憎めない 作:第53眷属
21日目 クリフォト暴走レベルⅢ
さて、ここから段々忙しくなってくるのである。
取り敢えず、白昼の試練を超えた先にあるあるランチタイムを楽しみに、今日も今日とて働いていこうとも!
"管理職 ドンキホーテに、幻想体O-01-04への愛着作業を命じる"
ふむ、早速であるな。
ウーティス殿のアドバイスを参考に、かの幻想体の真の管理方法、とやらを見事に当てて見せようぞ。
指示された作業は、愛着。抑圧作業を指示されたら、どうしようかと考えていたが、当人の杞憂だったようだ。
さてさてぇ、次はどのような話を咲かせようか。
当人は、再び隔離室の扉を開け放ち、かの者と相対する。
「たのもう!そなたの担当職員、ドンキホーテである!」
「あっ、ファンの人!また来てくれたんだね」
ふむ、記憶の連続性はある。かなりしっかり意思疎通が取れるタイプの幻想体であるようであるな。幻想体の中には、話している風に見えて、その実、会話にならないタイプも多いと聞いているし、たとえ話せるとしても自分の欲求を突きつけるのみのものも多い。このように会話のキャッチボールが成立する幻想体は、まだまだ歴の浅い当人でも稀であると何とは無しに分かる。
であれば、より深く話してみたくなるのもまた、人情というものではないか。
「そう、また来たのである。今日はそなたに色々聞いてみたい事がありましてな」
「えー、スリーサイズとかはヒミツだよ〜」
「そ、そのような破廉恥なコトは断じて聞かぬのでどうか安心して欲しいのだ。当人が今日伺いたてたいのは、魔法少女についてのことなのだ」
「うん?」
「というのも、当人は仮にもそなたのファンである事を称している割には、……そなたの事も、魔法少女の事も、あまりに何も知らぬ故、申し訳がたたぬ。どうか浅学な当人に、少しそなたらの物語を聞かせてはくれぬだろうか」
「なるほど、そういうコトならしょうがないわね!この私がひと肌脱いであげようじゃないの。ではでは、愛の魔法少女による正義の物語、はじまりはじまり」
そういうとかの者は、桃色の魔法陣のようなものを浮かべ、光で絵を織りはじめた。
"むかし、むかし、ある所に一人の女の子が住んでいました"
光は白の線となり、一人の少女を模る。これは察するにかの者の過去であろうか。
"女の子は、取り立てて特別なことは無いちょっぴり可愛い普通の女の子でしたが、ある日突然、選ばれたのです!"
その少女が、桃色に染まった。
"選ばれた女の子は、魔法の力に目覚めて悪のアルカナ達を打ち倒す使命を背負いました"
"選ばれた女の子は、決して一人ではありませんでした"
側に、黄金、群青、新緑の光が灯る。
"頼れる3人の先輩達に色々な事を教わりながら、ぐんぐんと強くなっていきました"
"そして愛と正義の名の下に、遂に全ての悪は滅ぼされ、ずっと、ずぅっと平和になりましたとさ"
"めでたしめでたし"
「おお、おおぉぉぉ!素晴らしい、素晴らしい物語でありまする!正義の名の下に人を助け、悪を打ち倒す。なんと良い事であろうか」
「ふふん、まだ触りだけなのに、ここまで喜んでくれるなんて。話しているこっちが嬉しくなっちゃうわ」
かの者はそう言うと、楽しそうに当人に様々な事を教えてくれ賜った。
敵であるアルカナについて、魔法少女を選び力を与える大いなる意志。
戦いの日々の中で起こった様々な事について。
「───それでね、それでね、その時私は─」
時間など、瞬く間に過ぎるのもまた、当然の摂理と言えよう。
無粋なブザーの音が、作業終了を知らせる。
気がつけば、連続作業の影響でクリフォト過負荷とやらも結構溜まっていたようで、あまり聞いた事の無い警告音まで流れていた。
慌てて我に帰り、エンケファリンゲェジを見やるも、やはりPEしか生産されていないようである。
「た、大変、私とした事がつい話しすぎちゃった。その、お仕事中だったんだよね」
仕事、そう今は仕事中であったのでありまする。
管理人からの指示が届く端末には数件の作業中止命令となんと恐ろしい事に制御不能状態に陥ったと判断された際に灯る桃色のランプが光っていたのだ。端的に言えば、やらかしたのである。
