誤字報告に感謝します
普通に迷宮から外に出るとダミアンに奇襲を仕掛ける事ができない。可能性は低いが、ダミアンが迷宮から出てくる者を見境なく攻撃するつもりだったら、俺は奴に無防備に首を差し出すことになる。つまり、こっちが奇襲される結果になる。だから、俺は迷宮から外に移動することができるボーナス呪文の『ワープ』を使った。
迷宮から離れた森の中にこっそりと移動して、息を殺して、背後からダミアンにエクスカリバーを突き付けた。
「迷宮の中で盗賊に襲われた。お前もグルだな、ダミアン」
「っ!」
エクスカリバーの刃が背後から顔の横を通って眼前に迫る。剣にダミアンの横顔が映る。
案の定、迷宮の出口を見張っていたらしい。ダミアンが驚いているのがわかる。
「・・・・・・目を離したつもりはなかったが」
「現実を見ろ。自分の不手際をなすりつけられても困るな」
嘘です。『ワープ』というズルをしました。迷宮から直接外に飛べる優れた移動魔法です。何なら移動魔法を阻害する遮蔽セメントも無視できるので暗殺し放題、窃盗し放題の無法魔法です。
「盗賊が5人、迷宮の中にいた。お前とパーティを組んでいたな? パーティーメンバーがパーティから外れるとパーティを組んでいる相手にそれが伝わる。だからお前は今、迷宮の外にいるにもかかわらず剣を抜いている。盗賊が死んだ事が分かったから、迷宮を出てきた俺とクラリスさんを襲うためだ。それに連中、盗賊にしてはあまりにも装備が整いすぎた。お前が手配した、そうだな? あとクラリスの装備が貧弱なのもお前の仕業だ。彼女はお前のことを随分と信用しているようだ。だから適当なことを言って装備の質を落とさせた。殺しやすいように。ああ、言い訳はするだけ無駄だ。俺はもうお前を敵だと決めつけた。たとえこれが俺の勘違いで、お前がクラリスの仲間でも、お前が白でも、俺が殺す」
「・・・・・・そうか。なら教えておいてやろう。お前の言ったことはすべて正しいとな!」
「っ!」
大胆にもダミアンは眼前に迫る俺のエクスカリバーを完全に無視する行動を取る。俺がそれを見逃すはずもなくエクスカリバーの一撃が首筋をなでる。そして――
「ばかなっ」
――そして、剣を構えるよりも早く、反撃よりも早く、俺の剣がダミアンの心臓を貫いた。
「俺の隙を上手く突いたつもりだったのだろうが、無駄だ。はじめから、お前が身代わりのミサンガを付けていることは知っていた。だからこうして、しっかりと止めを刺すつもりだったよ」
最初の一撃。エクスカリバーが首筋をなでたのに血が一滴もこぼれ出なかったのは、『身代わりのミサンガ』がダメージを肩代わりしてくれたからだ。ダミアンの足元に切れたミサンガが落ちている。
『身代わりのミサンガ』は一度きりの使い捨てだが、致命傷を肩代わりしてくれる優秀な装備品だ。袖の中や裾の中のように、目で見えない場所に装備することもできる。だが、俺にはそんな小細工は通じない。鑑定が教えてくれたよ。
ダミアンが『身代わりのミサンガ』を装備していることも、首筋をなでた時に壊れたことも、見るだけでわかる。
「もうしわけ、ありません、アベルさ、ま」
事切れたダミアンの体重がエクスカリバーを通じて俺の体に伝わる。
「・・・・・・人の体って本当に重いんだな」
キャラクター再設定を操作してエクスカリバーを消す。支えを失ったダミアンの体が地面に倒れこんだ。
エクスカリバーが切り裂いてしまった胴装備はもう使い物にならない。鋼鉄の剣だけもらっていこう。遺体は『ワープ』を使って迷宮の一階層の奥の小部屋に捨てた。彼はクラリスから信用されていたようだし、盗賊に殺されたことにしよう。
「クラリスさん、今戻った」
「ハヤトさんおかえりなさい」
『探索者』のスキル『ダンジョンウォーク』を使って、一階層から二階層にいるクラリスさんの下に戻る。
盗賊の遺体の消化は驚くほど早かった。回収のために手首を切り取っている最中に消えてしまった。
インテリジェンスカードは俺がダミアンを始末して帰ってくる間に排出されたらしい。クラリスさんは俺が切り取った手首ではなく、カードを持っていた。
「ひとまず外に盗賊は居ませんでした。ただ、迷宮の前にいたエルフの男性が見当たらない。もしかしたら、盗賊にやられてしまったのかも」
「そんな、・・・・・・ダミアンが、まさか」
ショックが大きいようだ。それだけダミアンはクラリスに信用されていたのか。
