デジモンストーリー サイバースルゥース/ハッカーズメモリー 存在しない記憶 作:通りすがりのヌメモンA
もしくははじめまして。
今更ですが、switch版のサイスル/ハカメモのストーリーをクリアしたので、書き殴りです。
設定の読み込みなど甘かったりするので、ご指摘など頂けると幸いです。
後、ネタバレ注意です!!
※7/21、タイトルの章をチャプターに修正!
こういう所が読み込み甘いんですよね…。
そこは何も"ない"空間だった。
いや、何もないと言うには少し語弊があるか。
存在はしている。しかして、何か存在を内包している訳では無い。
空間と空間の間隙。1と1の間に挟まれた、0よりも大きくされどどこまでも0に近い。
数学的な表現ならーー厳密な定義では異なるがーー虚数、もしくは虚無と言い表しても良いだろう。
とにかく、"通常現実において存在し得ない"ありえない筈の空間。
"デジタルによって侵食された現実世界"の残滓ともいえる"とあるネットワーク"の残り滓。
か細く消えかけた一筋の糸のような最後の刹那。
蝶を思わせる青く美しい羽がヒラリと舞った。
データ化したとある記憶がデジタルデータで構成された生命体と融合することで産まれた、一つの確かな存在として進化した存在。
新たな可能性の一つ。
仮に彼女と呼ぶことにするが、彼女は羽を休ませて立ち止まった。
何も無い空間で立ち止まるというのも可笑しな話ではあるが、羽を持つ彼女の移動は宙を滑るようなモノであり、羽ばたくような仕草すら無かったのだから、不可思議なものだ。
ともかく彼女は、目の前の虚構から感じる存在に意識を傾けた。
世界の在り方を嘆き、人という存在の不完全さを唾棄した科学者。
誰よりもこの世界を憂い、進化を推し進めようとしていた人間。
最後には"選ばれし者"たちに人類と世界の進化を阻まれ、今や己の存在を虚無に溶かそうとする一人の男。
「…おや?貴女でしたか。なんとも奇妙で、美しい姿に進化したものです。
私の思い描いた進化の形とは異なりますが…それもまた可能性の一つ、という訳ですか」
かつてと変わらぬどこか胡散臭い雰囲気で、最期の会話を楽しむようにその男ーー末堂アケミは自身に意識を傾けている彼女に向けて声をかけた。
声をかけられた彼女、フーディエモンという名のデジモンは、像がズレるようにその姿をゆらりと眩ませると、一人の少女と緑色の大きな芋虫へと分離した。
少女は固い表情で末堂の声に対してぎこちなく答える。
「末堂…。貴方は…」
「ええ、貴女が繋がっていたイーターネットワークで見ていた通り。…残念ですが私の計画は失敗、ということになりますね」
「……。」
元々がコミュニケーション能力に難のあった彼女だ。
言葉を選んでいる内に、彼女が話そうとしていた話題のとっかかりを奪われ、挙句スラスラと彼の状況説明までされている始末だ。
わずかに眦を吊り上げつつ、少しばかりの憂いのある表情で、彼女ーー御島エリカは再び口を開く。
「…あなたの論文は、私なりに解釈したつもりだったけれど、まさか普通のイーターじゃなくて、マザーイーターと同化するなんて想定もできなかった」
「うん。そもそも、デジタルワールドにいるマザーイーターの元に辿り着くなんて、考えもしなかった。
その座標がイグドラシルの中枢部だったこともそうだけど、動きを押さえ込んでいた一人の人間の精神データを自分と挿げ替えるなんて…」
エリカの言葉に応えるように、足元で佇んでいた緑色の芋虫ーーワームモンが追随する。
エリカに比べて幾らか社交的な彼女は、記憶を同化させているエリカの言いたい言葉をスラスラと補足する。
時間の概念から切り離された空間であるとはいえ、残された時間は有限だ。
時間の無い末堂に対して、どうしても確認したいことがあるエリカにとっては、ワームモンの補足は助かるものだった。
進化した姿・フーディエモンとなればよりスラスラと洗練とした話し方が出来るだろう。
しかし、エリカはそれをしたくは無かった。
かつて自身の治療を行って貰ったり、イーターに関する論文を提供された恩などもあるが、それ以上に"純粋な人間"としての最後のケジメの様な心持ちだった。
「…マザーイーターは倒され、イーターの行動原理は初期化された。そして、もうすぐ時間は遡行し、デジモンと人間が出会わなかった世界に書き換えられる」
「ええ、その通り。
…しかし、解せませんねぇ。特異な病、記憶のデータ化により、己の存在について確信を待てなかった貴女は、誰よりも誰かの記憶から忘れ去られる事を恐れていた筈。
…それが何故、わざわざ消えゆく私の元に現れたのですか?」
エリカの問いかけるような言葉に、末堂は淡々と肯定し、わざわざ曖昧な言い方で"エリカの目的"を問いかけた。
エリカはぐっと唇を引き結び、胸に手を当てて俯いた。
気遣うように見上げて来るワームモンを見て、緩やかに笑みを浮かべると、大丈夫だよ、と優しく声をかける。
