暴走ワンちゃん
「つまり、零落白夜はシールドエネルギーを使う技だったから。白式のシールドエネルギーが切れったことか。」
「そうだ。まったく武器を使うのは結構だが、使う前に武器情報を見ろ。」
「気持ちが高ぶっていてね。」
一夏の敗因は雪片弐型の『零落白夜』の副作用を理解していなかったことにある。
だが、あそこで、隙だらけのオルコットを見逃せば、オルコットは再び距離を取り、スターライトmkⅢで射撃に徹していただろう。そうなれば、勝敗がどっちに転んでいたか分らなくなっていた。だからこそ、一夏は出せる最大の攻撃を仕掛けようとしたのだが、それが結果として敗因となってしまったのだ。
その後、一夏は真耶から専用機持ちが守らなければならない規則の本を渡される。
その本はまるで電話帳のように重く厚かった。
すこしげんなりする一夏だが、専用機を貰えただけ良しとしなければならない。
「一夏。」
「なんだい?」
「その、なんだ……負けて悔しいか?」
「悔しくないと言えば、嘘になるね。」
「そうか。それなら、明日からは、あれだな。ISの訓練もいれないといけないな。」
「ISの操縦、教えてくれるのかい?」
「一夏がどうしても私から教わりたいと言うのなら、知っている限りで教えてやることも吝かではないと言ったのだ!」
「そ、そうかい。だったら、教えてくれると助かるかな。」
「そうか。そうか。一夏は私が居ないとダメなんだな。そうか。うむ。それなら、仕方がない。私が教えてやろう。これから毎日放課後はISの特訓だな。」
「は…はぁ。」
箒は少し嬉しそうに頷くと、鼻歌を歌っている。
そんなに僕とISの訓練することが出来て余程嬉しいのかと思い、一夏は箒を見る。
箒は眉間にしわを寄せて笑みを隠そうとしているが、隠しきれていない。
そのため、少し歪だが、とても綺麗な澄み切った笑みが一夏の目に映った。
その笑顔を見た一夏は誓う。
この笑顔が汚れることがないように、全て、引き受ける。呪いも、汚れも、毒も、何も。
「どうした?一夏?」
「何でもないよ。」
一夏はそう言うと、前方を歩く箒に追い付くために、少し足を速めた。
オルコットは自室でシャワーを浴びながら、あることを考えていた。
「織斑一夏。」
今日の試合の相手だ。オルコットは試合に勝った。だから、織斑一夏は敗者だ。
この世界では男は敗者で、惨めな姿をさらすだけの無様な存在であると、自分の父のように。だから、男はとるに足らない存在だとオルコットはこれまで思っていた。
だが、織斑一夏は違っていた。普通の、これまで自分が見てきた男とは違っていた。
「あんな瞳、初めてでしたわ。」
一夏の目は何かを渇望している者の目をしているように、オルコットは感じた。
それが何かは分らなかったが、そんな男の瞳を見たのが初めてだったオルコットは一夏のことで頭がいっぱいだった。
数日後のISの実習。
一夏とオルコットは飛行の手本を見せるために、専用機で実演することとなった。
何故最初の実習でこの手本を見せるのかというと、1か月後に全員できているようにするためだった。
見せ者扱いされることに一夏はため息を吐くが、オルコットは一夏と一緒にISの手本を見せられると思い、張り切っていた。
オルコットは素早くISを展開し、地上から10cmのところで空中停止して、一夏を待っている。一夏も千冬に指示されてISを展開する。
一夏の展開が終わると、オルコットは急上昇し、それに一夏も続く。
「遅い。スペック上の出力では白式の方が上だぞ。」
「そう言われてもな。前方に角錐だったか。少しイメージしにくいな。」
「所詮イメージはイメージですわ。ですから、自分のやりやすいやり方を探す方が建設的でしてよ。以前私と戦った時はどんなイメージをしながら、飛んでいましたか?」
「前方に君が居たから、それに飛び込む感じだったのだけど。」
「わわわたくしに、飛び込む感じですか!?」
「でも、今は目標がないから、速度を上げるってイメージが難しい。」
「な…なるほど。つまり前日の試合では私を目標に跳んでいたから飛びやすかったけど、今はそれが出来ないから、難しいというわけですね。その、よろしければ、放課後に指導して差し上げますわよ。」
「え?」
「その時は二人きりで…」
「織斑、オルコット、急降下と完全停止をやってみせろ。」
一夏とオルコットが話していると、千冬から次の指示が出る。
オルコットは返事をすると、一夏より先に急降下を行い、完全停止に成功した。
一夏もオルコットに見習い、急降下を始める。だが、思った以上の速度が出て、地面に早くたどり着いてしまいそうになる。
