汐見市生活課!   作:ケン3ヴァルデン

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目覚めた正体!

 

 

ぱち、と乾いた瞬きの音がしたかのように、少女の瞼が震えた。

意識がゆっくりと戻る。

目を開ければ、自分が毛布のような布でぐるぐる巻き──まるで太巻きの具のようにされているのが分かった。

 

そして視界の先には、椅子に腰掛けた真琴と床に座る晴臣。

二人とも黙ったまま、ただ静かに起きた少女を見ていた。

 

その視線は重く、逃げ場のない圧を持っている。

少女は唇を噛み、視線を彷徨わせ──やがて耐えきれず、小さくぽつりと漏らした。

 

「……ごめん」

 

カツ……カツ……カツ……

真琴の人差し指が、一定の間隔でテーブルを叩き始める。

その音がやけに部屋に響いた。

 

「……なにに対しての謝罪?」

 

ゆったりとした声色。だが、否応なく答えを迫る響きがあった。

 

少女は喉を詰まらせ、「うぐっ……」と呻き声を漏らす。

しばし沈黙した後、かすれる声で搾り出すように言った。

 

「……殴ったり……して……」

 

真琴の指がテーブルを叩く音は止まらない。

そのテンポは、少女の鼓動と同じ速さで響いていた。

少女はきつく縛られたまま、むくりと上半身を起こす。視界に入るのは、腕を組んでこちらを見下ろす晴臣と、その隣で冷たい視線を投げる真琴。

しばし沈黙が続き、少女はその圧に耐えきれず、うつむき加減で小さくつぶやいた。

 

「……ごめん」

 

その言葉に、真琴が細い指を持ち上げ、人差し指でテーブルをトン、トン、と一定のリズムで叩き始める。

カツンという音が部屋の空気を切り裂くように響き、真琴は淡々とした声で問いかけた。

 

「なにに対しての謝罪?」

 

少女は口を開きかけ、すぐに詰まらせた。喉から絞り出すような声が漏れる。

 

「……殴ったりして、って……」

 

真琴がさらに口を開こうとした瞬間、晴臣がそっと手を上げて制した。

そして視線を少女に向け直す。

 

「君はどうして家にいたのかな?」

 

その問いに、少女は不機嫌そうに顔をそむける。視線は壁の一点に固定されたまま、低く、ぶつぶつと独り言のように言った。

 

「……中途半端に起こすから、こんなザマになって……」

 

意味をつかめず、晴臣は眉をひそめる。だがその時、真琴の指先がぴたりと止まった。

 

テーブルを叩く音が途絶え、真琴は椅子から腰を上げた。

 

その動きは一切の迷いがなく、しかし妙に滑らかで、見ている側の背筋をじわりと冷やす――ぬるり、とでも形容すべき立ち上がり方。

 

少女が反射的に後ずさるより早く、真琴はするりと距離を詰め、両手でその顔をがしりと挟み込んだ。

 

「っ……!」

 

少女が身を引こうとするが、顎ごと固定される形で逃げ場はない。

 

晴臣が「あ、おい!」と声を上げて伸ばした手は、少女に触れる寸前の真琴の肩には届かなかった。

 

「……ほぉ」

 

真琴の指が少女の頬を押し、左右にぐりぐりと動かす。

片目を覗き込み、次に反対側を確かめ、さらには顎を持ち上げて喉元まで視線を滑らせる。

髪をかき分け、耳の形を確かめるようにひねり――そしてまた正面に戻す。

 

「やめ……っ!」

 

少女が抗議の声を上げるたび、真琴の指は容赦なく角度を変え、まるで何かの設計図と照合するように顔を弄り回す。

 

晴臣は溜息まじりに「……真琴」と低く制するが、真琴はまったく意に介していない。

 

真琴の指が少女の頬から離れると、その目はふっと細まり、口元にうっすらと笑みが浮かんだ。

 

「ついに産まれたんだ。」

 

唐突な言葉に、少女が瞬きをする間もなく――真琴はそのまま腕を回し、ぎゅうっと抱きしめた。

 

「なっ……!? や、やめっ……!」

 

少女の肩がぶるりと震え、露骨に鳥肌が立つのが目に見える。

 

「離せ! うおーっ!」

 

必死に暴れるが、真琴はまったく離す気配がない。

 

「よしよしよし……よく頑張ったなぁ」

 

耳元で柔らかく囁きながら、真琴は片手で少女の後頭部を鷲づかみにし、わしゃわしゃと髪を乱す。

逃げようとする少女の動きに合わせて腕を締め、まるで獲物を逃がさない猫のように抱き込み続ける。

 

晴臣は呆れたように眉をひそめ、「……お前、それ以上やったら本気で噛まれるぞ」とぼそりと忠告した。

だが真琴は嬉しげに笑ったまま、まるで聞こえていない。

 

「おい晴臣! 早く助けろ、この間抜け! アホ!」

 

少女は真琴の腕の中で必死にもがき、足をばたつかせる。

しかし真琴の抱き締める力は微動だにせず、逃げ場はどこにもない。

 

晴臣は眉をひそめ、少女の必死な声をあっさり無視して真琴に問う。

 

「……産まれたって、どういう意味だ?」

「んー?」

 

真琴は腕の中の少女をひょいと持ち上げ、まるで子猫でも掲げるように胸元から上に引き寄せた。

暴れる少女を抱えたまま、くるりと晴臣の方へ体を向ける。

 

「この子が“ユメのタネ”だよ」

柔らかくも確信に満ちた声。

 

「本人が言ってるみたいに……中途半端だけどね」

真琴は口元だけで笑い、少女の頭をわしゃっと撫でた。

 

少女はなおも「離せ!」と喚きながら、目を吊り上げて真琴を睨みつけていた。

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