銀河で賞金稼ぎやっていたら、謎のヤンデレ宇宙生物に体を寄生された男の話   作:モーフ

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リクルート《騎士編①》

「――はぁー……またこりゃ豪勢な」

 

 正式発表から5日――アゼルは最新設備が揃う新しい()()()を見て、唖然としていた。

 

「そりゃ星導院お膝元の都市だから、豪華に決まってるわよ」

 

 えへんと自分事のように威張るのはカイナだ。

 彼女は荷物を下ろすと仰々しく両手を広げた。

 

「ようこそ、騎士たちの街へってね」

 

 アゼルは苦笑しながら、改めて窓の外を見渡した。

 星導院を中心に広がるその一帯は、単なる居住区ではない。巨大な白亜の塔――星導院アウレリオン本部を中心に、放射状に街区が整備された“学園都市”だった。

 

「俺がいたフロンティア・スペースの星とは偉い違いだ」

「そら都会だしね」

 

 フロンティア・スペースは大概治安が悪い。

 という事は貧しい人々が多いという事になる。インフラはもちろん住処だってボロボロだし、衛生環境はクソだ。

 

 対する学園都市はどうだ。

 整然と並ぶ街路樹、低層ながら洗練された建築群、治安維持用の自律ドローンが静かに巡回し、空には緩やかな軌道を描く輸送艇が行き交う――同じ次元に住んでるとはとても思えないぐらい綺麗だ。

 

「ここは未成年の見習い騎士たちが日々を過ごす場所でもあるけど、私たちのように既に現場に出てる騎士や、政府関係者、スタッフも住んでるわ。アゼルとニルも関係者になったから、ここにお引越しって訳ね」

 

 と得意げに話すカイナを見て、ついに堪えきれなくなった人物が口を出すために、アゼルの身体から出てくる。

 

「理由はわかった、だけど何故貴女はさも当然のようにここで寛ごうとしてるの? んん??」

「私も同じチームになるからに決まってるからよ」

 

 ニルは固まった。

 カイナは不敵な笑みを浮かべた。

 

「えー!このメスと一緒ォ!? なんでぇ!?」

「上からの命令、あと私が担当する任務だし投げ出す訳にもいかないじゃない?」

「宿主様ぁ! こいつやっちゃいましょう! 性的に!!」

「やるかボケ」

 

 参ったな、これ毎日やるつもりかとアゼルは遠い目をする。

 ニルとカイナは別にお互いを心底毛嫌いしてるわけじゃないが、多分合わないのだ。カイナはまだ余裕あるからあしらったりは出来るだろうが、面倒な女ムーブするニルからしたら溜まったもんじゃない。

 

 3人よれば姦しいと言うが、この時点でやかましいのは勘弁したかった。

 

「せ……せいてきに…………くっ」

「騎士が悩むな……」

 

 カイナのむっつりを抑えつつ、アゼルは本題を切り出す。

 

「所でチーム編成ってどうなるんだ? まだ具体的な話は固まってないのか?」

「影でサポートしてくれるのは連合ってのは決まってる、でも私たち実動部隊はこれからかな。あ! でも司令塔の役割の人は決まってる」

「誰だ?」

 

 アゼルが聞くとカイナは待ってましたと言わんばかりに目を輝かせる。

 

「これから挨拶にいく人よ」

 

 

 星導院本館――白亜の塔の内部は、外観と同じく無駄のない洗練された造りだった。高い天井、静かな照明、磨き上げられた床。訓練を終えたらしい見習いたちが規律正しく廊下を行き交っている。

 

「こっちよ」

 

 カイナに案内され、奥まった一室へと入る。

 そこに立っていたのは、背の高い男だった。

 

 薄黄緑色の髪をきっちりとオールバックにまとめ、細身のフレームの眼鏡をかけている。整った顔立ちは柔和だが、視線の奥は鋭い。白いローブを見事に着こなす様を見て、アゼルはまるで魔法使いみたいだと思った。

 

「お待ちしておりました、私はサイラスと申します。本作戦の司令統括を担当させていただきます。よろしくお願いします」

 

