女子学生が「AHO」なことをしています【完結済】   作:ナツコソビオレ

44 / 58
なかのひと

「……奥から、いかにもアピールしてるあの人なに…?」

「キャラちゃんです、あの子は一度でも役に入りむと現実の行動にも凄く出るので」

「……だったら部屋から出てこないほうをすべきだったよね…」

「その辺は好奇心が勝ったらしいです」

 

 遠くの席から、ごみ袋のようなものをかぶって双眼鏡でこちらを見る怪しい生き物。

 それがまず気になって仕方ない。

 よく追い出されないな。

 許可取ってやってんのかな。

 

「…と、いうことで…」

「何かこの場でしようっていうのは許さんからな」

「本当に本田さんそのまんまで、うれしいなぁ……ヒーローショーの子供たちの気分が今やっとわかります」

「あたしはどの組織の戦闘員役なんだ、ケダモノの中では」

「いやもう巨大ロボットですよ、もちろん」

「顔以外をじっと見て言うな…言わないでください」

 

 東京都、町田。

 駅前から近い小市場のすぐ隣にある何某喫茶店。

 行きつけの好きな店に、これの匂いを付けるのは癪だが、思いつくところがなかったので仕方ない。

 

 そして、ずっとMMOしているはずが、なんでこんな喫茶店くんだりまで来たのか、という本題。

 

 前回の、ケダモノが言ってはいけない何かを言った問題で。

 ゲーム内チャットで何もかも話しまくるのもログ取られて嫌だろうということで、じかに合って説明する流れに急になったのだ。

 メッセージアプリや電話番号教えるのを、私がかたくなに断ったせいもある。

 ケダモノの語りを私生活でずっと聞く人生、嫌じゃん…。

 

「しかし奇遇ですよね!まさかの同い年!」

「…知りたくなかった…」

 

 いつだったか、芸歴17年というからそこそこ年上だと思っていたが、どうも親の主演作にスタジオに連れてきて物心つくかどうかの子供を出演させたとこから換算しているせいらしい。

 彼女が言うには、そこに休業期間なり引退期間があるのでまともな芸歴は年齢相応というが、それでも子役にモデルに色々場数は踏んでいるようで、信奉者めいたものもいる…と。

 そんな、目の前のケダモノ…いや、ベルテさん。

 帰化したフランス系俳優と中東系の親御さんを持つ人で完全に日本人の雰囲気などはない。

 ただ日本語はむしろ完璧だ。

 

 その一方、私が会う直前に少しだけ検索してみる分だけでも「名誉熱狂的仏教徒」「自前のビル爆破を決行した声優」「生前から演技してた無限の才能を持つ女」「年齢=芸歴人生」など、インパクトで飯食ってんのかという怪しい二つ名ばかり出てくる。

 

 カルト人気は確かにありそうだ…。

 

「で、いきなりですけど結婚してください」

「なめんな帰れ!」

「な、何故!?」

「反応がわかってて面白がってやってるのがスケスケだからだよ!」

「ちぇ↑~」

「出てるぞ性根のほうが」

「じゃあ結婚は我慢して、毎日本田さんごっこはしたいから一緒に水道橋の部屋でシェアハウスしよぉよお」

「学校通えないからパスで」

 

 なんなんだよ本田さんごっこって。

 

「……たまには、ちょっと甘めの妥協が欲しいニャ↑~」

「甘くしたらしたで、絶対物足りないっていうよ、ケダモノは」

「わかりあえるって素敵ね!」

「私の中ではわかりやすめの性格してるよ、ほんと」

「…言われたことないですなぁ…」

 

 似てるのよ、チカちゃんと。

 特に他人が思った行動してるのを確認して歓喜してるずぶとさが。

 期待のリアクションに喜ぶのと、自身の計算高さに満足する方向性だな、違うのは。

 

「お胸によらず知識と経験が豊富なご様子で…」

「前も言ってたなぁ! 胸と知力が関係してそうな話!」

「私の経験則で言うとそうなんだけどなぁ…ちょっと確認していいですか」

「知能テストでもしろってか」

「……いえ、それが本物かどうかちょっと…触って…」

 

 ほう?

 やってみろよ。

 

「無言でお塩の瓶を高く掲げないで!? 怖いですよ!?」

「…とにかく、のんびりして本題の気配に全くたどり着きそうにないの、なんとかならんのか」

「このまま次回にして今回はこの甘い空気を堪能してもいいかなって……いやいや、砂糖もダブルで持たないで!?」

「店の特製シロップでそのまま電車乗っては帰れなくなりそうなことはしない理性の表れだゾ?」

「…そうなったら近くのホテルで洗ってもらうからむしろ好都合…て、しないって言ったのに!?」

 

 そんなに人間のシロップがけが体験したいのかこいつは。

 

「…どっちにしても、どうせならもっと時間合わせて美人と名高い他の子にも会いたかったなぁ↑~」

「むしろ全力で阻止する覚悟でいるがな」

「でも、どっちにしたって、絶対一番の美人画目の前にいるから、わっちは浮気なんてしないですよお?」

「歯が浮くようなお世辞にしても、さすがにそれは言われたことねえよ」

「それはウソ!」

 

 急にテンション上げるじゃん、ケダモノ。

 

「こんなびっくりするくらい肌白くて、ぷにっとしてて触りたくなる色気と今すぐ脱がして和服着せたくなるこのデリシャスな人が美人じゃないなんて言う人いるんですか!」

「デリシャスは人の見た目で使わんな、あと脱がそうとしたら警察呼ぶから」

「一回くらいは採点甘くしてほしいニャ↑~」

「だーめ!」

 

