条件 初期ジョブ
効果 体力微上昇
「き、きた。きたぞ。ここが『異世界迷宮でハーレムを』の世界」
森の中で目覚めた俺は周囲を見渡して、ボーナス武器のデュランダルを探した。
「鑑定鑑定。あれ、見当たらない・・・・・・ああ、あったあった」
茂みの中から聖剣デュランダルを引っ張りだす。
「って、デュランダルじゃなくてエクスカリバー?」
茂みから出てきた両手剣の鑑定結果は、『異世界迷宮でハーレムを』の主人公カガ・ミチオがもつデュランダルとは違う名前だ。
「名前が違うけど、効果は一緒だよな?」
鑑定結果を詳しく見ると、『攻撃力五倍 HP吸収 MP吸収 詠唱中断 レベル補正無視 防御力無視』と原作デュランダルと変わらない性能に安堵する。
ボーナス武器六。これはこの世界でスタートダッシュを決めるのにとても重要な武器だ。名前が違う程度なら全く問題ない。槍ならまだまし、杖や棍棒なんてことになったら目も当てられない。
「よしよし。ひとまず武器六の確認は済んだからこいつは一旦しまおう」
心の中でキャラクター再設定を念じる。すると頭の中にゲームウィンドウが現れる。カーソルを動かしてボーナス武器六のチェックを外す。すると手に持っていたエクスカリバーが消えた。
二、三度エクスカリバーを出し入れしてウィンドウとカーソル操作の練習もしておく。操作は全く問題なく可能だ。
「それじゃあ、村か街を探しつつ、盗賊退治と行きますか」
勢いよく茂みをかき分けて森をでると、そこは街道だった。
「・・・・・・あれ」
そして、左を見れば、立派な門を構えた街が見える。
「あっれー?」
『英雄』のジョブを得るという最初の目標が早くも頓挫しようとしていた。
◆
『異世界迷宮でハーレムを』というライトノベルはまあ、ちょっとエッチなラノベだ。作中で明確に行為をする場面はあるし、アニメや漫画に至ってはそれはもうすごい。すごい。
俺自身そういう目的でこの世界にやってきたが、エッチなハーレム以外にも重要な要素はある。
迷宮だ。
この世界には各地に迷宮と呼ばれる場所があって、迷宮内のモンスターを倒して得たドロップアイテムを換金するゲーム要素がある。そのためにはレベル上げや仲間(奴隷)集めが必要だ。
その第一歩として重要なのが『英雄』だ。『英雄』はとても強力なジョブで、この世界に来たなら絶対に欲しいジョブだ。取得方法は明確になっていないが、『村人が盗賊を撃退し、この時MVPの活躍をする』というのが有力な説だ。
だからこそのボーナス武器六、そのための村スタート。そのはず、だった。
「街スタートかぁ。状況だけなら難易度イージーなんだけどなぁ」
街の近くに出現する。どう考えても恵まれたスタートだ。山の中や森の中、孤島と比べれば百倍まし。でも、求めていた状況と全く違う。
「うーん、困った。こう何というか、都合よく襲撃予定の村に飛ばされると勝手に思ってたよ。まさか足で盗賊を探すことになるとは」
そう。『英雄』のために俺は街を練り歩いて盗賊を探す。それしかないもん。
「こっちから盗賊を襲撃することが『英雄』の取得条件を満たせるかは未知数。だけど、その前にこのままじゃ英雄とかそれ以前に路頭に迷っちゃう。先に迷宮かぁ」
「無知蒙昧にして天下不滅の無一文!」は言い過ぎだけど、実際金がないから今夜の宿の心配が先だ。
まずは町の冒険者ギルドで近場の迷宮を教えてもらう。そして『探索者』のジョブを得て、一階層で資金稼ぎ。それと並行して街の盗賊を探して襲撃する。
「そうと決まれば早速冒険者ギルドを探そう。あ、すみませーん」
「・・・・・・ふん」
俺が声をかけたエルフは、鼻で返事をすると返答もなく立ち去った。
「え、まじで?」
周囲を見渡す。片っ端から街の人を鑑定。その種族は全員がエルフだ。
「・・・・・・難易度高くない?」
◆
『異世界迷宮でハーレムを』の世界は、主人公ミチオが自殺救済サイトと勘違いしたホームページの設定が反映されている。その設定の中に「エルフは他種族を見下している」というものがある。
説明するまでもなく字の通りだ。つまり、人間族である俺はこの街ですごい軽んじられている。
