驀進王に憧れてトレセン学園に来たダメダメな私が3つの玉座の女主人と称えられるまで 作:八幡悠
秋のG1特集第一弾──スプリントの歴史が動く6ハロンの電撃戦、スプリンターズステークス
(文:乙名史 悦子)
■スプリンターズS展望
主役は揺るがず、焦点は“対抗探し”へ。
秋の短距離王決定戦は、現役最強スプリンター・ノルデンセミラミスが中心。その圧倒的な存在感により、レースの構図はすでに勝者ではなく対抗を巡る争いへと移っている。
■短距離の女主人ノルデンセミラミス
G1・10勝。そのうち短距離G1を5勝。今夏は英国遠征で現地G1を3連勝と、国内外を問わず結果を残してきた。中3日を含む過密日程をものともせず走り切った点も含め、その総合力はすでに比較の枠を超えている。
前走セントウルSも余力残しの完勝。着差は1バ身にとどまるが、道中から直線にかけて主導権を握り続ける内容で、他のウマ娘に付け入る隙を与えなかった。
中山芝1200mもコーナリング性能の高さから適性は十分。展開、バ場、枠順いずれにも大きく左右されないタイプで、死角らしい死角は見当たらない。
勝敗はすでに論点ではない。
どこまで他を射程に収めたまま、余力を残して終えるか──その完成度だけが問われる。
■対抗一番手は新星スリープレスナイト
その中で、最も注目を集めているのがスリープレスナイトだ。
ダートから芝へ転向後、CBC賞、北九州記念と重賞を連勝。いずれも番手から抜け出す安定した内容で、着差も2バ身、1と1/4バ身と危なげはなかった。もともとダートで崩れ知らずの実績を持つだけに、パワーと持続力はこのメンバーでも上位の存在だ。
注目すべきはそのレース運び。先行して流れに乗り、直線で確実に抜け出す形は再現性が高く、展開に左右されにくい強みがある。今回も先行勢が手薄な組み合わせとなれば、自然と主導権を握る形が見込まれる。
絶対的なスピードでレースを支配するノルデンセミラミスに対し、唯一同じ土俵で競りかけられる存在。自ら流れを作りに行くか、それとも番手で機を窺うか──その選択が、この一戦の行方を大きく左右しそうだ。
他の有力ウマ娘が展開に左右される中で、彼女だけは自らレースを形にできる。
■実績ウマ娘は巻き返しを狙う
3番人気のキンシャサノキセキは高松宮記念3着と地力上位。先行して長く脚を使える安定感はメンバー随一で、大崩れの少なさは大きな武器だ。勝ち切るにはもう一段の決め手が欲しいが、展開ひとつで連対圏内への浮上は十分に考えられる。
ファイングレイン、スズカフェニックスの実績組2人は、いずれも前走大敗からの巻き返しが焦点となる。ともに末脚に長けた差しタイプだけに、前が流れて消耗戦となる形が理想。逆にスローからの瞬発力勝負では分が悪く、展開への依存度は高い。
いずれのウマ娘も能力そのものは上位だが、今回は絶対的な先行力でレースを支配するノルデンセミラミスの存在が大きい。流れを握られる展開の中で、自ら勝ちに行くか、それとも崩れを待つか。各ウマ娘の選択が、そのまま着順に直結しそうだ。
■総括
ノルデンセミラミスの牙城は依然として高い。
波乱の余地は限られるが、その中で新興勢力スリープレスナイトがどこまで迫れるか。
その背に並ぶ存在が現れるか。あるいは、さらなる高みへと到達するのか──秋の短距離戦線は大きな節目を迎える。
【コラム】「絶対王者」と「測りきれない挑戦者」
正直に言えば、このレースの結論はほとんど出ている。
ノルデンセミラミスが負ける絵は、現状では想像しにくい。能力、実績、適性、そのどれを取っても抜けている。
気の早いものには短距離歴代最強なのではとまで評されるほどだ。弊社デスクのような歴の長い人間などは、いやいやまだまだ、と苦笑いしているが、正直に言えば私もそちら寄りである。
それはさておき、では何を見るレースなのか。
答えは一つだ。「次に並ぶ存在がいるかどうか」である。
その意味で、スリープレスナイトは面白い。
戦績だけ見れば、まだG3連勝の段階。普通ならG1では“挑戦権を得たウマ娘”に過ぎない。
だが、このウマ娘には少し違う匂いがある。
番手からレースを作り、崩れない。そして、相手に合わせるように脚を使う。
速さで圧倒するタイプではない。だが、噛み合ったときに相手のリズムを崩すような走りを見せる。
完成度ではまだ足りない。しかし、完成したときに何が起こるのかは想像しづらい。
今回、それがノルデンセミラミスに通用するとは思わない。だが、“通用しかける”可能性はある。
もしそうなったなら。
このレースは単なる防衛戦では終わらない。
秋の短距離戦線に、新しい軸が生まれることになる。
中山レース場、パドック。
地下通路から長円形のパドックに出ると、観客の視線は私に自然と集まってくる。
熱気はあるが、昂りというよりは確認に近い。
今日も勝つ、そういう空気だ。
何層にも重なったスタンドに鈴なりになった観客に向かって手を挙げる。
大きくなる歓声。
「今日も見せてくれよ!」
「連覇だ、連覇!」
「ここ勝てば文句なしだろ!」
見せる。
それはいつも通りのことだ。
連覇。
積み重ねの一つに過ぎない。
──そして。
ここを勝てば、文句なし。
……本当に?