ウーティス殿の怒鳴り声が、上層から聞こえてくるような気がして、当人の頬をつぅっと汗が流れたのだ。ふむ、これはホワイトダメィジでありまするな。
「も、問題ありませぬ、問題ありませぬのだ……多分。取り敢えず当人は、そろそろ行かねばならぬ故」
「えっと、えっと、また来てくれるよね!今のお話の続きもしたいし、もっともっと面白い話もいっぱい有るんだから」
「勿論であるとも!当人の業務がどれだけ過酷であろうとも、始末書の文字数が数万文字に膨れ上がろうとも、必ずそなたの元へ馳せ参じるとフィクサーの名に誓おう」
「ふぃくさー?」
「なんと、フィクサーを知らぬのでありまするか!これは、そなたの元へ戻らねばならぬ理由がまた一つ増えてしまいましたな」
そう、このような正義に溢れたものがフィクサーを知らぬなど、世界の損失である。
「では、当人はそろそろ行きまする。どうかご達者で、魔法少女殿」
「うん、またね!絶対、約束だからね!」
そう言い、当人が隔離室を出るとクリフォト暴走レベルはⅤになっているではないか!既に白昼の試練の予告が出ている状態で色は緑青のようだ。
理解プロセス達は、話の通じぬ冷酷無比な殺戮機械であり、当人はあれらによる部門の蹂躙を断じて許すわけにはいかぬ。提灯くんのハンマーを握り締め、戦に備える。
『管理職 ドンキホーテ!意思疎通が可能ならこの放送に直ちに返事しなさい!』
……そう、切り替えようとしたものの、やはりしでかした事は消えてはくれぬようだ。ティファレト殿はそれはそれはもうおかんむりでありまする。
「き、聞こえているのでありまする!当人は制御不能ではござらぬ!少し該当幻想体と話し込み、否、とても精密な愛着作業を遂行していたが故に、時間の経過をすぽんと失念したのでありまする!申し訳な───」
『私は別に怒っていないわよ!ああもう、詳しい話は白昼を超えてからするから、まずは管理人の指示通り、理解プロセスを鎮圧しなさい!』
そう聞こえると、虚空から赤色の軌跡が当人の体に撃ち込まれる。REDシールド弾である。ふむ、管理人殿もまだ当人を見限ってはいないようだ!これは、ますますこの試練で勇猛を示さぬ訳にはいかぬではないか!
『あんたが管理している幻想体の隣の幻想体D-01-110も脱走する可能性が高いわ。気に食わないけど、上層から安全チームのチーフが支援にくるそうだからせいぜい有効に使いなさい』
「おおぉぉぉ!良秀殿でありまするか!これはなんと頼もしい!遂に当人もE.G.O二刀流を拝めるのでありまするか?!」
先日の紫の白昼では、部門のクリフォトカウンターが下がる予想があったが故に、結局見る事が叶わなかったので惜しく思っていたのだ。
一時はどうなるかともおもったが、思ったより事はよく回っている。
そう考えていた折であった。
Second trumpet!
二つ目の警報が、けたたましく鳴り響いたのだ。
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───O-01-04にエンサイクロペディアに未記載の可能性の挙動あり。
クリフォト暴走レベルⅣにて、死者が発生しなかった状態で、ヒステリック状態へ移行が無かった事を確認。
備考として、該当職員に指示が通らず、制御不能状態に陥ったことを確認。制御不能状態後の精神異常は見られず幻想体の影響では無く一般の不注意の可能性も考慮される、これは要追試である。
逆行にて、該当部門の別職員で対照実験※1)を行った所、クリフォト過負荷による不安定化指数に従った作業成功率を確認、ヒステリック状態へも前例通り移行し、O-01-04は脱走。施設が壊滅し、逆行処置を行った。
※1) LOBポイントによりステータスを寄せた該当職員に管理職 ドンキホーテと同様に長時間の友好的対話による連続愛着作業を指示。
T-02-43同様、特定職員への感応を示した可能性が推察される。
該当幻想体の管理難度緩和を目的とした、調査計画を立案する。
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