迷宮とエッチなハーレムを求めて   作:銀の城

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誤字報告感謝します。


迷宮とエッチな日常①

【十二番の迷宮・二階層・スパイスパイダー】

 

 スパイスパイダーとの戦闘はとにかく安全を優先したものとなった。

 俺は必ず『オーバーホエルミング』を使って距離を取り、クラリスの魔法をメイン火力にひたすら盾で攻撃をいなす。時折ダブルスキルを打ち込むが、決して欲張らず踏み込み過ぎない。臆病と馬鹿にされても過剰に間合いをはかる。MPの消費が非常に重い戦闘だ。

 

「ふう。少し休憩するか」

 

「はい、わかりました」

 

 俺はスキルを、クラリスは魔法を使いすぎた。

 この作戦を選んだのは俺だけど、精神的にすごく疲れる。MPの消費による精神的な摩耗がそれを悪化させる。

 一撃も攻撃をもらわないように魔物の動きを注視して、戦闘時間が長くなりすぎないようにダブルスキルで攻撃を加え、クラリスの魔法の射線に入らない動きをする。

 俺はスケベ心だけでこの世界に来た。クラリスとエッチなことをするためなら頑張れる。だけど、戦闘訓練を受けた事なんてない、ただの高校生だ。朝から晩まで戦っているのにちっとも強くなった気がしない。全てジョブのおかげで実力じゃない。バルタークでおとなしくコボルト狩りをしておけばよかった。何やってんだか俺は。

 ・・・・・・。『MP回復速度二十倍』をセット。

 

「すぅー、はぁー。あぶねー」

 

「どうかしましたか?」

 

「なんでもない」

 

 大丈夫、大丈夫。

 落ち着け。MPが減ってネガティブ思考になっているだけ。休憩をすれば回復する。

 

「二階層の探索をはじめてかなり歩いたけど、ボス部屋には着かないな」

 

「ふふ。前にもそんなことを言ってから待機部屋を見つけましたよ? 案外次の通路で見つかるかもしれませんね」

 

「それはいいな。これから休憩のたびに言うことにしよう」

 

 「噂をすれば影が差す」というのは人物にだけあてはまると思っていたけど、物や抽象的なものでも対象になるんだろうか。雨が降らないかなとか、バス来ないなとか。

 ちなみに、個人的に「噂をすれば影が差す」の対義語は「物欲センサー」ね。一生出てこないレアモンスターとか、ドロップアイテムとか。ゲームはよくできてる。本当に。

 

「クラリス、ここまでかなり慎重に戦ってきたけど、どうかな。なんというか、うーん。・・・・・・かっこわるくない?」

 

「ご主人様をかっこわるいと思ったことはありません。ただ、この消耗が激しい戦い方はすこし考え直した方が良いかもしれません。MPではなくご主人様の体力の話です。かなりお疲れですよね?」

 

「え、そうかな? でもクラリスだって魔法を結構使っただろう?」

 

「へっちゃらです。それに二階層の探索の休憩はこれで三回目ですよ? お気づきですか」

 

 そ、そんなに休憩を挟んでいたのか、気が付かなかった。もしかしてこのダルさはMPの消耗じゃなくて俺の気疲れ? スパイスパイダーの毒を、無意識に俺が思ってる以上に気にしてるのか。俺って自覚してるよりもメンタルが弱いのか。

 盗賊を殺したときも、フランシスとの決闘のときも、気分が悪くなったり体の動きが鈍くなるような事はなかったから、大丈夫だと思っていた。むしろメンタルが強いほうだと思ってたよ。そうか、俺ってビビりなのか。

 盗賊やフランシス相手にはどうもなかったのに、毒にはビビるのか。よくわからない。

 

「クラリス。自覚はなかったけど、どうにも俺は今ビビっているみたいだ。スパイスパイダーの毒に恐れおののいているらしい。クラリスに指摘されるまで休憩のことに気が付かなかった」

 

「ご主人様がそんなかわいらしいことをおっしゃるなんて、珍しいですね」

 

