銀河で賞金稼ぎやっていたら、謎のヤンデレ宇宙生物に体を寄生された男の話 作:モーフ
《では彼は協力する事にしたと?》
重厚な声が円形の空間に反響する。
自然と身が引き締まるようなその空間の中心には、ダインがいた。
「はい、ただ我々騎士団に入る訳ではなく、あくまでも協力者という立場で――ですが」
ダインが今いるここは星導院の中に設けられた星環議場という会議室のような場所だ。
天井も壁も黒曜石のような曲面に囲まれた円形空間となっており、中央には議題のテーマを話す人物が立つようになっている。今回の場合はダインからの発言となっており、そんな彼を取り囲むように、半透明のホログラム投影体が浮かび上がっている。
その数は十数名、種族はバラバラだ。
ちなみに会議の人数は内容によっては少なかったり、もっと多かったりする。今回の場合は多い方だった。
《危険因子を組織外に置くのは、管理上の問題があるのでは?》
《特に
低く、圧のある声が次々と重なる。
だがダインは微動だにしない。
「管理の問題は承知しております。しかし彼は騎士団加入を拒否した。無理に囲い込めば反発を招き、戦力を失うどころか敵対の可能性すらあります」
《ちなみに彼の戦闘能力は?》
問いに、ダインは指を軽く振ると空間に新たなホログラムが展開された。アゼルのこれまでの経歴がずらりと並ぶ中で、一番注目を浴びたのはやはりニルと共生関係になってからのデータだった。
「カイナには負けましたが、ニル殿の証言が正しければ、際限なく強くなるとの事です」
《強くなる方法は?》
「敵の殺害です、直接手を下して血肉を喰らうことで強くなります」
円卓に静寂が落ちる。
《……放置すれば、いずれ制御不能になる可能性もある》
「だからこそ」
ダインの声は落ち着いている。
「敵ではなく、協力者として傍に置くのです」
ホログラムが切り替わり、アゼルとの間で交わした契約内容が映し出された。
「今回の合意内容は以下の通り」
整理するように言葉を重ねる。
「第一に、アゼルは引き続き“賞金稼ぎ”として活動する。身分も、表向きの立場も変わりません」
《つまり、我々の正式構成員ではない訳か》
「はい。しかし」
ダインは一拍置く。
「銀河連合およびアストラルから依頼される“オキュラス関連事件”には、最優先で参加してもらう契約です」
数名の騎士が視線を交わす。
《最優先、とはどの程度の拘束力だ》
「原則として、他依頼より優先。彼が受けている任務があれば中断も含む。ただし物理的に不可能な状況は除外」
《報酬は?》
「通常の賞金稼ぎ基準に加え、危険度に応じた連合補助金を付与。正規騎士と同等水準です」
《破格ね》
女性の騎士団員が口に出すと、周りも確かに高いなと呟く。
アストラルは謂わばこの宇宙で一番命をかけてる立場と言っても過言じゃない。カイナも新人だが、そんじょそこらの大企業の役員よりも沢山もらっている。
「戦力価値を考慮すれば妥当かと」
《新入りの中には納得いかねぇって奴が現れそうだ》
そうなっても積極的に喧嘩をふっかけるような事態は起こらないとダインは見ていた。何せアストラルに入っている時点で、一定の理解があってちゃんと理性あるのは証明されているようなものだ。
(カイナとその友達連中は違うがな)
ダインは白い目になった。
カイナは戦闘狂だ、すぐ勝負しようぜという。
あいつからはしつこいぐらい絡まれそうだなとダインは思っていた。
《ダイン?》
「失礼……第二に、制約について」
ホログラムに“禁止項目”が表示される。
「カルテル、ギャング団、反連合勢力など、オキュラスと接触の可能性が高い裏社会組織からの依頼は受諾不可」
《裏稼業から足を洗わせる……か、これは皆異論はないだろう》
「ただし完全ではありません。一般犯罪者の討伐や通常の賞金首は可。ただし組織的犯罪ネットワークとの直接契約は禁止という意味です」
《ほう》
「彼が裏組織に深く関われば、オキュラス側に情報が渡る可能性がある。まぁここら辺に関しては連合に確認させる工程が入る可能性がありますな」
論理は明快だった。
《……かなり束縛しているようにも見えるが、本人は了承しているのかい?》
「本人からの提案です」
なら問題はないと一同は口を噤む。