 堅苦しい人そうだなと思っていると、カイナが横から小声で囁く。

 

「この人はね、ダインと同じランクの人だから。めっちゃ強いし、めっちゃ先輩だから」

「なるほど……わかったよ」

 

 アゼルは軽く肩をすくめ、前に出る。

 

「アゼルです。もう知っているとは思いますが……賞金稼ぎです」

 

 差し出された手を、サイラスは迷いなく握る。

 

「こちらこそよろしく。あなたの戦闘記録は拝見しております。非常に頼もしいですね……その若さで随分と修羅場をくぐってきたようで」

「まぁ……それなりにはですけどね」

 

 握手は力強いが、押し付けがましさはない。温度も一定で、感情を読み取らせない手だった。

 

「ほら、ニルも」

「……」

 

 アゼルが呼びかけるとするりとニルが姿を現す。

 彼女は出てくるや否やサイラスをじっと見つめる。

 

「おや」

 

 サイラスは驚く様子もなく、手を差し出した。

 

「あなたがニルですね。お会いできて光栄です」

 

 とサイラスはにこやかに握手を求めるがニルはぴくりと震え、わずかに後ずさる。

 

「……っ」

 

 そのままアゼルの背に隠れるように身を引いたせいで空気が一瞬、固まる。

 

「あー……すみません、こいつ、警戒心強くて……」

 

 アゼルが頭をかく。

 

「申し訳ない……」

 

 サイラスはすぐに手を下ろし、微笑んだ。

 

「お気になさらず、いきなり仲良くしろとは申しません。信頼関係の構築は、これからですからね」

 

 淡々としているが、そこに焦りや不満はないが……

 

「むしろ嫌でも顔合わせると思いますからね」

(む、無言の圧力……!)

 

 心なしかサイラスからプレッシャーを感じたアゼルが後退りすると、カイナは肩に手を置いて言った。

 

「サイラス先生は怖い人だから、怖さを感じるのは正解よ……」

「厳しい人なのか……?」

「うん、とっても」

「カイナ、あまり変な事をアゼルさんに吹き込まないように……」

「ひぃ」

「…………何宿主様の背中に張り付いてるの」

 

 ニルは漆黒の瞳のままアゼルの背に張り付き、カイナはそのさらに後ろで縮こまり、微妙な三層構造が出来上がり始めた。またいつものような諍いが始まりそうになったその時。

 

 ――ぱん。

 

 乾いた音が室内に響いた。

 サイラスが軽く手を叩いたのだ。

 

「さて。これ以上は収拾がつかなくなりそうですので、話を前に進めましょう」

 

 一瞬で空気が切り替わる。

 柔和な笑みはそのままだが、声音にわずかな硬質さが混じった。

 

「まず、私の立場から説明します。今回のオキュラス対策チームにおいて、私は指揮官というより“監督”に近い役割を担います」

「監督?」

 

 アゼルが眉を上げる。

 

「ええ。現場判断は基本的に実動部隊に委ねます。私は情報整理、戦略設計、政治的調整、連合および騎士団上層部との折衝を担当します」

 

 つまり表と裏の板挟みの役割を彼が果たすという。

 簡単な事じゃないしなかなか複雑な役割だが、サイラスは自信を持って言った。

 

「あなた方が動きやすい環境を整えるのが、私の仕事です。だから細かい事はあまり考えずに動いてください」

「……助かります」

 

 アゼルの返答に対して笑顔で答えたサイラスは端末を操作し、簡易ホログラムを展開する。

 

「次に、実動部隊の構成です。人数は十名以内の少数精鋭とします」

「少ないけど……大丈夫なの?」

「大丈夫ですよ、ニルさん」

 

 サイラスは即答した。

 

「理由は明確です。現時点で“仮面の集団”の目的は不明。何を計画し、どこに潜伏し、どの規模で動くのかも把握できていない」

 

 ホログラムに仮面のシルエットが浮かぶ。

 

「この段階で大規模に動けば、確実に警戒されます。ゆえに目立たず、確実に近づくための編成です」

「潜入寄りに近い感じですかね」

「その通りです、内容によっては戦力を増やす事もあり得ます」

 