「・・・・・・迷宮は南門を出てすぐのところだ」
冒険者ギルドで迷宮の場所を聞いた俺への対応がこれだ。ここまで来るのは大変だったんですけど。
ギルドにはさすがにエルフ以外の種族もいたが、受付にいるのがエルフでは全く意味がない。
さっさと行けと言わんばかりに「しっしっ」と手で払う動作までしてくる。こいつエクスカリバーの錆にしてやろうか。
今後もこのギルドの世話になると思うと気が重い。次からはできるだけエルフ以外の人が受付にいるときに声をかけることにしよう。
「で、南門はどっちだ」
エルフに声をかけたくない俺は町に3つある門をひとつひとつ調べることになった。幸か不幸か2つ目の門をくぐっていく冒険者一行を発見した俺はそのあとを付いていき、迷宮にたどり着いた。
「おお、本物の迷宮だ。ちょっと感動」
迷宮の入り口にいたエルフの話では一階層からコボルト、コラーゲンコーラル、ミノと三階層まで判明している。
厄介な毒持ちのスパイスパイダーとニートアント、拘束スキルを使うグリーンキャタピラーが低階層にいないのは助かる。逆を言えば上の階層に固まっているということでもあるが、今はいいだろう。
迷宮に立ち入ることでひとまず『探索者』のジョブを手に入れた。ジョブ設定からジョブを『村人』から『探索者』に変更する。
妙な緊張感がある。心臓がバクバクだ。
「ふぅ。おちつけ、大丈夫だ」
自分に言い聞かせる。
『英雄』のジョブは非常に強力だ。特に周囲を置き去りにする『オーバーホエルミング』という加速系のスキルは規格外の性能を持っている。絶対に欲しいジョブだ。その『英雄』のジョブの取得条件に「初陣」が含まれている可能性が否定できない。
作中で『英雄』のジョブを持っているのは主人公ミチオと初代皇帝だ。初代皇帝には逸話が残っていて、それは「初陣で盗賊を撃退した」というものだ。そして主人公ミチオも初陣で盗賊を撃退している。
だから俺は怖気づいている。このままでは『英雄』のジョブが手に入らないのではないかと。
「・・・・・・なら死ぬのか? このままじゃ飯も食えないし水も飲めない。死ぬしかなくなる。絶対に嫌だ」
そもそも俺にはキャラクター再設定がある。たとえ『英雄』が手に入らなくても七つのジョブを同時にセットできるセブンスジョブがある。ボーナス呪文がある。ボーナス武器がある。大丈夫。大丈夫だ!
「よし! 大丈夫、大丈夫。まずは金稼ぎだ。腹が減っては戦ができぬというであろう! やらいでかぁ!」
ああ、さっさと『英雄』が欲しい。メンタルに来てるのが自分でわかる。
◆
「お待たせいたしました」
冒険者ギルドの職員が銅貨が入った袋をトレイに乗せて、受付カウンター越しに差し出す。
「確かに」
それを受け取ると中身を雑に確認して冒険者ギルドの建物を出た。
「夕暮れまで入って400円・・・・・・じゃない、だいたい四百ナール。さすが最弱にして不人気のコボルト。しょっぱい稼ぎだ」
一応宿屋が一泊三百ナールほどだから赤字ではないが、数十万する奴隷を購入するのは夢のまた夢。
「全くやってられない。明日からは黒魔結晶を購入して魔力を集めるとしよう」
魔結晶は魔力をためる不思議な結晶で、鶏卵ほどの大きさの丸い石だ。魔物を一匹倒す毎に魔力が溜まっていき、十、百、千、万と桁が上がる毎に色が変わる。最大は百万匹分の魔力を溜めた白魔結晶でそのまま百万ナールになる。
キャラクター再設定には『結晶化促進』というスキル項目があって二倍から六十四倍まで選ぶことができる。
通常魔物からは一匹分の魔力しか回収できないが、ボスは五体分の魔力になる。
この二つを合わせて明日は一階層ボスにして最弱のボス、コボルトケンプファーを周回する。ボスを六十四倍で倒せば一匹で三百二十匹分の魔力が溜まる。これはおいしい。
「一泊夕食付きを頼む」
「一泊二百五十ナール、夕食が七十ナールで三百二十ナールだ。初めてのお客さんだし、二百二十四ナールでいい」
突然の三割引き。
これはキャラクター再設定にあるスキル、値引交渉だ。交渉らしい交渉は全くなかったが、どういう原理か計算スキル『カルク』を持つジョブ相手に強制的に値引きをさせる恐ろしいスキルだ。逆の買取交渉というスキルもある。こっちも最大三割アップ。今日の稼ぎ四百ナールもこのスキルのおかげだ。
