驀進王に憧れてトレセン学園に来たダメダメな私が3つの玉座の女主人と称えられるまで   作:八幡悠

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031 桜の女王とNHKマイルカップへ

 東京レース場、重賞用控室。

 

 桜花賞から1ヶ月、早くも2度目のG1出走が近づいている。

 真紅の上着に袖を通す。

 

「次こそは私が一番なんだから!」

 

 そう僅かに震える声で啖呵を切った彼女の顔がまだ昨日のように浮かぶ。

 あの3センチ差の決着からもうそんなに経ってしまったのか。

 

ウオッカ、ダービー出走へ

11年ぶりティアラ路線からの出走 勝算は

 

 ウオッカはかねての宣言通り、オークスではなくダービーへと駒を進めた。

 もちろん荒れた。世間も、スカーレットも。

 これには私も無関係ではない。

 

 まずウオッカは僅差とはいえ桜花賞で負けた。これは事実だ。

 私に言わせれば次やったら勝てないのではといったレベルの差だったが。

 だが、歴史的な経緯から格下に見られがちなティアラで勝てないウマ娘がクラシック路線へ殴り込みなど、というのが自称識者の見解らしい。

 まあなんとでも言うがいい。

 私のライバルは、ウオッカは、強いぞ。

 

 ボタンやエポレットの位置を整える。

 

 スカーレットについては私も良くなかった。

 熱発明け病み上がりの彼女に、ウオッカのダービー出走と私のNHKマイルカップ出走が同時に伝わってしまったのだ。

 メジャーさん曰く、オークスに加えてMCローテもやるとギャン泣きして暴れたので鎮静剤をキメられたとか。なにやってんだ。

 幸い、向こうのトレーナーさんの説得に応じてオークス出走を決めたそうだ。

 

 そして、私はNHKマイルカップへと出走する。

 

桜の女王、変則二冠へ

クラシックマイル王者決定戦 事実上の1強か

内荒れ馬場、先行策に黄信号 実力問われる桜花賞ウマ娘

 

 どうやら世間では私が本命視されているらしい。

 ほんの1ヶ月前までマイルは持たないだろうと言われていたというのに。

 きっとウオッカもスカーレットも居ないからだろう。さしずめ鳥無き里の蝙蝠といったところか。

 

 事前の作戦会議を思い出す。

 天気は生憎の雨。バ場は稍重と発表されている。

 開催が進んでいることもあり、コーナー内側の芝は傷んでいることだろう。

 トレーナーさんの指示は、ラチギリギリの最内に潜り込んでしまうか、多少外を回しても状態の良い芝を選んで走れというものであった。

 

 白いサッシュを肩から掛け、手でしごいてピンと張る。

 姿見に映るは誇り高き赤。この勝負服に誓って、無様な走りはできない。

 

 

 更衣スペースのカーテンを開けて着替えを待っていたトレーナーさんの元へ戻る。

 今日はフライトさんもゼファーさんもいない。

 フライトさんは彼女のトレーナーの教え子の応援に京都へ、ゼファーさんは高尾トレーナーの方に今はいる。

 

「どうも雨は止みそうにありません。バ場も稍重のまま変わらずです」

 

 タブレットとにらめっこしながらトレーナーさんが言う。

 第9レースまで至ってもなお発表は変わらず、メインレースでも同じ状況だろう。

 

「さて、最後のブリーフィングですが、特に言うことは変わりません」

 

 トレーナーさんは今日の昼食を決めるぐらいの事も無げな調子で続けた。

 

「クラシック戦線からの転戦組も多いですが、G1ウマ娘である貴女に匹敵するウマ娘はいません」

 

 今回のレースはピンクカメオさんとイクスキューズさん以外は初対戦となるクラシック組であった。

 だがトレーナーさんは、心配はいらないと断言する。

 

「貴女の重バ場に適した走法が未完成であること、バ場が渋っていること、まだ明らかになっていない重バ場巧者が潜んでいる可能性、未経験の府中。全てを最大限危機的に見積もってなお、私は貴女の勝ちは動かないと判断しています」

 

 不利な要素を挙げればきりがない。

 が、それでもトレーナーさんは私の勝ちを信じてくださっている。私は、それに応えたい。

 