 つまりこの実動部隊だけじゃ対応が難しい状況になった際、より強い騎士や連合からの増援を考慮するということらしい。敵が想定より強いというのは十分あり得るからだろう。アゼルたちに異論はなかった。

 

「現時点で想定している編成は以下の通り……」

 

 ホログラムに三つの区分が表示される。

 

「まず騎士団から四名。カイナさんを含め、実戦能力に優れ、なおかつ柔軟な思考を持つ人材を選出します」

「柔軟……?」

「柔軟よニル、ええ……私はとっても柔軟」

 

 バトルマニアなカイナが柔軟かどうかはさて置き、騎士団の力は必須だ。何せこれ以上にない戦力――多少脳筋でもいないよりはマシだ。

 

「次にアゼルさん側から三名。あなたを含め、信頼できる賞金稼ぎ、あるいはそれに準ずる裏社会に精通した人材が欲しい」

 

 アゼルの視線がわずかに鋭くなる。

 

「裏に生きる連中の中で口が堅い奴がやはり望ましいですかね」

「ええ、そりゃ勿論。騎士団のネットワークは優秀ですが、どうしても“光の側”に偏ります。闇の市場、非合法ルート、無登録航路……そこに強いのはあなた方です」

 

 実際連合でさえ全容がわからないのだ。

 裏にいる奴らからでしか知らないルートは沢山ある。

 普段なら取り締まるべき存在だが、必要悪というのも大事だ。騎士団は良くも悪くも何でも利用するという強かさがあった。

 

「最後に連合から三名。優秀な局員を投入します。情報局員、外交調整官、そして対異種技術専門官を予定しています」

 

 ホログラムが統合図へと変わる。

 

「騎士団の公式ルート。アゼルさんの裏の人脈。連合の公的権限と情報網、三方向から包囲し、隙間なく迫る構造を作ります」

「……なるほど」

「騎士団だけでは届かない場所がある。連合だけでは踏み込めない領域がある。そして裏社会だけでは世界は動かせない。だから混成です」

 

 人数こそ少ないが、これほど組織が横断しているのも珍しい。少なくともアゼルは初めての経験だった。

 

「異例の編成ですね……」

「オキュラス、そして仮面の集団。どちらも既存の枠組みの外側にいる存在です」

 

 サイラスはホログラムを消す。

 

「ならば我々も、枠組みを越えなければ。光と闇、表と裏、秩序と異端。その全てを使ってこの問題を解決しましょう」

 

 アゼルは思った。

 ダインとはまた違ってより冷静で、より計算高く、そして必要とあらば躊躇なく線を踏み越えるタイプだなと。

 

「それで騎士側のメンバーはもう決まってるんですか?」

「いえ。それこそが本題です」

 

 サイラスは視線をカイナへ向けた。

 

「カイナ」

「は、はい!」

「騎士団側の三名は、貴女が選抜してください。同階級から選ぶとよいでしょう」

「……え?」

 

 カイナが固まる。

 

「わ、私がですか? てっきりサイラス先生が決めてくれてるものかと……」

「この任務は実戦であると同時に、貴女にとっての貴重な学習機会です」

 

 淡々と告げる。

 

「貴女は優秀ですが、まだ若い。騎士側のリーダーとして、最適な人材を選び、責任を持ってまとめなさい」

 

 カイナは「うへぇ……」と情けない声を漏らした。

 横で見ていたアゼルも、内心で驚く。

 

(任務を教材にするとはな……)

「実戦に勝る機会はありません。期待していますよ」

「は、はーい……」

「それとアゼルさん」

「はい」

 

 サイラスはわずかに表情を引き締めた。

 

「カイナは強い。しかし、あなたのように裏の理不尽を一身に受けてきた経験はありません。人の悪意や欺瞞、権力――そういったものに直面したとき、騎士は迷うことがある」

 

 眼鏡の奥の瞳が、まっすぐアゼルを見る。

 

「支えてください。彼女を」

「……わかりました」

『ちなみに私はお断り』

 