最後の一言から考えても、あいつはスパイか裏切者だけど、言う必要はないな。
「迷宮を出ましょう。騎士団の詰め所に行けばクラリスさんは保護してもらえるのでは?」
「それは、そうですね。騎士団には知り合いもいます。まずは彼らと合流しましょう」
それから迷宮を出た俺とクラリスさんは、彼女の案内で騎士団の詰め所に向かった。
◆
「誰か、誰かいませんか!」
ドンドンと慌ただしく詰所の扉をたたく。朝早い時間といってもここは騎士団の詰め所だろう。誰も扉の前にいないのか。
「誰だ! 騒々し――クラリス様!?」
さすがに詰所の中には人がいた。
扉を叩いたのがクラリスさんだとわかったとき、顔を出した騎士はすごく驚いていた。
騎士団の詰め所に駆け込んだクラリスさんは騎士団に保護された。彼女を守った俺も感謝の言葉をもらった。しかし、素直に称賛の声をかけてくれたのはほんの一部。ほとんどは俺を無視するか、倒した盗賊が大したことなかったのだと、盗賊を下げる発言をしていた。
全く以て気分が悪い。思わずため息がこぼれる。
「はあ。これが盗賊のインテリジェンスカードだ。懸賞金を調べてくれ」
クラリスさんには悪いけど、賞金をもらってさっさと退散しよう。ここはあまりに居心地がわるい。
「左手をだせ。滔々流るる霊の意思、脈々息づく知の調べ、インテリジェンスカード、オープン。・・・・・・ふん、自由民か」
人の個人情報を見すぎだ。プライベート保護はないのかこの世界には。
由良隼人 男 18歳 探索者 自由民
インテリジェンスカードには俺の情報が書かれている。間違いなく自由民だ。ボーナススキルの鑑定だと、この自由民の項目は見れないんだよな。ここで確認できたのは助かる。
「貴様のような人間族程度に倒される盗賊に賞金が懸かっているとは思えんがな」
「御託はいい。さっさとしろ」
「ちっ」
本当にエルフの態度がわるい。クラリスさんほど愛想よくしろとは言わないが、取り繕うくらいはできないのか。お前ら騎士団だろう。街にはエルフ以外の住民も少しは居たぞ。
態度の悪いエルフが確認のために奥の部屋に引っ込んでから少しの間をおいて、別のエルフが奥の部屋から賞金が入っているだろう袋をもって出てきた。
「確認がしたい。本当に貴様が盗賊を倒したのか」
「俺の話が信じられないならクラリスさんに話を聞けばいいだろう。端から信じる気のない相手に何度も同じ話をする気はない」
「・・・・・・いいだろう、持っていけ」
もう少し噛みついてくるかと思ったけど、意外にも素直に賞金が手元に来た。
「確かに受け取った。帰る前にクラリスさんに挨拶させてもらえるか?」
「殊勝な心掛けだな。だが、クラリス様はすでに城に向かって出立した。一応私の方で貴様が別れの挨拶を望んでいたことは伝えておこう」
「そうか。よろしくたのむ」
上から目線だが、横柄な態度のエルフと比べれば百倍ましな騎士から賞金を受け取り、詰め所を後にした。クラリスさんに会えなかったのは悲しいが、貴族の娘が盗賊に命を狙われたんだ。仕方ない。
さっさと宿屋に戻ろう。アイテムボックスに入り切ってない装備品が邪魔だ。
「ダマスカス鋼の剣が二本と竜革の防具一式、盾と片手剣、硬革防具が4セット。すごい。一気に装備が整った」
ベッドに腰かけてアイテムボックスの中にある装備品を検品する。
本来はパーティを組んでいたクラリスさんと等分にするべきなんだろうが、本人は帰っちゃったし、一旦俺のものにしてもかまわないだろう。
鑑定
由良隼人 男 18歳
探索者Lv11 英雄Lv1 村人Lv3
装備 エストック 鋼鉄の盾 竜革の帽子 竜革の鎧 竜革のグローブ 竜革の靴
片手剣のエストックと両手剣のダマスカス鋼の剣。同等の片手剣と両手剣ならたぶん両手剣の方が攻撃力が高い。師匠も両手で振ったほうが剣は強いって言ってたし。だけど片手剣のエストックなら盾が持てる。攻撃力と防御力はトレードオフの関係だからな。命大事に。
そんなことより。
とうとう『英雄』のジョブを手に入れた。これでようやく『村人』のレベル上げができる。『村人』のレベル5が解放条件のジョブは多いからな。ようやくマルチジョブの本領発揮だ。
午後からは一気にジョブを解放していこう。
そして、賞金だ。
ベッドの上に広げた金貨の数は四十枚。その額、四十万ナールだ。やったぜ! 装備が整ったこともあるし、今すぐ金策をする必要はなくなった。良きかな。
さあ、迷宮に行こう!