 ちっ。

 おだてられて少し甘くなってるか。

 

「肌白いくらいは言われるけど引きこもってたからだけだし、まぁ顔や腹は中2からしばらく振動する器具とかでダイエットして努力したのは否定しないけどさ」

「…えっちな…?」

「そこ掘り下げたら即シロップ人間が誕生するから覚悟して言っとけ?」

「まぁ、そこそこの経緯は知ってますけどダイエットにそんなに?」

「ま、進学しない気でいたところに親身になってくれた先生が出てきて、その時ガチ恋しちゃったからさぁ」

「んま、嫉妬していいですか!?」

「…今年の六月に別の赴任先で生徒への性的暴行で起訴されたらしいから、もう会えないよ…」

「……聞かないほうがいい話でしたか…」

「私にはぜんぜんそんな人には見えてないから、先生から見て気に入られる程度に痩せようと四六時中腰ベルトとかして、朝方散歩して、食生活変えて…努力したりしたのよ、懐かしいわね、思い出だけは」

「あらあら」

「…こっちが恥ずかしい話晒したんだから、そっちはちゃんと話を進めなさい」

「…何の話でしたっけ」

「本名いきなり知ってたはーなーし!」

「そうでした」

 

 ケダモノ…の中身、ベルテさん。

 

 私が例の剣で騒動になってるころ。

 そしてお別れしようとなった日、ずっとレコーディングでカンヅメだったという話。

 終わって入ったときには私は引退かもと周囲に言われ、バチ切れかましてゲーム外で煽ってるのを訴えてやろうかと用意を始めたころ。

 私の名前で検索しても盤外の陰口は見つけづらく、私のキャラ画像をいくつか使って一致画像を使ってる場所を探る、という怖い手をやっていたらしい。

 

 すると。

 

「最近のAIって凄いですよね、検索の候補で動画が出てきまして、それを見たら声がなんと、本田さんなんですよ」

「…何の関係が…?」

「でも見た目は似てて口調や声はあまりにそっくりなんですが、小学生で、内容が喧嘩…」

「うわあぁぁぁぁぁ!!!」

 

 それ以上言わないで!

 

「…やっぱり図星ですよね…」

「あれ残ってたの…? 見たの…?」

「私が見たのは切り抜きでしたので、数分なんですが…」

「にしたって、なんでそんなの残ってんだよお…ひっどいよ…」

 

 小学生の時期、しばらく顔出しで配信してた時期がある。

 子供だし登校拒否の真っただ中で言うことおかしいし勉強もできないし、完全に玩具だった自覚が今はある。

 それで、視聴者の文字列と凄い喧嘩して、学校の場所とかほぼバラしちゃったりして。

 挙句に言い負かされて泣いて消したんだよね…。

 …消したけど切り抜き、あったんだ…なんてひどいんだ。

 

「そこで拾えた情報と顔を探偵事務所にドキドキしながら投げましたら、一日で戸籍まで洗えてしまって…」

「こえーんだよ普通に!?」

「でもさすがにスンナリ行きすぎと思ったんですが、うちのギルドのチカチカさんがリア友と聞くと、あの人リアルの近所の情報割と筒抜けに話す人なので、つじつまがばっちり合うなと…」

「うわぁ…そこの線は私ではどうしようもねえよ…」

 

 そういえばチカちゃん、あのいつものギルドの中での自分の話、あまりしないなと思ったんだ。

 若気の至りで内側ばらしまくって、居場所無くなったりしたかな…?

 あっちもやってんなぁ。

 で、確定したのか、私の中身が。

 お金の力ってやっぱ何でもできるな。

 

「もう写真見たとき興奮しちゃって、そのままベッドに持ち込んじゃいましたからね! そこまでまんまの人物作るなんて思いませんもん!」

「何してんだよ!?」

「私のワイフですからそりゃベッドに行くでしょう!?」

「写真と結婚を許した覚えはねえよ!」

「じゃあ今ここで正式に…」

 

 ぺし。

 思わず立ち上がって、ベルテに平手だけど頭の真上から一撃くれてやる。

 

「目を覚ませぇ、オマエは別に女性同士で結婚できる国に引越しした後じゃねえぞお」

 

 そのまま、ちょっと、わさわさ髪を崩さない程度に揺らす。

 しっかり前を見ろ社会人。

 

「……あの…」

「なんだ」

「ごめんなさい、本当に…あの、なんなんですけど」

「なんだね…」

「…イきました…」

「もう町田出禁だよオマエはよ!!!」

 

 一緒に来た相方を呼び寄せて、もう会話は無駄だと悟って引き取らせた。

 ダメだ、変態に私の身体をこれ以上晒し続けるわけにはいかない。

 普通に貞操が危険にさらされるかもしれん。

 

 

 そうして、一応キャラちゃんの中身にはご希望があったのでメッセージアプリのアドレス交換して万一のケアのやり取りだけすると約束をした。

 …そのうち、ベルテにもバレるんだろうな…。

 本当なら、なんでそんな急に私に色目使いだしたのかも聞いておきたいところだったが、別の機会でいいだろう。

 

 今日は疲れに勝てない。

 外に出るだけでも、こっちはすさまじく疲れるんだよ?

 

 それと、改札までは見送りに行ったのだが。

 去り際にベルテが握手を偽って意図的に胸揉んできたので本当にビンタして別れた。

 

 

 …後日、彼女の公式SNSアカウントに町田出禁になりましたと書かれてだいぶ周囲が混乱したようだが、私は知らない。

 知ったことか。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。