驀進王に憧れてトレセン学園に来たダメダメな私が3つの玉座の女主人と称えられるまで 作:八幡悠
イタコ姉さまの口寄せ術! 20XX/8/30(日) 18:00
【イタコ姉さまの口寄せ術!】短距離女王、秋は二千に浮気する!?
◆3連覇、3連覇、その間に天皇賞!?
いやぁ、発表されましたわねぇ、ノルデンセミラミスの秋ローテ!
さてさて、今年の秋の気配をひとつ口寄せしてみましょうか。
……おや?
聞こえてきますわねぇ。
9月13日のセントウルステークス。
10月4日のスプリンターズステークス。
11月1日の天皇賞(秋)。
そして11月22日のマイルチャンピオンシップ。
……おかしくありません?
セントウルステークスは3連覇がかかります。スプリンターズステークスも3連覇です。マイルチャンピオンシップまで3連覇ですわ。
普通ならこれだけで「偉業へ挑む女王の秋!」と大見出しを打って終わりですのよ。
ところがその間に、しれっと2000mが混ざっています。
1200、1200、2000、1600。
何度見ても2000だけ様子がおかしいですわね。
もっとも、突然の思いつきではありません。今年の中山記念では1800mを勝っていますし、年初から中距離挑戦そのものは公言していました。
春の宝塚記念は結局見送りましたけれど、あれは2200m。秋の本命はこちら、府中2000mだったということでしょう。
短距離とマイルで合わせていくつG1を勝ったか、そろそろ数えるのも面倒になってきた女王様。
今度はついに中距離の皆様のお宅へ上がり込むようですわよ。
ええ、聞こえます。
中距離戦線の皆様の声が。
「こっちまで来るな」と。
中距離の皆様、戸締まりはよろしくて?
◆ウオッカを追って? それとも玉座を取りに?
そして皆様が一番聞きたいのはこちらでしょう。
「ウオッカを追いかけたんじゃありませんの?」
この春、ヴィクトリアマイルで負けました。
続く安田記念でも負けました。
しかもハナ差。
ノルデンセミラミスというウマ娘、ここ2年以上、海外まで出かけて散々勝ち散らかしていたのに、今年は東京1600mで同じ相手に2回続けて負けています。
その相手がウオッカ。
そして次にぶつかる予定の舞台が、ウオッカの庭とも言うべき東京2000m。
いやぁ、できすぎですわねぇ!
ではここで、セミラミスさんの胸中を勝手に口寄せしてみましょう。
「別にウオッカさんを追っているわけではありません」
……はいはい。
そういうことにしておきましょうねぇ。
とはいえ、実際のところ陣営はそんな単純な理由では動いていないでしょう。
中距離挑戦は以前から検討され、中山記念もその一環。天皇賞(秋)そのものも、ヴィクトリアマイルより前から候補に入っていました。
ですから「負けたから追いかけた」は時系列的には正しくありません。
でもねぇ。
予定していたところに、よりによって春に2回負けた相手が待っている。
だったら我々は煽るしかないでしょう!
春はウオッカが2勝。
秋の第3戦は2000m。
短距離女王が中距離へ殴り込み、そこで待つのが府中のウオッカ。
こんなもの、面白くないわけがありませんわ。
しかも忘れてはいけません。
中距離戦線には、妹のノルデンレヨネットもいます。
姉は短距離とマイルの女王。
妹はその姉より先に、中距離で実績を積み上げてきた。
もし天皇賞(秋)で顔を合わせることになれば、今度は姉妹対決までついてきます。
おやおや、こちらからも何か聞こえてきたような。
「お姉ちゃん、こっちまで来るの?」
……たぶん言ってませんけど。
それにしたって、お姉ちゃん。
妹がようやく勝った2000mのお庭まで取りに来るんですの?
ウオッカへの雪辱戦に、3階級制覇。
そのうえ妹との直接対決。
……盛りすぎでは?
これ、秋天1本で何本も記事が書けますわね!
◆本当に怖いのは2000mより、その前の1200m
さて、元トレーナーとして少しだけ真面目な話もしておきましょう。
……これでも一応元トレーナーですのよ?
私がこのローテを見て最初に気になったのは、天皇賞(秋)の2000mそのものではありません。
その4週間前にスプリンターズステークスを走ることです。
1200mと2000mでは、必要なものが違います。
スタート直後から速い流れに対応し、1分少々で全力を使い切るために仕上げた身体。その状態から中3週で、今度は2000mを最後まで走り切らなければならない。
しかもスプリンターズステークスは3連覇がかかるG1。
秋天の前哨戦だからほどほどに、なんて走りが許される相手ではありません。
そのうえ秋天が終われば、中2週でマイルCS。
こちらも3連覇。
欲張りましたわねぇ。
ちょっとそこんとこ泉助ちゃん(*弊社記者)、聞いてきなさいよ。
コラム書いてるんでしょ?
