条件 村人Lv5以上 且 モンスターを剣で倒す
効果 腕力小上昇 HP微上昇
スキル スラッシュ
俺を迎えに来たエルフのジョブは冒険者だった。彼のパーティに加わり『フィールドウォーク』に同行して伯爵様の城に跳んだ。
『フィールドウォーク』の黒い壁をくぐり抜けた先は広い部屋だった。壁に直接跳ばず、壁にいくつも掲げられた旗のひとつから出てきたということは、この部屋――城全体に移動魔法を遮る遮蔽セメントを使っているのだろう。原作でそんな話があった。
「こっちだ。既に準備はすんでいる」
「済んでいる? 宿で聞いた話だと、街の人を観客として集めていたはずだ。こんなに朝早くに人が集まるのか?」
「お前には客席から見える位置に用意した席で待機してもらう。その後、観客の着席具合に応じて決闘が始まる」
「開始時間が決まっていないのか?」
「できるだけ多くの観衆の前で処刑したいそうだ」
いろいろとおかしいだろう。百歩譲って公開決闘が権威を示すためだとしても、これほど大々的にやる必要があったのか。自分が負ける可能性を全く考えていない。どれだけの自信があるんだ?
装備はともかく、アベルのレベルは30くらいだった。昨日一日ボスを周回した俺の『探索者』のレベルは現在25。アベルとはエクスカリバーを使わなくても戦えるようになったと思う。あの全身オリハルコン装備が自信の源なのか。それとも代理人を立てるつもりか。
決闘を申し込んだ側は本人が戦わなければならない。しかし、決闘を申し込まれた側は好きに代理人を立てることができる。アベルは伯爵家の騎士団から人を出すつもりか。
・・・・・・まさかとは思うけど、何の根拠もなく俺を雑魚と侮っているわけじゃないだろうな。
「時間になれば審判から声がかかる。お前はここで待機していろ」
エルフの男に連れてこられたのは会場の一角、椅子が一つ置いてあるだけの場所だった。本当に椅子以外に何もない。テントも、目隠しの布も、テーブルもない。ぽつんと椅子がある。
本当になめられている。
「一つ言っておくことがある」
「聞こう」
「降参は認めない。みっともなく命乞いする姿をさらした後に殺してやる」
「・・・・・・今の言葉は聞かなかったことにしよう」
朝早くから待機して、試合開始の声がかかったのは結局、昼前のことだった。
◆
「領民の諸君、本日は次期アルマン伯爵、アベル殿の呼びかけに応じてもらえたこと、心より感謝する。これより決闘裁判を執り行う。被告、ハヤト・ユラには貴族に対する殺害未遂、殺害幇助、盗賊団所属の疑いがかけられている。これを被告は否定し、身の潔白を決闘で証明すると申し出た。これに対し原告、アベル・ブラック・アルベリッヒは決闘を受け入れ被告を断罪する事を宣言した。決闘は神聖なものであり、結末がどのような結果になろうとも、これに対し異議を申し立てることは、このドミニク公爵ジルベール・アンバー・ザルベルトに弓を引く行為であると知れ」
エルフの優男が高らかに宣言する。ドミニク公爵ジルベール・アンバー・ザルベルトの名のもとに公平な決闘であると。
とんでもない人が決闘の立会人になっている。公爵といえば皇帝の次に偉い立場の人だ。なんでそんな人がここにいるんだ。アベルが呼んだのか?
