女子学生が「AHO」なことをしています【完結済】 作:ナツコソビオレ
「…こういう時言うことではないけど…壮観だね」
「まず見ることないですからね」
ドラゴン。
ファンタジーの定番であるものの、その辺にいるありがたみのなさは微妙にうれしくない気もする、そんな生物。
味方ならいいけど、敵なら強く恐ろしくあってほしいものだ。
……とりあえず、こいつならその期待は裏切らないだろう。
しかも首三つあるし。
金色だったらアウトだったぜ、危ない危ない。
後から聞いた話によると、最初に実装されたボスで、ゆえに初期のアイテムしか持ってない不味さとアプデで無駄に強化されることで誰も触らなくなったらしい。
「あれこそ、この剣要らない? ほんとに要らない?」
ちらつかせて、必要だろこれ、とギト君をあおってみる。
「あの、とりあえず服を着てください、では」
「会ったときに言ってくれる!?」
どうりで周りがふわふわな雰囲気だと思ったよ!
しかも、装備整えなおしている間にもういないよ、あいつ!
『あのミカさん、広場にサメじゃないのがいます、なんかドラゴンのやつ』
『今別のところのも聞いてる! そいつは耐火装備ない奴が行ったら逆にピンチになるからねえ、触らないように』
はっきり言いきられる。
やっぱり手ごわい判定なのか。
自警団、次々焼かれてるもんな。
……で、焼かれて倒れてるのは他にもいるのだが。
「あれ、生きてるのみんな」
そう思った瞬間、死んでたと思ったPCたちが、生きてるキャラに殴りかかっている。
なんで!?
本当になんで!?
「あちゃー、アニメートデッドやり放題になったか…こりゃ次のメンテまでこの街放棄もあり得るかもね…」
「どういうこと!?」
いつの間にか後ろにいたチカちゃんが語りたそうにしていた。
「ドラゴンの真ん中の首の能力でね、殺したPCの能力コピーした敵キャラが生成されるの、ちょっと黒いあいつらみんなその敵モブ」
「逆にピンチってそれか!?」
「殺したら増えるからできるだけ精鋭持ってって死なないように削らないと収集つかなくなるんだけど、街に出たら道端の人殺して生成するんで…もう、だめかもしれん」
最悪だ。
しかし思ったより、火属性耐性なら、ミカさんから報酬でもらった鎧に強いのついてるからいけそうなんだよな…私。
なんたってこのサーバーでも最高クラスのクオリティの貰ってんだから。
…どうやってもらったかは思い出したくない!
「しょうがないから、ゾンビっぽいのだけ片付けるの手伝ってくるわ」
「罠作るから、おびき出す程度にしときなさい」
「チカ、気が付くとすぐぽよぽよのとこ来るのー!」
おや稀ちゃんだ。
チカにひっついて遊びに来ちゃったな?
危ないぞう、ここ。
「……引っ張ってくるのは危ないか…」
「じゃ、姫に回復してもらいながら壁際に落とし穴とかポンポンおいてるから利用してね」
「ういーっす」
ドラゴンが襲ってこないのを信じて、適当に雑魚討伐を決行。
ほぼpcそのものの見た目した敵をひたすら殴るのは、ちょっと趣味が悪いと思うが…。
「勝手に手伝うからね、ギトくん」
「…!……なら、剣にリーダーが付けたスキルのオーブがあるので、それ優先して使ってください!」
「そういえば、なんかついたの返されたね」
「マンイーターのオーブで、対人の属性のスキルでこいつらに効果があるはずです」
「そりゃおあつらえ向きだ」
チェックして、剣の項目からスキルを登録して敵にふりかかる。
「スキル名がこれ、『人殺し』ってなってるよ!?」
「翻訳がいい加減なんでそうなりますね」
ひでえよ。
でも使わないといけないよなぁ。
「オラァ!人殺し!人殺し!」
人として最低ランクに落ちた気がする。
底辺に堕ちて使うスキルのダメージはうまいか私?
