驀進王に憧れてトレセン学園に来たダメダメな私が3つの玉座の女主人と称えられるまで   作:八幡悠

18 / 149
感想、お気に入り登録、評価ありがとうございます。


第一部 理想の仮面 クラシック級 春シーズン
018 北のセミラミスと紅梅ステークス


1月14日 京都レース場 第9レース

OP 紅梅ステークス 芝 1400m 良

 

 京都レース場。スタート地点。

 係員に促され、私は6枠12番のゲートへ入る。今回も1400mなので全く同じ位置。2ヶ月前のメイクデビューが目に浮かぶようだ。

 だが今回ゲートを埋めているのは、私も含め少なくとも1度は勝っているウマ娘。中には阪神JFで走っていた娘すらいる。

 メイクデビューほど楽なレースはさせてもらえないだろう。

 

 ガッシャン。

 

 ゲートが開く。わりあいに揃ったスタート。

 バ場は乾いていて走りやすい。良いコンディションだ。

 外枠だったので斜行を取られないように少しづつ内側に切れ込み先行集団につける。

 位置は逃げる10番と16番の後ろ、4人のグループの先行集団外より。ちょっとペースが遅い気がする。

 

 そのまま向正面を過ぎ3コーナーへ。

 1つ内側を走る14番テイエムオペレッタが前に行きたがっていたので、そのまま私もついて行って位置を押し上げる。

 4コーナーに入る頃には単独4位まで位置を押し上げていた。

 そろそろ行こう。

 

 4コーナー出口付近で前傾を深くし、左脚に力を込める。

 遠心力に逆らわず外に持ち出しながら加速する。

 1人、2人、3人。

 直線に入って300mの標識を超えたところで先頭に躍り出た。

 

 自分以外の足音はもはや聞こえない。

 200m、100m、50m。

 後ろをちらりと見ると、外から芦毛の娘を含め3人ほど上がってきているのが見えたが届きはしまい。

 

 ゴール板を超えたことを横目で確認した私は上体を起こして減速する。

 振り返って掲示板を見ると、電光掲示板の一番上には12と2 1/2の文字。確定ランプが付いているので私の勝ちだ。

 観客の歓声に手を振って答えながら、心中で安堵する。良かった、今回も勝つことができた。

 

 

 

京都 X9R 確定 

 

 Ⅰ  12 

 

X2 1/2X

 

 Ⅱ  4X 

 

 クビ 

 

 Ⅲ  1X 

 

 クビ 

 

 Ⅳ  6X 

 

 X1X 

 

 Ⅴ  3X 

 

 

 

着順名前着差

 

 1 6 12 ノルデンセミラミス

 

 2 2 4ローブデコルテ2 1/2

 

 3 1 1バクシンヒロインクビ

 

 4 3 6ニシノマナムスメクビ

 

 5 2 3ノボスイーツ1

 

 

 こうして私はオープンクラスへと昇格する事ができた。

 いよいよ次は重賞、そして憧れのG1すら視程に入ってくる。

 

 ウィナーズサークルで待ってくれていた両親とトレーナーに手を振りながら、現実感のなさに実感がわかない。

 もしかしたらこれは夢で、目が覚めると実家のコタツに突っ伏していたりはしないだろうか。

 そんなとりとめもないことを考えながら、ふわふわとした心持ちでその後の諸々をこなした。

 

 

⏰️ ⏰️ ⏰️

 

 

 トレセン学園、教室。

 朝練が少し長引いて、心持ち早足で教室へと入る。

 何やらクラス中が騒がしい。なにかイベントでもあったのだろうか。

 

「おはようございます」

「あっ、セミちゃんおはよう! 見て見て、セミちゃんも載ってるよ!」

 

 いつもの面子が集まっているところへ行くと、スプマンテがなにやら雑誌を見せてきた。

 後ろ姿のウオッカの尻尾が機嫌良さそうにゆれているのと対照的に、ダイワスカーレットさんの耳が不機嫌に寝ているのが気になる。

 

