日々、移ろい行く景色の中で。
「私は何を楽しみに生きればいいの?」
そう訴える少女の眼は、朝露のように澄んだ雫を湛えていた。その眼を直視できず、私は思わず視線を外の景色へと移す。
外ではボテッとした雪がシタシタと地を染めていた。
「あ、姫様。この日々を日記に書き起こしてみてはどうでしょうか?昔書いていた小説の様に、徒然なるままに書き綴れば、その内楽しみも見えてくるのではないでしょうか?」
少女は湛えた薄い涙を、袖ですっと拭くと、窓の外を見つめた。外では、絶えず降り積もる雪を歓迎するかのように飼犬が走り回っていた。
その日から少女は日記を記し始めた。初めは書くことに少し億劫な様子を見せていたが、書き始めるや否や少し唸っては消して書いてを繰り返していた。
【張り詰めた空気見つめ、一向に降りやむこと知らず、雪。 天窓をすぐ雪が埋め尽くし、雪が雪を掃き下ろす。目頭もその白さと冷たさに痛む。 街は次第に夕暮れ、灯りに照らされ純白の雪を黄金に包む。 黄金の雪に包まれた人々は、凍える中でどこか幸せそうだった。】
それからというもの、少女は次々と書き綴る。日々、移ろい行く景色の中で。
【老いた冬が徐々に穏やかな表情を見せ始めた。飄々とした風はどこか丸みを帯びて、草木を撫でていた。甘い息吹を感じて、小鳥の話に耳を傾けている内に、心は何処か寂しさと苦しさを忘れていた気がする。桜の花びらはまるで空を川に見立てたかのように縦横無尽に流されていった。】
やがて少女の容態が目に見えて悪くなっていった。咳が隣の部屋まで響き、食事中も嘔吐の声が目立つ様になった。それでも、少女の日記は日と同じ分記されていった。
【乾き切った空と陸を窓から眺めていると、感じてしまいたくなる、夏の風。窓を開けると熱い独特の青い風が鼻を触る。部屋の空気はスッと広くなる。あの雲を見つめていると、空がどこまでも遠くて大きくて永遠なものに感じる。どう頑張っても手に入れられないようなその偉大さに、自分の悩みが小さく見えた。】
依然として体調が回復しないまま秋を迎えた少女は、涙を流して自分の吐き出した血に悲しみを感じていた。
【燃え立つばかりのその紅に、何処か悲しみを感じているのはきっと自分のせい。地に降る落ち葉は感じるままにサラサラと何処かに消えていったり。燃え揺るる木々と紅葉、季節がまた一つ終わりを迎えようとしている。】
その日、少女の容態を見に来た側近は少女の手が異様に冷たくなっているのを感じた。冬の初めの頃だった。
頬を伝った涙の跡が微か残った少女の手には、日記が握られていた。最後のページには涙が染み込んでいた。
【日々、移ろい行く景色の中で。 私は景色と共に生き、共に散る。】