一瞬、思考が止まる。
それで届くのか。それで、越えたことになるのか。
いや、なるのだ。
これまでただ一人しか居ないスプリンターズステークス連覇。
長い日本レース史の中で、高松宮記念を含めても短距離G1を連覇した者は他にない。
今日この日、成し遂げてみせる。
あの日見た桜色の勝負服、その背中にようやく手が届くのだ。
喧騒の中にあって、しかして雑音はない。期待も、歓声も、すべてが一つの結論へと収束している。
私にとってもそれは変わらない。コンディションは万全。調整に狂いはない。
昼休みに確認したバ場もパンパンの良バ場。
襷の結び目に掛けたブローチがかすかに音を立てる。
重バ場だった昨年は危ういところであったが、今年はその心配もない。
展開も読めている。
後方の掲示板を振り返る。
今回の出走メンバーは、5番人気スズカフェニックス然り6番人気カノヤザクラ然り後方脚質。3番人気キンシャサノキセキや4番人気ファイングレインも中団付近の位置取りが多い。
一方で逃げは一人。これなら中央が厚い寸詰まりの隊形になると予想される。
つまり、番手、もしくはその直後。そこに入れれば、問題はない。
……本来なら。
パドックを覇気もなく気だるげに歩く一人のウマ娘。
黒を基調としたミニの和装勝負服を赤いヒモでたすき掛けにして纏めている。袖口から見える裏地は黄色と黒の縞。
2番人気、スリープレスナイト。
目元にはベッタリと隈が張り付いているが、調子が悪いとかではなく彼女はアレが普通だ。
一応同期ではあるが、芝とダートで路線が違ったこともあり接点はない。
どうも変わったウマ娘だと聞くが、たしかにそうだ。
といっても浮いているのではない。ただ、噛み合っていない。
所作が周りと半拍ずれている。だが、そのズレごとそのまま成立している。というべきか。
──付き合わず、自分のリズムで走りなさい。
トレーナーさんの言葉を反駁する。
なるほど、そういうことか。彼女から視線を切った。意識を向けないほうがいい。
そのままパドックアピールの時間が終わり、係員の誘導に従い地下バ道へと抜ける。
中山レース場、地下バ道。
薄暗い地下道を、蹄音を響かせ歩く。
そこここでぼそりぼそりと会話が繰り広げられている。
だが私には関係ない。そもそも少々遠巻きにされているきらいすらある。
今回の出走者は全員がシニア級、内シニア級1年目は私含め4名。
そしてカノヤザクラ以外は路線が違い、2人とも今年夏から頭角を現してきたのだ。
接点がなくても当然である。
今回、私は1枠1番を引いている。
すなわち合図があり次第真っ先に飛び出さなければならない。
光差し込む出口近くに陣取り、その時を待つ。
「……ね」
声。スリープレスナイトだ。
振り向きかけて、止める。
隣にいる。
いつからかは分からない。
……いつの間に。
「速いよね」
囁くような、眠たげな声。
「でも」
呼吸が揃う。
次の瞬間、外された。
ズレる。わずかに。
だが、確実に。
「……ふふ」
気配が離れる。
最初から、いなかったかのように。
首を振る。……問題ない。
ただ、勝利だけを目指して走るのだ。
『1枠1番、ノルデンセミラミス。史上2人目のスプリンターズステークス連覇なるか、1番人気です!』
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某所で設定イメージの誰でしょうクイズを開催してるけどスリープレスナイトは歴代2位の瞬殺だった。
木山くぅんばりの目に隈だしそらわかるか。
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