「とはいえ万能じゃない。明日からのボス周回、どういう構成で行く?」
キャラクター再設定を扱うにはボーナスポイントが必要だ。俺は99BP持っている。1ポイントはキャラクター再設定から外せないので実質98BP。
金策の為に『結晶化促進』のスキルは外せない。六十四倍で63ポイント。
武器を持っていない今は『ボーナス武器』が必要だ。31ポイントを使って武器五を取得。名前は『アスカロン』だった。
残りは4ポイント。これは『鑑定』に1ポイント、『詠唱省略』に3ポイント振る。
「よし、明日はこの構成で迷宮に行く」
明日に向けてさっさと寝よう。
俺は布団にくるまるとそのまま眠った。
◆
「⋯⋯あー。盗賊探しに行くの忘れてた」
朝日が窓の隙間から差し込んでくる。
目が覚めた俺は、早くも自分で決めた予定をすっぽかした事を自覚した。
「いや、まて。まだボーナス武器以外に武器も防具もない。丸腰だ。それに姿を隠す外套もほしい。そう、忘れていたわけじゃない。まだ準備期間なだけだ。そうなのだ」
言い訳完了。
さっさと部屋の鍵を返して迷宮に行こう。
「おっと、その前に黒魔結晶を忘れずにな」
忘れ物が無いか、確認をして部屋を出る。鍵は受付で返した。朝食を勧められたけど、お金がないんじゃ。美味しそうな匂いに後ろ髪をひかれながら宿を出る。
冒険者ギルドではエルフを避けて受付で黒魔結晶を1つ十ナール、5つ購入した。
「魔結晶をアイテムボックスに入れると魔力が溜まらないから、ポケットに入れておくか。はぁ。リュックも買えないとか、辛いわ」
落とさないようにポケットに黒魔結晶を入れる。小銭を直接ポッケに入れているような不安を覚える。財布(リュック)がほしい。
「少しいいか?」
「ん?」
迷宮に入る手前でエルフの男に呼び止められた。
鑑定
ダミアン ♂ 31歳
探索者Lv48
装備 鉄の剣
おお、レベル48! 『冒険者』のジョブまで後二つだ。頑張れダミアンさん!
「何か用か?」
「いや、お前は昨日も見たが、素手で迷宮に挑んでいるのか?」
ダミアンさんは訝しげに上から下まで俺をみる。「素手どころか防具もつけてねーぞコイツ」と言わんばかりです。
俺だって丸腰で迷宮に潜ろうとする奴がいたら、そいつは頭がイカれてると思う。自殺願望者かな?
俺のことだけどな! ハッハー!
「あー、そうだな。詳しく話すつもりはないが、金が無い。察してくれ」
「⋯⋯そうか。失礼なことを聞いた。行ってくれ」
ダミアンさんの中でどんな結論が出たのか、ちょっとだけ気になる。
それ以上声を交わすこともなく俺は迷宮に入った。
「さて、いっちょやりますか!」
俺はボスのコボルトケンプファーをボコボコにした。
◆
「おお、目標の一万匹まで早かったな」
黒かった魔結晶が緑色になった。
これが一万匹分の魔結晶の色だ。
十が赤、百が紫、千が青、一万が緑だ。六十四倍のおかげで赤は見逃したけど。
流石は六十四倍。流石は最弱のコボルトケンプファーだ。
これをギルドで売れば一万ナール、三割アップをつければ一万三千ナール。すごい。1日で収入が三十倍以上だ。
「一万三千だから、えっと、2ヶ月くらいは宿に泊まれるか?」
『商人』のジョブがあれば『カルク』のスキルで計算ができるのに。
「探索者のアイテムボックスに入れておいた黒魔結晶と交換して。残りは4つ。この分なら夜までには全部緑色にできそうだ」
五つの魔結晶をすべて緑に変えた俺が迷宮を出たのは、日が落ちる時だった。
エルフのダミアンさんが交代したのか、代わりに女のエルフさんが迷宮の前にいた。
内心はともかく彼女は愛想がよく、俺にほほ笑みかけてくれた上にねぎらいの声までかけてくれた。
「ご苦労様です」
「ああ、おつかれさま」
金髪のエルフ、かわいい。エルフは皆、美形だ。彼女も当然のようにかわいい。
鑑定
クラリス・ブラック・アルベリッヒ ♀ 15歳
村人Lv3
装備 鋼鉄の剣 身代わりのミサンガ
思わず鑑定してしまったが、村人? 迷宮の入口は『探索者』か『冒険者』だと思っていたが、違うのか?
