晴臣は唖然としたまま、ぽつりと口を開く。
「ユメのタネって、緑色の光じゃないのか?」
真琴は抱えた少女を支え直し、あっさりと答える。
「うん、同じだよ。この子と緑の光は同じ存在。ただ、力が中途半端に分かれちゃってる」
「……はあ?」と晴臣が目を細めるのと同時に、
少女は暴れるのをやめ、のけ反った姿勢のまま首だけぐいと晴臣に向けた。
「おい……助けろ、アホ」
その顔は真剣そのもので、先ほどまでの必死な暴れ方よりも切迫感があった。
少女は息を荒くしながら、晴臣を睨みつける。
「答えてやるから、はーやーく!助けろアホ!」
そして突然、
「うがーっ!」と喉を唸らせ、再び全力で暴れ出した。
真琴はわざとらしい調子で片眉を上げ、
「おっと、危ない危ない」
と口にしつつ、容赦なく少女の頭に手を伸ばす。
そのままがっしりと指を食い込ませ――アイアンクロー。
「ぎゃああああああああああ!」
少女の悲鳴が部屋に響き渡り、両足が空中でばたついた。
すると少女の身体がぼんやりと緑色に発光し始めた。
その光は次第に強くなり、全身を包み込む。
真琴の口元に深い笑みが浮かぶ。
その表情はどこか満足げで、まるで長年待ち望んでいた瞬間を目の当たりにしているかのようだった。
一方、晴臣は驚愕の色を隠せなかった。
しかし少女はただ光を放つだけで、真琴や晴臣は痛みも苦しみも感じている様子はまったくない。
真琴はゆっくりと指を緩め、アイアンクローをやめた。
すると少女の体を包んでいた緑色の発光がふっと消え、辺りにあった光は静かに霧散していった。
少女は力尽きたように肩を落とし、息を切らしながら震える声で呟く。
「もう……限界、無理……」
その言葉に、部屋の空気がふっと和らいだ気がした。
* * *
少女は、もともとトオルとの間で繰り広げられた眠る晴臣をめぐる熾烈な攻防によって、すでに限界近くまで消耗していた。
その過程で、彼女は自らの力の大半を晴臣の内側に置き去りにしたまま、この世界に“生まれ落ちた”のである。
結果として今の彼女は、本来の存在に必要な力を欠いた、中途半端な状態だった。
発光も、抵抗も、どれも長くは続かない──そんな脆い均衡の中で、彼女は真琴の腕に捕らわれていた。
真琴は、腕の中でぐったりと力を失った少女をソファに横たえた。
「ぬぐぅあ〜……」と情けない呻き声を漏らすその額を、真琴は指先でゆっくり撫でる。
晴臣は、そんな二人を交互に見やりながら眉をひそめた。
「……悪いけど、今の状況、全然わかってない。説明してくれないか?」
真琴は少女の髪をわしゃわしゃと乱しながら、片目だけで晴臣を見た。
真琴は撫でていた手を止め、少女の耳元にかかった髪を軽く払うと、ため息混じりに口を開いた。
「この子の力の大半は、中途半端に生まれちゃったからまだ晴臣くんの中に残ってる。」
晴臣が目を瞬かせると、真琴は肩をすくめて続ける。
「本来の力を使うこともできないし、生まれるはずだった姿からも、だいぶかけ離れてしまってる。今の姿の通りのただの女の子って感じ」
ソファの上でされるがままの少女は、まるで抗議する気力も残っていない様子で、仰向けのまま小さく「ぐぅ……」と呻くだけだった。
しかし少女が、突然むくりと起き上がった。
顔色こそまだ青白いが、目にはさっきまでなかった生気が宿っている。
「このッ!」
少女は真琴に向かっていきなり身を乗り出し、噛み付こうと首を伸ばす。
真琴は軽く体をひねってかわし、ニヤリと笑った。
「おや、復活が早いねぇ。ずいぶん燃費は良いみたいだね」
その一言に、少女の額の血管がピクリと動く。
「うるさい!」
今度は足を振り上げ、真琴の脇腹めがけて蹴りを放つが、またもひらりとかわされる。
「おっと、危ない」
真琴が軽口を叩くたび、少女はさらにヒートアップして暴れ続けた。