驀進王に憧れてトレセン学園に来たダメダメな私が3つの玉座の女主人と称えられるまで   作:八幡悠

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更新再開っす。
ちょっとハーゴンをしばきに行ってて京都競馬場行ってて遅くなりました。
第二部スタートです。


第二部 理想を超えて クラシック級 秋シーズン(後編)
068 ウオセミうまさんぽ(京都)新幹線編


 昼前、東海道新幹線、のぞみ号8号車。

 

 てんてん、てれれれててててん、と車内にメロディが流れる。

 

『まもなく、京都です。東海道線、山陰線、湖西線、奈良線と──』

 

 ハッとして隣に座るウオッカを揺り起こす。

 シートの座り心地がが気持ちよくてついウトウトしてしまっていた。それはウオッカも同じだったようで、んあ、と間の抜けた声を漏らす。

 

 どうしてウオッカと2人で新幹線に乗って京都に向かっているのかと言えば、事の発端は数日……いやもっと前かな。とりあえず数か月前にさかのぼる。

 

 

⏰️ ⏰️ ⏰️

 

 

 三冠ウマ娘の生まれる地、京都。

 我々トレセン学園のウマ娘にとって京都といえば京都レース場のことに他ならない。

 クラシックティアラ両路線の終着点となる菊花賞と秋華賞は通常両方とも京都レース場で開催される。

 

 例年、菊花賞と秋華賞の後のウイニングライブではそれぞれの三冠を分け合ったウマ娘が登場しての演題がオオトリとして行われる。

 かつてはそれぞれのレースで3度ぶつかり合い、三冠ウマ娘によるソロ、三冠を分け合った3名によるトリオ、二冠とそれを菊花賞で下したウマ娘によるデュオ、二冠が骨折離脱したことによる菊花賞ウマ娘のソロ、といったドラマが繰り広げられてきた。

 具体的に名前を上げるとナリタブライアンの三冠、BNWの競演、ミホノブルボンとライスシャワー、トウカイテイオーの故障離脱である。

 

 だがレース体系の多様化と三冠トリプルティアラ路線の相対的な価値低下により、怪我などの不可抗力要因に依らず三冠路線を完走しない例がまま見られるようになってきた。

 長距離適性がないからと菊花賞を回避して天皇賞秋に回ったり、短距離組が桜花賞だけつまみ食いに来たりだ。

 そして今年の世代はといえば……。

 

「桜花賞だけつまみ食いして後はポイした奴とダービーだけ食い散らかして凱旋門いった奴がいるらしいですね」

「片方は目の前に居るな」

「もう片方も目の前に居ますね」

 

 すなわち、ティアラは私、桜花賞ウマ娘のノルデンセミラミスが、クラシックは目の前のダービーウマ娘ウオッカがそれぞれの最終戦には不出走が確定している。

 そう言う場合にはどうするのかといえば、興行を盛り上げたいURAが出張扱いで旅費を出してくれるらしい。

 しかもいつものレース出走者用の専用バス(バ運車)ではなく、新幹線、それもグリーン車で。

 

「でもなぁ、やっぱり実感わかないよな、グリーン車なんて」

「ね。たづなさんはガチトーンだったけどさ」

 

 2人して夏前に最終戦には出ないと表明した後、私たちはたづなさんに呼び出された。

 それで上記のような説明を受けて、グリーン車に乗っていいんですか、と返した私たちに対してたづなさんがため息をつきながら言ったのが以下の言葉だった。

 

「……お二人とも。“乗っていい”んじゃなくて、“乗ってください”なんです」

 

 そう言って、G1ウマ娘が普通車に乗っていたらどんな混乱が起きるかをとつとつと説明されたのだ。

 騒ぎになる、ファンに囲まれる、新幹線が遅れる、混乱でけが人が出るなどなど……。

 そこまで言われてやだと言うほど私たちも子供ではなかった。

 そして、少しでも発覚を遅らせるため変装もしていくようきつく言い含められた。

 

 で、その時には同行者として1名帯同することが許されていたのだが……。

 

