驀進王に憧れてトレセン学園に来たダメダメな私が3つの玉座の女主人と称えられるまで 作:八幡悠
ノルデンレヨネット視点。
トレセン学園、VRウマレーター室。
VRウマレーターの中にダイブした先で、主催者である後輩のルーラーシップの声が響く。
「それじゃあ始めていくからな!」
ここはウマレーター内の仮想空間。デフォルメされた船内のミーティングルームのような場所。
空中に数字が浮かんでカウントダウンが始まり、中央に物々しいボタンのある長机の周りを原色の宇宙服を着た2等身のキャラクターたちが眼の前をわちゃわちゃしている。
──シーッ!
画面が暗転し、赤いアバターが人差し指を顔らしき場所の前に当てる。
いよいよゲーム開始だ。
「よろしくお願いします!」
「やってやるぜ!」
各々の声が途切れ、画面に11体のカラフルなキャラクターたちがずらりと並ぶ。
あたし、ノルデンレヨネットがこの催しに参加している理由は、ドバイ遠征から帰国した直後の出来事に遡る。
4月初旬、トレセン学園、美浦寮、自室。
眼の前ではボーイッシュな印象のウマ娘が、頭を下げていた。
と言ってもあたしにではなく、お姉ちゃんにだ。
「ノルデンセミラミスサン! どうかお願いします!」
彼女はルーラーシップ。トレセン学園の空き教室を半ば不法占拠し、ボードゲーム同好会を主催しているウマ娘だ。
あたしもたまにお邪魔して遊んでいたのだが、どうやらその場所が危機にあるらしい。
「このまま活動実績がないと俺のボドゲ部屋が生徒会にお取り潰しに!」
彼女の説明によると、これまで黙認してきた副会長のエアグルーヴさんがここにきて態度を変え、部屋から追い出されそうになっているらしい。
まあ残念ながら当然な気がする。
「それで、私に何をしてほしいの?」
「はい! 春のファン感謝祭でイベントをやるので、ぜひセミラミスサンにも出場をお願いします!」
当然ヤダヤダとダダをこねたルラち。
そこで交換条件として持ち出されたのが、ファン感謝祭でゲームイベントを主催して活動実績を作ることだったらしい。
その一環として、あたしのツテを使ってお姉ちゃんに出演交渉に来ているのだ。
「今現役のウマ娘でも実績トップ、レース全体を俯瞰する戦略家であるセミラミスサンに参加してもらえればきっと盛り上がります!」
思うに、これはエアグルーヴ副会長の親心的なやつなのではないだろうか。
学園の前のスクール時代からなにかと彼女の面倒を見ているらしいエアグルーヴ副会長だが、いつまでもそうできるわけではない。
今は生徒会副会長としてボドゲ同好会を黙認してやれているが、ここらでもうすこしオフィシャルにして自身がいなくなった後も存続できるように、というような。
「……トレーナーさんにも一応確認はしますが、レースに影響のない範囲なら」
「ありがとうございます!」
そしてまあ、やっぱり承諾した。
世間じゃ競技一筋のストイックな人みたいに思われてるけど、お姉ちゃん、普通に同期と遊びに行くし、ゲームにも付き合うし、案外そうでもない。
細かい打ち合わせは別途、とお姉ちゃんと連絡先を交換して栗東寮に帰るルーラーシップを見送りに部屋の外へと出る。
「いやぁレヨネットサン、助かった」
「あたしは顔を繋いだだけだけどね。交渉したのはルーラーシップでしょ」
「それはそうだな! いやぁ俺の華麗な交渉術! 盤面掌握! セミラミスサンは生徒会と関係が良くないからな! そこを突けば味方になってくれるって寸法よ!」
いっぺんどついたろかこいつ。
お姉ちゃんが関係が悪いのはルドルフ会長個人であって、むしろディープ副会長とは悪くない。
そしてなんならお前が顔つなぎに使ったノルデンレヨネットは絶賛ノルデンセミラミスと喧嘩中なんだが?