そして、顔を上げると決意を込めた瞳で、虚構に漂っているだろう末堂を見据えた。
「貴方は最後の権限を用いて、イーターと同化したまま、現実世界から自分を切り離そうとしている。それはつまり、遡行した現実世界では、貴方が存在しない歴史に書き変わるということ」
「ええ、私の望みが絶たれた今、あの世界に戻るつもりはありません。
…まあ、彼らの行く末を高次のネットワークから見届けるつもりではあるので、死を迎えるというのは少し異なりますがね。
とはいえ、人間という一存在としての私は、確かに現実世界から消滅する。
私がカミシロに貢献した研究であれば、多くは他の人間の功績にとって代わり、一部の先進的な研究は何年か遅れる結果になるでしょう。
要するに、一人の人間の存在が消えることによる、歴史の辻褄合わせという訳です」
エリカが言葉にした末堂の行末について、末堂は自身の言葉で淡々と補足した。
しかし、その様は決して悲観的な物では無く、それどころか抑揚の無い口調でありながら、自身の提唱する理論を語ることが楽しいと言いたげな、研究者らしいどこか軽やかで楽しげな雰囲気に満ちたものだった。
エリカの足元のワームモンは相変わらずの末堂の様子にーー姿は既に無いがーー辟易としつつ、怯えたように身を震わせていた。
エリカの思考に「やっぱりマッドサイエンティストだよぉ…怖い」という言葉が浮かび上がる。
ワームモンが感じている記憶が瞬時に同期されたのだ。
エリカは足元の相棒の様子にため息をつきながらも、少し肩の力を抜いて末堂に向き直った。
「ここまで話せばわかると思うけど、私は…」
「いえいえ、わざわざ口に出さずとも結構ですよ。
…先程も申しましたが、短時間とはいえ貴女とはイーターネットワークを通じて繋がっていた。
ある程度の記憶や思考のログから、貴女の目的は予想できています。」
最早姿は無かれども、相変わらずというべきか。
根が善性なのであろう末堂の慮りに、エリカは首を横に振りながら答える。
「ううん、言わせて。もう私はイーターネットワークに繋がって無い。だからこそ、口に出して伝える事に意味があると思うから」
「…それが貴女の決意の表れであるのなら、尊重いたしましょう。どうぞ、お話しください」
小さく息を吸い込んでから、エリカは言葉を静かに吐き出した。
「…私の存在も、遡行した世界から消す事はできる?」
「…やはり、そうなりますか」
「……。」
「…エリカ」
ワームモンの心配するような視線がエリカに向かう。
ここにいるエリカーーフーディエモンは人間世界が遡行しても消えることは無い。
彼女の向かう先はデジタルワールドであり、その特異ともいえる遡行現象に巻き込まれることは無いからだ。
しかし、人間世界の彼女はーー。
「もしも、貴女の身に起こった悲しい出来事を消してくれ、といったお願いでしたら、残念ながら私にはもう叶える力はありません。
EDEN発足後の出来事とはいえ、私にも理解出来なかった原因不明の病。それを異なる形に置換することはできないでしょう。
アレは、デジモンやイーターとの関わりによるモノでは無く、人間の不完全性から産まれた未知の一つでしたから…」
そう、人間世界に存在していたエリカは不治の病に侵されていた。
現在における人類の最先端技術と知識を動員しても尚、病の進行を遅らせるという対症療法しか出来なかった程の未知の難病だ。
その発症も、エリカと彼女の両親を巻き込んだ事故の後遺症によるモノであり、イーターやデジモン、EDENといった要素は関与してはいない。
末堂の目的が完遂されていたとすれば話は別だが、ーー最早叶わぬ話だ。
そして、何より…
「しかし逆に、あなたが失った現実世界の肉体を遡行した世界で元に戻すことは可能です」
「うん、私はレギオンに肉体ごと取り込まれていたから」
「その通りです。そして、精神データもとい記憶は貴女というバックアップが存在する。」
エリカは、本来その精神データが戻る為の器・肉体を先の戦いで失っていた。
EDENを正常に戻す為、そして自身を助けにきた仲間ーー兄であるリュウジ、その親友である千歳、そして新入りである彼ーーを助ける為、取り込まれていた自身の肉体ごと、イーター・レギオンを撃破する決断を下したのだ。
だが、情報収集・集積を主目的とするイーターに取り込まれていた以上、末堂の残った力と今のエリカが持つ記憶を合わせれば、データをサルベージして再構築できるだろう。
「…念の為に申し上げておきますが、今の貴女と、遡行した現実世界で新生する貴女は、まったく別の異なる存在として存在できる。
新生した貴女が消えるという訳ではありません。
無論、貴女が予想していた通り、生身の肉体を持つ貴女が短命であるという事実を覆すことは叶いませんが…」
「うん、だからこそ、だよ」
「…よろしいのですか?