「それが俺でいいのかよ。トレーナーと行ってくりゃいいだろ」

「私が秋華賞に出ないからって遅めの夏休みだって」

「マーチャンやレヨネットは?」

「自分のトレーナーとチームで行くってさ」

「……スカーレットやスプマンテ」

「出走ウマ娘!」

「なるほどなぁ」

 

 俺のトレーナーはその日府中だからな、とウオッカは答える。

 海外遠征がなければ彼女も秋華賞か天皇賞・秋には出走していたはずなのだからしっかりしてほしい。

 

「おっしゃ、じゃあ行くか」

 

 というわけで、そういうことになった。

 

 

⏰️ ⏰️ ⏰️

 

 

 朝方、東海道新幹線、のぞみ号8号車。

 

 

 そして秋華賞当日、府中のトレセン学園を朝に出ると電車を乗り継いで、新横浜で新大阪行の新幹線に乗り込んだ。

 車内販売で買ったシンカンセンスゴイカタイアイスの上にホットコーヒーを乗っけて溶かしながら一路京都へ向かう。

 

「一回やってみたかったんだよねこれ」

「なんかSNSで見たな」

 

 そんな他愛もない話で盛り上がる。

 周りの迷惑にならないよう、あくまで小声でだ。

 

「そういやさ、事前に“京都遠征のしおり”なんて渡されたけど随分気合入ってんのな?」

「あ、それね。遠征支援委員会のドリームジャーニーさんって知ってる? ちょっと相談したらそんなの作ってもらったんだ」

「知ってるも何も、ジャーニー先輩とは年度表彰されてダービーも一緒に走ったんだぜ!?」

「そういやそっか。ジャーニーさんと知り合う機会があってね、その縁でお願いしたんだ」

 

 ウオッカにカフェさん主催のコーヒーパーティで知り合い、遠征の際はぜひご相談を、と誘われた件をかいつまんで話す。

 今回は日帰りだが、交通機関やホテルの手配から前後の予定に合わせた旅程の提案など遠征全ての相談を受けているとのことだった。

 今日は新幹線の予約から乗り継ぎ案内程度だったが、おまかせでいい感じに組んでもらえて旅費申請までやってもらえるのはありがたい限りだった。

 

 見開きペラ1のしおりを眺めていたウオッカが、もうすぐ窓から富士山が見えるってよ、と言いながら読み進めている。

 

「へー、京都で昼飯食べてから伏見の神社にお参りかぁ。観光案内までやってくれるなんて流石はジャーニー先輩だな」

「あ、そこはね、見知らぬ地ならともかく地元ですからそちらの方がお詳しいでしょう、って言われて」

「セミラミス、地元はあの辺だったんだな。知らなかったぜ」

 

 そういえばあんまりトレセン学園で地元の話はした覚えがない。

 

 …………じゃあ何故、ジャーニーさんはウオッカも把握していないような私の地元のことを知っていたのだろうか。

 

 彼女のうっすらとした笑みが脳裏に浮かんだ気がして、私は考えるのをやめた。

 きっとどこかで聞いたんだろう。うん。

 

 

 ちょうど車窓から見えた富士山を写真に収めつつ、長い静岡県内の区間を新幹線はひた走る。

 

「そういやスプリンターズステークスおめでとうな。あっちでも中継見てたぜ」

「見てくれてたんだ、ありがとうね」

 

 凱旋門賞直前で忙しく、また時差もあるというのにわざわざ見てくれていたらしい。

 本当に勝ててよかった。

 

「いやぁ……あの追い上げ、凄かったなぁ。不良バ場だったんだろ? なのにあの上がり、痺れたぜ。朝早くだったけどいっぺんに目が覚めちまった」

「あは、嬉しいな」

「最終直線、すげぇ顔だったけど走りが変わってた。なにか掴んだんだろ? 羨ましいぜ」

 

 顔の話は余計だがそれはそうだった。

 あの最終直線で、私は次のステージへと進んだんだと思う。

 

