驀進王に憧れてトレセン学園に来たダメダメな私が3つの玉座の女主人と称えられるまで 作:八幡悠
旧理科準備室。
こうして色々とあったが、その自信作を手土産にカフェさんの部屋を訪れた。
私とホストのカフェさん含めウマ娘5人が訪れると聞いていたが、流石に他の人もなにか持ってくることを考えて1本。それでも1人あたり2~3切れは十分当たる量だ。
早めに来たので室内にはカフェさん以外誰もいない。
しばし準備をしているカフェさんを手伝ってカラトリーを出したりケーキを切り分けて皿に乗せたりしていると、次々と襲来したのが先程の面々である。
私の右隣、“七冠の皇帝”シンボリルドルフ。
正面はトリプルティアラ、スティルインラブ。
右手には同期の朝日杯覇者ドリームジャーニー。
左手はホストの長距離三冠マンハッタンカフェ。
…………一体どうしてこんなことに…………。
「今日は……グアテマラの中煎り、です。……酸味と甘みのバランスが、いいですから……どれにも合うはずです……」
カフェさんが各人の眼の前にカップとソーサーを並べる。
テーブルの上には各人が持ち寄った豪華なお菓子が並び、香り高いコーヒーの蒸気がゆっくりと広がっていく。
「ほう……芳醇華美、香りと共に心も引き締まるようだな」
シンボリルドルフ会長がソーサーを手にとって一言。相変わらず四字熟語が多い人だ。
いったいなんでこの人がわざわざ私なんかの隣を選んで座ったのだろうか。
……いや違う、勧められるままに座ったが本来ここは複数人掛けソファの一番奥だから上座だ!
やっば……会長さんより上座に座っちゃった……冷汗三斗、って会長さんみたいに四字熟語を喋ってる場合じゃない、どうしよう!?
「まぁ……! ブランデーの香り……。────ああ、しっとりと甘くて、香りが口いっぱいに広がって……こちら、どなたが?」
そうやって一人で焦っていると、スティルインラブさんがさっそく私のチーズケーキを頬張っていた。
「あ、わ、私が作りました……」
「ふむ、しっかりとしたチーズの風味とレーズンの甘みが効いているのにくどくない。……これは店で出せる味ですね」
ドリームジャーニーさんも続いてケーキをつついて一言。
……あれ、品定めするような目付きと薄く笑みをたたえた口元からして怖い人かと思ってたけど、別に喋るとそんなに変なことは……言ってない?
「……本当、ブランデーとグアテマラの風味がよく合ってる。……美浦寮で、噂になっていたから……いつ頂けるのかと思っていたら、今日のためでしたか」
「ああ、もしやクリスエスが言っていたのはこのことかな? ────うん、くどくないのは生クリームを使っていないからだね。あとはレモンと、何かの酸味を感じるな」
カフェさんと会長さんも私のケーキを食べてる……それにお2人の耳にも入っていた!?
……そうか、メジャーさんとカフェさんは親交がある、そしてロブロイさんの同室のシンボリクリスエスさん経由で会長さんの耳まで!
同じ美浦寮なのだからもう少し考えて配るべきだった。今更ながら頬が熱くなる。
そして流石はルドルフ会長だ。ほとんどレシピを当てている。
「は、はい。生クリームの代わりに水を切ったヨーグルトを使ってヘルシーに仕上げました」
「なるほど、水切りヨーグルトですか。……それならもう一切れ……ああっ、いけないわ。なんてはしたない……」
一人で悶えているスティルインラブさんにもう一切れ切り分けて差し上げる。
相手が現役ならご法度な行いだが、もう一線を退いているのだからケーキの一切れぐらい気にすることはないだろう。
小さく一口大に削り取っては口に運ぶ小動物のような動きを微笑ましく見る。
なにかレース中は人が変わったようになるという噂を聞いたことがあったが、やはり根も葉もないものだったとみてよさそうだ。
なんとなく張っていた肩肘から力が抜けたような気がして、最初よりは自然な笑顔が作れるようになったような気がする。
そこから各自の持ち寄ったお菓子を品評していく流れとなった。
「あの、スティルさんのクッキーも……すごく可愛くて、美味しそうです」
「ありがとうございます。ひとつひとつ、中身を変えてみたんです。りんごバター、蜂蜜、カスタード……お好みで」
「殊にりんごバターが絶品だな。錦上添花、グアテマラの華やかさをさらに引き上げている」
「選ぶ楽しみ、というのもいいものですね」
スティルインラブさんのサンドクッキーはシナモンの香りが立っていて口の中でほろほろとほどけるような口当たり。
私ははちみつ入りのがお気に入りになった。
「こっちの……パインケーキも、とても珍しいですね」
「ええ。こちらシンガポール土産で……遠征をお手伝いしたシャドウゲイトさんからお礼に頂いたものなんです」
そう言ったドリームジャーニーさんの青みがかった瞳には誇らしさが宿っていた気がする。
「すごい……! 海外遠征のお手伝いなんて……」
「……ふふ。遠征をお考えなら、遠征支援委員会までご用命を」
どうも当委員会は知名度が低くて、とドリームジャーニーさんは薄く笑う。
そう、もし海外遠征をするなら……いや、バクシンオーさんを超えるなら海外遠征はどうしても視野に入ってくる。
鼻に抜けるパインケーキの爽やかな南国の風味と共に遠征支援委員会のことを脳裏に刻みつけた。
そうして最後にルドルフ会長のご実家から送られてきたという高そうなチョコレートを頂いていると、カフェさんが改まって立ち上がった。
あれ、なにかあったのだろうか。
単にコーヒー好きが集まってコーヒーを楽しむ会と聞いていたのだけど。