「それでは被告ハヤト・ユラ、前へ」
公爵に呼ばれて設営された舞台上に進み出る。見事に衆人環視の中で決闘を行うことになった。観客席に座るのは九割九分九厘エルフだ。ちらほらと人間族や狼人族など他種族が見えるが、意識して探さないと見落とせる程度しかいない。
「次に原告アベル・ブラック・アルベリッヒの代理人フランシス、前に」
鑑定
フランシス・コーラルレッド ♂ 50歳
聖騎士Lv66
装備 激情のアダマンタイト剣 頑強のアダマンタイト額金 龍硬革の鎧 剛力のアダマンタイトガントレット 鷹のアダマンタイトデミグリーブ 身代わりのミサンガ
やはりアベルは出てこなかった。代わりに出てきたのは髭を生やしたダンディな偉丈夫。エルフも髭が生えるんだとか、どうでもいいことに注目して現実逃避したいくらい、装備がガチガチだった。
心なしか公爵もあきれているように見える。
何者だこの爺さん。聖騎士のレベル66だと? これ絶対もう一つ上のジョブが解放されてるだろ。強すぎる。
鑑定
激情のアダマンタイト剣
スキル 攻撃力二倍
頑強のアダマンタイト額金
スキル 物理ダメージ削減
剛力のアダマンタイトガントレット
スキル 腕力二倍
鷹のアダマンタイトデミグリーブ
スキル 回避力二倍
スキル付きの装備が四つ。鎧には何もついてないけど、あれも最上位装備で間違いないだろう。胴体だけアダマンタイトじゃないのは何か理由があるんだろうか。
「驚いたよ。まさかフランシス殿がこのような場に出てくるとは思わなかった」
「ジルベール様こそ。賊との決闘で立会人をされるなど、何をお考えなのか、気になりますな」
当事者の俺を差し置いて何やら思惑が交錯しているらしい。推理はできなくても「こいつ胡散臭い」くらいは俺にだってわかる。この爺さんと公爵は腹の探り合いをしてるってな。でも、それは後にしてもらおうか。
「一つ言っておくと、この決闘に勝てばそのやたらと豪華そうな装備、もらうからな」
まさか会話に割り込まれると思わなかったのか、それとも普通は破棄する勝者の権利を試合前から宣言したことに驚いたのか、二人とも不思議そうな表情でこっちを見た。
「フランシス殿。そなたの言う賊はどうやら勝つつもりでいるようだ。そのような家宝を持ち出したのは失敗だったのでは?」
「いえいえ。私に勝つと宣言する御仁です。なおのこと家宝の手助けが必要でしょう」
どうやら俺が勝てると思っていることが面白かったらしい。いや、負けるつもりで決闘を持ち掛ける奴はいないだろう。
相手が想定外に強かったことは認めるけど。
「さて、決闘の前にインテリジェンスカードの確認を行う。本人であることとジョブの最終確認だ。被告がこの時に盗賊のジョブだった場合、決闘ではなく騎士団による粛清となる。今の内に申告することもできるが?」
「俺に後ろめたいことは全くない。確認してくれ」
「よかろう」
公爵による俺のインテリジェンスカードのチェックも済み、いよいよ決闘が始まる。
俺はあらかじめアイテムボックスに入れておいたエクスカリバーを取り出す。レベル差と装備の差からみてもエクスカリバーじゃないと太刀打ちできないのは明白だ。
キャラクター再設定も決闘用に変更だ。シックスジョブにして『探索者』『英雄』『魔法使い』『錬金術師』『剣士』『僧侶』をセット。念のため『等価交換』を使えるようにして『MP回復速度五倍』もセット。余ったポイントは『腕力上昇』でいいだろう。自分に『錬金術師』の『メッキ』をかけておく。
「ほう、そちらも決闘に向けてよい武器を用意したようだ。私が勝てばその剣をもらえるのかな?」
「こっちから献上してやるよ。感激のあまり命を下賜したくなるぞ」
「かまわないよ。私は引退した身だ。固定で家宝を増やせるのであれば十分だとも」
自分にこんな煽りスキルがあったとは知らなかった。爺さんにはあっさり流されてしまったが。
「これより決闘を執り行う。公平のために武器を構える猶予を与える。両者構え!」
俺と爺さん、互いに両手剣を正眼に構える。
