誤字報告に感謝します。
「クラリスはやっぱり両手剣がいいのか?」
いつもの宿屋の食堂で、向かい合うように席について食事をとる。今日のメニューは肉だ。でっかい肉のサイコロステーキだ。うまい。
決闘で腹を空かせていた俺は少しも迷うことなく肉の定食を選んだ。
クラリスさんはパンとスープのセットだ。この食堂には常設されている。スープを口に運ぶとき、髪を耳にかける姿が色っぽい。いや、エロい。
「両手剣が一番扱えるのはそのとおりですが、他に槍とスタッフも使うことができます。教え込まれました」
「貴族は魔法使いのジョブを持っているからスタッフはわかるけど、槍も?」
スタッフは原作でも重用されていた魔法使い用の武器だ。原作に登場した杖系の武器の中では最も魔法の威力の上げ幅が大きい。魔法使い系のジョブの人は大抵これを持つし、貴族の間では『知力二倍』や『MP吸収』のスキルを付与して運用する。
「魔法の威力を高める武器はステッキ系とワンド系の二種類ですが、聖槍という魔法の威力を高めてくれる槍があります。魔法使いとして他家に嫁いだ時、嫁ぎ先が用意する武器はもっぱらスタッフですが、使えるようになっていて損はないからと、槍も習ったんです」
「なるほど、そういうことか」
ええと、思い出そう。
ステッキ系は物理攻撃力もある武器で、ワンド系と比べたときに魔法の威力があまり上昇しない。それに対して、ワンド系は魔法の威力を高めることに特化している。ただし、魔物を殴ることができないから、魔法効果が終わって再度使えるまでの間、案山子になってしまう欠点がある。
ところがだ。
ワンド系上位武器のスタッフは「物理攻撃力があるのではないか」という疑惑がある。実際にその場面を俺は読んだことも見たこともない。しかし、魔物を殴ってMPを回復する『MP吸収』のスキルをつけた「吸精のスタッフ」を婚儀の際に用意する慣習がある。つまり、スタッフは殴れる打撃武器なのだ! でも、クラリスがスタッフで殴りかかる姿は見たくないな。
「ならクラリスには槍を使ってもらう。フランシスが武器の相談を受けてくれることになっているから、折を見て聖槍の話を聞いてもらおう」
「わかりました。期待に応えられるように頑張ります」
かわいい。
さて、防具は盗賊の戦利品を使うからいいとして、槍は買う必要があるな。
今後はどうしよう。お金には余裕があるから、またレベル上げをするか。それともさっさと奴隷をそろえるために金策をするか。フルメンバーとまでは行かなくても、あと一人か二人、メンバーは欲しいかも。でも、しばらくは二人きりというのも良いよな。
・・・・・・悩む。
「食事が終わったら早速迷宮ですか?」
「クラリスの武器を買ってからね。それと今すぐじゃないけど、他所の街に行こうと思ってる」
「他の街に、つまりバルタークを出るのですか?」
この街がバルタークであることも知らなかったよ。
「不本意ながら今日の一件で俺は有名人になった。そして君は貴族の娘だ。顔見知りが全くいないわけじゃないだろう? はっきり言ってやりづらい。さっき宿の亭主に部屋を借りたときも冷やかされたじゃないか」
「それは、その」
顔を真っ赤にしてもじもじしてる。かわいい。
いつもの亭主に俺が二人部屋を頼んだ時、やつは余計なことを言った。余計なことというか、先出しされたんだ。「部屋はダブルでいいな」って。にやけ面でな。かわいいクラリスが見れたから許してやったが、彼女が取り乱したり気分を害していたら決闘を挑んでいるところだ。まったく。
「これも今すぐじゃないけど、どこか冒険者向けの街で家を借りたい。今後仲間が増えたときに宿屋じゃちょっとカッコ悪い。個人的な見栄の話でわるいけど」
「・・・・・・人数が増えると宿代も嵩みます。確かに家を借りるべきですね。ただこの街なら伝手で家を建てることもできると思いますが」
なん、だと。
つまりでっかいお風呂場を作ってクラリスの体をねっとり洗ったり、薄暗い寝室を作ってしっぽりしてもいいということでしょうか。興奮します。
おちつけ。
「気持ちはうれしいけど、それ、いくらするの?」
