驀進王に憧れてトレセン学園に来たダメダメな私が3つの玉座の女主人と称えられるまで   作:八幡悠

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118 統一女王とキングズスタンドステークス

 ゲートが開く。

 

 一瞬、世界が弾けた。

 

 踏み出しは悪くない。

 芝を噛む感触は、まだ完全ではない。それでも脚は前に出る。

 だが、思っていたほどでもなかった。

 

 最初の200m。

 

 内側から切り込んできたのは褐色肌にセーラー服の後ろ姿。

 5番、エキアノだ。

 鋭く前へ出る。

 

 いや、私が普段より出遅れたのだ。

 同時に、さらに内からもう1人が勢いよく寄ってきた。

 

 黒と黒赤の市松模様。

 左右非対称の勝負服が、視界の端をかすめる。

 

 7番、テイクオーバーターゲット。

 

 その2人が外、つまり私の目の前のレーンへと流れてきた。

 

 一直線のコース、進路を巡る争いは横へ広がる。

 視界の端にはキングスゲイトネィティヴも外ラチ側、つまりこちらへ流れている。

 内ラチ側に寄ったのは10番より内の4人だけのようだった。

 

 2人の影が迫る。切り込んでくる。

 だが慌てる必要ない。

 

 ここで脚を使う必要はないのだ。

 一瞬だけ脚を緩め、半歩引く。

 風よけを買って出てくれているのだ。一旦これでいい。

 

 エキアノが外ラチ側を前へ。

 その内にテイクオーバーターゲット。

 私はそのすぐ後ろ。

 

 3人の隊列が出来上がる。

 

 風が変わった。

 

 直線コースは常に同じ方向から風が吹く。

 スリップストリームという意味でも風は重要だが、コースのどちらに寄るかでも風の強さが変わるのだ。

 だから、普段の周回コースとはまた違った位置取りが求められる。

 

 だが悪くない。事前の想定からは外れていない。

 

 

 観客席が流れていく。

 日本より明らかに距離が近い。

 

 色とりどりの帽子が、波のように揺れている。

 歓声はまだ遠い。

 だがざわめきは、確かにこちらへ向いていた。

 

 

 乾いた蹄鉄の音。

 深い芝を蹴る感触。

 速度はまだ上がっていく。

 

 道半ば、ずっとダラダラと登ってきた坂が一度緩む。

 

 隊列は引き続きエキアノがハナ。その外にテイクオーバーターゲット。

 2人が雁行するように並ぶ。

 私はその後ろ。ちょうど影の位置。

 

 魅力的な標的(テイクオーバーターゲット)を捉えたまま、レースは半ばを過ぎようとしていた。

 

 

 視界の向こうには、長い直線が伸びている。

 

 逃げる影、横に並ぶ影。

 まだ動かない。まだここではない。

 

 ただ、脚を運ぶ。

 

 芝の感触を確かめながら。

 アスコットの風を切り裂きながら。

 

 速度はすでに十分に乗った。だが、まだ誰も動かない。

 当然だ。まだまだ先は長いのだ。

 

『(エキアノ先頭!)』

 

 アスコットのコースは観客席との距離が近い。

 普通に実況も聞こえてしまうほどに。

 

『(古豪テイクオーバーターゲットその横、後ろに日本のノルデンセミラミスが続いている!)』

 

 2人は雁行するように並び、互いの脚色を測り合っている。

 

 私はその背後、長身を活かした大きなストライドの魅力的なケツ(テイクオーバーターゲット)を追いかけていた。

 スプリンターらしく発達した見事な(トモ)を眺めながら、ちょうど風の当たらない位置に収まる。

 

 意識を集中させ、同じリズムを刻む。

 正面から吹きつけていた空気が、テイクオーバーターゲットの背中で割れていく。

 

 吸って、吐く。

 呼吸は整っている。

 

 芝を蹴り、前へ。

 脚も、まだ余裕がある。

 

 ただし、芝の感触は完全ではない。

 

 蹄鉄が沈む。柔らかい。

 日本の芝より、深い。

 それへの適応は、まだ十全とはいえなかった。

 