「はじめ!」
◆
俺の初手は当然、『オーバーホエルミング』だ。加速する世界で爺さんに肉薄し切り付ける。
「まじか。爺さん」
「なんと素早い動き。家宝を持ち込んだのは正解でした」
正面から受け止められてしまった。
エクスカリバーとアダマンタイトの剣が鍔迫り合う。性能は間違いなくエクスカリバーが上だが剣技において、俺は遥かに格下。へたに力で押し切るのは避けるべきだ。スキル効果が切れる前に距離を取る。
「盗賊を切ったときは、アイツら何が起こっているのかわからない顔をして死んでいったんだけどな。まさか受け止められるとは思わなかった」
「引退したとはいえ騎士団の団長を務めていた身です。下賤な連中と比べられては困りますな」
「そうかよ。――っ!」
俺には『オーバーホエルミング』しかない。エクスカリバーが通じるといっても相手は『身代わりのミサンガ』を持っている。相打ちはできない。
一度だけダメージを大幅にカットしてくれる効果を持つ『錬金術師』のスキル『メッキ』を自身にかけているが、相手は『聖騎士』のレベル66に加えて武器は激情のアダマンタイト剣だ。殴り飛ばされるだけならいいが、四肢切断なんて事になったら最悪だ。
つまり俺はこの歴戦の猛者に対して、格下でありながらノーダメで勝つという縛りを自主的に課しているということだ。馬鹿なのかな? でも痛いのは嫌だし。
コラージュコーラルの攻撃ですら我慢できない俺が、裂傷を我慢できるとは思えない。情けない話だけど。
「はぁ!」
「これはっ! くぅ、さばくので精一杯ですな」
爺さんの周囲を『オーバーホエルミング』の速度で駆け回り攪乱していく。さすがにこの速度を目で追う事はできないみたいだが、攻撃があたらない。歴戦の勘か、あたると思った一撃が防がれる。
切り結ぶこと数度。俺は一旦攻撃をやめた。MP不足だ。気分が落ち込んでいるのがわかる。
「ふう。息切れでしょうか。目にもとまらぬ動きが止まりましたね」
削れたのは体力だけか。あれだけ攻撃を加えたのに一太刀も通らなかった。
冷や汗が止まらない。『英雄』があれば負けないと思い込んでいた。自信過剰だった。俺自身は大して強くないのに、ちょっと強い力を手に入れただけで調子に乗ったんだ。
負ける、俺は、死ぬのか。
違う! MPが減って弱気になっているだけだ。引き気味で戦って回復するのを待つんだ。
「ふ、ふ、ふ。どうやら短期決戦のために無理をしたご様子。あれだけの動き、私以外であれば今頃あなたの勝利で終わっていた。残念ですな。貴方のような未来ある花を摘み取るのは」
全部ばれている。だけど、時間が長引けばMPが回復する俺のほうが有利だ。
「はぁ!」
「くぅ!」
爺さんの鋭い一撃をエクスカリバーで受け止める。
「ぐっ、うう」
「ふふ。本当に弱っている様子。このまま押し切れそうです」
「なめるな!」
鍔迫り合いの状態からスキル『スラッシュ』を使う。突然力が増した俺の剣が爺さんの剣をかちあげる。すかさず『オーバーホエルミング』で加速したエクスカリバーが爺さんの胴体を横なぎにした。
手ごたえありだ。
俺の一撃を受けた爺さんにダメージは一切ない。その代わり、『身代わりのミサンガ』が壊れたことを鑑定が教えてくれる。
「まさか罠だったとは。どうやらわたしは貴方をまだ侮っていたようだ」
全くの偶然です。油断してください。
まだ回復していないMPをさらに消費したせいで余計にだるくなってきた。
壊れた『身代わりのミサンガ』がエクスカリバーの『MP吸収』のスキルを妨げたのか、全く気分がすぐれない。最悪の気分だ。
頼む、降参してくれぇ。
誰か決闘止めてくれないかぁ。
しんどい、つらい。
「降参するなら今の内だぞ」
精一杯の強がりだ。
「それも罠かね? もうわたしに油断もおごりもありませんぞ。ただ、アルマン伯爵のために勝利を捧げましょう」
くそったれめ。爺さんの表情が今までで一番の鋭さを放っている。完全にマジモードだ。
死んじゃうかもぉ。
「はあぁぁっ!」