「第三に――彼はオキュラス関連以外の任務への参加義務は負いません」
一瞬、空気が変わる。
《何?》
「紛争、星間警備、通常の怪異討伐。いずれも参加自由。命令権は発生しません」
《なるほど、それこそ彼が本当に保証して欲しい事か》
「彼はあくまでも騎士ではなく賞金稼ぎ、そのスタンスを崩したくないのでしょう」
ただし――と続ける。
「こちらから参加してくれればありがたいと打診することはあります。拒否権は彼にある」
議場が沈黙する。
《彼がオキュラスに飲まれない保証はない中で、これは中々にリスクがあるな》
「皆様が危惧するのはわかります、実際……ニルがどう変化するかは誰もわかりません」
しかしダインは信じていた。
アゼルとニルの間には確かな絆がある。
彼が上手く手綱を握り、お互いを信頼し合う事が必然的に人々の命を脅かさず、平和を守りきれる力になると。
「ですが儂は信じています、この2人こそが……鍵なのだと」
程なくして会議は終わった。
やがて中央上部に浮かぶ最も巨大なホログラムが口を開いた。
《……暫定承認とする》
《オキュラス案件限定の優先協力者。準外部戦力として登録せよ》
《逸脱があれば即時再協議だ》
「承知しております」
ダインは深く一礼した。
光が一つ、また一つと消えていく。
「さて……ここからが色々と大変じゃの……」
そう――まだ始まったばかりなのだ。
これから更に色々と準備が必要となる。
「アゼル殿には苦労をかけるな」
もう疲れたような顔をしながらも、ダインは水面下で動き出す。恐らくアストラルの長い歴史の中でも、ほとんど前例のない計画を進める為に……。
◆
「退屈だ」
星導院の来賓用のラウンジスペースの一角で、アゼルは深く背もたれに身体を預けていた。
目の前には、天井から床までを覆う一枚の巨大な強化透明窓があり、その向こうに広がる光景をボーっと眺めていた。
アゼルとニルが今いる都市惑星はアウレリオンという名前で知られている。
銀河連合に加盟する数千の文明圏の中でも、政治・経済・軍事の中心とされる完全都市化惑星であり、惑星全土が人工構造物で覆われ、自然地形がほぼ存在しない。地表から成層圏まで幾重にも重なる多層都市、軌道エレベーター群、空中航路を走る無数のシャトル、外縁軌道には艦隊ドックが連なっている。
遠くには連合議事塔が天を貫き、さらにその上空を巡る防衛衛星群が星のように瞬いている。銀河連合の栄華をこれでもかと見せつけてるような景色だ。
「……なんか落ち着かない場所だな、本当に」
アゼルはぽつりと呟いた。
この星に最後に立ち寄ったのは5年前だろうか。賞金首の追跡で数日滞在しただけだったが、それでも記憶に焼き付くほどの規模だった。
(銀河で一番デカい都市の、さらに騎士団の心臓部か……)
一言で言えば場違い感が凄まじい。
豪奢なソファ、静かに流れる環境音、洗練された内装。どこを見ても「上級国民」の空気だ。賞金稼ぎの身には落ち着かない。
落ち着かない理由はそれだけではない。
星導騎士は御伽話で出てくるぐらい有名で、歴史も非常に古い。アゼルもジョンから何となく聞いていたし、レインも知り合いがいると言っていた――本当かは知らないが――から、今置かれている状況が信じられなかったりする。
(ガキの時の自分なら喜んでたかもな)
などと考えていると、ぴたりと背中に柔らかい感触。
「なんか退屈ねー」
ニルが当然のように身体を預け腕を絡めてきた。
もう身を隠す気はないらしい。
「どんぐらい待たされるのかしら。ダイン、上の人たちと話すって言ってたけどさー」
「お前、もう少し警戒心持て」
「えー、だって敵じゃないって認識されたんでしょ?」
ニルはケロッとしているが理由はしっかりある。
現時点でアゼルとニルは“敵性存在”ではないという扱いになったのだ。ただしまだアストラル全騎士、ましてや銀河連合の全構成員が事情を把握しているわけではない。
正式な紹介と通達は、しかるべきタイミングで行われる予定だと伝えられている。だからダインから言われたのは、決められた区画以外でニルは出さないようにという指示だ。
「今の俺たちは、半分機密扱いだ」
「ふーん?」
「ここだっていつ知らない奴が来てもおかしくない、だから安易に顔を――」