デジモンの存在していた今の世界でしか、貴女という進化した存在は産まれ得ない。
つまり、遡行した世界の貴女が始めから存在しないということは、デジタルワールドに存在する貴女の事を、遡行した世界の人間たちは、誰一人として覚えてはいない。いや、それどころか貴女はそもそも存在しないことになる。
もし遡行した世界で、貴女がかつての仲間の元へ向かう術を見つけても、存在し得ない記憶を持つだけの異物としか認識されない」
「わかってる。だからこそ、だよ。
貴方がかつて考えていた、世界から悲しみを消し去りたいという思い。少しだけど、私にもわかっているつもり。
私にとっては、お兄ちゃんがいて、千歳がいて、彼がいて、ワームモンがいる、フーディエこそが世界の全てだった。
だからこそ、皆んなには辛い思いをして欲しく無い。
私の大切な世界に悲しみを残したまま、デジタルワールドに巣立ちたくない」
「他人の記憶から悲しみを消したいと願いながら、貴女自身はその悲しみの記憶を大切なモノとして抱き続ける。
…随分とまあ、酷いエゴだ。嫌いではありませんがね」
「…忘れたくは無いんだ、どうしても。
たとえ、全てを忘れた別の私がいたとしても、進んだ末にここまで辿り着くことはできなかったと思うから。
それに…」
約束したから。
そう言ったエリカの表情は、人間の少女らしい柔らかで楽しげな、大切な思い出を噛み締めるような幸せそうな笑顔だった。
それを見聞きしながら、末堂はどこか納得したような気分になった。
それは、自身を打倒した彼らーーその先頭に立っていた、自分を現実世界に引っ張り出そうと最後まで足掻いていたとある探偵とどこか近い、不思議な雰囲気と、どこか頑固な強い意志。
…であれば、これくらいは手伝っても良いだろう。
「なるほど…わかりました。
微力ではありますが、貴女の肉体データはイーターネットワークに保存したまま、遡行した世界では再構築しない様にしておきます。
……そろそろ、このネットワークも崩壊します。貴女も、次元の壁が閉じない内に、向こうへ早く渡りなさい」
そうして、末堂からの言質と急かす言葉を聞いて、エリカは頷き踵を返した。
「じゃあね、末堂」
「「ありがとう」」
最後に一言礼を告げると、その姿がワームモンと重なり再びフーディエモンへと姿を変えた。
そして、崩壊しつつあるイーターネットワークからその身を飛び出させた。
そうして、誰にも知られない邂逅は終わりを告げる。
遡行した世界には彼と彼女は存在せず、新たな可能性に満ちた歴史が紡ぎ出される。
「…気づいていましたか?
貴女が"選ばれし者"と呼んだ彼らは、特異な状況下だった故に、遡行した世界でも記憶を失うことは無いでしょう。
しかし、貴女の大切な人たちと、彼らの繋がりは遡行した世界でもそう簡単に薄まることは無い筈。
もしかすれば、彼らの記憶も……。いや、不確定な想像は辞めましょう」
「…貴女たちは確かに、この世界にとっての選ばれし者では無かったかもしれません。
きっと、舞台で言うところの端役、目立つことのない引き立て役。
しかし、もしも…貴女が進化を成し得た様に、彼らにも何かを成し得る可能性があるのなら、貴女達もまた世界にとって選ばれし者となり得るのです。
何らかの因果によって、遡行した世界で貴女の仲間がこの世界の記憶を獲得する可能性も、ね。
貴女の行く末を見守ることが出来るかは、それこそ神のみぞ知る、といったところですか」
「しかし、くふふふふ…!
ああ、いやはや、彼女の様な可能性が産まれ得るのならば確かに、見切りをつけるには早すぎましたかね?」
「ところで…覗き見とは感心しませんねぇ。
…なに?私に言われたくは無い?
いえいえ、私はあくまで仕事の一環として、EDENやイーターを駆使して情報を集めていただけです。
その過程で、覗き見に近い行為になってしまったらことは反省しておりますがね。
…いやまあ、私自身の目的に必要なデータも片手間に収集していたのは事実ですので、越権行為や職権濫用と言われれば、完全に否定は出来ませんが…。
とまあ、それはさておき…あなたも、そろそろ巻き込まれない内に離れた方が良い。
どのような因果でここに繋がったかは知りませんが、そろそろこのネットワークも崩壊する。
そうなっては、あなたが無事にここを離れることが出来るのかを保証しかねますから。
…ええ、それでは」
それから、そうですねぇ…ここで見たことは一応は御内密にお願いします。
読了ありがとうございました。
たかだか5000文字程度でしたが、頑張りました。
…後半、異様に描写が少なく、会話文が多いのは力尽きたからです。申し訳ありません。
余裕があれば都度追加・修正していくかもです。
今後、妄想が捗れば、違うキャラのストーリーを書いてみたいです。
…個人的には「ジュード同窓会」とか、「ザクソンとの謝罪会食(オムライス添えて)」とか書いてみたいです。