◆
キャラクター再設定から『必要経験値十分の一』と『獲得経験値十倍』をセット。『サードジョブ』で三つ目に『村人』をセットする。余ったポイントを『腕力上昇』へ。
これでコボルトを殴り倒せば。
「一匹倒せば百倍の経験値を得られる」
マウントを取って拳で何度も殴る。なんだろう、『僧侶』の取得条件を満たすためとはいえ、ほんの少し心が痛むような。あ、煙になった。
ジョブ設定から持っているジョブを確認する。目論見通り『戦士』『剣士』『魔法使い』『商人』『僧侶』と一気に五つのジョブを獲得した。
『サードジョブ』を『フォースジョブ』にする。三つ目に『魔法使い』を、四つ目に『戦士』をセット。これでボスを周回する。『探索者』『英雄』『魔法使い』の三つは固定にして、四つ目をローテーションして平均的にジョブのレベル上げがしたい。
ボス部屋に入る。煙が集まってコボルトケンプファーが現れると、間髪容れずに魔法を撃ち込む。
「ファイヤーボール!」
『詠唱省略』のおかげで詠唱の必要性は全くない。だけど、叫びたい。この心が叫んでる。いや、せっかく異世界に来たんだ。『詠唱省略』のスキルを『詠唱短縮』に落として魔法名を叫ぶスタイルでいくか。キャラクター再設定をいじる。
エストックを構えて斬りかかり、魔法で追撃する。今の気分は魔法戦士だ。
「ふぅ。ボーナス武器の恩恵を改めて感じるな」
やっぱりコボルトケンプファーはボコボコにできたけど、ちょっとつかれた。ボーナス武器が強すぎる問題。
「いや、まて。MPが減っているんだ。まだ英雄も魔法使いもレベルが低い。ガンガン魔法やスキルを使うのはまだだめか」
今はエクスカリバーを使えないから、代わりに『MP回復速度十倍』をセットしよう。
昨日のようにボスを駆け抜けるのは避けて、MPと相談しながらゆったりと周回しよう。なにせ一匹で百倍の経験値だ。ゆったりでもおつりがくる。
そうしてジョブのレベルを上げていく。その日、迷宮を出て今が夕方だと気が付いたとき、ボスを周回した俺の『探索者』はレベル18、『英雄』はレベル15、『魔法使い』はレベル17になっていた。
「こいつだ、出てきたぞ」
「間違いないか」
「間違いありません」
迷宮の外には騎士団と思われる一団が待ち構えていた。どういうわけか、迷宮の前を十人で扇になるように囲んでいる。その後ろにはいい装備を付けた偉そうなのもいるな。
鑑定
アベル・ブラック・アルベリッヒ ♂ 21歳
騎士Lv34
装備 オリハルコンの剣 オリハルコンの兜 オリハルコンの鎧 オリハルコンのガントレット オリハルコンのデミグリーブ 身代わりのミサンガ
おいおいまじかよ。全身オリハルコン装備とは恐れ入ったぞ。だけどそのレベルでオリハルコン系の武具が装備できるのか? 原作でもはっきりとした区切りは判明してないけど、レベルが低かったり下位のジョブだと、オリハルコンの様な強力な武器は装備どころか持ち上げるのも苦労するはずだ。あと、単純に金属系装備は総じて重い。
「そこの人間族の男。そなたが兇賊のオーギュストを倒したそうだな。真か?」
「オーギュストという名前に心当たりはないな。今日の朝に、四人分の盗賊のインテリジェンスカードを騎士団の詰め所に持ち込んだのはそなたか。そういう意味で聞いているならそれは俺で間違いない」
盗賊の名前なんて覚えてないぞ。鑑定で名前も見えたはずだが、『英雄』の取得条件としか見ていなかったからな。
そんなことよりも、これほどの人数を引き連れて俺にいったい何の用だ。
「ふむ。朝は妹が世話になったそうだな」
「妹?」
鑑定
アベル・ブラック・アルベリッヒ ♂ 21歳