 空気読めない相棒(ニル)はさておき、アゼルはまいったなと困り顔のカイナを見る。初対面でいきなり殴りかかってくる奴か同じ人物とはとても思えないような、未熟な部分を垣間見た気がした。

 

「では、騎士側の選抜が済み次第、私に報告を。選定基準や経歴確認はこちらで行います」

 

 つまりここからはカイナの仕事――と言うことになる。

 

「候補者リストは騎士団の内部データベースから閲覧できます。案内は不要でしょう、カイナ」

「は、はい!」

 

 自然な流れで、役割分担が線引きされサイラスは執務机へ戻る。

 

「私はこの後、サポートメンバーの人選に入ります。ですので、今日はここまで。もう動いていただいて構いません」

 

 事実上の解散だ。

 カイナは小さく深呼吸し、振り返る。

 

「……というわけで! スカウトの旅に出ます!」

「学園都市の中だけどな」

「細かいことは気にしない!」

 

 まだどこか緊張感の薄い笑顔。

 アゼルはその横顔を見て、サイラスの言葉の意味を噛みしめる。

 

 強い――が未熟で危うい。

 何となくその意味がわかった気がした。

 

(やれやれ……子守りじゃないんだぞ)

 

 だが放っておくわけにもいかない。

 一応こっちの方が年上なのだから。

 

「ほら、行くならさっさと行くぞ。時間は有限だ」

「はいはい、頼りにしてるわよ裏のプロ」

『私は見物係で』

「働け」

 

 軽口を叩き合いながら、二人と一体は部屋を後にする。

 

 

 廊下に出ると学園都市特有の柔らかな人工光が二人を包んだ。ガラス張りの天井越しに、遠く星導院の尖塔が見える。本格的に中に入っていくのは、アゼル自身まだ2回ぐらいしかない。基本的には外部の人間のため、気やすくは入れない場所だ。

 

「まずは私と同じグレードの騎士がいる区画に行くわよ」

「同じグレードねぇ」

 

「G3区画って場所ね、ナイト用の寮と訓練棟が集まってるエリア」

 

 アゼルは眉を上げた。

 

「そういや聞いてなかったな。星導騎士の階級って、全部でいくつあるんだ? 外部にはあまり公開してないだろ、そういう組織構造」

「まぁそうねー」

 

 軽い調子で肩をすくめる。

 

「一応グレードは全部で十段階。G1からG10まで。番号制なのは対外的にぼかすためでもあるの」

「ほう」

「G1はイニシエイト。星導院の訓練生。G2がアプレンティス。実地同行が許される見習い段階」

 

 指を折りながら数えていくとG3になった瞬間に、カイナはわざとらしく声を上げる。

 

「で、G3がナイト。正式な星導騎士。単独任務も許可される最低ライン」

 

 そこで、ふっと顎を上げた。

 

「――それが、私」

「自慢げだな」

「事実だもの。基本的に同年代はまだG2が多いのよ? 昇級試験って結構厳しいんだから」

「へー」

「ニルは興味なさそうね」

「だって宿主様の事じゃないし」

 

 ニルからしたらどうでもいいのか、反応はイマイチ。

 人の目なんか気にせず、アゼルにしがみつきながら寛ぐ様はもはや名物になりそうだ。

 

「私は早かったの。実戦評価が高かったから、特例で前倒し昇級」

「へぇ」

「あんたまで薄い反応かよ、聞いておいて……」

「これは元からだ。じゃあなんだ、階級が上がればやっぱり強さも変わるのか?」

「変わるわよ……権限とか立場もね。G4がヴァンガード、中堅。G5がセンチネル、分隊指揮とかしてる。そこから先は正直言って怪物よ。G10の騎士なんか神様みたいに崇められてるんだから」

「なるほどね……」

 

 数字だけ聞けば単純だが、その一段一段に重みがあるのは伝わる。にしてもG3のカイナであの強さなら、G10なんかどうなるのかまるで想像つかない。

 