「ぐ、この!」
今度は鍔迫り合いにならないように一撃一撃がエクスカリバーを狙っている。武器を俺の手から落とすのが目的か! まるで壁を殴っているみたいだ。
まずい、MP不足もあいまって手に力が入らない。しびれてきた。
「はぁ、はぁ」
「こんどこそ、演技ではないようだ。かぁっ!」
「しまった!」
ついにエクスカリバーが俺の手を離れていった。完全に無防備、丸腰だ。
今度は爺さんの一撃が俺の腹部を襲う。
視界が歪む。渦を巻いたようにぐるぐると。なんだ。見えているのに何もわからないぞ。
「ゴボッ、ゲボッ、っ!」
「驚きました。その痛がり様、身代わりのミサンガで防いだわけでないようだ。にもかかわらず貴方は無傷。一体どのような方法で防がれたのですかな?」
何を言っているのかわからない。ただ痛い、苦しい。『メッキ』で防いでこれか。息が止まりそうだ。なんで俺がこんな目に合ってるんだ。俺はただ、襲ってきた悪党を倒しただけなのに。女の子を守ったヒーローじゃないのか?
それがどうしてこんな理不尽な目に遭っているのか。くそっ! くそっ!
「じじぃ、マジでぶっ殺す」
「おや、聞きなれない言葉だ。貴方の生まれ故郷の言葉かな? だとしても、その表情。よい言葉ではなさそうですな」
エクスカリバーは遥か後方。だが、『オーバーホエルミング』なら十分に拾って反撃できる。くらわせてやるよ、ダブルスキルを。
「・・・・・・」
「・・・・・・っ!」
爺さんに背を向けて走る。
思っていたよりもエクスカリバーが遠い!『オーバーホエルミング』で拾っても反撃に出るのは難しいか?
背後を見るなんて達人みたいなことはできないが、爺さんが追ってきているのが分かる
追ってきたな。なら俺と爺さんの距離はそこまで離れていない。行けるか? いや行く!
エクスカリバーを拾って振り向く。やはり爺さんはこっちに来ている。距離は五メートルもない。これで決める!
「おおおぉ!」
「かぁっ!」
『オーバーホエルミング』発動中の『スラッシュ』が爺さんのアダマンタイトの剣をへし折った。そして――。
「おみごと」
――爺さんの体にできた横一線の傷口から血が噴き出る。致命傷ではない。だが、爺さんは武器を失った。
「両者そこまで! ジルベール・アンバー・ザルベルトがドミニク公爵の名において決着を宣言する! 勝者、ハヤト・ユラ!」
――おおお!
歓声が聞こえる。俺の名前も呼ばれた。つまり、俺が勝った。
「よってここに、ハヤト・ユラの無実が証明された! 以後彼に対し、此度の一件の責を問うことを禁じる。己の武力で身の潔白を証明した彼に、称賛を送りたいと思う。おめでとう」
「は、ははっ。それは、どうも」
力が抜ける。情けない勝者だ。見ろよ、爺さん体が切れてるのに立ってるぞ。頑丈すぎないか。
そういえば、エクスカリバーの『MP吸収』が効いたのか気分がすっきりしている。体は動かないけど。
「さてフランシス殿。怪我を負った身で申し訳ないが、私と共に来てもらえるだろうか。ハヤト・ユラ、そなたもだ。悪いが拒否権はないと思ってほしい」
「ふふふ。やはり何か企んでおられたのですね。ジルベール様も人が悪い」
「命の保証を名に誓ってくれるなら付いていく。八つ当たりなのは自覚しているが、今俺の中で貴族に対する信用は低い――」
「――誓おう」
俺の言葉にかぶせてきた。どうやら本当に急いでいるらしい。仕方ない。もし戦闘になったら今度は魔法も解禁だ。どう思われようと知ったことか。
「わかった。公爵を信用する」
疲れている俺の足取りは重い。しかし、そんなこと知ったことかと公爵はどんどんと進んでいく。爺さんも本当に怪我をしているのか怪しい健脚ぶりだ。二人とも顔に焦りが見える。遅れている俺への配慮が全くない。俺は仕方なく足を叱咤して二人を追った。
案内されたのは広い部屋だ。体育館くらいある。中には騎士団らしい人たちがたくさんいた。壁際には捕らえられた人達が縄で縛られて膝をついている。俺が決闘をしている間にクーデターでもあったのか?