 おいおいクラリス。その反応は幽霊を怖がってる子どもを見たときのものだろう。男にかわいらしいは禁句とまではいわないけど、うれしくもない。

 

「そこでだ。俺はこの無意識の恐怖を意識的にどうにかしたい」

 

 塗りつぶしたり、追いやったり、上書きするのは・・・・・・塗りつぶすのと一緒か。

 あとは別の感情で恐怖を忘れる。そう、エッチな気持ちでな。

 

「あの、ご主人様。その、どうしてこちらにせまってくるのですか。えっと、壁が、動けなく、あ、あの。んっ!?」

 

 原作でも主人公ミチオが毒にやられて倒れるシーンがある。小説ではあまり気にならなかったけど、漫画はより鮮明だ。

 

「っん。あん、ちゅ、ぁん。ん。まってぴゃぁぁ! そこだめっんん!?」

 

 血を流し、視界が狭くなって、まともな思考ができなくなっていた。主人公ミチオを治療するために毒消し丸を口移ししたセリーを邪険にするほどだ。

 

「ご主人様! 迷宮です! ここ迷宮でひゃん。だめ、まだでませんかっら、そんなにすっちゃだめ。ん」

 

 あの漫画のシーン。読んでいたときは「へー、たいへんだなぁ」ぐらいの気持ちだった。だけど、当事者になったらそのことを強く意識していたんだ。さくらんぼうまうま。

 

「ほんとにだめ。これいじょう、だめ。いっちゃう。ごしゅじんさまぁ」

 

 無意識というのは怖い。クラリスが気づかせてくれて、改めて自分のこと考えてもビビっている自覚が全くない。言い訳なのか「慎重に行動しているだけだよな?」という自分がいる。

 

「ん。・・・・・・ん。あっ。ごしゅじんさまぁ、イㇰっ、んんっ!」

 

 たかだかスパイスパイダーごときにこの有様。ニートアント相手に大丈夫かなぁ。俺は毒消し丸があれば大丈夫だと思っているけど、無意識がなぁ。

 

「はぁ、はぁ。ちゅ、ん。あむ。ん、ちゅ。ふぇ? え、え、ご主人様!? こんなところで本気ですか!? だ、だめ! 入れちゃうんん!?」

 

 上の階層に行く前に本格的にロザリーを鍛えるか、パーティーメンバーを増やすか。俺たちは二人。どちらか一方が毒にやられたら、それはパーティの崩壊と同じだ。

 

「はぁ、はあ。ご、ごしゅじんさまぁ、だめって、いったのに」

 

 うーん。階層を探索するときはロザリーを連れてくるか? そもそも俺はボス周回主義だ。ボス部屋を見つけてしまえば後はもうニートアントとも、スパイスパイダーとも戦わない。

 

「ごしゅじんさまのっ、はれんちっ、すけべっ あんっ」

 

 うんうん。それぞれのボスは毒を持たないし、いい考えじゃないか? 

 あまり覚えてないけど、魔物を選んで迷宮に入ってもいい。確か、ニートアントがかなり上で出てくる迷宮もあった。

 

「イㇰっ、ごしゅじんさま、イきます。ぅん、ああ!」

 

 ドクッドクッと流れ出るリビドーがクラリスの壺に注がれる。

 気持ちいい。ビクビクッと震えるクラリスがかわいい。

 

「ふうぅ。よし! すっきりした! いろいろ考えるのやめ!」

 

 蕩けきった顔が愛おしくてキスをする。かわいい。

 

「あっ、ちゅ、ちゅ、あむ、ん、ん。はれんちですぅ」

 

「かわいい可愛いクラリス、愛しているよ。ちゅ」

 

 いろいろ濡れてちょっと気持ち悪いけど、すぐに乾くだろう。それより頭がすっきりした。さっきまでいろいろ策を考えてみたけど俺らしくない。魔物は倒す! レッツゴーだ!

