驀進王に憧れてトレセン学園に来たダメダメな私が3つの玉座の女主人と称えられるまで   作:八幡悠

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149 短距離の女主人とマイルチャンピオンシップへ

 

【スプリンターズステークス】短距離の女主人、ノルデンセミラミス史上2人目の連覇

 

【天皇賞(秋)】2センチ差の激闘を制す、府中の女帝ウオッカG1・4勝目

 

【秋華賞】ブラックエンブレム、ラストティアラ戴冠

 

【菊花賞】クラシック最後の一冠はオウケンブルースリ

 

 

府中の女帝、世界へ──ウオッカ、ティアラ路線初のJC戴冠なるか

 

 天皇賞(秋)をわずか2センチ差の激闘で制したウオッカが、次走ジャパンカップへと駒を進める。

 ダービー、安田記念制覇に続く天皇賞(秋)勝利。今秋の彼女はまさしく“府中の女帝”の名に相応しい走りを続けている。

 迎える舞台は東京芝2400m。

 ティアラ路線出身ウマ娘にとって長らく高い壁となってきたジャパンカップだ。

 

 だが今年のウオッカには、それを覆すだけの勢いがある。

 

 天皇賞(秋)で見せた異次元の末脚。

 府中でこそ真価を発揮する圧倒的暴威(フィジカル)

 そしてダイワスカーレットとの死闘を制した精神力。

 

 歴史を塗り替える準備は整った。

 

 世界を迎え撃つ“府中の女帝”。

 その走りに、再び東京が揺れる。

 

 

二つの距離の女主人、その支配は続くか──ノルデンセミラミス、マイルCS連覇へ

 

 短距離の女主人にして、マイルの女主人。

 ノルデンセミラミスが、マイルチャンピオンシップ連覇へ向かう。

 

 春のヴィクトリアマイルを制し、今秋はスプリンターズステークスを連覇。

 その支配は既に1200mに留まらず、高速芝戦線そのものへ広がりつつある。

 

 さらに英国遠征では欧州芝を制覇。

 12月には香港スプリントも控え、“世界最速”の称号すら現実味を帯び始めた。

 

 だが、その前に立ちはだかるのは京都マイル。

 

 迎え撃つのは古豪たちか、新世代か。

 中でも注目を集めるのは、天皇賞(秋)でタイム差なし5着と激走した妹・ノルデンレヨネットとの初対決だ。

 

 だが世論はなお、女主人優勢。

 

 スプリントとマイル。

 かつて分かたれた二つの距離を統べる女王は、再びその座を示すのか。

 

 


 

 

 トレセン学園、記者会見会場。

 

 前方には長机とマイク。

 背後にはマイルチャンピオンシップのロゴパネル。

 左右には各社のテレビカメラが並び、赤い録画ランプが既に点灯している。

 

 席を埋める記者たちも浮足立っている。

 

「やっぱり香港行くらしいぞ」

「マイルCS勝ったら本当にどうなるんだ……」

「いや、もう歴代最強クラスだろ」

「でも本人、あんまりそういうタイプじゃないんだよな」

 

 囁き声。

 キーボードを叩く音。シャッター確認の乾いた連写。

 

 ざわめきの中心にある名前は、ほとんど一つだった。

 

 ノルデンセミラミス。

 

 春のヴィクトリアマイルにて国内芝シニアマイル完全制覇。

 秋のスプリンターズステークス連覇。

 英国遠征にてアスコットデー短距離を総なめ。

 そして香港スプリント挑戦予定。

 

 短距離の女主人。

 マイルの女主人。

 

 既にいくつもの異名が飛び交っている。

 

 その一方で。

 

「でもレヨネット、秋天やばかったよな」

「正直、あそこで前に居残るとは思わなかった」

「姉妹対決が楽しみだよな」

 

 別の熱もまた、確かに存在していた。

 

 天皇賞・秋。

 レコード決着の激戦の中、タイム差なし5着へ飛び込んだ新星ノルデンレヨネット。

 

 初めて実現する姉妹対決。

 そして王者への挑戦。

 

 ──やがて。

 

 定刻を迎え、部屋の照明が僅かに落ちる。

 ざわめきが波のように静まった。

 

「皆様、本日はお忙しい中お集まりいただきありがとうございます」

 

 司会進行役の女性職員が壇上へ上がる。

 

「これより、第25回マイルチャンピオンシップ出走予定ウマ娘合同記者会見を執り行います」

 

 フラッシュが一斉に瞬いた。

 

「まずは出走予定ウマ娘の皆様にご登壇いただきます」

 

 


 

 

 壇上袖から照明の当たるプレスルームを眺める。

 

 フラッシュ、カメラ、記者たちのざわめき。

 随分と騒がしい。

 

「それでは皆様、ご登壇をお願いいたします」

 

 職員の声に促され、一人ずつ壇上へ上がっていく。

 

 先頭はスーパーホーネットさん。

 続いてカンパニーさん、スズカフェニックスさん。

 その後ろにレヨネット。

 最後に私。

 

 壇上へ出た瞬間、フラッシュが一際強く弾けた。

 

 ……相変わらずだ。

 

 中央席へ案内される。予想通り、真ん中だった。

 左隣にレヨ、右隣にスーパーホーネットさん。

 

 腰掛けると同時に無数の視線が刺さる。

 記者たちの目は既にこちらへ固定されていた。

 

「まずは出走予定ウマ娘の皆様をご紹介いたします」

 

 司会の声。

 

「春秋スプリント制覇、春秋マイル制覇、スプリント・マイル路線の中心としてG1・11勝を含む14連勝中。17戦16勝、ノルデンセミラミスさんです」

 

 拍手。

 