「ちなみにG3からが本当の意味で騎士と呼ばれる段階よ。だから区画もG1とG2から分かれてるし敷地も広い。責任も増えるし、閲覧権限も上がるし、任務の危険度も跳ね上がる」

「……早く上がりたい理由があるのか?」

 

 アゼルは何気なく聞いたつもりだった。

 だが彼女はふと立ち止まって、目を少し伏せてから答えた。

 

「当然。強くなりたいし、守りたいし。上に行けば行くほど出来ることが増える。あとは……有名にもなれるし」

「……」

「俗っぽいけどね、あはは」

 

 軽く笑ってはいるが、アゼルは見逃さなかった。

 何か訳があると。

 

(騎士になるんだから……理由はあるだろうな)

 

 だがわざわざ掘り返しに行く趣味はない。

 いつか話せるタイミングが来たらでいい。

 人に触れて欲しくないものを抱えるのは自然な事だ。

 

 (まぁ……いつか話してくれるのを待つしかない)

 

 そう考えているとやがて二人は、G3ナイト用区画のゲートをくぐった。

 

 空気が少し変わった。訓練場からは衝撃音と光の残滓。広場では数人の若い騎士が模擬戦をしており、ベンチでは端末を広げて資料を読み込んでいる者もいる。

 

 その視線が、一斉にアゼルへと向いた。

 

「……あれが例の」

「本当に身体から女の子が出て来てる……」

「一体どんな種族だ?」

 

 ひそひそ声が刺さる度に、アゼルは眉を顰める。

 

(やっぱりな……)

 

 好奇と警戒とほんの少しの敵意もある。

 組織の中に外部の人間――しかも未知の知的生命体のおまけ付き――が入れば当然だ。

 居心地の悪さを誤魔化すように、アゼルは隣を歩くカイナに小声で聞いた。

 

「ちなみに誰を誘うかは決めてるのか?」

「一人はね。多分確実にOKくれると思う」

「へぇ、ずいぶん自信だな」

「まぁ見てなさいって」

 

 そう言うや否や、カイナは広場の中央へずんずん突入していく。

 

 人垣の先。

 噴水脇のベンチに、ひとり端末を操作している青年がいた。

 

 線の細い体格に短く整えた黒髪。

 そして右腕――肘から先が、鈍い銀色の機械義肢だった。首筋にも細い金属ラインが走っている。

 

 そんな彼は集中しているらしく、周囲の喧騒など意に介していない。それを見たカイナはにやりと笑い、そっと背後に回り込むと――

 

「わっ!!」

「っ――!?」

 

 青年は文字通り飛び上がった。端末を取り落としそうになり、慌てて義手で掴み直す。

 

「お、お前……! 僕を殺す気か!?」

 

 振り返った目は本気で怒っている。

 こいつ他の人にもこんなんばっかりやってるのかと、アゼルは白い目をカイナにむけた。

 

「ホーク、驚きすぎ」

「驚くに決まってるだろう! 心拍数が一瞬で跳ね上がったぞ! ガキじゃないんだから……」

 

 義手の内部が微かに駆動音を立てる。

 周囲からくすくすと笑いが漏れた。

 

「ねぇホーク。こないだ言ったあの賞金稼ぎ、連れてきたよ」

 

 カイナが声高らかに言うと、広場の視線が再び集まる。

 

「だったらもうちょっと普通に紹介してくれ……」

 

 ホークと呼ばれた青年は額を押さえ、ため息をついた。

 そしてゆっくりとアゼルを見て観察する。

 敵意はなく、純粋な興味と分析の目線だった。

 

「あー……君が例の、寄生生物によって未知の力を手に入れたアゼルか」

「失礼ね」

「……本当に身体がつながってるようだね」

 

 ずいと「私不機嫌です」という感情を露わにして迫るニルを見て、ホークは少し後退りする。

 

「賞金稼ぎのアゼルだ、今は協力者って立場だが……関係なく気楽に話してくれ」

「ホーク・レイヴン。G3ナイト。技術支援と戦術解析担当だ。賞金稼ぎの知り合いは1人もいないからどんな人かと、ちょっと不安だったが案外話しやすそうで助かる」

 

