」
雅彦は再び呪霊の前に現れる。
「さっきはよくもぶっ飛ばしてくれたなあ。今度こそ、キッチリ祓ってやる。」
呪霊はすぐさま水を圧縮し、今で言うバレーボールぐらいの大きさの弾を生成し、雅彦に向かってぶつける。
「“
次の瞬間、雅彦の目の前に櫻の根などでできた、途轍もない分厚さの壁が出現し、呪霊の弾を軽々と受け止める。
「…ッ!」
呪霊は驚いた様子を見せながら大量の水を圧縮し、さっきの何倍も大きな弾を生成する。着弾すれば大砲にも匹敵するそれを、容赦なく雅彦が作り出した壁に直撃させる。
「“
グガアァン………ブジャアァン
≪樹霊閣壁≫は数秒は持ち堪えたが、弾は貫通し、崩れ落ちた……そこに雅彦の姿はなかった。
「ふっ、きゃはハハハハハ。」
呪霊は笑みを浮かべ、小さな笑い声を発した。
カアァン
呪霊の背中に何かが当たる。麟扁がクナイのようなものを投げたのだ。
「……」
「来いよ…クソ呪霊が!」
スパッ……グサッ!
麟扁がそう言った途端、呪霊は水を圧縮し、U字型の拘束具を投げる。それは麟扁の右手首を捕え、後ろの木に突き刺ささる。麟扁は体を固定された。
「クソッ、離せ!この野郎!」
呪霊はゆっくりと麟扁に近づく。
「きゃハハ、オ前モ殺シテヤル。アノ女共ノヨウニ。喰ッテヤル。」
「…………お前…何人殺した。」
「ソンナ事、知ラナイ。」
メキメキッ。
「……たった1人の死で、何人泣かせると思ってる。……いい加減にしろ!」
バキバキ…バキィン!ドガアァァァン!
麟扁は右手首の拘束具を自力で木から剥がす。まだ余力が残っているその拳は、そのまま呪霊の頬に直撃した。本来、呪力が宿っていない攻撃は呪霊には効かない。にも拘わらず、呪霊は大きく仰け反った。数日前まで、呪術とは無関係だったその男の拳には…………呪力が宿っていた。
「………」
「はあ、はあ……来いっ……グッ…」
予想外の一撃に激昂した呪霊は、麟扁の首を掴む。そして、もう片方の手で“全身”の水を圧縮する。
「殺シテヤル」
「グッ……ガハッ!…清算してやる………お前の罪を!…俺が!!…………いや……俺たちが。」
グサアッ!
「…ッ!」
刹那、呪霊の背中に、“
呪霊は驚いた表情を浮かべながら背後を見る。 木の枝に、雅彦は立っていた。
数分前
「あいつの術式は単純な水の操作だ。」
「じゃあ、あいつの術式は衝撃波だけってことか。」
「いや、あの歪みも、水の操作が関わっている。おそらく、あれは水の防壁だ。」
「水の…防壁?」
「ああ、術式で作られた壁だ。戦闘になる前から、あいつは張っていた。おそらく、あいつが生まれた時からずっとな。」
(通りであんなに硬いし、とんでもなく不相応なほどに呪力消費も少ないわけだ。最初からある壁に、少しずつ呪力を流し込むだけでいいんだからな。)
「つまり、あいつを倒すには、その壁を破壊しないといけないってわけか。…どうやって?」
「あいつから殴られた時、感じた呪力以上の衝撃を感じた。つまりあれは、身を守る鎧兼打撃力を強める武器ってことだ。相手を殴る時、全身の水を特定の部位に収束させる。その時、防御は確実に手薄になる。そこが1番のチャンスだ。だが、相手が俺な以上、その攻撃を仕掛けてくる可能性は低い。」
「俺は、その攻撃を発動させながら、引き付ければいいわけか。」
「ああ、聞いただけで分かると思うが、一歩間違えたらお前は死ぬ。それでもやってくれるか?」
「…腕っ節には自信がある。任せろ!」
「いや、呪霊に接触するのはやめておけ。お前の攻撃は奴には効かない。だから、この武器を使え。」
そう言って、雅彦は懐から、クナイのような呪具を取り出し、麟扁に渡す。
「分かった。任せてくれ!」
「じゃあ、改めてよろしくな、相棒!」
そう言うと、雅彦は再び、麟扁の目の前に右手を突き出す。
「おう!」
麟扁もその手を取り、再び立ち上がる。
反撃の狼煙は上がった。
雅彦の姿が見えなくなる直前
「“
〈≪葉樹隠界≫は、雅彦が持つ技の中でも、屈指の隠密、撤退術である。10人以上を術にかける事ができるが、呪力探知に著しく長けているものには、通用しないという弱点がある。〉
雅彦は≪樹霊閣壁≫が崩壊する直前に、それを使用し、木の枝の上に移動した。その動きを、とてつもない呪力を放出した呪霊が気付けるはずもなかった。
「…清算してやる………お前の罪を!…俺が!!…………いや……俺たちが。」
(ふっ………任せろ。)
「“
グサァッ!
今に至る
「麟扁!囮役ご苦労様。」
「悪りぃ。囮役だから、大袈裟に挑発しようとしたら、普通にキレちまった。」
「いや、おかげで狙いやすかったよ。…隠れてろ。」
「おう!」
(とは言っても、“アレ”は完全に予想外だったけどな。あいつを気味悪がる気持ちもちったぁ分かる。確かに、無意識での呪力操作なんて異常だわな。)
「さて、相棒も良くやってくれた事だし、その努力を無駄にする訳にはいかないな。」
「何ナンダオ前ハ。」
「あ“っ?意味分かんなかったか?ここで絶対祓うって言ってんだよ。」
「フッ、フザッ、フザケルナ!」
「“
その瞬間、無数の木の葉が途轍もない速さで吹き荒れ、次々と呪霊に着弾し、水の防壁を破っていく。
「グアアァァ」
「“
雅彦は地上に降り立ち、再び呪具を顕現させる。
「さあ、これで終わりだ。“
雅彦は斬撃を放つ。それは、呪霊の、首と胴を断つ。
「ヤッ、ヤメロ、ヤメロヤメロヤメロ。」
雅彦と麟扁はゆっくりと呪霊に近づき、その頭を見下ろす。
「お前の犯した罪、命を持って、清算させてやる。」
「だな。…なあ、雅彦。」
「どうした?」
「ここは、勝利宣言といこうじゃねえか。」
「ふっ、分かった。」
「「さあ、お前の罪を、数えろ!」」
呪霊の肉片は崩れ落ち、消えていった。
数ヶ月後
「ふう、疲れた。」
「壬氏様。お帰りなさい。」
「ああ、雅彦。」
「梨花妃の出産、無事に終わりましたでしょうか?」
「ああ、今回は助産師もいたしな。……男児、東宮が生まれた。」
「左様ですか!」
「ええ、これから、後宮内のバランスは、徐々に変わっていくでしょう。」
高順が続ける。
「これから、さらに忙しくなってくる。お前も引き続き、呪術師の仕事に精を出すように。」
「はい!」
こんな事が序章に過ぎないと、この時は、誰も思っていないのだろう。無知は罪、その罪を精算する日はそう遠くない。
という事で、これにて第0クール終了となります。
これからは、猫猫が後宮にやってくる本編時空が始まります!
ほぼ全てを理屈で解決できる、本編時空で、呪術師こと雅彦はどんな活躍を見せてくれるのでしょうか!
お楽しみに