「やぁやぁ…また君か。」
黒いタキシードに身を包んだ老人はそう言うと、暖炉の前の椅子に腰かけた。
「私と会うのは初めてだって?フッフッフ…面白い事を言うね、私の記憶が正しければ今回で君に会うのは5回目かな…?」
老人は何となく気まずそうに手揉みを始めた。
「と言っても、姿形が違ければ世界線やら出会い方だって全くもって違うものではあるがね。」
暖炉にくべられた薪木がパチっ…!と音を上げて崩れ落ちる。
「しかし、“この世界”に君が来た事は…世界線の収束も最早近いのだろうな…。私は何だかんだ言ってこの世界線を気に入っていたんだけれどもね、何とも残念だよ。」
老人は窓の外を遠い目で眺める。外は雨が降り始めていた。
「この世界線は主式世界線に共鳴した副式世界線だからね…。主式世界線にいるであろう生命体に終わりが近づいているのかね…。仮に、私がこの世界線を終わりたくないと考えていても、主式世界線に終わりが来ればその終焉からは逃れることは出来ん…。」
窓に雨の粒が当たり始める。
「けれど…これでいいんだろうね、誠に残念だが。主式世界線が終わりを迎えることは、私の知る限り今回が初めてだ。過去にも生まれていた主式世界線にも辿るべき
暗雲に一線の光が走る。その光を追うかのように、数秒して宙を震わす程の轟音が鳴り響いた。
「それに、主式世界線が終わったからと言っても、私の概念は消える事はない。来たるべきその時にも私は変わることなくここに居るだろうが、もし新しい主式世界線…あるいは単一世界線が訪れた時、そこに私がいたとしても概念的には同じなのだよ…。まぁ、記憶や私自身の個性は異なるかもしれないがね。」
老人はゆったりと立ち上がると、窓から遠くのあの空を見つめてみた。
「副式世界線の混合だって、主式世界線の収束が近づけば有り得る話だ。ほら、あそこに。」
塗りつぶされたかのように灰色の空を切り裂くように、微か仄暗い夕暮れがその空を攫った。
「夢は、希望を持って始まり、傲慢を取巻いて終焉を迎える。」
Elpisは焼き果てたあの空を未だ降下し続けていた。
「そう思わないかね、君も。夢を見続けるのは不可能だが、夢はいつだって希望と傲慢が交じり合っている。希望を覆いつくす程の傲慢が生まれたときに、その夢は終焉を迎える。主式世界線がどのように収束をするのかは私には知る由もないが、その行方に光あることを我々は祈っているよ。」