ブルアカ先生 クソメンドイ文学者概念   作:よくメガネを無くす海月のーれん

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ほぼ一発屋


吾輩はただの人である 名前は忘れた

吾輩は猫でもましてや猫をすくうノーチラスでもない。才を膨らませよう、文を膨らませようと、私自身、珍味異香を献上せんとどれだけ言葉を並べたところで、紙を貼り合わせたはりぼてというもののように、誇大広告を纏っているような

 

ただの人であった。名前は忘れた。

 

「ごめんなさい…私のミスでした」

 

そんな私にもかつてないほどの奇妙奇天烈なことが起こっていると腐れた脳が訴える。まんざら空お世辞に聞こえないくらいの、世俗に染まりきらない中途半端な賢さがあると自負しているが、如何せん私の眼に映るそれは何ともおかしなことに、死後の世界であるらしかった。

 

「えっと…先生?」

 

どうやら私は先生であるらしい。なんということか。私はかつてない程顔をしかめた。それはもう美醜についての訓練を経て来たひとなら、ひとめ見てすぐ『なんて、嫌そうな顔だ』と頗る不快そうに呟くだろうその顔だ。

真に残念ながら、私は子供が嫌いである。子供と言うのは感情の分別が効かぬ。無垢というのは大層恐ろしく私なりの経験を語らせてもらうならば子供はあまりにも発言というものに対して責任を持たない。『ごくつぶし』という言葉の意味すら知らない子供がその言葉が持つ切れ味を知らないままその刃を振るうことに皆がしょうがないという顔で流すのは私にとっては如何せん納得しがたいものだった。

 

兎角

 

私は子供が嫌いであった。文章にして182文字という嫌いという言葉を表すにはぜいたくに余白を使いながら述べると私は子供が嫌いなのだ。

 

「…今更図々しいことはわかっています。お願いします」

 

大体なんだというのだ。君は。

 

私は苦々しく口を開くがどうにも声が出ない。はて、これは夢なのだろうか?

 

「きっと私の話は忘れてしまうでしょうが、それでも構いません」

 

忘れるものか阿呆め。斯様な女を忘れるというなら文字の向こうの諸兄に笑われても文句は言えぬ。語りたがりの衒学者が果物の品評でもするかのような批評家気取りの一阿呆とて、私は一切忘れておらぬ。その冗句染みた愚見とて、かの偉大なる哲学者が毒の杯を飲み干すように喰ろうて血肉に変えるが文学者の生業である。これほど、奇妙で珍妙で面白い出来事を忘れるような脳の出来はしておらぬ。

 

それか、

 

もしこれが忘れるように細工しているというのであれば私は今この瞬間、駄々をこねる赤子のように泣き喚いて縋るだろう。文字書きにとって経験とはなにものにも換えがたいものであり、それをどうして言葉に変えようかと苦悩するのが命題である。それを奪うのであれば命を賭して抵抗するつもりだ。

 

「先生、どうか…」

 

おい

 

おい

 

女め。斯様なことが許されるとでも思っているのか?このような仕打ちが許されていいと思っているのか?

 

なんということだ。意識が薄れていく。本当にこれで終わりらしい。私は強く、強く腕をつねることにした。痛みが私に記憶を刻み込むよう願ったのだ。絶対に忘れぬと。絶対に許さぬという強い意志を込めてあらん限りの力でつねりながら、私は消えゆく闇に向かって恨み節を吐いた。

 

誰が先生になるか。阿呆め

 

―――――――――――――

 

「…い、……んせい」

 

「先生!起きてください」

 

声がする。私は眠気眼を薄っすら開けてまた閉じた。口を開く

 

「編集くん。あと数時間は寝かせてくれ給えよ…大体物書きの人間にロクな奴はいないと常々いつてゐるじゃあないか」

 

「先生…?」

 

「いいかい…?物書きというのはねぇ、自らの苦悩を世にひけらかす悲しい職業だ。今、私はこうして苦悩を溜めているのだよ。動かなければいけない苦悩というのは得てして読者という人種の心を揺さぶるものだ。誰もが経験したことあるものであるから、これを意味ある文字にするというのは大変な作業である。かのメリメやモオパッサンらの諸秀才のように美しく言葉を並べられるなら、今、こうして私は微睡んでいないのだよ」

 

「…先生…お疲れだったみたいですね。起きてください」

 

だから私は…と反論をしようとして、はて、気づいた。

いつから編集くんは女性になっていただろうか?編集くんは確か独身24歳で親に嫁をせっつかれてたびたび我が家に逃げ込む悲しい人種だったはずだ。ついでとばかりに催促をするものだから辟易するが、それ以上に哀れなのでたまに家においてやっていたはずの悲しい、それは悲しい男であったはず。

 

「夢でも見られていたようで…目を覚ましてください」

 