出すな――と言おうとした瞬間だった。
「おっっす!!! アゼルとニル!!!」
「いっでぇ!!!」
「宿主様!!?」
背後からカイナがアルカイックスマイルを浮かべて、アゼルの背中を力強く叩く。軽く「バキッ」と音がしたアゼルは痛みから悶絶する。
「おまえ……!! 加減知れ……!!」
「私の挨拶はいつも全力よ? しっかり受け止めなさいよ……男の子でしょ?」
金髪を靡かせた超銀河級美女(自称)――カイナ・ブライトが困り顔で言った。あの戦い以降から彼女と多分仲良くなったアゼルは、偶にだる絡みされるようになった。
「……貴女……食い殺されたいの?? 私の――」
「くらえタイヨー!」
「ぎゃあああ! 目から光を放つな、おのれぇぇえ!!」
ニルも頑張って抵抗するが、カイナは目から光を放ってニルを撃退する。何でもニル曰く――カイナの光は多分オキュラスに効く――とのこと。だからこそニルでさえカイナに強く出にくかったりするのだ。
「くそ……なんて憎き光ぃ」
「あいてて……ニルがいなかったら肩甲骨砕けたままだぞ」
「ふふん、シャキッとしないのが悪いのよ」
何故したり顔なんだこいつと青筋を浮かべながらも、アゼルは一応何か用かと返す。
「ありがとうね、私たちに協力してくれて」
「無理矢理連れ去られたようなもんだが」
「…………その節は申し訳ございませんでした」
ダインから一応彼女はかなり
「何というか、戦わないとその人の本質ってわからないとかあるじゃん? 善人かどうかわからないし、ニルの本質とか知りたかったのよ」
「だからわざと挑発したと」
「そう、じゃなきゃ本気にならないでしょ?」
それは一理ある。
現にアゼルもレインからは厳しい修行を受けていた。
1つのミスで死んでしまうようなきつい内容を経て、戦えるようになったのだ。だからカイナのことはそんなに否定的ではなかった。
「俺の人となりはわかったか?」
「大体? まぁ騎士の仕事も出来そうだなってわかったから、収穫は多かったわ」
「……騎士の仕事……ね、沢山あるのか?」
カイナはふっと真顔になり、窓際に立ったまま金髪を指で払った。
「めっちゃあるわよ、まぁ私は
軽口混じりの調子ではない。
「銀河連合の看板背負ってるからって、全部が華やかなわけじゃない。むしろ逆」
指を折りながら数える。
「辺境宙域の内戦調停。災害の鎮圧……暴走した人工知性の封印。最近だと、とある銀河帝国が不審な軍備拡張を始めててね。外交の裏で睨み合いが続いてる」
「物騒だな」
「物騒よ。天災は待ってくれないし、巨大不明生物は定期的に湧くし、古代遺物は勝手に起動してドカンといったり……本当に、仕事は山積み」
カイナは肩をすくめながら愚痴を言う。
つまりオキュラスの問題を取り組みたくても、手が回らないのが実情のようだ。
「騎士って言うと聞こえはいいけど、実態は火消し屋。しかも宇宙規模の」
アゼルは黙って聞く。
「そんな中でさ」
カイナは視線をまっすぐ向けた。
「あなたが、賞金稼ぎの立場のまま、私たちの仕事を手伝ってくれるって言ってくれたの……正直嬉しかった」
年頃の若い女らしい笑みを浮かべながら彼女は話し続けた。
「騎士団に入れって言われて断ったの、私は正解だと思ってる。あなたはあなたのままでいい。でも、それでも一緒に戦ってくれる辺り、優しいなぁって思ったよ」
「……大げさだ」
「大げさじゃない」
即答するカイナに今度はアゼルが驚く。
「外から見たら騎士団なんて面倒な組織よ? 命令も多いし、責任も重いし、敵も増える。それでも協力してくれるって、簡単な決断じゃない。例え敵が貴方の師の仇であったとしても」
「……!」
「根は優しいのがわかって安心したのと同時に、そんな痛みを抱えても歩める貴方はすごいと思ったよ」
自然とアゼルは歯を食い縛るとニルが優しく抱きしめる。
彼女はただ一言も発さず、アゼルの側にいた。
「俺からしたら逆だ」
「え?」
「お前らみたいに、人の為に命をかけられる英雄のほうが、よっぽどすごい」
ニルがちらりと彼を見る。
「俺は賞金稼ぎだ。金で動き、依頼で手を汚す」
淡々と続ける。
「もう十分、黒いこともやってきた。お前らからしたら、俺は敵寄りの存在だろ」
「……」
「それでも手を差し伸べてくるんだ、お人好しってレベルじゃない――思惑があってもな」