ああ! 確かに名前の後ろがクラリスさんと一緒だ。つまりこいつは律義にも礼を伝えに来たのか。妹を助けてくれてありがとうと。重装備だったり、たくさん人を連れているのは盗賊対策ということか。仲間が残っていると考えているのか。
話から察するに俺が倒した『兇賊』の男、オーギュストは有名人らしい。ならでかい盗賊のグループを率いていたとか。そんなところか。
「クラリスのことだ。そなたには名乗ったと聞いている」
「本当に名前を聞いただけで、所属や苗字は聞いていない」
「であるか」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
なんだ。礼を言いに来たんじゃないのか? まあクラリスさんは例外にしても、エルフは人間族を見下しているからプライドが許さないとか。そんなところか。でも、だったらここまで来ないよな。
「そなたには容疑がかかっておる。我が妹クラリス殺害未遂の容疑だ」
そんな馬鹿な。
突然何を言ってるんだこいつは。俺にその気があったなら騎士団の詰所に連れて行くわけないだろう。迷宮でさっさと殺してる。
「・・・・・・本気で言っているのか」
「本気だとも。そなたにはオーギュストが率いる盗賊団と通じてクラリスを殺そうとした疑いがある。余の臣下であるダミアンの失踪も貴様が原因であろう?」
それは正解。俺がダミアンを殺した。
そんな事より。
ダミアンの単独犯ではなく、こいつが黒幕だったのか? 盗賊の装備が妙に整っていた件に、ありもしない罪を俺にかぶせようとしている件。もしかして家督争いとかかな。次の当主は俺だってか。かわいそうなクラリスさん。こんなのが兄とか、同情するよ。
「それで、俺を捕らえに来たと」
「その通りだ。潔く罪を認めるのであれば、命まではとらん。奴隷落ちで済ませてやろう」
「・・・・・・」
「さあ、どうする? この場で認めるのであれば、クラリスには黙っておいてやろう。貴様は曲がりなりにも妹の英雄だからな」
なんだろうな。
俺は、エッチでスケベなハーレムを求めてこの世界に来たんだ。それが、なんで貴族にいちゃもんつけられてるんだ。『英雄』は手に入れたし、賞金が山ほどある、魔結晶の稼ぎもいい。主人公ミチオのようにパーティメンバーの五人に絞らず、たくさん奴隷を購入して、キャッキャウフフな日々を夢見ていたのに。
本当に、なんなんだ。
イライラする。
「おい、私はひまじゃない。罪を認めないのなら、この場で切り捨て――」
「――決闘を申し込む」
「・・・・・・なんだと?」
「決闘を申し込むと言った。俺は自由民だ。決闘を申し込む権利がある。俺が勝ったら無罪放免。そっちが勝ったら俺をすきにすればいい」
「は、はははっ! これは傑作だな! 自ら罪を認めるとは!」
認めてねぇよ。耳が聞こえてないのか、頭がお花畑なのか。
「もはや撤回はできんぞ。この場にいる全員が聞いたからな! よろしい。そなたの言う通り決闘だ。盗賊団の頭を公開処刑する絶好の機会。盛大に場を整えなければな!」
わずかな間に盗賊団の頭になってしまった。こいつ言いたい放題だな。
「二日後だ。二日後に騎士団の詰め所にこい。城に会場を用意し、そこで決闘を執り行う。逃げても無駄だぞ? そうすればそなたは帝国中のお尋ね者だ! はーはっはっ!」
高笑いしたアベルはそのまま騎士団を連れて帰っていった。姿が見えなくなるまでバカ笑いが聞こえていた。
「はぁ。レベル上げるか」
四回ほどコボルトケンプファーをボコボコにしてから迷宮の外に出ると、すっかりあたりは暗くなっていた。カンテラねぇよ。
仕方なくボーナス呪文の『ワープ』を使って宿屋の壁に跳んだ。
◆
「兄ちゃん聞いたぞ、伯爵様と決闘するらしいな」
翌朝。カギを返しに来た俺に、宿屋の亭主が決闘の話題を振ってきた。既に広まっているらしい。いや、ここが宿屋だから特別に耳が早いのかも。