むくり、顔を起こす。慣れ親しんだ痛みが来る。どうやら座ったまま机に突っ伏して寝ていたらしい。いつものことなので身体をほぐしつつ、声のする方に目を向けて……

 

「誰だ、女」

 

「お、女?」

 

女だ。女がいる。変な女がいる。ま白い服に長い黒髪を携えた女がいる。百年待ってくださいと言いそうな女がそこに居る。目が蒼い。南蛮人か?はて、此処まで綺麗な目を見たことがあっただろうか。びいどろのような色硝子の目だった。その目にひきつけられたのを覚えている。

 

「改めて、今の状況をお伝えしますね」

 

そうして語られたのは到底信じられぬことであった。目の前の女は七神リンというらしく、この…学園?都市?「きゔぉとす」?なるところの連邦生徒会所属の幹部であるらしい。

 

わからぬ。点でわからぬが連邦とついているのなら偉いところなのだろう。連邦というのは複数の国が寄り集まって一つの国家になるものだ。つまりは複数の大きな組織が集まっているものの幹部を務めている。なるほど、お偉いさんである。

 

私はひとまず床に正座し、綺麗な土下座を敢行した。

 

「先ほどの非礼、謝罪させていただきたく…」

 

「せ、先生!?」

 

私は権力というものにすこぶる弱い。なにせ、権力というものは悲しいことに親と子を引き離し、親しい仲を容易く引き裂くものである。私は身体に不具があった為、戦争に行くことはなかったものの、戦争というものの物悲しさは十二分に味わってきたと自負している。帰らぬ夫を待つ妻の悲し気な顔を。涙を流した子供が必死に親の名を呼ぶ声も。英雄になったという慰めの言葉が呪いになってしまった家族を知っている。赤紙が恐怖の対象になったのは言うまでもない。

 

基本的にお上の言う事は絶対である。それに逆らうことの恐ろしさは筆舌に尽くしがたい。

 

権力というのはそれほど強く怖いものなのだ。故に、逆らってしまったなら平に許しを請うしかない。

 

「顔を上げてください先生!少し寝起きで動転していたのでしょう…だから土下座を」

 

「そうか」

 

すっくと立つ。その姿に唖然とした顔でこちらを見る七神女史に怪訝な顔をした。どうしたというのだ。許されたのならいつまでも土下座をするわけないだろう。私は別に地に膝を付けることに喜ぶなどという斯様な趣向は持ち合わせておらん。

 

「…っ、ごほん。おそらく私達がここに呼び出した先生…のはずですが…間違いないでしょうか?」

 

「………」

 

「混乱されていますよね。どうしても先生にやって頂かなければならない重要な仕事の為にお呼びした…そう考えて間違いないでしょう…詳しく説明いたします。どうぞこちらへ」

 

七神女史に連れられる。はて、どうやら私は呼び出されたようだ。誰に?何の理由で?そう考えるもいまいち答えが不鮮明の不彩色だ。考えあぐねている中、扉が勝手に開く箱?に、少しの恐怖を噛み殺しながら入ると、扉が閉まり、なんだか不安になる音で動き始めた。

 

「おぉ…」

 

なんということだ。世界が下に動いている。どんどんと地面が離れていくように見える。いや、元々地面から遥か遠くにいるのだろう。そこからさらに離れていく。面白い。面白いぞ。これほどの感動は初めて鉄道を見た時くらいだ。あれは面白い。鉄の塊が動くのだ。あれほどの巨体にどのような力を入れて動くのか、最初は見当もつかなった。未知というのは心を躍らせる。まるで無垢な幼子のように笑いがこみ上げるというものだ。理由のない笑みというのは人に備わる基本的な幸せを感受する構造の一つであると考えている。

 

そのような箱の中で説明されたのは以下のようなことであった。

 

ここは数千?の学び舎が集まって街を築いているらしい。名を「きゔぉとす」。どうやら私の次なる働き口でもあるらしい。私は今すぐにでも断りたかった。斯様な場所で働くなんて精神が持たぬ。

 

そして、私は連邦生徒会長?という一番偉い人に選ばれたらしい。なんということだ。お上の言葉に逆らえるはずがない。私は臍を噛む思いで頷くしかなかった。お上の言葉は絶対である。

 

「代行!連邦生徒会長は!?…隣の大人の方は…誰ですか?」

 

待ち受けたのは…おぉ…

 

視界に黒い翼の生えた恵体の女が一人、ほかに二人ほど居るが私の意識はその女に吸い寄せられた。

 

あれか。噂とはだいぶ違う。しかし、特徴からして間違いないだろう。私はすこぶる高揚に頷くと、得心がいったように叫んだ。有名な数学者がエウレカと叫ぶように、文字書きに殉ずる諸兄たちに届くようにとあらん限りの声を張り上げる。

 

「妖怪だ!天狗が居たぞ!!同胞よ!!!!!」

 

私は所謂文学者のつながりにおいて、妖怪肯定派であった。

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