カイナの方を見た。
「眩しくて仕方ないよ、お前たちは」
それは皮肉ではなかった。
本心だ。
騎士団は秩序の象徴。
自分は秩序の外側で生きてきた人間。
それでも“利用”ではなく、“協力”という形を提示してきた。
カイナはしばらく黙ってから、ふっと優しく笑った。
「確かに経歴は黒めね」
「否定しないのかよ」
「事実だもの」
でも――カイナは金色に輝く目でアゼルを射抜く。
「悪人じゃない」
「……何を根拠に」
「少佐を助けたじゃない」
アゼルの動きが止まる。
「ゼルドから守った貴方からは紛れもない善性を感じた」
そして見守るニルを見ながら言う。
「ニルが貴方を庇った時に、その強い想いを感じた。ああ……2人は本当に通じ合ってるんだなと」
「……正面から言われると……ちょっとやりづらい」
ニルは恥ずかしそうにカイナから顔を背けると、カイナはニヤニヤしながら言った。
「しかもアゼルが寝ていた間、めっちゃ庇ってたし? 彼を利用するだけ利用して捨てたら皆殺しにするとか啖呵切ってたしね!」
「秘密にしてよ……! あー!むかつく!」
「そんなことを言ってたのか、ニルは」
だとしたらだいぶ度胸がある。
ニルはさっきからツーンとして、当たり前じゃないの大切なんだからとぼやく。
「そんな2人が好ましく思ったから、私も信じたのよ。いいコンビね」
「当然よ」
「……そうか、ありがとな……ニル」
「ふふん」
優しくて温かい空気に満ちてきた頃、カイナは端末を確認すると「げっ」と顔を顰める。多分仕事だろう、アゼルはご愁傷様と密かに祈るとカイナは「ああ、そうそう」と何か思い出したように言った。
一体何だと耳を傾けると――
「ね、ねぇ……その…………ニルと……さぁ、してるのってさぁ……そのやっぱりいいの?」
「え」
「い、いやほら! 私さ! あまりそんな経験ないから……ってかないけど…………なんか…………ねぇ! 気になるじゃない?? うん…………ぅん」
いきなり顔を赤くしながら、すごく下世話な事を聞いてきた。アゼルとニルはシンプルに引いていると、カイナは慌てて言い訳しだす。
「…………本当に! 悪意とか! やましい気持ちなんかないから! そう! 知的好奇心! それだけだから!」
「…………」
慌てながらも鼻息荒くする彼女を見て思った。
こいつムッツリなのかよ――と。
「あららら?? そんな気になる?? 気になっちゃう?? 騎士ともあろう方が……くふっ」
「あくまでも知的好奇心だし他意は全くない上に純粋な気持ちだと理解しなさいよでもどうしても教えたいなら仕方なく聞いて――」
「こいつ息継ぎ無しで……って、必要ないのかカイナは」
「せっかくだ、宿主様……空き時間で彼女の前でまぐわってやりましょう。見せつけてやってこのおぼこい騎士様を悶絶――」
「やめろ!!」
アストラルならまだ普通だと思ったのに――アゼルはこれから先が思いやられると、別の意味で不安になった。
◆
数日後――銀河連合およびアストラルの限定ネットワークに、ひとつの通達が走った。
【オキュラス関連事案対策・特別編成チーム設立のお知らせ】
内容は簡潔だが衝撃的だった。
賞金稼ぎアゼルおよび特異存在ニルに関する基礎情報の開示。その戦闘記録の一部公開。そして騎士団員、連合高官、外部協力者を含めた混成チームの発足。
名目は“対オキュラス事案への即応体制強化”。
だが実質は、異端と秩序が手を組むという前代未聞の試みだった。
当然ながらアストラルの反応はバラバラだった。
◆
――辺境宙域・小惑星帯補給ステーション
このステーションにいた騎士は興味を抱いていた。
その内の1人――油にまみれた整備士風の男が、投影端末を覗き込みながら口笛を吹く。
「へぇ……あの賞金稼ぎが、騎士団と組むってか」
隣で工具を回していた女が肩をすくめる。
「こんな大々的にいうほどかなー?」
「ニルとかいう生命体がそれだけ破格なんだろーな」
口ではどうでもいいように言っているが、その目はどこか楽しげだ。
「面白くなってきたじゃねぇか」
◆
――中枢宙域
連合の中枢を守るべく組まれた騎士団のグループがその知らせを聞いて、まず考えたのは静観だった。
透明な壁面に投影された資料を前に、複数のアストラルが沈黙している。