「耳が早いな。誰かおしゃべり好きでも泊まっているのか?」
「いいや。伯爵様の使いがきてわざわざ宣伝して回っている。「明朝、盗賊団の頭と決闘を行う。城を解放するので観戦希望者は登城するように」とさ。一応、インテリジェンスカードを確認してもいいか?」
「・・・・・・はぁ。もちろんだ」
左手をさしだす。亭主が呪文を唱えると手の甲からインテリジェンスカードが出てくる。じっくりと観察されるが、俺のジョブは『探索者』だ。『盗賊』じゃない。
「――。ふむ。昨日確認した時と変わらずジョブは探索者だな」
「当然だ。決闘に勝った暁には噂の撤回と賠償金を支払わせてやる」
しかし、既に口頭で決闘の要求をしている。あとから決闘の報酬を変えられるだろうか。明日は念のため抗議しておこう。今決めた。
「まあ、盗賊のジョブじゃない兄ちゃんは客だ。朝食食べていくかい?」
「タダで?」
「九十ナールだ」
「だろうな。払うよ」
「毎度あり」
一階に併設された食堂でパンとスープのセットを食べる。
あと一日あればもう少しジョブを鍛えられるだろう。それから防御スキルの使える『錬金術師』のジョブを取得しておきたい。たしか、化学実験が条件だったはずだ。
コボルトのドロップ品はコボルトソルト、塩だ。初級火魔法で炎の壁を出して、炎に放り込めば炎色反応でジョブが取得できるはず。ダメなら主人公ミチオの真似をして小さな鍋に「シェルパウダー」と「コイチの実のふすま」を混ぜて石鹸を作ろう。作った石鹸は・・・・・・宿の亭主にあげるか。じゃまだし。
「はあ。気が重い」
決闘は『レベル補正無視』と『防御力無視』のスキルが付いているエクスカリバーのおかげで、どんな相手が出てきても勝ち目がある。『英雄』の『オーバーホエルミング』でダメ押しだ。
それでもダメなときは『等価交換』で相手を爆破するかな。今なら『英雄』と『魔法使い』があるからMPには余裕がある。
決闘をクラリスさんが観戦していたら、盗賊の一件と含めて二度目の爆破だから少し怪しまれるかもしれない。だけど負けるよりはいいだろう。
「行くか、迷宮。ごちそうさまでした」
食べ終えた食器を返却カウンターに返す。
迷宮に入ると早速コボルトを倒してコボルトソルトを拾う。
「ファイヤーウォール」
そしてこのコボルトソルトを剣で砕いて放り込む。わかりにくいけど、火の色が黄色に変わっているはず。
ジョブ設定からジョブを確認する。
「お! 錬金術師がある。余計な出費がなくなってよかった」
現状、取得条件が達成できるジョブはこれで全部か。一応『農夫』と『薬草採取士』という条件自体は簡単なジョブがあるけど、今はいいだろう。近くに畑はないし、ウドウッドがボスの階層も分からないしな。
『ダンジョンウォーク』を使ってボス部屋に近い小部屋に移動する。待機部屋に移動して中を確認すると、今日も人はいない。キャラクター再設定の構成を念のため確認しておく。百倍経験値セットと魔法戦闘用に『MP回復速度十倍』だ。二十倍にするにはポイントが足りないし、できるようになった時にはMPよりも獲得経験値の方を二十倍にするだろう。
ボス部屋に入るといつものコボルトケンプファーが現れる。毎回煙が集まって姿を形成するコボルトケンプファーはすべて別個体で間違いないが、心なしかおびえているように見える。
「ファイヤーボール!」
火の玉がコボルトケンプファーを燃え上がらせる。すかさずエストックで火の中の影を突く。魔法と剣の二撃でコボルトケンプファーはそのまま煙となった。
「よし! これなら昨日よりも早く周回できる」
だけど、ジョブのレベルアップが目的ならそろそろ上の階層に行くべきだろうか。
