汐見市生活課!   作:ケン3ヴァルデン

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シオマート大事件!

 

 

——汐見市・西本町店 シオマート

 

「いらっしゃいませー」

 

やや間延びした独特のイントネーションが、店内のスピーカー越しに繰り返し流れてくる。自動ドアをくぐると、すぐにピタリとそろった笑顔の女性店員たちが一斉にお辞儀をする。その全員が、まるでコピー&ペーストしたようにまったく同じ顔、同じ声、同じ動きだった。

 

「……そうは見えないんですけど」

晴臣がそっと声を潜める。

 

「違いが理解できるのは晴臣くんだけさ」

真琴が買い物カゴを抱えながらクスクス笑った。

 

そのすぐ後ろを、明らかに場違いな存在感でついてくる課長。皺の寄ったスーツ、半分開いたネクタイ、そして手に持ったおにぎり。

 

「なあ……本当にここで“怪異通報”があったのか? 昼飯中に呼び出されるとは……これがパワハラってやつじゃないのか?」

「安心してください。僕たちも勤務時間外の買い物ついでに来てるんですから」

と晴臣が言いながら、店内奥の冷凍食品コーナーへと向かう。

 

「でも、問題の発生は冷蔵庫でも惣菜コーナーでもなく……」

「“店員の中にひとりだけ違う存在が混じってる”……だよね?」

真琴が軽く指を立てて笑った。

 

晴臣はうなずき、奥の方で「ありがとうございましたー」と唱える店員たちを見渡す。

 

まったく同じ顔。まったく同じ口調。まったく同じ“気配”。

 

けれど、その中に——ひとりだけ、「異質」がいる。

 

* * *

 

 

シオマート・従業員休憩室にて

 

「なんかー、変なんですよー。うちら全員決まったシフトで入れ替わるんですけどー、ひとり……入れ替わってないー?」

 

薄明かりの休憩室。お茶とお菓子が広げられたテーブルの向かいで、シオマートの制服が似合う女性店員が、やけにリラックスした姿勢で語っていた。

 

彼女の顔も、声も、外の誰ともまったく同じ。だけどその話しぶりには、明らかに「異常事態に対する緊張感」が皆無だった。

 

「それで“何か混じってるかもー”って思ったから連絡したんですよー。いや、私も見分けつかないからアレなんすけどー」

「俺には皆さん違って見えますけど」

「え?ナンパ?お兄さん大胆ー」

 

晴臣が困惑している横で、課長がゴスゴスと晴臣の肩を小突いていた。

 

「なあ、俺ほんとに必要だった?なあ?ねぇ、俺、いる??」

「課長、落ち着いてください。今日はほら、娘さんに“パパの仕事の話つまんない”って言われてめちゃくちゃ凹んでましたよね。それで現場の話ならどうかと課長から言ってきたんじゃないですか?」

「……ああ言われると痛えなあ……」

 

がっくりと肩を落とす課長を横目に、真琴がポンと手を叩く。

 

「つまり少女たちでも見分けがつかない“別モノ”が、紛れ込んでるってわけか。楽しそう♪」

「なんで楽しそうなんですか……」

 

晴臣が疲れたように言うが、真琴の目はすでにキラキラしていた。

 

「どんな異形が擬態してるのか、正体当てゲームです。なんか燃えてきましたね」

「燃やすのは禁止ですー」

「えーっ」

 

課長がまたぽつりと呟く。

 

「……やっぱ俺いらなかったんじゃ……」

「諦めたまえ少年」

 

真琴がくすくすと嘲笑う様に課長を眺める。

 

* * *

 

シオマート・店内にて

 

ピカピカの床に蛍光灯が反射する中、晴臣は不自然な感覚に眉をひそめていた。

 

「……いや、やっぱり違うって」

「え、どこがですかー?」

 

商品棚の整理をしていた女性店員が振り向く。声も、表情も、立ち振る舞いも、さっきの休憩室にいたあの店員とまったく同じ。

 

だが――。

 

「その人とさっきの人、全然違うじゃないですか。髪の分け目も違うし、声のトーンもちょっと低い。それに右手の指のクセ、そっちは商品持つとき小指が立つけど、さっきの人は全部指揃えてたし」

「ナンパですかー?」

 

晴臣の観察眼は妙に鋭かった。本人はごく当然のように語るが、課長と真琴は目を丸くする。

 

「お前、なんでそんな細かいとこ見てんだよ……」

「やっぱり変だよ晴臣くんは」

「わからないですー」

 

さっきとは別の――だがやっぱり同じ顔の――女性店員が、レジの奥からにゅっと顔を出して言う。

 

「私たちって、みんな同じ顔と声って設定なんでー、どの人がどの人か、自分たちでもよくわかんないんですよねー。まじでー」

「いや、設定って何……」

「実際わかんないですよー?休憩室で一緒にご飯食べた子がー、昼と夜で違う子だったとかよくあるしー。でもまあどれもだいたい一緒なんで問題ないっていうかー」

 

真琴が楽しげに腕を組む。

 

「つまり、個別認識が不可能な群体。ああ、これは“集合的意識型疑似生命体”かも。晴臣くん、もしかして個体識別スキル持ち?」

「いやそんなRPGのスキルみたいに言われても普通に違う人に見えるだけですけど?」

 

課長がひとつ咳払いして、レジ前で仁王立ちする。

 

「つまり、見分けられない店員たちの中に“さらに異物が混じってる”ってことか……。なあ、俺、やっぱり帰っていい?」

「ダメです。課長が娘さんに“仕事してるとこカッコイイって思われるチャンス”だって言ってましたよね?」

「やめろおおおお……思い出させんな……」

 

晴臣はそれどころじゃないと言わんばかりに、前方の通路に視線を走らせていた。

 

「……さっきから1人だけ、棚の商品を裏返して見てる人がいる。あの人だけ、動きに違和感がある」

「お、見つけましたかー?変な人ー!」

「なんで俺が変な人みたいになってるんだよ……」

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