 

「スケベ! ハレンチ! ご主人様のヘンタイ!」

 

 クラリスから罵倒された。

 着崩れた服を正して探索を再開する。

 乱れた服を直すクラリスの体を触ったら、マジでゴミを見る目をされたのでさすがに自重した。

 

 

 二階層の探索はさらに時間がかかった。一階層は早々にボス部屋を見つけられたのにうまくいかない。

 迷宮が広いという話は知ってる。上の階層に進むのに二、三日かかる場合もあるとか。景色に変化もないから迷いやすい。

 このままじゃ今日中にニードルウッドの階層にはたどり着けないかもしれない。

 

鑑定

 スパイスパイダーLv2

 スパイスパイダーLv2

 

「クラリス、ストームよろしく」

 

「・・・・・・。―、―、ファイヤーストーム」

 

 まだ怒ってるよ。ふくれっ面もかわいいね。

 駆け出してスパイスパイダーにダブルスキルを叩き込む。燕返しの二連撃だ! これで一体は煙になった。

 焦らずに二体目を視界にとらえる。攻撃される前に追撃できるな。ダブルスキルを叩き込んで二体目も煙となった。

 

「ふぅ。クラリスから見てどうかな、もう変なところはない? 気負ってるように見えるとか、動きが硬いとか」

 

「・・・・・・」(ぷいっ)

 

 顔をそらされた。かわいい。

 むくれてる。かわいい。

 あんなに気持ちよさそうにしてたくせに〜。今言ったらマジで怒りそうだから言わないけど。

 

「クラリス」

 

「・・・・・・」

 

「かわいい! 顔ちっちゃい! 髪がキレイ! 瞳がステキ! おっぱい大きい! お尻が柔らかい!」

 

「ハレンチです!」

 

 やっとこっちを見てくれた。まだ機嫌が悪そうだけど、それもかわいい。なんだろう、俺クラリスにメロメロだなおい。

 

「それでどうかな? 改めて考えるとクラリスの言った通り、かなり気負って探索してたみたいだ。体が軽くなったのが自分でもわかる」

 

「・・・・・・そうですね。角が取れたように見えます」

 

「それもこれもクラリスのおかげだ。ありがとう」

 

「・・・・・・ご主人様のスケベ」

 

 こんなことを言っているけど、俺の脳内にはあの蕩けきったエッチな顔が保存されてるから。クラリスも十分スケベだよ。

 

「ご主人様、待機部屋です」

 

「おお、やっとか。疲れてないし、このまま挑もう」

 

 ボスの扉をくぐって進む。いつものように煙が集まってボスが・・・・・・いる。ということは周囲に装備品が──ない。

 

鑑定

 スパイススパイダーLv2

 

「ご主人様、ボスが既にいます」

 

「前に挑戦したパーティが全滅したんだろう。装備品が見当たらないからかなり前だな」

 

 既に装備品は迷宮に飲み込まれて宝箱行きか。もったいない。どうせなら俺のものにしたかった。

 とはいえ、前のパーティが弱らせてくれてるからこいつは楽に倒せる。

 

「行くぞ」

 

「―、―、ファイヤーボール!」

 

 ボスが炎に包まれるけどまだ倒れない。

 俺もダブルスキルを叩き込む。倒れない。

 おやぁ? こいつ結構体力残ってるな。全滅したパーティは早い段階でやられちまったのか。

 炎がはれたボスの足をクラリスの鋭い槍が斬り落とした。

 

「おっ!」

 

「やりました!」

 

 クラリスの初めてのラストアタックだ。ちょっと困る。

 

「予想より体力が残ってたけど、やっぱり弱ってたな」

 

「かなり早く倒せましたね」

 

 ボスを倒せたのはうれしいけど、ラストアタックをパーティーメンバーに取られると、俺のキャラクター再設定の経験値とか結晶化促進の恩恵が受けられない。うーん、贅沢な悩みだ。

 

「次の階層は何の魔物だっけ?」

 

「えっと、コラーゲンコーラルです」

 

「それだ! で、コボルト、ナイーブオリーブだっけ」

 

「そうです」

 

 次は俺たちがバルタークで挑んでいた三階層だ。強さは問題ない。コラーゲンコーラルとも戦ったことがある。よし、ガンガン行こう。

 

「なんとかボス部屋には着いたか。でも、挑むのは明日だな」

 

 ガンガン進んだ結果、俺のお腹が限界を迎えた。

 おなかがすきました。おひるごはんも食べてないしね。

 

「わかりました」

 

 帰りは『ダンジョンウォーク』で楽ちんだ。出口に跳んで迷宮を出る。

 出る! ・・・・・・出られない?