「しっかしインタビュー、あれはやっぱマズいよな。SNSで叩かれてたんだろ?」

「うん。トレーナーさんにも、マスコミは前後考慮せず切り取るから注意しなさい、って言われた」

 

 詳しくは教えてくれなかったが、昔トレーナーさんも発言を切り取られてたいそう叩かれたらしい。

 椿トレーナーも、あの人がそんな事が起こっていると知っていて笑うはずがないのに、と怒っていたのでよっぽど理不尽に叩かれたと見える。

 発言と顔にはちょっと注意しよう。どう見てもインタビューで笑ってるようにしか見えなかったのも一因だろうし。

 

 さて、ウオッカの表情こそ平静通りだが耳は少々元気なくペタリとしている。

 それも無理はない。そして、レースの話題という流れ的にそれに触れないわけにもいかない。

 

「ウオッカも、遠征お疲れ様」

「ああ、カッコ悪ぃとこ見せちまったな。あれはヤバい」

 

 そんな、と言いたくなるがそんな事を言っても気休めにしかならない。

 

 前哨戦、仏ティアラ路線、ヴェルメイユ賞(G1)6着。

 本番、凱旋門賞(G1)8着。

 

 13人立てで8着ならまあ、と言いたくなるが2人はラビットと呼ばれる勝負する気のないウマ娘(着差15バ身差×2ってなんだよ)であり、のこりはレース後に故障が発覚している。

 実質的にブービーのようなものだというのは、きちんと分析すれば自ずと分かることだった。

 

「なんつうかな。バ場が重かったってのもデケェんだけど、そもそも芝が全然違ェんだ。それに……」

 

 苦々しげな彼女の言葉を待つ。

 

「それに……全然悔しくなかったんだ。どこかで納得しちまった。負けて当たり前だったんだって」

 

 なんとも信じられない思いだった。

 彼女の口からそんな言葉が出ようとは。

 

「ちょっと色々考えて……トレーナーとも相談して変えなきゃいけないかもな、って思ってる」

「そう……だね。よく相談したほうがいいよ」

 

 変えなきゃいけない、というのがレース選択なのか、スタイルなのか、それとも他のなにかなのか。

 それを聞く勇気は私にはなかった。

 

 あー、とウオッカは頬を掻きながら気まずそうにする。

 ちょっと重い空気にしてしまったことを気に病んでいるらしい。

 

「そういえばさ、レヨネットの奴は最近どうなんだ? 夏前からずっと会えてないんだけどよ」

「レヨなら無事トレーナーがついたよ。奈瀬トレーナーだって」

「お、いいじゃねぇか。俺も最近よく奈瀬トレーナーとは話すけど、名門だし、海外実績もあるしよ」

 

 ……ん? なにか話が噛み合ってない気がする。

 

「あ、妹の菊代トレーナーのほうね。文乃トレーナーじゃなくて」

「ああそっちかぁ、あの背の高い方。結構社交的な人だし、レヨネットとキャラが合ってそうだな」

「うん、私もそう思う」

 

 ザ・陽キャってかんじで私には合わないだろうが、レヨにはぴったりだろう。

 

 そういった和やかな話をしつつ、いつの間にかウトウトとしてしまっていた。

 朝は早くはなかったが、乗り慣れない新幹線のグリーン車のふかふかのシートに眠気が勝ってしまった。

 

 そして新幹線は逢坂の山を超え京都駅へと滑り込むのであった。




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○史実改変ポイント ウオッカのローテ
・史実
ダービー→宝塚記念→(フランス遠征:ケガで中止)→秋華賞→(エリザベス女王杯:ケガで中止)
・本作
ダービー→宝塚記念→ヴェルメイユ賞→凱旋門賞→エリザベス女王杯(予定)

流石に10/7に凱旋門賞出て帰国後10/14の秋華賞出るのはムリでしょ……。

【フレーバー】レヨネット(主人公妹)の戦績【興味本位】ストーリーには影響しない&現時点でプレイアブルのネームドキャラの勝ち鞍には影響しないんで雰囲気で選んで大丈夫です。後選ばれたら絶対こうみたいな話でもないです。

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