「無理に先行争いに加わる必要はありません。府中の直線は500mもあるのですから、今日のメンバー相手なら多少後ろからでも届きます。とにかく焦らないことです」

 

 そう結んで私を立たせると、いつしかレース前のルーチンとなったように私の肩から腕を撫で、パドックへと送り出してくれた。

 

「いつものペースを保って、最後まで気を抜かないこと。良いですね」

「はい。行ってきます」

 

 室内のスピーカーが集合時間が近いことを知らせるのを聞きながら、私はパドックへと向かった。

 

 


 

「おや、後風でしたか」

「ちょうど今出ていったところですね。……どうかしましたか?」

「トレーナーさんは、誰かを警戒しているということはないのですか」

「ありませんね。高尾トレーナー(かっちー)も第一に挙げたのはウチのセミラミスだったでしょう?」

「2番人気のローレルゲレイロなどは……」

「ああ、あの娘ですか。昔似たような娘を担当したことがありますが、実力はあっても気性がレースに向いていないように見えます。私が担当するなら短距離を試したいですね。それよりは訳わからないのがカッ飛んでくるほうが怖い」

「そんなもの、ですか。それはセミラミスさんには?」

「言ってませんよ。変に彼女の注意を分散させるよりは、自分のレースに専念させたほうがあの娘は強い」

 


 

 東京レース場、地下バ道。

 

 先に見える空はあいにくの雨模様、湿気がまとわりつくようだ。

 パドックでのアピールの間に1人残らず水も滴るイイ女と化した私達は地下バ道を歩いていた。

 先月と異なるのは、皆の視線が私に集中していること。だが誰も私に話しかけてこない。

 

 面識のあまりないクラシック組はともかく、同じティアラ組の友人であるはずのピンクカメオさんやイクスキューズさんでさえもだ。

 お前は私達とは違う、そう突きつけられているような気がした。

 正直、居心地が悪い。

 

 私は17番であるから飛び出すのはほぼ最後だった。

 なので、その前に近くに来ていたピンクカメオさんに話しかけようかと思ったが叶わなかった。

 いつも話していたはずの彼女の横顔から、まるで抜き身の刀のような剣呑な雰囲気を感じ取ったからだ。

 普段からどちらかと言えば気の強い方の彼女だが、このような怜悧な空気を纏ってはいない。

 そうして躊躇している間に彼女は飛び出していってしまった。

 

『7枠14番ピンクカメオ、17番人気です。前走の敗北を糧に番狂わせを見せてほしいですね』

 

 そのまましばし、いよいよ後2人となったときのことだった。

 

「おい」

 

 後ろから呼びかけられた。

 振り向くと黄色地に海老色の格子模様が入った羽織の勝負服に刀を佩いたウマ娘。確か18番人気の娘だ。

 

「ムラマサノヨートーだ。貴様の首級、貰い受ける」

 

 妖しく底光りする彼女の視線に、尋常ならざるものを感じる。

 そして悟る。これが、追われる者の立場。

 なら、私はそうあらねばなるまい。こんなとき、バクシンオーさんならどう答えるだろうか。

 

「……お待ちしておりますよ」

 

 うまく表情が作れただろうか。

 そう言い捨てて、私は雨の中へ飛び出した。

 

『8枠17番ノルデンセミラミス、1番人気です。先月の桜花賞に続きマイルG1連覇なるか』

 

 観客席からの大歓声が私を出迎える。応援の声が私の名前を呼ぶ。

 これだけの人が私に期待している、勝って当然だと思っている。

 

 そんな重圧を覚えつつも、私の冷静な部分が予想以上に荒れたコーナー内側の芝を感じ取る。

 たしかにこれはトレーナーさんの言う通り外を回したほうがいい。

 

 いよいよファンファーレが鳴り響き、出走のときが刻一刻と近づいていた。





好きなウマ娘アンケートへのご協力ありがとうございました。
上位入着したウマ娘は出番増やしときます。
また誰出すか迷ったときに不定期でやるのでその時はどうぞ。

今回のアンケートは割と興味本位です。

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  • 1人称/主観(チューリップ賞形式)
  • 3人称/客観(桜花賞形式)
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