 

「おかしいな。出られないぞ」

 

「他のパーティとかぶってしまったのでしょう。フランシスから聞いたことがあります」

 

 出るタイミングが重なったのか。そういえば迷宮に入るときも一人ずつだな。

 

「ほんとだ。今度は通れる」

 

 試しに突っ込んだ右手が黒い壁に吸い込まれる。外に出るとクラリスの話のとおり他所のパーティがいた。

 

鑑定

 探索者Lv21

 

 戦士Lv15

 

 巫女Lv19

 

 戦士Lv20

 

 四人組のパーティか。回復役もいる良いパーティだな。

 あとは『魔法使い』と『僧侶』がいたらより安定したパーティになりそうだ。俺も早くお金を貯めて仲間を増やそう。

 

「ご主人様? どうかしましたか」

 

「ん? いやなに、彼らを見て俺も早く仲間を増やしたいと思ったんだ」

 

 ロザリーという優秀だけど迷宮に入らない奴隷を迎えたから、早いうちに正式なパーティメンバーが欲しい。お金はないけど。

 

「パーティーメンバーですか。回復のできる僧侶か神官がいると助かりますね」

 

「入れるなら巫女だな。前衛を任せられる勇敢な人がいい」

 

 パーティーメンバーは『竜騎士』『鍛冶師』『暗殺者』が優秀すぎるから欲しい。クラリスが『魔法使い』で俺が『探索者』だから最後の一人は『神官・巫女』がいい。主人公ミチオのパーティーメンバー構成を踏襲する形になるけど、実際優秀な構成だから仕方ない。

 クラリスがいなかったら俺が『魔法使い』を兼任して、もう一人『暗殺者』を入れるかな? 俺が『博徒』を手に入れる前提の話になるけど。

 

「クラリスがいてくれるからいっそ全員巫女にしてみようか。全滅はしないと思うよ」

 

 メイン火力を『魔法使い』に絞って残りを回復役で固める。『魔法使い』に依存した構成になるけど『神官・巫女』も武器を持って戦うのが当然らしいから、そこまで的外れな構成でもないはず。

 

「ふふ。呪文を同時に唱えると失敗するそうですから、余程連携の取れたパーティでないと大変かもしれません」

 

「ああ、聞いたことがあるな」

 

 原作でセリーが言っていた。呪文が干渉して魔法が失敗するんだっけ? 一秒を争う場面でお見合いすることになったら目も当てられない。事前に詠唱する順番を決めたり、メンバーのコミュニケーションが大事だな。

 

「全員巫女は難しいか。まあ一人はいてもいいな」

 

「ええ。才能が必要と聞きますが、なれずとも僧侶なら可能でしょう」

 

 またセリーの話だな。彼女は『巫女』のジョブを得られず奴隷になった。この世界では才能とされているが、それは『村人』レベル5が条件に含まれているからだ。

 滝行による精神統一と『村人』レベル5以上。この二つの条件を満たしたとき『神官・巫女』のジョブが手に入る。ところがキャラクター再設定で鑑定を持たない人にはジョブのレベルを確認する方法はないし、ジョブ設定で自分の持つジョブを確認できない。

 才能ではなく、迷宮の外で魔物相手に戦ってレベルを上げた、勇敢なものがなれるジョブなのだ。

 

「まだ先になるけど、新しい仲間は巫女か僧侶で決まりかな」

 

「あの、やはりロザリーを迎えたり家を借りてかなりお金を使いましたよね。もしかして心もとないのでしょうか?」

 

「・・・・・・そんなことはないよ?」

 

「・・・・・・」

 

 夕日がきれいだなぁ。

 東は山なので日は全く見えないけど。

 クラリスの顔を直視するよりはいい景色が見える。今はクラリスのキレイな顔を見れないよぉ。

 

「・・・・・・まあ、当分先とだけ」

 

「・・・・・・ごめんなさい」

 

 あれ? 思っていた反応と違う。もっとこう、性癖に刺さりそうな、さげすむ感じの視線じゃなくて、謝罪だ。クラリスが悪いところあったっけ?

