汐見市生活課!   作:ケン3ヴァルデン

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管理人!

地に足を踏み入れた晴臣は、ふと違和感を覚えて足を止めた。

 敷地内の掃除道具がいつもより整然と並んでいる。花壇の雑草も綺麗に抜かれており、手入れが行き届いている印象だ。

 

(……お孫さん、今日は本気出してるな)

 

 そう思いかけて、視線の先に立つ人物に気づいた。

 黒いライダースジャケットに細身のジーンズ。クールな佇まいで、うつむき加減にスマホを見つめているその女性は、彼の知る“いつもの管理人”ではなかった。

 

「あれ、香奈さん?」

 

 呼びかけに反応して顔を上げた彼女――**幽谷香奈(ゆうこく かな)**は、少し驚いたように目を瞬かせた。

 

「あ……海堂さん。こんばんは」

 

 ぼそりとした声。伏し目がちで視線を合わせない。

 彼女は幽谷カミエの孫であり、普段はこのアパートに顔を出すことが祖母の代わりに管理人を務めている。

 

「今日は結構おしゃれなんですね?」

 

「……おばあちゃんが温泉に行こうって…」

 

 肩をすくめるようにしてそう言う彼女の様子は、どこか場違いなほど初々しい。

 だがその時、不意に晴臣の後ろから人物が現れた。

 

「香奈ーっ♡」

 

 飛びつくように香奈の背中へ回り込む腕。

 その正体は――普段から静謐な威厳を放つ、あのカミエ本人だった。

 

「おばあちゃん!?海堂さんと一緒だったの?」

「若い男の子もいいけどやっぱり香奈がいないと落ち着かなくて」

 

 香奈の頬がみるみる赤くなる。

 抱きしめられ、頬をすりすりされながら、彼女は抵抗するでもなく、ただ居心地悪そうに固まっている。

 

「や、やめて……海堂さんが見てる、から……」

 

 赤面しながら身をよじる香奈の姿に、晴臣はふとある考えに至った。

 

(……いや、姉妹って言われても全然通るな)

 

 香奈の地味で無愛想な雰囲気と、カミエの華やかな美貌は正反対に見える。だが、年齢を知っていなければ、並んだふたりはどこか似通って見える――特に、眼差しの奥にある柔らかさが。

 

 そんな晴臣の視線に気づいたのか、香奈が一瞬だけ目を合わせ、またすぐに逸らした。

 

「か、海堂さん……すみません、見苦しいところ……」

「いえ、なんか……微笑ましかったです」

 

 そう言うと、香奈はますます顔を伏せてしまう。

 カミエは相変わらず香奈に甘えるようにしがみついていた。

 

「じゃ、俺はそろそろ。おふたりとも、お疲れさまです」

 

 軽く頭を下げて、その場を離れる。

 背後からはまだ「香奈〜可愛い〜」「やめてほんとやめて……」というやり取りが聞こえていた。

 

 晴臣は微笑ましさを胸に、アパートの階段を上っていった。

 

 

 

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