 出版社は栄光スポーツ。ウマ娘レースを中心に扱っている雑誌で、データや海外事情に強い。比較的まともな部類のものだ。

 開かれたページのタイトルは“今年のクラシックを占う! 注目ウマ娘特集”。なるほど、もうそんな時期か。

 2人の反応の理由になんとなく察しがついた。

 

 彼女から雑誌を受け取りパラパラとページを繰る。

 朝日杯FS覇者ドリームジャーニー──なんかマフィアのボスみたいな人。クラスどころか学年も違うので実のところはよく知らない──、同2着ローレルゲレイロ──猫目の人。この人もあんまり話したことない──。

 

「そっちじゃなくて、ティアラの方!」

 

 さらにページをめくると、確かに予想通りの絵が目に入った。

 実力伯仲、“ジュニアクイーン”ウオッカ、“ジュニア重賞連覇”アストンマーチャン。

 スターティングフューチャー姿の2人が見開きに大写しになっており、その他数名が体操服姿で下に並んでいる。

 なるほどこれはウオッカの機嫌が良いのも頷ける。

 

「いやぁ、やっぱ記者さんも解ってるよなー」

「セミラミスも載ってるのですよ。ほら」

 

 マーチャンさんの指し示す先には、確かに体操服姿の私が載っていた。

 このゼッケン番号はメイクデビュー時のものではないから、この間撮られたものだ。

 自分の顔と名前が雑誌に載っているのを見るのはどうにも気恥ずかしさがまさる。

 

 さらに読み進めると、私に対する寸評が書かれていた。

 

 ──メイクデビューに続き紅梅Sでも後続を寄せ付けない完勝。現時点ではスプリンターに留まっているが、桜花賞でもその速さを見せてくれると期待。

 

 そんな、私なんかが……。思わず目が泳ぐ。

 いや、落ち着け私。こんな時、バクシンオーさんならどうする? 

 

「……ふふ、私の走りがご評価いただけたようで嬉しいです。ご期待に応えられるよう精進しなければなりませんね」

「わー、さっすがセミちゃんおっとなー! ダスカちゃんなんかさっき──ナンデモナイデス」

 

 スカーレットさんがギッとひと睨みしてスプマンテを黙らせる。

 意外……よく考えたらそうでもないかもしれないが、彼女はかなり勝ち気の強いところがある。

 おそらくは自分がトップではなくその他大勢枠に入れられたことが不満で、私が来る前に一度爆発したのだろう。

 どうして私が体操服で隅っこなのよ、といった具合に。あるいはどうしてウオッカが……かもしれないが。

 そういう1番大好きなところはメジャーさんとそっくりだ。

 

 その時、教室の扉が開いて担任の先生が入ってきた。

 

「おはようさん、そろそろホームルーム始めるぞー」

 

 私たちは蜘蛛の子を散らすように慌てて席につく。

 この話題は結局この時限りとなった。

 

 

⏰️ ⏰️ ⏰️

 

 

 トレセン学園、カフェテリア。

 

 

 いつもならみんなで食卓を囲むところだが、今日はスプマンテと2人きりだった。

 朝のあの一件もあって血が騒いだのかウオッカとスカーレットさんが張り合いながら併走に行ってしまい、カメオさんはクーベルチュールさんにまた拉致られ、マーチャンさんやイクスさんも用事があると言ってすぐ食べ終わって行ってしまった。

 そんなわけで私たちは6人席を2人で使う贅沢を享受していた。

 

「いやぁー、みんなすごいよね。デビューも順調で、雑誌にも載って」

 

 他愛もない話から急に差し込まれた一言に、胃の腑がぎゅっと掴まれたような心地だった。

 上目遣いにスプマンテの様子を伺う。表情こそいつもの笑顔だが目が笑っていない。

 マジな話だと悟ってスプーンを置いた。

 