迷宮の前にいるのは確か、突破した階層の確認と案内役だ。迷宮に潜るには必ず『パーティー編成』のスキルを持つ『探索者』か『冒険者』がいるはずだから、案内人が村人でも大丈夫か。いやでもレベル低くない?
かわいい女の子に挨拶してもらえた俺はウキウキの気分で冒険者ギルドに向かう。
なぜ彼女が迷宮の案内人をしていたのか疑問は尽きないが、まあいいか。かわいいから。
「お待たせしました」
ギルドで売却した魔結晶とドロップアイテムの代金を受け取る。緑の魔結晶五つと三割アップで六万五千ナールと少し。すごい。
資金に余裕ができた。ひとまずリュックと着替えを購入した。これでアイテムボックスに入り切らずに放置していたドロップアイテムも回収できる。『探索者』のレベルが低いうちはアイテムボックスの容量も少ないからな。
「今日も一泊頼む」
「おお。二日連続で泊まってくれたお礼に二百二十四ナールでいいよ」
原作もそうだけど、彼の中で一体どういう原理で三割引きされているんだろう。遠慮なく使っていくけど。
◆
翌朝。
昨日と同じように部屋の鍵を返し、冒険者ギルドで魔結晶を一つ購入する。
資金に余裕ができたから、今回は魔結晶に十万匹分の魔力をために行く。昨日一日で一万匹分を五個用意できたんだ、二日で用意できる。主人公ミチオのように奴隷を何人も集めるためにも頑張ろう。
「度々すまない。少しいいだろうか」
「かまわないが」
迷宮に入る前にダミアンさんが話しかけてきた。昨日と違って帰りに見かけたかわいいエルフの女の子も一緒にいる。
鑑定
ダミアン ♂ 31歳
探索者Lv48
装備 鋼鉄の剣 硬革の鎧 身代わりのミサンガ
クラリス・ブラック・アルベリッヒ ♀ 15歳
村人Lv3
装備 鋼鉄の剣 革の帽子 革の鎧
革のグローブ 革の靴 ミサンガ
あれ、クラリスさんは昨日『身代わりのミサンガ』をつけていたよな?
それに彼女は名前からして貴族に間違いない。それにしては装備の質が低い。革の装備は下から二番目だし、鋼鉄は下から三番目。貴族の装備は市場では手に入らない上級品だったはず。
「昨日もお会いしましたね。初めまして。わたしはクラリスと申します」
「え、あ、おれ、いや、わたしはハヤト、と申します」
クラリスさん、かわいい。昨日はわからなかったけど、鎧装備がぴったりと体にフィットしているせいでたわわなお胸が! はっきり! くっきりと! 結構大きいですね!