 いよいよレースは佳境、目前には最後の登り坂が迫っている。

 両ラチ沿いに鈴なりの観客が近い。帽子にに彩られた1000mのランウェイがまもなく終わりを迎えようとしていた。

 日本のものとは形の異なるハロン棒が視界のの端を過ぎる。斜め前のエキアノが体勢を低くした気がした。

 

『(残り2ハロン!)』

 

 その実況の声を合図に、脚へ力を込める。

 体勢を傾けると正面からの風がまともに吹きすさぶ。スリップストリームの加護はもうない。必要ない。

 

 外ラチ沿い、ちょうど1レーン空いたそこへめがけて突っ込んだ。

 

 白いラチが、視界の端に近づいてくる。

 中央寄りは踏み荒らされた芝が濃く色を変えているのが見えた。

 

 蹄鉄が触れる芝の感触が変わる。

 中央より軽い。まだ踏み荒らされていない。

 ここだ。

 

 ラチがすぐ横にある。腕を伸ばせば触れそうな距離。

 そのすぐ向こうは観客席だ。

 

 帽子。

 顔。

 振り上げられた手。

 

 歓声が、風ではなく直接ぶつかってくる。

 思わず耳を絞った。

 

「────!」

 

 誰かが叫ぶ。

 ラチすれすれを、真っ直ぐに駆け上がる。

 

 前にはテイクオーバーターゲット、その内前にエキアノ。

 

 2人の横顔が並んでいる。

 彼女らがこちら流し見、その目が見開かれた。

 

 脚に力を込め、沈む芝に蹄鉄をめり込ませる。

 適応はまだ7割といったところ。普段の加速にはほど遠い。

 だが、それでも。

 

 一歩。

 もう一歩。

 距離が詰まる。

 ラチ際を、そのまま突き抜ける。

 あまりに近く、観客が息を呑む気配まで感じ取れるようだ。

 

 

 ──さあ、勝負だ。

 

Takeover Target

赤きアウトバックの支配

『Red Outback Dominion』

              Lv.5

He changed my life.

      ── J Janiak

 

Equiano

The Interesting Narrative of the Life

『Broken Shackles』

              Lv.1

イクイアーノの生涯の興味深い物語

元ネタ的には脱獄ではなく金を稼いで自由を買い戻したらしい。

 

 芝の感触がふっと消えた。

 蹄鉄の下にあったはずの緑が、気づけば赤土に変わっている。

 

 平原。どこまでも続く焼けた大地。

 乾いた風が吹き抜けた。

 

 その中央にテイクオーバーターゲットが立っている。

 両手にはゴツい拳銃(リボルバー)

 タイキシャトルさんのそれより倍は太くて長い銃身(バレル)の猛獣殺しだ。

 その銃口からは煙が上がっている。

 

 相対するはエキアノ。

 足元は木の甲板、そして手足の枷から引き千切られた長い鉄鎖が不快な金属音を奏でている。

 その背後には帆柱に索具、そして広がる大海原。

 炎の平原を塗りつぶすかのように湿った潮風が押し寄せた。

 

「次から次へとッ……」

「貴様もか、それでなくてはな。日本のチャンピオン」

 

 2人の視線が私へ突き刺さる。

 鎖が手元に引き寄せられる音。銃口がこちらへと向いた。

 

 テイクオーバーターゲットは不敵な笑顔を浮かべているが、額に流れる汗はそれが強がりであることを物語っている。

 対してエキアノの表情には動揺の色が見られるが、まだ余裕がありそうだ。

 

 ……なるほど、2人の勝負はエキアノ優勢。だがまだ勝負はついていない。

 そこに私が闖入したらしい。

 

 なら、ここで終わりにしよう。

 

 腰の騎兵刀(サーベル)を抜き放って正中に構え、右下方へと振り下ろす。

 どちらにしろ、こうなった以上両方を倒さねばならないのだから。

 

 私はそのまま刀身を極光彩る空へと掲げた。

 

 

Norden Semiramis

3つの玉座の女主人

『Tre Troners Herskerinde』

              Lv.2

Jeg vil være under kontrol.

Tre distancer, tre lande og tre sejre i træk.




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