「あっ、ごめんね。急にこんな話して」

「いえ……私たちこそごめんね。無神経だった」

 

 彼女はまだ未デビューだ。正直このままだと春のクラシックシーズンに間に合うか微妙なところだった。

 なのにあの話で盛り上がるのは、少々軽率だっただろう。

 なにか、なにか言わなければ。

 

「でも、まだ間に合うかも──」

「ううん。間に合わないの。メイクデビューは3月だから」

 

 気休めの言葉はそう遮られた。

 桜花賞は4月頭。出走に必要なファン数はメイクデビューの分に加えてもう1戦か2戦分。優先出走権のある重賞に出れば……いや、それにすら間に合わない。

 今度こそ私は言葉に詰まった。

 

「ちがうの。そういう意味じゃないんだ」

 

 私の表情を見て彼女は笑いながら手を振った。

 

「だからね、あたしの分も桜花賞を走ってほしいの。いつか絶対追いついてみせるから、他でもない貴女に」

 

 返す言葉もなかった。

 ごめんね、変なこと言って。忘れてくれていいから。そう残して彼女はお盆をもってそそくさと立ち去ってしまった。

 私は3割ほど残ったオムライス定食に視線を落とす。

 

 忘れられるわけがなかった。

 思えば少々浮かれていたかもしれない。

 

 トレセン学園には、彼女のようにクラシックまでにデビューが間に合わなかった人がいる。

 芝や距離の適性が合わず、クラシック路線を諦めた人がいる。

 デビュー戦や1勝クラスで勝ち上がれなかった人がいる。

 そもそもトレーナーがつかなかった人がいる。

 

 他人事のように言ったが私だって誰かを蹴落としてここまで来た。

 選抜レースはまだいい。あれは椅子が1つしかない椅子取りゲームではないから。

 1度しかないメイクデビュー、私は残りの11人を蹴落とした。

 紅梅Sで得た1000人のファンも、私がいなければ他の誰かのものだっただろう。

 それがローブデコルテさんかバクシンヒロインさんかニシノマナムスメさんかはわからないが、桜花賞に出るチャンスを一度は奪ったのは事実だ。

 

 たった3走、それだけですり潰した数十人分の夢の残滓が背中に乗ってきたような気がした。

 ただ勝ったことばかりに目を奪われて、見ないようにしていた現実。

 

 そしてクイーンスプマンテに託されたクラシック制覇の夢。

 それらがないまぜになって、私を押しつぶそうとしているような。そんな感覚を覚えていた。

 

 再びスプーンを持ち、オムライスを口に運ぶ。

 先ほどと同じもののはずなのに、乾いて、味が薄いように感じた。

 

 




皆様の応援のお陰で8月中はこのペースで定期投稿できそうです。ありがとうございます。
9月分の書き溜めを助けると思って感想くださいお願いします。評価とお気に入りも嬉しいです。

○史実馬紹介
ローブデコルテ Robe Decollete 牝 
主な勝鞍 07'紅梅S(OP) 07'優駿牝馬(G1)
史実ではここで得た賞金で桜花賞へ出走、4着に入ったことで優駿牝馬への優先出走権を得た。
……つまり、その。

ニシノマナムスメ Nishino Manamusume 牝
主な勝鞍 07'ユートピアS(1600万下)
母:ニシノフラワー、父:アグネスタキオン
セイちゃんちょっと横になりますね。

バクシンヒロイン Bakushin Heroine 牝
主な勝鞍 06'2歳未勝利
もしかしなくても、父:サクラバクシンオー
母はカズサヒロイン。

テイエムオペレッタT M Operetta 牝
主な勝鞍 08'3歳以上500万下
これは父:テイエムオペラオーやろなぁ→父:アドマイヤベガ
なんでかと思ったら交配相手がオペラオーばっかなのでお嫁さん枠らしい。

よろしかったら感想評価お気に入り登録をお願いします。とても励みになります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。