当然、上の階に行くほど魔物は強力になるし、もらえる経験値も増える。しかし、強くなった分周回に時間がかかる。
金策のために魔結晶に魔力をためるなら考えるまでもなく一階層なのに。悩む。
「・・・・・・上にいくか」
三階層までは厄介な魔物はいない。いざという時は『オーバーホエルミング』でみっともなく逃げよう。
ボス部屋を抜けて二階層にくる。いつもは直ぐ一階層に戻るから、こうしてきちんと二階層のフロアを見るのは初めてだな。少し新鮮な気持ちになる。
通路を進めば早速魔物だ。
鑑定
コボルトLv2
コボルトはファイヤーボールでかたづける。二階層の魔物はコラーゲンコーラルだ。それにこの階層からは魔物が最大二体出てくる。できればコボルトとの組み合わせがいいな。コラーゲンコーラルのみの組み合わせは避けたい。
鑑定
コラーゲンコーラルLv2
コラーゲンコーラルLv2
避けたかったのに、丸い岩石の頭を抱えた魔物がやってきた。見事にコラーゲンコーラルのアベックだ。
――エクスカリバーを出すか。エクスカリバーなら二体とも一撃で倒せる。
いや、エクスカリバーはいつも一緒じゃない。余裕のある時こそ俺が戦えるか試すべきだ。
「・・・・・・ファイヤーストーム!」
攻撃開始。全体攻撃魔法で両方を攻め立てる。二体同時に相手にするなんて俺にはできない。だから二体が直線になるように位置取りをする。コラーゲンコーラルは魔法などの間接攻撃技を持たない。この角度なら相手をするのは一体だけで、二体目は一体目が邪魔で俺に攻撃できない。
「ファイヤーストーム!」
魔法効果が終了するのを待って二発目を放つ。燃え盛るコラーゲンコーラルに剣で攻撃。コラーゲンコーラルに顔はないが、もがき苦しんでいるはず。
反撃は盾で受け流す。
三回斬りつけると正面の一体目が倒れる。
「ファイヤーボール!」
2体目は魔法攻撃で倒れた。
危なげなく勝つことができた。ボス周回の成果が出てるな。レベルだけならもっと上の階層で戦っててもおかしくないくらい高いし。
「安全マージンを取りすぎたかな」
この世界の人が1年かけて一階層を進むとして、俺は百倍経験値セットをしてるから百分の一でいい。この世界は1年が三百六十日と数日。約4日で1年分になる。四日ごとに一階層登っていける計算か。だけど、四階層から三体、八階層から四体だ。レベル以前に一人じゃ無理だな。
魔物を蹴散らしながらボス部屋を探して回る。お腹がすいた頃にボス部屋にたどり着いた。
鑑定
コラージュコーラルLv2
コラーゲンコーラルのボスはコラージュコーラル。外見に大きな違いはなくコラーゲンコーラルをそのまま大きくした姿をしている。
岩石のヘッドバットなんて受けたらタダじゃ済まなさそうだな。だけど、俺はコラージュコーラルよりもレベルが高い。レベルが下から上への攻撃はレベル補正でダメージが軽減されるはず。
「オーバーホエルミング、ファイヤーボール」
『英雄』のスキル『オーバーホエルミング』には高速移動のほかに攻撃力上昇効果がある。このやり方なら魔法の威力を上げながら素早く追撃もできる。今のレベルならメンタルに影響はなさそうだけど、MP消費が大きいから乱発は控えるかな。
「はあ!」
コラージュコーラルが燃えている間にバシバシ攻撃を叩き込む。『オーバーホエルミング』の効果が切れて、動きが鈍くなったタイミングで岩石が頭上から降ってきた。俺はなんとか盾で受け止めたが、あまりの威力に体勢を崩して尻もちをついた。
「くそっ。ファイヤーボール!」
魔法は構えなくても放つことができる。だからとっさに使ったが悪手だった。コラージュコーラルが魔法を気にせず追撃をしてきた。盾で受け止めるが尻もちをついている俺が踏ん張れるはずもない。地面と岩石にサンドイッチにされた。