……それはさておき、ノルデンセミラミスというウマ娘は、レースを選ぶ時点ではかなり慎重です。
無理だと思えば、春の宝塚のように見送る。
けれど、一度「出る」と決めたレースで、最初から負けるつもりの走りをする子でもありません。
つまりこの4戦。
陣営は全部取りに来ています。
セントウル3連覇。
スプリンターズS3連覇。
天皇賞(秋)で3階級制覇。
マイルCS3連覇。
できるかですって?
普通なら「無茶ですわ」で終わります。
でもこの子、昨年は日本と英国と香港を行ったり来たりしながら全部勝ったんですのよねぇ。
では最後に、女王様の秋をもう一度口寄せしてみましょうか。
……うーん。
勝てる、とまでは降りてきませんわね。
さすがにそこまで都合のいい霊はいません。
ですから私は、こう言っておきます。
無茶ではあります。
でも、無理だとは口寄せできませんわ。
関連記事
【吉富先生に相談だ!】人生相談! ハイスペックな彼女と釣り合うか不安な20代男性へ吉富まつりが送る言葉
20XX/8/30(日) 17:05
この記事を書いた記者
藤井 泉助
19XX年生まれ、大阪府出身。19XX年からトレセン学園で取材を続けている。
関係者のコラムを多数担当。持ち前のコミュ力を活かし懐に飛び込む取材で……
️束スポレースTOP > 「イタコ姉さまの口寄せ術!」一覧 > 【イタコ姉さまの口寄せ術!】短距離女王、秋は二千に浮気する!?
ノルデンセミラミス、3階級制覇へ――勝負の秋
(文:乙名史 悦子)
■4戦で問われるのは「距離への対応力」
夏合宿を終え、ノルデンセミラミス陣営から秋のローテーションが発表された。
9月13日、阪神・セントウルステークス。
10月4日、中山・スプリンターズステークス。
11月1日、東京・天皇賞(秋)。
11月22日、京都・マイルチャンピオンシップ。
1200m、1200m、2000m、1600m。
注目すべきは、単に2000mの天皇賞(秋)が加わったことではない。
この4戦すべてを勝ちにいくのであれば、ノルデンセミラミスは短期間に異なる距離へ対応しながら、それぞれで最高水準の競走能力を発揮しなければならない。
中距離挑戦そのものは突然決まったものではない。
陣営は年初から短距離、マイル、中距離の3階級制覇を掲げ、その第一段階として中山記念1800mへ出走。初距離ながらカンパニーや、先の宝塚記念を制したドリームジャーニーら中距離の実力派を破っている。
その一方、春の宝塚記念2200mへ無理に進むことはなかった。1800mを勝てたことと、さらに距離を延ばして勝てることは同義ではない。
陣営は一度立ち止まり、夏を挟んで2000mへ向かう道を選んだ。大胆な目標とは対照的に、距離延長そのものは慎重に進められている。
■1200mを捨てて2000mへ行くのではない
今秋の難しさを考えるうえで、最も重要なのはスプリンターズステークスである。
ノルデンセミラミスは国内外の1200m戦で頂点に立ってきた。
カルティエ賞最優秀スプリンター、グローバルスプリントチャレンジシリーズチャンピオン。
そして本人自身が長く「スプリンター」を自認し、その原点としてサクラバクシンオーの存在を語っている。
だからこそ、スプリンターズステークスを天皇賞(秋)へ向けた調整の一環として扱うことは考えにくい。
3連覇が懸かるG1であり、何より彼女自身の本領を示す舞台だ。
つまり今回の挑戦は、短距離用の能力を捨て、中距離へ転向するものではない。
1200mで最高の走りを求めたわずか4週間後に、2000mでも勝とうとしている。難題はそこにある。
■2000mで問われるのはスタミナだけではない
天皇賞(秋)を考える際、「2000mを走り切れるか」という問いだけでは不十分だ。
1800mについては中山記念ですでに結果を残しており、少なくとも距離が伸びた瞬間に能力を発揮できなくなるウマ娘ではない。
だが、中山記念の内容をそのまま200m延長すればよいわけでもない。
あのレースでセミラミスは、中距離特有の緩い流れの中で余裕を持って脚を温存し、最後だけ加速したわけではなかった。
自らの速度感覚との違いに対応しながら、最後は能力の高さで押し切った側面がある。
東京2000mで必要になるのは、単純なスタミナの増加ではない。
序盤をどの速度で入るのか。どこで脚を使うのか。どこまで自身の得意な巡航速度を維持するのか。