「ええと、市民の一軒家なら金貨九十枚ほどでしょうか。家の規模で上下するので、本当に目安ですが」
え、安い。
いや、まて。金銭感覚がおかしくなってる。金貨九十枚は十分高い。『結晶化促進六十四倍』があるせいだな。
少し計算してみるか。えっと結晶化促進をつかうと俺の場合は一日あたり五万だから・・・・・・二十日ぐらいで百万匹分の魔力が溜まるのか。すごいな六十四倍。あとコボルトケンプファーさん。
そういえば主人公ミチオも夏前、異世界に来て九十日経つ前に白魔結晶を作っていた。その金で四人目の奴隷をオークションで購入していたし。
そのくらいなら将来的に一軒家を建ててもいいかもしれない。
「なるほど。無理だな。家は借りるしかない」
「そうですか」
「どこかよさそうな街を知らないか? 迷宮が近いとなおのこと良い」
本当はボーナス呪文の『ワープ』があるから極端に遠くなければどこでもいいんだけど。さすがに食堂でする話じゃないな。
「・・・・・・。クベリークはどうでしょう。帝国の東にある港街で、街の外に迷宮がたくさんあると聞きました」
「たくさん? 迷宮の討伐が追いついてないってことか?」
「いいえ、そうではありません。港町のクベリークは物資の流通を商船が担っています。そのため街道が全くと言っていいほど整備されておらず、陸地側はほぼ迷宮の領域となっています」
つまり街は周囲を迷宮に囲まれた状態。孤立無援、陸の孤島といったところか。しかし、背後には港があって人や物資の流通は問題なくできていると。確かに迷宮は近いし、種類がたくさんありそうだ。コボルトや俺が狙っているウサギが一階に出てくる迷宮とか。
「街の外の迷宮は数が多く、街の騎士団や探索者達が討伐に苦心しているそうですが、それはあくまで街の維持のため。迷宮を掃討し街道を新たに通そうという人はいないそうです」
悪くない話だ。
街の外、歩いて行ける距離に迷宮があるなら『ワープ』を使わなくてもいい。秘密にできる。
俺もいつかはクラリスや未来のパーティメンバーに話す日が来るだろう。だけど、主人公ミチオのように何でもかんでも話そうとは思っていない。
「ならその街を拠点にしよう。具体的には、まだ言えないけど」
実際いつがいいだろう。今日はもう疲れた。却下。
明日以降ならいつでもいい。もっと資金に余裕を持ってからにしようか。例えば百万貯まってからとか。
俺の所持金は約四十六万ナール。あと五十四万ナール。ええとコボルトケンプファーを周回して一日五万。日数にして十一日。だけど俺には買取価格三割アップがあるから・・・・・・まあいいか。大体十日ということで。でも、これは俺が一人で回った場合。そんなことをしたらクラリスさんは不審がるよなぁ。あと単調すぎて気疲れしちゃうかも?
空っぽになった食器を受付カウンターに返す。
「まずはジョブを変更しよう。魔法使いギルドの場所はクラリスが知っていると思っていいのかな」
鑑定
クラリス ♀ 15歳
村人Lv6
俺とクラリスは盗賊を倒したときにパーティを組んでいた。だから経験値が彼女にも分配された。その時に『魔法使い』の条件のひとつ、「村人レベル5以上」を満たしている。今すぐ『パーティジョブ設定』で俺が『魔法使い』にしてもいいけど、今は秘密です。
「魔法使いギルドは帝都にあります。冒険者ギルドで誰か冒険者の方に連れて行ってもらいましょう。それから、ジョブの変更には一回一万ナールが必要です。これは希望のジョブに変更できなかった時でも支払います」
「執拗に繰り返し来る人対策かな。行列対策とか」
「いえ、魔法使いのジョブを持つ人は大抵が貴族で、それほど頻繁に訪れる人はいません。単純に手数料です」
手数料たっかいな。
けど、クラリスの言うことはもっともだ。俺や主人公ミチオがジョブのレベルを上げるのが早すぎて勘違いしそうになるが、普通は何年もかかるし、全員がジョブを変更するわけじゃない。そう考えると行列どころか待ち時間もなさそうだ。
「誰か帝都に連れて行ってくれる冒険者はいるか」
冒険者ギルドで『フィールドウォーク』を使ってくれる『冒険者』を探す。クラリスがいるし、エルフの冒険者でもたぶん愛想よく対応してくれるだろう。してくれるよね?