 ホークはカイナと同い年のアストラルだ。

 主に頭脳担当だが、騎士としての戦闘能力も兼ね備える万能型だ。

 

「騎士はあまり外部との繋がりがないのか?」

「いや特にそういうわけじゃないが、G3の階級は比較的若手が多い。僕らはずっとG1から何年も星導院で訓練しているから、必然的に内部の繋がりが強くなる」

 

 尤も任務を通じて人脈を広げていく為、ベテランになる頃には様々な組織や文明との繋がりが出来る――とホークは補足した。なるほど……確かに賞金稼ぎや連合の繋がりは大事になりそうだなとアゼルは納得した。

 

「んでホーク! 私たちさ! オキュラス対策チームの編成を命じられたんだけど……良かったら参加してくれないか「いいぞ」はやっ!」

 

 まさかの即答に誘ったカイナが驚いた。

 

「僕自身……オキュラスという未知を知りたいしね。既知の宇宙にはいない生命体だなんてロマンの塊じゃないか! 普通にワクワクする!」

 

 さっきまでカイナにキレていたのが嘘みたいなテンションの上がりようだ。アゼルは騎士は結構変人ばかりなのかなと認識を改めた。

 

「だからぜひとも、このニルを調べさせ「触ったら貴方を殺す、惨たらしく」……こいつ敵性生命体じゃないか? 大丈夫なのか?」

「大丈夫だ、ニルの通常運転だ」

「そうよ、女の子に迫るって最悪よホーク」

「おい! 味方は! 味方はいないのか!?」

 

 なんか早くもホークの扱い方がわかった気がした。

 こいつは弄りしろがある奴だと。

 とは言え、興味本意でニルに触れない方がいいのはしつこく教えてやる必要はありそうだ。さすがのアゼルも身内同士で殺し合うなんて真似はしたくない。

 

(ある意味親しみやすいな)

 

 ホークには悪いがこれからも弄らせてもらおう――そう思っていると。

 

「そんなことよりホーク」

「……僕をそんなことで済ませるな、何だ」

「シルヴィはいる?」

「あー……」

 

 シルヴィという名前を出した瞬間、2人の間で微妙な空気が流れる。険悪とまではいかないが、友好的な雰囲気は無さそうだ。

 

「カイナ……シルヴィは多分了承してくれないと思うぞ、彼女を誘いたい気持ちはわかるが」

「でも彼女がOK出せば、ドラスケルも誘える。私が考えうる限り……G3でベストな騎士はこの2人よ」

「わからなくはないが……」

 

 と何だか2人で話し合ってる中で、向こうから群青の長い髪を靡かせた女が歩いてきていた。皮膚の一部は爬虫類の鱗のようなものが付いており、完全な人間ではないことが遠目からでもわかった。

 

「(まだ2人とも気づいてないな……)おい、二人とも。誰か来てるぞ」

 

 カイナがはっと顔を上げる。そして次の瞬間、ぱっと表情を輝かせた。

 

「シルヴィ!」

 

 弾む声とともに駆け寄る。

 群青の女――シルヴィは足を止め、腕を組んだまま不敵に口角を上げた。

 

「何やら、自分のことについて話していたみたいだな、カイナ」

 

 低く落ち着いた声。からかうような響きがある。

 

(この人が……か)

 

 アゼルは内心で呟く。

 カイナが“ベスト”とまで評した騎士シルヴィ。

 

「ち、違うわよ!? いや違わないけど!」

「どっちだ」

 

 ホークがぼそりと突っ込む。

 カイナは一瞬言葉に詰まり、それでも意を決したように言った。

 

「あのさー……無茶は承知の上なんだけど。頼み事、聞いてくれない?」

 

 シルヴィはそこで初めて、アゼルへ視線を向けた。

 鋭い目つきだ。

 金色に近い瞳が、値踏みするように細められる。

 わずかに眉が八の字に寄る。

 困惑か、警戒か……どちらかはこの場ではわからなかった。

 