人間は前後左右の距離感はある程度正確で、目視で距離を測ることが出来る。
だが、人間は体の構造上空を飛べないため、上下の距離感が鈍くなってしまうようになっている。そのため、一夏は自分から地面までの距離を測り間違えたのだ。
さらに、重力による急降下の加速が一夏の地面までの到達予測を狂わせた。
結果、一夏の予測より、数秒ほど早く地面に到達しそうになる。
完全停止を試みるが、それでもこのままでは頭から地面に突っ込んでしまう。
そこで一夏は雪片弐型を展開し、地面に向かって振るう。
雪片弐型が地面にぶつかったことで、衝撃が一夏を襲う。だが、一夏はその衝撃を手首、肘、肩に分散させ、逃がすことで、怪我することを免れた。
「馬鹿者、誰がグランドの掘削をしろと言った。」
「すみません。」
衝突の衝撃はぶつかった両者に襲い掛かるため、地面にも衝撃が伝わっている。
その結果、地面には大きなクレーターが出来てしまった。
「情けないぞ。一夏、私が教えてやったことをまだ…」
「大丈夫ですか?一夏さん!お怪我はなくて!?」
「あぁ、大丈夫だけど、…って、一夏さん?」
「それは何よりですわ。あぁ、でも一応保健室で見てもらった方が良いですわね。よければ、私がご一緒に…」
「無用だ。ISを装備していて怪我などするはずがないだろう。」
「あら、篠ノ之さん、他人を気遣うのは当然のことでしてよ。」
「おまえが言うか、この猫かぶりめ。」
「鬼の皮を被っているよりはマシですわ。」
一夏をよそに箒とセシリアはにらみ合いを始める。
その後、千冬から一夏は放課後、アリーナを元に戻すように言われ、実習は再開された。
最初ということもあり、ISに乗りなれていない生徒が多いため、ISの装着が自分で行うための練習が行われた。
専用機持ちの一夏とセシリア、そして、教員の千冬と真耶の4人が監督をする形で4つのグループを作り、一般生徒のISの実習を始めた。
そして、実習が終わり、授業が終わり、放課後のアリーナの整備となった。
アリーナの整備と言ってもそんな大そうなものではない。
アリーナの土が置かれている場所から、土を運び、クレーターを埋めていく作業だ。
土の置いてある場所は第1アリーナの近くであるため、第3アリーナから少し離れている。そのうえ、運ぶ土の量が多いため、人力でしていては日が暮れて、次の日を見ることになる。そのため、ISの使用が許可されている。
つまり、この罰はISに慣れていない生徒がISの練習も兼ねている。
一夏が一人でアリーナの土を運んでいる時だった。
ある人物から声をかけられた。
「一夏さん、お手伝いいたしますわ。」
セシリアだった。
意外な人物の登場で一夏は驚く。今日のセシリアの態度が昨日までと違い過ぎる。
そのため、一夏は戸惑いを隠せなかった。
「あ、ありがとう。オルコットさん。」
「わたくしのことはセシリアと呼んでくださいな。」
「そ、そう。分かった。じゃあ、頼むよ、セシリア。」
「はい。」
そう言って、セシリアは一夏のグラウンドの整備を手伝い始めた。
一夏はセシリアの思惑が読めず、戸惑っている。戸惑いながらもISを動かし、一夏はグランドを埋めていった。二人がかりで行ったため、思ったより早く作業が終わった。
「日が暮れる前に何とか終わったね。手伝ってありがとう。セシリア。」
「いえいえ、私は手伝いから手伝っただけで、感謝されるようなことは……。」
セシリアは目を逸らし、頬を染めながら、口ごもる。
そんなセシリアの姿を見た一夏はセシリアがどうして手伝ってくれたのか、理解した。
切っ掛けが何かわからないが、セシリアも自分に惚れている。
一夏がそれに気づけたのは、これまで数えきれないほど告白されたのが大きい。
個人差はあるが、自分に告白してくる人間の大半がこんな行動を取っていた。
体験に基づいてセシリアの表情を分析した結果、そういう結論にたどり着いたのだ。
「ほんと、どうしてこんな男が良いのか、理解に苦しむよ。」
一夏はセシリアに聞こえない程度の声で呟く。
その後、食堂に行けば、自分の代表就任祝いのパーティが開かれていた。
その頃ドイツ
「ハルフォーフ大尉、先日のロードローラーの件の報告書を提出しろ。」
「隊長、待ってください。今、ラスボスを!」
『ノインツェーン、もう……』ブツッ
「終わりにしろ!そして、さっさと、報告書を提出しろ!」
「ぎゃああああ!PCの電源がぁ!隊長の鬼!悪魔!デビルゾア!」
「……ハルフォーフ大尉、仕事をしろ。」チャキ
「jawohl(了解しました。)」