「帝都までは銀貨三枚です」
片道銀貨三枚で案内してくれたのは狼人族の『冒険者』だった。エルフの対応が露骨に変わることをすこーしだけ期待していたけど、またの機会ということで。
やってきた帝都の冒険者ギルドはひろい。バルタークの三倍くらい。例えると帝都が都市病院の受付で、バルタークが個人クリニックの受付くらい。
「魔法使いギルドは冒険者ギルドの左にある通りを北に行ったところにあります。一度だけ騎士団の冒険者に連れてきてもらったことがあるんです。あの時はフランシスも一緒でした。懐かしいですね」
クラリスの後ろに付いていく。すごく楽しそうだ。『魔法使い』になれるのはやっぱりうれしい事なんだろうか。俺が『英雄』になりたかったのと同じかな。
たどり着いたのは大きな建物だ。冒険者ギルドと同じくらい。
「ジョブ変更の手続きって何か必要なの?」
「インテリジェンスカードをチェックされるだけです。街の騎士が常駐していますが、指名手配犯や盗賊以外なら全く問題ありません」
クラリスの言う通り建物中には『騎士』のジョブを持つ男が三人いた。今回はクラリスが奴隷で俺がその所有者ということで俺のインテリジェンスカードだけチェックを受けた。騎士がインテリジェンスカードをしっかりと確認する。職務に忠実な人だな。
確認が済むと彼がベルを鳴らす。すると奥から妙齢の女性が出てきた。すらっとした美人さんだ。
「本日は魔法使いのジョブへの変更ということで間違いないでしょうか」
「その通りだ。彼女のジョブを魔法使いに変更したい」
「畏まりました。ではこちらの部屋へどうぞ」
通された部屋にはテーブルの上にギルド神殿と思われる白い箱がある。原作だと盗賊の賞金やアイテムの鑑定にしか使われなかったが、ジョブチェンジはどうやるんだろう。やっぱり目に悪いエフェクトが飛び出すのかな。
「魔法使いへのジョブの変更には手数料として一万ナールいただいております」
「ここに」
アイテムボックスから金貨を一枚出して、差し出された手に渡す。
「確かに。それではジョブの変更を行います。お嬢様、ギルド神殿にお手を載せてください」
真っ白なギルド神殿にクラリスが手を置く。そして女性がギルド神殿のボタンを押した。何も起こらないけど、まさか失敗か?