「……何だ。言ってくれ」

「オキュラス対策チームの編成を任されたの。でね、ぜひシルヴィに来てほしいのよ。あなたがいれば百人力だし……それに、ドラスケルも一緒に来てくれるでしょ?」

 

 場の空気が、少しだけ重くなるとシルヴィは小さく息を吐いた。

 

「やはりか」

 

 予想していた、という顔だ。

 そしてゆっくりとアゼルの前まで歩み寄る。足取りは静かだが、纏う気配は明確に“強者”のそれだった。

 

「すまない。自己紹介がまだだったな。シルヴィ・ゼーレウィング、G3ナイトだ」

「アゼルだ、どんな奴かは……」

「ああ……聞いているよ。寄生生物と共生している賞金稼ぎだとか」

 

 ちらっとニルを見ながらシルヴィは納得したような表情を浮かべる。

 

「で、どう? 来てくれる?」

 

 カイナは期待を隠しきれていない声を漏らす。

 対するシルヴィはしばらく沈黙し、真顔のまま答えた。

 

「正直に言うと断りたい」

「え」

 

 カイナの笑顔がわずかに引きつり、ホークも目を瞬く。

 それでもシルヴィは視線を逸らさない。

 

「誤解するな。君たちの力量に疑問があるわけではない。カイナの実力は知っている。ホークの頭脳も評価している」

 

 そして、アゼルを見る。

 

「君もだ。未知の力を持つ者は、戦力として魅力的だろう」

「じゃあ何で――」

 

 カイナの声が、少しだけ掠れる。

 シルヴィはわずかに目を伏せた。

 

「個人的な感情だ」

「……」

 

 カイナは「やっぱりか……」と頭を掻く。

 事情があるのはわかった、ならば他の人に当たるしかないのだが……カイナからすればそうじゃなかった。

 

「でも……正直言って同じランクで誰がいいって言われたら、貴女とドラスケルしかいない。サイラス先生からは同じランクから選べと言われてるから……出来れば来てくれるとありがたい」

「……ああ、そういう……」

 

 理由はわかってくれたようだがシルヴィの顔は相変わらず厳しい。

 

「シルヴィ、もちろん断るのもわかる。だけど……彼は違う。それに今後宇宙を股にかけて動いていく中で、個人的な感情で任務を跳ね除けるのは――」

「わかってる、私情を挟むなと言いたいのだろう? 頭ではわかってる、だが賞金稼ぎには良い印象がない。特に自分はな」

 

 何の感情も込められてない視線がアゼルに向けられる。だがよく見れば仄かにドス黒い色が見える。間違いなく賞金稼ぎ関連で何かあったのはわかった。

 

『……不快な目つきね』

「今は何も言うなよ」

『わかってるわ、宿主様の事を困らせたくないもの』

 

 闇に触発されたのか、ニルはわざわざ頭の中で不満を伝える。不快に思ってしまうのもわかるが、ここで一悶着起こしたらカイナとの間にも蟠りを作る可能性がある。黙ってくれたニルは後で褒めてやらなきゃいけない。

 

「シルヴィ……」

「だが自分もこのままではダメだとわかってる。故に自分から提案だ」

「提案?」

「参加するにあたってだ、自分はアゼルの事を資料でしか知らない」

 

 シルヴィはアゼルをしっかり見据えながら言った。

 

「ちょうど自分とドラスケルが持っている任務を、アゼル含めた君たちと一緒に同行して欲しい。本当に信頼できるか……任務を通じてアゼルとニルを知りたい」

 

 この提案を聞いてアゼルは思う。

 騎士たちというのは面倒な連中だなと。

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好きだったゲームの世界に転生したものの、才能と環境が原因で原作に関われなかったセオドは、ある時原作が終わったことを風の噂で耳にした。▼そんな彼の元に、原作では死亡するはずだった少女リリシェラが現れる。▼しかも彼のことを師匠と呼び慕ってくるのだ。▼だが、そんな彼女は色々な理由から、世間知らずのお嬢様になっていた。▼結果として、リリシェラに生き方を教える「師匠」…


総合評価:2516/評価:8.54/連載:5話/更新日時:2026年03月23日(月) 12:04 小説情報


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