「でも意外と優しそうな人だったなセミラミスサン。エアグルーヴサンもあれぐらい優しけりゃいいのに」
「……そうだね」
お姉ちゃんはそんな優しい人ではない。
あたしが最も欲しかったものを知りながら、あれだけ思ってくれていながら、自らの理想を優先して一つもあたしに伝えようとしなかった。
冷たくて、シスコンで、理想主義者の、不器用なあたしのお姉ちゃん。
あの時はああは言ったけど、内心をマルシャンドールさん経由で聞いた今となっては多少、ちょっと、いやかなり言い過ぎたかなとは思っている。
まあでもあんなに伝えたのに全部無視したお姉ちゃんが悪いのである。
ドバイ遠征の時のあれこれといい、ちょっとづつ歩み寄ってくれているのはわかってるし、謝ってきたら許してやらんこともない。
「いやあでもあの戦略眼、それも短距離のテンポでやってのけるのは凄いよな。多分バラドゲーとかやったら強いんじゃないか。一回ボドゲで手合わせしてほしいなぁ」
「誘えば来てくれると思うよ。せっかく連絡先聞いたんだしさ」
まあお姉ちゃんはその手の対戦ゲーム鬼のように強いから覚悟しておくことだな。
バラドゲー? ってのはよくわからないが、なんかパソコンでカラフルな世界地図の上で駒と矢印が動くゲームならよくやってたな。
なんか国家を操作する歴史ゲームらしいけど。
「あそうだ、やっぱりメンバーにはダービーウマ娘とか居たほうが盛り上がるよな。ウオッカサンとかディープスカイサンとか。レヨネットサンどうにかならない?」
やっぱりこいつは一回レースでわからせた方がいいのではなかろうか。
2人とも栗東寮なんだし自分で行けば、と突き放して彼女とは玄関で分かれた。
……そうだ、本番でやるのはパーティーゲーム的なのだと聞いてるけど、お姉ちゃんが退屈すると良くないからその手のゲームが強そうな人を呼んでしまおう。
ちょうど先のドバイ遠征やこの後の香港遠征でお世話になったあの人なんかどうだろう。
ウマホの連絡先から、遠征支援委員会をタップしてメッセージを送った。
『ジャーニー先輩、ちょっとお誘いしたいのですが──』
ファン感謝祭当日、VRウマレーター室。
あたしが室内に入ると、ほとんどのメンバーはもう集まっていた。
「あ! レヨ先輩!」
「カレンチャン! カレンチャンも来てたんだ」
「えへへ。そうなんですよ♪ レヨネットさんも呼ばれてたんですね♪」
入室して早速声をかけてくれたのはカレンチャン。
芦毛のインフルエンサーで、同名で配信もやっているウマ娘。今日やるUmang Usも何度かやっているのを見たことがある。
「せっかくなんで紹介しますね。ディザイアさんとブエナさんです」
彼女に手を引かれて話の輪に入れられたのは、レッドディザイアと阪神JF勝ちウマ娘のブエナビスタ。
「まあ、競う運命に立ち向かうのですね。共に参りましょう!」
「レヨさんもエントリーしてたんですか? 偶然ですね!」
「あれ? 知り合いだった?」
知り合いというか、面識があったというか。
そこまで深い仲ではない。特にそちらのエセ聖女とは。
「3人はどうして参加を?」
「私は聖なる星の導きにより……」
「私は、ルーラーさんから声を掛けられたんだ」
「カレンも、配信やゲームそのものに慣れてるから補助して欲しい、って」
なるほど、ディザイアは知らないが、残り2人は実利っぽいな。
ジュニア級G1を勝ち、来る桜花賞でも注目されているブエナと、純粋に配信やゲームに慣れていてフォローに回ってくれるカレン。
本当にそういうところには頭が回る。
「あとはね……同期のピサちゃん」
「はじめまして。どうぞ、よろしくお願いしますね」
「こちらこそよろしく」
そう言ってカレンが紹介してくれたのは今年ジュニア級だというヴィクトワールピサ。
そこのエセ聖女とちがいガチの天使のようなウマ娘だった。
「みなさま、まだお揃いではないのでしょうか?」
その言葉にあたりを見回す。
お姉ちゃん、ノルデンセミラミスを筆頭に今シニア級で活躍しているウオッカさんやドリームジャーニーさん。
結局私が誘った同期のダービーウマ娘ディープスカイに、ドバイでも一緒だったカジノドライヴ。
1期下のティアラウマ娘、ブエナビスタとレッドディザイア。
そしてジュニア級のカレンチャンとヴィクトワールピサ。
思ったより濃いメンバーになったものだ。
これで9人、私を含め10人。つまり主催以外は全員揃っていることになる。
こんなときもゲート難か。あるいはなにか調整をしているのか。
その時、扉が勢いよく開き息を切らしたルーラーシップが飛び込んできた。
「悪い、待たせた!」
腕にはスタッフ用の端末、首からはファン感謝祭の運営証を提げている。どうやら会場側との最終確認に手間取っていたらしい。
「それじゃ、改めて説明するぞ! 今日やるのはVRウマレーターを使った『Umang Us』! 宇宙船に紛れ込んだ裏切り者を探すゲームだ!」
室内の壁面モニターには、既にイベント用の配信画面が映っていた。
「プレイ中の映像と会議音声は、ファン感謝祭の特設ステージと学園内放送で生中継される! 個々人の視点も個別にぱかチューブチャンネルで配信されるからそのつもりで頼む」
なるほど、単に皆で遊ぶだけではなく、れっきとした公開イベントとして調整されているというわけか。
思ったよりちゃんとしている。
「細かいルールや操作方法は最初にチュートリアルを入れるし、事前にやった練習会の通りだ。インポスターは全員キルすれば勝ち、クルーメイトはインポスターを全員会議で吊るか、タスクを全て終わらせれば勝ち、簡単だな!」
説明が雑すぎる。
まあ、今さら細則を一から説明している時間もないのだろうが。
「それじゃ全員、接続準備!」
ルーラーシップの号令とともに、ウマレーターが低く唸り始める。
視界が白く染まり、次の瞬間、あたしたちは宇宙船の中にいた。