汐見市生活課!   作:ケン3ヴァルデン

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恋愛ジェットコースター!

 

 次の土曜日――。

 

 晴れ渡る空の下、海沿いの坂道を上がった先にある白壁と青窓のカフェ「Cafe Lune」

 

 開店前の静かなその店内に、ピンポーンとチャイムの音が響いた。

 

「いらっしゃ……あっ、ハルくん♡」

 

 カウンターの奥から現れたのは、リネンのエプロンを翻しながら駆け寄る姫野ルイ。その表情はまるで子犬が尻尾を振るようにキラキラしている。

 

「今日はどうしたの?」

 

 姫野の声が期待と甘さをたっぷり含んで弾けた瞬間、晴臣は淡々と、しかし妙に真剣な表情で口を開いた。

 

「今日は、一緒に出かけよう」

 

 一瞬の沈黙。

 

 続いて――

 

「で、ででででっででっでっ、デートーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!」

 

 姫野はスカートの裾を両手で掴むと、くるくると回転しながらカフェの床を走り回り、ついには椅子に飛び乗ってターンからの謎のフィニッシュポーズ。

 

「はぁっ……はぁっ……まさか、ついに……この日が来たなんて……乙女カレンダー、ハル記念日でいっぱいになるんだ」

 

 感極まった顔で手を合わせ、空中にキラキラのハートを描く姫野。

 

 だが――その動きが、ぴたりと止まった。

 

「…………ん?」

 

 突然、獣のように鋭い目付きになり、晴臣をじっと見つめる。

 

「ハルくん。もしかして、何かある?……目的地も言わず、“出かけよう”だけで終わるなんて、怪しさ満点じゃない?」

 

 さすがは姫野、数々の脳筋に巻き込まれてきた経験が彼の乙女回路に警報を鳴らしたのだろう。

 

「……今まで何度も騙されてきたわけじゃないけど、それでも一応、確認するわ。行き先は? 目的は? あと、私が何を着ればいいかちゃんと指示して♡」

 

 最後だけややテンションが戻っていたが、姫野は真顔でぐっと顔を寄せてきた。

 

 晴臣は思わず目をそらしながら、言葉を選んで告げる。

 

「行き先は、人の家。目的は――紹介です」

「紹介……?」

 

 姫野の顔がじわりと緊張に変わった。

 

「誰に?まさか、あのイカれお母さんとかじゃ」

「いえ、違います。咲さんです」

「…………誰それ?」

 

 ピクリと眉を動かし、姫野の目が少しだけ細くなった。

 

(あ、これは……説明を間違えたら地雷を踏むやつだ)

 

 そう思いつつ、晴臣は慎重に続きを話し始めたのだった――。

 

* * *

 

 カフェの扉が閉まり、姫野はカウンターの裏から回り込んでくると、ぶすっとした顔でソファにどかりと腰を下ろした。

 

「で? これは何?」

 

 不機嫌そうに唇を尖らせたまま、晴臣から手渡された週刊誌をパラパラと捲る。

 

 ページの中ほどに、カフェ「Cafe Lune」と姫野ルイのインタビュー記事。海辺の人気店として特集され、オーナーとしての姫野の写真が数枚、笑顔とともに掲載されている。

 

「……確かにインタビューは受けたけどさ」

 

最近、恋してるんですよ。すっごく優しくて、何考えてるかわかんなくて、でも時々変なことしてて……なんか、真面目そうに見えて、めちゃくちゃぶっ飛んでて……超タイプです♡

その文を姫野は指でぐいと押さえながら、ジロリと晴臣を睨んだ。

 

「……で? あんた、これの意味、わかってんの?」

「はい」

 

 即答。晴臣のあまりに素直な返事に、姫野の胸が一気に跳ねた。

 

「~~~~っ♡♡♡」

 

 とたんに両手を顔の前で組み、赤面しながらわたわたと身をよじらせる姫野。

 

「な、なんて素直な!私の気持ちが通じて……通じて……ラブ成就~~~!!!!!」

 

 そのままスキップでも始めそうな勢いだったが――

 

「それにしても、親友なのに好きな人がいたなんて知らなかったなあ。そんな女の人がいるなら、教えてくれてもよかったのに」

「………………へ?」

 

 晴臣の朗らかな一言が放たれた瞬間、姫野の動きがピタリと停止した。

 

 ぱちぱち、と数回瞬きをしてから。

 

 ズコーーーッ!!!

 

 姫野は全体重をかけてソファから滑り落ち、床に顔面をこすりつけるように崩れ落ちた。

 

「……ちょっ、なにが“女の人”!?ねぇ!!」

「……え?でも恋してるって、女の人って書いてあるし……」

「お前には!どう見えてんだよ!!察してよォォォ!!!」

 

 床でジタバタ暴れる姫野の背中を、晴臣はどこか他人事のように眺めながら、お茶を啜っていた。

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