そして、その速度を2000mという距離の中へどう配置するのか。
1200mを速く走れる能力を、そのまま長時間維持すればよいわけではない。
2000mを勝つための競走そのものを、新たに設計する必要がある。
距離、バ場、コース、展開に合わせて競走を組み立ててきたセミラミスにとっても、これまでとは異なる課題になる。
■ウオッカとの第3戦は、春とは条件が違う
当然、天皇賞(秋)ではウオッカとの再戦にも注目が集まる。
今春のヴィクトリアマイル、安田記念。同じ東京1600mで行われた2戦はいずれもウオッカが制した。
しかし、第3戦を単純な続きと考えるべきではない。
春の2戦では両者とも十分な実績を持つマイルで競ったが、秋は違う。
セミラミスは初めての2000mを攻略しなければならない。
対するウオッカは昨年すでに東京2000mの天皇賞(秋)を制している。さらに今年もヴィクトリアマイル、安田記念と東京のG1を連勝。府中での実績については現役屈指と言ってよい。
セミラミスにとっては新たに攻略する舞台、ウオッカにとってはすでに結果を積み重ねてきた舞台。
春以上に条件の非対称性が大きい再戦になる。
さらに中距離戦線には、妹ノルデンレヨネットもいる。
こちらも2000mの香港カップで実績を残しており、姉妹が同じ距離で本格的に競うことになれば、適性の違いを見るうえでも興味深い一戦となるだろう。
天皇賞(秋)は単なる距離延長の試験ではない。既存の中距離勢が築いてきた領域へ、短距離女王が挑戦者として入っていくレースになる。
■2000mの後、1600mへ戻れるか
そして、天皇賞(秋)で終わりではない。
中2週後には3連覇が懸かるマイルチャンピオンシップが控える。ここにも今秋の難しさがある。
天皇賞(秋)だけを考えるのであれば、夏から2000mへ向けて身体と競走感覚を作り込むこともできる。
しかし実際には、その直前まで1200mを走り、終了後には再び1600mへ戻らなければならない。
短距離、中距離、マイル。その都度、必要となる速度域やレース展開は異なる。
昨年のセミラミスは英国遠征を含む年間10戦を全勝した。
異なるコースや環境への対応力については、すでに十分な実績がある。
ただし、今年問われるものは少し違う。移動先へ適応する能力ではない。自らの競走能力を、短期間のうちに異なる距離へ合わせ続けられるか。
その意味で、今秋の4戦は彼女の「万能性」をこれまでとは別の角度から試すものになる。
■総括――3階級制覇の本当の難しさ
ノルデンセミラミスは、すでに短距離とマイルで歴史的な実績を残している。
URA年度代表2回、国内外G1・14勝。
英国と香港でもG1を制し、世界的な短距離タイトルも獲得した。
短距離とマイルだけでも歴史に名を残すには十分な実績である。
だからこそ、今回の挑戦は興味深い。
「中距離でも走れる」ことを証明するためではない。
スプリンターとして完成された自分の能力を、どこまで別の距離へ持ち込めるのか。中山記念では1800mまで届いた。
次は2000m。天皇賞(秋)は、短距離女王が中距離ウマ娘へ変わるためのレースではない。
短距離女王のままで、どこまで行けるのかを問うレースである。
【コラム】スプリンターのまま2000mを勝つということ
距離を延ばして成功するウマ娘は決して珍しくない。
その場合、多くは距離延長に合わせて走り方も変わっていく。
序盤の速度を落とす。脚を使う時間を短くする。より長く余力を残す。そうして適性の中心そのものが、徐々に長い距離へ移っていくこともある。
しかし、ノルデンセミラミスの秋ローテーションを見る限り、陣営はその道を選んでいない。
10月4日に1200mのスプリンターズステークス。
11月1日に2000mの天皇賞(秋)。
11月22日には1600mのマイルチャンピオンシップ。
中距離へ転向するのであれば、この並びにはならない。
彼女はスプリンターであることを維持したまま、2000mを勝つ方法を探している。
ならば必要なのは、自らの最大の長所である速度を消すことではない。
その速度を、2000mという競走の中でどう使えば最後まで成立するのかを見つけることだ。
それが可能ならば、今回の3階級制覇は単なるG1勝利数の追加以上の意味を持つ。どの距離まで走れるか、ではない。自分の走りを、どの距離まで勝てる形にできるのか。この秋、ノルデンセミラミスが試されるのはそこだ。