「アベル様」
「フランシス! 余を助けろ! こいつらは不遜にも我が城を襲った賊どもだ!」
「黙れ。おい、こいつにも猿ぐつわを」
爺さんは自分の主をすぐに見つけた。肝心のアベルは縄で縛られていて、たった今追加で猿ぐつわまでされた。
「公爵。貴族同士のいざこざならあまり巻き込まないでほしい。また決闘騒ぎをおこすぞ、俺は」
「それは怖いな。フランシス殿を倒すような御仁に決闘を挑まれるのは」
不自然に公爵の声は大きかった。特に後半部分。
公爵の声を聴いてこの場にいる者たちの視線が一斉に集まってきた。
「まさか、あの男は例の人間族か?」
「フランシス様が負けた? そんなばかな」
「しかし、フランシス様が勝ったならあの男が生きているはずがない」
「ふぐ! ふぐぐぐ!」
一気に騒がしくなった。爺さん、フランシスが負けたことに動揺を隠せないらしい。言いたいことはわかる。
俺が勝てたのは『英雄』のおかげで、マルチジョブのおかげで、キャラクター再設定のおかげだ。フランシスのことを知っていればいるほど負けるなんて考えられない。俺だって爺さんが味方だったらこの場の騎士たちと同じ反応をしてた。
「ハヤトさん?」
「・・・・・・クラリスさん?」
そんな騒がしい騎士たちの合間をぬって、あのかわいらしいエルフの女の子が俺の前にやってきた。
◆
可愛くてかわいいクラリスさんが俺の前にやってきた。首にわっかを付けて。
鑑定
クラリス ♀ 15歳
村人Lv6
思わず鑑定してしまった。
名前が随分とすっきりしてしまっている。まさかこれは。原作の知識が脳裏をよぎる。
「クラリスさん。それは、まさか」
「ハヤトさん。ええ、きっと貴方が思っている通りです」
つまり、クラリスさんは奴隷落ちしたということか。そんな馬鹿な。以前パーティを組んだ時に彼女のジョブを見させてもらった。当然、『盗賊』なんて持ってなかった。奴隷の身分に落とせるのは『盗賊』のジョブを持っているか、本人の同意がないといけないはず。
「一体何が。まさかとは思いますが、盗賊のジョブを?」
「いいえ。父の名に誓ってそのような真似はしておりません」
「なら、まさか。奴隷になることに同意したと?」
「・・・・・・はい」
いったい何が起こっているんだ。クラリスさんの話を横で聞いていたフランシスも驚いている。爺さんも知らなかったらしい。なら公爵か? いや、彼も驚いた様子でクラリスさんの事を見ている。
「そなたたちが決闘をしている間に起こったことを説明しよう」
そして公爵の口から朝から裏で行われていたことが語られる。
俺の決闘騒ぎはたやすく公爵の耳にも届いた。
以前から伯爵領には大規模な盗賊団が出没していて手を焼いていたらしい。いくら公爵といえど伯爵領内に勝手に騎士団を派遣することはできない。だからアルマン伯爵には盗賊団の討伐を何度も指示していた。しかし、盗賊団が討伐される様子は全くない。それどころか勢力は勢いをまして、隣接するバジル伯爵領、ドミニク公爵領にまで被害が出るようになった。
アルマン伯爵領に騎士団を派遣できない分、自領に侵入してきた盗賊はすべて討伐していた。しかし、いくら討伐しても数を減らさない盗賊団に、疑問を抱いたドミニク公爵とバジル伯爵は秘密裏にアルマン伯爵領を調べた。すると当代のアルマン伯爵は病床についており、騎士団の指揮は息子のアベルが取っていることが分かった。
