驀進王に憧れてトレセン学園に来たダメダメな私が3つの玉座の女主人と称えられるまで   作:八幡悠

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妹ちゃんの名前が変わってますが、これまでのストーリーには一切影響はありません。


037 北のセミラミスと北の獅子

 トレセン学園、カフェテリア。

 午後の休憩時間、おやつの時間ということでにぎわいだしたそこを、私は足早に立ち去ろうとしていた。

 カフェテリアの出口で、ウマホのメッセージアプリを開く。

 ウオッカとのやり取りの末尾に『ごめん数分遅れる』とだけメッセージを残して、既読も確認せずポケットにしまった。

 時刻は15時まであと3分。

 私には、もう少し気持ちを落ち着ける時間が必要だ。そう思いながら、来た道をあてどなく歩き出した。

 

 

 

 どうしてこんなことになったかといえば、事の始まりは数日さかのぼる。

 安田記念へ出走の意思を固め、そこではたと気づいた。これを言うべき相手がいるではないか、と。

 

 その相手とはもちろん、私のライバルにしてダービーへの挑戦を控えたウオッカだ。

 彼女が挑戦するというなら、誰も往かない道を往くなら、私もそうありたいと願ったのだから。

 

 寮の自室で、学習机に向かいながらウマホのアプリを立ち上げ、ウオッカにメッセージを飛ばす。

 ちょっと2人で話せませんか、と。

 直接話しに行っても良いのだが、そうするとどうしてもスカーレットの耳にも入ってしまう。安田記念でとる戦法が戦法なだけに、いずれバレるにしても出走が公になるのは遅らせたかった。

 

 そうしてメッセージを送ると、背中に気配がして肩に重いものがのしかかった。

 

「お、なんだ? デートの誘いか? お前も隅に置けないなぁ、相手は誰だ?」

 

 このこの~、と喋るのにあわせてつむじにアゴがぐりぐりされる。

 お風呂上りの石鹸の香りがふわりと鼻をくすぐった。メジャーさんだ。

 

「……ウオッカとはそういう関係じゃないですよ」

「ああ、あの純情ガールちゃんか。ダービー行くんだってな」

 

 メジャーさん的にはそういう扱いなのか。

 本人は“カッケェ”のを目指してるようだが、そうは見られていないらしい。

 

「だってちょっとからかっただけで顔真っ赤にするんだぜ? 顔もけっこうカワイイしな」

 

 なーなーちょっと紹介してくれよ〜同期だろ〜、と腕を私の首元に回しながらメジャーさんは言う。

 後頭部で柔らかさを感じつつ、またかと半ば呆れていつものように返した。

 

「自分で行ってくださいよ」

「スカーレットの奴がセコムしてて近寄らせてくれないんだよ〜」

 

 一体何をやったんだ。

 まあ全体的に距離が近いからなこの人は。

 

 ピロンという通知音とともにウオッカから返信が来る。

 明日なら調整だけだから昼過ぎならいいぜ、と返ってきた。

 私も、ダービー前にごめん、15時にカフェテリアで、と返信する。

 

「カフェテリアデートとはアオハルだねぇ〜」

「だからちーがーいーまーすー」

 

 あいつとは友達で、仲間で、ライバルなのであって。

 メジャーさんがからかってくるような関係ではないのだ。

 あるいは某トリプルティアラの先輩に言わせれば、それも愛、なのかもしれないが。

 

 

 

 そうして翌日の昼過ぎ。

 図書館に本を返しに行っていたら、戦記ものの新刊がもうすぐ入るとかで顔なじみの図書委員の先輩と話し込んでしまい遅くなってしまった。

 幸い時間はギリギリだが十分間に合いそうだった。

 

 カフェテリアへ着くと、午後の良い時間というのもあって休憩に来たウマ娘たちで混雑していた。

 さて、ウオッカはどこにいるだろうか。

 彼女は約束に黙って遅れるようなタイプではない。特に連絡がないのだからもうどこかにいるはずだ。

 喧騒の中に耳を立て、ぐるぐる回してウオッカの居所を探す。

 

 聴音に感あり(ソーナーコンタクト)、10時の方向。

 

 だがウオッカの声とともに別の声がする。どうやら一人ではないようだ。

 誰の声か識別する必要はない。私はこの声を彼女が生まれたときから知っている。

 

 目視した(タリホー)

 

 背中を向けているが見まごうはずもない。

 右耳に王冠の耳飾り、明るめの栗毛。ノルデンレヨネット、妹だ。窓際の席にウオッカと向かい合わせに座っている。

 どうしてここに? なぜウオッカと? 

