汐見市生活課!   作:ケン3ヴァルデン

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ご来店ありがとうございましたー!

 

晴臣が指差した先――冷凍食品コーナーの一角で、パッケージを裏返して成分表示を食い入るように見つめている女性がいた。

 

「……あの人だけ、何かが違う」

 

そう呟いて歩み寄る晴臣に、真琴と課長もついていく。店内の他の従業員はまるで何も起きていないかのように「いらっしゃいませー」「お買い上げありがとうございますー」と語尾を引きながら作業を続けていた。

 

冷凍うどんを見つめるその女が、背後に立った晴臣に気づいて振り返る。

 

「……なにかご用ですかー?」

 

顔も声も他の店員と同じ。だが、動きには妙な重さと洗練された静けさがあった。

 

「あなた、他の人と違う……ですよね?」

 

晴臣がじっとその目を見る。女はうっすら微笑んだ。

 

「…お客様、ナンパはご遠慮くださいー」

「ふざけてる場合じゃねぇ! お前、何者だ!」

 

思わず晴臣の後ろに隠れたまま声を荒げる課長。その瞬間――

 

「わたし、店長ですー」

 

冷静かつ当たり前のように名乗ったその女に、三人の動きが一瞬止まる。

 

「……は?」

 

「シオマート全店舗を巡回してましてー。この子たちの“個体管理”と“同一性維持”が私の業務内容ですー。今日は棚の配置ズレと新しい配置を監修に来ましたー」

「いや、どう見てもただの一従業員でしょ!? 顔も声も他の人と同じだし!」

「なので問題ありませんー。すべての従業員は私のコピーですからー。わたしが店長であり、彼女たちでもあるんですよー」

 

言葉の意味を理解するより先に、課長の顔が青ざめる。

 

「ちょ、待て……俺、今日来ちゃいけない日だった……?」

「正解ですかねー」

「やっぱりかぁああああ!」

 

晴臣は眉をひそめ、誰にも見えない“何か”の輪郭を追っていた。

 

「……通報内容はここにいる“従業員”の中に、ひとりだけ“違う存在”がいる。つまり貴女」

 

店長はコクリとうなずくと、無表情のまま言った。

 

「従業員は各店舗ごとに生まれてましてー。そこにしかいないんですー。でもわたしは全店舗を回れるのでー。だから“どこにでも現れる私”は、他の従業員から見れば“その店にいないはずの存在”になるんですよー」

 

店長は独り言のように告げてバックヤードへと晴臣たちを連れて行く。

 

「今回はー、生活課の方々にご迷惑をおかけしましたー。それでは私は次の店舗に回りますのでー、ぜひ今後ともシオマートをよろしくお願いしますー」

 

店長はそう言い残すと、バックヤードの奥に消えていった。

誰も見たことがない、その“奥”。構造上、倉庫も搬入口もないはずの、壁の向こう。なのに、スーッと、音もなく、あまりにも自然に。

 

……シュールとか、そういう次元じゃない。

 

「……なあ、俺、これ仕事で合ってた?人生の方じゃない?走馬灯的な……?」

 

課長ががっくり膝に手をついている。背中がしょぼしょぼしてる。

 

「……かっこよかったかこれ? いや、これで好感度上がる!? “全員同じ顔の女の店で働く怪物の上司”、娘にどう説明すんだよ……!」

「でも、異物はいなかったはず?」

 

真琴が小首を傾げる。

 

「そーねー。ただの“店長”だったってだけー。気付かないなんて思わなかったー。」

 

いつの間にか背後に立っていた通報した店員が、いつもの調子で伸びた語尾と共に、緊張感ゼロで微笑んでいた。

 

見た目は他の店員とまったく同じ。

でも……いや、やめておこう。突っ込んだら負けな気がする。

 

「じゃ、課長。お土産買って帰りましょう。たしか“スーパードーナツ”が好きでしたよね、お嬢さん」

「あー……うん……」

 

ぺたぺたと歩きながら、課長は虚空を見つめていた。

魂がちょっとだけ置いてけぼりになってる気がするけど、まあ明日になったら忘れてるだろう。

汐見市ではよくあることだ。

 

「……この街、やっぱ終わってんな……」

「課長、まだ開店セール中ですよ」

「俺の人生のな……」

 

どこかの棚の影で、「いらっしゃいませー」という全く同じ声が、三方向から重なって聞こえた気がした。

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