アベルは父親のために万能薬のエリクシールを用意する様子もなく、それどころか私こそが次期伯爵だと吹聴していることも判明した。
ドミニク公爵とバジル伯爵はアベルによる家督簒奪であると判断し、アベルをどうにか排除してアルマン伯爵に戻ってきてもらう事を考えた。けれど、他領に過度な干渉をすれば宣戦布告と取られてしまう。できれば事を大きくする真似はせず、穏便に済ませたかったドミニク公爵とバジル伯爵は時を待つことにした。
その時が俺の決闘騒ぎである。
わざわざ自分から決闘を宣伝して回り、近隣のドミニク公爵とバジル伯爵には直接の招待まであった。これ幸いと二人は結託しアベルを排除するために行動した。
確実にアベルを排除するために最も大きな障害だったのがフランシスだ。
フランシスは強い。
彼が指揮を執り、前線で戦うような事態になれば被害は甚大だ。ただでさえ盗賊団の討伐が後に控えている。ここで人員を損なうわけにはいかなかった。そこでアベルをそそのかし、フランシスが決闘に出るように仕向けた。伯爵の息子であるアベルに逆らわないフランシスはその申し出を受け入れた。
「二人が決闘のために広間に集まったときが作戦決行の合図だ。決闘が始まる前には城内の制圧は終わり、ハヤト・ユラにはできるだけフランシスを疲れさせてくれることを期待していた。まさか勝つとは思っていなかったが、結果的にフランシスを犠牲なしに無力化できた。そなたには感謝している」
長々と話をしてくれたが、まとめると「仕事しないバカ息子をとらえるために頑張った」ということらしい。
「その話にはクラリスさんが出てきませんが」
「それについては余も驚いている。なぜ彼女が奴隷になっているのか。当初の予定ではアルマン伯が病気から回復するまでの間、彼女に代理を頼む予定だったのだ」
「その説明はわたしが」
悲しげな表情のクラリスさんがその身に起ったことを説明してくれた。
「兄は、アベルは伯爵の地位を継ぐことに異常なほどの執着を見せていました。そして彼にとって最もじゃまだったのは現アルマン伯爵の父コンスタンではなく、継承権をもつ兄妹。私でした。ハヤトさんに助けていただいたあの日、城に帰った私にアベルは二つの選択を迫りました。奴隷に落ちるか、殺されるか。迷宮で私たちを襲った盗賊は、アベルが差し向けた刺客だったのです。私が生きて帰ったことにアベルはとても驚いていました」
『なぜ生きている!?』
「あれほど驚いた顔をしたアベルは初めて見ました。そして、私は、私は命を選びました。私はまだ、死にたくなかった」
涙を流すクラリスさんは儚く、美しい。クラリスさんは泣いているけど、それで良かったと俺は思う。
生き残ることのほうが大切ではないだろうか。誰だって死ぬのは怖い。俺だって怖い。
「クラリス様」
「ごめんなさいフランシス。私はたとえ死ぬことになっても兄に、アベルに反抗しなければならなかったのに。伯爵の娘として」
クラリスさんにどう触れてよいのかわからない。フランシスは決闘の時とはまるで別人で、その姿は祖父と孫の様だった。
「話は分かった。エリクシールは当家に用意がある。クラリスが継嫡家名を失っている以上、アルマン伯には早急に回復してもらい、騎士団の指揮を執ってもらう」
「それには及びません。コンスタン様が完全に回復なさるまで、この私が騎士団の指揮を執りましょう」