「……最低なのに普通に狩れてる…なんだよこれ」
「減らしてくれるのは助かります! あとブレスの範囲は自警団が見てますから、先に行かないでください」
「ほいほい」
人殺しの効果はすごい。
自警団だから、pkに対抗するのに付けた理由自体はわかるんだけど…こんなので暴れる気だったリーダーさん、オマエおかしいよ。
複数に絡まれたら壁のほうに逃げて罠を探し、利用する。
後はウロウロしながらアニメートデッドをこっちに引っ張る。
そういう作業をする予定だったのだが…。
多い!
そんな余裕見せる暇ない!
しかもやられる自警団と見学しに来て死んでくpcたちの分増えるからね。
「ちょっと!? 向かってきてる! ドラゴンこっちきてるって!」
「すいません! 抑えてられる人数がもう残ってないです!」
「何してんのって言いたいけど、しかたねぇなぁ!」
アニメートデッドに絡まれてないのを確認して、もうドラゴンに突っ込む。
鎧を信じるしかない。
デバフを一応入るか確認して、いくつかは入ってる様子なのを確認して、ちょっとホッとする。
でも、もうこれ動けないぞ、私。
「本田さん、目立つの好きじゃないと思ってましたよ?」
あ、そうだった…。
いや、私の行動のことを言っているのではない。
忘れてた、足りないという頭の片隅の疑問が、今晴れたのだ。
「もうギルドの家のそばなんですから、本当は離れられないというのは勘弁してくださいね」
「本田さん、私たちのとこにすぐ来ると思ったら意外と薄情なんだからさー!」
「みんなぁ!!!」
いつもの、ずっとお世話になってたギルドのみんな。
そうだね、やっと会えたね!
そうか、ギルド本拠地も騒動のさなかだから、離れられなかったのね。
「心配したニャ↑~! マイワイフ!」
「見つけたと思ったら、ずいぶん楽しそうに写真映えしそうなことしてますわねえ?」
うるさいのもおるわ。
とりあえずで回復投げてくれる小石ちゃんがいとおしいのレベル。
チカちゃん、ギルド同じなんだし皆ログインしてるなら教えてくれてもよかったのに。
ぱっと出てきたばかりなのに、ルシテアさんもオージンさんも他の敵の引きはがしを優先してくれる。
そこからケダモノ等は個別撃破で数を減らし、ドラゴンのブレスに耐えられるやつが殴りやすい空間を作ってくれる。
助かるなぁ、やっぱこのギルドの気遣いの体制は。
『本田さん本田さん、活躍してるって聞いてねえ』
おや、ちょっと気分がいいときにミカさんの耳打ち。
褒めてあげるとか、ボーナスでもくれるとかの話?
『やっぱりメンテで街リセットするまでだめかもしれないねぇ…そこにゾンビ100キメラとボスオーガがさらに出て、合流される可能性高くなっちゃってねえ』
『一匹くらいなんとかしてくださいよォォォ!』
泣くぞ。
今度こそ泣くぞ。
『もう完全退避するかどうか今話し合ってるんだよねえ…その近接向かないボスに揃われると正直割に合わないにもほどがある』
『あ、割とマジで言ってます?』
『大マジ』
「みんなぁ、あとギトくん、退避して街放棄かもしれないってさぁ!」
「「しません!」」
割と一斉にみんなで声をそろえる。
要するに、退避はいいけど…それって、街に出入りできないからメンテまでギルド本拠地の家にボーっと入って待つか、戻れなくなるということにもなる。
そこは流石にみんな、許容できないらしい。
「でも、ゾンビキメラとボスオーガが近寄ってるってミカさんから言われてんよ?」
「…ユメージさん」
「自警団は壊滅っぽいんでしょ?無理しないでいいよ」
「その剣の独自スキル使ってないですが、使い方も知りません?」
今何の話してるんだ。
「さっきの人殺しなら使ったろうに」
「そうじゃないです、剣そのものショートカットに入れて使える独自技です」
「……全く知らん…なにそれ…」
「それのスキル段階5の開放、剣に署名することなの、僕、自分で持ってる間に少し触って知ってるんです」
「だったら自分で使ってよ!?」
