呪術師と茘の者たち   作:有苑

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これから、詰まんなくなるかどうかは俺の手腕だぞー。がんばれ俺ー。


第1クール
第7話 白粉


いつもの執務室、壬氏(じんし)高順(ガオシュン)は頭を悩ませていた。

 

「何が…何が原因だ。何が起こっている」

 

そこへ、雅彦(まさひこ)は戻ってきた。

 

「ただいま戻りました。壬氏様。」

 

「おお、雅彦。帰ってきたか!…どうだった?」

 

壬氏は、ぱっと顔が明るくなり雅彦に問いただす。しかし、雅彦は横に首を振った。

 

「私の口からは、何も……」

 

「…どういうことだ?」

 

「…何も分かりませんでした。」

 

「何故だ!…どっちの宮へ向かった?」

 

「両方…玉葉妃(ぎょくようひ)梨花妃(リファヒ)、御2人の元を訪問致しましたが、何の収穫も得られませんでした。…ただ、」

 

「『ただ』?」

 

「少なくとも、今回の件と“呪い”は無関係なことは確かです。」

 

「…だったら、他に何がある?」

 

「恐らくですが、今回の騒動は科学的根拠に基づいたものだと思われます。」

 

「八方塞がりか。」

 

「ええ。私が何かすることはできません。」

 

「お前が、最後の頼みの綱だったんだがな。」

 

「こんなことがあれば、私だって呪霊が原因だと思いますよ。」

 

「お前から見て、2人の容体はどうだった?」

 

「玉葉妃の容体は、大して悪化している様子はありませんでした。どちらかと言えば鈴麗妃(リンリーひめ)の方が危険な状態かと。」

 

「そうか…梨花妃は?」

 

「梨花妃は、危険な状態です。このまま行けば、歩くことはおろか、寝たきりの状態になる可能性すらあります。」

 

「そうか…。」

 

「ですが…それよりも…」

 

「何だ?」

 

「最も幼いというのもありますが、東宮が一番危険な状態です。生気が薄い、これ以上重症化すれば、亡くなられるのもそう遠くない可能性があります。」

 

「……分かった。」

 

「申し訳ございません。何も出来ず…何も分からず。」

 

「気にするな。今回の件は俺たちが調べる。お前は、自分の仕事を全うしてくれ。」

 

「承知致しました。」

 

 

 

 

 

(俺と麟扁(りゅうへん)は呪霊を狩り続けた。主に低級、人間に対し、肉体的、精神的疲労を及ぼす、蠅頭(ようとう)を。御2人の宮がある周りを重点的に。ただ、1つの場所を除いて。……結果、生後数ヶ月だった東宮が、亡くなられた。)

 

 

 

 

 

「…………」

 

「…………」

 

「……助けられなかった。」

 

「……今は原因の究明が最優先だ。」

 

「そう…ですね…」

 

「…………」

 

(早く原因を見つけなければ、今度は鈴麗妃が危ない!…だが、この謎の騒動は、一時的に沈静化し、鈴麗妃は無事だった。)

 

 

 

 

現在地点:翡翠宮

 

 

 

 

「お久しぶりで御座います。本当に、お元気そうで何よりです。」

 

「ええ、久しぶり…雅彦もね。」

 

「お久しゅう御座います。……本当に、本当に…ご無事で何よりです。鈴麗妃は。」

 

小鈴(シャオリン)も、もうすっかり元気よ。午前に遊びすぎて、今は、寝ちゃってるけど。」

 

「左様ですか。そうですか…良かった。」

 

「ふふっ。」

 

「それにしても、何故?」

 

「…私が、娘を診てもらいたいと言った日、窓辺にこの布切れが置いてありました。この枝に結んで。」

 

玉葉が壬氏にその布切れを手渡す。

 

「…これは!?そういうことか。…雅彦。」

 

今度は壬氏が雅彦にその布切れを渡す。

 

「『白粉(おしろい)は毒、赤子に触れさすな。』ですか。」

 

「無知は罪ですね。」

 

「……壬氏様、申し訳ございません。」

 

「何だ?」

 

「『白粉』とは、いったいなんで御座いましょう?」

 

「そこからか!」

 

「すいません。無知なものでして。」

 

「ここは私が、御2人はどうぞ。」

 

「頼んだ。」

 