事を焦る公爵にフランシスが名乗り出た。騎士団の元団長ということだが、現団長を差し置いてそんなことを言っていいのか。それともそんな無茶が通るくらい慕われているのだろうか。
「団長を譲った男はアベル様がどこからか連れてきた男です。おそらく盗賊団とつながりのある者でしょう。私が団長の座に戻り、領内の盗賊を一掃することをアルマン伯爵コンスタン様の名に誓いましょう」
「・・・・・・よかろう。それで、クラリス。そなたのことだが、一度奴隷になった以上貴族に戻ることはできない。それはわかっているな」
「はい」
「そこでだ。ハヤト殿のもとに行くのはどうだろう」
「え?」
突然話を振られた。しかも、奴隷となったクラリスさんをもらう話だ。俺は大きく動揺した。
「ギリギリの戦いだったが、彼はフランシス殿に勝った男だ。将来迷宮を討伐し、叙勲されることは間違いないだろう。その時元貴族であるそなたは彼の力になる」
なんだろう。当人をおいて勝手に話が進んでいます。いや、確かにクラリスさんがもらえるなら欲しいけど、本人の意見を無視するな。いやまって。クラリスさんに嫌がられたら俺は泣く。やっぱり聞きたくないかも。でも無理やりするのは俺の趣味ではなくてですね。
おろろろ。
「フランシスに!? ハヤトさんが強いことは知っていましたが、まさかそこまでとは思っていませんでした」
「ふふふ。彼はとても優秀です。私の剣も彼に折られてしまいました。実力は本物です」
「どうだろうかハヤト殿。クラリスは貴族の娘だ。魔法使いになるための条件も満たしている。パーティに魔法使いがいれば迷宮を討伐するという話も現実味を増すだろう」
「・・・・・・クラリスさんが来てくれることは、正直うれしいです。だけど、ここに残ったほうが彼女のためなのでは? その、恥ずかしながら貴族令嬢のクラリスさんに満足のいく生活をさせられる環境もないですし」
がっつくな。いいか、がっつくんじゃないぞ。クラリスさんのことをおもんぱかっている事をアピールしつつ、決して彼女を嫌っていない事、むしろ来てほしい事を伝えるんだ。
「確かに彼女は貴族の娘だが、脅されていたとはいえ奴隷になることを自ら選んでいる。奴隷にそのような配慮は無用だ」
「ジルベール様のおっしゃる通りです。ハヤトさんがそう思ってくださるだけで十分です。ああ、いけません。ハヤトさんに所有していただくなら・・・・・・ハヤト様、いえ、ご主人様とお呼びしなければなりませんね」
顔を伏せる。クラリスさんのご主人様呼びはえぐい。心臓が破裂しそうだ。
だめだ。今絶対に頬が緩んでいる。見られたくない。
「その、クラリスさんには強くなってもらうために厳しく接することもあるとおもいます」
「かまいません。強くなるための訓練が厳しいのは当然です。小さい頃にはフランシスに泣かされたこともあります」
「ふふふ。貴族には迷宮討伐の義務がございます。厳しさは親切心の裏返しでもあるのですよ」
「ええ、わかっています。それからご主人様。どうかクラリスと。奴隷に敬称はいりません」
「分かりました。・・・・・・これからよろしく頼む、クラリス」
「はい。ご主人様」
笑顔がまぶしい。かわいい。
こんなにかわいい子が今日から俺の奴隷? やばい。え、やばい。何がやばいって俺の語彙力と彼女の笑顔とメリハリナイスバディだよ!