 

「どうしたんだ? クラリスが謝るようなことはなかったと思うけど」

 

「いえ、あの。ロザリーが家具を選ぶとき、もう少し意見するべきでした。新品の家具ではなく、中古品でもよかったのです。それに、あのときのロザリーは奴隷らしくありませんでした。私も同罪です。ご主人様の意見を無視して職人と交渉するなどしてはならないことです。ご主人様は家具を買ってくるように言いました。それを勝手に家具の注文に切り替えるなんて。・・・・・・申し訳ありませんでした」

 

 クラリスが深く頭を下げる。

 ・・・・・・えっと。困る。確かに思わぬ出費に思うところはあった。でもそれはもう終わったことで、ロザリーにエッチなお仕置きをすると決めた。

 罪の罰を受けるのはロザリーで決まっている。そこをクラリスに謝られると混乱する。

 真剣に謝っているクラリスに「気にしなくていいよ」と言うのは簡単だ。だけど、罪悪感を抱いている相手に何の罰も与えないのもよくない、らしい。漫画で読んだ。

 ・・・・・・。いっか。ラッキーくらいに思っておこう。クラリスにもエッチなお仕置きをしちゃえばいいんだ。クラリスは罪悪感が薄れて俺はクラリスにセクハラができる。「win-win」ってやつだ。

 

「クラリス。誤魔化さずに言えばその通りだ。ロザリー、貸家、家具と大きな出費が続いて余裕がなくなった。俺が趣味嗜好を優先しているからクラリスとロザリーが罪悪感を抱く必要はないと思う。でも、やっぱり家具に関してはその通りだ。クラリスは止めることができたのに、奴隷でありながら中古品を嫌って新品を注文した」

 

 俺も中古品は嫌だったからむしろファインプレーなんだけど、それは横に置いといて。

 

「クラリスにも罪の意識があるようだし、その件に関して、改めてお仕置きはする。もちろんロザリーにもだ。自分の置かれた立場、いや、環境だな。環境の変化を理解できていない。俺はいずれ貴族になるけど、まだ貴族じゃない。貴族に仕えていたときと同じ考えじゃ困る」

 

 困るのはお金がないというしょっぱい理由だけどね。貴族と迷宮探索者じゃ財力は雲泥の差だよ、ロザリー。今夜、ベッドの上でそこのことを体の芯から教えてやる。エッチな意味で。

 

「だけど、まずは食事だ」

 

 暗い話をしている間に家に着いた。ロザリーも連れて街のレストランで食事をしよう。おなかが減ると気がめいっちゃうからな。

 

「お仕置きは食事の後だ」

 

「かしこまりました」

 

 ロザリーを呼ぶために呼び鈴を鳴らす。便利だなこのベル。

 

「ああ、そうだ。お仕置きとは別に前に言ったことを思い出してもらおうかな」

 

「・・・・・・なんでしょう」

 

「言っただろう? クラリスは俺のモノだって」

 

 クラリスを抱きしめて、エッチでもスケベでもない、愛を伝えるキスをした。

 

「クラリス、愛してる」

 

 

 街での食事は、まあこんなものか、という感じだった。

 俺は肉をたくさん食べて満足した。ロザリーはどうにも肉を贅沢品だと思っているようで野菜しか食べない。クラリスは顔を真っ赤にしてひたすらパンをちぎってはスープに浮かべて別の料理を作っていた。ちゃんと食べたよね? 今日の夜は俺すごいよ?