「これでジョブの変更が終わりました。お帰りの際にインテリジェンスカードのチェックを受けてください」
え、これだけ? すごいエフェクトが出たり光ったり文字が浮き出たり本人にだけ聞こえる天の声とかあるんじゃないの? 天の声なら俺には聞こえないじゃん。
「やりました! これで私も魔法使いです」
「え、まだチェックも受けてないのにわかるの?」
「はい? ギルド神殿に文字が浮かんでいましたよ。あっ、私の体が邪魔でご主人様には見えなかったんですね。大丈夫です。私は魔法使いですよ」
鑑定
クラリス ♀ 15歳
魔法使いLv1
確かに魔法使いになってる。本当に見落としたらしい。え、まじ? 俺の目って節穴。
「そ、そうか。それじゃあせっかく帝都に来たんだし、買い物はこっちで済ませよう」
都心部のほうが品揃えもいいだろう。武器屋と防具屋を冷やかしに行って、服も見ておくか。俺は適当でいいけどクラリスの服は全力だ。全力で選ぶ。妥協は許されない。
騎士のインテリジェンスカードのチェックを二人とも済ませて建物を出た。ちなみに、クラリスのインテリジェンスカードのチェックは必要なかったが、先ほどのやり取りで俺が疑っていると勘違いしたクラリスの希望で見せてもらった。騎士の人は嫌な顔一つせずにクラリスのお願いを受けてくれたよ。エルフもこれくらい外面をよくできないものか。
「装備品を売っている店はやっぱり冒険者ギルドの近くか?」
「はい。この通りを戻って冒険者ギルドの反対側です」
来た道を引き返して武器屋と防具屋に向かう。
まず入ったのは防具屋だ。
俺には竜革の防具があるし、クラリスには硬革の防具があるから今すぐ新しい防具を購入する必要はない。今日は品揃えを確認するくらいか。
鑑定による空きスロットのチェックも含めて防具を見ていく。
防具には皮と金属の二種類があって皮装備は軽くて動きやすく、金属装備は重くて動きにくいけどお求めやすい価格になっている。そして、防具には魔法が掛かっていて使用者の体に自動でフィットする。だからサイズを選ぶ必要がないし、おさがりでも十分使える。
なので体のラインがもろに出る皮系の鎧を女性はつけない。おっぱいにフィットしてそれはそれは立派な乳袋になるから。
だからクラリスは革鎧だよ。ここで同性能のジャケットとか買わないから。俺の目の保養のためだけに。
帝都の防具屋はさすがの一言。下は皮と木、上は竜革とダマスカス鋼までしっかりそろえてある。ただそれ以上の防具はなかった。聖銀を使った魔法防御力が高くて魔法の威力を上げてくれるタイプの防具とか。やっぱり市場の良い防具は竜革とダマスカス鋼が限界でそれ以上は貴族の伝手が必要だな。
「防具屋に来るのは初めてですが、すごい品揃えですね。一面防具だらけです」
クラリスがキラキラとした目で鋼鉄のフルフェイスを見ている。
箱入りだなぁ。君の実家のほうが絶対品揃えいいぞ。特にフランシス。
ここには見当たらないが、店主が店の奥にしまっている可能性もある。試しに尋ねてみた。
「魔法使い用の防具はないか。聖銀を使ったやつだ」
「今は取り扱いはありません。仕入れが全くないわけではないのですが、いつ棚に並ぶかと言われましても、お答えできません」
だめか。原作も特殊な情勢にならないと、仕入れすらなかったもんな。残念だ。
「いや十分だ。助かった」
ひとつひとつ防具を手に取り観察しているクラリスさんを引っ張って今度は武器屋に入った。
武器屋も素晴らしい品揃えだけど、防具屋と大して変わらない。特別に目を引く品はなかった。
「クラリスにはこのダマスカス鋼の槍でいいか? 資金に余裕はあるし、店では一番の武器だ」
「ですがフランシスに装備を融通してもらうんですよね。ならもう少し下の武器でも良いのでは?」
言いたいことはわかる。フランシスは装備オタクだ。きっと想像を超えるような武器を持ち出してくる。だけどフランシスにとって良い武器でも俺にとっていい武器とは限らない。
俺には空きスロットが見えるからだ。
たとえアダマンタイトの槍を融通してくれても、空きスロット無しなら空きスロットのあるダマスカス鋼の槍の方が魅力的だ。
鑑定
ダマスカス鋼の槍
≪空き≫≪空き≫≪空き≫≪空き≫
ダマスカス鋼の最大値は四スロットだ。十本もあるダマスカス鋼の槍の中に四スロットは三つあった。さすが帝都の武器屋だ。優秀だな。
四つあれば『詠唱中断』『MP吸収』『知力二倍』『攻撃力二倍』がつけられる。