「ハヤトさんですね。よろしくお願いします」
「ええと、こちらこそ。それで・・・・・・俺になにか用ですか?」
笑顔がまぶしいクラリスさんから視線を外してダミアンさんに顔を向ける。
こっちはこっちでナイスガイ。エルフってホントに美男美女しかいないのか。うらやましい。
「お願いがあります。彼女をパーティに加えてくれませんか?」
「は? 冗談、ではない、と」
「ええ。報酬も用意しています」
そう言って腰に佩いたもう一本の剣を差し出してくる。
真剣な表情のダミアンさんとクラリスさん。意味が分からない。
「彼女、クラリスさんは貴族の方ですよね? お抱えの騎士団から人を出すべきでは」
「申し訳ありません。事情をお話しできないのですが、訳あって騎士団は動かせないのです。こちらのダミアンにも今日は無理を言ってここに来ました」
もじもじしてるクラリスさん、かわいい。この人可愛すぎる。
「失礼ながら、連日装備もなしに迷宮を潜っている姿を拝見し、金銭以外の報酬で交渉できると考え、話を持ち掛けております」
ダミアンさんが差し出しているのはダマスカス鋼の剣だ。すごいぞ。武器屋で買えば七万ナール以上する。つまり報酬が七万ナールということだ。
しかも市場で最上級の武器だ。これより上はオークションか貴族クラスの人から融通してもらわないと手に入らない。
そして、さらにこのダマスカス鋼の剣には空きスロットがついている。
鑑定
ダマスカス鋼の剣
≪空き≫≪空き≫≪空き≫≪空き≫
しかも最大の四スロットだ。武器の空きスロットはその数だけスキルを武器や防具に付与できる。
スキルを付与できるのはドワーフの専用ジョブ『鍛冶師』だけだが、持っておいて損はない。空きスロット付きの武具が手に入る機会は逃すべきじゃない。
「・・・・・・いいでしょう。引き受けます」
たっぷりと悩むふりをしてから承諾する。
武器一つ持たない俺ならもっと食いついてもおかしくないが、クラリスさんの前だ。かっこつけたっていいだろう。いや、かっこつけたい。
「本当ですか! ありがとうございますハヤトさん」
「ありがとうございます。それではこれを」
報酬は前払いだったらしい。ダマスカス鋼の剣を受け取って腰に佩いた。
キャラクター再設定から『詠唱省略』をはずして『探索者』の『パーティー編成』でクラリスさんをパーティに誘う。
「よろしくお願いしますね、ハヤトさん」
「それでは今日一日彼女をよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
◆
「一階層からですか? 一階層はコボルトで、あまり稼げないと聞きましたが」
「クラリスさんと迷宮に入るのは初めてだから、お互いにどれくらい動けるのか確かめておくべきでしょう」
コボルトが稼げないことは周知の事実。そしてパーティ毎の事情によるものの、今日の報酬は当分だ。ならばできるだけ稼げる階層に行くのは当然だろう。しかし、肝心のクラリスさんの『村人』はレベル3だ。心もとない。彼女を言いくるめる言い訳が必要だ。
「それに俺は報酬のダマスカス鋼の剣で戦うのは初めてです。ご存じのように昨日まで無手だったので」
ボーナス武器のアスカロンより弱い武器なんて怖くて使えねぇ。というのが本音です。
何度かコボルトと戦っておきたい。
「それもそうでしたね。わかりました。今日はハヤトさんの指示に従います」
納得してもらえたところで、早速コボルトが正面からやってきた。
「行きます」
今の俺はキャラクター再設定でアスカロンを出していない分、余ったすべてのポイントを『腕力上昇』に振り分けている。腕力が上がれば攻撃力が増す。これで多少ダマスカス鋼の剣の攻撃力の低さはカバーできるはず。
アスカロンやエクスカリバーが規格外に強力なだけでダマスカス鋼の剣は決して弱くないことを明記しておく。
だって結局、最弱のコボルトさんは一撃だったから。
「ハヤトさんすっごく強いですね! 魔物を一撃で倒すなんて」
クラリスさんが笑顔でほめてくれる。かわいい。
「クラリスさん、褒めてくれるのはうれしいけど相手はコボルトだ。これくらいはできないと一人で迷宮に入ってないよ」
「そういえばコボルトはすごく弱くて、出現する階層はみんなが避けると聞きました。なるほど、新しい武器を試すのにうってつけということですね」
弱いというか、ドロップ品にうまみがないから避けるという意味なんだけど。