 どこか他人事のようにそれを聞き流す。もうそんなになるのか。

 指折り数えたことなど、ほとんどなかった。

 

「続いて、天皇賞・秋にてタイム差なし5着と激走。初の姉妹対決にも注目が集まります。7戦1勝、ノルデンレヨネットさん」

 

 レヨが小さく頭を下げる。

 拍手は私ほどではないが、それでも秋より明らかに増えていた。

 

 ……当然だ。

 あのレースを走ったのだから。

 

「それでは質疑応答へ移ります」

 

 途端、何本もの手が上がった。

 

「はい、そちらの方」

 

「セミラミスさんに質問です。マイルCS連覇への自信はいかがでしょうか」

 

 随分穏当な入りだ。

 

「京都1600は非常に完成度を求められるコースです。簡単なレースになるとは思っていません。──ですが、勝つための準備はしています」

 

 シャッター音。次の記者が手を挙げる。

 

「英国遠征、そして香港遠征も控えています。現在のご自身をどのように評価されていますか?」

「まだ道半ばです」

 

 即答だった。

 記者が少し目を瞬かせる。

 

「私は、まだ完成したとは思っていません」

 

 ざわめきが広がる。

 

 別に謙遜でも何でもない。

 本当にそう思っているだけだ。

 

「では、現在“短距離とマイルを統べる女主人”とも呼ばれていることについては?」

 

 誰だそんな大仰な呼び方を始めたのは。

 

「過分な評価です」

 

 一応そう返す。

 

 あの年より王と女王により分かたれたスプリントとマイルが、私の手によって、か。

 ……悪くない。

 

「ですが、そう呼んでいただけるだけの走りは続けたいと思っています」

 

 無難。極めて無難。

 だが記者たちは満足げに頷いている。

 

 その後もしばらく質問は続いた。

 

 香港への展望。

 連覇への意気込み。

 今後の目標。

 

 適度に答え、適度に流す。

 

 そうして十数分ほど経った頃。

 

「では、レヨネットさんへ質問です。初の姉妹対決となりますが、現在のお気持ちは?」

 

 レヨの肩が僅かに揺れた。

 

「……楽しみ、です」

 

 少し硬い声。

 

「もちろん簡単な相手じゃありません。でも、今の自分がどこまでやれるのか、挑戦したいと思っています」

 

 真っ直ぐな答えだった。

 

 記者たちが一斉にメモを取る。

 

「天皇賞・秋での走りは大きな自信になりましたか?」

「はい。負けましたけど……戦えた、とは思っています」

 

 その言葉に、私は少しだけ視線を向けた。

 

 戦えた。

 

 ああ。確かにそうだ。

 あの状況で、前に残るという決断が出来たことそのものが素晴らしい。

 

「ではセミラミスさん。今回、最も警戒している相手を教えてください」

 

 空気が少し変わる。

 

 おそらく記者たちは他の名前を予想している。

 あるいは、全員を警戒している、といった玉虫色の回答こそが求められているのかもしれない。

 

 だが。

 

「ノルデンレヨネットです」

 

 一瞬、部屋が静まった。隣でレヨが息を呑む気配。

 

「……理由をお聞かせいただけますか?」

「天皇賞・秋です」

 

 即座に答える。

 

「あのレースは、後ろから脚を使うだけでは参加できませんでした」

 

 秋天の光景が脳裏をよぎる。

 

 レコードペース。

 削り合い。

 それでも止まらなかった先頭集団。

 

「前で耐え、削られながら、それでも最後まで勝負圏に残った」

 

 あれは簡単なことではない。

 

「レヨは、あのレースで勝負をしていました」

 

 ざわめき。

 

「現在の出走予定者の中で、最も警戒しています」

 

 記者たちの空気が変わるのがわかった。

 

 実績ではない。

 現在地で評価した。

 

 そう理解したのだろう。

 

 レヨは黙っていた。

 ただ、膝の上で握った手に僅かに力が入っている。

 

「レヨネットさん、それについては」

「……嬉しい、です」

 

 少し戸惑ったようにレヨが答える。

 

「でも、まだ負けません。負けたくないです」

 

 その瞬間だけ、視線が交差した。

 真っ直ぐだった。

 

 ……良い目だ。

 

「それでは最後に、セミラミスさん。香港スプリントへ向けて一言お願いします」

 

 香港。

 その言葉に、一瞬だけ胸の奥が静かになる。

 

 次。あと一つ。これさえ勝てば……。

 

 だが、今はまだそれを語る時ではあるまい。

 

「まずはマイルチャンピオンシップです」

 

 視線を正面へ戻す。

 

「ですが、その先にある戦いも、必ず勝ちに行きます」

 

 フラッシュが瞬いた。

 歓声にも似たざわめきが、静かなプレスルームを満たしていた。

 

 


 

 

 同時刻、遠征支援委員会室。

 

 黒みがかった鹿毛にグレーのインナーカラーの小柄なウマ娘が生中継動画を視聴している。

 グリーンチャンネルのマイルチャンピオンシップ出走者会見の動画だ。

 ちょうど質疑が終わったところで、彼女はウマ耳対応のヘッドホンを外した。

 

「やれば、できるではないですか」

 

 そう呟いて傍らにあった書類を手に取る。

 そこに記載されていたのは12月の香港国際競争の選出内定者一覧だった。

 一覧には香港スプリントに3名、3競争に1名ずつの6名の名前がある。

 

「この分なら姉妹は同室で問題ないでしょうね」

 

 そのままファイルを検め、押印を確認すると処理済み、とかかれたケースへと収納した。




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オークス女性騎手がついにG1勝ったか……
父オルフェーヴルで母父ゼンノロブロイだからこの世界のウオッカルート(仏オークス経由凱旋門賞)あるな?
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