魔法の威力が上がる『知力二倍』。『MP吸収』は武器の威力で回復量が変わるから『攻撃力二倍』と併用したい。そして『詠唱中断』は魔物のスキル使用や魔法攻撃をキャンセルできる優秀なスキルだ。パーティーメンバー全員の武器に付けたい。
まあ、捕らぬ狸の皮算用なんだけど。妄想は自由だよね。
「クラリスの言う通りだけど、まだどんな武器かもわからないだろ? もしも要らなくなったら売ればいいんだ」
アダマンタイトの装備を持ってるような人だ。まじで聖槍くらい出してきそうで怖い。そして空きスロットがなくて断ることになったらもっと怖い。こっちから相談を持ちかけたくせに断るとかすごく失礼だからな。
「ご主人様がそう言うなら」
納得してくれたかな。
クラリスにダマスカス鋼の槍を与えることができた。
ところで、三割引のスキルは二つ以上買わないと有効にならない。だから、ダマスカス鋼の槍を三割引で買うにはもう一つ武器を買わないといけない。
安い武器を一つもらっておこう。片手剣のシミターでいいか。
クラリスには店の外に出てもらって俺がシミターを買ったところは隠した。
三割引のおかげでダマスカス鋼の槍とシミターは金貨数枚で購入することができた。
「それじゃあ帰ろうか」
「はい!」
元気なクラリスはかわいいな。
◆
バルタークの迷宮一階層。
「クラリスが使う槍の調子を確認がてらボスを倒しに行こう」
「やっぱりボスと戦うのですね」
既に突破している一階層にわざわざやってきたのは当然、クラリスの調子を測るためだ。『村人』レベル6から『魔法使い』レベル1だとあまりステータスの変化はないと思う。しかし、これからは戦闘中に魔法で攻撃をしてもらうことになる。動きながらの詠唱ができないようでは困るのだ。
「まずは槍を使って普通にボスを倒してもらう。その次は魔法を使って倒してもらう。そして最後に、わざと近づいて攻撃をさばきながら魔法を使って倒す。わかった?」
「ええと、どうしてそんな事を?」
「戦闘中に魔法の詠唱ができるようになるためだ。魔法を撃つたびに戦列を離れるよりも、攻撃参加の機会が増えて結果的にダメージを多く出せる」
と思う。
魔法を撃つだけの固定砲台に徹してもらうなら素直に杖のスタッフを渡してる。槍にしたのは詠唱中と再発動のクールタイムにも攻撃に参加してもらうためだ。
パーティ全員が攻撃に参加して魔物を殲滅する。この世界の考え方のはずだ。原作でもそう言ってた。俺は間違ってない。
「戦闘時間の短縮は身の安全にも繋がる。ガンガン攻撃に参加してもらうからそのつもりで」
「が、がんばります」
コボルトケンプファー、一回目の挑戦。
「たぁ! はあ!」
漫画の知識になるけど槍は手数が多いイメージがある。素早い突き技で相手にこっちの攻撃を押し付けて反撃できなくさせるような、そんな感じ。
クラリスの動きは、流石に漫画みたいにはいかないけど、素人目に見てもよく鍛えられてるのが分かる。
コボルトケンプファーが煙になって消える。
問題なくクラリスが勝利した。
二回目の挑戦。
「―、―、ファイヤーボール!」
クラリスには魔法に集中してもらうために、俺が前に出てタンク役としてボスの攻撃を受け持つ。
コボルトケンプファーが弱すぎて俺の訓練にはならないけど、クラリスは魔法を三回使って勝利した。
そして三回目。
「―、―くっ!」
体感五分。クラリスはまだ一回も魔法を使えていない。
回復薬(強壮剤)でMPの回復は済んでいるからMP不足による精神面の不調が原因じゃない。たぶんクラリスが一段と苦手なんだと思う。比べる相手は俺しかいないけど、あまりに下手すぎる。
コボルトケンプファーは本当に弱い。槍でナタをちょっと小突きながら詠唱すればすぐに倒せる。そうでなくても相手はトロい。にらめっこしながら後ろ歩きで詠唱しても倒せる。
クラリスは相手に注目しすぎる傾向にあるようだ。今だって詠唱よりもコボルトケンプファーのナタに意識が向いている。振り下ろされるたびに槍で弾いて詠唱が止まる。
だめだこりゃ。一回やめさせよう。
「クラリス、ストップ」
クラリスが何か言う前にダブルスキルでコボルトケンプファーには煙になってもらった。
「やり方を変える。クラリスにはいきなり戦闘と詠唱をするのは向いてない」
「・・・・・・はい」
おい。クラリスが凹んでるじゃないか。誰だ、彼女に暗い顔をさせたのは。コボルトケンプファー! 絶対に許さんぞ!