「白粉とは、化粧をする道具の一種で御座います。主に顔や首筋などに使用し、健康的な肌色や、肌の白さを強調させるために使用します。」

 

「つまり…その白粉には毒性があり、この文を書いて翡翠宮へ置いた者は、それを知っていたと。」

 

「ええ、そうなるでしょう。」

 

「承知しました。…これは、しばらく預かってよろしいですか?」

 

「ええ、任せるわ。」

 

「感謝します。…高順、雅彦。失礼するぞ。」

 

「承知しました。」

 

「…?あっ、はい!」

 

 

(いつの間にか、決着はついていたらしい。)

 

 

 

 

 

3人は布切れを持って執務室へ戻ってきた。

 

「…つまるところ、その文を書いた人物を炙り出すと。」

 

「ああ、そうだ。」

 

「あてはあるんですか?」

 

「ああ。それに、これは俺の推測だが、この文を書いたのは下女だ。」

 

「何故そう思われるのですか?」

 

「この文は、紙ではなく、わざわざ布に書いている。恐らく、これを書いた者の近くに、紙がなかったのだろう。それに、この布は下女の仕事着に使われているものと酷似している。」

 

「そのうえ、壬氏様が目を付けた下女は洗濯当番でした。」

 

「でしたら、確定なのでは?」

 

「いや、その下女は、調べたところ、字が読めない。」

 

「えっ?…それは、どういう。」

 

「だから、炙り出すんだ。この文を書いたのはその下女なのか。本当にその下女は字が読めないのか。」

 

「…承知しました。」

 

「だが、実際、どうやって炙り出すか。肝心のここが思いつかない。」

 

「でしたら、私にいい考えが。」

 

「何だ?」

 

「鎌をかければいいのです。…時々、呪霊を視認することができる、術師にも関わらず、それを隠す者がいます。」

 

「何故そんなことをする?」

 

「バレるのが厄介だからです。術師にも2つの区別があります。1つは呪術師、主に呪霊を狩り、非術師を守る者たち。2つ目は呪詛師、呪霊ではなく、非術師に危害を加える者たち。特に呪詛師は呪術師から目の敵にさせれいるため、バレれば殺されます。それを回避するために呪霊が視えることを隠すのです。」

 

「なるほどな、…それで、どうやって見破るんだ?」

 

「ですから、鎌をかけるのです。…呪詛師かどうかを確かめる際は、呪霊が視えない非術師十数名と視える疑いを持つ者を一か所に集め、そこに低級の呪霊を放ちます。その状態で、どのような反応、行動をとるのか、それで判断する。今回の場合でしたら、字が読めない者たちとその疑いがかかっている下女を一か所に集め、何かを書き、その反応を比べればいいんです。」

 

「確かにそれは面白い。…鎌か、なるほど。高順、雅彦、それで仕掛けてみるぞ。」

 

「…承知しました。」

 

「承知致しました。」

 

 

 

 

 

 

後日、複数名の下女が、宮官長の部屋に集められた。

 

(確か、文を書いた疑惑がかかっているのは、緑がかった髪の身長が比較的低い下女だったはず。…あの人か。)

 

高順はその下女のスカートを一瞥した後、壬氏に合図を送る。

 

「わざわざ集まってもらって、申し訳ない。」

 

「「「わあ。…ステキだわ。」」」

 

壬氏が前に現れ、あらかじめ用意してあった椅子に座る。そして、筆で紙に何かを書いていく。

 

(相変わらずの歓声で…さて、どう動くかな。)

 

書き終えると、壬氏は下女たちの前にそれを突き出した。」

 

(えーっと何々、『そこのソバカス女、お前は居残りだ。』うおっ、ド直球…確かにこれぐらいあからさまの方が炙り出しやすいけど。…あっ、ヤベ。監視しておかなきゃ。)

 

雅彦がその下女に目をやると、明らかに面食らった顔をしていた。壬氏もそれに気づき、ほくそ笑む…犯人は確定したも同然だろう。

 

「今日は、これで解散だ。部屋に戻っていいぞ。」

 

「えっ?」「どういうこと?」

 

困惑しながらも、下女たちは退出していく、ただ1人を除いて。…その事実に気づいた下女の顔がみるみる内に青く染まっていく。踵を返し、逃げようとする下女の肩を壬氏が掴む。

 

「ダメじゃないか、君は居残りだよね?」

 

雅彦は顔を伏せ、黙ったままその下女の前に立ち、念のため退路を塞ぐ。

 

「…………」

 

「黙ってついてこい。」

 

その下女は、そんなことと言わんばかりに、壬氏を手を肩から払いのける。

 

(…意外な反応!)