 

「ロザリー。寝具は今日にも運んでくれるという話だったけど、もう寝る準備はできてるのか?」

 

「ご用意できております」

 

 湯船につかりたいけど、浴室にはまだ浴槽がないし、今日はいつものようにタオルで洗うだけか。・・・・・・てか浴槽注文してないじゃん。オーダーメイドの件ですっかり忘れてたよ! 浴槽というかでかい桶だけどさ。

 明日にでも職人のところに行って注文するか? うーん。いや、全部の家具を納品してもらってからの方がいいか。うん、そうしよう。こう「よい腕だ。腕を見込んで注文したい品がある」という感じで。

 

「わかった。ところでロザリーは明日は予定がないな? 一緒に迷宮に来てもらうぞ」

 

 机と椅子、食器棚は二日後だ。だからまだ料理もできないし搬入もない。明日はロザリーを迷宮に連れて行って『探索者』になってもらう。奴隷でパーティーメンバーなのに後方で見学という破格の待遇になってしまうけど、主人である俺の方針なので文句は黙殺。

 

「かしこまりました」

 

「クラリス、そのうち時間を作るからロザリーに稽古をつけてほしい」

 

 今はお金に余裕がないから無理だけど、迷宮に入らない訓練の日を作ってもいい。でもそうなると、クラリスがロザリーに稽古をつけている間は俺が暇だ。この世界にはゲームとか映画はない。

 暇をつぶすのも難しいな。となると一人で迷宮に行くか? 『ワープ』でバルタークの迷宮のコボルト周回なら目立たない。金策もできる。・・・・・・あれ? これ案外良いのでは? クラリスや今後増えるパーティーメンバーと一緒にボスを周回するより簡単じゃん。

 それに最近気がついたことがある。ボーナス呪文の『エクストリームドロップデッド』はレベル1とレベル99を倒す魔法だ。これは魔物にも有効なので、一階層のボスはこれで鼻歌交じりに倒せる。殴って倒す必要もなくなってより速い周回が可能だ。革命だ。運営ナーフしろ。

 明日にでも試したいけど、いきなりそんなことを言うのは不自然か? いや、俺は主人なんだしちょっとは無理を通してもいいのでは? 

 特に今は金がない。主人権限をふるう時か。情けない理由だなおい。

 

「クラリス、すこし思いついたことがあるんだ。だから明日は・・・・・・クラリス?」

 

 そういえばロザリーに稽古をつけることへの返事がないな。俯いたクラリスの顔を覗き見る。

 

「クラリス? 聞いているか?」

 

「え、はっはい。いいえ。その、聞いていませんでした」

 

 顔が赤い。

 クラリスの顔が赤い。風邪だろうか? 本当に?

 

「ロザリーに稽古をつけてほしいという話だ」

 

 いつから顔が赤い? 食事をしているときにはもう赤かった。

 

「え、ええ。それなら大丈夫です。フランシスに教えられたことをロザリーに教えればよいのですね」

 

 視線が合わない。照れてるよね、キミ。

 

「奥様、よろしくお願いいたします」

 

「はい、任せてください」

 

 ・・・・・・。なんだろう、普段は察しが悪いと言われる俺の鈍いシックスセンスが訴えかけてくるぞ。ここが攻め時だと言っているぞ。

 俺はクラリスを抱き上げた。お姫様抱っこだ。

 

「え?」

 

「ロザリー、悪いが俺今から家まで走る。お前を置いていくし、明日は迷宮に連れていけないかもしれない。わかったな」

 

「かしこまりました」

 

 恭しく頭を下げるロザリーをおいて俺は『オーバーホエルミング』で加速する。背景すら置き去りにして走り出す。

 高速だ、高速移動だ。今ならポケモンより速く走れる。効果が切れようが構うものか。もう一度『オーバーホエルミング』だ。とにかく早く、速く、はやくだ。

 家に着いたら鍵を開ける時間すら惜しい。というかロザリーに鍵を預けっぱなしだよ。このクソボケが。

 ええい仕方ない。キスをしてクラリスの視界を俺で遮って見えないうちに『ワープ』で家に入る。土足厳禁じゃなかったっけ? 知らん。このまま寝室だ。『オーバーホエルミング』! 俺に力を!

