驀進王に憧れてトレセン学園に来たダメダメな私が3つの玉座の女主人と称えられるまで   作:八幡悠

55 / 148
054 合宿所練習コース 夢の第11R(短距離)芝 1200m 晴 良 右

合宿所練習コース 夢の第11R(短距離)晴 良 右 1200m

 

 夏空の下、12人立ての練習用ゲートがターフに引き出され、12名の優駿が発走の時を今か今かと待っていた。

 約一名、クラシック級のウマ娘が死にそうな顔をしていたが、発走が近づくにつれて競争ウマ娘の顔へとなっていく。

 

 1番 ブラックホーク

 2番 ビリーヴ

 3番 ニシノフラワー

 4番 カルストンライトオ

 5番 サクラバクシンオー

 6番 ヤマニンゼファー

 7番 ノースフライト

 8番 タイキシャトル

 9番 キングヘイロー

 10番 ノルデンセミラミス

 11番 デュランダル

 12番 ヒシアケボノ

 

 勝ったG1は合計27、内短距離11。

 これが合宿終わりのレクリエーションってマジ? マジです。

 新潟レース場借りて観客入れたほうが良かったのでは? 残念ながら現在開催中なので借りれません。

 

「サクラバクシンオーとタイキシャトルが人知れずレースをしていいワケねェだろォォォッッッ!」

「どうした嬢ちゃん。夢の第11レースは初めてか?」

「いえ、なんとなく言わなきゃいけない気がしただけッス」

 

 コース外縁、小高くなった監視所。

 いかにも遊んでそうな雰囲気の華奢な若手女性トレーナーの言葉に、昨日はひたすら料理を堪能していた北浦トレーナーが絡む。

 トレーナーにもステータスの概念があったら太り気味……、いや、ビール腹のバステがついていることだろうことは請け合いな体型だった。

 

 合宿に参加していたウマ娘たちとトレーナー陣だけが見守るなか、レースの準備が進む。

 ゲートの最終チェックを行う間をもたせるべく、合宿参加者の広報部員有志による実況までが行われていた。

 

『3番人気はこの娘です。唯一の現役、クラシック級から参戦。だいぶん顔色も良くなってきました。“マイル変則三冠”10番ノルデンセミラミス』

『2番人気を紹介しましょう。国内外のマイル短距離G1を5勝、“大雨の中の無敵”8番タイキシャトル』

『威風堂々とスタートを待つのはこのウマ娘。唯一のG1スプリンターズS連覇、“無敵の驀進王”5番サクラバクシンオー、1番人気です』

 

「クラシック級で3番人気っスか、意外っスね」

「そうでもないやろ。自分、人気投票になんて入れた?」

「もちろん1番はデュラっスよ。2番3番はまあ……。北浦トレーナは?」

「トレーナーならそらそやな。ワシかて1番はビリーヴや。で、どのトレーナーもそうしたら?」

 

 1番はそれぞれの教え子に入るから分散し、結局サクラバクシンオー、タイキシャトルの順に票が入る。

 一方ウマ娘側の投票もバクシンオーとタイキシャトルについては同様だ。だがもう一票の行方が異なる。

 あるものはお世話になっている先輩に、あるものは応援の意味を込めて。

 

「なるほど、票が集まるとしたらノルデンセミラミスだけ……」

「そうでなくても勝負はあの3人やったやろけどな」

「ウチのデュラも昨日は喰いすぎてボテ腹晒してましたから……」

 

 明らかに事前にレースがあることを知っていたタイキシャトル、現役のノルデンセミラミスに加えてこのことを聞いていたか察していたであろうバクシンオー、ノースフライト、ヤマニンゼファー以外はそもそもレースの準備が整っていない。

 一部の者は前日のBBQで食べすぎて太り気味の様相を呈している始末だ。デュランダル、カルストンライトオ、ヒシアケボノあたりは明らかに太め残りで厳しいだろう。

 そしてマイラーであるノースフライトとヤマニンゼファーにとって1200mはすこし短い。スプリンターズSで2着2回なので走れないことないのだろうが、1着の相手が両方いるので仕方ない。

 もっとも、いままでの獲得タイトルを考えればそれはノルデンセミラミスにとっても同じはずだったが……。

 

「ありゃ、スプリンターの脚やな」

「ッスね。桜花賞のマイルは長いって評価は間違っちゃなかったッス」

 