 

雅彦はどうでもいいことを考えていた。

 

「この者は私が連れていく。高順、雅彦帰っていいぞ。」

 

「御意。」

 

「承知しました。」

 

 

 

 

 

現在地点・外廷

 

「ふう、さて、どうなるんだか。」

 

(あの後、壬氏様はその下女を玉葉妃の元へ連れて行った。今も、壬氏様は帰ってこない。掃除も終わったし、はっきり言って、暇だ。)

 

そこへ、水蓮(すいれん)がやってきた。

 

「雅彦。」

 

「水蓮様。どうか致しましたか?」

 

「ちょうど今、美味しそうな桃が入って来たのだけど、食べる?」

 

(桃ッ!)

 

「是非!」

 

「ふっ、そう。分かったわ。」

 

「ありがとうございます!」

 

(やはり、桃は美味い。程よい甘味に、中心の種に近づけば近づくほど、少しづつ増していく酸味。それを味あわせる、やわらかい触感。美味しくない訳が無い。まあ、傷みやすいのが玉に瑕だけど。)

 

「帰ったぞ。」

 

「あ、ひんひはま…ゴクリ…お帰りなさいませ。」

 

「…桃か。」

 

「えっ、ええ、そうですけど…」

 

「じーーーッ」

 

「なっ、なんですか?」

 

「俺にはくれないのか?」

 

「ええっと、それは…ですね…」

 

「…お前、思ったよりも食い意地張ってるんだな。」

 

「いやー…それほどでも…ない、ですよ?」

 

(でもこれは…俺が…ねえ、もらったもんだし…ねえ?)

 

そこへ再び水蓮が顔を出す。

 

「あら、坊ちゃん、お帰りなさい。…ん?」

 

「じーーーーーッ」

 

「…もう1玉剥くわね。」

 

「あっ、すっ、すいません。私なんかが頂いちゃって。」

 

「良いのよ。まだあるし…それに、早く食べないと痛んじゃうから。」

 

そう言って、水蓮は厨房に帰っていった。

 

「…それで………あの下女はどうなりましたか?」

 

「…玉葉妃が、侍女に向かい入れることにしたそうだ。」

 

「そうですか!…そもそも、なぜあの下女は、白粉が毒だと知っていたんですか?」

 

「あの下女は、花街で、薬屋を営んでいたそうだ。」

 

「なるほど。…確かに、それなら合点は行きますね。…………」

 

「…どうした?」

 

「いえ、その下女は大丈夫でしょうか?毒に対する知識があるということは、調合も容易ということです。悪用も出来ます。」

 

「……それをお前が言うか。」

 

「…それもそうですね。…申し訳ございません。」

 

「…フフフッ、雅彦、あの下女は、俺にとっては都合の良い駒だ。薬の知識を利用しない手はないだろう。お前のように…それに、悪用できないように色目を使えばいい。」

 

「そう…ですか。」

 

(なんだろう、あの下女は…そううまくいくだろうか。)

 

 

 

 

 

 

その夜、水晶宮付近にて

 

「ねえ、流清(リュウシェン)、早く帰ろ。」

 

「そうね、帰りましょうか。」

 

「オ前タチ、イクツダ?」

 

「えっ?誰、宦官?」

 

「あのー、どなたですか?」

 

「私ハ、ミカドダ…オ前タチ、イクツダ?」

 

「えっ?帝!…流清!」

 

「そっ、そうね。私たちは、2人とも16歳ですけれども、何かありましたでしょうか?」

 

「…ソウカ…ソウカ…ソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカソウカ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昨夜、40人余りの下女が行方不明となり、現在も捜索中である。最終目撃場所に類似点はなく、同一犯なのか、単独なのか複数なのかも確定しておらず、痕跡などの、手掛かりとなるものは、一切発見されていない。尚、その夜、『帝を名乗る不審な声を聞いた。』『どこからともなく声がして、年齢を聞かれた。』などの供述がなされたが、本件との関係性は不明、現在調査中である。《後宮内・残留文献資料より》




ようやく猫猫が登場し、原作通りの軌道に乗っていきます。
次回もお楽しみに。
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