汐見市生活課!   作:ケン3ヴァルデン

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尋問!

「ち、違う! 今のは──あの子が勝手に俺の部屋に……! で、気づいたら上に乗られてて……!」

 

 晴臣は身振り手振りを交え、必死に状況を説明する。

 

「本当に何もしてない! ていうか、むしろ被害者側だって!」

 

 だが、真琴はその必死さを正面から受け止めることはなかった。

 冷え切った視線が、晴臣の額から足先までを一瞥する。

 

「……着替えれば」

 

 その一言だけを投げつけ、ゆっくりとドアを閉める。

 板の隙間から漏れる光が細くなり、やがて完全に消えた。

 

 廊下へ出た真琴は、ため息混じりに呟く。

「ミイナとかユメに甘いのって……やっぱりロリコン?」

 

 その声はぼやきというより、ほとんど毒の混じった独り言だった。

 彼女は靴下のまま音も立てず、廊下に佇む。

 さっきの少女──まだ家のどこかにいるはずの、もさもさ頭の侵入者を探すために。

 

 ほどなくして、玄関近くの薄暗いスペースから、何やら不自然な音が聞こえてきた。

 

 「ぐいっ……あれ? こうかな……?」

 

 声もなく、しかし小さく息を切らしたような声と共に、何度も玄関ドアのノブを引いたり押したりする動きが繰り返されていた。

 

 真琴はゆっくりと近づく。

 すると──

 

 少女が、ドアのノブを引っ張った拍子に、のけ反るようにバランスを崩し、ふと視線を上げた。

 

 その目が、真琴の冷ややかな視線と真っ直ぐに合った瞬間、少女の身体はぴたりと固まった。

 

 無防備だったはずの表情は、瞬間的に緊張へと変わる。

 

 だが、真琴はニンマリとした笑みを浮かべると、ゆっくりと近寄り、少女の肩に手を置いた。

 

* * *

 

 居間の床に、晴臣が正座して座っている。

 彼の視線はどこか遠く、落ち着かない様子が漂っていた。

 

 一方、ソファには真琴と先ほど捕まった少女が並んで座っている。

 

 真琴はニコニコしながらも、手は少女のもさもさとした茶髪の頭を優しく撫で続けていた。

 

 少女はまるで拷問が始まるのを待っているかのように、体を小刻みに震わせている。

 その瞳は焦点が合わず、虚ろに床の一点を見つめていた。

 

 無言の時間が、部屋の中に重く静かに流れている。

重苦しい空気が居間を支配している中、真琴が最初に口を開いた。

 

「それで」

 

その冷たく絞り出すような一言に、少女の肩がびくんと跳ねる。

 

真琴は迷いなく少女の両肩に手を置き、ゆっくりと引き寄せた。

彼女の視線は震える少女を避け、晴臣の一点に冷たく据えられている。

 

「それで、ロリコンの言い分によると、君がそのロリコンのベッドにいて――“上に乗ってた”って言うんだよ」

 

真琴の声は問い詰めるように、しかし静かに、凍りつくような緊張感を伴っていた。

 

少女は震えたまま、小さく震える声で、かすれた笑みを漏らす。

 

「う、へへ……」

 

 真琴は突然、首を急回転させた。

 まるで狩人が獲物を捉えるかのように、少女の顔を覗き込むように見つめる。

 

「なに笑ってんの」

 

 冷たく、瞬きひとつせずに視線を突き刺すその言葉に、少女はたちまち顔を真っ青に染めた。

 呼吸が浅くなり、口を開こうとしたが、言葉は出てこない。

 

 沈黙が続くと、真琴が再び問いかける。

 

「なに黙ってんの」

 

 その声に、少女の顔色はみるみるうちに土気色へと変わっていく。

 彼女の体は震え、もはや言葉は出なかった。

 

 その場の重苦しさに耐えきれず、晴臣が口を開いた。

 

「……まあ、そんなに責めなくても――」

 

 見知らぬ少女を哀れに思い、助け舟を出すような声音だった。

 

 その言葉に、少女の顔色がじわじわと戻っていく。

 そして、口元にほのかな笑みが浮かびかけ――

 

「ロリコンにいま話す権利は無いよ」

 

 真琴の冷たい声が、空気を一瞬で凍らせた。

 少女が瞬きをする間もなく、真琴の手が首根っこを鷲掴みにする。

 

 ぐい、と力強く引き寄せられ、少女の瞳は逃げ場を失った。

 真琴の視線が、確実に、絶対に、逸らさせないように絡みつく。

 

 真琴の気配がふっと揺らいだ。

 

 その瞬間、彼女の色彩が淡く滲み、虹色の光が髪や瞳、肌の輪郭に混じり合っていく。

 冷気にも似た威圧が、視界そのものを染め上げた。

 

「名前は?」

 

 淡々とした問い。だが、逃げ場はない。

 

 少女は唇を震わせ、か細い声も出せぬまま固まった。

 真琴は間髪入れず、さらに低く問う。

 

「で? ベッドに潜り込んだ目的は?」

 

 少女の肩がびくんと跳ね、右へ、左へと目線を彷徨わせる。

 だが真琴の虹色の瞳が、まるで重力のようにその動きを引き戻す。

 

 ぎゅ、と首根っこを握る指先に力がこもる。

 

「こっち見て」

 

 その一言で、少女の背筋は完全に凍りついた。

 逃げ場のない真琴の虹色の瞳に捕らわれ、肩が小刻みに震える。

 

 ――次の瞬間だった。

 

「っ……!」

 

 小さな拳がぎゅっと握られ、まっすぐに振り抜かれた。

 真正面、鼻先めがけて。

 

 バゴンッ!

 

 乾いたはずなのにやけに響く、妙に良い音が部屋に反響した。

 

 真琴が止まり、晴臣の瞬きも止まる。

 殴った少女もまた、拳を固めたまま硬直した。

 

「…………」

 

 沈黙の中、真琴の鼻先から、ぽたり、と赤が落ちる。

 そのまま細い線を描き、胸元へと垂れていった。

 白い布地がじわりと赤に染まっていく様が、妙にスローモーションに見える。

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