 ゲートの下から見える(トモ)は居並ぶ名スプリンターと比べても遜色ない。

 すなわち、これまでの走りはあくまでスプリンターがマイルまで走っていたに過ぎなかったということになる。

 

 そして、それは直ちに自身の走りによって示された。

 

『さあ各ウマ娘一斉にスタート! ハナを切ったのはカルストンライトオ逃げる逃げる! 一方で先行争いは苛烈!』

 

 そもそも短距離は先行が有利。今回のレースもほとんどが先行でポジション争いが激化していた。

 そんな中、ノルデンセミラミスは外目からするりと中団前目、逃げの直後タイキシャトルの真後ろにつけている。

 

『隊列はカルストンライトオが引っ張る形!』

『追従するは内からビリーヴ、サクラバクシンオー、タイキシャトル。その後ろ、ヤマニンゼファー、ノースフライト、ノルデンセミラミスのマイル組3人、ブラックホーク、ヒシアケボノの2人と連なっている』

『後方差しの位置にはニシノフラワーとキングヘイロー、最後方待機はデュランダル』

 

「あの面子に物怖じせんとは、やるなぁあの娘は」

「そりゃあ安田でメジャーに勝ったんですから、それぐらいはね」

「あ、竪川トレー……ナー、お、お疲れ様ッス……」

 

 横からぬっと現れたのは竪川トレーナー。ロールケーキ1本と2Lのコーラボトルを抱えてのご登場。

 なんでお前そんなに食って太らないんだという2人の視線を無視して、彼は続ける。

 

「ほら、タイキシャトルも走り辛そうにしてる」

「……ほんまや。後ろについてから走りが寄っとるな」

 

 先程までサクラバクシンオーに近似した伸びやかな走りをしていたセミラミスが、タイキシャトルの後ろについてからはタイキと同じリズムを刻んで追走していた。

 デブったりチャラくてもそこは中央のトレーナー、眼の前でギアを変えるように走法を切り替えられればさすがに気づく。

 

「もしかして、安田記念でダイワメジャーが苛立ってたのは……」

「そういうことやろな。真後ろであないされたらうっとおしいてしゃあないで」

 

 自分のリズムに近い、しかし確実に“ズレた”足音を直後で刻まれては走りにくいことこの上ない。

 本人の性格があったとしてもメジャーがあんなに容易く挑発に乗ってしまったのはこの影響もあるだろう、と北浦トレーナーは一人納得する。

 やはりレースはこうして生で見るに限る。カメラやモニター越しではいけない。

 

 そんなことを話している間にもレースは佳境へ。

 狭くコーナーのきつい練習コースの4角を抜けながら各ウマ娘がスパートに移る。

 

『先頭はカルストンライトオまだ粘っているが大きく膨らんでいる! 先行集団は最内ビリーヴ、続いてサクラバクシンオー、おっとタイキシャトル膨らんだ、その内を突いてノルデンセミラミス仕掛けた!』

 

 各ウマ娘大なり小なり、曲がったことが大嫌いなカルストンライトオはものすごく外へ膨らみながらカーブを抜ける。

 バ群が大きく広がって勝負は最終直線へと持ち込まれた。

 

『中団、ヤマニンゼファーにノースフライト、ヒシアケボノ。ブラックホーク抜け出せるか、ニシノフラワーは集団に揉まれている』

『さあ最後方、外ラチ沿いに聖剣抜刀デュランダル! 最内キングヘイロー前が壁!』

『先頭はバクシンオー! タイキシャトル迫る! ビリーヴとセミラミスまだ粘っている!』

 

 しかし後方のウマ娘は加速しきれなかった中団組に阻まれて伸びきらず、ブラックホークが唯一後方から急襲して掲示板内に切り込んだ形。

 結果は1200mですら長かったライトオを除く先行組が概ね人気通りの決着となった。

 

 

 観戦していたウマ娘達が、すげぇもん見ちゃったわー、とばかりにぞろぞろと撤収作業に加わっていく。

 

 そんな中、トレーナー陣も互いに示し合わせて室内に場所を移して会話を続けた。

 設営側に回っていた吉富トレーナーや明石トレーナーにこの話を聞かれるのはよろしくない。

 

 