「いってぇ。お、オーバーホエルミング」
攻撃のためじゃなく、起き上がるためにスキルをつかうなんて、情けないことになった。ゴロゴロと高速で床を転がってから飛び起きる。距離を取ってから魔法を使った。三発目のファイヤーボールでもまだ倒れない。
「ジョブチェンジ、剣士セット。オーバーホエルミング! スラッシュ!」
ダブルスキルで攻め立てる。『オーバーホエルミング』の効果で威力が増している『スラッシュ』を『オーバーホエルミング』が切れるまで叩き込む。すると、ようやくコラージュコーラルが煙になった。
「はぁぁ。きつい。コボルトとのギャップがひどすぎる」
コラージュコーラルを倒すのに必要なのは魔法三発と『スラッシュ』四回。しかも『オーバーホエルミング』を重ねてだ。原作の描写から考えて、これがエクスカリバーなら四、五回で倒せるなんて、どれだけ強いんだボーナス武器六。
「ああ。レベルあがったな。でもこれならコボルトケンプファーのほうがよっぽど楽だった」
ピンチになったのは俺が攻撃をうまくさばけなかったからだし、二階層に進むのは早まったか。でも、装備のおかげでダメージはさほどなかった。やっぱり行けるのでは?
「待て待ておかしい。なんか気持ち悪いぞ」
とどめを刺すときにスキルを連続して使ったからMPが減った。だからネガティブになった。だけど、『MP回復速度十倍』をつけているから反省している間にメンタルが戻った。こんなところか。
冷静に考えると、いつまでもボス相手に肉薄していたのがダメだったな。ヒット&アウェイを心がけよう。『オーバーホエルミング』を使って「接近して攻撃する」じゃなくて、「すれ違いざまに攻撃する」ことにしよう。これなら攻撃と離脱を同時に行える。
「ジョブ変更、僧侶。手当て」
よし。僧侶の回復魔法でダメージも回復した。コラージュコーラルと再戦だ。
ボス部屋を出て三階層に入る。『ダンジョンウォーク』を使って二階層の小部屋に移動する。通路を移動して再びボス部屋に入った。
「オーバーホエルミング、ファイヤーボール」
スキル効果の乗った魔法がコラージュコーラルに命中。すかさず燃え上がるコラージュコーラルの横を駆け抜け、すれ違いざまに一撃を入れる。
よしよし。MP消費が多くなるが、このやり方なら攻撃をもらうことはない。
と思っていました。
「ぐへぇ!」
四回目のボス戦。MPをケチって『オーバーホエルミング』を使わなかったら、岩石のヘッドバットをくらってしまった。二回うまく倒せたことで調子に乗った。反省。
それから回復の時間をはさみつつ、MP消費を気にせずにガンガンスキルを使っていった。
そして夕方。日が完全に沈む前に宿屋に帰ってきた。一泊して次の日。
「・・・・・・まだ朝食も食べていない。待ってくれる気はあるのか?」
「残念だがそんな時間はない。貴様を連行するように指示を受けている」
「まだ、犯罪者ではないはずだが」
「まだ、容疑は晴れていないだろ」
一階に降りた俺のもとに、盗賊の賞金を持ってきてくれたあの時のエルフが現れた。曰く、連行に来たそうだ。随分と不機嫌そうに見える。
「・・・・・・いいだろう。負けた時の言い訳に取っておくよ。ご飯を食べなかったから力が入らなくて負けたってな」
「なるほど。たとえ決闘に勝利しても、相手の不調を狙ったなどと言われるのは不名誉なことだ」
漫画っぽい言い回しをしたらなぜか説得に成功してしまった。俺は背後から鋭い眼光を浴びながら朝食を食べた。
英 雄
条件 盗賊との闘いの時、村人のジョブでMVPの活躍をする
効果 HP中上昇 MP中上昇 腕力中上昇
体力中上昇 知力中上昇 精神中上昇
器用中上昇 敏捷中上昇
スキル オーバーホエルミング