やつは既に死んでいる。
「クラリス。俺と話をしよう」
「話、ですか?」
「なんでもいい。思い出とか好きなこととか、とにかく話しながら戦えるようになろう」
そう、さながら友達と会話しながらゲームをするように。
最近は動画配信サイトで視聴者と会話をしながらゲーム配信をするスタイルが当然のように流行っているが、これが意外と難しいらしい。
軽快に視聴者と漫才しながらゲームする人がいれば、集中するために一旦視聴者を無視する人もいる。
対戦型FPSゲームなら勝つために仲間と会話しながら戦うのは当たり前だ。
そんな経験のないクラリスに、いきなりやれというのは酷な話だったんだ。少しずつ戦えるようになってもらおう。
四回目の挑戦。
「聴かれて困ることは無いけど恥ずかしい話ってあるよね」
「恥ずかしい話、ですか?」
「そう。必死に隠すほどのことじゃないけど、積極的に言いふらさない類の話」
「どんな話ですか?」
「最後にお漏らししたのはいつだとか、そんな話」
「そうですね・・・・・・え? わわっ!」
俺の話に気を取られて危うく攻撃をもらいそうになってる。
慌てる姿もかわいいな。
五回目の挑戦。
「実は迷宮の魔物って全部同じ個体なんだよね。だから何度も戦ってるとこっちの動きを覚えられて厄介なんだ」
「そんな! なら、できるだけ早く倒さないと! たぁ!」
「嘘だよ」
「嘘なんですか?! きゃ!」
六回目の挑戦。
「クラリスって本当に可愛いよね」
「な、なんですか突然!?」
「目はくりっとしてるし、髪はサラサラだし、小顔でお人形さんみたい」
「そ、そんなこと、ありません」
「本当だよ。目とかコボルトに似てる」
「そんなこと・・・・・・今なんて言いました?」
XX回目の挑戦。
「ご主人様はやっぱり将来は貴族になりたいですか?」
「そんなふうに思ったことはないかな。できることが迷宮に挑む事しかなかっただけだよ」
「だけどご主人様はとても、強い! ですよね。はぁ!」
「どうだろう。フランシスとかすごい強かったよ」
「そのフランシスにご主人様は勝ったじゃないですか。ていっ」
「初見殺しを何度も使ったんだ。次戦ったら勝てないよ」
「そうは思いませんけど。―、―ファイヤーボール!」
その日最後のボス戦で、クラリスは見事に戦いながら魔法を使った。
◆
「明日は今日の感覚を忘れないように二、三回ボス戦をしてから二階層に行こう」
「はい! あの、自分でもすごく驚いてます。はじめはダメダメだったのに、最後には魔法が使えました!」
夜の食堂。明確に技術の向上を自覚できたクラリスは元気いっぱいだ。
そして、俺には人をみる目がない。正直クラリスの事を下手くそだなって思った。才能無いかもって。だけどクラリスはたった一日でできなかったことができるようになった。努力は当然として、間違いなく彼女の才能だ。
そんな彼女を俺が育てないといけない。それがすこしだけ怖い。失敗したらどうしよって。
でもきっと、あっという間に俺より強くなるんだろうな。
「今後も訓練を挟みながら上を目指すから、進むのは遅くなると思う。ゆっくり、だけど着実に登っていこう」
「はい。もっと強くなってご主人様に追いついてみせます!」
「クラリスならすぐに追いつけるよ」
夜はパンとスープで軽くすませる。部屋に戻る前に受付へ寄ってお湯と桶を受け取る。
この世界の宿にはお風呂がないから、お湯と手ぬぐいで体を洗うしかない。
そう。俺が! クラリスの! 体を! 洗う! オオオオォォ!