「で、どないすんねんアレ」

「いやー、キツいっしょ」

「面白いもん見せられちまったな」

 

 飄々と笑う堅川トレーナーは教え子がスプリンターズSには出ないからそうしていられるのだ。もしかしたら出ていても同じように構えているかもしれないが。

 対して残りの2人は出走予定があるため本気で頭を抱えている。

 

「てか何スかアレ、ほぼほぼバクシンオーの幼体じゃないスか」

「色々とセミラミスのがデカいけどな」

「クラシック級のバクシンオー相手ならまだやりようはあるよ。でもアレはシニア級2年目のバクシンオーの相似形だから崩すのは大変だろうね」

 

 唯一バクシンオーの現役時を直接知る堅川トレーナーが頭を振る。

 クラシック期のバクシンオーはニシノフラワーに短距離で負けたようにまだ可愛げがあった。

 シニア1年目での勝利は明石梧郎トレーナーの指導の賜物だった。

 シニア2年目では、もう手のつけようがなかった。

 

「おい、お前さんならどうする、トレーナー学校(スクール)の主席やったんやろ」

「チーミングはアリッスか?」

中央(ここ)じゃナシに決まってるやろ、しばくぞ」

 

 このトレーナー、チャラそうな見た目の割に成績は良かったらしい。こんな軽薄な性格してるのに。

 そして海外ならいざ知らず、その手のチームプレイは日本ではご法度だ。

 このトレーナーが笠松出身であることを考えれば若干含みがあるが、カラスが鳴かない日があっても勝たない日はない、とまで称された名トレーナーがそんなことをする必要はないので気のせいである。

 

「じゃあまずは雨乞いッスね」

「ほん?」

「あの走法は重バ場だと滑ってロクに加速できないッス。稍重のNHKマイルでも走りにくそうにしてましたし、まともにやり合うなら重バ場が前提ッス」

 

 さすがに主席は伊達ではないのか、彼女は突然賢しらなことを言い出す。

 本人もNHKマイルのインタビューで言っていた通り、セミラミスは重バ場が得意ではない。

 だがそれは陣営も認識しており、この夏合宿で集中的に鍛えていたはずだった。

 

「走法の改良なんて数ヶ月やそこらで終わるもんじゃないッスよ」

「そうだね。実際、適応は完全ではないようだった。まつりも不満そうではあったよ。何かが足りない、ってね」

「完全ではない、ッスか。思ったより完成度が高いッスね」

 

 竪川トレーナーは吉富トレーナーのことを名前で呼ぶ。ずいぶん親しいようだ。

 彼女の言うとおり、走法の改良というのは半年とか年とかの単位で時間がかかる。普通のウマ娘なら。

 だがセミラミスの重バ場への適応状況は想定以上だったらしく、彼女は眉をひそめた。

 

「で、重バ場やったとてや。今のシニア級では斤量差を安定して覆せそうなのはおらんやろ」

「短距離は紛れが多い、とはいえね。それを期待するのは間違いだろう。そもそもあの娘は脚質に融通が効くクチだろうし」

 

 残念ながら、今のシニア級短距離にそこまで突出した実力のウマ娘はいない。重バ場適性を含めて、だ。

 となれば、セミラミスと同じ負担斤量でいいクラシック級で誰かいるかだが……。

 

「……ただ1人だけ、今のセミラミスに、正面から届くかもしれない、と思える娘がいるッス」

「そんなんおったか?」

「クラシック級で、重バ場向けのピッチ走法で、かつスプリンターですか。覚えがありませんね」

「お2人ともマジっスか? いるじゃないッスか、旧ティアラ3強が──」

 

 旧ティアラ3強。

 ジュニア級ではウオッカと2強。桜花賞前までウオッカとダイワスカーレットに並び称されながらも、その結果によりノルデンセミラミスに取って代わられたフィリーズレビュー覇者。

 阪神ジュベナイルフィリーズ最終直線でのウオッカとの競り合いで、ストライド走法のウオッカに対して走法の比較見本とまで称されたピッチ走法の使い手。

 重バ場で、という条件付きながらスプリント戦でノルデンセミラミスを倒しうる唯一の存在。

 

「──アストンマーチャンが」




よろしかったら感想評価お気に入り登録をお願いします。とても励みになります。

レッドディザイアいい……。
08年になったらどっかでねじ込も。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。