「では伯爵家と縁のある奴隷商人のところへ案内させましょう。・・・・・・アーダ! こっちに来なさい」
フランシスが騎士たちの中から選んだのはアーダというエルフ女だ。鑑定でジョブが『冒険者』なのが分かる。『フィールドウォーク』で連れて行ってくれるのだろうか。
「アーネルのところへハヤト殿とクラリス様を案内しなさい。そのあとは二人を冒険者ギルドへ連れていき、戻ってくるように」
「かしこまりました。お二人とも、私のパーティに入ってください」
「よろしくお願いしますね、アーダ」
「よろしく頼む」
アーダのパーティに加えてもらう。彼女が『フィールドウォーク』の呪文を唱えている間に俺は世話になった面々に挨拶をしておこう。たぶんもう会わないし。
「それでは公爵。またご縁があれば」
「縁などと。余が公爵であるうちに五十階層に挑めるようになれば訪ねてくれ。そなたにふさわしい領地を案内できるはずだ」
「その時が来れば、ぜひ」
迷宮を討伐すれば貴族の位を得て、周辺地域を治める権利がもらえる。その手伝いをしてくれるということか。あとは公爵の手を借りれば貴族として立った時に協力してくれて、俺が彼の派閥であるアピールになる。原作でもそうだけど、貴族は優秀な人材には貪欲ということだな。
俺を優秀と思ってくれるのはうれしいけど、ずるをしている身としては複雑な気分だ。
「ハヤト殿、クラリス様のことよろしくお願いします」
「もちろんです」
「それから、決闘に勝利したハヤト殿には私の装備を受け取る権利がございますが、いかがですかな?」
「意地悪ですね。これから盗賊を討伐するのにそれは必要でしょう。貸しにしておきます。次会った時には装備の相談にのってください」
「いいでしょう。その時は誠心誠意お手伝いさせていただきます」
「ありがとうございます。ああ、一つ聞きたいことがあった。どうして胴体だけ金属鎧ではなく革鎧なんですか?」
決闘前、装備を鑑定したときフランシスは全身がアダマンタイト系の金属装備だったのに、なぜか胴体だけは革鎧だった。その疑問をぶつけたのだが、なぜか爺さんは笑い出してしまった。
「これは失礼を。わたしがこのようにアダマンタイトで全身を固めているせいで誤解させてしまったようだ。ただ持っていないだけですよ。本来アダマンタイトの装備は貴族であっても一つか二つしか持っていません。わたしが特別なのです。ハヤト殿がもし胴体のアダマンタイト装備を手に入れたときにはぜひ一度見せていただきたいものですな」
そう言うと爺さんは茶目っ気たっぷりにウィンクした。どうやら収集家やコレクターの類だったらしい。
「えっと、機会があれば」
ドミニク公爵とフランシスの爺さんに別れを告げて、俺は『フィールドウォーク』の黒い壁に入った。
そして、冒険者ギルドで。
「冒険者ギルドに連れてきてもらったけど、まずはご飯にしよう。決闘が終わってからまだ食べてない」
「そうですね。言われてみれば今日は朝から何も食べていません」
奴隷商でインテリジェンスカードに書き込みをしてもらった。今、俺のインテリジェンスカードには所有奴隷としてクラリスの名前が載っている。彼女は、俺のものになった。
「食事をしながら、これからのことを話し合おう。クラリスの装備のこととか」
「装備も大切ですが、まずは魔法使いギルドに行きませんか? 村人ではご主人様の役に立てませんから」
俺にはパーティメンバーのジョブを変えることができるから、その必要はないんだけど。
まずは食事をしながら、その辺についても話すことにしよう。
リザルト
異世界五日目
主人公 由良隼人ーゆらはやと
男 18歳
装 備 エストック 鋼鉄の盾
竜革の帽子 竜革の鎧 竜革のグローブ 竜革の靴
奴 隷 クラリス ♀ 15歳
村人Lv6
装 備 なし
ジョブ 探索者Lv25
英雄Lv22
魔法使いLv25
錬金術師Lv3
村人Lv10
戦士Lv10
剣士Lv11
商人Lv10
僧侶Lv7
所持金 約四十六万ナール