自分でキモいとわかる。でもやめない。俺は助兵衛になる。
「それじゃあ寝る前に体を洗おう」
「は、はいぃ」
顔を真っ赤にして、緊張しているクラリスは可愛い。
こんなにかわいい子とこれからずっと一緒にいられるんだ。
「クラリス、ちょっとこっちにおいで」
「え、は、はい」
緊張しているくせに、これから何をするのか分かってるくせに、警戒心なんてかけらもない。呼ばれて素直に俺のそばにやってくる。可愛い。
そんな彼女を逃さないように俺は抱きしめた。
「は、ハヤトさん?!」
「いいかい、よく聞いて」
俺は死ぬまでクラリスを逃さない。だけど、死ぬまでカッコつけるのはちょっと難しい。俺、抜けてるとこあるし。
口を耳元に近づけて囁くように、だけど体に刻むように話しかける。
「俺はすごいスケベだ」
「へっ?」
「クラリスのキラキラした金髪が好きだ。きれいな青い瞳が好きだ。エルフ特有の長い耳が好きだ。こうして抱きしめて知ったけど、匂いを嗅いで、今すごく興奮してる」
「と、とつぜんなにを?!」
「初めて会ったときから可愛い君が好きだった。君に触れたかった。だから、死ぬまで君をめちゃくちゃにする」
「どういう意味で――」
キスをして唇をふさぐ。
よくよく考えれば俺は今、過去一番ムラムラしてる。
だって昼の決闘で俺は死にかけた。動物は死に直面すると本能的に子供を残そうとすると聞いた。当然、俺もそうなる。そして目の前には、最高に可愛いクラリスがいる。我慢なんてできない。
「俺はスケベだ。だから今みたいにいきなりキスをするし、胸を触るし、お尻を触る。悪いけどクラリスがどんなに嫌がってもやめない」
「え、あの、せめて夜だけ――」
絶対に嫌だね。昼間でもキスする。
「まって、まってくだ――」
待たないよ。俺はこのために異世界に来たんだから。
「わ、わかりました。言うことを聞きますからまっ――」
わかってないよクラリス。男の情欲を全くわかってない。
唇にだけ留めていた欲を胸やお尻にも伸ばしていく。腕の中でクラリスが逃げようとするけど、逃さないよ。
「聞きますから! ハヤトさんの言う通りに、します。だからせめて、体をあ――」
汗かいたもんね。女の子だもんね。俺が匂いを嗅いで、なんて言ったから気になるんだね。
でもだめ。
「うっ。んん。あっ。だめ」
だめじゃない。もう、クラリスは俺のものなんだ。その証を、今日、刻み込む。
やわらかな胸を探るために一度、手を下げる。俺の気が変わったと勘違いしてるみたいだけど、もっとすごいことをするためだよ。お腹から服の中に手を入れて、直接胸を触る。温かい。あ、さくらんぼみっけ。
「っ! んん! ちゅ、だめ。あん」
今度は後ろだ。ズボンに手を入れて肉をつかむ。
「んん! あっ! んっ」
もっと、もっと、君の全てが欲しい。
クラリスを抱きかかえるとベッドに優しく寝かせる。
「クラリス。お前は俺のモノだ。逃さない。だからあきらめろ」
「は、はひ」
その夜、俺の全部をクラリスにぶつけた。
魔法使い
条件 村人Lv5以上 且 攻撃魔法を使う
効果 知力小上昇 MP微上昇
スキル 初級火魔法 初級水魔法
初級風魔法 初級土魔法