 そう疑問に思うと、無意識に彼女らの会話にチューニングを合わせてしまう。

 

「お姉ちゃんは本当にすごくって。勉強もできるし、みんなが褒めてるし、走りだってもうG1を2つも。全部完璧で……」

 

 妹の声が、ざわめきの隙間からはっきり耳に届く。

 胸の奥が少し熱くなりかけたところで、ウオッカの笑い声が返ってきた。

 

「まあそうかもな、俺も世話になったことあるし。すげぇ奴だよ」

「でも、アタシはああはなれない……。どれだけ頑張っても届かない気がして……」

「おいおい、お前はお前だろ。比べたって仕方ないぜ」

 

 表情は見えない。けれど、声だけでわかる。妹はきっと今、唇を噛んでうつむいているに違いない。

 

「最近はあまり話してくれなくて……構ってもらえなくて、ちょっと寂しいんです」

「そういうのは言わなきゃ伝わんないぜ。近しい関係だからこそ、だ。なぁ?」

 

 ウオッカと視線が交錯したような気がしてハッと我に返る。

 ──だめだ。

 これ以上は、聞くべきじゃない。

 耳を伏せ、胸の奥を押し隠すようにして、私は踵を返した。

 


 

「……まったく、似た者同士だな」

「アタシとお姉ちゃんがですか?」

「おう。よく似てるぜ」

 


 

 カフェテリアの喧騒を背に、足早に立ち去ろうとしていた。

 カフェテリアの出口で一旦脇へ寄り、ウオッカとのやり取りの末尾に『ごめん数分遅れる』とだけメッセージを残してウマホをポケットにしまった。

 

 行く宛など無いが、とにかく歩を進める。

 

 ……どうして、聞いてしまったんだろう。

 レヨネットの声が耳から離れない。

 

 完璧なお姉ちゃん、って。勉強もできて、走りもすごくて、全部すごいって。

 そんなふうに思われていたなんて──嬉しいはずなのに。

 でも、寂しい、って……。

 レースやら何やら……眼の前のことを言い訳にして、私が全然見ていなかったことを、突きつけられた。

 

 完璧な姉であろうとして、全然そうじゃなかった。

 あの娘に寂しい思いをさせてしまっていた。

 私が強くならなきゃって、勝たなきゃって必死で……そのせいで一番近くにいたあの子を置き去りにしてた。

 

 廊下を歩きながら、窓に映る自分の顔を横目に見て思う。

 今のこの顔で、どうやってウオッカの前に立てばいいんだ。

 こんな動揺した顔を見られたら、鋭いあいつのこと、すぐに気づかれてしまう。

 

 だから、遅れるって連絡して、時間を稼いだ。

 遅れる、なんてただの言い訳。嘘だってわかってる。

 

 階段を上がって、降りて。ぐるぐると校舎を回って、どこに行くでもなく歩き続ける。

 足音がやけに大きく響いて、胸のざわつきを消してくれない。

 外の空気を吸えば落ち着くかと思ったのに、心臓の鼓動ばかりが耳に残る。

 

 レヨネット、ごめん。

 私は完璧なお姉ちゃんでいるつもりだったのに、全然良いお姉ちゃんじゃなかった。

 でも、今更どうすればいい? 

 寂しくさせてごめん? それこそ今更だ。でも、このままで良い訳がない。

 

 レヨネットの言葉が、まだ耳に残っている。

 ごめん、と謝りたい気持ちと、どう謝ればいいかわからないもどかしさで頭がいっぱいになる。

 でも、ここで逃げ続けたら、ますますあの子を寂しがらせるだけだ。

 私は良いお姉ちゃんでいるって決めたんだ。

 これ以上あの娘に寂しい思いをさせてはいけない。

 深呼吸して、ウマホを握りしめる。ちょうど15時を過ぎたところだった。

 

 ……よし、戻ろう。

 戻って……どうしようか。ええい、当たって砕けろ(Go for broke)だ。

 まず話してみよう。話はそれからだ。




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○競走馬の改名
Q.実際、変えられるの?
A.変えられる。
競走馬登録後は年齢にかかわらず、初出走前に1回に限り変更できる。 初出走後はいかなる理由があっても、変更することはできない。例.トキノミノル(旧名パーフエクト)

○架空馬紹介
ノルデンレヨネット Norden Lejonet 牡
主な勝鞍 08'卯月賞(G1)、09'チャンピオンズおはマイル(G1)、10'天皇賞(沖)(G1)
近親馬 ノルデンセミラミス(全姉:04)、メモリアルフライト(全妹:13)
わざわざコピペして読んでくれたとこ申し訳ないんだけどあんま設定決まってないんだわ。
ぶっちゃけると08年にネームドと主人公全然対戦しない問題の保険として登場したキャラなんで出番の量は状況次第なんよ。
あんま主人公そっちのけで架空産駒だのオリウマだの出されると白けるってのもわかるから、この娘の出番の寡多は割と皆様の反応次第です。

レース描写はどっちのほうが好みですか?

  • 1人称/主観(チューリップ賞形式)
  • 3人称/客観(桜花賞形式)
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