低いレベルといいクラリスさんは迷宮に入ったことがない? 知識もなさそうだし、箱入り娘というやつだろうか。
「さあ、次はクラリスさんが戦ってくれ。どの程度動けるのか見させてもらうよ」
「わかりました」
ここでクラリスさんは腰に佩いた剣を鞘から抜いた。
先に戦うと言ったのは俺だけど、ここまで迷宮の中で剣を鞘に入れたまま。心構えもできてない。
向いてないのかなぁ、この子。迷宮に挑むの。
「はあ!」
掛け声と共に駆け出す。上段からの振り下ろしがコボルトの脳天を直撃する。コボルトはまだ倒れない。
「たあ!」
横なぎ、突き、再び振り下ろし。四回目の攻撃でコボルトは煙となって消えた。
「やりました!」
くぅ。かわいい。力いっぱい喜ぶ姿がまぶしい。
「お疲れ様」
思っていたよりいい動きだ。騎士団で鍛えられているらしい。
これだけ動けるなら二階層へ行ってコラーゲンコーラル相手でも戦えるだろう。
「クラリスさんが十分戦えることはわかった。それじゃあボスを倒して二階層に行こうか」
「ボス戦、ですか? あの、ボスとは戦う必要がないと教わりましたが」
「ああ、ボスと戦わないパーティもいると話に聞いたことはある。けど、それはひとそれぞれだ。少なくとも俺はボスと戦うよ」
そういえばそんな話もあった。一生ボスと戦わない人もいるとか。
ボス部屋は撤退ができないからその考えは間違ってない。身の安全を考えればむしろ正しい選択とすら言える。俺は積極的に戦うけど。
「俺がボスに挑む理由だけど、ボスは階層の魔物よりもたくさん魔力をくれるから魔結晶に魔力が溜まりやすいからだ。そして、ジョブが育つのも早い。安定して倒せる準備ができているなら、むしろ戦うべきだ」
「・・・・・・驚きました。わたしは、ボスを倒すのは騎士団に任せておけばいいと教わりました。ハヤトさんの様に積極的にボスと戦う方の話は聞いたことがありません」
俺や主人公ミチオの様にボーナス武器やマルチジョブの恩恵がない人が、ボスに挑むのは覚悟がいるだろうな。原作でもボス相手に敗れて主人公ミチオに装備品を献上したパーティがいた。
俺も『英雄』のジョブを得られなかったり、仲間(奴隷)がいなかったらボスには尻込みして挑まないかもしれない。ただし、コボルトケンプファーはのぞく、と。弱いし。
「コボルトのボスはコボルトケンプファー。ボスになってもそれほど強くないから、試しに戦ってごらん。長引きそうなら俺が倒すよ」
「が、頑張ります」
歩きなれた道を進んでボス部屋に向かう。ボス部屋の前には待機部屋がある。先にボスと戦っているパーティがいる場合、パーティがボスを倒すか全滅するまで扉は開かない。しかしここはコボルトしか出ない階層。待ち時間はない。人気がないから。
「クラリスさん、お先にどうぞ。危険だと判断したら助けに入ります」
「ありがとうございます。やってみます」
意気込んでいるクラリスさんにはわるいけど、危険はないよ。
クラリスさんの戦いには特筆すべき点は特にない。しいて言えば、張り合いのなさに困惑している顔が非常にかわいかった。可愛かった!
◆
「迷宮は非常に危険な場所だからお前は入ってはいけないよと、よく言い聞かされていたのですが」
「その通り。迷宮は危険だよ。だけど、どういうわけかコボルトは例外的に弱いんだよ」
上の階層は当然として、低い階層でも拘束スキルをもつグリーンキャタピラーや、毒攻撃をしてくるニートアントやスパイスパイダーは難敵だ。
特にニートアントは通常攻撃でも毒になるらしい。
やはり仲間(奴隷)を迎えることは必須。そのためにも、コボルトケンプファーさんにはお世話になります。
「お、来た来た」
「待ちくたびれちまったぜ」
ボス部屋を抜けて二階層に来た俺たちを五人の男たちが待ち構えていた。全員、盗賊だ。
鑑定
盗賊Lv17
鋼鉄の剣 硬革の帽子 硬革の鎧
硬革のグローブ 硬革の靴
盗賊Lv3
鋼鉄の剣 硬革の帽子 硬革の鎧
硬革のグローブ 硬革の靴
兇賊Lv1
ダマスカス鋼の剣 竜革の帽子
竜革の鎧 竜革のグローブ 竜革の靴
盗賊Lv40
エストック 鋼鉄の盾 硬革の帽子
硬革の鎧 硬革のグローブ 硬革の靴
盗賊Lv20
鋼鉄の剣 硬革の帽子 硬革の鎧
硬革のグローブ 硬革の靴
まてまてまて、なんだこいつら。装備が整いすぎている。しかも『兇賊』? 『盗賊』の上位ジョブだ。レベルが1なのは転職したばかりだからだろう。