「……オキュラスの事案か」
「反発はなかったのでしょうか」
「一定数出るでしょう。しかし……」
ひとりが静かに言う。
「オキュラス対策において、彼の戦闘力は無視できません」
「制御は可能なのか?」
「信頼という形で縛る、と報告にはある」
苦々しい表情を浮かべつつ、ダインが関わってるならと彼らはおしだまる。彼が信頼できるかどうかはこれからの動き次第だと判断した。
「信頼、か。最も不確実な拘束手段だな」
ただ若干の皮肉をこめながら。
◆
――外縁宙域。
そこはある意味アゼルにとって一番馴染みある宙域だった。
小さな惑星でひっそり経営されている酒場の片隅で、フードを被ったアストラルが画面を睨む。
「……特別チーム?」
低く呟く。
「騎士団も焦ってるってことだ」
「……もっと他にあんだろ、オキュラスなんかよりな」
他に対応してる仕事内容を確認しながら、彼は無関心を貫く。
「どうせ他の奴が担当する、俺は自分の仕事をするだけだ」
そして彼は密かに怪しい動きを見せているとされる国のリストを見ながら、星を後にした。
◆
こうして歓迎、懐疑、無関心、期待、警戒など様々な感情が、アストラルを中心に銀河を巡った。連合にはごく一部のメンバーだけに伝わり、未知の脅威に対して皆各々の対応を始めていた。
だが動き始めたのは何もアゼル達だけではなかった。
恒星すら不安定に明滅する、重力の歪んだ領域の奥に、その惑星はあった。
赤茶けた大気が渦を巻き、空は常に濁った黄昏色に染まっている。雷が雲間を走り、地表には黒く裂けた大地が広がっている。そこを這いずるのは、悍ましい見た目をした蟲たちと爛れたような皮膚を持つ四肢の数が一定しない獣だった。
それらは互いを捕食し、溶かし、また増殖する。
文明の匂いなど、どこにもない星だった。
だがこんな星の大半を占める荒野の中央に、不自然に大きな構造物が存在していた。黒曜石にも似た材質で組み上げられた巨大建築は側から見たら神殿のようだった。
神殿の内部に入るとまず目にするのは、この宇宙のいかなる文明体系にも属さない紋様だ。異界に入り込んだような錯覚を引き起こす回廊を抜け、最深部まで行くと円形の広間がある。
その中央には黒いオベリスクがそびえていた。
高さは十数メートル。
表面は滑らかに見えるが、近づくと無数の微細な刻印が浮かび上がる。
それは言語だった。
だが既知のどの言語体系にも該当しない。
見る者の視界を拒絶するかのように形が揺らぐ異質な文字だ。
おどろおどろしさに全振りしたような物体に、異界の言語、一体誰のために作られたのかわからないオベリスクの周りには、13人の影が跪いていた。
全員が黒いフードを被り、顔には鉄の仮面を嵌めている。
性別も種族もはっきりしない集団はただ跪いて、ブツブツと何かを呟く。
「…………」
やがて1人だけゆっくりと立ち上がった。
他の12人は動かない。
立ち上がった影はオベリスクへ一歩進み出て、くぐもった声を発した。
「時は来た」
12人は顔を上げた。
「この瞬間の為に、我らは準備を重ねた」
ただこの中で唯一話している影はゆっくりと両手を広げる。
「この数百年に渡ってあらゆる文明、あらゆる種族に入り込んだ。銀河の歴史の裏側、思想の奥、宗教の影、そして科学の最前線に」
オベリスクに歩み寄りながら、影は高らかに宣言する。
「来訪に向けて下地を整えた。忌々しい、野蛮なる者たちの手など借りずに。我々が切り開くのだ」
一歩、さらに前へ歩み、オベリスクに触れる。
「この宇宙へと繋がる道を」
その瞬間――黒いオベリスクが脈動した。
どくんとまるで心臓の鼓動のように蠢き、表面の刻印が淡く赤黒く発光する。
「我々の神に!」
するとオベリスクの表面が、溶けるように揺らぎ、黒い液体にも似た何かがゆっくりと浮かび上がる。最初こそ不定形だったが、液体は段々と人のような形になっていく。
『あああ…………』
そしてそれは囁く。
直接、脳に染み込むような声だった。
『……血で満たせ』
13人は微動だにしない。
それが当然だと思っているからだ。
『……誘導せよ、門を……開け』
立ち上がっていた者がゆっくりと膝をついた。
「
仮面の集団は
高評価、感想、ぜひぜひお願いしますー