 

「・・・・・・ごしゅじんさま?」

 

 クラリスの甘い声が聞こえる。

 丁寧に、ことさら丁寧に、クラリスをベッドに寝かせる。

 俺は上から覆いかぶさるようにベッドに上る。両の手をクラリスの頭の横に、体重をかけないように膝立ちで。

 

「クラリス、どうして俺を見てくれないんだ?」

 

 視線が合わない。クラリスが顔をそらしている。どうして?

 

「俺の勘違いじゃないなら──」

 

 ──照れてる?

 

 クラリスの愛らしいエルフ耳に触れそうなくらい近づけて、囁くように問いかける。

 

「──ん」

 

 とがった耳の先まで真っ赤になった。

 

「とてもうれしいけど、とてもくやしいよ、クラリス。俺の気持ちが伝わったんだね? 俺はスケベでハレンチでヘンタイだけど、この愛する気持ちが本物だって」

 

 クラリスは答えない。でも言葉以上にかわいい顔が教えてくれるよ、クラリス。

 

「だけど、とってもくやしい。どうしてクラリスがそうなったのかわからないんだ。愛してると毎日伝えたけど、クラリスは応えてくれないだろう? なのに今日、ついさっき、帰り道でその顔だ」

 

 視線が絡み合う。ようやくこっちを向いてくれた瞳はうるんでいて、とっても俺の劣情を駆り立てる。今すぐ君をめちゃくちゃにしたいよ。

 

「教えて。どうして俺の気持ちが突然伝わったの?」

 

「・・・・・・ら」

 

「うん?」

 

「教えて、くれたから。ハヤトさんがキスで」

 

 ──クラリス、愛してる。

 

「ハヤトさんは毎日伝えてくれたというけど、わかりません。だって、本当にあなたはエッチでスケベで、誰だって私の体目当てだって思います」

 

 ごふっ。

 異世界に来て一番ダメージを受けた。フランシスの剣より痛い。

 

「今日も、迷宮であんなことをして、ハレンチでヘンタイさんです」

 

 かはっ。

 

「そんな人の愛してるなんて、信じられるはずありません」

 

 あ、う、あ。

 

「でも、家の前でしてくれたキスはいつもと違いました。ほんのすこしだけ唇を合わせてくれる優しいキスでした。すごく、すごく驚きました」

 

 ドクン。ドクン。心臓がうるさい。

 

「ハヤトさんがわるいんです。私、反省していたのに、自分が奴隷だって、キチンと納得しようとしていたのに」

 

 ──私も同罪です。

 

「自分の事を責めていたのに、はじめてハヤトさんに叱られて、私、こわかったのに、あんなキスをするなんて」

 

 ハヤトさんはずるいです。そう言って俺の胸元をつかむ。

 

「ハヤトさん。私、初めて知りました。あなたにエッチなことをたくさんされたけど、あのキスがよかったんです。優しいキスがいいんです。だからもう一回して」

 

 初めて見る表情だった。かわいい顔じゃない、きれいな顔じゃない、蕩けた顔でも、甘い顔でもない。鋭くにらみつける、獣のような、女の顔。

 

「もう一回キスして、もう一回言って。言いなさい」

 

 ゆっくりと体から力を抜く。クラリスは腕の中だ。顔を近づけるなんて簡単だ。だけど、いつもの情欲に任せたむさぼるような衝動はない。

 心臓がうるさい。なんだ、なんだこれ。すごく恥ずかしいぞ。なんでだ。もっと恥ずかしいことをいっぱいしたのに。

 

「ハヤトさん」

 

「くらりす、あ、あいしてる」

 

「ダメ。もっと、もっと私を見て。キスするから」

 

 めがまわりそうだ。くらくらしてきた。クラリスに視線を合わせられない。なのに、視界一杯にクラリスが無理やり映り込んでくる。あ、捕まった。

 

「愛しています。ハヤトさん」

 

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