俺は鑑定で相手が盗賊だとわかる。しかし、クラリスさんはわからない。無防備に前に出ようとした彼女を腕を差し込んでとどめる。
「問答はなしだ。盗賊が何の用だ」
「と、盗賊!?」
「ほう。俺も有名になったもんだ。顔を見られただけでばれてしまうとはな」
いえ、貴方のことは知りません。鑑定の力です。
今のうちにキャラクター再設定でポイントを振りなおす。特にジョブだ。ファーストジョブを『探索者』から『村人』に変更して、セカンドジョブを『探索者』だ。
昨日ボスを周回したおかげで『探索者』のレベルは11。相手のレベルと比べると心もとないが、ないよりはましだ。ボーナス呪文と『MP回復速度二十倍』。このセットで行けるか。
「俺たちの目的はそっちのお嬢さんだが、巻き込まれてかわいそうにな。お前にも死んでもらう」
「そうか。なら殺されても文句はないな」
ボーナス呪文『エクストリームドロップデッド』。レベル1とレベル99は死ぬ。
『兇賊』の男が膝から崩れ落ちる。盗賊たちに動揺が走る。間髪を容れずにボーナス呪文『等価交換』。今度は俺が膝から崩れ落ちる。俺のMPががっつりと削られて、それと引き換えに一番レベルの低い『盗賊』の男が爆散する。
「な、なんだ。どうなってる!?」
「ハヤトさんしっかり!」
あ、ああぁ。これがMP枯渇。きつい、つらい。けど、なんとか思考できる。『MP回復速度二十倍』の恩恵が俺に元気をくれる。この混乱に乗じて残りを倒す。ジョブ設定。まだ駄目か。なら、エクスカリバーだ。
『MP回復速度二十倍』を『ボーナス武器六』に変更。取り出したエクスカリバーを手に正面から突っ込む。
「おお!」
「ぐはぁ!」
技も何もない。みっともない。だけど、エクスカリバーには『MP吸収』のスキルが付いている。意識がはっきりしてきた。そして、手に入れたぞ!
ファーストジョブを『英雄』に変更。
心の中で叫ぶ『オーバーホエルミング』!
ゆっくりになった世界で、残った盗賊を一人ずつ切り倒す。
エクスカリバーをポイントの移動で出し入れして盗賊の男から引き抜く手間を省略する。ようやく剣を構えた男を置き去りにして、すれ違い様に胴を横なぎにする。
最後の一人。完全に恐慌状態だ。一番強い男が訳も分からず息絶え、仲間が唐突に爆散した。そして俺は次々に仲間を下した。無理もない。
「な、なんだってんだよ。どうなってんだよ。女を殺すだけの簡単な仕事じゃなかったのかよ! ちくしょう!」
『オーバーホエルミング』。盗賊の渾身の一振りをかわす。無防備になった胴に一振り。
「ふぅ。なんとかなったな」
盗賊は全滅。俺は念願の『英雄』を獲得した。
ファーストジョブを『探索者』に、セカンドジョブを『英雄』。エクスカリバーを消して、一応『MP回復速度二十倍』をつけておく。
「クラリスさん手伝ってください。左手首の切り取りと、こいつらの装備の回収を」
「・・・・・・は、はい!」
目の前で起こったことをまだ呑み込めていないようだ。クラリスさんにはわるいけど、手早く回収したい。どれほど時間がかかるかわからないが、放っておくと死体と装備が迷宮に飲まれてしまう。装備は宝箱の中身として排出されるらしいが、それはもったいない。この場ですべてもらう。
「は、ハヤトさん。彼らの装備はこれで全部です」
「ありがとう。あとは切り取った左手がインテリジェンスカードを吐き出すのを待とう。残った左手は迷宮が消化してくれる。その間に・・・・・・やることがある」
「やること、ですか?」
「クラリスさん、悪いけどここで待っててくれるか? 念のため外に盗賊の仲間がいないか確認してくる」
「っ! そうですね。彼らは私を狙っていました。見張りや失敗した時のために後詰めがいるかもしれません」
「・・・・・・そうですね」
後詰め。俺もいると思う。
『盗賊』がどうやって二階層で待ち伏せしていたのか。迷宮はボス部屋を突破すると次の階層に進むことができる。そして突破した階層にいつでも入ることができる。しかし、迷宮に入るとき階層を選べるのは『探索者』と『冒険者』だけ。そして、アイツらの中にそのジョブを持った奴は居なかった。つまり――。
「お前もグルってことだ。ダミアン」
「っ!」
背後からエクスカリバーを、エルフの男に突きつけた。
探索者
条件 迷宮に入る
効果 体力小上昇
スキル パーティ編成 ダンジョンウォーク アイテムボックス操作(Lv)