署名、または銘入れのシステム自体は知ってるが、使っているキャラがするものだったか詳しくは知らない。
「全部集まったら終わりでしょうし、それに賭けてみませんか?」
「何言ってるかわからないけどさ…一人で何とかなるものなの、このボス地獄って」
「なるかどうかはわかりませんが、お願いします」
「…あんたほどの堅物が言うなら…」
もはや終わってるという緊張と時間の制約で頭が回っていないので、言う通りにする。
剣クリック、署名…と。
『署名を行うと、この武器は専用武器となりますがよろしいですか?』
見たことないメッセージだけど、しかたねぇや。
そして、ショートカットにこれそのもの登録…と。
とりま、そのまま使ってしまえ。
と、やったところ…。
ムービーだ。
ねーさんのメテオの時にもあったな、技のショートムービー。
――――――――――――――――――
双眸を開け
主の未来を拓くその視線を
そして照らせ
御先にあるべき我が道を
曇りなき覇王の道を
その眼差しで輝き拓け
同じ瞳の先にあるものは
すべて砕かれ
すべては消える
力のすべてをもってして
輝け、ゲイズ・オブ・ロードス
――――――――――――――――――
そんな大仰な、文字の流れるムービーがさらっと流れて気が付くと…。
死んだ。
私が死んだ。
ちょっとお!?
「僕は3段階しか使わなかったですが、どうも体力を削って同数のダメージを相手に与えるのがこのスキルらしく、段階が進むと桁が変わるようなんです」
聞こえるけど話せねえよ。
あ、すぐ蘇生された。
姫か小石ちゃんかどっちだろうか。
「自爆スキルじゃないか!何使わせとんねん!」
「いや…本田さん、それどころじゃないよ」
小石ちゃんが引いたような声出してる。
「あの、本田さん…カンストしたニャ」
「は?」
スキルごとに桁が違う。
自分が即死するダメージを与えている…。
それでつまり、自分の体力の最大値ではなく、表示可能な最大のダメージを自分が受けたとするなら…。
「…もう一回死ぬから、回復用意してね」
「はーい」
叩き込む。
ぱたり。
即復活…。
「どうだった…?」
「カンストしました」
「また最大ニャ……」
「こんなのそりゃ実装しねえよ!こんなの出しちゃだめだよ!!」
原理はわかった。
そして私は初心者ルールがあって、蘇生できる数に制限がなくてデスペナもほとんどない。
こんなんチートだろ。
修正しろ!
だが、背に腹は代えられまい。
そして、見てる人もいつものギルド以外、そんなにいないな?
もう……ヤケだ。
「蘇生だけすぐかけて!もう私、ここのボス壊滅まで死に続けたるわ!」
「やったーかっこいいー!」
「本田さん街のために命かけるの、最高ニャねぇ↑~!」
「命はかけるけど、これ相当意味が違うよなあ!」
そうして、ひたすらドラゴンにカンストを叩き込み続け。
次に出てきたゾンビキメラの即死ブレスも自分が死ぬから効果などなく復活して殴り続け。
二つ仕留めてから出てきたオーガだけ、蘇生した自警団などを含むみんなで殴り倒して、街は救われた。
「これで本当に全部なんだよな!?」
「システムメッセージで街の開放って出たから、おわったよ本田さん」
「もういい加減、死にたくねえからな!?」
「お疲れさまでしたユメージさん」
「二度と使わないからね!それにしても、こんなので他の人に渡せなくするなんてひどいよなぁギトくんはさあ」
「これがあるのは知ってましたけど、絶対僕じゃ使えませんでしたよ、ユメージさんだから…輝けるんです」
「うまいこと言ったって、好感度上がんないからね!」
「わかってますよ」
落ち着いたところで、なんとなく口数が増える。
ギト君の助言のおかげなのは確かなので、内心ではちょっと好感度上げてもいいかなって気分ではあるが、それは言わないのだ。
『朝霞さんがわっちの目の前で浮気してるニャ…』
……。
…………は!?
ケダモノ今なんて言った?
もし漫画とかなら、効果音で私にゴゴゴゴゴってついていたと思う。